──―舞台は佐渡島シェルターへと戻る。
何とか迎撃も行い、大量のアポリオンを殲滅するために動き回っているパピヨンニキ*1は、新潟市シェルターからターミナルを使用して、人魚ネキにこちらに来てもらい、残った大量のアポリオンの殲滅に移行していた。
七陰や彼女たちの大量の部下、そして広域殲滅戦略兵器とも言える人魚ネキの歌声の力で大半のアポリオンを殲滅していったが……ここで一つの問題が起きた。
普通の蝗にもアポリオンの余波の力が宿り、蝗害の発生が危惧されたのである。
もちろん、もはやDLV1程度の最低限の存在でしかない。しかし、そのDLV1の蝗が大量発生したらどうなるか? 答えは言うまでもない。
ただでさえ後始末が大変なのにその状況に頭を抱えたパピヨンニキに対して、彼の力となっている存在……『十六夜ノノミ』の外見をした大地母神ガイアはこう言った。
「ふむ……。プロメテウスちゃん*2。私にいくつか腹案があるのですが任せていただけませんか?」
「はっはっは! 自由への逃走!!」
とある魔界深奥。アポロンの本霊は自らの分霊を召喚できないようにして、自らの戦車で逃げ回っていた。
散々文字通り死ぬほど! (実際数えきれないほど過労死をしている)アバドン対策として「アポリオンキラー」を作り続けてきた彼はその現状に嫌気が差して本体ごと逃亡。そして召喚されないように妨害対策もばっちり行っている。*3
よーし!!しばらく逃げ回りながら楽しく遊ぶぞー!!と考えていた瞬間、その召喚妨害を乗り越えて、本霊から分霊として召喚されている自分自身に彼は気づいた。
「は?」
召喚の縁は完全にガチガチに固めて通常では召喚はできないはず。
しかし、自分(分霊)は実際ここに召喚されている。
しかも、この神殿の内部構造や内部に蓄積されている膨大なMAGは──―。
「アポロンちゃん。お久しぶりですね~」
「そうですね。お久しぶりです。もちろん……私たちの力になってくれますよね?」
ぎぎぎ、と油の切れた機械のように恐る恐る後ろを振り返ってみると、そこにはにこやかな笑顔を浮かべる華やかな女性二人が存在した。
ギリシャ神話の大元とも呼べる偉大なる原初の地母神ガイアの化身。
そして、彼の双子の姉であるアルテミスと同一視された狩猟神ディアナ。
いかにガチガチの召喚対策を行ったとしても、このアポロンと縁が強いこの二柱からの召喚の妨害を行うことはできなかったのだ。
その二柱の笑顔を見た瞬間、アポロンの分霊は自らの短い休暇が終わった事を悟ったのだった。
佐渡島シェルターの地下に存在する大地母神ガイアの神殿で、ガイアは事の顛末をパピヨンニキに対して報告を行っていた。
「と、いう訳でアポロンちゃんには『アポリオンキラー』を大至急再生産するように指示は出したので、すぐにアポリオンキラーは作ることはできると思いますが……やはりそれまでのタイムラグはどうしても発生します~。
そこで、それまでの時間稼ぎとして私が作成したのがこちらになります~。」
彼女の言葉と共に出現した雲と竜の融合体のような存在。それは『邪竜ピュートーン』。大地母神ガイアが生み出したとされる彼女の息子の一体である。
ピュートーンはガイアの子であり、神託所デルポイを守護するための番人である。
