加えて高評価、沢山の感想をありがとうございます!
なんかあったルートとは違う明らかに拗れた内容になりつつある本編、再開します。今回もお付き合いください……。
迎えた新学期。僕らは始業式の為に本校舎に集合していた。夏休みの経験で僕らはまた一段階成長することができた。仲間と殺し、仲間と立ち向かった激動の夏休みを明けた僕らは夏休み前に比べてより一層結束が強まったと思う。
けど、夏休み気分を引きずるわけにはいかないので心を切り替え、勉強も暗殺も新しいステージへ。
殺せんせーの暗殺期限まで残り6ヶ月。
4月に比べて殺せる可能性は見えて来た。
「………あれ?」
集会が始まるのを待っていると女子の列から戸惑うような、心配するような声が聞こえる。まだ静かにしてなきゃいけない時間ではないので様子をみると倉橋さんがキョロキョロしていた。
「どうしたの?」
「ねぇ、カエデちゃん。圭ちゃん見てない?」
「乃咲……?」
そんな会話が聞こえてくる。茅野と倉橋さんが普段乃咲がいる場所に視線を向けるけど、そこには居ない。
「ねぇ、渚。乃咲見てない?」
「僕も見てないかな。杉野は?」
「俺も。どーしたんだろ?遅刻か休み?」
「……なぁ、そういえば竹林もいないぞ」
僕らの動揺は前後のクラスメイトたちに伝播した。みんなして辺りを見回すけど、乃咲と竹林くんの姿はない。
誰か連絡受けてる?って話が出た時、やけにカツカツと自分の存在感を強調するような足音がやってくる。
「久しぶりだな、E組ども」
声のした方を見るとそこには浅野くんを除いた5英傑が揃っていた。ニヤニヤとバカにするような、他にも意味がありそうなニヤけた顔でやたらとフランクに話しかけてくる。
「ま……、お前らは2学期も大変だと思うがよ。せーぜー頑張ってくれや」
「めげずにやってくれギシシシシ」
謎にエールを残してさっていく4人。その様子にみんながそれぞれの感想を語る。けど、その内容はとてもじゃないが好意的なものではない。
「出ばなから5英傑とか縁起悪りーな」
「しかもなんなのよ、妙にニヤニヤして」
「一学期の終業式じゃ、悔しそーな顔してた癖にな」
「……っていうか、5英傑(笑)よりも乃咲たちは?あと5分しないで集会始まっちゃうわよ?」
「律、何か聞いてない……?」
『いえ。それが先程から連絡を試みているのですが、電源を切ってるのか、お2人のスマホに接続できないんです』
律ですら聞いてない。というか、スマホの電源を切ってる?別に不自然じゃないけど、何でわざわざ?
そんな僕の疑問に答えてくれる人はいない。結局、2人とも姿を表すことがないまま集会は進み、野球部が夏休み中の大会で入賞したと表彰されたという発表で集会も終わりに差し掛かる。
「……結局、圭ちゃんたち来なかったね」
「何かあったのかな?」
ボソボソと倉橋さん達が話す声が聞こえる。
2人の言う通り、あの2人は連絡の一つもなく集会に来なかった。元々が不良の乃咲はともかく、真面目な竹林くんまで集会をサボるなんてあるかな?仮にサボりじゃないにしろ、体調崩したとして、スマホの電源まで落として寝込むもんかな?
そんな僕らの心配を他所に集会の司会をしていた荒木くんが式を締め括るなか、一言、僕らにとって寝耳に水な一言を告げる。
そして次の瞬間には僕らの心配を他所に……というか、僕たちの心配を裏切るようなあまりにも唐突で予想外。思わず言葉を失い、息を呑む衝撃的な出来事が起こった。
「さて、式の終わりに皆さんにお知らせがあります。今日から……3年A組に2人、仲間が加わります」
「……2人…………?」
その言葉を聞いた瞬間、嫌な予感が胸に訪れた。
2人。偶然にも僕らが今、気にしているここにいない仲間の人数とピッタリ同じ数だったから。
「昨日まで彼らはE組にいました」
「「「「!!!?」」」」
その一言に僕らは戦慄し、唖然とした表情で荒木くんの言葉を待つ以外になくなった。
だけど、同時に納得してしまった。彼らがここにいない理由を。これ以上ない形で突き付けられた。
「しかし、たゆまぬ努力の末に好成績を取り、本校舎に戻ることを許されました。ここで彼らに喜びの言葉を聞いてみましょう!竹林孝太郎くんと乃咲圭一くんです!!」
聞こえた名前に今度は絶句した。呼ばれてステージ上に現れた彼らの姿を認めたくなかった。
今、目の前にあるこれは現実なのか。そんなことすら分からなくなってしまった。それだけ僕らには衝撃的な事だった。
なんで!?どうして彼らがそんなところに!?
