アウトローというと真っ先にダッチたちを思い浮かんだので使ってみました。
魚沼シェルター、第一障壁外部。
他シェルターと同じように第一外壁に張り付くようにバラックで作り上げられていたスラム街がここでも作られていた。
終末時にシェルターに入れなかった人々、またはシェルターから追い出された人々は、第一外壁にへばりつくようにしてバラックなどを作って生活していた。
第一次外壁建設が完成した魚沼シェルターだが、彼らスラム街の住人はその外壁に張り付くようにして様々なバラックを作って生存している。
シェルター外のスラムなど見捨てるシェルターが多いが、魚沼シェルターではご丁寧に【水源】であるアクアストーン(弱)を用意し、【充電所】や【炊事場】まで作って彼らをある程度保護している。
それは戦後の闇市などを彷彿とさせる雑多な環境であり、彼らはその内部で逞しく生活を行っていた。
横流し品の食糧やら、それを利用して作られたどぶろくやらを売りさばいて客を呼び寄せる声などが景気よく響き渡っていた。
「え~ドブロク、ドブロクはいらんかね~。カストリ酒もあるよ~。」
「テラ麦! 横流しのテラ麦から作られたビールがあるよ! どうだい!? 食べていかないかい!?」
「こっちは横流しのテラ麦から作られたパンもあるぜ! どうだ!?」
そして、そんな呼び込みの中、彼らなりの賭け事を行いマッカの破片や悪魔の素材などを賭けて日々の糧とする逞しい人々なども存在していた。例えば酒ガチャなどであちこちから持ち寄った酒を見ないようにして「当たり」「外れ」を飲んでみて引く酒ロシアンルーレットなどである。
当たりを引いた人が勝ち。持ち寄ったマッカの欠片やら悪魔の素材やらを勝ったら独り占めできる賭け事だ。*1そして、その中でカップに入れられた酒を口にした一人は勢いよく口にした酒をブーッ! と噴き出した。
「おい! これ多神のクソ酒*2じゃねーか!! 悪魔化したらどうするんだボケ!!」
「アッハッハ!! 他の酒で薄めてるから大丈夫大丈夫!! なに? そっちは穏健派のクソワイン? よし! なら俺の勝ちだな!!」
そんなこんなで厳しい環境ながら順応しているスラム街の住人たちだったが、そんな中、彼らの生活を一変させる情報がシェルター内部から通達された。
それは、このスラム街を余所に移転させるという移転計画である。その通達に、スラム街の住人たちは一斉に反発を起こしていきり立った。
「おい! ふざけるな!! ここは俺たちが作り上げた俺たちの場所だ!! 勝手に取り上げるな!!」
「そうよ! 何様のつもりなの!?」
スラム街や闇市の住人は一斉に猛烈な反発を行う。
確かにここは彼ら自身が作り上げた場所ではあるが、彼らは勝手にシェルター周辺の土地を占拠している不法滞在者でしかない。
シェルター近辺の土地、空気、水などを勝手に使って勝手に生活しているという、シェルター住民にとっては厄介者である。彼らはシェルターの水や空気、土などの恩恵を勝手に受けながらも、それに感謝せずに勝手に所有権を主張するので質が悪い。
だが、その苛烈な環境故か、彼らは覚醒者であることが多い。そのため、静直轄の黒騎士部隊がずらりと並んで彼らを威嚇している。もし暴れたとしても到底敵うわけがない。
そんな中、スラム街の纏め役である巨漢のサングラスをかけた黒人である、通称「ダッチ」と呼ばれる人間が前に出てきて黒騎士部隊と対峙して、怯える事無く堂々と黒騎士部隊と言葉を交わす。
「ちょっと聞かせてほしいんですがね。我々に場所の立ち退きということは、結界外にまで追い出すってことですかい?」
「いや、新しく第二外壁と結界を広げる予定地内部に君たちは移動されることになる。
きちんとした結界内に保護するから、君たちの安全も保障されるはずだ。」
「……つまり、俺たちをシェルターの住人として取り込む。そういうことで?」
「……そういう事になる。だが、当然条件は存在する。
一つ、我々シェルターの法律、並びに上層部の命令に従ってもらう。
もう一つ、君たちの居場所は結界最外周部へと移動する形になる。
君たちは仮のシェルター住民となって、試験を受けて合格したのなら正式な住民として認められる」
