新潟県上越市、旧東頸城郡に存在するとある村。
上越市シェルターから少し離れた場所に、とある小さな村が運よく結界を張って存在していた。
メシア教すらも大した価値はない、と見離されて昔から残っていたその結界は、ガイア連合製からしたらまるでダンボールのような弱さである。
はっきり言ってこれで終末を乗り切れたのは奇跡と言って等しい。
この村が崇める『風巻神社』の神、級長津彦命、級長戸辺命が復活して何とか結界を強化したからこそ乗り切ったのである。
級長津彦命……シナド様*1は、基本的に村をある程度守りながら、そこを起点として人間たちをじっと見定めている。*2
まるでそれはこの世界、人間自体を見定めているようで、村人たちは畏怖と敬意を持ちながら、シナド様に接している。そして、その村の中でも村のデビルバスターのエースとして一人の青年が存在した。
彼の名前は『里見 柊弥』
新田氏の庶宗である里見家から分家した越後里見氏のれっきとした末裔である。
越後国は鎌倉時代以来、里見氏と縁が深い土地であり、支族が根を下ろしていた。
実際かつて新潟県十日町市を支配していたのは里見一族だったのだ。
名家というよりも、昔ながらのれっきの武士の末裔である。武士の家系ではあるが、名家ではない彼は、小さな村であるということもあって、終末前後のバタバタもあってメシア教からの根切りを逃れて、DLV50(LV15)という立派なこの村のエースである。
シルバーカードで人外ハンター協会の一員である彼は、その実力を持ってこの村を守護していた。
だが、そんな彼はこの村の長老と真剣な会話を行っていた。
「……この村を捨てて、上越市シェルターと合流すると?」
「ああ、この状況でこんな小さな村で皆を守り切ることなどできない。
その内に皆で先細って死ぬのを待つよりも、金札様がおられる大きなシェルターに避難した方がいいじゃろう。DLV50のエースであるお主がいれば、上越市シェルターも喜んで受け入れてくれるじゃろう。
ワシらはな、黒札様や金札様にこびへつらわなければ生きていけない存在なんじゃ……」
この村は東西南北の物見櫓と木々で作られた柵、そして級長津彦命の風の結界によって守護されている。
発電機も何とか出資で購入した細々とした物。スマホも里見や他の何人かが持っているMAGバッテリー式の物が何個かあるだけだ。しかもスマホは消耗してしまうし、MAGバッテリーの補充にも一苦労。
エネミーソナーが使用できるスマホが使えなくなる前に、近くの大シェルターである上越市シェルターに避難しようというのは当然である。
こんな粗末な結界と木の柵程度では、大悪魔どころか、LVの低い悪魔の群れが一斉に襲い掛かってきたらあっという間に殲滅されてしまう。
上越市には越後一宮であり、かの『弥彦神社』と同格の『居多神社』が存在する。
祭神は、大国主命、奴奈川姫命、建御名方命、事代主命と大国主ファミリーを祭る神社だ。長野県から近いこの地では、諏訪大社の影響もあって建御名方命の信仰は根強い。
上越市シェルターに避難したら、それらの神の傘下に入るに等しい。天津神である級長津彦命は今より肩身が狭くなる事にもなりかねない。
「……上越市シェルターに避難するのは仕方ない。それは理解できる。けれど、ただ頭を下げ続けるのだけはどうなんだ? じゃあ俺達は何なんだ? ただの黒札様や金札様の寄生虫なのか? そうじゃねえだろ。俺達にだって意地があるんだよ!」
そう言い放つ里見に対して、同じ村を守護するデビルサマナーたちは視線を交わしながら答える。
「言いたいことはわかるし、賛同はする。けど、結局は力だよ。力がなければ何にもできない。力がない俺たちは、黒札様や金札様に土下座して保護してもらうしかないんだよ……。それが『現実』なんだ。仕方ないってやつさ。」
里見の言うことは理解できる。だが実際に力がなければそうする以外の手段がない、という現実の壁が立ち塞がっていた。別に里見は黒札に対して侮っているわけでも敵意があるわけでもない。
むしろこの世界を救ってくれた黒札とガイア連合に対してきちんと敬意をもっている。
だが、それに比べて現地民と彼らが呼ぶ*3、自分たち自身の不甲斐なさに腹を立てているのである。
