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本日も投下しますのでお付き合いください!
流石に疲れた。今日はもうゾーンに入ることは出来ないし、これ以上の無茶は出来そうにない。頭が痛い、関節が痛い、寒い、ここに来るまでに転んで打ち付けた部分が痛い。満身創痍だ。
それに、抱き抱えた治療薬入りのケースも結構重い。思った以上に身体にダメージがあるのか、これっぽっちの重みですら苦痛に感じてしまう程だ。ほんの少しだけ情けない。
「乃咲くん……!」
「あぁ、烏間先生」
烏間先生が手首から殺せんせーをぶら下げ、駆け寄ってくる。
彼の後ろでは様々な光景が繰り広げられていた。ヘリポートの上で鷹岡を拘束する奴ら、鷹岡が落とした梯子を回収し、もう落ちないように固定している奴ら。そして、先生たちと一緒にこっちに走ってくる奴ら。
こうして事件の黒幕が拘束され、俺や倉橋さんたちの命綱とも言える治療薬の重みを身を持って感じていると、うっすらと実感が湧いてくる。終わったのだと。
「これ、治療薬です。受け止めたので割れたりしてないと思いますが、念の為に確認してください」
辛うじて腕を動かし、ケースを渡すと、俺にかけようとしていた言葉を一時的に飲み込み、しっかりと俺の手からケースを受け取ると大切そうに丁寧に地面に置き、ケースを開く。
緊張感と焦りで彩られていた顔が僅かに緩んだのを見て、心底安心する。どうやら律に対する宣言を守れたらしい。
「すまない。我々が不甲斐ないばかりにこんな無茶をさせてしまった。何か身体に異常はないか……?」
「頭痛、寒気、関節痛、あとはここに来るまでに転んで打った所が痛むくらいです。睡眠を取れば治るでしょう」
「キミだけじゃない。みんなにも迷惑をかけてしまった。本当にすまなかった。防衛省を代表して謝らせてくれ」
「大丈夫ですよ、烏間先生。先生が悪いわけじゃないってみんな分かってます。倒れてるみんなも同じこと言うと思います。だから謝らないで下さい。そんなことより、乃咲と寺坂に早く薬を飲ませてあげて欲しいです」
諭すように学級委員の片岡が告げる。その言葉に釣られて何気なく寺坂を見てみるとアイツも限界が来たらしく、倒れていた。どうやら、さっきの作戦、寺坂を激しく起用しなかったのは良策だったようだな。
吉田に担がれた寺坂とそれぞれやるべきことを終えたみんなが俺たちの周りに集まり、ビッチ先生を除いた潜入時のメンバーが無事に全員集結した。
目の前で力尽きた俺や寺坂を心配する気配はあるが、それでもみんなの顔は決して暗くはなかった。心配はあるが、悲壮はない。やり遂げたような達成感の方が勝っているように見える。
「終わったな……」
やるべきことをやった仕事人のように呟く千葉。
彼の一言を皮切りにみんなが口々に今回の潜入作戦について語り出す。烏間先生が脱出用のヘリを呼んでくれたらしく、ヘリが来るまでの待ち時間はその話題で持ちきりだ。
圧倒的な逆恨みで危険な目に遭わされた。それが今回の事件の概要だと言うのに、巻き込まれた当人たちは終わってみると、何故だか恨み節の一つもなく、楽しそうにしている。
実際に犠牲になった奴もいなければ、形としては犯人の拘束と薬の確保まで出来た完全勝利だからこその雰囲気だろう。それでも、やはり、普通に考えたら、このクラスは異常なんだろうな。悪い意味でも、良い意味でも。
もしかすると彼らE組の強さは学力でも、鍛えられた身体能力や技術でもなく、今回みたいなピンチを乗り越えた後に屈託なく笑うことができる心にあるのかもしれない。
「さあ、2人とも、薬を」
烏間先生から薬が渡される。試験管にコルク栓をした薬。これって飲み薬で合ってるのか?と野暮な思考が過ぎる。
が、まあ、ウィルスが経口接種だったし、問題ないだろう。薬なんだし、飲めば効果くらいはあるはずだ。
