暗殺教室 不良児は認められたい   作:ZWAARD

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誤字、誤字、誤字誤字誤字誤字ゴジゴジゴジゴジゴジゴゴゴゴゴゴゴ。
減らぬ、誤字が減らぬ………!

_:(´ཀ`」 ∠):


74話 吐露の時間 2時間目

 

 保健室は静まり返っていた。怒りに身を震わせ、息を荒くする磯貝を除いた面子は俺を含めて呆気に取られていた。

 さっき、倉橋さんにらしくないと言ったが、今の磯貝の方がよっぽどらしくないと思う。

 名前を呼ばれたと思ったら、言葉よりも先に拳が飛んで来た。そんな予想外の状況に思わず動揺を隠しきれなかった。

 

 コイツが心配してくれてるのは分かった。だからって急に殴ることはないだろう、と一言物申したい気持ちはあるが、とりあえず謝っておこう。このままだと、また拳が来そうだ。

 一言謝れば、磯貝も冷静になってくれるさ。そしたらもう一度、話し合おう。事を荒立てない為にも頭を下げるのは大事だ。

 

「悪かった。もうこんな事にならない様に今後は適度に休むよ。心配をかけてしまった様ですまなかった」

 

「お前、謝って事態を収拾しようとしてるだろ。心の底からそう思ってる訳じゃないだろ。見れば分かるぞ」

 

「……………」

 

 磯貝の奴が妙に鋭い。別に普段が鈍いとかそんな事を思ってるつもりはないが、磯貝の絶対に逃がさないぞ、と言外に語る視線はかつてないほど剣呑だった。

 

「もうこんな事はやめろよ、お前が倒れたって誰も喜ばない。みんなが悲しい思いをするだけだぞ」

 

「……俺は自分の目的の為に動いてるだけだ。その為に努力することは何も間違ってないだろ」

 

「じゃあ、お前のやりたい事ってのは、こうやってみんなに心配かけることか?倉橋を泣かせることなのか?」

 

「んなこと言ってねぇだろ」

 

 磯貝の言葉にトゲを感じて、ムッとする。

 自分の目的の為に努力するなんてのは当然のことだ。この教室にいる奴だって、みんな殺せんせーを殺す為に努力してる筈だ。

 みんなに心配かけたことは申し訳なく思ってる。でも、努力を心配されてしまったら、誰も何も出来なくなる。なのに、なんでこんな風に言われなきゃならないんだ?

 

「んじゃあ、言ってみろよ、お前の言葉で。お前は何がしたいんだ?何の為にそんなになるまで努力する?」

 

「言った筈だ。父に認められたい、向き合いたい。あの人を見ることを他人を見るって行為の第一歩にすると」

 

「本当にそんなこと出来ると本気で思ってんのか」

 

「………何が言いたい」

 

「今、出来てないことが親父さんに認められたからってポンと出来るようになるって本当に思ってんのかって聞いてんだよ。お前は"見てる"わけじゃない。お前のそれは"気にしている"だけだ。そんな奴にお前のその理想が実現できるのかよ?」

 

「…………」

 

 言葉を失った。肯定も応援も期待してなかった。でも、否定されるのはますます予想外だった。

 言葉を失い、沈黙した俺に磯貝は畳み掛ける様に口を開いては、現実を突き付ける様に言葉を紡いだ。

 

「出来るってんなら、今やれよ。親父さんに認められる為だとか、向き合う為だとか御託を並べる前に、今、目の前にいる奴を見ろよ。みんながどんな顔をしてるのか、お前が倒れてどんな思いでいるのか、まずはそれを見てみろッ!」

 

 磯貝の言葉で視線をみんなに向ける。

 倉橋さんは今にも泣きそうだった。渚は鎮痛な面持ちだった。片岡は心配そうだった。前原の顔にはいつもの明るさはなかった。カルマの顔にもいつものニヤけ面はない。

 この場にいる誰もが一切、笑っていない。烏間先生、ビッチ先生、殺せんせーですらも同じだった。

 

「これが自分のことも、周りのことも顧みないでがむしゃらに進んだ結果だっ!これがお前の言う『見る』ことに繋がるのかよ、こんなんで、お前の言ってることが実現できるって、本気でそう言ってるのかよ、圭一ッッッ!!」

 

 また殴って来そうな勢いで磯貝が怒鳴る。

 正直、身が竦んだ。普段優しい奴がこんな風に怒るのが意外だった。そして、少しだけ怖かった。

 これまで、俺のことをこんな風に咎める奴はいなかった。怒鳴って叱られる経験は殆どなかったから。

 

