──少し先の未来。色々あって魚沼シェルターの凍矢たちが戦力を摩耗してしまった際、
一人の黒札が魚沼シェルターへとやってきた。
彼女の名前は北斎ネキ……葛城北斗。元は男性のTS魔法少女である彼女はいわゆる修羅勢の中でもさらにガンギマリであり、奥地にずっと留まって戦っていた中で気づいたらもう終末が終わっていたほどの強者(LV100オーバー)である。*1
そんな彼女は、自分の機体を求めてここ魚沼シェルターまでやってきたのだが、疲弊した魚沼シェルターでは早期に機体を作るのが難しかったため、しばらくここに留まる事になったのである。
そして、しばらく魚沼シェルターで住む代償として、彼女は来る際に戦ったシンジとほむらを鍛え上げるための模擬戦を行っていたのだ。
彼女的には現地民などどうでもいい、という現地民軽視勢。つまり無自覚ながら嫌悪を含んだ無関心ではあるが、偶然戦ったシンジを見て、粗削りだが中々面白いやん、と僅かだが興味を持ったのである。
──―広がる一面の海とも言える海面。そこは北斎ネキが作り出された『水面展開』で作り上げた世界である。そんな中に佇んでいるのはシキガミや仲魔なしで、自らの巨大な筆を手にしながら水面に佇んでいる北斎ネキ。そして、彼女に対して、疾駆して接近している二人の影だ。
「行くわよシンジ!! アタシと合わせなさい!!」
それは両手で刀を装備している二刀流の『秋葉ほむら』と、すでに血中のデモノイド『強殖生物』から生体甲殻ガイバー・ギガンティックを装備している『法龍院シンジ』である。
すでに巨人殖装を装備しているシンジは、高周波ブレードを展開し、水面から無数に飛び出した触手に対してその刃を振るう。
「うぉおおお!! 食らえぇええ!! 【空間殺法】ッ!!」」
シンジの高周波ブレードは彼の書かれた絵のキャンバスである『空間』自体を切り裂く。
キャンバス自体を切り裂けばその上に書かれた絵は使い物にならない。そう踏んだからである。
遥かに格上である彼との戦いにより、シンジの戦いはただの喧嘩殺法からより洗練された独自の格闘術へと変化していった。
《そうだシンジ! 防衛に回ったら我々は磨り潰される!! ひたすら前に出ろ!
援護は俺が行う!!》
水面を駆け抜けながら、高周波ブレードや二刀流で触手を切り払いながらこちらに突き進んでくる二人を見て、北斎ネキは満足げに頷く。
「そうそう、君の強みはその強さだけじゃない。
君の本質の強さはアジ・ダハーカの肉体の強さに加えて『千の魔術』。つまり、幅広い汎用性だ。
アジ・ダハーカとシンジが力を合わせて戦えれば、君は上位レベルにも食い込むことができる。それを忘れちゃダメだよ」
いかに高レベルであろうが、人間の脳は一つしかない。
複数のマルチタスクを行えば、ほんの僅か、0,01秒にも満たないが隙は生まれる。
だが、シンジとアジ・ダハーカは事実上脳が二つあることで、シンジが攻撃をアジ・ダハーカが補助を行うことによって隙の少ないより高度な攻撃を繰り出すことができるのだ。
以前戦った時よりも、自我流とはいえ遥かに戦闘技術が向上しているシンジを見て、北斎ネキは満足げに頷く。
それと同時に、ほむらは脚部から炎を放出しながら、北斎ネキが使用している【水面展開】スキルが作り出した魔水に着水する。
その瞬間、北斎ネキが作り出した魔水とほむらの「ホノカグヅチ」の炎が霊的な反作用を引き起こし、水蒸気爆発を引き起こす。
だが、ほむらはその水蒸気爆発に巻き込まれる事なく、上手くその爆発を制御することによって自らの推進力へと変化させていく。
ほむらが水面を疾駆すると同時に連続で巻き起こる水蒸気爆発。
下手をすれば自分が巻き込まれてダメージを負うかもしれないその爆発と、背中から炎を吹き出しながら推進力へと変化させて疾駆しているほむらに対して、北斎ネキも呆れた表情を見せる。
「やれやれ。派手なことだ。でもそれは自分の居場所を敵に教えているような物だよ」
北斎ネキは、自らの筆で絵筆『ホクサイ』を振るい、かつて戦った龍神ラハブに似た龍を筆で書き出し、それをほむらへと差し向ける。
だが、その筆で書きだしたヒトの形に似た顔を持つ巨大な龍神に臆する事無く、ほむらは両手の日本刀にホノカグヅチの豪炎を纏わせて刃を振るう。
ほむらの豪炎の刃は、絵で描かれたラハブの肉体を両断すると同時に、瞬時に火炎が肉体に広がっていきラハブは燃えながらそのまま消滅していく。
