暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

68 / 224
UA157700件、お気に入り1920件!
高評価、誤字修正ありがとうございます!

今回も書けましたので投下します。
今回もお付き合いください……!


51話 反撃の時間

 

「乃咲ぃぃぃぃぃっ!!」

 

 千葉の声、その直後に放たれた発砲音、皆の息を呑む音、勝ちを確信した殺し屋の口元が歪む音。それだけじゃない。誰かの心音、取るに足らない衣擦れの音、俺の体を巡る血流の音。本来、聞こえるはずのない音を含めた全ての振動を鼓膜で感じる。

 

 弾丸はまだ遥か遠い。また、無自覚にゾーンに入ってしまったのだろうか。スローモーションに見える世界の中で弾丸はたった今、白煙を身に纏い、銃口から飛び立ったばかりだった。

 しかし、流石に早い。この時が止まったかの様に錯覚してしまう世界の中でも弾は確実に俺に迫っている。そして、その軌道は勿論、ライフリングによる回転すら今は目で追うことが出来た。

 

 故に手に取るように理解出来てしまう。この凶弾は間違いなく俺の眉間を貫くだろう、と。

 ゾーンを抜けたその瞬間、俺は自分が殺されたことすら理解出来ず、額に穴が空き、チカラなく倒れる事だろう。

 以前、倉橋さんを助けた時の様に身体を動かそうと試みるが、身体は言うことを聞かない。

 それだけ身体はダメージを受けていたということなのだろうか。そもそもゾーン中に身体を動かせたことなんて片手で数えられる程度しかない。

 

 初めて身に迫る自らの死に思考が加速する。以前、カルマの投身自殺紛いの暗殺を見た時の様に視界から色が失われ、色鮮やかだった世界がモノクロに変わる。

 世界がますます遅くなる。飛来する弾は一段と遅くなった様に思う。けれど、弾丸が止まった訳ではない。

 

 脳裏にこれまでの記憶が過ぎる。嫌に鮮明に、今までの人生で経験してきたことが頭の中を駆け巡る。

 走馬灯という奴なんだろう。聴いたことがある。人は死を覚悟した時、なんとか生き残るためにこれまでの人生で経験したことから打開策を見つける為に極限まで集中し、頭の中の情報を検索する。その結果が走馬灯なんだとか。

 

 頭の中を通り過ぎてゆく記憶。これまでの経験、俺の人生。周りに勝手な期待を押し付けられ、それに応えるべく独りよがりに努力した過去、そして親父に失望し、堕落し、殺せんせーと出会い、烏間先生に憧れ、親父に言葉を掛けられ、そして今に至る。

 ああ……。なんて薄っぺらい人生だろうか。結局、何も出来ずに頭を撃ち抜かれて死ぬ。それも自分のミスで。

 

 ……笑えない。

 

 走馬灯の中から生き残る手段を必死で探すが、たかが14年の人生。銃を向けられただけならまだしも、既に発射された弾丸の避け方なんて探して出てくるわけもなくて。思考を巡らせるものの虚しく、走馬灯も終わった。

 

 嫌になるくらい短い走馬灯の果てに、俺は止まった世界にただ1人、取り残された。

 

 俺に残されたのはもう、どうにもならないという現実と耳鳴りがするくらいの静寂に包まれた時の止まった世界、そして、生存を諦めクリアになった思考だけ。

 このゾーンを抜けた瞬間、死ぬ。2度目の実感に今度は途方もない恐ろしさが襲い掛かってくる。

 

 背筋に氷でも当てられたかのような寒気。この時、俺は初めて恐怖とは寒いものなのだと知った。

 首から背骨を降るように走る冷たさは尿意を伴って、俺の思考を麻痺させる。漏らしてはいないが、漫画やアニメの恐怖で失禁する奴の気持ちが分かった。

 

 回避しようのない死、自らの力ではどうにもならない現実。弾丸は既に目と鼻の先にあった。

 ゾーンを抜けるまでもなく、このままでは弾丸が眉間を貫く感覚を永遠と味わうことになってしまうだろう。

 

 もう諦めて即死することを選んだ方が苦しむことはないだろう。だが、頭の中に残っている生への執着がそれを拒む。

 弾丸が迫り、俺の眉間との距離が数センチあるかないかの所に来て、思考が更に加速して行く。

 

——死にたくない、死にたくない、死にたくない……!

