凍矢やロボ部などのお陰で覚醒者がどんどん増えつつある泡状結界で覆われた魚沼シェルター。
十勝シェルターまでは及ばないものの、それぞれのシェルター比率ではかなり上位に入るだろう。
だが、それは負の部分をも生み出していた。
それはまず第一に「成長率が悪い」という事。悪魔を倒して無理矢理覚醒した状態では、きちんと修行して覚醒した状態よりも成長率が悪い=弱くなってしまうということだ。
だが、それは今この世界状況では「とりあえず覚醒! そうでなければ話にならない!」という現状があるため、あまり問題化してはいない。
そしてもう一つの問題というのは……。
「はははは!! 俺様たちは覚醒した”超人”様だぜぇえええ!! しかも! あの妙な機械を使わず! 悪魔を倒さずに覚醒した超人様だ!! 恐れろぉおお!!*1」
それは覚醒した人間の暴走、未覚醒者いじめである。
しかも、シェルター外に出ることができないいわゆる「半覚醒」の人間たちや覚醒者としては弱いDLV1程度の人間たちがこうなっている事が多い。
覚醒した人間は、シェルター外の仕事が待ち構えているため、そんなことをしている余裕などない。
(外に設置したソーラーパネルや放置農場の掃除や警護、廃墟からのアイテム採取、街道整備や、他シェルターや支部との連絡や移動など)
だが中途半端なDレベル1とか実質LV0と言った人間たちは、シェルター外に出ることができず、シェルター内部でその力を持て余すことになる。
そして、それがどこかに行くかといえば……こうして「未覚醒者へのいじめ」が出てくるのだ。
こうした半覚醒者やDLV1の覚醒者たちは徒党を組んで未覚醒者たちを露骨に見下している。
この若い男たちもつい最近こうなったばかりであり、一人の若い少年と言っていい未覚醒者を腹いせにいじめていた。
「お前ら未覚醒者の”愚民”どもは、大人しく俺たちに従っていればいいんだよ!!
全く貧弱なクソザコ人間だなぁ! 手加減しないと骨を折っちゃいそうだぜw」
Dレベル1程度の人間と言っても、未覚醒者にとってはとてつもない強力な存在である。腕や足などまるで枯れ木のように容易くへし折ることができる。
だが、そこまでやってしまうと金札たちが反応していじめの事がバレてしまう。
そのため手加減しながら未覚醒者をいじめるのが彼らの中で流行しているのだ。
そして、その中でいじめにあっていたのは『法龍院 シンジ』という未覚醒者の少年だ。見た目がそれほど強そうでない未覚醒者、しかも少年だからこそ、彼らもいじめに走ったのだろう。
骨などを折らないように、適当に手抜きをしながら、彼らはシンジを殴る。
「おいおいw弱い奴をいじめるのはそれくらいにしてやろうぜ。それより未覚醒の女を「ナンパ」しにいこうぜ。俺達”超人”様の種を恵んでやるんだから泣いて喜ぶだろう?ぜ!!」
「あんまりやりすぎると金札様がうるさいからなぁ。まあ、私的恋愛の範疇ならオッケーらしいからな!!」
ゲラゲラと笑いながら、彼らはシンジの元から立ち去っていく。それを見ながら、地面に倒れ伏したシンジは口惜しさに地面に倒れながら拳を握りしめる。
怪我人が出てしまうとそこからバレてしまうため、彼らは手加減だけはうまいのだ。
何とか立ち上がった彼は、しばらく物陰で休んだ後で、よろよろと立ち上がって自分の家へと戻る。
覚醒者はシェルター外に出たり様々な仕事が多いため、こんないじめなどをしている余裕はない。
力を持て余している中途半端な人間ほどこうなって下に捌け口を求めてしまうのである。シンジはふらふらと、家に帰るための帰宅路に帰る途中に、新しく導入したばかりの「警官デモノイド」に注意される。
「そちらに入らないでください。入らないでください。ルールは守ってください。守らない者は悪です。守らない者は悪です。」
ちょっとした交通違反程度の注意だったのだが、精神的に限界を迎えていたシンジは、その注意に耐え切れずについに切れて、その警官デモノイドに対して絶叫する。
「俺が悪いっていうんですか! 俺は何も悪い事してないのに! 俺が! 俺が! 俺が! 俺が全部何もかも悪いっていうのかよぉおおお!」
彼がそう叫んだ瞬間、どこからともなく声が響き渡り、彼の視界は暗転した。
【その通り。汝は悪である】
悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪【汝は悪である】悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪【汝こそが邪悪である】悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪【悪は汝そのものである】悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪【汝こそ悪である】悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪悪
彼の視界に映る悪、悪、悪。人類が今まで積み上げてきたあらゆる残虐や醜悪な光景、「この世、全ての悪」とでも言わんばかりの光景に、普通の人間が耐えられるはずもない。その瞬間、彼の肉体は、べきばきと音を立てながら異形へと変形していった。
上半身の服が弾けとび、首や両腕が異常に伸び、巨大な蛇、否、竜へと変化していく。人間の姿から両腕と首の部分から3つの竜頭を生やした異形の存在。
邪龍アジ・ダハーカ。*2
人間の首と両手が巨大な龍の首へと変貌したような異形な存在。アンラ・マンユに創造され、その配下であり、あらゆる悪の根源を成すものとして恐れられた。
彼はそのアジ・ダハーカの転生体であり、同時にアジ・ダハーカの悪魔変身能力者でもあったのだ。
ははははは!とアジダハーカは哄笑する。まさかこんな極東で復活ができるとは!!