渡された薬を受け取り、コルクを抜く。
しかし、手に力が入らない為、抜けない。
「磯貝ぃ……。これ開けてぇ……」
「はいはい」
「誰かぁお薬飲めたね買って来てぇ……」
「ホテルの売店で売ってるようなもんじゃないし、そもそも薬液タイプに使えるのか、アレ……」
「てか、弱り過ぎでしょ……。よくそんなメンタルであんなキレッキレな煽りと指示が出来たわね……」
「だよなぁ。なんつーか、ある意味でみんなが倒れた時以上にドキッとしたもん、俺。あの状況でめちゃくちゃ煽りまくる上にその言葉の一つ一つがエグい威力あるしさ。なんか、久しぶりに『あ、乃咲ってそう言えば不良だったわ』って感覚になった」
「ですが、行動の一つ一つは計算高いものでした。ただの不良にできることではない。自分にできることを考え抜き、実行する行動力。鷹岡先生を煽り、怒らせて冷静な思考を奪う話術。状況を把握し、的確な作戦を練る計画力。皆さんの能力を鑑みて、的確な指示をする指揮能力。私の指揮を即興で模倣できる応用力。そしてこんな状態でありながらこの場に駆け付ける精神力。キミの恐ろしさが遺憾無く発揮された素晴らしい作戦でした」
殺せんせーは朱色の丸を顔に浮かべ、満足そうに笑うが、直後、顔色を元の黄色に戻すと言葉を続けた。
「正直なところ、キミが来てくれたからこそ今回の逆転劇がありました。でもね、キミのおかげで助かったは揺るぎない事実ですが、もう少し、自分のことを大切にしてあげて下さい。その手足の痣。きっとここに来るまで何度も転んだのでしょう?」
「……まあ、ね」
「自分を大切にしない者に暗殺者たる資格なし、ここにいる皆がそうするように倒れている皆も我々を心配しているはずだ。キミが木村くんや岡野さんに言った言葉です。今回、私には偉そうに言う資格がないことは重々承知しています。けどね、キミがそう思うようにキミのことを周りの仲間たちも心配していると言うことを忘れないで下さい」
諭すように言う殺せんせー。返す言葉がなく、沈黙する。
そう、こうしてみんな無事で良かったね、で済むのは結果的に上手くいったからに過ぎない。
もしも俺が力尽きるのが早く、律に指示を出した直後に意識を失っていたら?ゾーンに入った直後に意識を失って薬をキャッチ出来なかったら?もしくはキャッチした直後に気を失い、みんなに指示を出せなくなったら?きっと目も当てられない悲惨な結果が待っていたことだろう。
殺せんせーの言うことは正しい。万一、薬を破壊されていたとしても、最悪、毒を作ったであろう殺し屋はとっくに無力化しているのだから、そいつにいろいろと吐かせるという方法もあった。ここで奪うことに固執することはなかったのかもしれない。
少し思考が偏っていた。鷹岡なんて毒に精通しているわけでもないのだから奴の言葉なんて間に受ける必要もなかったのかもしれない。作戦が終わって、みんな無事で良かったね、きっとこれが最善だったよ、と終わることが出来なかったのが今回の俺の反省点なんだろう。
「木村、岡野。それから律も。悪かった。自分で言ったこと、自分で守ってなかった」
「そんな気にすることねぇって。俺がお前でもあの状況で黙って見てるなんて絶対嫌だしよ。殺せんせーはこう言ってるけど、最善だったと思うぜ?少なくとも俺はな」
「わたしとしては少し思うところあるよ?自分でいろいろ言った癖にって。でも、それくらいしか言えない。だってあの時にアンタが割って入らなかったら絶対に薬は手に入らなかったもん」
『私は言いたいことなら沢山あります。けど、今は我慢します。あくまで今は我慢するだけですよ?元気になったら我慢したこと全部言いますから覚悟してください。その為にもまずは早く元気になってください。話はそれからです』
「……はい、すんません」
「律がここまで怒るとか何したんだよ、お前。ほら、開いたぞ」
