暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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加えてたくさんの感想と高評価ありがとうございます!

今日も投下しますのでお付き合いください……。


70話 支配者の時間 2時間目

 

 教室に着くと見知った2人が既に席で自習をしていた。つい先日、E組から復帰した乃咲圭一と竹林孝太郎。方や復帰早々の集会で大半の生徒を弱者というドン底に突き落とし、方や努力は認められると言う甘い幻想を体現した2人。

 E組の連中にはさして興味はない。だが、E組の教育環境には興味がある。圭一はやる気を失っていたと思ったが、いつの間にか飛躍的な順位アップを遂げ、竹林も単なるガリ勉だったはずが、今は効率よく自習をしている。

 

 彼らが復帰した初日の授業を僕は遠目に眺めていたが、彼ら2人とも教師の話は大して聞いていなかった。

 それぞれが教科書類を広げてはいるが、授業を聞いてるフリをして自習しているのは直ぐに分かった。僕もそうしているのが大きいけど、本校舎に戻って来たばかりだと言うのに受講から即座にここの授業を受ける価値はないと判断した目利きには素直に驚かされたからだ。

 

 成績だけで見れば底辺そのものだった圭一にもう一度やる気を与え、再び頂点に君臨させた手腕。

 お世辞にも要領が良いとは言えなかった竹林に効率的な勉強方法を教え、成績上位に押し上げた実力。

 

 そんなものを見せられてはE組自体に興味はなくとも、その環境に興味を持つのは半ば必然だろう。

 確か、E組の教師は今までの雪村先生ではなく、今年から烏間とか言う人に変わったんだっけ?この2人の目覚ましい成長はあの教師の手によるものか?だとしたら恐ろしい話だ。

 

 竹林にはあまり絡みがなかったが、圭一の方は成績が落ち始めた頃から僕だってどうにかしようと動いていた。

 中学でようやく出会えた対等な相手。お世辞にも天才とは言えないが、理解できるまで繰り返す不器用な学習方法で僕に唯一喰らい付いて来た奴が落魄れる姿を見たくなかったから、友人として、ライバルとして、E組に落ちるまでは彼のやる気とか学習意欲を煽る様に接した。

 

 けれど、そのどれもが上手くいかなかった。僕だけでなく、圭一の地頭の良さやスペックに注目していた父さん……理事長ですら、彼を奮い立たせることができなかった。

 だと言うのに、圭一は再び頂点を手にした。もともと実力はあったのだから、やる気を出させるだけで良かった。でも、たったそれだけのことを僕らはできなかった。できなかったと言うのに、それを成し遂げた奴がE組で教鞭を取っている。

 

 そんな奴がいるのだとすれば、僕は勿論、父さんと同等以上の支配者があの山にいると言うこと。

 それは、一体どんな化け物だ?つい思考を巡らせる自分に気付き、ついさっきまでの考えを否定する。僕はE組に興味がないと言ったが、それは違うのかも。現に僕は彼らを警戒している。

 

 思えば、この2人だけじゃない。今回のテスト、5教科のうちの3教科と、ついでに家庭科のトップもE組の生徒だった。全体順位で見ればまだ平均レベルだが、個別の教科では間違いなく油断ならない相手になりつつあるのは確かだ。

 E組全体のレベルはこの4ヶ月で信じられないほどに向上したと言える。そう考えるとやはり自然と僕の興味はE組の環境にも向けられた。よくあの劣悪な環境でここまでやるものだと。

 

「やあ、おはよう。圭一、竹林くん」

 

「おはよう」

 

「……あぁ」

 

 挨拶すると返ってくるのは2色の声。竹林のはっきりした声と、圭一の短いギリ挨拶とは受け取れない声。

 この2人もこうしてみると同じ環境から出てきたとは思えないほどに対照的だ。純粋に強者になりたがる竹林と強者に限りなく近い位置にいながら目指そうとしない圭一。

 

 思えば、今の全校生徒の中でもこの2人は対照的な印象を持っていることだろう。

 みんなからの歓声を受け入れ、戻ってきた事、もう戻らない様に努力することを誓った竹林。

 みんなからの歓声を拒絶し、うんざりした様な様子で全校生徒に最下位に追い抜かれた事実を指摘し、自分以外を半ばE組以下だと遠回しに扱き下ろした圭一。

 

 彼らの家庭環境は察しがつくし、圭一の方は聞いているから知ってるつもりだけど、ここまで似ていてここまで違うとはね。

 

