暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えて高評価や誤字修正ありがとうございます!
投稿開始から半年を過ぎていますが、こんなに誤字があったのか!?と驚き続ける毎日でございます。

今後も見つけ次第に直していく所存ですが、見落としがあれば優しく教えて頂けると嬉しいです(笑)


56話 抵抗の時間

 

『乃咲さん、大丈夫ですか……?』

 

「むりぃ……。早く寝たいぃ……休みたいぃ……」

 

 心配してくれる律に対して飛び出し続ける弱音。

 みんなが鷹岡の元に向かってから間もなく、俺も彼らの後を追うようにホテルの廊下に身体の側面を擦り付けながら歩き、転んでは這いずりながらみんなのいる部屋に向かっていた。

 

 寂しいからと言うのもある。倒した奴らが這い上がってくるんじゃないかという恐怖もある。

 だが、こんな身体で戦闘は出来ずともまだ、何か出来ることはある筈だと信じ、その万が一に備えて廊下を立ち、転び、這ってでも移動し続けていた。

 

『言っただろう。もともとマッハ20の怪物を殺す準備で来てるんだ。リモコンだって予備を作る。マッハで奪われても対応できるくらいの数。うっかり俺が倒れ込んでも押すくらいにな』

 

 部屋の扉前まで辿り着き、入り口横に背中を預け、息を整えながらみんなが繋いでくれたスマホから聞こえてくる部屋の内部でのやり取りに耳を傾ける。

 聞こえてくるのはまさかの展開。リモコンが複数存在していたと言う事実。読んでいなかった鷹岡の策に舌打ちする。

 

「……まさか、複数作ってるだなんて」

 

『予想できませんでしたね』

 

 予想外の展開。だが、考えられない発想ではなかった。癪だが、鷹岡の言うことや発想は的確だと思う。

 相手はマッハ20。そんな速度の化け物が相手ならリモコンが奪われる事態は普通にあり得る展開だ。事実、俺たちもナイフで暗殺を仕掛ければナイフを奪われる訳だし。俺が二刀流を身に付けた理由も少なからずそこに起因していた。

 奪われた時のための予備。それは決して突飛な発想ではない。ありふれたごく普通の思考。それを読めなかった自分に失望する。これで俺や烏間先生の立てた作戦はポシャった。

 

 そして、リモコンが複数ある以上は迂闊な真似は出来ないだろう。烏間先生たちはほぼ詰んだと考えて良い。

 万が一に備えて廊下を這って来た甲斐がある。俺にもまだ、出来ることはあると言うことだ。

 

『屋上へ行こうか。愛する生徒たちへ歓迎の用意があるんだ。着いてきてくれるよなぁ、お前たちのクラスは俺の慈悲で生かされてるんだから。夏休みの特別補習と洒落込もうぜ?』

 

 スマホ越しでも感じる鷹岡の狂気。なす術がないみんなはそれに従うしかないだろう。スマホから足音が聞こえる。

 

「律、部屋の中には誰もいないか?」

 

『はい、たった今、全員退室しました』

 

 律の肯定を受け、部屋に入る。壁に手をついて立ち、ふらふらと家具などに捕まりながら移動し、さっきまでみんなが居たであろう場所に辿り着く。そこにはスマホで聞いていた通りに爆弾の起爆スイッチが大量に落ちていた。

 

 多分、今、目の前にいるのが動ける全員だと思い込んでいるのだろう。鷹岡はずさんにもリモコンを放置したらしい。

 実際、まともに動けるのが彼らだけと言うのは正しい。戦力的に俺はいないも同然だ。だが、それが不幸中の幸いだった。俺がウィルスにやられなければ間違いなく彼らと同じ場所にいた。そして詰んでいただろう。

 

 ウィルスを盛られたことと、烏間先生の俺を置いていくという選択がこの奇跡的な状況を作り出したわけだ。

 千鳥脚でリモコンの絨毯に近づき、一個だけ拾い上げて、屋上へ続く道に足を伸ばす。

 

「律、一応聞いておくが、このリモコンを無力化することは出来るか?コイツ、一応は電波で制御されてるだろ?」

 

『……申し訳ありません。私の力不足です。私の侵入経路はネットワークのみ。もしくは外部メモリで私のプログラムを直接注入出来れば可能ですが……』

 

「……そう言うタイプじゃなさそうだもんな」

 

『残念ながら……』

 

 そりゃあそうか。そもそも、無力化できるなら彼女はとっくにしているだろう。少し無理を言ってしまった。

 屋上へ向かいながら策を練り続ける。今の俺に出来ることはあまりにも少なすぎる。

 