ピュートーンは自分に有利になる予言も行う事はあったが、大地母神ガイアの意思に反する予言だけは決して行わなかったという伝承がある。
さらに、アバドンは元々、アポロンが自ら打ち倒したピュートーンと同一視されることによって零落した姿とも言われているため、アバドンの力を受けて発生した蝗には相性が抜群に良い。
「この邪竜ピュートーン(劣化分霊LV20程度)が備えるスキル『パンデミアブーム』*4には蝗の天敵であるエントモフトラ属、ハエカビ属・ハエカビ目のカビ……通称『バッタカビ』を放出するスキルを持たせました~。
これなら、アバドンの余波を受けて発生した蝗に効果覿面だと思われます~。ですが……。」
「だが、まだ安全が確認が取れていない。下手をすればバイオハザードの危険性がある……か。有効かとは思うがバイオハザードの危険があるのなら慎重にならざるを得ないな……。ともあれありがとう。」
確かにアバドンと縁の深いピュートーンの『パンデミアブーム』の力を持ったバッタカビならば、アバドンの余波によって大量発生する蝗に覿面に突き刺さるだろう。
だが効果は覿面でもその後カビが変化してバイオハザードの危険があるのは全くもって否定できない。というよりも安全性が全く確認が取れていないので最後の手段にしたいのが本音である。
「こちらでも独自の対策を取ってみるか……。駆蝗神「劉猛将軍」*5を召喚できれば対蝗としては完璧なんだが……。いや、魚沼シェルターのアジ・ダハーカの力を持った魔人ならば対応もできるか……?」
それだけではなく、ガイア連合畜産部が対アバドン眷属用に開発した「孔雀明王の力を持った鶏」*6も仕入れる必要があるか……? とパピヨンニキは思考を巡らせる。
孔雀明王の力を持った鶏ならば、アポリオンの余波で発生した蝗やアポリオン(LV5)程度ならば平気で食らいつくすことができる。
しかも、その鶏の肉はガイアミートでそのまま鶏肉として加工して販売もできる。
一石二鳥だな……と考えながらも彼は言葉を放つ。
「ともあれ、これから新潟でも長野でも蝗対策が急務になるだろうから、その対策を練っておく必要がある。今のうちから蝗対策を行っておけばそれは大きな利益になるだろうからな」
特に新潟には、巨大な食料生産地であり、黒札たちが協力して巨大な結界で防衛した『越後平野』がある。ここで各シェルターの腹を満たしたり、輸出・交易のための大量のキクリ米や様々な霊的農作物が育てられている。ここに大量の蝗が襲い掛かってきて食い散らかされたら大変な事態に陥ってしまう。
そのための対策を今のうちに行っておけば、新潟にも長野にも高い値段で売り付けられる。お互いウィンウィンの関係になれるのならこれに勝る事はない。パピヨンニキのその言葉に対して、ガイアは賛同の意を示すように頷いた。
猛烈な速度で疾駆する白いサイクロン号と緑色のギルスレイダー。そしてそれを追いかける漆黒の10体のライダーたち。
凍矢とハルカは後方から文字通りの意味で、一糸乱れぬまるで機械のようにぴたりと張り付きながらアサルトライフルを乱射してくる彼らの銃撃から回避しながら、国道117号を疾走する。
(このまま馬ニキの拠点地である上田市……浦野牧シェルターまで奴らを引き連れていく訳にはいかない。旧長野市に入るまで決着をつける!!)