「竹林くん。原稿はしっかり暗記できたかな?」

 

「ありがとう、問題なく覚えられたよ」

 

 昨日渡した原稿をチラつかせながら薄ら笑いを浮かべる。そんな竹林に少し違和感を覚えた。昨日は原稿の内容に明らかに動揺していた癖に、今日は何処か余裕と言うか、妙に晴れやかだ。

 

「随分と気分が良さそうだな。何かあったのかい?」

 

「まあね。ずっと考えていたことに対して僕なりの結論を出せたんだ。だからちょっと浮かれてるのかもね」

 

「へぇ。そいつはよかった。一皮剥けたってとこ?これはスピーチも期待して良さそうかな」

 

「あぁ。楽しみにしていてくれ」

 

 言葉を交わした感じ、やはり何か違和感がある。顔は笑っているが、本心から笑っている様には感じない。

 そういうと竹林は自習に戻る。何気なくその様子を見ていたが、やはりその自習法は効率的だ。数学をやっている様だが、ノートにまとめているその内容は実によく要点をまとめている。

 最低限、そこだけ理解していれば解けるポイントと、応用するなら押さえておきたいポイント。全てがバランス良くまとめられていた。ぶっちゃけ、うちの早口だけが取り柄の授業よりこのノートを見た方が分かりやすいと思えるくらいによく出来ている。

 

 たった4ヶ月でここまで身に着くものなのか?

 

 そう思いながら、今度は圭一の様子を見る。

 彼の正面の席に座り、振り向きながらノートやら手つきやらを見ていたが、正直、こっちは次元が違う。ペンの動きと教科書を捲る速度が尋常じゃない。ただ捲し立てるだけが取り柄の教師たちより何倍も早い。コピー機が印字しているのを覗き込んでいるのかと思うくらいに早い。

 しかも、その勉強方法も壮絶だ。竹林とは違う。竹林が要点や応用をまとめた参考書なら、圭一のノートはやり方から応用まで全てを事細かに網羅する解説書。

 問題を一から取り組み、理解するまで解き続け、理解した内容を別のページに図解と共に残して行く。恐らく、読み書きが出来て、一定以上の理解力のある奴がこの図解の載ったページを見れば一切基礎知識がなくとも問題を解ける様になるだろう。

 

 正直、異常だ。分かりやすくまとめるとかそんな領域の話じゃない。普通に金を出せるレベルだ。

 圭一はもともと、がむしゃらに理解するまで問題を解くタイプだったが、変なところで拍車が掛かってる。

 確かに覚えたことを自分なりにまとめて図解するのは勉強方法としては良い手段だ。あとで見返せるし、まとめる作業には問題への理解力も必要になる。要点だけでなく、こんなに事細かに編纂できるのであれば、そりゃあ1位にもなれるだろう。

 

「………浅野、どうかしたのか」

 

「いや。お前も竹林くんも何処でそんな勉強方法を学んできたのか気になってな。下位から最上位への成績アップの秘訣は僕でも気になる所だ。なんかコツでもあるのか?」

 

「身に付けたのはE組だな。あそこの教師はクソ熱心だ。生徒1人1人にあった方法を見つけてくれた。あとは……まあ、集中だな。周りからの余計な情報をシャットアウト出来るくらい集中できればこれくらいは余裕だろ」

 

 そんなレベルで集中できて、更にその状態を何時間も維持出来るのはお前くらいだ、と言いたい気持ちを押さえる。

 コイツは確かに学術的には天才ではない。本人もかつての取り巻きも言っていた様にどちらかと言えば秀才だ。

 でも、何かに集中して打ち込むことに関しては右に出る者はいない程の逸材だ。天才とか奇才とかそんな言葉は生温い。鬼才という言葉ですらその集中の才能を装飾するのに足りるかどうか。

 

 僕は興味がある。周りから天才だの支配者の遺伝子とか小っ恥ずかしい呼ばれ方をしている僕に不器用な努力と他を寄せ付けない圧倒的な集中力を武器に喰らい付いてきた彼が肉体的にも精神的にも成熟した時、最終的にどれだけの領域に達するのか。

 少なくとも、彼の到達する領域は僕や父の考える強者とは違う方向性に向かったとしても強者という位置付けであることは間違いないだろう。彼が望むと望まざるとに関わらず、な。

 

 もしかしたら、僕が彼に拘っているのは、その到達点を間近で見てみたいからなのかもしれない。

 