 

 思考が加速する程に集中力が増して行く。時間が更に遅くなり、遂には弾丸すら止まって見えた。

 その頃には視界から影が消えた。モノクロだった世界はまるで鉛筆で最低限の輪郭のみを描いたかのような景色になる。

 

《……なにが欲しい?》

 

 いつかのように声が聞こえた。身体(・・)が再び問いかけて来る。試す様な、窺うような無機質な声が。

 

 答えればこの身体は与えてくれるのだろうか。この状況から生きながらえる術を。この現実を覆す力を。

 生きる為にこの状況を打開できる力を考えるが、恐怖で思考が回らない。ただ生き残りたい、生きていたい。そんな風にしか頭が働いてくれなかった。

 

 気が付けば吐露していた。

 

「何も要らない」

 

 鉛の様に、まるで地面に融着したかの様に動かない手足とは裏腹に口だけは驚くほどスムーズに動いた。

 口から出たのはそんな言葉。垂らされた蜘蛛の糸を振り払うかのような言葉。けれど救いを拒んだ訳ではない。

 ただ、何も思いつかなった。この状況を打開できる術が。何を望むのが正解なのか、分からなかった。

 

 頭の中にはただひたすらに駄々を捏ねる幼子の様な思考しか残っていなかった。死ぬのが怖い。そんな思考だけ。

 

 立ち尽くす俺に再び声が問いかけて来る。

 

《じゃあ、キミはどうしたいの?》

 

 声だった。さっきまでのこちらを試す様な声ではない。穏やかで、泣き喚く子供を諭す様な、慈愛に満ちた女性の声だ。

 その声を聞いた時、ふと思った。聞いたこともない筈の声なのに、『ああ、なんて懐かしい声だろう』って。

 その声を聞いた時、ふと感じた。今まで生きてきた中で感じたことのない、底知れない安心感。声を聞いただけで胸の底から温かいものが込み上げて来る感覚。

 

 泣き出したくなるくらい懐かしい声。聞いたこともない筈のその声に俺は縋る様に口を開いた。

 

「……生きたい。死にたくない……!」

 

 震えた声。震えて、力もなくて、聞くだけで憐れな気持ちになる。自分でもそんな風に思ってしまう情けない声。

 

 自分が情けなくなった。ほんの少し前まで『地球が滅びる=死』とか割り切ったことを考えていた癖に、いざ自分の命が危機に瀕したらこのザマだ。小便漏らしそうなくらいに怯えて、情けない声で誰のものとも知らない声に無様に縋る。

 

 みっともなくて格好悪い。自分に対して心底そう思った。俺は自分はもっと格好いい奴だと思っていたのに、そんなことは全然なかった。俺はイキっていただけだった。

 

 人の本質とは極限状況にこそ現れるというが、その通りだった。俺はどこまでも格好悪くて情けない。生き汚い奴なのだと今、この瞬間に初めて理解した。

 

 生きたい。まだ死にたくない。ようやく親父に言ってもらえた『期待している』そんな言葉に今度こそ答えたい。

 死ねない、死にたくない。生きる、何がなんでも生きたい。俺は今までの人生を含めてかつてないほど必死に願った。

 

 迫り来る死に対して瞼が震えるほど強く目を瞑り、怯え、念じているとまた、例の声がした。頭の中で、あるいは身体の内側から、あの慈愛に満ちた優しくて温かな声が聞こえる。

 

《じゃあ、生き(行き)なさい》

 

 優しく背中を押す様な声。その声が聞こえると同時に不思議な感覚に包まれた。身体を包み込む様な温もりを肌で感じた。

 この止まった世界の中には俺しかいないのに、まるで誰かに抱きしめられているかの様な温もりで包まれる。

 

 気が付けば、背骨をなぞる様に舐める冷たさは不思議な温かさで掻き消され、どうにもならない現実と迫り来る死への恐怖で凝り固まっていた俺の身体は全てのしがらみから解放されたかの様に軽くなった。

 

——動く。

 

 体勢を崩したまま金縛りにあったみたいに動けなくなっていた身体が急に動き出し、無様にもそのまま尻もちをつく。恐怖で滲み出していた涙が、痛みで溢れ出し、思わず目を瞑る。

 尻から腰に掛けて鈍痛が走る。だが、こうして尻の痛みを感じることができるということは、ひとまずは眼前の危機を回避できたということなのだろう。

 

 尻を摩りながら目を開ける。そして、異変に気付いた。

 

 弾丸はまだ、そこにあった。色も影もない輪郭のみの世界で今だに空中で静止していた。

 世界は今だに止まったままだった。今まで経験したことがない明らかな異常事態に理解が追い付かなくなり、それと同時に頭の中が真っ白になり、極限まで高まっていた集中力が系でも切れるみたいにプツリと音を立てて断裂する。

 

 瞬間、世界は正常に動き出した。色彩が戻り、さまざまな音が鼓膜を打ち付ける。

 空中で静止していた弾は急激に勢いを取り戻し、ヒュン、と鋭い風切り音を立てながら目にも止まらない速さで飛び去った。

 

 ……弾丸を避けたのか、俺は?

