暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

71 / 224
UA174500件、お気に入り2050件!
加えて高評価や感想などありがとうございます!
本日も書き終わりましたので投下します。
お付き合いください……!


54話 作戦会議の時間

 

 足音を消して階段を上がり、その先に立っていた見張りに忍び寄る人外の影。階段の影からヌッと伸びて来た太く屈強な腕はそこに居たスキンヘッドの男の襟首を片手で掴み、引き摺り込むと首が潰れ、頭が曲がってはいけない方向に折れるくらいの力で『きゅっ』ときつく締め上げた。

 

「ふぅぅ〜……大分体が動くようになってきた」

 

 自由を取り戻しつつある体に満足しているのか、あるいは人を襲う快楽によるものか、笑顔を浮かべる烏間先生に思わず戦慄。味方ながら少々恐ろしい。

 同じことを思ったのか、千葉が小声で呟く。

 

「烏間先生が笑う時って大半が人を襲ってるよな。乃咲との模擬戦然り、俺たちとの射撃訓練然り」

 

「まあ、確かにどちらかと言えば真顔か仏頂面が多いけど、笑う時は笑うぞ。犬を見た時は満面の笑みだし」

 

「死に物狂いで吠えられてるけどね」

 

「俺たちが予想を超えた動きをした時とか」

 

「それって戦闘訓練中だろ?」

 

「……テレビのCM見て笑ってたり……」

 

「ホームセキュリティのアレな。霊長類最強の女性が3人に分身してる奴。理想の戦力見て笑みが溢れてるだけだろ」

 

 やべぇ、烏間先生の笑顔についてフォローしようとしたけど言われてみるとこの人が笑ってる場面って確かに戦闘中とか戦力増強とかそんなイメージがある。思えばガス使いのおっさんを倒した時も笑ってたし。

 アレ?俺が尊敬して止まない人って実は結構な戦闘狂だったりするのか?訓練中もどちらかと言えばロッククライミングとか、ロープ昇降の時より、ナイフ術とか体術とか戦闘向けの訓練の方が生き生きとしてる様な……。

 

「……烏間先生が尊敬できる人であることに変りはない」

 

「フォロー諦めたな。まあ、その通りなんだけどさ」

 

 結論が出たところで、烏間先生が今倒した男をまさぐり、装備品を引き剥がす。流石に銃は持ってないみたいだが、代わりにこの先に進む為のカードキーを入手した。

 カードキーは手に入らない前提で烏間先生と身軽な岡野や木村が窓からの侵入を計画していたので、思いの外、みんなで安全に進めそうな展開に一安心する。

 

「さあ、時間がない。鷹岡は我々がエレベーターで来ると思っているはずだが、交渉期限まで動きが無ければ流石に警戒を強めるだろう。個々に指示を出して行く。磯貝くんと片岡さんは——」

 

 烏間先生が指示を出す中、肩を貸してくれているカルマが視線を向け、問いかけて来る。

 

「ねぇ、乃咲クン。この先、どんな展開があると思う?」

 

 カルマからの問いに少し考える。最悪の展開ならいくらでも想像できるが、彼が聞きたいのは突飛な可能性ではなく、あくまでも現在で起こる可能性が一番高い展開だろう。

 ならばと思考を巡らせて簡潔に答える。

 

「まず、部屋に入った瞬間に気付かれる、もしくは肉薄する前に気付かれて警戒されて奇襲どころじゃなくなるだろうな」

 

「部屋に入った瞬間に気付かれる可能性があるのは一応、向こうも渚くんや茅野ちゃんが取引に来ると思って出入り口とか部屋の気配を探ってるかもしれないからだね」

 

「あぁ。最悪、部屋に入った瞬間に気付かれて薬を即爆破ってのがあり得るな。仮に気付かれずに入れたとしても近づいた時に気付かれる可能性も充分ある。みんな極力音を立てないナンバ歩きが使えるけど、それでもこの人数だ。扉から鷹岡までの距離が分からない以上、肉薄するまでずっと息を止めてられる訳でもないだろうし嫌でも気配は漏れる。取るに足らない微細な呼吸音も衣擦れも数が集まれば存在感が出てしまう」

 

「……だね。そう考えると鷹岡に気付かれないことを前提に作戦を立てるのはまずいよね。シンプルに部屋に入った瞬間に射殺ってのが一番確実なんだろうけど……流石にね」

 

