───一神教調和派。
それは本来、S県のメシア教対策として作り上げられた組織であるが、その存在を必要とする黒札は殊の外多かった。黒札の誰も穏健派とはいえメシア教に関わりたくない。
その負担を押し付けられる組織は、どの黒札も求めていたのである。
本来こじんまりとした勢力しかなかった調和派は、黒札たちの支援もあってたちまち勢力を伸ばしていた。
そして、そんな調和派の仕事は多忙を極めていた。
メシア教の対策、穏健派の監視、襲い掛かる悪魔退治、聖水作成に結界作成などなどである。
彼ら彼女たちも一神教なので、穏健派の行うことは大抵カバーすることができる。
(讃美歌による精神安定はできなくもないが、穏健派も過激派もさんざんやらかしてくれたため、賛美歌のイメージが極めて悪いためやらない)
穏健派のカバーを調和派は行うことができる上に親黒札派&親人類派な上に、メシア教の手口は知り抜いており、それを防ぐことができるのだから、黒札からは当然のごとく引っ張りだこになる。
そして、調和派に注目しているのは黒札だけではない。メシア教にうんざりしている穏健派の人々も同様なのだ。
メシア教の惨状を見て、天使たちの神々しさや神秘性に魅入られていた教徒たちもすっかり正気を取り戻してしまった穏健派の人々も多く存在したのだ。
そういった人々は、穏健派から抜けて一神教系列へと入っていく、という人々が多かった。
その中には、穏健派分派自体を一神教へと変えたいという人々も多く存在していた。
だが、その前に立ちふさがるのは、やはり数多くの天使たちである。
天使たちはメシア教穏健派の名前を捨てて一神教へと戻るなど論外!! という答える者たちが多かった。
では、穏健派から一神教へと変えるためにはどうすればいいのか。答えはこれである。
「うおおおおお!! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正! 修正ィイイイイ!!」
こうである。*1
メシア教の名前を捨てたくない!! とのたうつ天使たちに対して、片っ端からメルキゼデクの鉄拳が炸裂していく。*2
十戒プログラムには「殺してはならない」とあるが、「暴力を振るってはならない」とは書いてはいない。
(そもそも悪魔相手にはノーカンらしい。護身もできないしね)
それを利用して、天使たちを片っ端から鉄拳制裁していき、天使たちのプライドを粉微塵にする。
天使たちは階級に極めて弱い。自分たちより遥かに上位の大天使からこんな鉄拳制裁を受けたら従う以外の選択肢がない。
そして大天使の名前の元、半ば無理矢理メシア教穏健派の名前を捨てさせ、一神教へと変えていく。
大天使の命であれば、天使も逆らえないし、従うしかないというのを逆手にとっているのだ。
「我は……これからお前たちを殴る!!!! これは大天使たる我の愛である!!」*3
「ち、ちょっと待ってください! 大天使様!! 我々今殴られたばかりなんですけど!?」
「問答無用ォ!!! 修正ィイイイ!!!」
もう一度全ての天使に鉄拳制裁を行った後で、背を伸ばしてメルキゼデクは天使たちに対して苛烈な言葉を迷いなく放つ。
「これより大天使メルキゼデクの名において神からの勅命を伝える!
『自立せよ』これこそが神からの直々の命である!!
総員、十戒プログラムを受けてメシア教の名前を捨て、一神教へとなり人類と肩を並べて協力せよ!!
