暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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それでは最後までお付き合いください……!


IFルート ハナコトバの時間 part7

 

 圭一は随分と神兵に気に入られたらしい。

 あのサバゲー以降、彼は時間を見つけては定期的に僕らの元を、より正確に言えば圭一の元を訪れる様になっていた。

 戦争好きを語って憚らない彼ではあるが、自分と単騎でほぼ互角に戦った中学生に興味を唆られたのだろう。

 

 漫画とかにありがちな『俺、もっと強い奴と戦いテェ!』って奴だと本人が僕にこっこそりと語ってくれた。

 まぁ、1人で無双するのも楽しいだろうが、たまには歯応えのあるライバルとタイマンでやり合うのも悪くないってことか。ホウジョウは僕が道場の場所を訪れるとかなり頻発に顔を出しては圭一と組み手をしている。

 

 あ、そうそう。流石に前回のサバゲーの様にオフ会感覚であうのならまだしも、結構頻繁に会うとなるといくら圭一といえど、いくら気に入られているといえど心配だったので、ホウジョウには僕の正体を明かしておいた。

 流石に冷や汗をかいて口の端をヒクヒクさせていたが、それは僕も同じ気持ちだった。あのサバゲーの日に顔を合わせた時は本当に態度に出さない様に気をつけるのに苦労したものだ。

 

『………K-oneは何者だ?私やキミの様な猛者と次々に出会い、気に入られるとはよほど数奇な星の元に生まれたらしい』

 

『まぁ、ギリ堅気の世界最強中学生かな』

 

『………………そうか』

 

 あ、理解を諦めたなコイツ。なんて思ったのは想像に新しい。今となっては圭一に戦闘技能を教えるのはホウジョウの役目になっている。彼が教えた技術を僕が更に応用する方法と共に伝授する。おかげで、僕の教え子ばこれまでと比べても更に比較にならないレベルで能力を高めて行った。

 

 正直に言えば教え子を盗られたようで寂しい気持ちはある。でも、正面から敵を叩き潰す為の神兵直伝の戦闘技能と、あくまで標的を殺り漏らさない為の僕の戦闘技能ではやはり、習熟と考え方が違う。考え方はいざとなれば僕が方向を示せばいいだけだし、戦闘関連ではホウジョウが教えた方が圭一の身になるのは考えるまでもなかった。

 

 そうして泣く泣く圭一の指導の一部を彼に任せてみると、案外、まとまった時間が確保できた。

 自分がこれまでどれだけあの子の指導に時間を割いていたのかを実感し、また寂しくなると共に、僕はこの空いた時間を今回の事件について調べることに使うことにした。

 

 出会った順番、僕を変えてくれた事への感謝、なにより弟の様で可愛いと思う。そんな僕自身の感情からどうしても圭一贔屓になりがちだけど、雪村さんも僕にとってはもう生徒の1人だ。

 直接的な指導自体はそこまでしていないけど、僕にとっては2番弟子のようなもの。空いた時間を今度は彼女に使った。

 

 と言っても、彼女自身の望みはチカラではない。むろん、圭一基準で最低限のチカラを身に付けて貰うし、彼女自身もその気があるみたいだけど、何よりも気になっているのは、あの『先生』が本当に雪村さんの姉を殺したのか、殺していないのか。その真相だろう。だから、そっちの調査をすることにした。

 

 とは言っても、もともと調査自体はしていた。

 『先生』がいつからあんな性格に豹変したのかは分からないけど、元々彼は別に殺戮者ではなかった。

 確かに死神と呼ばれた、千人以上を殺した大量殺人鬼ではある。それは僕も変わらない。だが、一緒に着いて回った仕事で彼がターゲット以外を殺したところを見たことがない。

 

 それこそ、一度の依頼で複数人を殺すのは、そういう依頼か紛争を終わらせて欲しいという抽象的すぎる依頼に対して両側の将官連中を殺し尽くした時くらいか。

 だから、まぁ、あの人がそんな無意味に大量に殺しを行うものなのか?いうのは前々から疑問だった。

 

 もちろん、前、圭一や雪村さんに正体を明かした時に説明した、『先生』が犯人ではない可能性の方が高い。

 それでもまだ核心には触れられていないらしい2人の背中を押すためにも、この根拠を深める為の調査は無意味ではないだろう。あの人が、武装した警備員を殺すくらいならまだしも、人畜無害なほぼ一般の女性を無意味に殺すと、いまの僕が思いたくなかっただけなのかもしれないけど。

