暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの感想ありがとうございます!

今回も投下します。お付き合いください……。


64話 離別の時間

 

 とうとう迎えた旅行最終日。なんだか俺の人生の中で最も密度の高い2日間だった。遊んで、殺して、殺されかけて、乗り越えた。今までにない、そしてまたとない経験をこの島で沢山した。

 別にここから離れることが名残惜しいと思うくらいに思い入れが出来たと言うわけではないが、荷物をまとめ、フェリーを待つ間、なんとなく島を眺める。本当に色々あったな。

 

「皆さん!忘れ物はありませんね?」

 

「殺せんせー、なんか来た時より荷物増えてない?」

 

「どこで買ったの。そのお土産……」

 

 帰りの便が来たらしく、いつもの様に音頭を取る殺せんせーがいつもの様にツッコミを入れられていた。

 まあ、足元に広がる無数のお土産袋を見ればそうしたくなる気持ちも分かるがな。この人の方が忘れ物ありそうだ。

 

 何だかんだで殺せんせーの荷物を持つの手伝うあたり、みんな殺すとかなんとか言いつつ懐いてるよな。

 微笑ましい反面、いざ、本当に殺せる瞬間が訪れた時のことが心配だ。この調子だと躊躇う奴とか、殺すか殺さないかの問答が発生し、最悪は内部分裂的な起こるぞ。割と高確率で。

 

「……まあ、俺には関係ないか」

 

 呟く。誰に向けるでもなく、ただ、なんとなく。

 呟く言葉に返って来る声はなく、何事もなかった様に船に乗り込み、港までの帰り道を各自で時間を潰して過ごす。

 

 磯貝たちからトランプでもやらないかと誘われたが、丁寧に断ってデッキから遠去かり、小さくなってゆく伏真島を眺める。

 本日、何度目かのため息を吐く。本当にまたとない体験をしたんだな。俺は。思えば器物破損、不法侵入、暴行、恐喝、営業妨害、銃刀法違反、ハッキングなどなど犯罪行為もしてしまったが、緊急避難だ。ご愛嬌願いたい。

 

「ここにいたか」

 

 自分たちの所業に何気なく苦笑していると烏間先生とビッチ先生が揃い踏み。俺の後ろにいた。

 

「お疲れ様です、先生方。どうかしましたか?」

 

「……白々しいわね。演技するならもっと自然に笑いなさい。不自然よ、その作り笑い」

 

「流石に手厳しい」

 

 労いつつも声をかけたらビッチ先生に手厳しい指摘を受けた。

 まあ、正直、今のは自分でも白々しいと思う。烏間先生の言葉からして俺を探したのだろう。そして、彼がそんなことをする理由は今のところ一つしか思い当たらない。

 それを確信しながら触れないのだから白々しくもなるというもの。しかし、反省しないとな。スキルは活かしてこそだ。

 

「それで?如何されました……というのも白々しいですね。要件は暗殺から抜けることについてでしょうか?」

 

「察しが良くて助かる。俺は防衛省の工作員だが、同時に今は君たちの教師でもある。教師として、君の進路選択は尊重する。だが、最後に聞きたい。……本当に暗殺を止めるのか?」

 

 烏間先生からの問い掛け。恐らくは最終確認なんだろう。ここでYESと答えたらこれ以降、この件に関しての追求は無くなる。

 そして、それと同時に今日まで築いて来た凡ゆる関係性が白紙に戻る。これ以降、接点を持つことはなくなるだろう。

 

 そう考えると心底名残惜しい。叶うのなら今後も烏間さんを先生と呼びたいし、いろんなことを教わりたいし、成長を見ていて欲しい。それは紛う事ない俺の本音。

 けれど、父に見せたい。今、こっちを見てくれているうちに知って欲しい。俺のして来た努力、挫折、今の自分を。

 

 父とまともに会話をするのに15年掛かった。こんなチャンスは無いかもしれない。それこそ暗殺に失敗し、来年の3月までに殺さなかったら。殺せんせーが地球を巻き込んで死ぬとしたら。これは正真正銘最後のチャンスということになる。

 

 ……俺は、このチャンスを逃したく無い。

 

「はい、俺はA組に行きます」

 

 短く答える。俺の回答に烏間先生は顔や態度には出さないものの、意識の波長を乱した。俺に暗殺続行の意思がないことを再認識して落胆してくれたのなら嬉しい評価だ。彼はそれだけ期待をしてくれていたということなのだから。

 

「…………分かった。勉強、頑張ってくれ」

 

