色々あったが世界も多少落ち着いてきた頃。魚沼シェルターは周囲のシェルターと交流や交易を行っていた。周囲のシェルターに対して凍矢の防衛計画のために多脚戦車など戦力の供給を行っているが、同時に様々な交易を行ってお互いの生存のために力を貸しあっているのだ。
まずは魚沼シェルターから近い「小千谷市シェルター」。
ここのシェルターでは、「服」つまり霊衣の生産を行っている。これは元は小千谷市では、小千谷縮と言われる反物で有名だからという理由だからだ。
新潟……越後国での麻織物の歴史は古く奈良時代に朝廷に献上された「越布」が正倉院に納められ、「東の越後、西の宮古」と言われたほどだった。
(ほかにも錦鯉なども名産だが、終末環境でそんなのを育てている余裕はない)
豪雪地方では着るものがなければたちまち凍死する。至極簡単な理由である。
そのため、このシェルターでは霊衣の大量生産を行っているが、それは女性式神がつけるような高級下着や、転生者が着るようなガチガチの防御力を誇る霊衣ではない。
レベル一桁代の覚醒者たちが着るような、低位の霊衣の大量生産を行っているのである。
例えレベル1の覚醒者たちでも本気で動くとすぐに服のあちこちが破きかけてしまう。それを防ぐために最低限の霊衣が必要なのである。
しかも、ここではとある理由から、石油が産出されるため、そこから合成繊維を作り出せるシステムが出来上がっている。これも利用しての衣装生産がここのメイン産業となっている。
そして、それは近くにある「十日町シェルター」も同様である。十日町市では絹織物が盛んであり、雪が降ることによって湿度が高くなり、高い湿度は絹糸を加工するときに傷付けずに品質を高く保てる。
何か特産があればガイア連合もそこのシェルターをそうそう見捨てないだろう、という凍矢のアドバイスの元、ここの二つのシェルターは霊衣作りとキクリ米作りをメインとしている。
そのため、わざわざ織物の神である『建葉槌命』を招いて力を貸してもらっている。
しかもこの建葉槌命の神は、織物の神でありながら、服従しなかった星神の香香背男(かがせお)を服従させた神とされる武神でもある。
これだけの武神でありながら織物の神というのは、ここのシェルターにとっては都合のいい神であった。
さらに、養蚕信仰を持っており、同時に食物の神である『保食命』を祭るように奨励されている。
養蚕信仰でいえば、オシラサマが最も有名ではあるが、オシラサマは東北がメインであるため、食料を生み出せ、同時に養蚕を守護する女神*1である『保食命』は極めて都合がいいのだ。
だがそれだけではない。ここ「小千谷市シェルター」では国内最大級の埋蔵量を誇るとされる「片貝ガス田」が存在する。原油は国内第五位、天然ガスは国内第二位の天然ガスの大規模貯蔵地である。
しかも、魚沼シェルターの技術などを受けて、ここも大規模異界化が行われており、大規模な天然ガス採掘地へと変貌を遂げている。
終末化を遂げて動かなくなった機械は多いが、それでもガイア連合のテコ入れなどでまだまだ動く機械は非常に多い。そのため、石油や天然ガスを喉から手が出るほどほしい勢力は山ほどある。
(例えそれがガイア連合のシェルターであってもだ)
凍矢の個人的な考えでは、終末化を遂げてもまだまだ山のような機械が存在する呉支部などに石油や天然ガスは高く売れるのではないかと見込んでいる。
呉支部はほぼ自給自足で賄えるシステムが出来ているらしいが、それでも外部からの補給が見込めるのと見込めないのでは大きな違いがあるだろう。
そのため、向こうに対して輸出すれば売れるんじゃないかな……。多分、きっと、恐らく。というのが凍矢の考えである。*2
「しかし……呉支部にそこまで気を使う必要があるのですか? 向こうはほぼ完全に独立独歩でやっているのでしょう?」
魚沼シェルターの地下基地内部。その指令室に座っている凍矢の横にいる破裂の人形の言葉に、凍矢は手元にある分厚いマニュアルを見せる。
これは呉支部の支部長、⑨ニキこと『藤原 朱莉』から送られてきた技術マニュアルである。