 

 そうと決まれば行動は早かった。

 雪村あぐりの容姿は以前、雪村さんが見せてくれた写真で知っていた。圭一と彼女を励ますために、どんな人だったのかを聞いたことがあった。その時の経験がここで生きた。

 

 容姿は整っている。でも、雪村さんに似てるかと言われると首を傾げる。だが、黒髪と写真で並ぶ2人の笑い方には似た雰囲気を感じた。あと写真から得られる印象としては、着ているシャツが何かものすごくダサいという点だ。

 そう言えば、以前に圭一が『腹八分目』なんて文字と8割くらい埋まった胃のデフォルメされた絵がプリントされたシャツを着ていたことがあったっけ。たしか、あれも雪村先生のプレゼントとか言ってたな。

 

 となると、あのダサいシャツは彼女のセンスか。

 とうに成人を過ぎた女性が親の買ってきた服を着るとは思えないし、なにより、彼女らの母親は既に亡くなっていると聞いた。1着だけなら友人からの贈り物という線もあるが、本人が着てるのと、圭一へのプレゼントを鑑みるに、彼女が自分で選んで買っているのだろう。

 なら、彼女がそういう服を買っていた店が何処かにあるはずだ。自分で作ってプリンてるとかではないのなら。

 

 まずは雪村先生がどんな人物なのかを更に深掘りする。

 本当に僕の教え子たちの思う様な一般の女性だったのか。行動の履歴を追いかけ、プロファイリングすれば、辿り着ける。

 既に亡くなった人をストーカーするようで気が引けるが、これもれっきとした調査の基本だし、何より教え子のためだ。

 

 だから、一旦ネットサーフィンの時間だ。

 彼女のダサいシャツの特徴を単語で検索、出てきた画像から以前見た写真と圭一が着ていたシャツと同じものを探し、見つけたらどういう店が取り扱っているのかを調べる。あれだけ特徴的な服は同じブランドが作ってる可能性が高い。

 

 んで、見つけた。2人が着てるシャツのブランドのサイト。見た感じ、やはり同じところが作っている。

 どうやら、他にも特徴的な衣服に装飾品も作っているらしい。一見するとダサいが、それでも特定のマニアには需要があるようだ。なんとなく、情報収集も兼ねて製品の一覧を見ていると、なぜか見覚えがある気がするネクタイを見つけた。

 

 無駄に大きい特徴的な真っ黒なネクタイの大剣。これ、どこかで見たことがある様な気がする。

 

 こういう気づきは重要だ。なにせ、探しているのは身近な人間に関わりのある人物だ。違和感の答えは日常の中に必ずヒントがある。僕はそのネクタイについてメモを残し、今度はこのブランドの取り扱い店舗を探す。

 椚ヶ丘には……あるじゃないか、一店舗。なら、ここの監視カメラとログをハッキングすれば何か分かるかもしれない。

 

 そういうログや記録はどこかしらのサーバーに保管されているものだ。なら、使用されてる端末が接続されてるネットワークを遡っていけば辿り着けるだろう。

 一個一個、あり得る可能性を潰し、消し込み、自分が探しているものへの道を確定させて行く。

 

 雪村あぐりは教師であり、加えて婚約者の運営する研究所でも働かされていたらしい。となると、平日に買い物に行くのはまず不可能だと考えていいだろう。

 彼女が亡くなったのは平日、3月12日。ということは、店を訪れる可能性があるのはその一個前の休日だろう。

 

 そこまで割り出せたのなら、後は感情論と理屈の合わせ技だ。教師は土日であっても仕事がある場合もある。そうでなくても研究所の手伝いがあるのだから、恐らく現れるとしたら……抜け出しやすい昼時か、あるいはようやく解放されるであろう、閉店間際か。そのどちらかだろう。

 

 僕は当たりを付けて監視カメラの映像を覗いた。

 倍速で画面を眺めること数時間。映像の中にようやく見覚えがある人物が現れた。誰あろう、圭一である。

 

「おまえかーい!!」

 

 え、なに、何やってるのあの子!?

 店に入って〜?中を眺めて〜?その辺の服を手に持って〜?うわっダッサ!?みたいな反応をして〜?雪村先生好きそうだなぁーみたいな呆れ顔をして〜?店を出た……!!