 ただ、少ないだけで、何もできないわけじゃない。正直、万全というには程遠く、不安が残るのは事実だが、自分が紡げる僅かな可能性に全力を注ぐしかない。

 

「っ……!」

 

 手が滑り、転び、身体を強かに床に打ちつける。リモコンはボタンが外装の中に引っ込んでるタイプなので誤作動させることはなかったが、気を付けなければ。

 

『乃咲さん……それ以上は体が……!』

 

「大丈夫だ、正直、めちゃくちゃ具合悪いし、ギャン泣きしたいレベルで痛いけど、まだやれる……!」

 

 腕を床に叩きつけるように身体を支え、立ちあがろうとしたところでふと、部屋の隅に視線が向く。

 何か、荷物のようなものが乱雑に置かれていた。今、ここで転ばなければ視界に入りすらしなかっただろうそれになんとか近づき、少々気が引けるが物色する。

 

 恐らくは鷹岡か殺し屋たちの荷物だろう。そのように目星をつけ、荷物を漁る。何か交渉材料になりそうなもの、あるいは解毒薬の予備とか薬に関する資料があれば理想だろう。儚い願いを託し、乱雑に置かれていた荷物を散らかしながら探し続ける。

 捜索に時間は掛けられない。荷物を粗方漁って、そろそろ諦めようとした時、二つのアタッシュケースを見つけた。

 

 片方は重くて大きい。もう片方は小さくて比較的軽い。何だこれは?何が入っている?

 鷹岡か、毒使いのスモッグ、おじさんぬ、そしてあの銃使いのうちの誰かの荷物であることは間違いないが。

 

 これが奴らの仕事道具であると考えた場合、素手が武器のおじさんぬの荷物である可能性は低い。となると、これらの荷物は鷹岡、スモッグ、銃使いのうちの誰かの物だろう。

 さて、誰のものか。ゾーンに入り、当たりをつける。多分、この重い方は銃使いの物だろう。奴は言った。銃の調子を味で確認し、一番美味い銃が一番よく手に馴染む、と。つまり、奴は銃器を複数持ち歩いている可能性がある。この重さも金属製の銃が複数収まっているというのなら納得だ。

 

 となると、この軽い方は鷹岡かスモッグの物だろう。鷹岡の物なら交渉材料になりそうな何かが。ウィルスを作ったのがスモッグであると仮定した場合、この荷物が奴の物なら解毒剤とかそれに関する資料である可能性もある。

 開けるとしたらこの小さい方一択だろう。たぶん、ここまで辿り着くことを想定していなかったのか、ケースは金具で止められた簡単な物。作りは単純で今の俺でも力尽くでこじ開けられるタイプだったことを幸いに力を込める。

 

 指を引っ掛け、ゾーンに入り、左右に無理矢理開き、中身を確認する。確認するが、そこには俺の理想としたものは何一つとして入っていなかった。

 入っていたのは見覚えのある小道具。スモッグとおじさんぬ、そしてカルマが使ったあのゾウを倒せるとか言うあの毒が入っていたカートリッジそのもの。

 見たところ、4つあるスロットのうち、3つが空白になっているあたり、残っているこの最後の一個は彼らが使った毒と同じであると考えて良いだろう。

 

 何かしらには使えるかもしれないとそれを盗み、改めてみんなの元へ目指す。スマホから聞こえる声に耳を傾けると、鷹岡が何やらヒステリックに喚き散らしていた。

 ヒステリックな男ってカッコ悪いよな、などと思ったが、敵の策にハマり、ウィルスを喰らって情けない弱音を吐いた俺も同類かと思い留まり、ずりずりと壁に身体を擦り付けながら情けない足取りで屋上へ続く階段を登る。

 

 何度もバランスを崩し、無様に膝をつき、何とか扉の前に辿り着いた俺は隙間から屋上の様子を覗いた。

 屋上にはみんなが居た。後ろ姿しか見えないが、心配そうにヘリポートを見つめるみんなとその視線の先で土下座させられた渚とそれを愉悦に満ちた顔で眺める鷹岡が目に映る。

 

——胸糞が悪い。

 

 そのあまりにも腹立たしい光景に頭に血が一気に上がるが、ここで感情的になっても仕方ないと自分を諌めて屋上の様子を観察する。遮蔽物はない。ヘリポートと屋上は繋がっておらず、スマホから聞こえて来た音から察するに、連絡橋の役割をしていた梯子か階段は落とされたのだろう。だから、リモコンの件を差し引いても、みんなはそこに止まるしかないのだ。