いかに強くとも、北斎ネキが描くのは『絵画』という概念である。
そして、『絵画』という概念である以上、極めて炎に弱いという性質からは逃れられない。
特に北斎ネキは空間をキャンバスとしている上に、水系統のクトゥルーという性質上、やはり火炎に弱いという性質からは逃れられない。
つまり、ほむらの能力は北斎ネキ……悪魔絵師の天敵といってもいい。
もちろん、通常の炎であれば北斎ネキの絵画が焼き尽くされるということはない。
だが、ほむらの炎は神すらを滅ぼす神殺しのホノカグヅチの火炎。クトゥグァに近しいホノカグヅチの火炎は、空間をキャンバスとした北斎ネキの『絵画』ですら焼き尽くす能力を有している。水系統のクトゥルー&絵画を操る北斎ネキにはかなり刺さるタイプではある。
簡単にいうと『相性が悪い敵』というわけだ。
(なるほど。相性的に僕と彼女では合わないというわけか。ならばこうする!)
だが、いかに相性が悪いと言ってもその圧倒的なLV差まではひっくり返せない。
北斎ネキは筆を振るうと、ほむらの真上に数十体のタンカーを書き上げる。もちろん、重油満載のタンカーである。
まるで雨のように降り注ぐタンカー。しかもこれを切り裂けば連鎖的に爆発することは間違いない。ほむらは跳躍してタンカーを駆け上がりながらそれらの無数のタンカーを回避していく。
だが、それでも回避しきれないタンカーを切り裂いて、その炎で連鎖的に爆発に巻き込まれながら、ほむらはシンジに対して叫びを上げる。
「今だ!! やりなさいシンジ!!」
それに答えて、ほむらを囮にしながらある程度北斎ネキに近づいていたシンジは、重力制御で浮遊しつつ生体スラスターを全力で稼働させさらに速度を増す。
だが、北斎ネキもその程度で慌てることはせず、筆を振るってシンジを迎撃する。その北斎ネキの攻撃に対して、シンジとアジ・ダハーカも最小限での回避を行う。海水から溢れる津波を、【マハアクエス】で津波をごく一部だけ制御し、【マハブフーラ】で凍らせる事で氷の障壁を作り出し、自分への最低限の被害を反らす。
さらに、シンジは海に浮いているタンカーを石化魔術でタンカーごと石化させて爆発を防ぐ。
それに対して、北斎ネキはさらにぶくぶくの術のシャボン玉を差し向けてくるが、それに対しては疾風魔術である【ガルダイン】を叩き込む。
シャボン玉の弱点、それは『風』である。
シャボン玉はその性質上いかに攻撃力があろうと強烈な風に逆らうことができない。
例えガルダインで迎撃できなくともいい。吹いてくる方向さえ変えてやればいいだけである。その風によってお互いに接触したシャボン玉は、内包されていた【螺旋丸】の威力を発動させ次々と爆発していく。
「出し惜しみするな!! 模擬戦闘でも油断したら死ぬぞ!! それほどの怪物だ!!」
《ちぃ…………! 仕方あるまい。【マホロギ】ッ!! *4》
アジ・ダハーカがそう叫んだ瞬間、シンジの周囲に異質な結界が構築される。
これは、一切の魔術を無効化する極めて特殊な結界……遺失魔術の一つである。
それはいかに高度な北斎ネキの絵画魔術でも例外ではない。その結界に北斎ネキの無数の水槍が侵入した瞬間、その水槍は瞬時に無効化されて消去された。
だが、いかんぜんLVが違いすぎるので、北斎ネキを数撃無効化するので一杯一杯であったが、まったく知らない未知数の魔術に歴戦の北斎ネキもほんの一瞬だが驚きを示す。
「…………ッ!? そんな魔術が!?」
メシア教の根切りなどによってもはや失われたとされる古代の魔術。
だが、太古より存在しており千の魔術を扱えるアジ・ダハーカは、その失われたはずの太古の遺失呪文を知っているところか使いこなす事すらできるのだ。
そして、一切の魔術を使えない&無効化する結界は、無論北斎ネキの絵画魔術に対しても通用する。その点では北斎ネキにはまさに天敵の魔術と言えた。
しかし、無効化するのにも当然限界はある。
こちらより遥かにLVの高い北斎ネキの攻撃に対して、マホロギの結界はたちまち飽和状態になり消失していく。だが、それでも十分北斎ネキへの間合いを詰めることはできた。
歴戦の修羅勢である北斎ネキは知らない魔術でもほんの一瞬動揺しただけで体勢を立て直す。
だが、その一瞬は、この次元のハイスピードバトルにとっては貴重すぎた。
《はははは!! 貴様が言ったことだぞ!! 我の特色は千の魔術!! ならば貴様たちが知らぬ特殊魔術を使って攪乱するが道理よ!!