律の意見をほとんど切り捨てた挙句に合理性で説き伏せ、最終的には彼女とのやりとりを時間の無駄だと判断し、制止の声を無視して作戦を断行しようとしました、なんて流石に言えるわけがない。間違いなく顰蹙を買うだろう。
なんて答えたものかと考えていると、磯貝がコルクを抜いた試験管を渡してくる。
まずはこの薬を飲むとしよう。倒れてるみんなには悪いが一足先に頂きます。意を決して薬を口の中に……入れる前に確認。
「……苦くないよね、コレ」
「だからガキか、テメェは。良いからさっさと飲むぞ」
「寺坂ぁ、お願い、先飲んでぇ。苦いの嫌ぁい……」
「ったく……しゃねぇ……」
「圭一ってこんなキャラだったか……?」
「まさか体調崩すと甘え癖が出るタイプとはな……」
周りからのなんとも言えない視線を感じながら寺坂が薬を飲もうとしたその直前、俺たちが登って来た階段から拍手の音がした。パチパチと3つ分の手を打つ音に全員がハッとする。
まだ、敵がいるのか?そんな警戒と共に烏間先生が全員の前に立ち、カルマと磯貝がその一歩手前で構える。
「いやぁ、お見事。まさかあの状況から逆転するとは思わなかったぜ?大したガキどもだ。驚いたよ」
視線の先には見覚えのある3人組。俺たちがここに来るまでに倒した殺し屋たちが揃ってこちらに歩を進めていた。
自力であの拘束を脱したのか、あるいは誰かに見つけてもらったのか。流石にみんな動揺を隠せていなかった。
「それはそれとしてよぉ、なぁ、ガキども。全員助かりました!なんてハッピーエンドで終われると本気で思ってるのかい?」
銃使いのそのセリフに反応した千葉がいち早くいつでも撃てるようにと銃を構え、続いてナイフを回収した岡野たちもいつでも飛びかかれるように身を低くする。
あとは合図一つで全員が襲い掛かれるという態勢をとった時、烏間先生が降伏を促すように口を開く。
「お前たちの雇い主は既に倒した。戦う理由はもうないはずだ。俺は充分回復したし、生徒たちも充分強い。これ以上、お互いに被害が出ることはやめにしないか?」
「ん、いーよー」
「………ん?いーよ……!?」
銃使いの呆気ない降伏宣言を理解するのに数秒を要した吉田がその拍子抜けする言葉に思わず体勢を崩した。
「ボスの敵討は俺らの契約には含まれてねぇ。俺らは突破された、ボスは倒された、治療薬は奪われた。以上の理由で依頼は失敗した。もう俺らの仕事は終わったんだよ」
銃使いの男が相変わらずリボルバーを舐め回しながら依頼失敗を悪びれずに認め、簀巻きにされた鷹岡を一瞥して大した興味なさそうに『派手にやられたなぁ』と呟く。
その潔さというか、呆気なさに戸惑っていると毒使いのおっさん。スモッグが懐から白い錠剤の詰まった瓶を取り出しながらこちらへと歩いてくる。
「そこの感染してる2人。飲むんならこっちの錠剤にしな。特製の栄養剤だ。お前らに盛ったウィルスに対してはこっちの方が効く。ボスから奪った方でも効果はあるにはあるが、コイツの方が元気になるだろうぜ。特にそっちの銀髪の坊主はな」
「……俺?」
「あぁ。お前だ」
スモッグは躊躇うことなく俺たちの前にやってくる。途中、磯貝たちが立ち塞がろうとしたが、おっさんに特に殺意がないことを察したらしい烏間先生に軽く制止され、警戒しつつ、遂に俺の目と鼻の先に来たおっさんを警戒しつつ見守る。
流石にみんなに警戒されてるこの場では下手なことはしないだろうと考え、警戒はしつつ、成り行きを見る。
するとおっさんは一言、『ちょいと失礼』と残すと俺の身体をペタペタと触り始めた。
予想外な展開に唖然とするとある程度、触って満足したのか、俺の首筋、動脈に手を当てながら思いもしない一言を放った。
「お前、このままだと死ぬぞ」
「ぇ……」
「どう言うことだ!?」
烏間先生がスモッグの口から飛び出した突然の死亡宣告に反応し、スモッグの胸ぐらに掴み掛かる。