ざわざわとスラム街の住人たちはその言葉にまたざわめきだす。スラム街の住人たちは安全なシェルターの住人になれる事を夢見ている。それが転がってくるなんてマジか? という顔になるのは当然である。
それに続いて、黒騎士部隊はさらに詳しい説明を行っていく。
第一外壁の近くの土地は、外に出て開拓を希望しているきちんとしたシェルター住民。
そこから少し離れた土地は、何とか避難してきた難民たちに与えられる。
そして、ここに出てきたスラム街の住民たちは、彼らは移動して第二外壁の予定地である結界最外周部へと回され、そこの開拓を頑張ってもらう事になる。
そこの開拓が成功すればそこの土地を与えられ、仮のシェルター住民になる権利も与えられる。
最も危険な部分へ移動してもらう代わりに、安全な生活と仮シェルター住民になる権利を与えるから開拓を頑張ってくれ、という意味合いである。
その過程でシェルター入所テストなども行われ、そこで合格したら正式にシェルター住民になれる予定である。
「……とりあえずこの話は一旦時間を置いてもらっていいですかい? こちらも住民を抑えるための時間が必要なので。」
「……いいだろう。一旦我々も帰還する。良い反応を期待する。」
──―スラム街のとあるバラック。その内部にはこのスラム街のまとめ役である、運よくアメリカからここまで逃れる事ができた黒人の「ダッチ」。そのダッチの護衛である二丁拳銃……もとい二刀ナイフ使いの「レヴィ」。そして「ダッチ」のブレインとして活躍しているカッターシャツとネクタイ、スラックス姿で固めている日本人の「ロック」である。
ロックは元々はシルバーであったが、色々あってスラム街に戻ってきた「シルバー崩れ」である。
シルバーであるため、実務経験や事務作業、そしてシェルター内部の情報に詳しいというダッチからしたら手放せないブレインである。
ロックはダッチから話を聞いて、ふむ、と顎に手を当てて考える。
「どうやら、シェルター上層部は本気で俺たちを取り込む気らしいな。
向こうが本気なら俺たちなんて問答無用で排除されるんだ。そんな相手にわざわざこんな事を行う必要などない」
「おいおい! だったらここはゴネてこっちに有利な条件を引き出すのがいいんじゃないか!?」
それに釣られて、用心棒のレヴィはこちらに対して優位な条件を引き出すのに交渉すべき、と提案してみる。だが、それに対してロックは首を振る。
いかに覚醒者が多いスラム街だと言っても、戦力が圧倒的に違いすぎる。その気になればこんなスラム街など容易く殲滅されられるだろう。
「いや、戦力が圧倒的に違いすぎる。ここは大人しく向こうに従っておこう。とはいっても小細工はするが……。騒いでいるスラム街の奴らはほとんどが覚醒者だ。シェルター上層部には敵わないが、それでも未覚醒者が大量にいるシェルター内部から見れば脅威だ。それを俺たちが治めて向こうに俺たちの能力のアピールをする。まあ一種のプロレスというか能力アピールか。
元からここのシェルターの長の黒札様はかなり『甘い』んだ。俺たちが入り込む隙は十分にあるさ」
シェルター外のスラムなど見捨てるシェルターが多いが、魚沼シェルターではご丁寧に【井戸】や【水源】、【充電所】や【炊事場】まで作って彼らをある程度保護している。
水源ならまだしも、充電所や炊事場まで作っているのは、かなり甘いシェルターである事は明白である。
そこに十分つけ込む隙はある、と踏んでいるロックではあるが、舐めた真似をすれば即時に殲滅させられることは流石に彼も理解している。
「向こうからの情報によれば、俺たちは第二次外壁用に広げられた結界の外周部へと移動させられるらしい。外周部といってもギリギリのところだった今よりもきちんと結界で守られる予定だ。
外周部の土地を開拓すれば、そこが俺たちの土地になるし、きちんと結界に守られる形になる。
……まあ、第二次外壁が完成するまでは悪魔から襲われる危険性はそれなりに高いが結界に守られている以上今よりだいぶマシになるだろう。」
簡単に図に表すとこんな風になる予定である。
結 界 外 部
(第二外壁予定地)
────────
元スラム街住人 新
元 難 民 結
開拓希望者たち 界
────────
第 一 外 壁
つまり、簡単にいえばスラム街の人間たちをいざという時の肉盾にして使おうという考えだ。