みんなの心の声が聞こえた気がした。
『僕は——4ヶ月余りをE組で過ごしました。その環境を一言で言うなら……地獄でした。やる気のないクラスメイト達。先生方にもサジを投げられ、怠けた自分の代償を思い知りました』
「竹林くん………?」
『もう一度、本校舎に戻りたい。その一心で死ぬ気で勉強しました、生活態度も改めました。こうして戻って来れたことを嬉しく思うと共に2度とE組に落ちることのないよう頑張ります。————以上です』
静寂が支配する。僕らだけでなく、本校舎の生徒達も呆然と壇上の彼を見ていた。けれど次の瞬間にはパチパチとステージ横に控えていた浅野くんが拍手をしながらスピーチを終えた彼を出迎えた。
「おかえり、竹林くん」
その一言、その動作は一瞬にして体育館全体を巻き込み、空気を揺るがす大歓声に変わった。
「おかえり!!よく頑張った!!」
「偉いぞ、竹林ぃぃぃ!!」
「お前は違うと思っていた!!」
巻き上がる歓声に竹林くんは今まで見せたことのない嬉しそうな笑みを浮かべ、ステージ横に戻って行く。僕らに一瞥もくれず去ってゆく彼が……昨日までとは別人に見えた。
「…………」
そんな歓声の中、静かに銀髪を揺らして乃咲がマイクの前に立つ。引かない歓声の矛先は今度は乃咲に向いた。
「うぉぉぉぉ!乃咲ぃぃぃ!!」
「お前ならいつか戻って来れるって信じてたぁぁぁ!」
「すげぇよ、頑張ったよお前!!!」
「努力は報われるんだなぁぁぁ!!」
口々に努力を讃える言葉が飛び交う。まだスピーチを始めてすらいないのに、彼はヒーローの様な扱いを受けていた。
……いや、違う。様なではなく、本当にヒーローなんだ。最下位から1位に登り詰めた元不良。成績がものを言うこの学校の中で総合1位の肩書きは他のどんな肩書きよりも価値がある。
同率で総合1位の浅野くんは常に全国模試で1位。そんな彼と同点というのは全国レベルで順位を見てもトップにいるのとほぼ同義。2回前のテストで最下位だった奴がそんなところまで登るのは並大抵の努力では不可能。
それだけの努力をして結果を出した乃咲は努力は報われるという言葉を証明して見せた、この学校の希望の星。
朝起きて登校するまで勉強、学校に着いたら授業、昼食中も自主勉、終わったらまた授業、放課後も寝るまで勉強。四六時中教材を広げている彼らにとってその努力が実ることをこれ以上ない形で見せつけた乃咲は一瞬にして学校中のヒーローだ。
割れんばかりの喝采。熱狂的なほどの歓声。僕らを置き去りに盛り上がり続ける体育館。しかし、それらの声を一身に浴びる彼は、そんなことを気にも留めず、冷淡な目をしていた。
——————うるさい。
口がそう動いた。声を伴わず、表情を動かさず、ただ吐き捨てるように昨日まで僕らと言葉を交わしていた口が動いた。
その目はただただ鬱陶しそうだった。その視線は歓声を上げる生徒たちに向けられる。半ば殺気の混じった視線を。
「圭、ちゃん………?」
不安そうな倉橋さんの声。いや、彼女だけじゃない。僕らE組全員がその異様な空気に呑まれた。
昨日までの彼を見ていたからこそ、その違和感に気付いた。あんな雰囲気の乃咲を僕らは見た事がない。
昨日まで色んな彼を見た。不良扱いされて浮いてる時も、打ち解けて笑い合った時も、みんなで馬鹿をやって楽しそうにしてる時も、殺せんせーの暗殺に一生懸命になってる時も、烏間先生の訓練を頑張っている時も、みんなに指示を出す頼もしい姿も、仲間を励ます不器用で優しい一面も、みんなの為に無茶をする背中も。この学校の中で僕らだけが見て来た。
だからこそ、その身に纏う空気の異様さに気付いた。
僕らが視線を向ける中で乃咲は徐に指を立てて腕を持ち上げるとマイクスタンドにセットされたマイクを指先で突いた。
キィィィィン!と体育館中のスピーカーから放たれる耳障りな電子音。誰もが口を閉ざし、顔を顰めながらも思わず乃咲に視線を引き寄せられる。静寂に包まれる体育館。
数秒前までの喧騒が嘘のように静まり返る空気の中で生徒のみならず、体育館の脇に控えている烏間先生や無理矢理着いて来たビッチ先生までもが乃咲に意識を引き寄せられていた。
「…………」
乃咲は左手に持っていたスピーチの原稿らしい紙をその場で破き捨てると相変わらずの冷たい目で口を開いた。
『お前ら、危機感足らないんじゃねぇの』