「そもそも、乃咲クンが死にかけてるのっておじさんたちが盛った毒の所為じゃん。なのになんでそんな余裕そうな態度なわけ?——俺らに袋叩きにされるとか思わないの?」
怒気を纏った声で威圧するように言うカルマ。しかし、スモッグはそんな言葉を意に返さず、徐に胸元から二つの小瓶を取り出すと事の真相を語り出す。
「まず言っておくと、俺達はテメェらに致死性の毒なんざ盛っちゃいねぇよ。こっちの試験管に入ってるのがボスが俺たちに命令したウィルス。んで、こっちの小瓶が実際にお前らに使った方」
「……話を聞かせて貰おうか」
ウィルスに致死性はない。その言葉を受けた烏間先生がスモッグから手を離すと、他の2人もこちらに寄ってくる。銃使いと唇を腫らしたおじさんぬがスモッグに続くように話出した。
「使う直前にこの3人で話し合ったぬ。ボスの設定した交渉期限は1時間。だったらわざわざ殺すウィルスを使わずとも取引はできる、と。だから、お前たちに盛るウィルスをすり替えたぬ」
「交渉法に合わせて多種多様な毒を持ち歩いているからな。実際に盛ったのはこっちの食中毒菌を改良したものだ。あと3時間は猛威を振うが、それ以降は急速に活性を失って無毒になる。お前らが命の危機を感じるには充分だっただろ?」
「……じゃあ、そっちの人と撃ち合った後、乃咲が言ってた『殺気はあるけど殺意はなかった』って言うのが正しかったの?」
「言い得て妙だが、そう言うこった。プロが金さえ貰えばなんでもするとか思ってんなら大間違いだ。もちろん、依頼人の意に沿うように最善は尽くすが、引くべき一線は見極めるさ」
銃使いが悪びれもせずに言う。
「ボスもハナから薬を渡す気はなかったようだったしな。命令違反がバレて評価を落とすか、カタギの中学生を大量虐殺した実行犯になるのか、どちらが今後の俺たちのリスクになるか、冷静に秤にかけただけのことよ」
プロとして任務達成の為なら何でもするが、それ以前にプロとして受けるべき内容かはしっかり測ってるってことか。何だろうなぁ、ビッチ先生といい、コイツらといい、その妙な底の知れなさは悔しいが、少しばかりかっこよく思えてしまう。
「待ってください。じゃあ、なんで圭一が死ぬかもなんて話になるんですか!使った毒に致死性はないんでしょう!?」
「シンプルにそのガキの身体にガタが来てるって話だ。この平和な国の中学生としてはあり得ないレベルでな。ウェイターに扮してお前らに毒を持ったタイミングから気になっていた。そこの銀髪のガキ。乃咲って言ったか?お前の様子はおかしかった」
身体にガタ。そう言われると思い当たる節はいくつもある。たしか、イトナが転校して来たくらいからだろうか、目眩や立ちくらみ、たまに膝から崩れ落ちそうになることが増えたのは。
「身に覚えはあるみてぇだな。端的に言うぜ、お前は極度の過労状態だ。毒を扱う仕事柄、一応は医学は粗方修めていてね、お前を観察し、今、触診して確信したよ」
「過労……?」
意味は知っている。テレビなんかではよく出てくる単語だ。だが、それはとてもじゃないが中学生に使う様な言葉ではないだろう。それを肯定する様に思いもしない単語に殺せんせーと烏間先生を除いたみんながキョトンとする。
「あぁ、過労だ。急な動悸、不整脈とか、関節の痛み、不意な眩暈、立ち眩み、歩こうとしたら膝から崩れ落ちるとか、酔いやすくなったとか、身に覚えはあるんじゃねぇか?」
「……ありますね」
「だろ?おおかた、超生物の暗殺の為の訓練とか普段の勉強とか、力を入れなきゃいけないことが増えた結果、疲労が蓄積してたんだろうさ。そんなタイミングで俺の毒を受けちまったから溜まってたもんが爆発したのさ」
……筋は通っているし、身に覚えはある。
たぶん、ゾーンが原因だ。俺は勉強でも訓練でもゾーンを多用しているし、不調がで始めたのはイトナから倉橋さんを庇おうとして、ゾーン中に動いたタイミングだった様に思う。