これは大天使である我の命令である!!」
「「「「わ、分かりました……」」」」
「声が小さい!! 復唱!!!」
「「「「わ、分かりました!!!!」」」」
……長岡市シェルター、一神教調和派の教会。そこには、一神教調和派、新潟支部を任された桜子の姿があった。
新潟支部というのならば、本来ならば新潟市に置くべきなのだが、メシア教がやらかしたのを鎮圧したり何だかんだで、結局なし崩し的に長岡市に支部が置かれることになったのだ。
色々な問題があったので、魚沼シェルターに拠点を置くと問題になりそうなので、少し距離を置いた方がいいのでは?という桜子自身の考えである。(もちろん、魚沼シェルターにも一神教調和派の支部はある)
だが悪いことばかりではない。魚沼シェルターにも近い上に、新潟県のほぼ中心部にある長岡市ならばどこに行こうと迅速な対応ができる。
彼女たちは、メシア教から改教して一神教に戻ったモデルケース。
つまり、セドナシェルターにおけるメシア教を棄教してセドナを信仰するようになった人々と同じである。
彼女たちが居れば「穏健派より一神教だ!!」とメシア教から一神教へと改教する人々も次々と出てくる。逆に耐えかねて、シスターフッドがメシア教に戻ってしまっては「やっぱり一神教はないわ」と失望されてしまうので、凍矢や静も彼女たちには細心の注意を払いながら、食料、武器弾薬など様々な支援が行われている。
(ほむらは不満そうだがまあ仕方ない、と理解はしている。またガイアプロレスやらかすのはアレだし)
ともあれ、そんな風に黒札からの支援は受けている彼女だったが、それでも苦労しているのは間違いない。
「はあ……。まったく厄介事ばかりですね……。過激派もそうですが穏健派の厄介なこと厄介なこと……。
ガイア連合の皆さんの苦労が少しは分かります……。」
凍矢から武器弾薬(ガイア銃やシルバーブリットなど)や食料などと言った支援物資なども送られていきているので、それなりに信頼はされていると判断してもいいだろう。
(穏健派のようにズッ友などと言う気はないが)
だがそれでも穏健派からは「裏切者」と言われ、ガイア連合からは白い目で見られているのは精神的に疲弊してしまうことも事実である。(最近では頑張りを認められてきたのかそうでもないが)
「お前たちがしてきたことを考えれば当然だろう」と言われたらそれはそうなのだが、やはり精神をすり減らすということはどうしようもない。
そんな風なシスターフッドの皆のカウンセリングなどを行い、メシア教に戻る!などと言い出さないようにするのも彼女の役割である。*4
「で、君は平気なのかね? だいぶ精神的に疲労しているようだが。
穏健派から『裏切者』連発は精神的に負担がかかっているのではないかね?
特に君の右腕であるシスター日向を宮城支部に送ってかなり立つがそれでも大変だろう?」
「いえまぁ……。必要なことですから……。それに宮城支部の黒札様*5はハルカさん*6とも密接な関係があり、これから重要になってくる以上は、穏健派も大量にすり寄ってきそうなので、防波堤は必要でしょう。日向さんもしっかりと役目を果たしてくれているので、私としても嬉しい限りです。」
とはいえ、未だに自分の右腕である日向を向こうに出張させた穴は埋まりきっていないらしい。書類仕事に疲れきっている桜子に対して、メルキゼデクは肩を竦める。メルキゼデクは、メシア教ではなく一神教調和派に属し、天使が上に立つ天使信仰を認めていない極めて例外的な大天使である。
おまけに他の大天使を殴り飛ばせるほどの極めて強力な戦闘力を持ち、狂気に囚われているのか、ちょっと言動はアレだが過激派よりは遥かにマシで人間ともコミュをとれる程度の理性をもっている。
そんな極めて貴重な大天使の存在は、調和派にとって極めてありがたいものだった。
と、そんな書類仕事と仕事環境にため息をついている桜子の元に、緊急事態を知らせるターミナル通信が飛び込んでくる。
「はい……はい……分かりました。シスターフッド総員傾注!!これより総員で十日町シェルターへと向かいます!!黒札様に大ターミナルの使用許可を!!、コードグリーン*7と黒札様と上層部に伝えなさい!!黒札様のお手を煩わせる前に私たちで解決します!!」
その桜子の言葉に、シスターたちは慌てて武装の準備やら通信の準備やらを始めることになった。
