書きたいという気持ちには勝てねぇんだ……。と思っていたら、いきなり馬ニキとのプロレスをしていて思わず草でした。
馬ニキとのガイアプロレス*1が終わった凍矢だが、当然それで終わりではなく、今度は馬ニキへの補給物資を見繕うために色々と考えていた。
ただでさえ、人材不足の所に押し付けてしまったという負い目もあるため、できる限りの支援は行うつもりである。
長野県北部の未管理霊地(善光寺跡地)をどう管理するか、馬ニキ・田舎ニキ・カズフサニキの黒札3人で話し合って
馬ニキが主体、他2人がサポートという結論が出たため、今補給物資のリストを作っているところだ。
「ん~。馬ニキにただあそこを押し付けるのは流石に後味悪いから……。ゆかりネキからもらった多脚戦車試作型(ゆかり協力)*2とツチグモ型(20代)や妖蟲型(10代)、他に多脚戦車アイアンクラブを三割程度の格安販売するか……。
シキガミはJSK研究所が送ってくれるらしいから、こちらは武器を送った方がいいかな。
終末対応FIM-92 スティンガー*3やドラゴンATM*4と大量の弾薬。ハンドグレネード*5、火炎瓶*6なども無償で送ってと……。これならLVが低いデビルバスターたちも使えることができるし、戦力になるだろ。
戦力はガイバー・ギガンディックを手にしたシンジやアリウススクウッドを向かわせておけば戦力になるか……。
定住は難しいけど、定期的にウチの人外ハンター協会の戦力を向かわせておけば……。
あとは直接必要な物ある? と聞いてみるか……」
ただ押し付けるだけだと、向こうからのヘイトも買いかねないし、それを口実にした戦力や物資の支援を行えばそれなりにヘイトは薄れる……はず。
え? 人材の定住化? HAHAHA。こっちも大変なんで……。(震え声)と考えながら彼は馬ニキの補給物資のリストを作っていく。
何かカズフサニキは長野市の地下で色々やる*7らしいが、一般人に被害が出ないのなら……。まあええか……。見なかった事にしよう。の精神でスルーするつもりである。
ともあれ、そんな風に馬ニキに伝えようとした時、COMPから通信が入ってくる。
それは、北海道の十勝シェルターを運営している黒札の一人、『魚無金剛』である。*8
北海道とは距離こそ離れているものの、以前にメシアンの厄介者たちをそちらに送った事もあってそれなりの交友関係は保っている。だが、直接TELをかけてくるとは何だろう? と出た瞬間、金剛は単刀直入に要件を話してくる。
「というわけでさ。田舎ニキ。プロレスやらない?」
「嫌です。」
何で連続してプロレスの話が来るの? 俺プロレスラーじゃないんですけど? 解せぬ。という顔になる凍矢。
それに対して、金剛の方もえっ? と驚いた顔を見せる。
「えっ? 君プロレス好きなんじゃないの? じゃなきゃこんなにプロレスしないでしょ普通?」
「好きじゃないよ! 何でか知らないけどこうなってるんだよ!!