 

 もう何もない虚空を見上げて呆然とするのも束の間。死を覚悟して大量に分泌されていたアドレナリンでも切れたのか、身体が思い出したみたいに悲鳴を上げた。

 

「かっ………はっぁ…………!?」

 

 生存を実感した身体が恐怖で抑制されていた不調を急激に訴え始める。頭は内部から大きな針で何度も力強く刺されているみたいにズキズキと痛むし、体は凍えるのではないかと思うくらい寒く、肺は新鮮な空気を求めて暴れ回り、心臓は血管を破裂させんばかりの勢いで血液を体に送り続けている。

 

 あまりの不調で意識が飛び掛けてしまう。視界が徐々に白と黒で明滅する。気を緩めたら間違いなく持っていかれる。

 そんな確信があったので、少しでも身体を落ち着かせる様に深く深呼吸を繰り返した。

 

「乃咲っ!」

 

 同じ列で待機していた茅野が慌てて駆け寄って来る。抱き起こされ、冷たい床から体が剥がれ、人肌の温もりが伝わる。

 

「な、なにぃ……!?確かに命中した筈だっ、ありえねぇ……!音速だぞ!?避けられる訳がねぇ!!」

 

 シートで隠れて見えないが、殺し屋の半狂乱に混乱する声が聞こえて来る。リロード以外で見せた明確な隙。

 殺せんせーと俺たちの狙撃手2人はそんな一瞬を見逃すことは当然なかった。

 

「シャッフルも充分!隙もできた!今が絶好のチャンスです!さぁ、出席番号12番!立って狙撃!」

 

 殺せんせーの指示に俺たちから少し離れた位置にあるシートの陰から銃を構えた人影が飛び出し、銃口を殺し屋に向ける。

 

「読んでたぜっ……!」

 

 しかし、いくら動揺していると言っても相手はやはりプロ。いつまでも隙を晒す様なヘマはしない。直ちに立ち直り、人並外れた速さで銃をその人影に向けると躊躇なく引き金を引いた。

 明確な殺意を伴って放たれた2発目。それは寸分の狂いもなく真っ直ぐに飛び、シートから飛び出したソレの眉間を撃ち抜く。

 

 ……が、ここで殺し屋にとって2度目の誤算があった。

 

「なっ、に、人形……!?」

 

 そう、彼が撃ち抜いたのは菅谷が音を立てずに有り合わせの材料で作っていたカカシだったのだ。

 確かな手応えに反して何も殺せていない現実に呆気に取られる殺し屋。殺意が緩んだその刹那、千葉がシート横から滑り出る。

 

『狙うならあの一点です』

 

「オーケー、律」

 

 静かなる仕事人の殺気が撃ち抜くべき一点に絞り込まれ、前髪で隠れた双眸の見据える先に鉛玉が叩き込まれる。

 その指先に躊躇いはなく、引き金を引く指はさっきまであんなにも迷いで満ちていたとは思えないほどに軽やかで。

 

 ズキュュュン!と甲高い銃声が反響する。

 

 響く銃声、金属の砕ける鈍い音、訪れる静寂。

 ステージに立つ殺し屋にはなんの変化もない。彼もまた自身が無事であることを確認するかの様に胸元に手を当てると自分が無傷であると確信し、彼の中で導き出された答えを嗤い出す。

 

「フへへへ、外したな!」

 

 そう、千葉の一射は殺し屋を捉えてはいなかった。故に、彼はまだ(・・)無傷だった。

 当然だろう。何故なら————。

 

「これで2人目も場所が————!!?」

 

 初めから、千葉の狙いは殺し屋ではなかった。

 

 きっと、これで2人目も場所が割れたな、とでも言いたかったのだろう。結局、言葉が最後まで紡がれることはなかったが。

 

 勝ち誇った顔をしていた殺し屋に向かって横殴りに突進する、このステージを照らしていた照明。

 

「つ、釣り照明の金具を狙っただと………っ!?」

 

 そう、千葉が狙っていたのは初めから殺し屋ではなかった。彼の頭上にある釣り照明を保持する金具。それを破壊し、照明を落として攻撃するのが狙いだったのだろう。

 この薄暗い中、あんなに離れた小さな標的に当てるとは。相変わらず、千葉の狙撃能力は頭一つ抜けている。

 