もっと自分たち自身が力があれば、黒札様のお手を煩わせずに自立できれば、と力ない自分自身を責めている。そして、里見はそれを叶える正気とは思えない事を言い出して、そこにいた皆は驚きの顔を示した。
「コロッセウムゥ!? おいおい! マジかよ!! あそこはアメリカだろう!?」
「そ、そうだ!! 何でアメリカにまで行かなくちゃいけないんだ!! そもそもこんな状態で行けっこないだろ!? 大人しく金札様あたりに助けを求めろよ!!」
そう、里見が力が求めて言い出したのは、アメリカに存在する黒札の一人、『甘粕正彦』が作り出したアメリカに存在する大コロッセウム。*4そこに参加するというのだ。
そのコロッセウムでは剣闘士のように大悪魔やデビルバスターたちの戦い、もしくはデビルバスター同士の戦いが繰り広げられており、今やガイア連合の電脳チャンネル中でも大人気の番組となっている。
そして、DDS内部でも「求む勇気ある者たちよ! 来たれアメリカへ!」と大々的に宣伝を行っており、日本でもそれは知られている。(日本では血生臭いこのチャンネルはあまり好まれてはいないが)
そして、このコロッセウムに申し込むのは日本からでも可能だ。この場合、申し込んだら上越市シェルターから迎えが来て、中ターミナルを使用してアメリカの大コロッセウムへと転移させられる。
参加することだけは簡単だ。けれど生きて帰ってこれるのかは分からない。その狂気とも言える考えに、村の人々は大反対した。エースである彼がいなくなったら村はそれこそ滅び一直線へと向かってしまう。
だが、コロッセウムに参加する『勇者』にはその代償として報酬を前渡しで叶える権利が与えられる。これは「もし自分が死んだ時に家族の面倒をきちんと見てほしい」など言った要望を叶えるためだ。里見はその権限を使用して「自分が死んだらこの村の人々を上越市シェルターで保護してほしい」という頼みに使用した。
「黒札様や金札様に媚びを売るのではなく、自分自身で勝ち取る。これならば誰も文句はいえまい。俺は力で……村の人々を救う!」
そうして、彼は上越市シェルターの小ターミナルからアメリカへと飛ぶ事になった。
──―アメリカ、大コロッセウム。
ターミナルを使用してそこに飛んだ里見は、一人の圧倒的オーラを纏う人物と対面していた。
軍服を身に着け、白いマントを纏った時代錯誤とも言える一人の若い男。この大コロッセウムの主であり、人々の魂の輝きを何よりも重んじる黒札の一人、『甘粕正彦』である。
彼は、じろり、と転移してきた里見を睨みつけながら口元に笑みを浮かべる。
「ほほう……。わざわざ安全地帯の日本からコロッセウムに応募する物好きがいるとはな……。
どんな奴かと思ったが、中々の面構えだな。よかろう。コロッセウムに参加する権利を認めよう」
だが、わざわざ安全地帯である日本から黒札でもない現地民がやってきた、と聞いてコロッセウムに参加するアメリカのデビルバスター、デビルサマナーたちの視線は非常に冷ややかだった。
「何だよアイツ……。わざわざ日本から来るなんて狂ってるのか?」
「ぬくぬくと日本で暮らしているくせに俺たちの狩場に頭突っ込んできやがって……!!」
コロッセウムに存在しているデビルバスターたちは、皆一斉に血走った目で里見を睨みつける。
主にアメリカ人が中心の彼らは、生き残り、一攫千金を夢見て、己の命をチップにしてこの危険極まりないコロッセウムに賭けて来ているのだ。
そこにぬくぬくと日本で安全にしている現地民が首を突っ込んでくるなど、リンチにあっても仕方ないと言わざるを得ない。だが、里見はその彼らの敵意満々な視線を事も無げに受け流していた。
甘粕は、幼女ネキたちが作り上げた『満鉄刀』*5式神マザーマシンをライセンス生産して、コロッセウムに参加する参加者たちへの参加賞兼コロッセウム内の武器としている。もし、ここで生き残れればこの満鉄刀に加えてさらに色々な高級オカルトアイテムを手にして一攫千金を狙えるのだ。
そうでなくとも、最低限でもDLV50相当の武装を貰えるのなら、アメリカのデビルバスターたちは喜んで参加するだろう。……もっとも生き残れればの話だが。そして、そのガイア刀と火炎瓶を渡されて、ついにコロッセオは開かれ、悪魔との闘いは始まった。
「ぐわぁあああ!! た、助けてくれぇえええ!!」
「DLV100オーバーの悪魔だと!? こんな話聞いてないぞ!!」