というかウォレスニキと戦うなんて絶対やだよ! 裏稼業のえげつない攻撃を仕掛けてくるんでしょう!? 一般家庭育ちの俺にそんなの対抗できるはずないじゃん!!」
金剛……ウォレスニキは前世では闇社会に生きていた人物であり、散々暴力を行う術も効率よく人を壊す術も山のようなえげつない手の内も戦術も山ほど身に着けている。
そんな彼に対して、基本的にのほほんとしている黒札たちが敵うはずもない。
えげつない番外戦術によって戦う前に倒されてしまうだろう。
「まぁまぁ。プロレスって言ってるじゃん。そんな一瞬で決着つくような塩試合にしたらプロレスにならないでしょ? そちらにもきちんと見せ場を作るし、いい試合にするようにするって。」
プロレスとは娯楽であり、観客を喜ばせるように戦わなくてはいけないエンターテインメントショーである。真剣勝負のように一瞬で勝負がついてしまうのは、塩試合と呼ばれ非常に嫌われる。
つまり一方的に金剛にやられることはない……はずである。しかし、何でそんなこを急に言ってきたのか? 凍矢はまずそれを聞くことにした。
「んー。十勝シェルターは闘技場があるのはそっちも知ってると思うけど、覚醒者同士の格闘を闘技場で行って人を集めたり、それを配信してウチの収入にしてる。
だけどまぁ、最近は高レベル能力者同士の格闘も求められていてね。高レベルの黒札同士の戦いの配信をすればもっと盛り上がるんじゃないか、という事。それでいい感じの君を誘ってみたってわけさ」
それなら、基本的に遠距離攻撃がメインの俺よりも、他の都合のいい黒札を誘ってほしいなぁ、と凍矢は思うが、ちょうどいいレベルや都合のつく相手がいなかったのだろう。
「それに、君そろそろ借金は返済できそうだけど、貯金全然ないでしょ? それに加えて破裂ちゃんが妊娠でもしたらメイン戦力が大きく下がるじゃん。今のうちにある程度稼いでおかないといけないんじゃないの?」
そう、問題はそこである。メイン戦力でこのシェルター最強の前衛である”破裂の人形”が妊娠して動けなくなると、大きく戦力が低下してしまう。
ブレインである静は妊娠しても頭脳仕事はできるが”破裂の人形”はそうはいかない。
そこが凍矢の大きな悩みの種であった。
破裂の人形なら元がロボであるため、子宮を取り外して子宮を人工子宮装置につけて子供を育てるという最終手段も取れるが、やはり子供が大きく歪んでしまう可能性もあるため、それは避けたいところである。
「まあ、ともかくそうなれば妊娠する前にできるだけ金を稼いでおく必要があるだろ?
そのために、俺と田舎ニキのプロレスをやって配信して金を稼いでおいた方がいいんじゃないかって訳さ。そっちにとっても悪くないだろ? どうせやるのなら派手な方がいいし、異能ありでやろうか。」
なるほど。闘技場を経営してる金剛からすれば、黒札対黒札のプロレス配信は、やはり魅力的である。
だが、これはそれに加えて凍矢への支援という形もあるのだろう。
「……で? 本音は?」
「いやぁ、最近こっちも運動不足で。いいトレーニング相手が欲しかった所なんだよね。それに、ウチの妻とそちらの奥さんもそれなりの繋がりがあるじゃない?他にも金札同士のコネを作ってくれたお礼として、3:7……いや4:6でそちらに多めに配信料を払ってくれるらしいよ?」
サンドバッグ代わりかい! と突っ込みたくなったが、ともあれ、凍矢はその提案を了承する事にした。
──―十勝シェルターのある場所に特別に用意された対戦用異界。
そこに腕を組んで立っている金剛に対して、自分のデモニカ、グリスブリザードを身に着けた凍矢が姿を現す。今回の勝負は異能あり。ハンデとして凍矢はデモニカを装備してもいいという異種格闘技戦である。
本来こういう時には、凍矢は絶対に近寄せないように後方に下がりながら攻撃魔術を連射する、いわゆる引き撃ちをするのが王道ではあるが、それは塩試合になると今回は禁じられている。
凍矢が姿を現した瞬間、金剛は素手のまますっと構えを取る。
「さて、それじゃやろうか。田舎ニキ。真剣で、丁寧なプロレスってやつをさ。」
