向こうがどうなるか分からないので、こちらの世界線での彼女たちとお考え下さい。
──―半終末からしばらく立った後。
様々な外国の霊能力者たちはメシア教の弾圧を逃れるために必死になって日本に逃げ延びようとしてきた。
特にヨーロッパ戦線において最も強く迫害されたのは『魔女』たちである。
白魔女だろうが黒魔女だろうが、とにかく女性の霊能者は徹底的に狩りつくしているのが、もはや十字軍気取りであるメシア教過激派である。
魔女を根切りにしようと襲い掛かってくる過激派に対して、戦闘力の低い白魔女たちは必死でドイツからイギリスへ、そして先に日本に避難した白魔女のツテを頼って日本へと何とか逃れてきたのである。
「というわけで助けてくださってありがとうございます。いやぁマジで助かりました……」
彼女は、地獄のヨーロッパ戦線から、白魔女の一団を率いて逃げ出してきた通称「わたし」*1である。
そして、そんなわたしの前に立っているのは、高レベルの白魔女であるレイア・ディードたちだ。彼女たちが率いる『ガイア連合下部組織(仮称)』*2はガイア連合の下部組織の中でも大きな勢力に膨れ上がっており、注目の勢力となっていた。
「わたし」とレイア・ディードたちは同じ白魔女であり、遠い親戚関係という繋がりである。
先に日本に避難して運よく黒札に拾われて独自の組織を作り上げようとしているレイアたちの縁を頼って、彼女たちは日本へと避難することができたのだ。*3
「いやぁ……。助けてもらって何ですが、ここはちょっと日本の中でも危険が危ない地域じゃないかと……。*4もうちょっと安全で自然が豊かな山奥でスローライフ! できる場所があるとありがたいのですが……。*5あ、もちろん助けてもらった恩義はありますので何でもしますよ!!」
そんな「わたし」の言葉を聞いて、ただでさえ安全圏である日本に逃げてこれたのに、しれっと図々しい要求してるなコイツ……。とルナは思う反面、確かに彼女の言いたい事も理解できる。
白魔女たちは魔女薬などを作る際に霊草などを使用する事が多い。
そして、それら霊草を栽培するにはやはり自然が豊かな土地が一番ということは言うまでもない。
レイアたちも拠点である霊地の森で霊草を栽培しているし、いずれは霊地栽培用の異界なども欲しいが、そういった農業系の異界は自然が豊富な場所ならば、かなり簡単に作成を行えコストを抑えることができる。*6
そうなれば、彼女たちが世話になっている黒札である「三岩敦彦」のコネを使って自然が豊富な安全地帯に移動してもらうのが一番だろう。
とはいえ、彼女たちもただ無償で命を救うほどお人よしではない。落ち着いて霊草の栽培が行えるようになったらこちらに格安で販売する条件を出す。
元々同じ白魔女であり、親戚筋である「わたし」たちの作る霊草との親和性はレイアたちとも相性抜群である。それらの霊草を大量に格安で手に入れられれば、下部組織もさらに大きくなれる、というのがレイアの考えである。
「分かりました。救われた恩義もありますし、できる範囲で協力しましょう。
まあ落ち着いたらの話になりますが」
そこまでいうと、DLV17(LV5)である「わたし」は高レベルに達しているレイアを驚愕の目で見る。
自分よりも年下でありながらこれほどの高レベルに達したなどと、どこかの大悪魔とでも契約したのだろうか? と思うほどである。
「というかですね。エース級の魔女多すぎませんか日本? 黒札でもないのにそこまでの腕前になれるってマジ凄いですね……。何でも異界に突撃して潰せる魔女もシコク? にいるんですっけ?」
「メシア教に復讐なんて無理無理のカタツムリ~ですよ。そんな気合もありませんし、ガンギマリする事もできません。私たちへっぽこは実力相応に身をひそめながら生きるのが身の丈にあった生活です。メシア教を恨む気持ちはよくわかりますが……」
「というか! 何ですか『
「わたし」からしたら、『魔術による悪魔合体』なんて外法は超超超絶危険すぎる!! 万が一の事故があったらルナちゃんの魂の尊厳がやばい! 今すぐにやめるべき!! というのが本音である。*7
人狼化するウルバーンの魔術ですら、「わたし」から見たら非常に危険な魔術だ。
そもそも、人狼化というのは悪魔変身能力者が悪魔に変身するのを魔術的に再現したのにも等しい。
そんな魔術を多用すれば人間に戻れなくなる可能性も高くなる。(もちろん禁呪のマジンガなんて論外である)
「わたし」は必死になってルナの説得にかかったのだが、メシア教に強い恨みを持つ彼女は、それを頑として受け入れる事はしなかった。そもそも、メシア教の脅威に心が折れたいわば負け犬である「わたし」がそれでもなおメシア教に対して戦いを挑もうとするルナたちの堅い意思に敵う訳がなかった。そして、彼女たちのその強い意志を見て、「わたし」は深々と溜息をついた。