 ………それにしても、またE組か。竹林と言い圭一と言い、今年のE組は一味違う。いや、この2人だけじゃない。度重なる理事長のE組視察と過度な干渉、野球部と見せた異様な試合、そして今回のテスト。明らかにあの山で何が起こってる。

 

 僕は廊下の窓から見えるE組の山を見る。なんだ?何があるんだ?あの劣等生が集められた山で。

 

 そんな心中で吐露した疑問に誰も答えられる訳もなかった。

 

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 そして、全校生徒が登校した後、予定通りに全校集会が始まった。この学校の創立記念日。別にわざわざ特別に集会をやるべき行事でもないと思うが、まあ、仕方ない。父さん……理事長が決めたことだ。大人しく生徒会長としての勤めを果たす。

 

「さ、話しておいで」

 

 つつがなく進行する式。校長の話しが終わったところで荒木の音頭。いよいよ竹林のスピーチがやってくる。

 何処となく異様な雰囲気を出す彼の背中を押して、強者への第一歩を踏み出させる。壇上に立とうとする彼は何処か殺気立っている様に見えたが、その真意を僕は直ぐには理解できなかった。

 

 壇上に立ち、マイクスタンドの前に現れる竹林に生徒たちがざわつく。彼らの動揺も理解できる。この前スピーチしたばかりの奴がまた全校集会でみんなの前に立つ。

 え?また?今度は何があるの?と、そんなざわつきが聞こえてくる。その気持ちは分からないでもない。

 

『僕のやりたい事を聞いてください』

 

 そんな掴みと共に竹林のスピーチは始まった。E組が全校生徒から受けている待遇の再度周知とそれを実際に受けて来た彼自身の感想、厳しさや辛さ。そしてそこから抜け出せた喜びに続き、E組管理委員の設立の賛同を求める演説へ。

 そうして彼は、弱者から強者へと這い上がったモデルケースとして大々的に全校生徒に認知される……筈だった。

 

 竹林のスピーチは僕らのシナリオからズレ始めた。E組が受けている待遇の話から、僕と理事長の予期せぬ方向へと。

 

『僕のいたE組は弱い人の集まりです。学力という強さが無かった為に本校舎の皆さんから差別待遇を受けています。——でも、僕はそんなE組がメイド喫茶の次くらいに居心地良いです』

 

 そんな誰も予想していなかった告白に誰もが凍り付いた。ステージ横から見える生徒たちは困惑した表情で壇上を眺める。

 

『……僕は嘘を吐いてました。強くなりたくて、認められたくて、皆さんや仲間たちに。でも、E組の中で役立たずの上、裏切った僕をクラスメイトたちは何度も様子を見に来てくれた。先生は要領の悪い生徒でもわかるよう手を替え品を替え工夫して教えてくれた。家族や皆さんが認めてくれなかった僕にもE組のみんなは同じ目線で接してくれた』

 

 まずい。竹林に周りが呑まれつつある。このまま続けさせるのは良くない。そう判断した僕は歩き出す。

 

『世間が認める明確な強者を目指す皆さんを正しいと思うし、尊敬します。でも、僕はもうしばらく弱者でいい。弱いことに耐え、弱いことを楽しみながら、強い者の首を狙う生活に戻ります。それが、今の僕(・・・)やりたいこと(・・・・・・)だから』

 

「イカれたか……!今直ぐ謝罪して撤回しろ、竹林!!」

 

 事態を収拾する為にステージに立った僕に対して彼は、その動きを制止する様にマイクスタンドの手前に置いていた何かを見せつけるみたいに持ち上げた。

 どこか見覚えのある、半透明のガラス製の盾。その徐かつ唐突な行動に思わず足を止めてしまった。

 

『理事長室からくすねて来ました。私立学校のベスト経営者を表彰する盾みたいです』

 

 ……コイツ、いつの間に……!

