その後も二人の戦いは続いていた。掴みかかってくる金剛に対して凍矢は跳躍して回避すると、ふくらはぎから冷気を噴射させ、くるりと空中で回転、前方宙返りし、脚部から冷気を放出させながら踵落としを繰り出す。
そして、さらにもう片方の脚も踵落としを行う。とある漫画*1に登場する『斧鉞』という技(+ブフダイン)である。
だが、その踵落としを食らっても、金剛は欠片も揺らぐことはなかった。
(こりゃブフダインでは通用せんわ。ブフバリオンに切り替えるしかない!!)
彼はMP温存は投げ捨て、踵落としをしたまま両足からブフバリオンを放出。
それと飛行能力を合わせて、ブフバリオンを推力としながらそのままロケットのような猛烈な勢いで後方へと推進しながら金剛へと離れて距離をとっていく。
もう一瞬でも遅かったら金剛に足首を掴まれて一瞬で倒されるところだっただろう。
(なるほど……。冷気を収束・放出させる事でスラスター代わりにしているのか。)
そう、金剛の考え通り、凍矢は全身から放出される冷気、特に脚部と背部から放たれる冷気を収束・放出する事によって推進力を得るスラスターとして使用しているのである。
(遠距離攻撃ではアギバリオンも通用しないとほかの黒札は言っていたけど……。*2超至近距離から叩き込めば通用するはず!きっと!多分!!恐らく!通用するといいなぁ!!)
だんだん弱気になってくるけど、あの怪物ぶりを見てるとしゃーないやん。俺は悪くねぇ!!と凍矢は心の中で叫びながらも、体勢を立て直すと、今度は拳を握って金剛の懐へと飛び込んでいく。
「おおおおおお!!! 【
【ブフバリオン】&【打撃】!! 【ブフバリオン】&【打撃】!!」
今度は、凍矢は金剛の肉体を打撃を加える。右ストレート、左ストレート、左フックなどなど。
グリズブリザードの拳の連撃がいい音を立てながら金剛の体へと叩き込まれる。
【凍てつくコブシ】だけでなく、腕からブフバリオンを噴出させて威力を向上させている拳の打撃も同時に連続して叩き込まれる。
まるでサンドバッグのように叩き込まれる連撃に、金剛は小動ぎもせず全て受け止める。
とある漫画にはこうある「プロレスは” 相手の技は全て 受けきるッ “」「プロレスラーは技を逃げちゃいけない!!! 敵の攻撃は全て受けてみせる!!! それがどんなに危険な技でも……受けきってみせる!!!」と。その点、金剛はまさにこの瞬間プロレスラーそのものだった。
凍矢の拳の攻撃全てを耐えきる金剛。それは彼が猛烈な冷気を噴出させながらの拳であろうとも同様だった。
(サンドバックよりというよりも城壁……いや、凄まじい弾力を持つゴムを叩いている手ごたえだ!!
これもしかして【物理吸収】か!? マジかよ!?)