コロッセオに参加していたデビルバスターたちは次々と異形の悪魔に打ち倒されていった。まるでエイリアンのように正中線に巨大な口と牙を開いて襲い掛かっていく化け物。
敵は悪魔、ピシャーチャ。DLV102(LV31)の文字通りの怪物である。
DLV49(LV15)である彼には到底勝てるはずもない。2倍以上のLV差がある悪魔に対抗するなんて無茶もいいところだ。
ここで、彼の心は木っ端微塵に砕け散った。どんな大義名分を吐いたところで、圧倒的力の前には敵わない。無謀にもガイア刀を手にして立ち向かうデビルバスターや仲魔たちは次々とピシャーチャの『ダマスカスクロー』や『狂乱針』『吸血』などで倒されていった。
デビルサマナーたちに与えられた武器は、幼女ネキたちが残したガイア刀に、火炎瓶、そして自らの悪魔だけである。だが、その武器も使いこなせないまま、デビルバスターたちは次々と死亡していった。
「離れろ!! 火炎だ!! 火炎で戦うんだ!! アギッ!!」
デビルサマナーたちは仲魔を召喚して、炎系の攻撃を繰り出していく。確かにピシャーチャは火炎が弱点であり効果的ではある。だが、彼は同時に『火炎耐性』を保持しており、彼らの弱い火炎ではこの耐性を突破出来なかったのだ。
次々とチャレンジャーたちが死亡していく中、里見は思わずピシャーチャから距離を取って物陰に隠れていた。戦うために来た彼であったが、その闘志はDLV100オーバーの敵を目の前にしてすっかりへし折られていた。
「はぁはぁ……。大分いなくなったな……。これで……これで生き残りさえすれば報酬はもらえるはず……。何番手でもいいんだ。生き残って報酬さえもらえれば……」
そう、このコロッセウムは生き残っただけでも莫大な報酬が手に入る。それを持ち帰るだけでも村は大儲けするはずである。ここで無理する必要はない。そう考える里見の脳裏に、村人たちの言葉がよぎる。
(俺たちの分まで頑張ってくれ! お前ならできる!)
その声に、弱気になっていた里見に消えかけていた闘志が復活し、へし折れた心を奮い立たせる。
「生き残ればいい……だと? 生き残っても負けは負けだ。勝負ってのは勝つか負けるか、生きるか死ぬかしかねぇんだ。ここで勝負から逃げを決め込むのは……クズ以下じゃねえか!!」
里見は、手にしたガイア刀の柄頭に自らの額を叩き込み、気合を入れなおしながら再度咆哮を上げる。
「一体俺たち現地民は何のためにいるんだ? 黒札様の太鼓持ちか? 黒札様のおべっか使いか? ……そうじゃねえだろ。
おおおおお!! とその瞬間会場から大歓声が響き渡った。
甘粕のコロッセウムに来ている人々は、ほぼアメリカに住まう現地民たちである。黒札に頼ってばかりで寄生虫にならなければならない状況に不満を覚えている者たちは多かった。里見の叫びは彼ら現地民のまさに魂の叫びだったのだ。
そして、肝心の甘粕といえば、席から立ちあがってスタンディングオベーションを行っていた。*6
「
俺はこういうのが見たくて、アメリカにこのスタジオを作ったのだ!!
さあ俺に魅せてくれ!! お前の魂の輝きを!! 人間賛歌を謳わせてくれ! 喉が張り裂けんばかりに!!」
その大歓声の中、里見は自らの武器であるガイア刀を振り回してピシャーチャへと切りかかっていく。
ピシャーチャは、そんな彼に対して問答無用で『ダマスカスクロー』を叩き込み、彼の胴体に大穴が開く。
だが、里見はそれにも関わらず飛び出た腸を使用して、ピシャーチャを抑え込み、ガイア刀を突き立ててピシャーチャの動きを封じ込める。そして、自らのコートをバッ!と開けると、そこには亡くなったデビルバスターたちから回収した&自らの分を含めたおよそ6個もの火炎瓶が存在していた。
火炎瓶はアギ程度の威力しかないとはいえ、この至近距離で6個もの火炎瓶が炸裂すれば、火炎弱点のピシャーチャも火炎耐性があるとはただではすむまい。
「撃て!!俺ごと撃て!!早くしろぉおおお!!」
彼は自らの仲魔の妖獣フォービだけでなく、他のデビルバスターたちにも自分ごと攻撃しろ、とけしかける。この状態でアギや火炎瓶の集中砲火などを行えば、いかにピシャーチャといえもたたではすむまい、という考えである。その狂気ともいえる考えに、流石のアメリカのデビルバスターたちも彼に畏敬を抱いていた。