メルキゼデクもこれだけの大騒ぎになるのだから、かなりの事件であることは間違いないだろう、と判断したのか、身を乗り出して桜子に状況を聞いてくる。
「……で? 今回の異変は何なのだ? また穏健派がやらかしたのか?」
「はい……そうですね。全く彼らは何回やらかすのか……。」
「私たち調和派がメシア教穏健派の荷物を検閲している時に、メシア教過激派が使用している超能力増幅装置『サイブースター』が発見されました。それを発見して至急私たちシスターフッドが穏健派の取り調べを行い、十日町シェルター内部の電波塔再建を行っていることを探知。そこまで分かれば後は推測はつきます。」
メシア教過激派が使用している超能力増幅装置『サイブースター』
それは真・女神転生2でメシアンが作り出した人造超能力者『ジエレーター』が背負っている装置である。このサイブースターの中には、同じ人工超能力者の脳が複数装備されており、これを使用してさらに超能力を増幅させるという非人道的装置である。*8
普通の穏健派がそんなものを使用するはずもない。これを見つけた調和派は、大至急桜子にエマージェンシーコールを送ったのである。
「つまり?」
「私の推測ですが……。恐らく、電子洗脳《サイコトロニクス》を行おうとしているのでしょう。
分かりやすくいうのならば……いわゆる『電波系』『毒電波』ですね」
「毒……何?」
現代の知識に詳しくないメルキゼデクはそのトンチキな言葉に流石に首を傾げる。
『サイコトロニクス』
それはソ連など共産圏で着手されたPSI研究のうちの一つであり、(超心理学/サイ科学研究)のうち、電磁波などを用いて人為的な心理変更を行わせるとする概念である。
これは外部からの電磁場放射により、神経や脳活動の操作、特に脳に記憶される情報を誘導しようというアプローチである。
これらサイコトロニクスの概念を利用し、電子能力者の超能力者の脳とテレパシー、ESP能力者の超能力者の力を融合させ、電波自体に洗脳術式を乗せる通称『毒電波(By桜子命名)』を過激派は開発したのである。*9
これは空間に放たれた地点で電波が外部から人間の脳に直接働きかけ、脳自体の情報を書き換え、未覚醒者はメシア教へと洗脳されるか発狂するか二つに一つしかない。
通常ならば、ラジオなどによって演説を聞かなければ洗脳はされないが、この毒電波は電磁場放射により外部から対象の直接脳内の神経や脳活動、脳内に記憶されている情報に働きかけ、『浴びただけで洗脳されてしまう』という極めて危険な代物である。
もちろん、シェルター外でこんな毒電波を放っても容易くシェルターの結界に防御され内部に侵入できるほどの出力はない。
だが、これが結界内部、シェルター内部の閉鎖空間でシェルター内部を覆いつくす毒電波が発生したらどうなるか?防ぐもののない毒電波に、未覚醒者はたちまち洗脳するか発狂するかの二択だろう。
幸い、まだサイブースターを秘密裏にシェルター内部に運び込む準備の最中だから計画初期の段階だろう。
「ちなみに、穏健派がそんなことをしようとしたのかね?そんなことをしたらこの地の内部の穏健派が根切りにされても文句を言えないが。」
「いえ、恐らく穏健派内部に潜り込んだ隠れ過激派でしょう。過激派が壊滅した後、元過激派を穏健派は大量に内部へと引き入れています。恐らく、その元過激派に影響を受けた穏健派の一部が暴走しているのでしょう。*10」
桜子たちも元過激派たちに対して警戒してはいるが、マンパワーが圧倒的に足りない状況で完全にチェックはできない。元過激派は身分をロンダリングしたり、反省はしたがそれでも穏健派の内部に入り込んで密やかに穏健派に思想を吹き込んでいるのだろう。
降伏した元過激派に対して、穏健派はかなり甘い対応を取っている。
「汝の敵を愛せよ」ということをできるかぎり実現しようとしているのだろうが、それはそれとしてきちんと罪は問え、と桜子は思わずため息をつく。
ともあれ、そんなことをさせる訳にはいかない、と桜子は銃とナックルガードを手に取り、大至急現場へと向かうことにした。
どうでもいいんですが、メルキゼデクはノアの息子セムと同一人物かもしれない、という話があるらしくて、大洪水で『全ての生物を絶滅させてしまうような大洪水は、決して起こさない事を契約』したのを見た当事者かもしれないんですよね。
セカンド大洪水とか起こしそうになったら鳩にマジ切れしそう。