「コイツを飲んでしばらく安静にしてな。『倒れる前より元気になりました』って感謝の手紙が届くほどだ。効果は保証する」
スモッグにさっきの錠剤が詰まった小瓶を渡される。
「死ぬってのはあくまで最悪の場合のお話しだ。このまま無茶を続けたらってだけのこと。しっかり疲労に見合った分だけの休養を取ればそんな心配は要らねぇよ」
触診し、薬を渡し、それを受け取ると、満足したのかスモッグが他の2人のもとにゆっくりと戻って行く。
「そう言うわけだ。残念ながら、テメェらは誰も死なねぇ。ボスも倒れた以上は戦う動機もねぇ。それにそっちの防衛省の男に見つかった以上はこの場で逃亡を図った場合、国を相手にかくれんぼするハメになるからな。そんなのはゴメンなんで、今のところは大人しくしといてやるよ」
「そうして貰えると助かる。ちょうど迎えのヘリも来た。お前たちは一時的に拘束させて貰うぞ。証言を信じるのもまずは生徒たちが回復したのを確認してからだ」
「しゃーねぇな。背に腹は変えられねぇ。だが、出来るだけ早めに頼むぜ。来週には別の仕事が入ってんだ」
降りて来たヘリから無数の作業員らしき人物たちが降り立ち、鷹岡や、階段を降り、ここに来るまでに気絶させたその部下たちを拘束して機体に詰め込む。
「なーんだ、おじさんぬ。リベンジマッチやらないんだ?俺のこと、殺したいくらいに恨んでないの?」
ヘリに向かって歩いていくおじさんぬをおちょくるようにカルマが相変わらずの態度で口を開くが、殺し屋はといえば、それを薄く笑って受け止め、赤い髪を蓄えた頭をその大きな手のひらで一撫すると、呆気なく通り過ぎる。
「殺したいのはやまやまだが、俺は私怨で人を殺したことはないぬ。誰かがお前を殺す依頼をする日を待つぬ。だから、狙われるくらいの人物になるぬ」
言い残すと、殺し屋3人は優雅にヘリに乗る。
彼らを乗せたヘリは次第に機体を浮かせ、離陸する。
「そう言うこった、ガキ共!本気で殺しに来て欲しかったら偉くなれ!!プロの殺し屋のフルコースを味合わせてやんよ」
飛び立ったヘリからそんな言葉と共に無数の弾薬が降って来る。カラン、カラン、と音を立てて落ちてくるそれを拾い上げて思わずため息を吐いた。
殺せんせーが言っていたけど、彼らは全然本気じゃなかったんだろう。もし、本当に殺す気で来ていたのなら、俺たちは勝ちの目も見れずに瞬殺されたに違いない。
「……なんていうか、あの3人には勝ったはずなのに、勝った気がしないね」
「言い回しがずるいんだよ。アイツら、まるで俺たちがあやされてたみたいな形でまとめやがった」
「………年季が違うなぁ……」
俺たちに殺し屋なりの
「乃咲くん、寺坂くん。水だ。今のうちに薬を飲んでおけ」
多分、さっき鷹岡の部下たちを回収しに行った人達に買ってくる様に言っておいてくれたのだろう。烏間先生から差し出された水のペットボトルを受け取り、錠剤を取り出す。
「これ何錠飲めばいいのぉ……?」
「……一錠じゃないかな?」
「でも風邪薬って歳で服用数変わるじゃん」
「あんまり飲みすぎるのもよくありません。まずは一錠だけ服用しましょう。効果が出るにせよ、出ないにせよ、どのみち後3時間の辛抱です。しっかり飲んで、しっかり寝て、目が覚めた頃には楽になってますよ。きっとね」
殺せんせーの指示に従って薬を出し、寺坂に渡し、自分の分を手に取ってからペットボトルに手をかける。
キャップを捻るが、コイツ、うんともすんとも言わない。力を込めてるのに、指が蓋を捉えられていないらしく、虚しくスルスルと皮膚の擦れる音だけが聞こえてくる。
「んぐぐぐ………!……ぴぇん……」
「かつてないほど弱ってんねぇ」
隣のカルマが苦笑しつつ俺からペットボトルを取り上げると、一捻りしてキャップを外し、渡して来た。
あー、忘れてた。そういえばコイツもイケメン枠だったわ。ちくしょう。なんかかっこいいとか思っちまったよ。
