──―十日町シェルター内部。
そこには隠れ過激派たちに同調した穏健派たちとシスターフッドの一部隊がにらみ合いを行っていた。
数では圧倒的に劣るシスターフッドたちだったが、ここで彼らを足止めするための決死の決意で戦いを挑んでいたのだ。
「何としても奴らをここで足止めしなさい!! 撤退は許可できません!!
繰り返します! 撤退は許可できません!!」
「シスターフッド進撃!! 何としてもこれ以上通すな!」
だが、シスターフッドの一部隊と、穏健派の中で巣食っている隠れ過激派に影響された者たちの戦力はあまりに異なっていた。
穏健派は、あまり派手にやっている過激派の中心派閥ならともかく、過激派の中でも敗残兵たちはそれほどの処罰を行わずに軽微な罰で受け入れていた。
その毒は急激に穏健派を侵食して勢力を広めていた。
その勢力はシスターフッドの一部隊程度なら押し切れる程度には存在していたのだ。
「ふふふ。一神教と言えど同じ神を奉じる一派。降伏しなさい。我々は寛容です」
嘘である。一神教において、最も過激に迫害されていたのは異教徒よりも異端者たちである。
グノーシス派、アリウス派、カタリ派。
全て異端とされた者たちは一神教によって滅ぼされてきた。
そして、それはメシア教にも引き継がれている。彼らからしてみたら異端である一神教の信者などどう扱われるか目に見えている。
もはやここまでか……捕えられて脳改造、洗脳されるぐらいなら……とシスターフッドの皆は自爆用の護符を起動させるための準備に入る。
だが、そこにどこからともなく、男の声が周囲の空間から響き渡る。
「初めは大人しく成り行きを伺っていたんやが……『あまりにも隙だらけや……』そう思ってからは早かった」
「瞬 殺 や」
その言葉と共に、隠れ過激派のメシアンの司教たちの首が飛んだ。スバンと横凪に切り落とされた数人のメシアンの首は、まるでボールのように宙を舞う。
それは、透明化を可能にする魔術『ドロンパ』によって気配を隠していた存在だった。
『彼』は自らの手刀を一閃させる事によってメシアンたちの首を切り落としたのだ。
「な……っ!!?」
いきなり現れた小太りで腹が出ている中年の男。今までそこには誰も存在してなかったはずである。
しかも、ただの手刀でメシアンの首を切り落とすなど並みの人間や覚醒者にできることではない。彼も高位の覚醒者である、と判断した隠れ過激派のメシアンは焦った声を上げる。
「何者だ貴様……!?」
「ワイの事なんてどうでもいいやろドブカスが。ワイの童貞を奪ってくれる
「それにムサいおっさんと可愛い女の子。どちらを助けるか一目瞭然やろ。それに今のワイは黒ギャルよりも清楚派に苛められたい気分や!! そんなワイが清楚派のシスターを救うのは当然やろ?」
そのあまりにもメシア教を小馬鹿にした彼の口調に、隠れ過激派のメシアンたちの額に青筋が浮かぶ。
だが、そんな彼らに構わず、森田は気にせずにマイペースで言葉を放つ。*1
「ハッ、笑わせんなや。確かにワイは女の敵や……けど、女の敵は女っていうやん? ワイは女の敵の敵……ある意味味方なんやで? まあお前らはクソむさい野郎どもなんやけどな」
口で言うのは簡単だけど、お口でしてもらうのは難しい……真理やね、と訳の分からない事をほざく彼に対して、ダメだこいつ会話ができん、とあのメシアンですら判断し、メシアンたちはメシア銃を森田に対して突きつける。メシア銃は悪魔に対しての攻撃力は低いが、対人に対してはズバ抜けている。
いかに覚醒者といえど、低レベルならば体に穴が開けば死ぬ。だが、森田はただの覚醒者ではなかった。
森田の手が凄まじい動きで動いたと思った瞬間、『何か』が次々と隠れ過激派へと突き刺さっていく。
それはいわゆるナイフにも似た武器「棒手裏剣」だった。
その棒手裏剣は森田の手から尖端が上を向くように構える直打法で次々と隠れ過激派へと突き刺さっていく。
「その動き……貴様、忍者か!!」
「正ッ解!! だけど気づくのが遅すぎやね!! 狂信しすぎてお脳のシワツルツルと違うんか!? あっごめん。お前らみたいな虫けらに脳なんて高等なモン存在するわけないなwwwごめんなwwww」
ぷっぷくぷーwwwと煽りを入れてくる森田に対して、切れた彼らは次々と銃弾を叩き込んでいく。
だが、その太った肉体に到底見合わない猛烈な速度で森田はそれら銃弾を回避し、手にしたクナイや小太刀でメシアンの肉体を切り裂いていく。
「おいおい、笑わせんなや。ワイに対してこの程度の浅い切り込みじゃ殺されても文句言えへんで……?