 

『理事長は本当に強い人です。全ての行動が合理的だ』

 

 竹林は言いながら自分の制服のシャツに手を突っ込むと一本の鈍器を取り出す。木製のナイフに鉄板を貼り付けただけのお粗末な鈍器。なぜ、そんなものがそこから出てくるのか、とか、なんでそんなものを持っているのかとか。疑問は尽きなかった。

 

 だが、そんな疑問を口にするよりも先に奴は動いた。

 手に持つ盾、振り上げたナイフ。次の瞬間、まるで何処かで訓練でも受けていたかのような洗練された無駄の少ない動きでソレを盾に向かって目にも止まらない速度で振り下ろす。

 バシャァァァァァン!と水面を激しく叩く様な音が体育館を満たし、ほぼ全員が呆気に取られて、呆然と眺めていた。

 

『浅野くんの話によると、過去にこれと同じ事をして本校舎を追放されてE組に落とされた生徒がいるとか。前例から合理的に考えると————E組行きですね、僕も』

 

 あまりにも突拍子のなさすぎる行動に凍り付いていた僕に向かってそんな風に語り、笑いかけると、彼はやりたいことはこれだけだと言いたげに、礼の一つも残すことなくスタスタ歩き出し、颯爽とステージ横に引っ込む。

 この頃になって、ようやく気を取り直すことに成功した僕はそのまま教師のもとに向かっていく竹林を追いかけ、肩を掴んだ。

 

「待てよ。救えないな、君は。せっかく強者になるチャンスを与えてやったのに」

 

「……強者?怖がっているだけの人に見えたけどね。君も、皆も。それじゃあね、短い間だったけど、戻って来た僕に話しかけてくれてありがとう、浅野くん」

 

 下がって来ていた眼鏡を押し上げながら、竹林は言葉を紡ぐと振り返る事なく歩き出す。

 

「……ッ!!」

 

 その立ち振る舞いに思わず歯噛みする。アイツの言葉に対して、僕や他の生徒がただ怖がっているという評価に対して咄嗟に反論することができなかった。

 

 自主的に教師の元に向かい、困惑する彼らに連れられて出て行く竹林の背中を呆然と見送る。

 

 端的に見れば否定しようのないくらいに弱者の癖に、この体育館の中は奴が作り出した異様な空気に呑まれている。この集会における支配者は理事長でも、僕でもなく、竹林だった。

 

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 E組の校舎裏のグラウンド。青空の下でいつもの様に暗殺に励んだ面々の前に烏間が立つ。

 その手には広辞苑並みの分厚さを持った本が一冊、その他、教科書の倍はありそうな本を数冊が積まれている。

 

「2学期からは暗殺にさまざまな新しい要素を組み込む。まず、その一つが火薬だ」

 

「か、火薬!?」

 

「そうだ。空気では出せない、そのパワーは暗殺の上で大きな魅力だ。しかし、かつて寺坂くんたちがやった様な危険な使用は絶対に厳禁とする」

 

 烏間の言葉にバツが悪そうな表情をする、寺坂、吉田、村松。しかし、その3人に向けられているのが怒りとか悪意ではなく、苦笑であるあたり、周りのメンバーも彼らがそんなことはもうしないだろうことを信じている証拠だろう。

 

「その為には、火薬の安全な取り扱いを一名に完璧に覚えてもらう。俺の許可とその一名の監督が火薬を使う時の条件だ。さぁ、誰か覚えてくれる者は?」

 

「(うっわぁ〜分厚………っ!)」

 

「(やだよ、あんな国家資格の勉強まで……)」

 

 半ば無茶振りとも取れる烏間の言葉にほぼ全員が苦笑しながらどうしたものかと考えだしたその時、すっと軽い荷物でも受け取るみたいに彼の手から書籍類を受け取る少年の手が伸びた。

 

「勉強の役には立たない知識ですが……まぁ、これもいずれどこかで役に立つかもね」

 

 言葉から仕方なさそうな雰囲気を取れるが、その声音は穏やか。嫌々やらされる仕方なさではなく、気が向いたしついでに寄り道するか。という軽やかなフットワークを感じさせる。

 烏間の手から教材を受け取った彼に対してクラスメイトたちが微笑みを浮かべ、烏間自身、件の人物を見て、嬉しそうに口元に微笑を浮かべながら挑発する様に言った。

 

「暗記できるか?竹林くん」

 

 その問いに竹林はフッと笑みを浮かべ、トレードマークの眼鏡を人差し指で押し上げながら答えた。

 

「えぇ。二期オープニングの替え歌にすればすぐですよ」

 

 まるでそれが自分の役目だと言いたげな雰囲気の彼には、以前の様な焦燥感も痛々しい程の必死さもない。

 悩みに対して自分なりの答えを出し、やりたい事を自分の自由で選んだ竹林はこの場の誰よりも穏やかに笑った。

 

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「…………」

 

 撤去される机と椅子を眺める。

 そこに座っていた奴は今頃どうしているだろう?あの山で仲間たちも楽しく笑いながら今日も殺意を研いでいるのだろうか。

 自分と似た境遇にいながら全く違う答えを出して見せた竹林。出て行こうとする彼の背中を押し、特に引き止めもしなかったのは何故だろう?などとしょうもない事を考える。

 

 俺は律にメリットを示して今回の計画を手伝わせようとしたが、じゃあ、俺にはなんのメリットがあってアイツのE組行きを率先して手伝ったのだろう?