「あんがと」
「どーいたしまして」
一言礼を言ってから薬を口に含み、水を飲む。辛うじて飲み込むが、水を飲み下す瞬間に咽せた。
「ちょっ!?マジで大丈か!?」
「ゔぁぁぁぁぁ……。大丈夫ぅ……」
「んなゾンビみたいな声で返事されても信用出来ねぇわ」
なんてやり取りをしてるうちにヘリが俺たちのホテルに着いたらしい。操縦者から烏間先生に声がかかり、ドアが開き、外の景色が広がる。そこには数十分前に出発した砂浜とみんなが川の字で寝かされているテラスが見えた。
「烏間先生、これを。みんなに届けてやってください」
「あぁ。任せてくれ。キミは安静に。誰か、彼と寺坂くんに肩を貸してやってくれ。1人では動けないだろう」
「ほら、行くよ、乃咲クン」
「もうちょい頑張れよ、寺坂。あと少しで休めるからな!」
カルマが俺に、吉田が寺坂にそれぞれ肩を貸し、ヘリから降りる。よろよろとみんなのもとに向かうと彼らはしんどいだろうに身体を起こし、俺たちに手を振っていた。
みんなのもとに走って向かう烏間先生と薬を手に入れたことをいち早く報告しておいた竹林がそれを出迎え、奥田さんに人数分の水を用意するように指示を飛ばし、慌ただしく動き回る。
「……乃咲クン。早く休もう。身体すげー熱い……。それに息も荒いし、実は起きてるのも相当キツイでしょ」
「……悪い。実は意識飛び掛けてる………」
「だろうね……」
「もう少しだけ頑張れ、圭一。あと少しだ」
カルマにも相当心配かけてるらしい。いつもの半笑いもなければ揶揄う素振りもない。もしかすると俺は自分で思っている以上に重症なのかもしれない。
たっぷりと時間を掛けて一歩一歩、砂浜を歩き、なんとかテラスの前に辿り着く。その間、文句の一つも言わずに付き合ってくれたカルマと俺たちの速度に合わせて横にいてくれた磯貝には申し訳ないことをした。感謝しないとな。
テラスに上がり、ようやくみんなの顔が見える。
倒れてたみんなは身体を起こし、俺たちを笑って出迎えてくれたし、薬を奪いに行ったみんなはそんな彼らの様子と薬を飲むのを見届けて安心し、やり切った色を顔に浮かべる。
結果的に盛られたウィルスに致死性はなかったとは言え、敵に立ち向かった側と信じて待つ側に分かれて乗り越えた今回の事件はみんなの結束を強くする結果を生んだ。それが今回の本当の意味での戦利品なのかもな。
彼らの様子を見て安堵したからか、途端に体が重くなる。
「っと……。磯貝、手ェ貸して。もう限界っぽい」
「あぁ、分かってる」
2人の声が聞こえるが、すぐそこで会話しているはずなのに、どこか遠くで話しているみたいに聞こえる。
それだけじゃない。視界が揺れる。ぐるぐると世界が回りだす。視界の端から正常な世界が侵食される様に黒く染まり出す。
「圭ちゃん……!」
声がする。たった数十分しか離れていなかった筈なのに、なんだか、随分と久しぶりにその声を聞いた気がする。
フラフラとおぼつかない足取りで駆け寄ってくる倉橋さんが見えた。熱があるだろうに無茶をするなぁ……。
あぁ、でも、彼女も無事で済んでよかった。
そうだ、言わないと。いってらっしゃいって送り出されたんだから、しっかり伝えないと。
「——ただいま、倉橋さん………」
言葉を絞り出すと同時に俺の視界は完全に暗転し、意識は糸が切れたみたいにプツリ、と断絶した。
あとがき
はい、あとがきです。
圭一に現れていた不調の正体は過労です。
理由はまあ……。いつぞや殺せんせーが圭一の能力にゾーンという名前を与えた時に話したまんまですね。もはや知恵熱で倒れるとかそういう生優しい領域を超えていたみたいです。
さて、いよいよヒロインが約4ヶ月ぶりに登場しました(笑)来週からクラハシニウムとクラハシイオンを供給しますので補給しに来てください(笑)
ご愛読ありがとうございます!