その瞬間、金剛は自らの肉体に力を入れて筋肉を膨らませる。その筋肉の圧力に特注のスーツが耐え切れず、パァン!! と音を立てて上半身の服がはじけ飛ぶ。
そして、ふとももに力を入れた瞬間、ズボンのふとももの部分すらもパァン! すらもはじけ飛ぶ。
これこそ、彼の戦闘スタイルである。それでも愛用の棍棒を手にしていないのはやはりハンデをつけるというのは本当らしい。
──―その男は、
腕も太い。足も太い。首も声も何もかも全てが太い。
まさしく、『
すっ、と四つ手に構える彼の姿は、凍矢から見たら大地の化身、否、大英雄ヘラクレスそのものと言っても過言ではなかった。
これと真っ向勝負するってマジ? 今からでも帰ってもいい俺? と思わず言いたくなったが、ここまで来てしまっては仕方ない。慎重に金剛との距離を取っていく。
ここで恐れるべきは打撃……ではない。
本当に恐れるべきは金剛の組み合ってからの関節技である。彼に関節技をかけられたら、あっという間に全身の骨が木っ端微塵の骨無しクラゲになってしまう事は間違いない。となれば、何らかの手段で彼を近寄らせない方法が必要である。
(となれば……アレを試してみるか……)
凍矢は、対格闘防御用に考えておいたある技を繰り出す。凍矢の全身から、腕、足から、バシュウウウ!! と猛烈な勢いの冷気が吹き出しているのだ。
全身から放出されるブフダイン。金剛が筋肉の巨人であるように、今の凍矢はまさしく冷気の巨人そのものだ。
つまり、全身からブフダインを放出して冷気の鎧を作り、相手の組み付きを防ぐという技だ。
常にブフダインを放っているのだから、MPはガンガン消費されてるが、まあ仕方ないと割り切るしかない。*9
「なるほど。攻防一体の冷気の鎧と言うわけか。やるね田舎ニキ。けどさぁ……。」
「それって組んでほしくないって自白してるような物なんだよね!!」
こちらに対して猛烈な勢いで突進してくる金剛に対して、凍矢は飛行スキルと両足から放出しているブフダインを推力にして、上空へと避難してその突進をやり過ごす。
そして、着地したところを見計らって、金剛は凍矢に対して猛烈な勢いの蹴りを放つ。その猛烈な蹴りに対して、凍矢は足を上げて、彼の蹴り足に乗り上げて、その方向に合わせて跳ぶ事により、受けた攻撃の衝撃を逃がす。傍目には相手の技を受けて強烈に吹き飛ばされた様に見える。
これにより、ノーダメージで凍矢は金剛の蹴りの威力を受け流したのだ。
「ふうん。随分器用な事をするねぇ田舎ニキ。」
あ、あぶねぇええ! と心の中で叫ぶ。とある漫画で見ただけの攻撃の受け流し方*10だが、まさかぶっつけ本番でできるとは彼自身も思わなかったのだ。
足から放出された冷気によって、金剛の脛は凍り付いているが、彼はそれを意にも留めない。
今度は彼は足を止めてこちらに対して次々と自らの拳をぶつけてくる。次々と繰り出される金剛の拳。しかし、凍矢はそれを真っ向から受け止めるのではなく、【反気旺盛】*11によるカウンタースキルで、金剛の右ストレートに右フックを叩きこみ、左ストレートに下からの左フックを手首に叩きこんだり、次々と力のベクトルを変えて軌道を逸らして攻撃を逸らしていく。
(ああああああああ! あああああああ!!!)
金剛の拳は、未覚醒者から見たら鉄球クレーン車のような物だ。それが超高速でブンブン飛び回るのを、何とか死に物狂い凌いでいるのだから、到底冷静ではいられない。
【反気旺盛】スキルを使って何とかカウンターで力を反らしてやり過ごしているが、そうでなければ、とっくの昔に命中していただろう。
凍矢の拳もブフダインを込めて冷気を噴出させてさらに威力を向上させているはずだが、それでもびくともしない。これでは埒が明かない、と判断した金剛は一旦距離を取って状況を立て直す。
凍矢の冷気によって、金剛の両腕は氷に覆われていたが、ふん! と力を込めるとその氷は次々と砕けていく。あの氷は薄皮一枚程度凍り付いているだけらしい。
……やっぱり俺帰っていいかな?とそんな情けない事を考えながら、凍矢は構え直した。