「そんなに認められることが大事か、認められることの何がそんなに大事なんだッッッ!!!?」

 

「————知った様な口を叩くなッッッッ!!!!」

 

 竦んでいた。正直、そのまま黙りこくって磯貝が落ち着くまで耐えようかと思った。でも、次の言葉を聞いた時、頭の中が真っ白になり、気付けば怒鳴り返していた。

 最近は減ったが、怒鳴るのは初めてではない。不良だった頃、喧嘩相手に散々怒鳴ったし、父さんにも怒鳴ったこともある。だが、そのどの瞬間よりも怒気を孕んだ声が溢れていた。

 

 初めて向けた敵意に近い感情から爆発した怒声はクラスメイトたちの肩をビクリと震わせたが、それでも俺は止まらなかった。

 

「親とか周りに褒められて、認められて育った奴が知った風な口を利くなよ、磯貝ッ!心の底から誰かに認められたいって思ったことも、本気で認められる為の努力もしたことがない奴が講釈垂れてるんじゃないぞッッッッ!」

 

 頭の中が真っ白になる。視界が歪む。思考が回らない。思った言葉が垂れ流される様に口から出る。

 八つ当たりする様に、半ば半狂乱になりながら。誰にも見せたことのない部分が晒されてゆく。

 

「テメェに何が分かるんだ?14年、何をしても見向きもしなかった相手がようやく、やっと、こっちを向いたんだぞ、やっと見てもらえる、やっと正面から互いを見れる。そのチャンスを逃したくなくて努力することの何が悪い!?認められたいって、褒められたいって願うことの何が間違ってるんだ!!?お前にコレの何が分かるってんだよ、磯貝!」

 

「分からねぇよ、お前は誰にも何も言わなかっただろッ!周りを頼らず、自分だけで背負い込んで、独り善がりで突っ走って!誰もお前を認めてないって思ってんのか、お前だって色んな奴に認められて来ただろうに!」

 

「本当に俺のことを認めてくれる奴がこれまでの人生で出会った何百人の中にどれだけいたよ?どいつもこいつも、認めてるのは俺じゃなくて俺の父さんだろうがッッッ!」

 

 止まらない。ダムが決壊する様に、長年溜め続けていた恨み節が口から溢れ出して止まらない。

 気持ちが悪い。今まで押さえ込んでいたモノが抑制を失い、抑えていた反動が口という出口を目指して胸中でグルグルと周り続ける。どうしたら良いか、分からない。もともと気分が悪かったことも相まってますます気持ち悪い。

 

「なんかある度に父さんと比べられた。この教室で殺せんせーと烏間先生に出会うまで、俺と目を合わせて、俺自身を見てくれる奴なんて居なかった……ッ!『流石、乃咲先生のお子さんね』って。その言葉のどこが俺を認めてるってんだよっ!?」

 

「認められてるだろっ、お前のことをすごい奴だと思ってるから、親父さんのことを引き合いに出したんじゃないのか!?」

 

「だからお前らには分からないって言ってんだ!俺だって最初はそう思ってたさ、でも、知恵を付ける度に『お前が凄いのは優秀な父親のお陰なんだぞ』ってしか聞こえなくなったんだよ!お前には分からないだろ!?優秀な父と比べられる窮屈さも、あの人の子供なら出来て当然みたいに言われる重荷も!」

 

「ッッッ…………!」

 

 俺の言葉に磯貝は黙った。クラスメイトの大半は俯いた。俺と目を合わせようとしたのは瞳一杯に涙を溜めた倉橋さんと、人一倍暗い表情をしながらも誰よりも神妙な面持ちをしていた竹林だけだった様に思う。

 ただ、そんなみんなの変化にも俺は気付かなかった。気付けなかった。濁流の様に口からは言葉が吐き出され続けていた。

 

「だから頑張ったんだ。天才の子供の癖にこんなのも分からないのか、ってもう2度と馬鹿にされない様に、父ではなく、俺を見てもらえる様に!でも、どいつもコイツも『乃咲新一の子供だから出来て当然』って反応しかしなかった!誰も俺自身の努力を見ようともせずに親に貰った才能のお陰って一言で片付けたッ!ふざけんなって話だ、結果を出したのも、その為に努力したのも、全部、全部ッッ!俺だろうがッッッ!!」