それからしばらくして、新潟、魚沼市の山の中に「わたし」たち白魔女は集っていた。自然豊かな魚沼の山を利用し、さらに祭神『ケルヌンノス』の力を使って彼女たちは極めて大量の霊草、霊的ハーブなどを育てる事に成功している。
ここから得られた霊草&霊的ハーブは自分たちの分を除けば、およそ二つに運搬先が分けられる。
一つはS県に存在する『霊山同盟支部』の第三研究所。こちらは現地人たちが自らの力で様々なオカルト資源を生み出すために活動している。
そしてもう一つは、神奈川県に存在する『ガイア連合下部組織(仮称)』である。
特にこちらは同じ白魔女であるため、霊草や霊的ハーブとの相性は抜群に良い。豊かな自然の力を秘めた質のいい霊草を大量に搬送する後方拠点基地としての役割も持っているのだ。
山の中で作られた白魔女の異界薬草園は極めて巨大であり、それは山に宿る強大な霊力と豊かな自然を流用して作られた異界である。そして、その異界の中で異界の要である3mほどの巨大なもふもふ毛玉が声を上げる。
『ぬんのす~』
それは日本の神々や妖怪たちと共同で霊草生息地の山の異界を管理している『豊穣神ケルヌンノス(レベル30)』*8である。
本来は死神であり、レベルも非常に高い死神ケルヌンノス(本来はレベル71)だが、流石にこんな高レベルの悪魔は現地霊能組織では使役しきれない。
そのため、ケルヌンノス自身と相談してレベルをかなり落とし、同時に豊穣神としての力に特化した存在の分霊召喚に成功したのだ。
(もっとも、なぜケルヌンノスがもふもふ毛玉になったのか、本神も首を傾げていたが。)
ケルヌンノスは、ケルト神話の狩猟神であり冥府神、そして獣神であり豊穣神でもある。「わたし」たちはこのうち豊穣神としての機能に特化した分霊を召喚し、その力によって大規模な霊草栽培を行っているのだ。(そのため、この分霊の戦闘力はかなり落ちている)
「ケルヌンノス様の力とこの国の山神の力をお借りして、山内部に巨大異界薬草園を作り出して、霊草やハーブの大量栽培!! いやあ笑いが止まりませんねぇ。もちろん霊草を刈り取るのは半覚醒者たちにお任せして雇用も作り出しています。これには黒札様もにっこりです!」
「わたし」たちとケルヌンノスが協力し、いくつかの山中で複数の異界霊草園が作り出されており、そこに入り霊草を採取するためには、大量の人員が必要となる。
それら半覚醒者たちを護衛し、山中にまで安全に誘導・護衛するためには、人間たちに友好的な妖怪たちを護衛として行っていた。そして、その「わたし」や半覚醒者たちを護衛している妖怪の一人、弥三郎婆……もとい「妙多羅天」は胸を張る。
「それもこれも、貴様らを護衛しているワシら妖怪たちの事を忘れるなよ? 「霊草栽培も自然の一部だからセーフ!!」理論で他の妖怪たちや山神を説得したんじゃからな」
その「妙多羅天」は伝説の通りの老女ではなく、豪奢極まりない豊満な女性へと変貌していた。その溢れ出すほどの大きな胸を張りながら、はっはっはと彼女は高笑いを上げる。
「ふっふっふ。どうじゃ!! このオシャンティーな体を見よ!! 老いぼれた『弥三郎婆』ではなく、天女の『妙多羅天』としての存在として勝ち取ったこの体! これでもうワシも団三郎狸に負けず劣らずにイケる女じゃぞ!! 勝ったなワハハ!!」
鋭利な美貌に燃えるような赤髪を緩やかなウェーブ状にした豊満な女性。
某【無期迷途】のキャラである『カベルネ』。それが彼女が纏った新しい肉体である。
元々、彼女は人食い……山婆になったのが改心して神仏、善人、子供の守護者、悪霊退散の神、縁結びの神などの権能を持った妙多羅天という神になった存在である。
「確かにお主や黒札様のいうことは理解できるが、飽食の時代と違い、今の世界では山は巨大な食糧庫でもある。それを多く荒らすのは妖怪的にも山神的にもいい顔はできんな」
弥三郎婆は山神たちと相談を行いながら、山の中から大量の山菜、鹿やイノシシなどと言った獲物、アケビやヤマクルミ、クリなどを採取して人類へと供給している。
彼女は元は村の嫌われ者であり、人間の肉を食ったとされている。そのため、殊の外人々の「飢え」に対しては過敏である。
人々がようやく飢えず飽食の時代を迎えたというのに、再び飢餓の時代を迎えるなど許せるはずもなかった。それはともかく、ここらへんの山神と狩猟神であるケルヌンノスの力を借りれば、鹿やイノシシなどが終末後でも多量に育つ環境を維持するのは難しくはなかった。そして、「わたし」たちがこれほど大規模異界農園を行えている資金源は、一つの大きなルートがあった。
「ま~、モフモフケルヌンノス様グッズは終末後でも爆売れしてますからね! わたしたちとしてはありがたい限りです!」
それはケルヌンノスのもふもふ人形などを作りだし売る事である。見た目可愛らしく、もふもふ毛玉であるケルヌンノスは、かなりの人気がありその人形も飛ぶように売れていた。
『ぬんのす?』
「え? 本当に「ぬんも一緒にあれやるぬんのす?」ですか? 当然です!いきますよ!