 

 画面の中に現れた予想外の人物に首を傾げながら思わずツッコミを入れつつ、映像の続きには再び見覚えのある人物が現れた。誰あろう、雪村さん(妹)である。

 

 あれ?圭一いまこの店を覗いてた〜?店を出た圭一の背中と店の中を見比べて〜店に入って〜?うわっダッサ!?みたい反応をして〜?でもお姉ちゃん好きそう、圭一も実は好きなのかな?みたいに微笑んで〜?店を出た………!!

 

 いや、5、6ヶ所突っ込ませて欲しい。

 なんでわざわざ休日の日に2人バラバラで同じ店に行く!?デートしなよ若者同士で……!!なんで微妙なタイムラグがあるのかなぁ!?圭一も気付きなよ!?店出たタイミングで気付けるだろう、キミなら……!!?雪村さんも声掛ければいいのに!もしかしてストーキングでもしてた!?

 

 んで……出て行った雪村さんの背中を見送る様に今度は……目的の人物が現れた。今度こそ、雪村先生である。

 

 圭一と雪村さんが去って行った方向を見て意味深に頷いて〜?顎に手を当てたあと、『仕方ない、お姉ちゃんが一肌脱ぎましょう!』みたいに店に入って〜?腹八分目Tシャツを手に取って〜?しかも2枚。片方は小さめで、もう片方は少し大きめの奴を取って〜?『あ、乃咲くんはまだ成長期だし、あと2回りくらい大きい方がいいかな?』みたいな気遣いを見せて〜?あ、監視カメラから消えた。

 

 いや、なんでだよ。別にその妹と教え子のカップルに世話を焼きたくなる気持ちは分かるよ。でもツッコミたいのはそこじゃないんだよ。この3人、まさか後ろに誰かいるのに気付かずずっと直列に並んで歩いてた?何処の誰にジェットストリームアタック仕掛けようとしてるのかな、この人たちは!?

 

 ツッコミを胸にはめること数分。画面の中では10分は経過しただろうか。一応、レジで待ち構えていたけど、雪村先生は現れない。もしかしてまだ別の所で服でもみてるのかと映像を切り替えるけど、雪村先生は見つからない。首を傾げながらレジにカメラを戻すと、会計中らしい彼女の姿があった。どうやら入れ違いになったらしい。

 少し様子を見守っていると、どうやら買ったものにプレゼント用の包装をしてもらってるようで、ブランド物らしい紙袋には3つの包装済みの品物が入れられていた。

 

 ………まて、3つ?圭一と雪村さんと……あとは誰だ?

 間違いなく腹八分目のシャツではない。プレゼント用の包装をしてるあたり、自分用でもないだろう。それに、ほかの二つに比べると2回りくらい包装が小さい様な気がする。

 

 映像を巻き戻しながら、映像を切り替える。

 かち、かち、とクリックする音が部屋に響く中で僕は、さっきのホームページで覚えた違和感の正体、その片鱗を掴んだ。

 ネクタイ売り場で顎に手を当てながら考え込む様に品物を吟味する彼女の姿があり、熟考の末に手に取ったネクタイ。それはさっき僕が既視感を覚えたネクタイと同じ物様だったからだ。

 

 ネクタイ?なんで?いや、プレゼントとしてネクタイを贈るというのは不自然なことではない。ただ、腑に落ちないのは、そのネクタイを何処で見たのかがいまいち掴めないからだ。

 僕と彼女に直接の接点はない。この街に溶け込むために色んな人と出会って関わってはいるが、その中にもあれだけ奇抜なネクタイをした奴はいなかった。しかも、人間の記憶のメカニズム的に記憶に残るというのは、それだけ強い印象があるか、あるいは何度も見て見慣れているかのどっちかだ。

 

 この街に来て、強い印象を受けた人物。

 それは、かなり数が絞られる。特に圭一、雪村さん、そして『先生』とホウジョウが該当するだろうか。

 

 だが、圭一たちがそんなネクタイをつけていたような覚えはない。ホウジョウもネクタイはしていなかった。

 となると……『先生』か。そうだ、考えてみれば、殺せんせーのあの巨体で目立ってなかったが、彼の付けてるネクタイ、特徴は雪村先生が買っていたものに一致する。

 もっとも、カタログにも買ってる映像にも、三日月の刺繍はないっていないが、あの人ならそれくらい追加するのは訳ないだろう。なにより…………。

 