いくら何でも彼らを引き連れたまま旧長野市を通り、浦野牧シェルターの目の前を通過するわけにはいかない。こんな怪物どもが目の前が通り過ぎたら、そしてそこで戦いが起きたらまず間違いなく浦野牧シェルターに大きな被害を与える事になる。
ならば、それより手前、長野県と新潟県を繋ぐ国道117号、そして県境である津南街近くのトンネル内部でケリをつけるとこの辺の地理に詳しい凍矢は判断した。
「俺が囮になる!! ハルカくんは援護を頼む!!」
普通に考えれば、ガチの戦士で前線でバリバリ戦えるハルカを前に出し、凍矢が援護に入るのが通常のパターンである。
だが、敵側からしてみれば、ハルカより直接戦闘能力が劣る凍矢がわざわざ自分から前に出てきてくれるなど、実に美味しいシチュエーションである。
先に凍矢や『破裂の人形』を倒し、残る戦力でハルカに対して総攻撃を仕掛ける。これが敵側の最善パターンだ。
だが逆に言えば、凍矢が前線に出てくれば美味しい獲物だと噛みついてくる囮としては最適解になりうる。
LV70の彼らが無差別に暴れまくったら新潟も長野も何も残らない一面の荒野になりかねないし、どれだけのシェルターが破壊されるか分からない。
そのためには、美味しい獲物をぶらさげてこちらに集中させなければならない。
国道117号を猛烈な測度で白い弾丸のように加速する破裂の人形……もといサイクロン号に対して、ハルカのギルスレイダーは急ブレーキで一気に速度を落とし、逆ウィリーで後輪を立て、ギルスレイダーを盾代わりにしながら一気にアバドン虫アポリオンたちの後方へと下がっていく。
目の前に凍矢という美味しい獲物がぶら下げた彼らは迷うことなく二手に分かれて6体が凍矢へ、4体がハルカのほうへと向かっていく。そしてその6体加速して凍矢へと接近しながら、トンネル内部へと突入する。
トンネル内部に突入した6体のアバドン虫アポリオンたちだが、気持ち悪いほどに一糸乱れぬ連携運転を行いながら凍矢を追い詰めていく。
そして、凍矢の周囲を取り囲むようにアバドン虫アポリオンたちはバイクを操作し、全方位から凍矢に対してアサルトライフルの集中砲火を仕掛ける。
『マスター!! 私を盾にしてください!!』
凍矢はトンネルの壁ギリギリまで近づき、サイクロン号……もとい破裂の人形に隠れ、破裂の人形を盾にする事によってその集中砲火を防御する。
漆黒のトンネルの中、無数の集中砲撃によってサイクロン号と化した破裂の人形の表面に弾丸と化した超小型のアポリオンアバドン虫が叩き込まれていく。
それらは破裂の人形の強靭な装甲によって弾き返されているが、超小型のアバドン虫アポリオンの弾丸など食らっては破裂の人形もただではすまない。
『くぅううう……!!』
弾丸を食らって苦し気な破裂の人形をそのままにしておけない、と凍矢はマハブフバリオンを全方位のアバドン虫アポリオンに叩き込んで目くらましにしながら、ドリフトを仕掛けてそのまま真横にいるアバドン虫アポリオンに対して体当たりを叩き込む。
破裂の人形の体当たりと同時にマフラーから出る猛烈な火、そしてその後でさらに凍矢のマハブフバリオンを叩き込まれたアバドン虫アポリオンは、転倒して吹き飛ばされていくが、それにもくじけず、さらに2体のアバドン虫アポリオンが左右に凍矢のサイクロン号を挟み込み、格闘戦を仕掛けてくる。凍矢はアサルトライフルを持ったまま殴りかかってくるアバドン虫アポリオンの攻撃を受け止めると、受け止めたまま彼らに零距離で猛烈な冷気を放出させ凍り付かせようとする。
「…………!!!」
逃れようと身もだえするが、1体のアバドン虫アポリオンは、腕を通って流れ込んでくる猛烈な冷気によって凍り付かされ、さらに乗っているバイクまで完全に凍り付いていき、粉々に砕け散っていく。
だが、もう1体は腕を切り離し、さらに加速させて前方に出るとその肉体をバイクごとバキバキと変形させていく。トンネルを覆いつくすほど巨大な蝗の肉体に人の顔、そして被った王冠と、それはアバドン虫アポリオンの本来の姿だった。