 少しの沈黙の後。烏間先生はそう言うと踵を返す。そして歩き出そうとした時、振り返る。何故か。ビッチ先生は彼の動きに倣わず、俺のことを妙に憎たらしそうに見つめていた。

 

「乃咲。アンタ、それでいいわけ?」

 

「はい。自分で選んだことです」

 

 薄水色の瞳が真っ直ぐに俺を見据える。試す様な、見透かす様な、瞳。普段の男を誑かす目付きではなく、そこにあったのは冷めた視線。殺し屋の凍てつく様な眼力を向けられる。

 

「本当に?報酬100億円。それをわざわざ諦めるの?」

 

「えぇ。金よりも欲しいものがあるので」

 

「来年には地球が滅ぶかもしれないのよ?」

 

「E組のみんなとあなた方が頑張って殺してくれればそうはならないでしょう?草葉の陰から応援してますよ」

 

 俺の言葉に彼女は目を伏せる。

 

「……ターゲットの命に一番近いのはアンタだと思ってた。おこぼれに預かれなくて残念だわ」

 

 数秒前までの剣呑な雰囲気はどこへやら。ビッチ先生は複雑そうな顔と声で呟くように口を開く。

 たぶん、言いたいことは沢山あるだろう。彼女はプロの殺し屋。一度始めた仕事は最後までやり通せとか。殺せんせーの暗殺に携わりたくても辿り着けない殺し屋だっているのに途中で放り出すとは何事かとか。

 

 でも、それ以前に思ったのだろう。殺しから手を退けるのであればそれに越したことはないはずだと。

 昨日の殺すということの意味を問うた烏間先生との会話が聞こえていたからなんとなく、ビッチ先生の心境は察することが出来た。誰かを殺すことはいつかきっと足枷になる。それを知っているからこの人は引き留めることはしないだろう。

 

「……まあ。せいぜい頑張んなさい」

 

 烏間先生とビッチ先生からのエールを受ける。

 烏間先生は俺がやる気を出すきっかけになった人で憧れ。

 ビッチ先生も多才で努力家で尊敬できる人だったと思う。

 

「烏間先生、ビッチ先生。教えて頂いた技術を活かせず、途中離脱する形になってしまい、申し訳ありません。仲間やお二人の期待を裏切り、投げ出す自分にこんなセリフを言う資格があるか分かりませんが、暗殺が上手くいくことを祈ってます」

 

 言葉を紡ぎ、頭を下げる。最敬礼。今までの人生で一番深く頭を下げた。この人たちから多くを学んだ。頭を下げるだけでは伝えきれない感謝が確かにある。

 だが、裏切る俺に長々と語る資格はないだろう。だから、せめてもの誠意として頭を下げることしか出来なかった。

 

 2人はそんな俺に多くを語るでもなく、もう一度、頑張れよと残すと今度こそ去って行く。その背中を見送りながらもう一度頭を下げ、いなくなった頃に顔を上げて海を見る。これで後に退けなくなったな。

 

 烏間先生たちとの離別からしばらくしてやっと俺たちの街に帰って来る。ここに来るまでの間、不自然にならない程度にE組のみんなと一人一人改めて会話してみた。

 彼らはみんないい奴だ。見た目通りの性格してる奴、誠実な奴、優しい奴、不器用な奴、捻くれてる奴、人懐っこい奴。本当にいろんな個性があるメンバーだった。

 

 改めて話してみて、『あぁ、コイツはこいう奴なんだ』と印象を更新することもあった。これまでの俺はそれだけ周りを見ていなかったと言うことなんだろう。

 もっと早くに周りを見ようとしていれば、彼らの強みとかを把握することができていれば、この旅行で殺せんせーを殺しきることだってもしかしたらできたのかもしれない。

 

 けど、それはたらればだ。過ぎてしまった事に思いを馳せても意味はない。俺がやらなきゃいけないのはこれからを変える事だ。こうすれば良かったと思ったことを実践していく。

 E組でやり残したことは数え切れない。A組とE組、どっちらで学びたいかと問われれば後者を選ぶし、どっちが魅力的かでも同じように答える。正直、E組で学んでいたいのが本音だ。

 

 でも、父はA組に戻れる事になったことをきっかけに向き合おうとしてくれたように思う。今までも、これからも期待している。そう言っても、明確にそれを伝えてくれたのは理事長からの電話があったからこそだ。そして、その電話が来るきっかけは俺が学年で1位になったことにある。

 

 俺が父の期待に答えるにはA組で結果を残す以外にない。

 

 俺は思った。今まで自分を見て欲しいと思っていた俺こそが周りを見ていなかったんじゃないかって。そんな俺に烏間先生や殺せんせーみたいに目の前の相手と真摯に向き合うなんてきっとできないだろうと。半ば確信した。