「だな、烏間先生も殺せんせーもやらせてはくれないだろう。となると、一番可能性がある作戦は……木村や岡野。スピードや身のこなしが良い奴らを突撃させて爆弾付きの薬を確保、そのまま鷹岡にタックルかまして押し倒すとかになるのかな」

 

「えっ……?俺たちが?」

 

 木村と岡野が俺たちの話を聞いていたらしい。少し驚いた様子で俺とカルマを見比べていた。

 

「あくまでそう言う作戦もあるってだけだよ。実際に実行するにはあまりにも不確定要素があるからな」

 

「でも、それでみんなが助けられるならやりたい。烏間先生。乃咲の作戦、聞いてみませんか?」

 

「……そうだな。状況に応じて取れる選択肢が多いに越したことはない。目的が同じならより確実で堅実な手段を選ぶのが定石だ。キミの意見を聞かせてくれ」

 

 一瞬の思案顔の後、期待を込めた視線を向けて来る烏間先生。その視線が心地よかったが、一つ断っておかねばならない。

 

「話すのはかまいませんが、不確定が多い上に相手が捨て身だったら実働する木村と岡野に危険がありますよ?」

 

「分かっている。あくまで視点を増やしたいんだ。俺の見落としている危険や可能性をキミは見据えているかもしれない。実行するかもしれないという作戦ではなく、懸念点や成功への活路を指摘するつもりで話してみてくれ」

 

 参考程度に、と言うことなら問題ないだろう。烏間先生の言う通りだ。取れる選択肢は多い方が良い。それに逆に俺には考え付かなかったような要素を加味したより確実な作戦を烏間先生なら立ててくれるかも知れない。

 

「まず、部屋に侵入後のことですが、自分は割とあっさり気付かれると考えてます。いくら気配を消せても、透明人間になれる訳でもない以上、早かれ遅かれいずれ侵入にバレる。だったら出来るだけ速攻を仕掛けた方が良い。こっちに気付いた鷹岡が即座に薬を爆破ってのが考えられるから」

 

「そこは俺が聞いた通りだね」

 

「あぁ。だが、即座に爆破と言っても、『あ、E組のみんなが来た!よし、爆破しよう』なんて認識した瞬間に爆破できる訳じゃない。たぶん、認識してから爆破するまでにいくつかの必要な予備動作とタイムラグがあるはずだ」

 

「……?どう言うこと?」

 

「……あ〜。なるほど。確かにそうだね。乃咲クンの言う通りかも。状況によっては木村と岡野で速攻を仕掛けるのが良いかも。なんなら誰かに銃を持たせて援護させればより確実なんじゃない?場合によっては完封できるよ。ただ、確実に木村と岡野は危ない目に遭うから薦められはしないけど」

 

 流石、カルマ。俺の言わんとしていることを察したらしい。頭の回転の速さはやっぱり頭一つ抜けてるな。

 

「重要なのは薬が何処にあるのか、薬を起爆する為のスイッチが鷹岡先生の手元にあるか。この2つですね?」

 

「どうしてそこが重要なんだ?」

 

「考えてみろ、吉田。自爆する危険があるのに躊躇いなく爆破なんて選択を取れるのかって話しだ」

 

「そりゃあしねぇだろ。自爆とか間抜けすぎんぜ」

 

「だろ?普通はしない。ここでもう一つ考えてみてほしい。お前が鷹岡の立場だった時、もしかしたら烏間先生が薬を奪りに来るかも知れない、あるいは雇った殺し屋が裏切って薬を盗んでいくかも知れないって状況で大事な交渉材料である薬を部屋の適当な場所とか、自分の目や手の届かない場所に置くか?」

 

「置かないな……。なるほど、爆弾付きの薬は鷹岡の近くにある可能性が高いってワケだな?」

 

「そう言うことだ。ついでに言えば……律。さっきの部屋の中の様子、もう一度見せてくれ。ズームはしなくて良い。出来るだけ部屋全体が映るように頼む」

 

『はいっ!ご覧下さい!』

 

 元気のいい律の返事と共に切り替わるスマホの画面をみんなに見せる。そしてさっきこの部屋の全体図を一瞬だけ見た時に気になったトランクケースらしきシルエットを指差す。

 