洗脳なんて物はな、愛を知らん獣のやり方やで? ケダモノのやり方で人類をよりよい方向に導ける訳ないやろ?」
「うわぁあああ!! 急にまともになるなぁあああ!! 死ねぇええ!!」
さらに切れたメシアンたちは、構わずにメシア銃を乱射するが、飛び来る彼らの弾丸を、森田はその肉体と全く予想できない超高速移動で次々と回避していく。
「知らんかったんか? 忍術を少々学べば空間の断絶も回避できるし、手持ちの武器があれば核も迎撃できるし、ペンタゴンの奥まで平気で侵入できるんや。さすがにガイア連合の本部はムリっぽいけどな」
そんな嘘か本当かよくわからないことをほざきながら、森田は隠れ過激派の足元にドロン玉を叩き込みながら、シスターフッドの一部隊に向かって叫ぶ。
「エロゲみたいな苗床展開になりたくなかったらワイについてこいや!! 包囲網の薄い所を突破するで!!」
「私たちはこの人に対してどんな反応すればいいんですか!? 怒ればいいのか説教すればいいのか感謝を伝えればいいのか混乱するんですけれど!!!」
一旦撤退した調和派のシスターたち。そして、彼女たちを退けた穏健派……隠れ過激派たちはシェルター内を進軍していった。
ほかのシスターフッドたちが追い付いてくるまで、シェルター内で電波塔を占拠して、そこで毒電波をシェルター内に流し皆を洗脳する。
彼らは讃美歌を歌いながら悠々とシェルター内を行進していく。それだけではなく、賛美歌に毒電波を混ぜてより洗脳を行いやすくさせているのだ。音波と電波。双方の洗脳を食らえば防護壁のないシェルター内部では容易く未覚醒者は洗脳されるだろう。
だが、そんな彼らに対して反発を覚えている者たちは当然存在した。
それは、このシェルター内部の覚醒した住民たちである。
「未覚醒者たちを避難させろ!! 建物内部か地下に避難させるんだ!!」
「讃美歌の届かない場所に移動させろ!! 治安部隊が来るまで安全なところに居させるんだ!!」
そんな風に、讃美歌を聞いても比較的耐性のある覚醒者が中心となって避難させている中、一人の男性が叫びを上げる。
「もう我慢できるか!! ここは俺たちの故郷だ! 俺たちの住んでる街だ!! あいつらの好き勝手にさせてたまるか!! 俺たちがこのシェルターを守るんだ!!」
「おい、俺たちは何も戦闘訓練も受けてない素人だぞ! 対抗できるはずないだろ!!」
「うるさい! あんなクズどもにこの街を好き勝手されていいのか!! 俺は嫌だね!! 俺たちの故郷は俺たちが守る!!」
その男の絶叫を共に、周囲の人間たちは、はぁ、とため息をついた後皆覚悟を決めた表情になる。
「……まったく仕方ねぇなぁ……。おい! 元自衛隊の奴連れてこい! 作戦を立てるんだ!!」
「ガソリン入れた容器をありったけ持ってこい!! 可燃性なら何でも構わん!!」
「奴らを足止めする最適なポイントを探せ!! 道にバリケード設置して足止めしろ!!」
彼らは素人ながらも素人なりの戦術を編み出し、まずは自分の有利な地形…………高いビルに囲まれた道を見つけ出し、そこに足止め用のバリケードを設置する。さらにビルの屋上にありったけのガソリンタンクやら可燃性の物体を用意する。
そして、過激派がバリケードに足止めされた時を見計らって、彼らは手にしたガソリンタンクを次々と隠れ過激派へと叩き込んでいく。
過激派もガソリンタンクに対して下手に撃つことができない。もし着弾などで火がついたら厄介な事になるからだ。
「今だ!! 食らえアギ!!」
「これが当たったら神様信じる!! ギガッ!!」
上からガソリンタンクを叩き落し、銃火器の攻撃を防ぎ、上からアギやギガの魔術を叩き込む。
そして、それによってガソリンは爆発しながら隠れ過激派を火の海へと叩き込んでいく。
だが、この程度でダメージは受けてもやられる彼らではない。
LVが高い覚醒者にとっては、これぐらいの炎を受けても止めを刺されるほどではない。
そして、その中から一糸乱れぬ讃美歌が響き渡るのを見て、彼らは戦慄する。
炎の中では銃が使えないので、穏健派は建物の上にいる彼らに魔術攻撃を仕掛けようと手を向けるが、そんな彼らに対して閃光が放たれ目が潰される。