 向き合わなきゃいけない。家族と。そしてそれが出来るのはA組だけだ。だからこれは一歩なんだ。父と向き合い、目の前の相手を見てやれる奴になる為の。

 

「あ〜、ほんと濃い旅行だったよな」

 

「だね。家に帰ったらぐだぐだしたいよ〜」

 

「……やっべ。俺、夏休みの宿題全然終わってねぇ」

 

「あはは、ばっかでぇ〜」

 

 駅から各々の家に向かって歩き出すみんなを後ろから眺める。殺せんせーはと言うと今度やる夏祭りで屋台を出すとかでその材料や機材の収集に回るべく、早々に飛び去ってしまった。

 しくじった。殺せんせーにA組行きを伝えるタイミングを逃してしまった。世話になったんだし、せめて電話とかメールじゃなく、しっかり面と向かって伝えたいな。

 

「夏祭りか〜、みんなはどうする?」

 

 まだ残っていたらしい磯貝たちが自然と俺の周りに集まり、そんな会話を始める。祭りへの参加については意外と反応が別れた。乗り気な奴とみんなが行くならと言う奴、そして子供っぽいとかで大人ぶって行こうとする素振りがない奴。

 

「圭一は?」

 

「俺もパス。夏休み最終日はダラダラ過ごしたいし、なにより、夏祭りになるとはしゃぐ馬鹿がいるからな」

 

「えっと……?夏祭りなんだし、少しくらいハメを外してもいいんじゃないかな?」

 

「甘いぞ、矢田さん。あのパリピはハメと言うか、タガが外れてる。想像できるか?普段クールぶってる奴が頭にお面、手には綿飴と水ヨーヨーを携え、浴衣を大袈裟にはためかせながら呼びもしないのに家に来るんだぞ?うざってぇたらありゃしない」

 

「た、大変だな」

 

「当日にもう一度誘うからさ、気が向いたら一緒に行こう」

 

「……行けたら行くわ」

 

「来ないパターンだよ。これ」

 

「まあ、圭一らしいと言えばらしいか」

 

 そんな会話を最後に今日は解散となった。みんなの背中を見送り、俺も歩き出す。帰路を辿る中でふと、磯貝の言葉を思い出して取り留めもなく空を見上げて漠然と思う。

 俺らしさとはなんだろうな。と。

 

 答えは出ない。俺らしさとはなんなのか、そんなことすら今の自分には答えることが出来なかった。

 

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⬜︎

 

⬛︎

 

 そして迎えた夏休み最終日。

 俺は朝から理事長に呼び出されていた。

 

「さて。乃咲くん。最終確認だ。キミはどうする?」

 

「——————A組に行きます」

 

「賢明な選択だ。E組への未練は?」

 

「腐るほどに。でも、やりたい事とやるべき事、やらなきゃならない事は必ずしもイコールで繋がらないもんですから」

 

「しばらく見ないうちに随分と大人びた考え方をするようになった。なにか心境の変化でもあったのかな?」

 

「……現実を見ただけです。『こうはなりたくない』って相手の要素がまるまる自分に当てはまったり、『こういう風になりたい』と思ってもそんな理想が一番遠かったり。誰よりも自分を見て欲しかったはずの俺が実は親のことすらしっかり見れてなかったり。色々と嫌気がさす経験をしました」

 

「なるほど、理想と現実の乖離を見る。確かにそれは現実を思い知ったと言っても過言ではない体験だったね」

 

「だから、決めたんです。俺は親父……父さんと向き合いたい。俺が一番見て欲しかった人をもう一度、見つめて、知りたいんです。彼の期待はどんなものなのか、彼の頑張れは何を指しているのか、『あぁ』と『そうか』にどんな思いがあったのか」

 

「その為にE組を抜けるのかい?」

 

「『A組に戻れるかもしれないんだろう?頑張れよ』って分かりやすい目標を見つけた。15年、何をしても一言しか発することのなかった父が初めて明確に応援してくれた。あの人に認められることが人生の目標だったんです。勉強を頑張れば分かりやすく評価されるA組とどんなに頑張って超生物を暗殺し、地球を救っても国家機密であるが故に評価してもらえないE組。どちらが目的への近道なのか考えるまでもない」

 

「例え来年、地球が滅ぶとしても?」

 

「仮に滅ぶのだとしたらこれが最後のチャンスになる。そうでなくても、今、頑張れば今日までの15年が報われるかもしれない。俺の人生の目標を達成する上ではA組に行く方が理にかなっている。それに次の機会はいつになるか分からないのならタイミングは今しかないんですよ」