「これを見てくれ。鷹岡のすぐ後ろにあるこの物体だ。たぶん、形からしてトランクとかキャリーバックの類いだろう。爆弾付きの薬は鷹岡の手の届く範囲にある。その仮定が間違っていないのならば、恐らくはこの中に薬が入っているはずだ」

 

「……お前、よくそこまで頭が回るな」

 

「確かに筋は通っている。これが我々のターゲットと見て間違い無いだろう。だが……見たところ、薄明かりと画質の問題で分かりずらいが、トランク上部に何かが貼り付けられている。となれば、鷹岡の話し方からして、これが爆弾だろう」

 

 烏間先生からのお墨付きが出たところで話を進める。

 

「爆弾付きの薬は鷹岡の直ぐ近く。そんな状況で俺たちが現れました、即爆破、なんてしたら爆発に巻き込まれるだろ?だから、まずは爆発させるとしたら距離を取るはずだ。爆弾から逃げるか、もしくは爆弾ごと薬を投げ飛ばすか。なにかしらのアクションがあるだろう。そこが狙い目だ」

 

「鷹岡が行動を起こした隙に俺や岡野で距離を積めるってことで良いんだよな?」

 

「あぁ。もっと言うなら爆弾付きの薬を確保してそのまま肉薄するのが理想だな。爆弾持ったまま特攻して爆発させると言う選択肢を奪い取るんだ。トランクとかキャリーケースってのは物を運ぶ用途で作られてるだけあって衝撃に強い。その外装ごと中の薬を吹っ飛ばす爆弾なら相当な威力の筈だ。奴が安全圏に出るまでの距離も相応にあるだろう。その距離を取ろうとする隙に木村と岡野で肉薄。奴が爆弾を起爆させる動作を見せたら銃で手を撃つ。そのまま起爆スイッチを奪取できれば俺たちの勝ちだ」

 

「成る程、確かに勝算はある。俺も銃で狙いを定められる程度には回復した。2人のサポートもできるだろう。木村くんと岡野さんはE組で1、2を争うスピードを持っているし、彼らに続いてスタンガンを持たせた赤羽くんと磯貝くんが攻撃に加われば制圧できる可能性は大いにある。だが………」  

 

「えぇ。かなり危険な作戦です。鷹岡が俺たちの想定を上回る俊敏さを持っていた時、もしくはダメージ覚悟の自爆を敢行した場合、突っ込んだ木村と岡野は確実にタダではすまない。仮に爆破を封じても2人が奴に捕まって人質にされる可能性だってある。だからこの意見を出し渋ってました」

 

 そこまで話して木村たちに目を向ける。

 

「と言う訳だ。ここまで言っておいて申し訳ないが、2人とも先走ったことはするなよ。まずは自分の安全を考えろ。こんな危険な作戦立てた俺の言えた義理じゃないけどな」

 

 言い合えると木村と岡野は俯いた。流石に配慮が足らなかったか、と反省すると帰って来たのは予想外の言葉。

 

「でも、勝算はあるんでしょ?だったらやりたい。ホテルで待ってるみんなも、乃咲もこんなに辛そうにしてるのに何もできないのは嫌だ。少しでも可能性があるなら……!」

 

「そうだぜ!今のところはただ熱が出てしんどいだけかも知んないけどさ、そのうちもっと酷い症状が出るかもしんないだろ!?竹林と奥田だけじゃ対処しきれなくなるかもしんないし、どんな手でも使うべきなんじゃないのか!?」

 

 2人はやる気だった。こんな危険な作戦を。その目を見てやはり言うべきではなかったと反省する。

 燃え上がってしまっている2人。岡野は曲がった事が嫌いで今回みたいな事件は絶対に許せないタイプだし、木村も正義なんて名前を付けられているだけあって正義感がある奴だ。苦しそうなみんなの映像に加えて絶賛目の前で熱を出している俺を見てやれることを必死に探してしまっている。

 

 うん。俺はやっぱり来るべきではなかった。こうなることを読み切れなかった……いや、考えようとしなかった怠慢が招いた結果だな。このままだと2人が独断専行してしまうリスクがある。

 責任をもって彼らを思いとどまらせなくてはならない。2人がこんなやる気を出しているのは出してしまった作戦と実際にウィルスにやられてしまった奴の様子をリアルタイムで見せつけてしまっている俺に原因の一端がある。