何を言い出すかと思えばいきなり喧嘩を売るような一言。唖然とするみんなを顧みず、淡々とした口調で続く。
『さっき紹介された通り、俺は昨日までE組だった。3年生の中では周知の事実だが俺は万年最下位、補習の常連だった。同級生に後ろ指刺されて、下級生に嘲笑される4ヶ月だった。だが、こうしてトップに返り咲く事ができた』
目は冷たい。その絶対零度と言っても差し支えない視線はただ射抜く様に僕ら以外の……E組以外の生徒に向いた。
『俺だけじゃない。今回のテスト、3年の上位はA組とE組がほぼ独占した。分かるか?お前らは嘲笑を向け、後ろ指を指した相手に呆気なく抜かれてるんだぞ。なんでもっと焦らない?なんでそんな余裕ぶっこいてられる?気付いてるか?お前らの大半がE組を馬鹿にできる立場にいないって。その自覚はあるか?』
感情のない言葉。ただ事実を突き付ける言葉。一見すると僕らの肩を持つようなセリフ。事実、そこには彼なりに僕らを庇おうとする意図はあるのかもしれない。
けど、それ以上に乃咲の言葉には含まれていた。侮蔑、嘲笑、呆れ、怒り、殺気。本校舎の生徒を見下すトゲが。
『俺たちが卒業した時、E組に落ちるのは俺たちを嘲笑したお前たち後輩で。E組が結果を出した時に肩身が狭い思いをするのはお前たち同級生だ。あとで惨めな思いをしたくないのなら精々、身の丈に合った態度でいるんだな。少なくとも、お前ら全員、最下位にごぼう抜きされる程度の実力しかねぇんだから』
そのスピーチは本校舎の生徒を叩き落とした。E組ではない優秀な俺たちというブランドを一撃で砕き、強者、成績優秀者という自負を持っていた彼らを等しく弱者に貶めた。
自分という圧倒的な強者を、総合1位のE組出身者という肩書で浅野くんを除いた全校生徒を同じ土俵に叩き落とした。
本校舎の生徒たちは浅野くんに並ぶ新たな強者の誕生を前に等しく弱者となり、明確な恐怖を思い知った。
やらなきゃやられる。結果を出さねばE組以下の扱いを受けるかもしれない。そんな恐怖に支配された。
再び訪れる静寂の中、大半の生徒を危機感のどん底に漬け込んだ当の本人はただ向けていただけの視線を呆気なく外して音もなくステージ横へと消えていった。
竹林くんの時と違って、彼を労う歓声はもうない。現実を叩きつけた男への恐怖で僕ら以外の誰もが凍り付いていた。
全校集会は飄々とした浅野くんの号令で幕を閉じ、本格的に新学期の授業が始まる。暗殺も、勉強も1学期に比べてハードルの高いものになり、必死に食らいつかないとみんなの脚を引っ張り、迷惑をかけるかも知れない。
そんなことはみんなが分かっていることだけど、僕を含めたE組のみんなの視線は気が付けば黒板ではなく、主の居なくなった空白の席にばかり向けられていた。
「なんで……何も言わずに行っちまったのかな……」
「前原くん……」
「俺さ、仲良くなれた気がしてたんだ。いつの間にか軽口言い合って、戯れ合うようになってさ。楽しかったんだよ、乃咲といるの。アイツだけじゃねぇ、竹林もだ。いつも真面目で、冷静に考えてて、ウィルス盛られた時はそれがすげー頼もしかった。なのに……!なんなんだよ、アイツら………」
「しかも竹林の奴、ここを地獄とかほざきやがった」
「言わされたにしたってアレはないよね」
仲間達はここに居ない彼らのことを考えて口々にさっきの集会で感じたことを語る。でも、その大半は動揺を吐き出すように口から言葉を出しているだけ。ただどうしたらいいか分からない不安が形を変えて出ているだけだった。
「確かに竹林くんと乃咲の成績が急上昇したのは事実だけど、それってやっぱりE組で殺せんせーに教えられてこそだと思う。それさえ忘れちゃったのなら……私は彼らを軽蔑するな……」
片岡さんの悲しさ半分、失望混じりの言葉。俯いたままそんな言葉を紡ぐ彼女に意外な人物が声を掛けた。
「……ホントにそうなのかな?」
倉橋さんだった。
「陽菜乃……」
「確かにあんな言い方ないと思ったよ。でも、竹ちゃんが本心からあんな風に言ったとは思えない。あの原稿って理事長とか浅野くんが渡したんじゃないかな。そんなの渡されたら読まないって選択肢を取れる人はそうそう居ないと思う。竹ちゃんはああするしかなかったんだよ」
竹林くんの立場に立った冷静な分析。フォローする言葉に片岡さんは少し驚いた表情で顔を上げた。