「コウハ!! コウハ!! ファハハハ!! 俺のコウハは光を放つしか効力がないぞぉおお!!」
そして、そんな彼らに対して、瓦礫やらレンガやらさらに降り注ぐ。だが、覚醒者にとって大したダメージを受けないはずのそれらは隠れ過激派の皆に十分なダメージを与えていた。
「グライをかけて上から物を落とすダメージを増加させる! まさかこんなことで役に立つとは…………」
「マグナ系を食らえ! ワイは落とし穴を作ることしかできんけどな! ワハハ!」
それは、瓦礫にアギやジオ、フブやグライなど様々な魔術が付与されているからである。
さらに、マグナ系によって、落とし穴に嵌められた隠れ過激派も中々攻撃はできない。
隠れ過激派のメシアンたちは、建物の壁を駆け上がろうとするが、建物が彼らの水&ブフによって壁は氷で覆われており、駆け上れないようになっている。
そして、それら小賢しい現地民の反乱に業を煮やした隠れ過激派のメシアンたちは、ついに切り札を繰り出すことにした。
「わが召喚に応じよ【フラロウス・ハレル】に【ヴァーチャー】様!! 愚民どもを統治する力を与えよ!!」
>【フラロウス・ハレル】LV40*2
>【ヴァーチャー】LV30*3
そこから出てきたのは異形の怪物、否、異形の天使だった。
胴体部に巻物を加えた豹の顔が存在し、巨大な純白の翼を持ち、頭部は塔のような姿で頭の上には天使の輪が存在する。
それは、堕天使であるフラロウスが天使に戻った存在【フラロウス・ハレル】だ。
LV一桁代の現地民たちがその圧倒的な威圧感に呆然となる。それも当然だ。LV40やLV30もの怪物レベルの天使に彼らが抵抗できるはずもない。
「か、怪物だ……。いや、神そのものだ……。*4あんなのに俺たちが勝てるわけがない!!」
隠れ過激派がこのシェルターを毒電波で占拠しようと考えたのも、まずはこの【フラロウス・ハレル】の力を完全な物にするための拠点を欲したからである。
ここが占拠されたら、凍矢の魚沼シェルターに対して喉元に剣を突き付ける過激派に対しては絶好のポジションの拠点地へと変貌する。【氷結無効】を持つ【フラロウス・ハレル】の力を完全に取り戻させて、凍矢へとぶつける。これが隠れ過激派たちのプランである。
それを見て、現地民の彼らが絶望に覆われている中、同時に空を引き裂く轟音と共に空を駆けて何かがこちらへと接近してくる。
それは、平べったい戦闘機のような、スペースシャトルの翼だけを独立させたような形状……つまり、ガンダムマークIIが乗っていた「フライングアーマー」であった。
これは、ガンダム世界のサブフライトシステムのように、特級戦力を迅速に戦場に送り込むためにロボ部が作りだした、飛行スキルを付与させたサブフライトシステム……つまり飛行シキガミである。
元は一反木綿シキガミの形状を変化させ、さらに高速飛行スキルをつけただけの物であるが、特級戦力を迅速に戦地に送り込むために開発されたのを、凍矢が桜子へと送ったのだ。
その飛行シキガミ「フライングアーマー」に寝そべった状態で乗っている女性、それは一神教調和派に属する女性、歌住桜子*5である。
彼女たちはターミナルを使ってこのシェルターに転移した後、隠れ過激派のメシアンたちの暴走を抑えるべく、凍矢から与えられたフライングアーマーを使用し、真っ先に隠れ過激派の元へとそれを駆って駆け付けたのである。
桜子は、飛行しているフライングアーマーから飛び降りると、そのままヴァーチャーに対して華麗な回し蹴りを叩き込む。*6
「空間座標軸固定! 術式展開開始! その役目を果たせ!! トラポート!!」
その桜子の言葉に答え、手にしたメリケンサック型COMPから光が放たれフラロウス・ハレルの前に魔法陣が展開される。
それを見ながら、フラロウス・ハレルは小賢しい周辺住民を薙ぎ払おうと、マハザンマを放ち全てを殲滅しようとする。
だが、その魔法陣……トラポート用の魔法陣から現れようとしている存在はマハザンマをまともに受け止め、その余波に巻き込まれようとしている建物にいる人々に対して、カバラ魔術による結界で保護する。
「カバラ魔術による結界……!? まさか!?」