 

「確かにどんな手を使ってでも薬は入手しなくちゃいけない。それが最優先事項なのは間違いないだろう」

 

「お前もそう思うだろ?」

 

「でも、同時に忘れちゃいけない。既に何度か戦闘してしまっているが、これは隠密作戦だってことと、俺たちがこの島に来ている表向きは理由は学校の行事の一環であるということ。ウィルスは薬で治る。わざわざ言いふらしたりしなければ親とか周りの大人に気付かれることはない。でも、怪我は違うだろ?」

 

「それは……」

 

「程度によるかもしれない。けど、相手はあの鷹岡で、凶器は爆弾とか、ナイフとかである可能性もある。火傷、裂傷。どれもただの学校行事で負うような怪我じゃない。もし、そんな怪我をして隠し通せなかった場合、表向きは俺たちの担任である烏間先生に説明義務が生じてしまうわけだが、その時、周りになんて説明する?殺せんせーのことを抜きにしてもこれは結構な大事件だ。下手したら学校の責任問題になってE組という制度が崩壊する可能性だってある。暗殺どころじゃなくなるぞ」

 

 相変わらず、自分でも嫌になるような理責め。

 分かっている。木村や岡野は正義感だけじゃなく、ウィルスを盛られて苦しんでる奴らの為に危険を犯そうとしている。

 そんな彼らに正論をぶつけて説き伏せるしか能のない自分に嫌気がさしてしまう。

 

 もともと、俺が立てた作戦を聞かせてしまったことに原因があるというのに、説教垂れてる俺は何様なんだって話だ。

 

「それになにより、ここに来れてないみんなが喜ばないと思う。助けてくれてありがとうって気持ちはあるだろうけど、それ以上に自分たちの為に木村と岡野が凄い危ない目にあったって聞いたらあいつらはそっちの方がショックなんじゃないかな?」

 

「でも……」

 

 渋る2人。理責めはここまでにして感情論に切り替える。理を説き、その後で感情に訴え掛ける。やっていけない理由で骨を作り、感情論で肉付けする。感情で動こうとしている奴らを止められるのはやはり感情なのだろうから。

 

「仮に岡野や木村が俺やホテルでダウンしてるみんなと同じ立場だった時、仲間が危険を顧みずに敵に特攻。薬を持って来てくれたが、帰って来た頃には怪我だらけとかいう状況だったら辛くないか?病気は治っても素直に喜べないだろ?」

 

「それは………その通りだな。お前のいう通りだと思う」

 

「だろ?しかも今回はどうしてもそうでもしなきゃ解決できないって状況でもない。確かにみんなの命が懸かっているけど、それは潜入している俺たちも同じだ。実際についさっきも銃撃戦やったろ?倒れてるみんなが心配なのは分かるけど、でも、倒れてるみんなだって俺たちを心配してるはずだ。違うか?」

 

「そうだね。うん……。間違いないと思う」

 

「なら、俺たちがやらなきゃいけないのは安全に、なおかつ確実に薬を奪うことだろ。俺の立てた作戦は確かに勝算あるかもしれないけど、それ以上に不確定要素が多い上に危ない。確かこうだったか。『自分を大事にしない生徒に暗殺者たる資格なし』だったよな、殺せんせー?」

 

「ヌルフフフフ。その通りです、乃咲くん。岡野さんと木村くんの心遣いは満点ですが、君たちもまたみんなに心配されていることを忘れてはいけません。大丈夫、焦らなくても君たちならきっと乗り越える事ができます。目的を果たし、出て来た時と同じ無事な姿で胸を張って、笑顔で帰りましょう」

 

「……うん!ごめんなさい、ちょっと焦ってたね」

 

「だな。みんなもごめん。足止めさせちゃった」

 

「2人が謝ることじゃないって。やれることをやろうとしただけなんだからさ。ね、烏間先生」

 

 磯貝がみんなの気持ちを代弁するように烏間先生に矛先を向けると、彼も責める様子はなく、頷いた。

 

「その通りだ。2人のやる気はこちらとしてもありがたい。以前は受け身の姿勢である事が多く、見ていて多少不安になることもあったが、今の君たちは自ら出来ることを模索している。頼り甲斐が出て来たな。情けないことに今は俺もコイツもこのザマだ。十全には動けない。だから、頼りにしているぞ」