【イルジオ】*5!! 【マグラ】*6!! 【ベリラー】*7ッ!!
やれ!! MPは心配するな! 我が何とかする!!》
シンジの幻影が何重にも浮かび上がり、構築されたブラックホールが北斎ネキの絵画魔術を飲み込んで無効化されていく。
しかし、これもマホロギ同様遥かに上の北斎ネキの攻撃を数撃程度無効化できる程度にできない。
だが、シンジにとってはそれで充分である。
(これが単純な幻影なら【デイル】*8で消し去ることができるのだが…………。期待はしないほうがよさそうだな。我の切り札を切らせるとは流石トップレベルの黒札よ!!)
そして、北斎ネキに対して近づいた所で、シンジは特殊ガラス製の試験菅を取り出す。肩から生えた蛇であるアジ・ダハーカはそれを口で器用に開けて、一気に飲み干す。
そこに入っていたのはほむらのホノカグヅチの力が込められた血液である。
純粋な人間ではなく、魔人である彼は自らMAGを生み出すことが難しい。そのため、大技を使う際には、こうやって高濃度のMAGを補充する必要性がある。
『くぅ~~! 来た来た来たァ!! やっぱりこの血は効くよなぁ!! やれシンジ!! こちらの準備は万全だ!!』
「応ッ!!」
それと同時に、シンジは自らの生体マグネタイトの過剰燃焼を行い、霊基規模を膨張させる文字通りの切り札────巨人殖装を越える巨神殖装、ガイバー・ギガンティックXDを発動させる。
だが、彼の新たな『切り札』を行うには時間がかかる。その時間をどう稼ぐべきか、とシンジが考えている中、ほむらのいた多数のタンカーが爆発した場所から鋭い「何か」が北斎ネキへと空を切りながら飛んでいく。それは、ほむらが手にしている日本刀である。
猛烈な勢いで飛翔する日本刀だが、北斎ネキは自らの筆でそれを受け止める。
だが、それはただの日本刀ではない。その柄には紐のような物……幌金縄が結び付けられていたのだ。
幌金縄はまるで生き物のように動き、北斎ネキの両手に絡みつき、彼女の両手を束縛する。
いかに悪魔絵師といえど、両手を使えなければ絵を描くことはできない。実にシンプルな理由である。
「ついでにこれでも食らいなさい!!【火之迦具土】*9&【火炎ハイブースタ】&【マハラギバリオン】!!」
ほむらの背後から、【火之迦具土】の連動効果である無数の火球と消沈効果、さらにほむら自身が放ったマハラギバリオンが北斎ネキに叩き込まれる。
それらは、何とか北斎ネキのぶくぶくの術のシャボン玉で相殺されるが、時間稼ぎには十分すぎた。
「今だ! 食らえ!! 《グラビティ・インプロージョン》!!」
シンジ……ガイバー・ギガンティックXDは探求ネキやシラカワニキたちの重力子の研究による、グライ系能力の最上級であるマイクロブラックホールの射出。
それが彼の切り札である。全てを重力の底へと叩き落して消滅させようとする漆黒の穴は、全てを飲み込み、吸収しながら北斎ネキへと迫る。
本気に北斎ネキを殲滅するつもりの攻撃。だがこれくらいしなければLV差がありすぎて攻撃が通用しないのだ。
それを見て、北斎ネキは口で自らの魔筆を咥えると、そのまま口で咥えたまま筆を振るい、同じようなマイクロブラックホールを生み出す。
マイクロブラックホールとマイクロブラックホール同士が対消滅し、ほむらとシンジは吹き飛ばされる事によって、模擬戦闘は終了した。
「いやー。中々面白かった。現地人にしてはやるねあの子たち」
北斎ネキは、シンジやほむらの事を音が出るオモチャだと思ってるんじゃないか? と思っているが、実際このLVの二人を鍛えてくれて実戦経験を積ませてくれるのはありがたい以上の言葉がない。