 脳が引き起こしたバグによる自己矛盾に対して思わず考え込んでしまった。不思議なこともあるもんだ。

 

 まあ、しょうもないと分かっているのでそんな思考は早々に切り上げて授業とは名ばかりの自習に戻る。

 見下す様で悪いが、この授業は受ける価値を見出せない。ただ早口で捲し立てて、生徒の都合とかお構いなしに板書を消して行く、付いていけないものを振り落とす為だけの授業に魅力を見つけ出せと言う方が難儀というものだろうさ。

 

 正直な感想を言うのなら、こんな授業なら教師は要らない。ただ早口で捲し立てるだけならグーグルとかSiriとかに教科書を読み上げさせた方が何度も再生できるし、速さも調節出来て、好きなところで止められる分、比較するのが烏滸がましいレベルで遥かに後者の方が優秀だ。

 板書だってそう。おちおち写してられない。これなら教科書とか参考書を眺める方がよっぽど為になる。教科書類なら勝手に字が消えることもないし、振り返ろうとした時にいつでも好きなタイミングで振り返ることができるのだから。

 

 しかしまあ、新しいクラスメイトたちのことは認めざるを得ない。こんな授業に着いて行き、しっかりほぼ全員が総合50位以内に入れているのだから、流石A組と言うべきか。

 いや、もしかしたら授業はほぼ板書だけ写している状態で、後から塾とかでガッツリ復習とかしてるのかな。

 

 まあ、なんにせよ流石だ。生憎と俺にはこんなのに耐える忍耐力なんて持ち合わせてないので、今日も今日とでゾーンに入る。

 時間が止まったかの様な世界で教科書を見つめ直す。授業が終わるまでまだ30分以上あるし、今日も今年度の頭から復習するとしよう。各問題を解き直して、検算する時間くらいはある。

 

 ペンを握る。現実を置き去りに加速する思考が回転を始め、周囲の音も気配も途絶える。

 

「………っ」

 

 より深く集中した時、不意に視界が揺れた。世界から硬度が失われたみたいに目に見える全てが歪み、この目で捉える景色にホワイトアウトした世界がチラつく。

 それでも構わず集中の深度を上げるとホワイトアウトした世界はこの目が正常に捉える世界と混ざり合い、ノイズの様な、一昔前のテレビの砂嵐に色をつけたかの様な世界が出来上がる。

 

 頭の後ろがボーッとする。脳天から棒を通してる見たいな頭痛がする。自然と息があがる。身体が微熱を帯びるのを感じる。視界が霞む。関節が痛む。身体は熱いのに背中に悪寒が走る。揺れて霞む視界の忙しなさに吐き気を覚える。

 

 それでもペンを止めるわけには行かないので更に深度を上げると、ようやく異変は落ち着き、世界は見慣れたモノクロの漫画の様な景色に染まった。

 旅行から帰って来てからは深い深度でゾーンに入ろうとすると大体はこんな調子だ。想像以上に身体は疲労しているのかもしれない。集中する度に襲ってくる体調不良の代名詞のオンパレードに嫌気が差してくるが、仕方ない。

 

 ようやく掴んだ、父が見てくれている今を維持するには努力を重ねるしかない。健全な健康を失う程度は瑣末なこと。これまでの14年間の徒労を思えば、支払うだけで報われるかもしれない、お布施とか、目的の為の言わば必要経費だ。

 

 そう考えれば、この程度、惜しんではいられないだろう。

 

 他人にも、自分にも目を向けず、俺はひたすらに目的に向かってペンを動かし続けた。




あとがき

はい、あとがきです。

祝、竹林E組復帰!周りから見たら蜻蛉返りそのものなんでしょうが、帰るまでの間、悩み続けた彼にとっては長い時間だったかもしれませんね。

一方、圭一には再び明確な異変が現れ始めました……。
不休と痩せ我慢が得意な我らが主人公は今後どうなってしまうのか……!誰か強引にでも休ませてやって!

来週も見守ってやって下さい!

ご愛読ありがとうございます!
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