「これは呉支部からご丁寧に送られてきた向こうの技術マニュアル。これを見る限り、向こうにはこちらの考えは丸わかりのお見通しらしい。流石⑨ニキだな。この分とフォルマ弾倉*3の情報のお返しぐらいはしないと……。ともあれ、向こうの技術体型が違いすぎるし、大工場を新しく作らないといけないからこちらとしては旨味が薄い。使えそうな技術だけ使って後はロボ部同士の
静にもアドバイスを求めたが、現地民上がりの彼女からしてみれば『彼は筋金入りのリアリストであり、現地民や海外の人材を集めているのは、いざという危急の時に効率良く『使い潰す』ためだと思います。まあ、いきなり使い潰すのではなく、いざという時まで生活を維持させているのは、彼らにとっては破格といってもいい好待遇でしょうが……。下手に懐に飛び込めば、こちらも向こうの勢力を維持するための手駒にされる可能性があります。つまり、ある程度の距離を取りながらの友好関係を取るのが一番かと。……まあ、これは私からの視点で、黒札様同士の関係はよくわかりませんが。』*4とのことだ。
現地民である彼女からしてみれば、黒札同士の仲の良さというか連帯感にいまいち理解できず首を傾げるらしい。ともあれ、⑨ニキに石油や天然ガスの情報を流すだけでいい。利用するかしないかは向こうに任せよう、というのが凍矢の判断である。
「よし、それはそれでいいとしよう。糸魚川市シェルターのほうはどう?」
中越地方である魚沼シェルターから少し離れた場所、上越地方に存在し、日本海に面する新潟県の最西端に位置する市『糸魚川市シェルター』
そこは、世界有数かつ世界最古のヒスイの産地で極めて有名な場所である。
ヒスイは宝石の一種であり、メガテン3では悪魔に対するギフトとして用いられる上に、御魂作成の時に必要になる宝石である。
つまり! これが大量にあれば御魂作成も可能になる……はずである。(なお、他の宝石も必要な模様)
しかし、ヒスイは悪魔に対するギフトだけでなく、御魂作成に極めて重要な素材であることには変わりない。*5これをネタにしてガイア連合本部のちひろさんから、さらに防衛資産を引き出せないかと企んでいるのである。
「はい、異界化して翡翠が山ほど取れる異界が出来上がっているようです。それを狙って悪魔なども襲ってきますが、多脚戦車で十分対抗可能とのことです。」
「了解。念のため、さらに多脚戦車かスコープドッグをロボ部から送るように手配しておいてくれ。ロボ部もヒスイを手に入れられるのならスコープドッグぐらい安いだろ。」
こちらのロボ部は、幼女ネキが操っている『イカルガ』などのハイエンド中のハイエンドワンオフ機も作り出しているが、やはりハイエンド機ばかりでは商売にならない。人気商品である『士魂号』よりさらに安い、金がない黒札でも買えるローエンド機体が必要ではないか? という考え方から生み出されたのが『スコープドッグ』である。
脚部のホイールと大型ガイア銃によって機動力と火力はそれなりだが、とにかく紙装甲で防御などほとんど考えられていないがその分かなりお安めではある。
最低野郎好きにも納得の渋い機体と割と黒札間でも評判はよく、小型で小回りもきくし、何なら現地民も買っていくほどである。
さらに糸魚川市で有名な神と言えば奴奈川姫である。
彼女と大国主の間で生まれた生まれた子が建御名方神で、姫川をさかのぼって諏訪に入り、諏訪大社の祭神になったという伝承がある。
糸魚川市と長野市がかなり近い間柄から生まれた伝承だろう。
そういえば、馬ニキも【国津神タケミナカタ】を仲魔にしていたなぁ、と以前のガイアプロレスの前の会議の事を思い出す。*6
(自衛隊の一部隊もゲットしたみたいだし、馬ニキが強くなってくれて勢力を増してくれればこちらも楽になる。武器弾薬や食料のバックアップはするから頑張ってくれ馬ニキ!!……それに向こうの管理を押し付けてしまったしなぁ。できる限りのバックアップはしないとなぁ。)