基本的に現地民は嫌いな北斎ネキではあるが、彼女が魚沼シェルターに来た際に戦ったことのある縁もあって、ちょくちょくシンジとの模擬戦闘を行って鍛えてくれているのだ。
今までソロで潜っていた彼女にとっては、他人に物事を教えるのは彼女にとって中々面白い体験らしい。
ガチの修羅勢である彼女は模擬戦闘でも「死ななければ安い」「死んで覚えろ」方式で行ってはいるのだが、凍矢配下であるシンジとほむらの命を奪うのは流石にまずいか……とかなり手加減してくれたらしい。
さらに自らの仲魔やシキガミも出さないほど手加減してくれたのだ。
汗もかかずに生き生きとしている北斎ネキに対して、彼女のシキガミである『ルルイエ異本』は彼女に対して、皿を差し出す。そこにあるのは、魚沼シェルターで作られた*10『仙桃』*11とそれを切った『仙桃の果実』*12である。切られている仙桃の果実はともかく、仙桃は皮も剥かずにそのままドンと皿の上に置かれている。
山梨や福島など桃の産地では、桃を皮ごと食べるように勧められるので、冷やしてそのまま皿の上に置かれた仙桃を、北斎ネキは手にしてそのまま齧って感嘆の声を上げる。
「ん~! これはイケるね!! 正直地方を甘く見ていた感じはある。僕が思っていたよりも面白い物があるじゃん。山梨から出てきて良かったわ」
ともあれ、北斎ネキに模擬戦闘としてのお礼として異界『黄泉平坂』から派生した果樹園の『仙桃』を与えてお気に召したらしいのを見て、凍矢はほっとした。
下手に加工した食品を与えるとジャンニキと比べられて「こんなものか~」とがっくりされてしまうため、さらば素材の味そのもので勝負! と勝負をかけたのだが、何とか上手く行ったようである。
(北斎ネキも人間性を代償に捧げての強さだからなぁ…………。もっと色々な楽しみを見つけないとマジで山梨支部に籠る仙人的存在になりそうだけど…………)
彼女は半終末からほとんど山梨支部のダンジョンに籠っていた筋金入りの修羅勢である。だが、籠りすぎて情報や現世にかなり疎くなってしまっているという、最早半分仙人化しているような人物である。
このままでは俗世から外れたガチ仙人になりかねないので、色々な漫画やアニメやら楽しみやらを覚えさせてもっと人間性を補充させたいというのが凍矢の本音だ。
ここ魚沼シェルターも呉支部ほどに大々的な居心地のいいホテルなどはあまり存在していないが、それでも全力で居心地のいい場所にするように努力するつもりではある。
個人的に北斎ネキには「もっと色々な楽しみを見つけて人間性補充させたい」と「ここに留まって防衛に力を貸してしてほしい」という心が二つある~な二律背反な気持ちが混じっているが、あんまり引き留めると逆効果になって二度と来なくなる、と同じ黒札同士なら不文律はわかっている。
こういう時は「まあ気が向いたら来てくれよな~よろしく」程度に留めておいたほうが来てくれやすくなのである。
ともあれ、そんな風に割と楽し気な北斎ネキを見て、凍矢は思わずほっとした。
その後、凍矢は救護室へとやってきてシンジやほむらの状態を確認しにくる。
根っからの修羅勢である北斎ネキは「死んでないならいいでしょ?」の勢いで模擬戦でも攻撃を仕掛けてくる。回復魔術でほぼ回復しているのを見て、思わずほっとする。
これだけの強敵と戦ったのなら、さらなる限界突破を行っても不思議ではないだろうが、あれほどの強敵と戦って十分戦闘技術を積んだんだし、ゆっくり休んでほしい、と思ったら、ほむらはベッドの上に存在していなかった。あの程度でどうにかしていられるか、とさっさと仕事に戻ってしまったらしい。