 もし、雪村先生がネクタイを贈った相手が彼ならば、状況証拠的にも矛盾はない。『先生』は例の施設で実験体だった、雪村先生はそこの手伝いをしていた。接点として無理はない。

 

 以前、雪村先生が亡くなったばかりの頃。雪村さんがE組に潜入する前のこと、たしか圭一がこんなことを言っていた。

 3年E組の担任である雪村先生が亡くなったあと、自ら彼女が持っていたクラスを受け持つことを望んでいるのだから、間違いなく何かしらの繋がりがあるはずだ、と。

 

 それが間違いないことがほぼ確定した。

 雪村さんにこの映像とネクタイを見せてあげれば、『先生』がお姉さんを意図的に殺した可能性を低く見積もることができて、気が少しは楽になるかもしれない。

 

 むろん、"あの"先生のことだ。雪村先生を何かしらの利用価値のある道具としてみていた可能性も僕には考えられるけど、でも、この前話した感じでは、そんな思考を持っている印象は、本性を知ってる僕ですら抱けなかった。

 もしも、本当に彼が変わったのなら、雪村先生の一件は事故であると断言することだってできるかもしれない。

 

 だが、それもあくまで憶測だ。"かもしれない"では納得できないことだってあるだろう。それが身内の死なら尚更。

 本当に雪村さんから復讐という考えを完全に拭い去ることを目的とするのなら、決定的な証拠が必要になる。

 

 彼女自身、復讐に囚われてる感じはない。だが、喉に引っ掛かりはあるだろう。それを取り除いてあげることが、僕から彼女にしてあげられる指導なんじゃないのかな。

 なにも教えて道を示すことだけが教育ではない。指差して導くと書いて指導と読む様に、真実へ向かわせてあげること。それが殺し屋だと知っても態度を変えずに圭一と僕と過ごしてくれた雪村さんへ僕からしてあげられる数少ないことだろうから。

 

 そうと決まればやることは手っ取り早い。あの研究所で使われていたネットワークを調べる。今だに触手について研究が行われている以上、何かしらのデータはネットワークに沈んでいるはずだ。

 万が一に備えて当然、USBか何かにバックアップをとっているだろうが、それでもあの緊急事態だ。紙媒体で保存していても駄目になってる可能性もあるし、冷静にデータを抜き取ってどうこうとかやれる人間はそういない。まして、人が死んでるし、超生物が暴走している現場なのだから、尚更。

 

 ともなれば、絶対にあの研究所からデータを飛ばし、それを受信している回線があるはずだ。

 そういう場合、大体はサーバーごとバックアップがあるものだ。となると、探すべきはデータを追ったであろうネットワーク。探すのは簡単だ。あの事件の後、触手の研究を引き継いだ施設は片手間に調べていた。

 

 そこを探れば、見つけることが出来るだろう。

 何せ、地球を破壊するかもしれない生物が人を殺す瞬間すら監視カメラには残っている可能性が高い。あの日見た、死神にのみ出来るであろう殺しの痕跡は間違いなく先生の仕業だろうし。

 

 超生物化した伝説の殺し屋の力の一端を記録した映像。そんなものを廃棄する訳がない。地球が滅ぶかもしれないというのだから、戦力分析の必要性を考えるのなら尚更、触手の力を破壊に向けた際の監視カメラの映像は必須の資料だ。

 確実にサルベージされているだろう。必要な瞬間を切り取って分析用の資料にしてる可能性もあるが、それでも原本を削除する様な奴は想像を絶する無能くらいだろうし、そんな奴があんな国際規模の研究所にいる訳がない。

 仮に削除されていても、手を尽くせば復元できる可能性は大いにある。なせ、僕はよろずを極めた死神だ。

 

 探す。毎日、何時間もモニターと向き合い、キーボードを叩き、途中で流石に非効率だと気付いたので、映像ファイルのみを引っ張ってくるAIを組んで補佐させたことで効率は格段に良くなった。効率化は大事だね。

 うん、初めからこうするべきだったかな。2日も経てば、目的のサーバーから映像ファイルをあらかた抜き終わった。流石に削除されたファイルも復元しながらだと時間が掛かった。

 

「…………ビンゴ」

 

 そして見つけた。目的のファイル。3月12日に起こった事件の一部始終を記録した映像。

 これは見る範囲をかなり限定できる。恐らくカメラに映っているのは、あの事件で研究所が崩壊するまでの記録。なら、僕が探している瞬間は記録映像の最後の方を見れば手っ取り早く見つけられるだろう。