凍矢としてはそういう思惑もあるが、善光寺跡地の異界を中心とした長野県北部の管理を押し付けてしまったという負い目もあるため、馬ニキに対してはできるかぎりのバックアップはするつもりである。
糸魚川市シェルター、もしくは上越市シェルターに戦力を蓄積させておけば、いざという時に長野県に救援に行けるし、救援物資もスムーズに手放せるという考えである。*7
そんな話をしている間にも、破裂の人形は凍矢の腕に刺していた針を抜き出して消毒を行う。
これは注射ではなく、凍矢の血を抜き出していたのである。以前は覚醒誘導薬として使われていた彼の血ではあるが、これだけ高レベルになってくるとよほど薄めないと非覚醒者に打ち込んだ時点でボン!となることは目に見えている。
そのため、この血液を別のことに活用しようというのだ。試験管三本の中に入った血液を見ながら、凍矢は破裂の人形に対して言葉を放つ。
「よし、後はこれをロボ部に渡してくれ。これなら地下基地のメインジュネレーターは三か月ぐらいならフルで動かせるはずだ。これぐらいのMAGなら普通の基地なら3年間程度は持つと思うんだけどなぁ……」
そう、これがロボ部との契約の一つである。
基地建設はロボ部の比率が大目になる代わりに、地下基地の動力源は凍矢のMAGで賄うという契約だ。
もちろん、予備の熱核魔術フレイを応用した複数の核融合炉や、『ヘパイストスの火』『三宝荒神型火力発電炉』などといったオカルト発電炉も複数存在しているが、それはあくまでも予備でしかない。
ここはロボ部の大工場であり24時間365日常にフル稼働で様々なロボを作り出しており、そのためには莫大な電力、MAGが必要になっているのである。そのためのエネルギーを賄うのが凍矢の大量のMAGが貯蓄された血液である。地脈蓄積型であり、同時に凍矢の血液を分解しエネルギーに変換するメインジュネレーター。これによってこの地下基地は動いているのだ。
特に霊山同盟支部に卸しているデモニカ【G3MILD】の生産のために、常に剛性・靭性に優れた【妖鬼】と、柔軟性・軽量が特徴の【妖獣】の素材を元にした複合人工筋肉を大量生産を行っている。
それら様々な悪魔から人工筋肉を作り出すための大型式神マザーマシン数十体が年中無休で運転され、デモニカ用や巨大ロボ用の人工筋肉を作り出されているのだ。それは莫大な量のMAGが必要になってくる。
それを賄うのが基地内部のメインジュネレーターであり、凍矢の血液である。
LV90にも匹敵する彼の血液はよほど薄めない限り、もはや覚醒誘導薬としては使えない。*8
膨大なMAGを秘めた彼の血液は、試験管一本分でこの大基地一か月分を動かすほどの力を持つ。
逆にいうと、「たった一か月分しかもたない」のはこの基地のMAG消費量がいかに膨大な事を物語っている。
実際ロボを欲しがる黒札は多い。外界探索において、巨大ロボはまさに守護神であり主力戦車的役割である。ロボと多脚戦車の組み合わせなら、大体どんな環境にも対応できるし、戦闘を嫌がる黒札でも戦いで痛みを感じず「ロボに載って無双できる俺ツエエエ!」ができるので、かなり好評である。
ロボ部のロボが売れれば、その分居住代や防衛代として税金が徴収できて凍矢も儲かる。
まさに一蓮托生の状態である。それを作り出しているのは、式神マザーマシンを元にして作り上げたロボ作成用の超大型マザーマシンである。シキガミコアシステムを組み込んだCAD/CAMシステムを高度に発展させた設計支援システム*9に組み合わせた超大型マザーマシンシステムにより、一度生産された機体はデータさえあればどんどん生産できるようになっている。
このシステムは、入力された部品を正確に大量生産するだけでなく、設計者の求めに応じ自動的に部品や人工筋肉の素材を選定し、これをエンジニアが微調整を行うと、データはマザーマシンに渡され、自動的に試作品の部品ができるようなシステムになっている。これをフィードバックすることにより、より高度な状況にあったロボを早く生産できるのだ。
「それで、オーストラリアからの輸入はどんな感じ?」