 

「だからって、周りのことも、自分の事すら顧みずにそんなにボロボロになるまで無理を続ける理由にはならないだろッ!?」

 

「なるさ、それもこれも、全部父さんに認められたかったからだ。周りに認められればあの人だって俺を見てくれる。そう思ったからだ!その当人がやっとこっちを見たんだ。やっと二言以上で会話をしてくれたんだ、やっと、頑張りを認めてくれたんだ。これ以上に頑張る理由があるかよ!!?」

 

「そんなことになる前に、もっと頑張るべきところがあったんじゃないのか!!親父さんに見て欲しかったのなら、初めからそういえば良かったんじゃないのか!?初めからそうしてれば、そんな痛々しい頑張り方をしなくても済んだろ、何度も倒れることもなかったんじゃないのかッッ!!?」

 

「出来るわけがないだろっ、そんなこと!」

 

「何でだよ!?親と話すだけだろ?もっと自分を見てくれってさ、それの何が難しんだよ!?」

 

「難しい、簡単の問題じゃねぇんだよッ!お前なら分かるだろ、磯貝ッ!俺と同じ片親のお前なら!!」

 

 磯貝が再び停止した。バツの悪そうな表情で口を開けて、閉じて、もう一度だけ開こうとしたが、出来なかったらしい。

 それでも俺は畳み掛けた。もはや、俺の口は自分の意思では動いてなかった。ひたすらに色んな言葉を叩き付けていた。

 

「片親がいない、それでも俺を育てようとしてるって事くらい分かってるさ、知ってるさ、理解しようと努力もした。その苦労も察した。赤ん坊が生まれると同時に妻を亡くした、それでも俺を育てる為に働き続けた。不自由させない様に家政婦まで付けて、金を掛けて、だから家に中々帰って来れないんだってことくらい、小1の頃に気付いてたさ!そんな状況でもっと僕を見てくれ、褒めてくれ、そんな我儘を言えるわけがないだろ!?」

 

 嘔吐する様に言葉を並べ続けた。

 今までこんなことは……いや、あったか。我慢できなくなって、遂に父さんに怒鳴ったあの日もこんな感じだった。

 教師を殴ったときも、思い返せばこんな感じだった気がする。口を動かしたか、手を動かしたか、その違いだ。

 

 たぶん、今、体を動かせたのなら、俺は間違いなく磯貝に掴みかかっていただろう。

 

「それでも……!言わなきゃ伝わらないことだってあるだろ……ッ!お前はお前で、親父さんは親父さんなんだぞ。忙しい親に甘える訳にはいかないって、その気持ちは分かるッ、でもっ!お前がそんな風に倒れることなんて誰も望まないだろ!」

 

「けど、財力もない、責任だって自分で取れないガキの俺らに出来ることなんて努力することしかないだろう!!?」

 

「だったら、なんで倒れるまで努力する!?お前が言ったんだぞ、自分で責任取れないガキだって。認められる為に努力を続けてお前が倒れた時、その責任が行くのは親父さんなんじゃないのか!?第一、親父さんが忙しいのはお前を育てる為だって、自覚してるんだろ?そのお前が倒れて、親父さんがどう思うのか、考えたことあるのかよ、圭一!」

 

 今度は、俺が言葉を失う番だった。

 頭が痛い、もともと体調最悪な上に叫んで、怒鳴って、感情を燃やしたからか、息が乱れている。

 耳鳴りが酷い、目の前がホワイトアウトしそうになる、体が支えられなくて、倒れそうになる。

 

「倒れるまで頑張るなんて、誰も望んでないよ、圭一。お前が倒れたら、みんな怖くて、悲しい思いをするだけなんだよ」

 

「…………でも、俺には努力するしか出来ないだろ……」

 

 自分の言葉が弱々しくなるのを感じる。冷や水をぶっかけられた様に昂っていた意識が急激に冷めてゆき、怒鳴りながら、叫びながら辛うじて保っていた意識が遠くなっていく。

 

「俺は、どうすれば良かったんだよ………。認められるように、バカにされないように出来ることをやり続けた。俺1人で出来ることはほぼやった。これ以上に何をやればよかったんだよ……」

 

「分からない。答えはすぐには出せない。でも、だからこそ、俺も倉橋も竹林も、みんなも、相談して欲しかった。明確にこうしておけば良かったなんて言えないけど、一つだけ言えることがあるなら、お前は周りを頼って良かったんだよ、圭一」