そして、魔法陣から腕組みをしながら猛烈な光を放ちながらとある存在がゆっくりと姿を現していく。*7
魔法陣から腕組みをしながら、せり上がってくる平然とマハザンマを受け止めた存在*8に対して、隠れ過激派のメシアンたちは、思わず叫びを上げる。
「天使だと…………!? 貴様、いや貴方は何者だ!!」
「ガイア連合一神教調和派所属! サレムの王にしていと高き神の祭司!! アブラハムにカバラの秘儀を伝えた祭司!! 大天使メルキゼデク!! それこそが我が名である!!」
『戯言を……!! 人間上がり風情が!!』
にらみ合っているメルキゼデクとフラロウス・ハレル
フライングアーマーは、桜子の思念に感応して、隠れ過激派のメシアンたちの上空をフライハイすると、下部装甲の一部がスライドし、そこからパラパラととある物を降下させる。
それはKSJ研究所が大量生産した蟲毒皿である。
天使に仕える者……メシアン、ターミネーターやテンプルナイトとなった彼らに対して蟲毒皿は効果覿面である。*9
「こ、こんな汚らわしい物を使うとは……! シスターの恥さらしめ!!」
だが、桜子はそれには答えず、こちらの上空を飛行するフライングアーマーが反転し、マウントされていた落としてきた自分の愛銃であるタボール(TAR-21)を手に取ると、それを乱射する。
タボール(TAR-21)の中には霊山同盟支部が愛用している呪殺弾が内蔵されており、それはメシアンに対しても効果的ではあるが、さすがにヴァーチャー相手では効果がいまいち薄い。
フライングアーマーが再度蟲毒皿を投下する中、桜子は降下している蟲毒皿に蹴りを入れてそれをそのままヴァーチャーに叩き込む。
落下してきた蟲毒皿を回し蹴りでヴァーチャーへと叩き込む桜子。だがそれだけではなく、
桜子の拳……ナックルガード状のCOMPの鋭いパンチの一撃は、蟲毒皿ごとヴァーチャーの肉体に突き刺さり、桜子の拳によって砕け散った蟲毒皿は、ヴァーチャーの肉体内部へと四散する。
つまり、人間でいえば猛毒入りのダムダム弾が叩き込まれたようなものだ。
さらに、それに加えて胴体に穴を開けられたら流石のヴァーチャーでもひとたまりもない。その攻撃を食らったヴァーチャーはたまらずに消滅していった。
『おのれ我が同胞を!! 食らえ!! 【賛美の……いや、【マハザンマ】!!』
フラロウス・ハレルは優れた破魔アタッカーであり、【賛美の光輪】や【バプテスマ】といった優れたスキルがある。しかし、天使は基本的に破魔関係は無効だったり反射だったり吸収だったりする。
(実際メルキゼデクも破魔吸収である)
【賛美の光輪】は破魔貫通を持つとはいえ、あまりに効率が悪い。それならば弱点の衝撃で攻めるのが至極全うな攻め方である。だが、弱点である衝撃魔術を受けてもメルキゼデクは全く退かない。
それどころか、返って力が増しているぐらいである。
これはメルキゼデクが有しているスキル【力の祝福】に秘密がある。
このスキルには【自身のHPが50%以下のとき、受けるダメージが60%減少、与えるダメージを50%増加】というダメージを負えばば負うほど攻撃力も防御力も飛躍的に向上するという特性がある。
つまり、弱点のマハザンマでいい感じにダメージを負った今のメルキゼデクはまさに絶好調! なのだ。
「善因には善果あるべし! 悪因には悪果あるべし!
害なす者は害されるべし! 災いなす者は呪われるべし!」
ハマザンマを受けながらも、メルキゼデクは拳を握りしめながら、猛烈な勢いでフラロウス・ハレルへと接近し、そのままアッパーカットの勢いで自らの必殺の拳をフラロウス・ハレルへと叩きこむ。
「
その一撃は、フラロウス・ハレルの加えている巻物を打ち壊し、胴体部の豹の口中を見事にぶち抜く。
さらに、その勢いでぶち抜きながらアッパーカットの勢いで上方に飛翔し、反転して隠れ過激派のど真ん中に消え去りかけているフラロウス・ハレルを叩き込む。
こうして、この事件は解決したのだった。
……なお、この事件の後、幼女ネキの助言*15もあって&功績をあげたことによって、凍矢や静たちのビジネスライク的態度は緩和され、しっかりと装備や支援なども行われるようになったようである。