それ、けるぬん♪(のすのす♪)のすのす♪(けるぬん)♪」
ケルヌンノスは、そのもふもふ毛玉から生えている短い手足を動かして踊りを踊りだす。*9それに合わせて「わたし」たちも後ろで一列になって所謂「衰退ダンス」を踊りだす。そして、それを他の白魔女がCOMPで録画し、DDSへとアップするのだ。もふもふ毛玉であるケルヌンノスが短い手足を使いながら踊る姿はDSSに動画を上げてみたらかなりのヒットを飛ばした。それならばやらない理由がない、と定期的にこういった映像を上げて顧客ゲットを行っているのだ。
ケルヌンノスからすれば、これだけで黒札たちが信仰を獲得できるのだから笑いが止まらない。やはりもふもふは強いのである。*10
「ともかく、土地と親和性の高いケルヌンノス様のおかげで質の高い霊草や霊的ハーブなどは大量に揃えることができました。これで私もレイアちゃんに顔向けできるというものです!」
なお、この地に冥府である【黄泉比良坂】と冥府と親和性の高いケルヌンノスのお陰か、ベラドンナやマンドレイク、チョウセンアサガオなどといった毒性の霊草も大量にこの薬草園では生息している。
それらもレイアたちの所へと送られるのは言うまでもない。
「正面切って【ヴァルキルプス】*11やレイアちゃんの所と商売的に対立するのは避けたいですしね……。向こうとは別ベクトルで商売を行っていきたいものです。そこで作り出したのが……これ!!」
佐渡島シェルターでユーミル……金屋子神が開発した馬ニキ用の大量の「蹄鉄」。それを仕入れた「わたし」たちは魔術をかけることでそれを「魔除け」へと変化されたのである。
「【蹄鉄の魔除け】そしてそれを応用した【蹄鉄のナイフ】です! 蹄鉄には元々魔除けの効果があり、魔女、妖精、悪魔に対する魔除けであり、鉄の力は邪気の侵入を払い、悪魔を滅ぼせる力を秘めています。
その力を使うため、蹄鉄を溶かしてナイフとして作り直しました! 後は同様に蹄鉄を溶かして【蹄鉄のチェインメイル】などもありますよ!」
なお、武器としての強さはガイア連合の作った武器からすればゴミ程度の模様。*12
これの本命は【蹄鉄の魔除け】の方である。蹄鉄を飾る事によって、簡易的な結界を張って魔蟲や悪霊もどき程度ならば家に入ってこれないようにはできる。
しかもガイア連合製ではないので安く手ごろだ。武器のほうはおまけと言ってもいい。
「もちろんそれだけではありません。終末で未覚醒者でも悪魔は見えるようになりましたが、より強く悪魔を観測するための【魔女の目薬】!邪眼除けの【アミュレット】!!魔蟲除けの【魔蟲除けスプレー】!そして【ハーブティー】や【調理用のハーブ】などを開発しています!*13
全て現地民御用達の格安アイテム!!庶民異能者の皆さんぜひお買い求めください!!」
そんなこんなで「わたし」たち白魔女は強かに生き抜いているようである。
・ガイア連合下部組織奮闘記
転生者である《三岩 敦彦》が過労死しかけている際に助けたヨーロッパから逃げてきた三人の魔女少女たちが活躍する物語。
名前:レイア・ディード
年齢:13
性別:女
海外から逃げ込んできた白魔女。金髪碧眼のロングヘアー。物静かで打算的。ガイア連合を頼って日本にやってきたが日本に着くまでに母親含む多くの魔女が力尽きてしまったが転生者と出会い、神奈川県で独自の活躍を行う。
名前:ルナ・ディード
年齢:13
性別:女
レイアと同じ白魔女。人狼する魔術、ウルバーンなどを使用する白魔女。魔王ヘカーテと交信することによって、悪魔と悪魔を合体させる魔術「コンバック」を開発する。
名前:アメリア・ディード
年齢:13
性別:女
レベル 13
スキル:ムド系、人形作成
レイアと同じ魔女の一族。金髪碧眼のショートカット。性格は無邪気。呪殺魔法を使用する。
なおこの後、レイアたちの強さに「わたし」ちゃんは宇宙猫になる模様。