だが、基本的に冷気を乗せた魔術系の攻撃だからまだマシだったろう。
彼には【物理吸収】という普通の人間からすればふざけてるの? と言わんばかりの能力を有している。
そのため、金剛はプロレスラーまがいの全ての攻撃を受けきることができるのだ。
だがその反面【冷気吸収】は持ち合わせていないため、少なくともブフバリオンの攻撃は通用はしている。
その点でいえば、純肉弾戦タイプよりまだしも凍矢の方が金剛と相性がいいというのは、皮肉極まりない状態だった。
「ふふ……。確かにいい拳だったが……。」
金剛は胴体部に覆われた分厚い氷を全て気合一発で破壊する。まるでそれはあれだけの攻撃が全く通用していないようだった。
「だが、残念ながら『軽すぎる』。覚醒者は老人でも筋肉ムキムキの相手を倒すことは珍しくはないが……。それでもほぼ同レベルの相手では話が違ってくる。実力差がなくなってくれば、近接戦闘では純粋に筋肉のあるほうが優位。それは変わらんよ。」
「それは……。どうかな? そろそろ『効いて』きたんじゃないのかな?」
「……む!?」
その瞬間、金剛は胸に痛みを感じ、思わず片膝をついてしまう。いかに金剛であろうとも、連続でブフバリオンを食らっては完全に無事ではいられない。ダメージは受けていたが、それでも何とか耐えることはできたはずだ。
だが、これは違う。外部からのダメージではない。体の内面……。そう、血液内部に何かが起きている。同時に、体内の温度がどんどん冷却化していく。まるで流れている血液がどんどん凍り付いているかようだった。
自分の体の中を瞬時にMAG探知を行うと、金剛の体の内部、大動脈弓部、右左鎖骨下大動脈など胴体部のあちこちに凍矢のMAGが感知され、それが金剛の血液内部に『何か』を送り込んでいるのだ。
「これは……。『針』!? 氷でできた針を僕の肉体のあちこちに刺し込んでいたのか!!」
そう、凍矢は猛烈な冷気で金剛の皮膚感覚と痛覚を麻痺させ、打撃と同時に金剛の肉体に『氷針』を差し込んだのだ。そしてその『氷針』は、金剛の血管へとたどり着くと、その先端から血管に微細な氷の粒を送り込んでいたのだ。(正確にいうと、金剛の肉体が氷に覆われている時に氷を変化させて打ち込んだ。)
注射時、血管内に空気を入れてしまうと、侵入した空気による血管の閉塞が起こり、空気塞栓とよばれる状態となる。空気塞栓は、胸痛、チアノーゼ、血圧低下、頻脈などが起こり、意識レベルの低下から失神などをきたすことがある。
金剛は胸を抑えたのも、その空気塞栓、否、氷粒塞栓ともいえる状況のためである。
差し込まれた氷針によって、彼の血液内部にどんどん微細な氷粒を発生させていく。そんなことをされたら普通命を落とすのが常識だが、金剛は多少苦しんでる程度である。流石高レベルの黒札だといえるだろう。
「なるほど。冷気で感覚を麻痺させて、氷針を打ち込んでそこから血液に微細な氷の塊を流し込んでいたって訳か。やるねぇ。」
しかも、氷で出来ている針のため、物理的な針とはまた属性が異なる。そのため金剛の持っている【物理吸収】スキルもこれを防御することはできない。相手がそんなスキルを持っているのならば、体の内面から攻めるべきである、と凍矢は判断したのである。血管内部に流れる凍矢のMAGが込められた微細な氷粒は、血液を通して金剛の肉体のMAGを阻害する。
物理的にも霊的にも彼の体の動きを阻害しようというのだ。
「血液に空気を送り込まれただけでも人は死ぬ。派手じゃないが俺が勝つには小細工するぐらいしかないからな。ギブアップするなら……。」
「いやいや。その必要はないよ。それにこれで決着じゃ派手さがないしね。」
魚無はその言葉の後で、噴!と自らの筋肉に力を籠める。その瞬間、猛烈な熱波が彼の肉体から放たれる。
筋肉が発生させる熱量によって凍矢の氷を溶かしつくそうとしているのだ。
実際、その熱量によって、差し込まれた氷針は全て溶けだし、彼の血液内部を循環していた凍矢のMAGが溶け込んでいた微細の氷の塊も一たまりもなく次々と消失していく。
「怪物め……!」
「その怪物と渡り合ってるお前さんも十分怪物だよ。田舎ニキ。実戦ではいいアイデアだけど、これはプロレスだからねぇ。これで倒されるのはちょいと派手さに欠けるだろ?」
思わずうめき声を上げる凍矢に対して、金剛はチッチッと指をふって応える。
「それに……。今が打ち込む絶好のチャンスだったのに、それをふいにすることがどういうことか……きちんと教えてあげなきゃね!!」
ぎらり、と瞳を輝かせて金剛は再び凄まじい勢いで凍矢へと突進していく。それを見て凍矢は危険を察知したのか、飛行スキルと冷気のスラスターで上空へと急上昇する。
「うぉおおおおお!!!