「はい、鉄鉱石をメインとしてリチウムや工業ダイヤモンドとかタングステンなどと言った希少金属などの輸入を行っています。ただ向こうからはやはり戦力の支援を求めていますが……どうしましょうか?」
その言葉に対して、ふむ、と凍矢は考え込む。
「確かシノさんがデモニカ【G3MILD】をKSJ研究所を通して海外に輸出していたっけ。*10
シノさんの許可を取って、今回の代価としてこちらの支部で作られた【G3MILD】を10体ほどオーストラリアに送っていいか聞いてみるか。その代価として鉄鉱石や希少金属、ヒヒイロカネ合金を霊山同盟支部に送れば大丈夫だろ……多分」
「それならば、通常の【G3MILD】よりも、より環境に適応した新開発の【G3砂漠用】がありますので、その実戦テストとしてオーストラリアへと送るのはどうでしょうか? これなら、ロボ部、シノ様、オーストラリアの三者とも皆満足できる結果となると判断しますが?」
オーストラリアは極めて広い分、砂漠もあれば雪も降る、多様な気候を有する大陸であるが、その中でも砂漠はオーストラリア本土の18%を占めている。
それならば、新開発された【G3砂漠用】を実戦テストに用いたのがいいのではないか、というのが破裂の人形の考えである。
関節部には防塵用のシーリングが施され、防塵性能が高められ、同時に強力な冷房装置が背負われており砂漠環境でも所有者や人工筋肉を快適に保護する。さらに同時に大気中の水分をかき集め、飲料水に変換する機能もついており、砂漠での生存率を高めている。
さらにそれと同時に、機体重量軽減、補助推進装置の増設なども行われており、このテストをオーストラリアで行って実戦情報を集めた方がいいだろう。
「ところでマスターは彼らロボ部をかなりフリーダムにさせているのですがよろしいのでしょうか?」
「いや、同じ黒札だから別に命令権とかないし……。一般人や黒札に危険を及ぼす実験はやめてくれ、とは言ってるけどその程度かな……。あそこらへんの人間は好き勝手にやらせた方が遥かに良い結果を出してくれるし。あとは『雷電』のほうはどうなっている?」
「はい、そちらもそれなりには。『雷電』はデモニカと異なり、使いまわしができる、という理由で好評のようです。戦力というよりは、覚醒補助器具として使用している所がほとんどですね。とはいえ、そこを理解している人々には好評のようです。」
「戦術甲冑・雷電」は、フル回転しても全く追いついていないデモニカに比べて「使い回せる」という利点が存在する。これを2~3機購入しておけば、悪魔を退治していく事で大勢の覚醒者を増やすことができる。
しかも、他の県で使用されている自衛官に配布されている対悪魔ヘルメットや魔女の軟膏などと言った「見えることができる」だけの器具と違って、実際に悪魔からの攻撃を守ってくれるパワードスーツであることから非常な安心感がある。(いきなりLV10固定で戦えるというのも大きいが)
こういった「デモニカを買うにはお金が足りない」「安全に覚醒したい」という一般市民の需要。
「初期費用はかかるが買えば使いまわしができて覚醒者を増やせる」という上層部との思惑が一致するシェルターなどで「雷電」は購入されている。
それならばよし、と頷いて、凍矢は破裂の人形に向き合って先ほどから気になっていたことを問いかける。
「……ところで、何でツインテールメイド服なの?」
そう、メカではなく人型、銀髪の美人に変化した『破裂の人形』はピンクを基調としたフリルのついたメイド服に、その綺麗な銀髪をサイドツインテールにしていたのだ。
「いえ、『構ってほしい』と思った時にはこういった姿が効果的かと。我ながら似合っていると思いますがどうでしょうか?ぶい。」
ぴーすぴーすとその恰好のまま無表情にダブルピースをしている『破裂の人形』を見て、凍矢ははあ、とため息をついて彼女を構うべく、椅子から立ち上がった。
どくいもさんが入院したと聞いてびっくりしています。
良くなってくれるといいですね……。