 

「……合理的だ。しかし、まだ強者とは言えない。やりたい事、やるべき事、やらなくてはいけない事。その全てを両立させ、手段を選ばず、なにも取りこぼす事なく望んだ決着で目的を果たす。それが本来あるべき強者の姿だ。キミが本校舎でそれを身に付けることを期待しているよ」

 

「別にあなたの言う強者になりたいわけじゃないですが、まあ、頑張りますよ。浅野先生」

 

「そうしてくれたまえ」

 

「はい、失礼します」

 

 一礼して理事長室を出る。大魔王との会話は心底SAN値が削られていけない。あの人、なんであんなに強者に拘るんだろう。弱いと何も出来ない。強過ぎても出る杭は打たれ、疎まれる。

 実力なんてのは自分のうちに秘めておいて必要に応じて出すのが一番いい。普段は程々に、けれど口に出したからには全力で。それが一番かっこいいと思うんだけどなぁ。

 

 俺の身の回りにいる強者といえば殺せんせー、烏間先生、そして浅野先生になるだろうが、この3人では重んじる強さのベクトルが微妙に違っているような気がする。 

 

 殺せんせーは自分と周りを守れる強さ。

 烏間先生は他者を、弱者を守る強さ。

 浅野先生は自分だけでも生き残る強さ。

 

 言葉にするとこんな感じで方向性が分かれているように思う。不思議なもんだ。強さって奴にも種類があるんだな。

 

 らしくないことを考えながら俺は校舎を後にする。今日は特にやることもない。確かに祭りがあったと思うが今のところ行く気はないし、行くにしてもまだ時間がある。

 折角、重い腰を上げて外出したんだから何かするか、なんて思った俺の足は自然とE組の隔離校舎に向いていた。

 

 歩き慣れた1kmの山道ももう余程のことがない限り通ることはないのだと思うと寂しく思う。

 道中、擦り寄ってくる野良猫やトンビを適度に可愛がりながら進むと校舎の前に意外な人物を見つけた。

 

「乃咲。キミも来たのか」

 

「竹林?良いのかよ、メイド喫茶に居なくて」

 

 眼鏡をかけた男子。我らの保健委員、竹林さんである。

 珍しい。休みの日はメイド喫茶で過ごすと言って憚らなかったコイツがこんな所にいるとは。

 

「どうしたんだ?制服なんて着て」

 

「理事長に呼び出されたんだよ。A組行きの件で」

 

「……あぁ」

 

 合点がいったらしい。頷くと彼はE組の校舎に視線を向ける。その様子からなんとなく、彼がここにいる理由を察した。多分、見に来たんだろう。この4ヶ月を過ごした学舎を。

 

「初め、ここに落とされた時。終わったと思った。家族に見放され、クラスメイトたちに後ろ指を指され、周りはそんな扱いを迎合するしかない僕と同じ人種。もう2度と這い上がることは出来ないと思った」

 

 竹林は様々語った。E組に落ちるまでの苦悩、落ちた後の絶望。家族に家族扱いされない孤独。

 

「けど、ここで殺せんせーに出会ったことで変わることが出来た。要領の悪い僕に合わせた勉強法を考え、手を変え品を変え、勉強の仕方を教えてくれた。大きな目標に向かって努力する仲間たちに励まされ、最下位から首席まで上り詰めたキミを見て努力は無駄じゃないと信じることができた」

 

「……まあ、俺も同じだな。殺せんせーが来て、烏間先生と出会ってさ。この人に認められたいって頑張ってる俺を殺せんせーは見てくれた。目を逸らさないと言ってくれた。だからやる気を取り戻せた。なんだかんだみんなと馬鹿をやるのが楽しくて、一生懸命になったから今の俺がある」

 

「僕らはここで色んなことを学んだな」

 

「そうだな。間違いない」

 

 しみじみ呟いて、ふと、思い付く。

 徐に校舎の玄関に掛けられた鍵に向かって歩き出した俺を見てキョトンと首を傾げる竹林。ネクタイを止める為の安全ピンを取り出し、南京錠を手早くピッキングして鍵を外す。

 

「掃除、してかないか?暇だろ」

 

 俺の唐突な行動に目を白黒させるも、竹林は呆れたような顔をすると眼鏡を人差し指で押し上げながら頷き、歩いて来た。

 雑巾やら箒を準備し、いざ、俺たちの教室へ。流石にしばらく使っていなかった所為か隅々に埃が溜まっている。

 