 ヘリポートは隔絶された孤島状態。そんなヘリポートを照らす4つの照明。それは中々の光量があるらしく、いま、屋上を照らしているのは月明かりと照明のみ。

 

 多分、今、照明を落とす、あるいは照明の灯りを強めることができれば一時的に視界を奪うことは可能だろう。作戦次第ではその隙にたたみかけることも出来る筈だ。

 

「律、あの照明のコントロールは出来るか?」

 

『……可能です。あれはシステムでコントロールされているようですね。ホテルのコントロールを奪っている今なら私の意思で点けることも消すことも光量を調節することも出来る状態です』

 

「最大出力になるとどの程度明るくなる?」

 

『現段階で出力としては真ん中ほど。軽く見積もっても今の倍は明るくなるでしょう。ヘリポートからこちらへの視認は一時的に難しくなると思われます』

 

「……なら、作戦は決まった。薬は俺が絶対にどうにかする。合図したらヘリポートの照明を全て最大出力にしろ」

 

『どうにかって……どうする気ですか?』

 

「脅す材料なら手元にある。爆弾は奴の手の中。そしてリモコンは俺の手元。アイツは薬を人質に優位に立ってるつもりだろうが、爆弾が奴の手元にあり、リモコンを俺が持っている以上、もはや生殺与奪を握っているのは俺だ。やりようはある」

 

『ですが、鷹岡先生も乃咲さんが爆弾を起動させる筈がないと考える筈です、千日手になるか、爆弾を無力化できても彼の手元に薬があることに変わりはありません!そうなった時、爆弾という枷がなくなったあの人がどんな行動に出るか分かりません、危険すぎます!』

 

「確かにそうだが、今のままでは確実に時間切れでみんな死ぬぞ。奴が何をするか分からないのは事実だ。でも、爆弾を無力化できればこっちには銃がある。銃撃される可能性がある以上、鷹岡にできる動きは限定される。薬を壊す手段だって絞れる」

 

『でも……!』

 

「アイツにあるカードは治療薬のみ。だが、こっちには奴の切り札をコントロールできるリモコンと銃がある。爆弾を解除せざるを得ない状況に陥れることは出来る。そしてこればっかりは素人知識だが、あのタイプの爆弾は立ったまま片手で解除できはしないだろう。絶対に腰を下ろし、両手で解除にあたる。違うか?」

 

『……少なくとも、片手で解除することは出来ないでしょう。作業するために腰を下ろさざるを得ないのは必然です』

 

「銃で狙われている以上、下手な行動は取れない。解除した時点で降伏してくれたらそれで終わり。仮に薬を破壊しようにもしゃがんでいる状態で取れる行動は限られる。地面に叩きつけるとかは出来ない。威力が出ないし、そもそも掴んで、持ち上げて、叩きつけるって3行程も掛かるんだ。銃撃されることくらい奴なら考えつくだろう」

 

『………』

 

「そうなると、奴が薬を壊すのに取れる最速かつ最善の方法は爆弾を解除した姿勢のまま、ケースを掴み、投げ飛ばすくらいしかない。それも俺たちが手の届かない位置に向かって全力で投げる。それが奴にできる最善の動きだ」

 

『手の届かない位置に投げられたらそれこそ終わりです……。殺せんせーも動けないんですよ……?」

 

「奴もそう思うだろう。だからこそ意表を突ける。律、君なら見ている筈だ。俺が時々、異常な速度で動いているのを」

 

『………さっきの銃撃戦。乃咲さんは確かに異様なスピードを見せました。あの時、体制を崩した時に放たれた1発はあなたの眉間を撃ち抜く直撃コースでしたね』

 

「だが、結果的に俺は無事だっただろ?俺は動ける。色が消え失せ、時間が止まったような世界で唯一、俺だけがほんの少しだけ早く動ける。そこに勝機がある。いや、今の俺たちにはそれしか勝ち目はない筈だ。違うか?」

 

『ですが、乃咲さんが立ち歩けない程に体調を崩し始めたのはあの後だったように思います。どういう理屈か、仕組みかはこの際、お聞きしませんが、身体に相当の負荷が掛かるのではありませんか?だとしたら私はあなたを行かせたくありません!』

 

 スマホには涙目の律が表示されている。もはや、人間と大差ない程に彼女は感情豊かになった。

 かつて自分の暗殺にしか興味を示さなかった頃とは似ても似つかない。死にかけている俺を本気で心配してくれている。

 出会った頃とは逆だ。自分の考える合理性を貫こうとしていた彼女とそれを良しとしなかった俺。けれど今は俺が合理性を突き詰め、彼女が反発している。本当に律は変わったのだろう。