「……少し意外。陽菜乃はどっちかと言えば前原くんとかひなたと同じこと感じてるって思ってた」
それは僕らも同意見だった。天真爛漫で素直。どちらかと言えば思ったことを真っ直ぐに表現する直情的な彼女が一歩引いた視点で事態を見て、冷静に考えているのは少し意外だった。
「私だって思うところはあるよ?でも、前ちん達なら分かるでしょ?竹ちゃん、普久間島では一生懸命になって倒れてる私たちを介抱してくれたよね。あの時だけじゃなくて、いつも冷静に私達にアドバイスをくれたし、何より勉強も暗殺も頑張ってた。きっと何か事情があるんだよ」
「倉橋……。うん、そうだよな。俺たちはまだ、アイツらが何を考えてるのか聞いてねぇ。失望するのも、悲しむのもまだ早ぇよ。放課後、聞きにいかねぇか?アイツらの考えてることをさ」
倉橋さんの前向きな言葉を聞いてみんなが頷く。けど、その中で磯貝くんとカルマくん、そして寺坂くんはどこか考え込むような難しい顔を隠そうともしない。
「どうかしたの?3人とも」
「いや。ちょっと圭一のことでな。明らかに様子おかしかっただろ。話してた内容だけ聞けばいつかの発破に近いものがあると思えた。でも、雰囲気がな……」
「アイツ、E組を抜ける気はないって言ってたのにどんな心境の変化があったのかなって気になってさ〜。なんて言うか、ステージの上から他の連中を見下ろしてた時の目つきがね。出会った頃の乃咲クンに戻ったみたいな感じして」
「……俺はあの目つきを知ってる。2年の頃、ガキ大将を気取って歩いてた俺にくれた、道の真ん中に落ちてるゴミを見る目だ。周りに興味がねぇ、ただ邪魔だ、目障りだ、耳障りだ、って要素でしか判断してねぇ目つきだった」
3人の言葉にみんなが言葉を失う。彼らの指摘する通り、乃咲の様子は変だった。……いや、変だったのは今日だけだろうか?
「そう言えばさ、アイツ。旅行の最終日あたりから変なところあったよな。烏間先生と俺たちの関係をビジネスパートナーとか言ったり、ビッチ先生と烏間先生を覗き見る時も磯貝が声をかけなかったら1人で飯食ってたよな」
「……そうだね。千葉の言う通りだと思う。昨日の夏祭りも一応顔は出してたけど、思い返せば浅野に絡まれた時以外は一歩引いてたって言うか、私たちから距離を取ってた気がする」
普段、みんなから一歩引いた位置で虎視眈々と殺せんせーを狙い続ける千葉くんと速水さんも同じことを感じていたらしい。
「みんながどう思うかは分からないけど……私、圭ちゃんのこと応援してあげたい。もしかしたら、裏切られたって思う人もいるかも知れないけど、きっと理由があると思うんだ。E組から出て行っちゃうのは寂しいけど、頑張ってるところを沢山見て来たから。圭ちゃんにやりたい事が出来たなら応援してあげたい」
「だな。言いたい事があるし、事情も聞きたいけど、俺も倉橋に賛成だ。みんな、とりあえず放課後になったらアイツらに会いに行こう。あの2人に前向きな気持ちがあるなら俺は送り出してやりたいし、応援もしたい」
「………だれも応援しないなんて言ってねぇよ。よし!そうと決まれば放課後は本校舎にカチコミだ!あの優等生の皮を被ったメイドフェチとクール気取った特殊性癖持ちに会いに行くぞ!」
「うん!」
さり気なくディスられる乃咲を憐れみながら僕たちの行動指針は決まった。2人が前向きなら応援する。そのためにまずは彼らに会いに行く。こうして僕らは速る気持ちを抑えながら授業に臨んだ。放課後、会えたらどんな風に話そう。そんなことをシュミレーションしながら。
そしてこの騒動をきっかけに知ることになる。乃咲の人生。どんな風に生きて来たのか、何を感じていたのか、彼が本当に望むことは、欲しいものはなんなのか。これまで断片的にしか知らなかった乃咲圭一という人物のことを。
あとがき
はい、あとがきです。
案の定、酷いスピーチでしたね(笑)
圭一の本校舎の生徒に対する負の感情を煮詰めた敵意と害意あるスピーチというか、宣戦布告と言うか。集会の時間とか、浅野以外の本校舎の生徒に対する接し方から察している人もいるかもですが、圭一は基本的に本校舎の生徒が嫌いです。
理由はまあ、察している人もいるかもですが、圭一視点で追々……。まあ、しばらくは圭一の暴走を第三者の視点でお楽しみください……!
ご愛読ありがとうございます!