「く、そ、がぁ……!」

 

 殺し屋が苦し紛れに銃を構える。落ちて来た照明に横腹を強打され、意識が朦朧としている様だが、狙いはしっかりと千葉を向く。身体が痙攣している癖に、銃身にはブレがない。プロの意地という奴なんだろう。恐ろしい執念だ。

 恐ろしい執念だったが、その引き金が引かれることはなかった。殺し屋が構えると全く同時に千葉とは別方向からつんざく銃声。直後、奴の手からリボルバーが弾け飛んだ。

 

「ふーっ……、やぁっと、当たった」

 

 目を向けるとそこには白煙を上げる銃を両手でしっかりと握り、安堵したというより、仕事をやり切った仕事人のような息を吐く速水さんの姿があった。

 この子もやはりすごい。構えた銃を撃たれる前に狙撃する技量と素早く照準を取る冷静さ。間違いなく普通の中学生が持ってるものではないだろうな。

 

 俺たちのクラスの狙撃手コンビはやはり優秀だ。

 

「んぐっ……!?」

 

 戦闘が終わり、安堵したら頭痛が一際大きくなった。やばい、こんだけ体調を崩したのは初めてだぞ。

 思わず身じろぎして頭を押さえる。肌で感じる空気が刺すみたいに冷たくて痛みすら覚える。

 

「圭一っ!」

 

 撃たれた俺を心配してくれたみんなが駆け寄って来るが、片手でそれを制止して、代わりに倒した男を指差す。

 それだけで意図を察してくれた様で、寺坂たちがガムテを出しつつステージの上で気絶している殺し屋に向かっていく。

 

 そんな彼らと入れ替わる様に殺せんせーを片手に持った烏間先生がシートを飛び越えながら慌てた様子で近づいて来る。

 

「大丈夫か、乃咲くん!?」

 

「すみません。ドジッちゃいました」

 

 半笑いを浮かべるが、痛みですぐに顔が歪む。今すぐ布団で横になりたい。そんな気分だ。

 

「怪我はありませんか?」

 

「はい。ちょっと尻を打ったくらいです」

 

「………申し訳ありません。キミの不調に気付いていたにも関わらず……。配慮が足りていませんでした」

 

 三日月の口の口角が下がり、申し訳なさそうな顔をする殺せんせー。だが、謝られるのは見当違いだ。

 

「いえ。自己管理の問題です。みんなが倒れた時から既に怠さは感じていました。あの時、もっと真剣に考えていればこんな轍は踏まなかったんです。殺せんせーは何も悪くありません」

 

「そういう訳にもいきません。先生には監督者としての責任がある。そして、私はそれを果たせなかった。教育者失格です」

 

 ……違う。本当に殺せんせーは悪くない。体調不良を隠していたのは俺だ。それが祟って死にかけたのは他の誰でもない俺だけの責任だ。この人にこんな顔をさせる為に着いて来た訳じゃないのに、全てが裏目に出てしまった。

 

「……その辺にしておけ」

 

 いつまでも謝り合う俺たちを見かねた烏間先生が殺せんせーを地面に置き、俺と見比べると重々しく口を開いた。

 

「お前は言ったな。教師と生徒は馴れ合いではないと。なら、背負うべき責任は背負わせてやれ。乃咲くんは自分の体調を見誤った。それは紛れもなく彼の失態だ。そしてそれを認め、反省している。それを認めてやるのがお前の言う自立性を養うということに繋がるんじゃないか?」

 

「……ですが」

 

「無論、俺たちになんの責任もないと言いたい訳じゃない。ただ彼には彼の、俺たちには俺たちの責任がある。違うか?」

 

 殺せんせーにこんな風に語りかける烏間先生を見たのは初めてだ。烏間先生が同じ教育者として、殺せんせーを諭している。

 

「……えぇ。烏間先生のおっしゃる通りですね。申し訳ありません、少し感情的になってしまいましたねぇ」

 

 身体があったら触手でポリポリと頭を掻いていただろう。烏間先生の言葉を受けた殺せんせーが視線を向けて来る。

 

「乃咲くん。動けますか?」

 

 言われて身体に力を入れる。床に手を付き、膝を立て、踏ん張り、腰を浮かせる。だが、体を支えていた腕や足の関節から力が抜け、ガクッと再び崩れ落ちてしまった。

 

「っと」

 

 茅野が再び抱き止めてくれた。

 

「乃咲、本当に無理しないほうがいいよ。身体、すっごい熱い……!それに力も入ってないみたいだし……」

 