「ohクレイジー……!!これがジャパニーズカミカゼって奴か……!!」
「……すまなかったな。貴様は立派な戦士だ。いや、ジャパニーズ風に言えば「サムライ」か?ともあれ、貴様の犠牲を無駄にはしない。ここで確実に奴を仕留める!!いかにDLV100オーバーの敵でも!俺たちが束になってかかれば無傷ではすむまい!!各自、我らの誇りを示せ!総攻撃だ!!」
そうして、その言葉と共に彼の意識は暗転した。例え死すとも誇りは死なず。彼は満足しながら意識が消えていった。
そして、どれだけ時間が立ったのか知らないが、里見はとある綺麗な部屋……恐らくはコロッセウム内部の医療室で目を覚ました。体にまだ痛みはあるが、ピシャーチャに食らった攻撃、空いた穴から飛び出たはずの腸も全て元通りに戻っていた。あれから猛烈な火炎攻撃を食らっただろうに、傷一つ、火傷一つついていないという異常な状況に、里見は驚きながら体を見渡す。
そんな困惑している彼の元に、足音を立てながらドアを開いて、甘粕が医療室へと入ってくる。
そして、甘粕は単刀直入に今の彼の状況を伝える。つまり、彼の肉体は治療もかねてシキガミボディが移植されたという事実である。
「おめでとう強者よ。その魂、失うのはあまりにも惜しい。
それゆえ、俺の権限にてハイスペックシキガミ体を貴様には与えた。*7
不活性化したままでいる可能性もあるが……。貴様ならその肉体を使いこなすこともできるはずだ。否! 俺はそう信じている!! 人は強き意思さえあれば限界など超えられると……俺はそう信じているのだァッ!!」
生き生きとそう言い放つ甘粕に対して、里見はシキガミボディを手に入れたにも関わらず肩を落としながら言葉を放つ。
「でも所詮、これも黒札様から与えられた力にすぎない……。俺たち現地民は……所詮ただの寄生虫なんだ……。」
「何を言う、胸を張れ強者よ! 俺が与えたのはさらに上を目指せるきっかけを与えたにすぎん!! その力を向上させるか、そして何に使うかはお前自身が選ぶことだ!! 貴様ならば、より高みを目指せるはずだ!! 強くなるがいい!! 黒札や大悪魔にも一目置かれるほどにな!! さすれば貴様の望みは叶うであろうよ!! ぶっちゃけ黒札の間でも現地民の自立を望んでいる者たちは多いしな!!」
何ならその辺……現地民の自立を望んでいる黒札とのコネを作ってやってもいい。いやいや、それはまた次回コロッセウムで戦った時の褒美として、目の前にぶら下げてやるべきか。
コネだけではない。何なら戦った褒美として様々な資材やマッカなどをつけてやってもいい。もちろん! それは戦って勝ち取るべきトロフィーとしてぶら下げるがな。
たーのしー! と上機嫌の甘粕は邪悪な笑みを浮かべながら考え込む。
「また何かを欲するならば、遠慮なく俺のコロッセウムに申し込むがいい。貴様のような強き魂はいつでも大歓迎だ!! もちろん相手は強大な大悪魔や厳しい試練になるがな。
また俺に魅せてくれ!! 貴様の魂の輝きをな!! 我がコロッセオは! いつでも貴様を歓迎しよう!! 貴様の拠点地に小ターミナルを与える程度のサービスはしてやろう!! 待っているぞ!! 強き魂を持った者よ!!」
ハハハハハ! ハハハハハ!! と高笑いしながら、甘粕はその部屋から立ち去っていった。
アマッカス「田舎ニキ、こんなに気合の入った面白い奴を隠すなんてズルいやん!」
田舎ニキ「何それ……。知らん……。こわ……」
シナド様「まだ気合の入った人間いるな! 見守り継続! ヨシ!!」
田舎ニキ「何それ……。知らん……。こわ……」
・里見 柊弥
言うまでもなく元ネタは某マキバオーのサトミアマゾン&アマゾンスピリット。
某ウマ娘でも実際の馬でもないので圧倒的セーフ。
アマッカスの前で意地と根性を見せたため、むぎのんとほぼ同じハイスペックシキガミボディを手に入れた。そのため、むぎのんや飛鳥くんと同じ「移植組」に区分される。
アマッカスは「相性の良い存在の属性は「審判」や「裁き」である」「神話において災害や厄災を引き起こす破壊神・邪神・悪神」と原作で明言されているので、多分その辺の悪魔(神)の力を使いこなすことができる。
その力を見込まれ、上越市シェルター&妙高市シェルターの守護者となり、村も特別待遇として上越市シェルターから手厚い支援を受けることになった。