 

「「はいっ!」」

 

 木村と岡野の返事に烏間先生は穏やかな笑みを返すと、いつもの硬い表情に戻り、作戦会議を再開した。

 

「作戦はさっき指示した通りだ。気配を消し、距離を詰め、薬を奪う。ある程度、距離を積める事ができたら俺の責任で鷹岡の手を撃つ。装置の起爆ボタンも奴の手元にある可能性が高いからな。そのタイミングで一気にターゲットと起爆ボタンを奪う」

 

 役割なんかはさっきカルマが話しかけてくる前のものとは変わらないらしい。ただ、体調を崩してる俺は案の定……。

 

「乃咲くんはこの場で待機。状況次第ではキミが一番危ない。体調不良を見抜かれ、人質に取られようものなら打つ手がなくなってしまう。理解してくれ」

 

「了解です。こっちでも何かやれる事がないか考えてみます」

 

 烏間先生直々に待機を命じられてしまった。

 確かに今の俺に出来ることはない。気合いを入れれば1人で立つことくらいは出来るだろうが、歩くのは難しそうだ。

 足手まといなのは自分が一番よくわかってる。

 

「危ないという意味では渚くんもそうだ。乃咲くんの読みでは鷹岡の悪意はキミに向く可能性があるようだが、どうする?ここで待機しておくか?正直、今の奴は何をしてくるか分からんぞ」

 

「いいえ。僕も行きます。鷹岡先生が何してくるか分からないし、乃咲を1人だけここに置いて行くのも不安だけど、もし人手が必要になるのなら1人でも多い方がいいと思います。それに、僕も出来ることをしたいですから」

 

「そうしてもらえると助かる」

 

 多少の恐怖心はあるのだろうが、渚の瞳には迷いがなかった。そんな目を見て烏間先生は頼もしそうに頷き、速水さんから受け取った銃のグリップを感触でも確かめるみたいに握ると深く深呼吸して、コンディションを確認するように俺たちを見る。

 

 みんなの目にはやる気が満ちている。ここを乗り越えれば誰1人欠けることなく学校に帰れると信じているのだろう。

 

 みんなのやる気に比例して少しピリついた空気が鷹岡の待ち受ける部屋に続く廊下を満たす。

 

 いよいよ作戦開始。そんな空気の中、俺はどうしても言っておきたい事があった。どうしても頼みたい事がある。

 でも、それは必須な事ではない。言ってしまえば俺のわがままみたいなもの。わざわざみんなの手を止めさせてまで言うべき事ではない。喉に出かかった言葉をグッと飲み込む。

 

「……?乃咲クン。どうしたの?なにか言いたそうだけど」

 

 俺を壁際に降ろしたカルマと一瞬だけ目が合ったその時、俺の様子から何かを感じ取ったらしいカルマが首を傾げる。

 ピリっとした空気の中、静まり返るみんなに僅かな動揺が走る。俺の顔を見て不安そうな顔をするものが数名いた。

 

「ま、まさか、まだ何かあるのか?」

 

「……乃咲のことだ。きっと何かに気付いたんだろう」

 

「もしくは何か秘策があるとかか?」

 

 みんなからのこれ以上、なにか嫌な可能性が残っているのか?という不安半分、それを覆す一発逆転の秘策が飛び出すんじゃないかという期待半分な視線を受けて居心地悪くなる。

 

「いや、別にそんなんじゃないんだ。別にこれを言ったからみんなが有利になるとかこんな可能性があるから気を付けろ、とかそんな気の利いた話じゃないんだ。だから気にしないで欲しい」

 

「そうは言うけどな、圭一。お前の言葉や作戦は俺たちにとって柱みたいなものなんだ。木村と岡野が危ないと分かっていても作戦を実行しようと思ったのはお前が立てた作戦だからってのがきっと大きい。だから言ってみてくれないか?圭一がそんな顔をしてたら士気に関わるからさ」

 

「だね、乃咲って俺についてこいってみんなを引っ張るリーダーって感じではないけどさ、なんだかんだ言ってうちらの指揮官的なポジションにいるし。そんな顔見せられたら不安かも」

 

「そうそう、今のところみんなで何かするって時に中心にいるのってお前だし。もっとどっしり構えてて欲しいよな」

 

 あれ?、乃咲くんの株が謎に急上昇してる?