最外周部の彼らを盾に使って、中心部に元難民たち、最内周部に外に出て開拓成り上がりを考えているシェルター内の人々が入る予定である。
スラム街の人間からすれば人間の盾として使われて面白くないのは事実ではあるが、それでもきちんと結界内に保護してくれて、開拓すれば自分たちの土地まで獲得できるのだ。
スラム街の人間からしたら文句のつけようもない状況である。
「向こうはかなり甘いからな。きちんと仕事さえこなせていればこのまま取り込んでくれるだろう。
だが、舐めたことをやってると容赦なく結界から追い出されるから、きちんと仕事はこなして、舐めた奴は俺たちが追い出さないとな。」
「あったりまえよ! せっかくやってきたこの大チャンス! 逃さない手はないぜ! アタシは他の顔役に連絡してくる! しっかりとはねっ返りが出ないようにしないとな!!」
「ああ、スラム街の纏めは任せておけ。きちんと俺たちのほうで従わない奴らは分からせておくさ。」
彼らスラム街の住人からしたら、場所を移動して、お行儀よくするだけでシェルター内部の住人になれる(かもしれない)という大チャンスである。こんな大チャンスを逃す手などない。これに異議を唱える奴らは「初めから存在しなかった」事になるだろう。何なら彼ら自身の手で結界外にたたき出す追放刑ぐらいはやってもいい。そのためにスラム街全ての意思統一を行っておかなければならない。
そのために、レヴィは他のスラム街の力ある人たちにも話を持っていくために外に出ていった。そして、レヴィが出ていった後で、ダッチはロックを鋭い目で睨みつける。
「まあ、お嬢がいないから言っておくが……。お前、「内」の紐付きだろ?」
底冷えした雰囲気を出しているダッチの目線は、サングラスによって隠れているが、思わず背筋が伸びたロックに対して、ダッチはさらに言葉を続ける。
「あそこまで「内」の内部に詳しい情報を持っていて、頭も切れて「内」との交渉能力もある奴がシルバー崩れでスラム街に戻ってくる? お前ほどの能力を持っている奴を手放すなんてバカがいるのか?
だとしたらそれは相当節穴だろうな。そうなれば、自然と答えは一つだ。内の指示を受けた紐付きとしてここ内部の監視を行い、さらに決断の流れを「内」の都合のいいように導く。こんなところだろう?」
一見無防備にタバコ……ではなくタバコもどきを吸いながら、ダッチは話を続ける。
ここでダッチを殺せば全てがご破算だ。スラム街をこちらに取り込むという話がメチャクチャになってしまう。こちらに危害を与えないつもりを確認して、ロックは問いかける。
「……で? そうだとしたら俺をどうするつもりだ? 命を奪うのか?」
「いいや? 何も? それどころかお前が「内」と紐付きなら、これは「マジ話」ってことだ。
分のいい確実に勝てる賭けに賭けないなんて馬鹿のやることだぜ。喜んで協力させてもらうさ。」
ロックが「内」の紐付きというのなら、シェルター上層部は交渉でこちらを平穏に取り込みたいという事の証である。それはスラム街にとっても、シェルター上層部にとってもお互い利益のある関係になれるということだ。シェルターは治安や性質は良くないが大量の覚醒者を手に入れ、労働力兼いざというときに肉盾にする。スラム街は夢にまで見た安全なシェルター内部の住人になれる(かもしれない)。
こんな美味い話をご破算にするなど阿呆のやることだろう。
ここでロックが消されたらスラム街は根こそぎ消される可能性が高い。何としても確保せにゃならん、とダッチは考えていた。
「ああ、お行儀はよくさせるし、良くない奴はこちらの方で「言い聞かせ」はしておくぜ。
それで気に入らない奴らは、第二外壁予定の外に放り出してしまえばいい。
まあ、そういう奴らがまた外にスラム街を作り出すだろうが、それは仕方ないな。」
ダッチはタバコもどきの煙を再度吐き出して、さらに言葉を続ける。
「しかし、となると問題はスラム街に潜むメシア教のスパイどもか。スラム街は潜むのにもシェルターの情報収集するのにも最適解だしなぁ。ほかの顔役と協力して徹底的に狩るしかないか。
……どうでもいいけど、メシア教過激派の奴ら、何でこのシェルターを執拗に狙ってくるんだ?