 

 とりあえず適当に目についた映像を再生させ、目星を付けた辺りにシークバーを動かしてやると、研究所内でアラートが鳴っているのか、何処かの一室を写した映像は赤い照明が明滅していた。うん、これならあの日に何が起きたのかは直ぐに見つけられるだろう。

 30秒ごとのコマ送りで映像を進めていると、白衣を着た科学者と十数名の武装した警備員らしき連中が部屋に入って来て、自分たちとは反対方向の扉に銃を向けていた。

 

 数秒後、それは突然現れた。

 銃を向けていた方の扉を壁ごとぶち破り、まるで散歩でもするみたいにあるく、白い触手で覆われた生き物が。

 それは悠々と部屋に入り、我が物顔で研究者たちに向かって歩み寄るが、数歩、進んだ所で彼の入ってきた方向の斜め下辺りから途轍もないスピードで飛び出してきた何かに貫かれ、血を吐いた。体とは対照的な真っ赤な血を。

 

 でも、ここで彼の心配をしても仕方ない。なにせ、この現場を生き残った彼と僕は出会っているのだから。

 それより、今飛び出してきたものはなんだろう?ちょっとだけ巻き戻して、スローに切り替えて映った何かを確認する。

 

 ……それは、あの日に僕と圭一が見つけた、物と酷似していた。映像から察するに、触手を人感センサーにくっつけた地雷。目にも止まらない速度のそれは、到底人間に反応できる代物ではない。現に、彼のことすら貫いたのだから。

 そして間違いない。これだ。僕がみた現場の状況もこの映像の触手地雷が現場にあったことを前提にすれば説明がつく。

 雪村先生がいたであろう立ち位置からみた出血痕、話で聞いていた雪村先生の傷の位置、あの機械に繋がった干からびたタコの脚みたいな触手、そして圭一が証言していた『化け物には返り血の類はなかった』という言葉、

 

 合致する。あの日の現場と証言と見た物品と。

 僕の中では、状況証拠的に彼が雪村先生を殺した訳ではないことが確定した。彼が殺したのなら、色々と杜撰な点も多すぎたし、これは間違い無いだろう。

 

 見た所、『先生』はかなり油断というか慢心していた。

 そうでなければ、超生物になって間もないとしても、あの完璧超人だったあの人がモロに死角の超速度の攻撃とはいえ、無防備に食らうことは考えにくい。

 

 ここらで真実を導き出すのなら。

 

 雪村先生と『先生』はこの施設で仲を深めていたのだろう。絆を育んだと言ってもいいのかもしれない。

 そんなおり、彼が超生物への変異を遂げた。それを見た研究所の職員たちは月が爆発したこともあり、始末を試みた。

 だが、悉く攻撃は失敗し、研究所は見るも無惨に破壊された。そんな廃墟同然となった施設で彼は油断したのだろう。

 まだ生き残っていた触手地雷が居合わせた雪村先生に反応し、発射。油断していた『先生』はそれを助けることが出来なかった。油断があったのもそうだが、彼は自らの能力を僕と同じで誰かを救うために〜とは考えもしなかった人種だから。

 

 皮肉な話しだと思った。

 殺し屋にとっての最大のミスは人を殺せないこと。だって、それは依頼が失敗するのと同義なのだから。

 そんな殺し屋の頂点に立っていた男が、ミスで人を死なせてしまった。よろずを知り、医学ですら極めていたのに。死なせたくなかったであろう相手を救えなかった。それが、なぜだか、僕も言葉で言い表せないほどにやるせなく感じた。

 

 そして、きっと雪村先生の今際の際。託されたのだろう。彼女が受け持っていた椚ヶ丘中学校の3-Eを。おそらくは、あのネクタイもその時に受け取ったのかもしれない。

 そして、そんな場面に後から現れたのが僕の教え子2人だった。ぱっと見では『先生』が殺した様に見えるだろう。真実と現場を知らなければ誰でもそう想像するに違いないだろう。

 

「………先生」

 

 思わず口からこぼれたその声はなんなのか。

 僕が彼で、雪村先生の立ち位置に圭一が居たら、雪村さんがいたら?そんなことになったら、僕は耐えられないかもしれない。自らの無力さと無能さを嘆くことだろう。

 

 たどり着いた真実は、残酷で。

 僕が憧れ、崇拝した『先生』のことを1人の人間として見ることが出来たきっかけになってしまった。

 

 

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