ほむらの負けん気の強さに思わず頭を痛めながらも、ベッドで寝ていたシンジの寝顔を見て安心する。
だが、そんな彼の元に今度はシンジの肩からにょろり、と出てきたアジ・ダハーカの蛇の首がゲラゲラと笑い出す。
『いやぁ負けた負けた。何なのあの怪物。神話の英雄スラエータオナすらかなわないとかガチ神霊の本霊クラスじゃないか。あれほどの相手がいるとは世界は広い……いや、やはり黒札恐るべし、か』
シンジが寝ている中、アジ・ダハーカはゲラゲラ笑いながら言葉を放つ。現世エンジョイ勢である彼にとってみれば、これほど強さの敵に戦えるなど、十分満足らしい。
手首ならともかく、肩から生えるとなるとアジ・ダハーカと同一視されるザッハークの因子がシンジに流れ込みそうだけど、人の脳食べなければ大丈夫だろ……多分、と凍矢は判断する。
『ああ、そういえば、この地に我が沸いたのも偶然ではないぞ?
貴様が倒したミトラスがいただろう? あれはインド・イラン共有の神としての側面を持つ。
インドのほうでは契約の神と太陽神としてのミトラ神、そしてイランではミスラ神として崇められており、インド神話、ゾロアスター教両方で崇められている。それを倒した事が縁になって、この地はインド・ゾロアスター教が比較的出現しやすくなっている。インド神話は自らのホームグラウンドがあるが、ゾロアスター教はほとんどないから必然的にワンチャンかけてこの地に降臨してくるのが多くなるんじゃないか?』
インドでは、ミトラ神はヴァルナと強く結びつき、ミトラ=ヴァルナとして結びついている。
だがその後権威は失墜し、ほとんど忘れられた神へと変貌してしまう。
一方、イラン……ゾロアスター教ではミスラは強く信仰され、主神として崇められた事もある。
ミスラは司法神であり、光明神であり、闇を打ち払う戦士・軍神であり、牧畜の守護神としても崇められた。
また、元々はミスラは「ミトラはアフラ・マズダーと同等」という記述もあり、それほど強く崇められていたのだ。そして、そのインド・イラン両方共有の神であるミトラスを召喚したことによって、この地にそれらの神々が比較的召喚しやすくなったのは皮肉といえるだろう。
「なるほど……。その影響もあってゾロアスター教・インド系列の神が比較的出現しやすい訳か」
『そういう事。ああ、戦士でもあり牧畜の守護神だからってミトラ・ミスラ系統は呼び出さない方がいいんじゃないか? またメタトロンにしようとするメシア教がわらわら沸いてくるからな』
ヒマラヤ山脈で防衛線を行っていたインド勢力はともかく、イランはやはりメインはイスラム教である。
対アバドンで激戦を行っている所で、ほとんど滅びかけているゾロアスター教をわざわざ信仰するなど考えにくいところではある。
そのため、本来の拠点であるイランよりも、理想郷で人も多く、人々の信仰を集められる可能性の高い日本へと縋り付いてくるのは不思議ではない。
『まっ! これからも色々大変だろうけど頑張れや!! ゾロアスター教からしてみたら、ここは理想郷への小さい細い道なんだからそりゃ血眼になって干渉したがるだろうな!』
ゲラゲラゲラとシンジの肩から顔を覗かせながらせせら笑うアジ・ダハーカに対して、凍矢は思わず深いため息をついた。
なおその後、アジ・ダハーカは技術班にジャンプしろ!! と言われた模様。
技術班「オラッ! 吐けっ! 他にも特殊な魔術持ってるんだろ!! ジャンプしろ!! 遺失呪文をスキルカード化するんだよ!!」
アジ・ダハーカ《や、やめろぉおおお!!》