人口なら新潟市シェルターのほうが遥かに多いだろ? まあ、向こうにも黒札様はいるらしいが……。」
「何でも過激派はこのシェルターを「ガイア連合の大規模兵器造兵廠」だと思い込んでるんじゃないか? *3という考えが多数を占めているらしい。散々陰謀を潰された恨みに合わせて、さらに兵器製造工場だと思っているから叩き潰せばガイア連合の力を削げると思い込んでいるんじゃないか、との話だ。まあ、確かにこのシェルターは他シェルターたちと繋がりがある重要拠点であることは間違いないが、過激派は極端に重要視しているというか……。」
肩を竦めてそう答えるロックに対して、ダッチはバラックの天井を見上げて思わずぼやく。
「まさか、ここの黒札様がクズリュウやらミトラスやらをボコったっていうのはマジ話だったのかよ……。そんな怪物に俺たちがどうこうできるわけねぇじゃん……。下手に欲をかくよりも土下座外交でいくしかねぇよなぁ……。」
第一外壁の外、新結界が張られた移住予定地を、ほむら率いる人外ハンターたちと静配下の黒騎士部隊が正確な検地を行う兼魔蟲発生を除去するために念入りに歩き回っていた。
結界内に悪魔は存在しないはずだが、それでもまだ無数の魔蟲は残っており、これが集まって新たな悪魔へと誕生する事もありえる。
人外ハンターたちは、手にした消防用のインパルス放水銃を改造して、アクアストーン(弱)から浄化の力を持つ霊水を放つことができる「霊水放射銃」から霊水を撒く事によって魔蟲たちを駆逐していく。
そして魔蟲を駆逐した後で地鎮祭を行い、人が住める場所にするのである。さらに、彼らの傍には異形の悪魔……九尾九頭の小型の蛇、もとい竜が寄り添っていた。
「キュ~!!」
それはおよそ30cmほどの小型のクズリュウ。「キュー」*4と名付けられた凍矢たちの半ばペットと化している存在である。
>【未熟なクズリュウ】LV20(龍王ノヅチと同じ性能)
元々は凍矢の体についていたクズリュウの破片が成長して、ミニクズリュウとして独立した存在である。
そのミニクズリュウは、口を開けると、その九つの口から開拓予定地に無数に存在する魔蟲を物凄い勢いで吸収している。
無数の魔蟲を吸収して食らいつくして、それを自分自身の力にしようというのである。
移動しながら猛烈な勢いで魔蟲を掃除機のように次々と根こそぎ魔蟲を吸い取って食い尽くしていく。この程度の魔蟲はクズリュウ的には大した足しにはならないが、おやつ替わりにはなる。
だが、この土地に蔓延る魔蟲を根こそぎ食らいつくさんとしているのに対して、魔蟲たちも対抗手段に出る。魔蟲たちは身を守るために収束して、悪魔へと変化してミニクズリュウに対抗せんと姿を作り上げる。
それは「妖鬼オニ」だった。*5
だが、そんなオニに対して逃げ回るほど弱い存在ではない。小さくとも、弱くとも彼はクズリュウである。
「キュウゥウウウウウ!! 【九頭竜】*6【轟く奔流】*7!!」
ミニクズリュウ「キュー」はスキル【九頭竜】に加えて【轟く奔流】を発動させる。
これは本家本元のクズリュウが使いこなしていた【山津波】とは別のスキルであり、冷却系の能力である。
力を失い、凍矢のMAGの影響を多大に受けたこのミニクズリュウは、凍矢の力である冷気系の能力を使えるように変化したのである。
いずれは【山津波】も使えるようになるかもしれないが、今の未熟なクズリュウでは到底そこまで使いこなせない。そのため、凍矢の影響を受けた独自の冷却攻撃を行うように進化したのだ。
凍矢譲りの冷気攻撃、【轟く奔流】をまともに食らったオニは、一瞬で消滅していく。そのあっさりと悪魔を倒したクズリュウ「キュー」はまた再び魔蟲を食らいつくす作業に戻っていった。
「よし! こちらはこちらで仕事を行うぞ! 霊水銃放射!!」
そうして、新結界予定地を彼らは浄化していった。