「……乃咲。キミはみんなに何か言ったか?」

 

「言わないよ。自分から言う必要はない。あくまで俺は自分の都合で抜ける。地球の未来か、家族との絆を取るか、なんて極論染みた相談されても困るだろ。俺もそんな相談されたら困るし」

 

「だが、僕らがしているのはみんなへの裏切りだ。一言弁解するのとしないのでは印象が違うだろう。特に今のキミはみんなの中心人物だ。このまま去るのは良い印象を残さないんじゃないか」

 

「だな。裏切り者扱いされて当然だ。でも、みんな逆境に慣れてるし、それに立ち向かう術も身につけた。今なら『乃咲みたいな裏切り者に負けない!』ってバネになる可能性もあるだろ。そうなってくれたら万々歳だ。最後に汚れ役になってみんなの足場になれるならそれでいいさ」

 

「…………そうか。野暮を言ってすまなかった」

 

「野暮って程でもない。そんなことより手を動かそう。立つ鳥跡を濁さずって言うだろ」

 

「そうしよう」

 

 こうして俺たちは今日まで世話になった教室にせめてもの誠意を込めるように黙々と掃除を続けた。

 

⬛︎

 

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⬛︎

 

 誰が見ても文句の付けようがない程に掃除にのめり込む。俺たちが満足するくらいにピカピカになる頃にはすっかり日は落ちていた。時計は6時50分を示している。

 

「いやぁ……。掃除したなぁ」

 

「キミがあそこまで凝り性だとは思わなかった。掃除に拘りでもあるのかい」

 

「いや、一度始めたらあちこちが気になってさ」

 

 教室から出て、施錠する。教室への義理は果たした。あとは殺せんせーへ最後の挨拶をしないとな。

 今日中に会えるだろうか。できるなら今日のうちにしておきたいが……あのタコのことだ。祭りをエンジョイしているだろう。会場に行けば会える気がする。……あんまり気乗りしないが、祭り会場に行くとするか。

 

 方針を決め、歩き出そうとした刹那。俺と竹林の前に黄色いマッハ20のタコ形の落下物が降って来る。

 

「やぁぁぁぁぁっと!見つけたぁぁぁぁ!!」

 

 案の定、屋台のおっちゃん風な変装をしたやたらとハイテンションな殺せんせーが涙を流しながら大袈裟に俺と竹林の手を掴むと感激を隠そうともせずにブンブンと振り回す。

 

「うぅっ……!キミたちだけどこを探しても見つからないものですから先生、避けられていると思ってショックのあまり自殺するところでしたよぉぉぉ……!」

 

「………出て来るタイミング間違えたな、竹林」

 

「同感だね」

 

 図らずとも俺たちは地球が救われる可能性を潰してしまったらしい。ごめんなさい、烏間先生。

 

「とまぁ、話はここまでにしておいて。2人とも、コレから予定は空いていますか?夏休みの最後の1日くらい何も考えずに遊びましょう!と言うことでみんなで夏祭り行きませんか?」

 

 うん、心底考察通りで笑うわ。やっぱり祭りをエンジョイするつもりだったようだ。このタコ。

 しかも服装やそれに付いてる匂い的に屋台で儲けようとしてる。俺たちに資金稼ぎの片棒を担がせようってか。

 

 ……でもまあ、いいか。殺せんせー直々の誘いだし。E組を抜けることは祭りの終わりにでも伝えれば良い。

 

 竹林に目配せすると、彼も同じことを思ったらしく。殺せんせーの誘いに2人で頷いてみせる。

 俺たちが頷いたのをみると殺せんせーは心底安心したような顔をした。なんでも、誘ってみたのは良いけど案外断る人が多くて地味に傷付いていたとかなんとか。

 

 いや、当日に誘ってオッケー出す奴も中々居ないと思うけどな。俺もこんな状況じゃなかったら断ってたし。

 

「さぁてと!そうと決まれば捕まってください!開演まで10分!他の皆さんは駅前で集合してます!」

 

 殺せんせーは口早に言うと俺と竹林を服の中に突っ込んで一気に跳躍した。多分、見納めになる殺せんせーの懐からの光景を目に焼き付けながら俺たちは()仲間たちの所へ向かった。

 

 

 




あとがき

はい、後書きです。
なんて言うか、無理矢理昔の自分の真似をしてみたり、意図的にE組から距離を取ろうとしているけどどれも中途半端な圭一。本人は前に進む為と言っているけど現状は後退している感が否めませんね……。

次回、夏祭り回になります。
まさか彼があの子と絡むなんて……!

今回もご愛読ありがとうございます!
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