「ごめん。受け止めてくれてありがとうな、茅野。確かに言う通りだわ。力を入れても直ぐに抜けちまう」

 

「茅野さんの言う通り、無理は禁物です。けれど時間もありません……。もう少しだけ頑張れますか……?」

 

「えぇ。大丈夫です。これ以上、みんなの足を引っ張りたくはありませんから」

 

 茅野の手を離れ、座席のシートに手を着き、踏ん張り、立ち上がる。膝が笑って真っ直ぐに立てない。これは1人で歩けないな。なんて思った時、右脇の下からカルマが体を滑り込ませ、肩を貸してくれた。

 

「相変わらずガッツあるねぇ、乃咲クンは。でも、立ってるのもしんどいでしょ。肩貸してあげるよ。歩ける?」

 

「すまん、助かる」

 

 肩を借りてみんなのところまで歩く。殺し屋は既に寺坂たちの手によって簀巻きにされ、ステージの上に転がっていた。

 近づいて来た俺に気づいたみんなが心配して声をかけてくれる。本当に迷惑と心配をかけてしまった。

 こんなことになるのなら、着いてこない方が良かったかもしれないな。みんなのためを思ってやったことで逆に足を引っ張ってしまうとは不甲斐ないにも程がある。

 

 反省を噛み締めていると、千葉と速水さんが現れた。

 

「乃咲……大丈夫だったか?」

 

「うん。なんとかね。ありがとう、千葉。アイツ倒してくれて」

 

「怪我はない……?」

 

「大丈夫。ごめん、心配かけた。速水さんもありがとう」

 

「お礼なんてやめて。わたしは1発目で外しちゃったし」

 

「エアガンと実銃の違いの所為だよ。なにより、2発目はしっかり当てたじゃん。凄いよ、2人とも。俺だったら緊張して外してただろうし。なあ?磯貝」

 

「……だな。勝てたのは殺せんせーの戦略も大きいけど。一番は千葉と速水が引き金を引いてくれたからだよ」

 

「だね、うちらじゃ外すか人に当ててたかもしれないし」

 

「そーそー。寺坂だったら絶対にミスってたね〜」

 

「うっせぇぞカルマ!」

 

 カルマに弄られ、声を荒げる寺坂だが、あの2人だから当てられたと言うところには異論ないらしい。

 他のメンツも口々に狙撃手2人を賞賛した。数多の賞賛の声に珍しく照れ、居心地悪そうにしている千葉と速水さん。そんな中、クラスのまとめ役の磯貝が少し重く口を開いた。

 

「けど、2人とも。本当にごめん。俺ら、一番キツイ役を押し付けちゃったよな。それだけは謝らせて欲しい」

 

「……だね。ごめんなさい、2人とも」

 

 磯貝に続いてクラスを束ねる者として謝意を見せる片岡。そんな2人を千葉たちは片手で制止した。

 

「いいんだ。引き金を引いたのは俺たちだけど、でも、俺たちだけで戦った訳じゃないからさ」

 

「そうだね。撃たれるかもしれないのにみんなが殺せんせーの指示に従ってシャッフルしてくれた。だから勝てた」

 

「だな。成功したのはみんなが頑張ってくれたおかげだと俺たちは思ってるよ」

 

「それにキツイ役目を押し付けられただなんて思ってもいない」

 

 千葉と速水さんが俺を見る。さっきまでの強張りなんてかけらもない柔らかな笑みがあった。

 

「俺たちだけに責任を負わせたりなんかしないって、言ってくれた奴がいたからな」

 

「……うん。そう思ったら引き金が少し軽く感じた」

 

 基本的に気難しく無表情か周囲のトンチンカンを見て苦笑している事の多い仕事人2人が見せる柔和な笑み。

 2人の言っているのが自分のことだと気付くと少しばかり居心地の悪さを感じてしまい、つい溢す。

 

「俺はすっ転んだだけだよ」

 

 肩をすくめて言うと2人はまた笑った。

 本当にカッコつけて説教した挙句に1人ですっ転んで勝手にピンチになっただけだからこんな風に笑みを向けられるのは少々居心地が悪いのだけど……。

 今の千葉と速水さんの顔にはさっきまでの自信のなさや卑下するような色は無く、確かな自信と達成感で形作られた今までにない笑顔があった。

 

 

 

 




あとがき

はい、あとがきです。

辛くもガストロに勝利しましたね……。
命の危機に瀕して圭一の能力がパワーアップ!
はてさて、圭一に隠された秘密はいつ明かされるのか!

次回、ちょっとオリジナル展開入ります。

今回もご愛読ありがとうございます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。