 

 意識の途切れる寸前、呟いた言葉に磯貝が答える。

 

「頼られて、嫌だって言う奴も、自分1人で解決できなくて馬鹿にする奴も、この教室にはいないんだからさ」

 

 磯貝の諭すような言葉が聞こえる。

 

「……………そうか」

 

 最後に出たその単語がどんな意味だったのか、分からない。みんなを頼れば良かったと言う悔恨なのか、初めから自分1人ではどうにもならなかったという諦観なのか、それとも昔から聞き続けた父の言葉を意味もなく呟いただけなのか。

 その答えに至る前に俺の意識は再び暗闇の中に消えた。

 

⬛︎

 

⬜︎

 

⬛︎

 

 最後に『そうか』と呟き、圭一の体から力が抜けた。

 前のめりになる体を殺せんせーの触手が受け止めると、そのまま寝かせ直して、掛け布団を掛け直す。

 

「…………圭ちゃん。あんなこと考えてたんだね」

 

「……えぇ。彼のコンプレックスは相当なものだった様です。よっぽど小さい頃から気を張って生きて来たのでしょう」

 

 殺せんせーが呟きながら、救急箱に触手を伸ばして、俺が殴って真っ赤に腫れている頬を治療し始めた。

 しばらく呆然とその様子を眺めて、俺も落ち着いた頃、殺せんせーが触手をこっちに向けながら言った。

 

「磯貝くん。キミも手を出しなさい。人を殴ることに慣れてないでしょう、腫れていますよ」

 

「………良いんです。このままで。こんなつもりじゃなかった。それに圭一だって痛かっただろうし」

 

 殴った拳が痛い。確かに腫れている。でも、殴られた圭一の頬はもっと痛々しく腫れていた。

 ほとんど衝動的に殴ってしまった。彼の言葉があまりにも周りを見ていない様に感じて、自分のことも、周りのことも、見てないのが頭に来て、気が付いたら拳を振り下ろしていた。

 

「……そうですね。確かに暴力はいけません。まして、弱って倒れてしまった相手を殴るなどあってはなりません。ですが、乃咲くんにはコレも必要なことだったと先生は思います。彼は決して周りを見ていないわけではない。ただ、周りが自分をどんな風に見ているのか、そこに目を向けられていないだけです」

 

 殺せんせーの触手が圭一の頭を撫でた。

 

「小さい頃から根付いてしまった、いわば自分自身への偏見。自分はこう見られているからこうしないと。そんな半ば強迫観念に近い思い込み、そして、そんな状態に拍車をかける様な周りの言動が彼の中の価値観を歪めてしまった」

 

「天才の子供の癖にこんなのも分からないのか、ね。もしも、僕が彼と同じ立場で同じことを言われたのなら、同じことをしたと思う。馬鹿にされない様に、必死に頑張るだろうね」

 

「竹林……」

 

 眼鏡を押し上げてそんなことを言う竹林はきっと、今、誰よりも圭一のことを理解出来る立ち位置にいるのだろう。

 

「小さな頃に言われた言葉は案外、ずっと胸のうちに残り続けるものです。親の口癖なんかが子供に写るのはその典型。それを言った相手に悪気がなかったとしても。その言葉が彼の中に残り続けてしまった。彼が無意識に周りを頼らず抱え込んでしまうのはそう言う、ある種のトラウマが原因だったんでしょうね」

 

「………圭一」

 

「でもね、磯貝くん。今回の件、悪い事ばかりではありません。彼の限界を見切ることができなかったこと。それは先生が何より反省するところですがね、それでも収穫はあったと思います」

 

「収穫って、何が……?乃咲、また倒れちゃったんだよ?」

 

「倒れてしまったことは事実です。でもね、渚くん。キミはあそこまで感情を剥き出しにして声を荒げる乃咲くんを見たことがありますか?」

 

「……ない、と思う」

 

「……俺もないね。不良やってる時も、普久間島の鷹岡の時も声を荒げてたけど、あの時は明らかに違ってたと思う」

 

「その通りです、カルマくん。あの時の計算ありきの声ではない。弱り、動揺し、現実を突き付けられた事で生じた、彼の精神の揺らぎ。そこから出たあの叫びは、乃咲くんが抱え、誰に話すこともなく飲み込み続けて来た肉声です。それを聴くことができた。そして、磯貝くんがその声を正面から受け止め、言葉を返してくれたことこそが何よりの収穫なのです」