凍矢は咄嗟にサイクロン号を倒してその真下をスライディングですり抜けようとするが、それを許すほど彼らは甘くない。
すり抜けようと下に入り込んだ瞬間、そのアバドン虫アポリオンは自爆を決行して爆発した。
2体倒されたことにより、これで残るアバドン虫アポリオンは4体。
だが、爆発で吹き飛ばされた凍矢はサイクロン号……破裂の人形と離され、ゴロゴロと地面を転がっていく。
そして、アバドン虫アポリオンの一体が、地面に倒れた凍矢に対してバイクに乗ったままのしかかり、前輪で彼の動きを封じ込める。
そして、アサルトライフルの銃口を彼に向けると、零距離射撃で彼に向って弾丸を叩き込む。
「グァアアアア!!」
「マスター!!」
サイクロン号からロボ型に可変した『破裂の人形』は、手にしたプラズマソードを構えて凍矢を助けようとするが、凍矢を取り囲むようにバイクに乗りながら回転している他の3体のアバドン虫アポリオンたちは、『破裂の人形』が近づく事を許さない。近づこうとした『破裂の人形』を彼らは自らの銃で攻撃を仕掛けて足止めする。ぐるぐると銃撃を受けている凍矢を中心に、アバドン虫アポリオンは凍矢や破裂の人形を嘲笑うように、もしくは威嚇するようにさらにバイクに乗りながらぐるぐると回転していく。
だが、そんなピンチの中、零距離攻撃を受けている凍矢はにやり、とグリスブリザードの中でほほ笑んだ。
「おいおい、いいのかよ? 俺だけをこんなに執着して。もう一人忘れてないか?」
その言葉に彼らがはっとするがすでに手遅れだった。
エンジン音と共に、二手に分かれていた後方の4体のアバドン虫アポリオンを殲滅したハルカは、猛烈な勢いでギルスレイダーに乗ったままこちらに突っ込んできた。
周囲を取り囲んでいるアバドン虫アポリオンの円陣を乗り越えて、凍矢に伸し掛かっているアバドン虫アポリオンに対してライダーアタックを叩き込む。
そのライダーアタックにより吹き飛ばされたアバドン虫アポリオンに対して、さらに自分のバイクもまるで質量兵器のように自らに叩き込まれ、これでそのアバドン虫アポリオンは爆発した。
そして、ハルカは自分のバイクであるギルスレイダーから降り、ロボ形態となって駆け付けてきた『破裂の人形』も並んで凍矢の傍にやってくる。
これで残りは3体。3体のアバドン虫アポリオンに対して、ハルカ、凍矢、破裂の人形の三人はトンネル内部で並んで向き合った。
見るからにブラックライダーであるアバドン虫アポリオンと、ギルスライダーであるハルカ。
それに対してデモニカを纏った凍矢は思わず何となく思ったことを呟いてしまう。
「俺は仮面ライダーじゃないけどいいんかな……」
それに対して、ハルカは(ここまで来て何をいまさら)と言わんばかりに微妙に弱気な凍矢に対して叱咤激励するために言葉を返す。
「心が仮面ライダーならそれは仮面ライダーなんです! 貴方も立派に仮面ライダーだ!!」
「そうかな……。そうかも……? いや、それならここはこう名乗るべきか。
俺は今からメシア教過激派の敵。人類の味方。碧神凍矢。そして……今から俺も仮面ライダーだ!!」
堂々と宣言したお陰か、凍矢はグリスブリザード内部でスッキリとした顔で言葉を放った。
「二人でダブルライダーか……! これで心スッキリだ。ありがとう、ハルカくん」
「『くん』じゃないです。そこは呼び捨てです」
「わかった。ハルカ。……やるぞ!! ハルカ!!」
「ああやろう!! 凍矢!!」
そう叫ぶと、仮面ライダーギルスとなったハルカと、グリスブリザードを身に纏った凍矢はそれぞれ右腕を上に掲げ、左腕を胸に合わせる構えと、両手を横に真っすぐ突き出すポーズを取る。
気合を入れるためにこのポーズを取った後でハルカと凍矢、破裂の人形は駆け出し、残る三体のアバドン虫アポリオンと真正面からぶつかりあっていった。