 

 心配かけていることは申し訳なく思う。だが、歪んだ感覚かもしれないけど、心配してくれることが嬉しかった。

 彼女は彼女なりにこれ以上の被害を出さないように考えて俺を止めてくれている。だけど、俺だって自分に出来ることをしたい。これがE組で俺に出来る最後の作戦なのだから。

 

「律。合理的に考えてくれ。俺が動くことでみんなが助かる可能性は低くなるか、それとも高くなるか」

 

『っ……!合理的かどうかは問題ではない筈です!あなたが木村くんや岡野さんに言ったんですよ!?危険な目に遭ってまで薬を手に入れて、みんなは喜んでくれるのかって!』

 

「同時に言ったはずだ。犯す必要のない危険の場合、と。これは犯す必要のある危険だ」

 

『ですが……!ただでさえ罹患しているのに、これ以上疲労して免疫が下がりでもしたら……!"自分を大事にしない生徒に暗殺者たる資格なし"これもあなたが木村くんたちに使った言葉です!!殺せんせーの教えはどうなるんですか!!』

 

「問題ない。打つ手がなくなるよりマシだ。それに、暗殺者がどうこうと言うのはもう、俺には関係なくなる言葉だ」

 

 そう、もう俺には関係ないんだ。暗殺者の資格がどうとか、そんなことは。そもそもみんなを仲間と呼ぶ資格すら失うかもしれない選択を俺は夏休み明けに取ることになる。

 だったら、まだ、みんなを仲間と呼べるうちにみんなにできることをしてやりたいと思った。

 

『乃咲さん……!』

 

「これ以上の問答は時間の無駄だ。続けるのなら、断行する」

 

 律の説得は困難だと判断し、リモコンを握り締め、単独での作戦を念頭に作戦を組み立てなおす。

 プランの大幅な修正が必要になるし、成功率は下がるが、やるしかない。このまま奴の言いなりになって薬が手に入らず、渚がなぶり殺され、仲間たちが苦しんで死ぬのを待つよりはマシだ。

 

 覚悟を決め、プランを組み立て終えるその寸前、会話を打ち切った筈の律が伏せ目がちに渋々と口を開く。

 

『……わかりました。乃咲さんのプランに賛同します。私に出来ることを指示してください』

 

「どういう風の吹き回しだ?」

 

『あなたの考えるプランしか我々に取れる選択肢はありません』

 

「……了解。さっき言った通り、合図したら照明を最大出力に変更。あとは鷹岡の目の前にいる渚を除いたメンバーに伝達。俺がお前に送る合図共に作戦を開始する」

 

『……伝達、完了です。本当に、やるんですね……?』

 

「絶対に成功させる。烏間先生と出会ってからの座右の銘なんだ。"口に出すのは実行する時"ってのが。1度、中間テストの時に俺はそれを守れず情けなくてみっともない醜態を晒した。2度目はない。絶対に薬を奪い、鷹岡を制圧する」

 

『……了解しました。こちらはいつでも大丈夫です。好きに動いて下さい。タイミングはお任せします』

 

 彼女は俺の策を認めたと言うよりは、てこでも俺が意見を変えないと悟って諦めたのだろう。

 本気で心配してくれている律には申し訳ない方をしようとしている。だから、せめて、結果で語ろう。

 

 俺の座右の銘、心情が間違ってなかったのだと。彼女が俺に任せて良かったと思える結末を掴みに行こう。

 

 スマホから聞こえる憎い男の声。ふざけたことを喚き散らかし、ついには俺たちと交渉すらする気はないと語るように奴は徐に治療薬の入ったスーツケースを掴み、振りかぶる。

 奴は俺たちに薬を渡すつもりがない。そうはっきりと確信し、スーツケースを投げ飛ばす直前、身体を使って無理やり扉を押し開き、銃でも突きつけるように可能な限り声を荒げて威嚇するように叫んだ。

 

「動くなぁっ……!!!」

 

 怨敵は俺を認めると顔を狂気で歪ませた。




あとがき

はい、あとがきです。
うちの子、ちょっと生き急いでる感出て来たような気がします……。なんとなく、暗殺教室という作品で最も精神的成長を遂げたのはカルマだと言う声を聞きますが、実は律も同じくらい成長してるんじゃないかなぁって書いてて感じた回でした。

次回、鷹岡戦になります。
いよいよ伏真島編のラスボス!頑張れ圭一、決着は近いぞよ!
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