 

「……ぁ」

 

 倉橋が声を上げた。か細く、何かに気付いた様に。

 

「ようやく……圭ちゃんが本音を話してくれた……」

 

「気付きましたね、倉橋さん。今までの彼の言葉に嘘はなかった。けれどそれは本音とは違う。自分のことを話す時、何処か曖昧に、全てを語ることをしなかった彼と本音をぶつけ合った。乃咲くんが"見せてくれた"。そして、我々は"見た"。互いを認め合い、理解する上では大きな進歩でしょう?」

 

 殺せんせーの言葉に納得した。

 今まで、圭一と俺たちの間には、偶にしか気にならない程度の壁があった様に思うのは俺だけじゃないだろう。

 

 圭一は、遊びに誘えば着いてくるけど、自分から何処かに誘って来るようなタイプではなかった。

 圭一は、相談をすれば聞いてくれるけど、自分の悩みを積極的に話して来るようなタイプではなかった。

 

 3年生に上がったばかりの頃に比べるとコミュ力も高くなったし、色んな奴に好かれる様になった。

 でも、やっぱり、ふとした瞬間に壁の様なものを感じていたのは確かだった。他人行儀な訳じゃない。でも、基本的に踏み込んで来ないし、踏み込ませてもくれない。

 

 ただ、今回、圭一は本音を吐露した。誰にも聞かせず抱えていたものを見せてくれた。

 ようやく、本音で対等に話すことが出来た。そんな気がする。

 

「……でも、それはそれとして、殴ったことは後でしっかり謝っとかないとな………。流石にやりすぎた」

 

「だなぁ……。磯貝があんなキレ方するの初めて見たし」

 

「ヌルフフフフ、意見の食い違いから来る喧嘩、大いに結構です。君たちはまだまだ若い。それも子供だ。そうやって意見を伝え合って、自分を知ってもらい、相手を理解する。それを繰り返して大人になっていけば良い」

 

 前原の茶化しに殺せんせーは満足そうに頷き、立ち上がると、ヌルヌルと音を立てて窓際まで移動した。

 

「律さん、さっきのデータは取れてますね?」

 

『はい!バッチリです、隠し撮りする様で乃咲さんには申し訳ない気持ちで一杯ですが……』

 

「それで責められるとしたら、それは先生です。キミは私の指示に従ったにすぎません。それに、この親子のすれ違いはあまりにも不幸すぎる。どちらにも悪気はなく、ただ、息子の気遣いが距離を空け、父の勘違いが誤解を生み、誰も悪くない不幸な時間差が、ここまでの軋轢に発展してしまった。解消するには、まず、父の勘違いを解かねばならないでしょう。その為にも、乃咲くんの心の底から出た叫びは必要です」

 

「気遣いと勘違いと時間差が生んだ軋轢……?」

 

 殺せんせーの言葉に釈然としない。

 けど、次の瞬間には殺せんせーは跳躍姿勢に入っていた。

 

「皆さん。申し訳ありませんが、午前中は自習とさせて下さい。乃咲くんの親御さんと面談をして来ます。烏間先生、何かあればご連絡を。理事長先生には移動しながら報告しておきます」

 

「………分かった」

 

 烏間先生が頷くと、殺せんせーは飛び去った。

 飛行機曇を描きながら、青空を凄まじい速度で飛んで行く。

 

 残った誰もが殺せんせーの後ろ姿を静かに見守っていた。

 

 

 

 




あとがき

はい、あとがきです。 

うむ。圭一はやっぱりまだ子供なんですねぇ。
大人というか父が自分と会話しない理由を子供が自分なりに自分を納得させようとした結果、ちょっと背伸びしていたのが今までの圭一と言いますか、なんと言いますか……。

序盤の妙にスカした感じはそんな背伸びの影響があったり……。烏間先生に憧れてから多少前向きになったのは、自分を見てくれるかも知れない人が現れたことで少し背伸びを止めて、子供らしい前向きさが出た結果なのかも知れません。

はてさて、圭一はこの後、どうなってしまうのか!
次回、とうとうやります、「父親の時間」!圭一の父が何を考えていたのか、遂に明かされる!? 

相変わらず短くまとめることが出来ず、劇場版ボリュームとなってます。
来週の金曜に投下しますのでお付き合いください……!

さて、みなさん。ご一緒に……。
「ッスゥ……………おのれ、柳沢ァァァァァ!」

ご愛読ありがとうございます!
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