【氷結貫通】【コンセントレイト】【氷結ハイブースタ】【ブフバリオン】!!
【氷結貫通】【コンセントレイト】【氷結ハイブースタ】【ブフバリオン】!!
【氷結貫通】【コンセントレイト】【氷結ハイブースタ】【ブフバリオン】!!
【氷結貫通】【コンセントレイト】【氷結ハイブースタ】【ブフバリオン】ッ!!」
上空4mほどに飛行した凍矢は、そのまま真下にいる金剛に対して自らの全力の攻撃魔術を連続で叩き込む。ドドドドド! と連発で叩き込まれる絶対零度の冷気。
MPの温存なしで全開で叩き込んだ攻撃魔術だ。無傷ではいられない……はずだ。多分。
(4mなど彼らにとっては接近戦の範囲にすぎない)*4
(これが最後のチャンスだ。これで仕留められないとこちらがやられる!)
「やったか!? マジでやっててくれ!!」
フラグ乙、と黒札たちが画面の向こうで呟いた瞬間、猛烈な白い冷気を切り裂くように、にゅっと太い指が姿を見せる。
「!?」
とっさにさらに飛行して捕まらないようにしようとするが、一瞬遅い。
足から放たれる冷気を無視しながら凍矢の足首を掴んだ指は、まるで細い枝のように凍矢の足首の骨を粉砕する。
そう、それは跳躍して凍矢の足を捕まえた金剛である。彼ほどの身体能力ならば、4mなどちょっとジャンプする程度でしかない。
「ああああああああああ!! ああああああああ!!!」
ぶんぶんとまるで独楽のように片足を握られて振り回される凍矢。
それにより、彼の足首だけでなく、片足の骨は完全に粉砕される。凄まじい激痛が凍矢に襲い掛かるが、それだけではなく、まるで洗濯機で絞られたかのように、彼の右足は粘土のように捻れていく。激痛に叫びながらも彼は呪文を詠唱する。
「し、死ぬぅうううう!! マジで死ぬぅうううう!
【氷結貫通】【コンセントレイト】【氷結ハイブースタ】【ブフバリオン】!!」
それでも凍矢は捻れ曲がった脚から猛烈な冷気を噴射するが、金剛は手放そうとはしない。
これが敵悪魔ならば、握ったまま棍棒のように何十回も地面に叩き付けて文字通りの肉塊にするんだろうが、流石に同じ黒札には気が引けたらしい。
足を掴まれたままブンブンと振り回した後で放り投られた凍矢はまるで砲丸投げの砲丸のように猛烈な勢いで吹き飛ばされて壁に叩きつけられる。
正直、捻じれまくった足を見る気にはならない。千切れていないのが不思議なぐらいである。
金剛の左腕は凍矢の攻撃からの盾にしたのか、ほとんど壊死しかかっている。流石に凍矢の全力を受けてはただではすまなかったようだ。しかし、それも金剛自身のディアラハンでみるみるうちに回復していく。
「これまでだね田舎ニキ!!」
まだだ!! と凍矢は飛行スキルと合わせて、脚部と背部から冷気を猛烈に噴射させ、冷気をスラスター代わりにして高速移動を行う。冷気による猛烈な噴射による推進力のため、ズタボロの足でも凍矢は金剛の拳を上空に飛翔することで回避する。そして、そのまま金剛の背中に回り込むと、全力で金剛の首を絞め始める。スリーパーホールド。柔道でいう所の裸締めである。
関節技や締め技に疎い彼であるが、この程度は行うことができる。
「【氷結貫通】【コンセントレイト】【氷結ハイブースタ】【ブフバリオン】!!」
しかも、凍矢はスリーパーホールドを行いながら腕からブフバリオンを噴出させる。