 クラスのはみ出し者がいつの間にか指揮官なんてかなり重要なポジションに任命されちゃってる?

 

 知らない間にみんなに受け入れて貰えていたようで、その評価はかなり嬉しい。認められず、燻っていた不良児にはこの上ない評価だと言えるだろう。

 故に、その評価を、期待を、これから2つの意味で裏切ることになるのが心苦しい。心苦しいが、困ったことに流石に適当にはぐらかせる空気ではない。

 

「先に言っておく、本当にどうでもいいことなんだ。何度も言うが別に戦況を左右する情報なんかじゃない。本当に俺のわがままなんだが、笑わずに聞いてくれるか?」

 

「あぁ、聞かせてくれ」

 

 磯貝が頷く。みんなが視線を向けてくる。

 最後までなんとか誤魔化せないか考えてみたが、それは無理だと悟り、諦め、意を決して重々しく口を開く。

 

「……そい…」

 

「え?わ、悪い。聞き取れなかった」

 

 意を決したが、あまりにも情けない言葉を吐き出すのを口が拒むように、言葉以上に情けないか細い声が出た。

 そのせいで要求される言い直し。言いたかないが、言うまでみんな動きそうにないので再度覚悟を決め、口を動かし、はっきりと言葉を発する。聞き違えも、聞き逃しもできないように。

 

「……心細いです」

 

「心細い……心細いぃ!?」

 

「はい……。寒いし、頭痛いし、関節痛いし、歩けないし、静かだし……。これから1人になると思うとなんか、心細いです……」

 

【圭一弱点メモ①:著しく体調を崩すと弱メンタルになる】

 

 意を決して吐き出した弱音。ほぼ全員が呆気に取られたように周りを見まわし、顔を合わせ、俺を見比べて……。

 

「ぶっふぅ……!?」

 

 吹き出しやがった。

 

「笑わないって言ったのに……」

 

 思わずボヤくと心優しい女神矢田がフォローしてくれた。

 

「だ、大丈夫!その気持ちは凄く分かるよ!具合悪い時とか1人になると寂しいもんね、うちの弟もそうだし!気にすることじゃないと思うよ!ねぇ!みんなもそう思うよね!?」

 

「あ、あぁ、そ、そうね。気持ちは……ふふ……、わ、分かるよ。さ、寂しいもんね……ふふふ……」

 

「………心細い、か。あの圭一がねぇ」

 

 フォローしてくれる矢田さんと笑う面々、なにやら感慨深そうに頷く磯貝とニヤニヤと笑みを浮かべるカルマ。

 やっぱり言うんじゃなかったと思う反面、ここまで来たんだから全部ぶちまけてしまおうと思った。

 

「あーそうです、寂しいです。こんな所に1人取り残されて不安なんですぅ〜。だからみんなのスマホと俺のスマホを律で繋げてください〜。動くの厳しそうだからせめて情報だけはリアルタイムで仕入れておきたいんですぅ〜」

 

「あ、拗ねた」

 

「意外な弱点見つかったな」

 

「緊張して損した」

 

「ちっ、ガキじゃあるまいし……」

 

 十人十色な反応を見せながらみんながスマホを繋げてくれる。律が『全員分の接続完了です♪』と俺のスマホの中でプラカードを見せて来たのを確認する。

 なんだかんだ言いながら、寺坂も繋げてくれてる。やっぱりガサツでデリカシーなくて、脳筋だけど、良い奴だ。

 

「さて、適度に緊張がほぐれたところでそろそろ行きましょう。ホテルでみんなが待っています」

 

「あぁ。ターゲットは目と鼻の先だ」

 

 先生2人の言葉に頷くと今度こそみんな鷹岡の待つ最上階へと進んで行く。そんな彼らの動向を随時把握する為に俺はみんなのスマホが拾う様々な情報に神経を注ぐのだった。

 

 




あとがき

はい、あとがきです。
戦闘が出来ない圭一は置いて行かれてしまいましたね。
圭一の弱メンタル化は割と気合いでどうにかなります。
他のメンバーたちはいざ、鷹岡との対面です。

ホテル潜入編も残すところ数話くらいになってきました。
なんか、めちゃくちゃ大長編になってしまった気がしますが、このまま走り抜けたいと思います。

今回もご愛読ありがとうございます!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。