終末は過ぎてしまったが、今からでも遅くはない。これから再度世界の三分の二を滅ぼし、我々の力を示さなければ。いきなり怪物が現れてパニックに陥っている周囲の愚民からだな、と、シェルターの住民を食らうか苦しめようと思った瞬間、意外な所から攻撃を受けた。
「うるせぇええええ!! 何か邪竜だぁああああ!! 俺の体を好き勝手するんじゃねぇえええ!!」
そう、それは自分自身、首部の竜頭である。その竜頭は、右の竜頭へと噛みついて攻撃を仕掛けていく。アジ・ダハーカと化したシンジではあるが、そうなってもまだ彼には意識が残っていたらしい。
《なっ……! 貴様まだ意識があったのか!? おとなしくしていろ!!
我は貴様の恨みを晴らしてやろうというのだ!! いじめていた奴らや我に逆らう奴らを殲滅し、このシェルターを我の支配下に置く! それこそが……!》
「やかましいわボケ!! 人様の体を乗っ取っておいて偉そうにしやがって!! ふざけんじゃねーぞ!! こうなったら自棄だ!! 魔王だろうが邪龍だろうが最後の最後まで抗ってやる!!
自棄を起こした人間の恐ろしさをなめるんじゃねえぞぉおおおおお!!」
そう叫ぶと、三つの竜の頭であるアジ・ダハーカの中心の竜の頭は、右の頭へと深々と噛みついていく。
べきべきと皮膚を傷つけて深々とめりこむ自分自身の牙には耐えられなかったらしい。
そこから滴る血によって、次々と毒虫や爬虫類に似た悪魔が次々と生み出されていく。
アジ・ダハーカは傷つけられたらそこから無数の悪魔を生み出してしまうため、英雄スラエータオナでも倒すことができず、ダマーヴァンド山の地下深くに幽閉したとされている。
恐らくその権能が力になっているのだろう。このままではこのシェルター……少なくとも泡状結界の一つが怪物塗れにしまってしまう可能性がある。
流石にこれは予想外だったらしく、左右の首は驚きながら叫びを上げる。
《き、貴様!! 我に対して啖呵を切れるほどのクソ度胸があって何で大人しく虐められていたんだ!! 我世界を滅ぼす邪竜ぞ!? *3魔王の配下*4ぞ!?》
「うるせぇええええ!! 知らねえぇえええ!! 追い詰められた人類の恐ろしさを邪竜様に思い知らせてやらぁあああ!! *5」
自らの血が滴って生まれた毒虫たちが一般人を襲ってるのを見て、シンジは【ファイアブレス】で毒虫を焼き払っていきながら、一般人たちに対して叫ぶ。
「早く!! 早く黒札様か金札様か誰でもいいから呼べぇえええ!! このままだとシェルターが崩壊するぞ!! こっちにこいやオラァアアアア!!」
巨大化したアジ・ダハーカは、ふんぬぁああああ!! と転がりながらシェルター外へと逃れようとする。シェルター内部で戦ったら被害が大きすぎると判断したのだ。幸いここは泡状結界だ。一つ破られても被害は少ない。その影響で建物がまるで紙切れのようにバキバキ!と次々と破壊されていくが、必要経費だと思って納得していただきたい。
「血が滴って悪魔が生まれるのならこうすればいいだけだ!! 【ファイアブレス】ッ!!」
そう言いながら、彼は自らの右腕の竜の傷口に【ファイアブレス】を叩き込んで傷口を焼いていく。確かに焼いた傷口ならばそれ以上血は滴り落ちず、悪魔は生まれない。
おまけに血から産み落とされた悪魔も次々と【ファイアブレス】で焼き尽くしていく。
何か! 何かないのか! こいつを『自滅』に追い込めるようなスキルは!!
ほぼ完全に融合している今の状況ならば、邪竜アジ・ダハーカのスキルも使用できる。
そして、そんな中、彼は彼の望みを完全に満たすスキルを発見した。
「うぉおおおおおおおおお!! 【暴れまくり】&【ファイアブレス】ッ!!」
そう、それはHPを消費して相手に打撃を与えるスキル【暴れまくり】である。
その【暴れまくり】を彼は自分の肉体に対して使用したのだ。
両手の蛇だけなく、その体も首の蛇(彼自身)の【暴れまくり】によって傷だらけになる。そして、その傷から血が噴き出さないように、【ファイアブレス】を使って傷口を次々と焼いて塞いでいるのだ。
その攻撃を受けながら、流石のアジ・ダハーカも思わず絶叫する。
《やめろぉおお!! 貴様まさか自害するつもりか!! 自分自身の命を何だと思っているんだ!!》
「日本にはいい言葉があるから教えてやるよ! 『死なばもろとも』じゃあああああ!!
【暴れまくり】&【ファイアブレス】! 【暴れまくり】&【ファイアブレス】ゥウウウウ!」
連続攻撃にたちまちアジ・ダハーカの肉体はボロボロになっていく。
アジ・ダハーカのHPは966。対して、【暴れまくり】の消費HPはHPの15%。つまり6回も連発させればそれだけで瀕死状態へと持っていける。
『貴様ぁああああ!!貴様、一体何者だ!?ただの人間がこんなことできるはずが……。』
「俺は……ただの人間だぁああああ!!人間様舐めるなよ爬虫類が!!」
こうして、彼らの戦いはさらに激しさを増していった。
何がQだよ!!のシンジのノリで行きたいと思います。
このアジ・ダハーカLVどれくらいやろ……LV30ぐらい?(意見求む)