これは、ただ窒息させるだけではない。金剛の首自体、首の血管自体を凍らせて、脳に通う血液を遮断する戦法である。回復魔法で回復されたとはいえ、ダメージ自体は確かに彼にも通じていた。
これならばうまくすればイケるはず……である。
「なるほど。僕の首の血管を凍らせて脳にいく血液を遮断する戦法か。悪くはないけどね……。」
すっと、チョークスリーパーの腕に手をかけると、まるで枯れ木のようにバキボキ!と金剛は凍矢の腕の骨を握るだけでへし折った。
「けどね。こっちは僕の分野さ。それじゃ、お休み。田舎ニキ。」
その瞬間、彼の意識は暗転した。*5
―――それからしばらく立った後、グリスブリザードを脱がされた凍矢はベッドに寝かされていた。
「知らない天井だ……。」
とある超有名アニメの物まねをしながら、凍矢は自分の手足を確かめる。
砕けて捻じれたはずの手足は見事なまでにきちんと治っていた。恐らくは金剛のディアラハンで全て治療させてもらったのだろう。痛みはまだあるがそれでも次第に収まっていくだろう。
いてて、と凍矢は顔を顰めながらベッドから起き上がる。
そして、その横にいるのは、椅子に狭そうに座っている金剛だった。
「いやぁ妻から怒られた怒られた。やっぱりノリと勢いで服を破るべきじゃないねぇ。」
そういいながら、金剛はぽりぽりと頬をかく。
こちらと戦ったことより、妻に怒られた方がダメージが大きそうなのはうーんこの、という気持ちになる。
まあ、凍矢にその辺のこだわりはない。盛り上がって金がもらえるのならばまあいいか……という感じである。
「ともあれ、あの映像かなり盛り上がってるみたいでね。結構な儲けになるはずだよ。デモニカの修理費を引いてもこれで君の借金返せるんじゃないかな?」
借 金 返 済☆
やったぜ、と凍矢は思わずガッツポーズを決める。長きに渡る彼の戦いはこれで幕を閉じたのである。(なお貯金の問題が立ちふさがる模様。)
「まあそれはともかく、奥さんや式神に散々苦労かけたんだから、彼女たちに花束とかプレゼントとか渡して、お礼の言葉言わなくちゃダメだよ。それにきちんと奥さんたちに愛してると事あるごとに伝えてあげないと。言葉にしないと家族仲悪くなるからね。」
アッハイ……おっしゃる通りでございます……と彼は金剛の言葉に素直に頷くのであった。
☆凍矢は新しいスキルを覚えました!!
《冷気放出》
オリジナルスキル。Fateのセイバーの魔力放出の冷気版。
言うなれば、冷気によるジェット噴射による身体能力向上スキル。
体中から猛烈な冷気を放出させることによって近接戦闘力、近接防御力、機動力を向上させる。
なおMPは死ぬ。
碧神 凍矢 男・20歳 転生者・覚醒済 Lv90
ステータスタイプ:【魔】中心の魔術師タイプ
耐性:破魔無効、凍結無効、衝撃耐性、精神無効(装備)、呪殺無効
スキル:ブフ系呪文全て、凍てつくコブシ、コンセントレイト、吸魔、氷結ハイブースタ、大魔脈、氷結貫通、アクア系呪文全て、反気旺盛、冷気放出、寸分の見切り
特殊スキル:ブフストーン作成、凍結弾付与作成、低レベル覚醒者への教育スキル、アクエスストーン作成、飛行
装備:無銘の刀、ジャッカルP、カジュアル装備一式、電撃の鞘、火炎弾、冷凍弾
展開型G4Xデモニカ『グリスブリザード』(格闘スキル、食いしばりスキル)
COMPソフト【ナース・コール】【Mr.サプライズ】【百太郎】【ギボ・アイズ】