『と、いうわけだ。何としても奴のマスクを破壊して動きを止めてくれ。後はこちらで何とかする』
『無茶いうなぁ……!! でもやらないといけないといけないか……!!』
凍矢はデモニカ『グリスブリザード』内部の通信機能を使い、自らの得た情報をハルカと破裂の人形へと通信し、情報の共有を行う。
このままお互い真正面からぶつかり合えばお互い大きく消耗してしまう。簡単に強敵を無効化できるのならそちらの方がいいに決まっている。それにハルカも凍矢もアバトン・ハレルの戦闘について共通の意識を抱いていた。それは貫通スキルもカーン破壊スキルも使用していない彼の戦い方である。
(だが、奴にも重大な弱点はある。それは「技量が足りていない」という事だ。
普通テトラカーン破壊や貫通スキルを所有しているが、それを使用しようとはしていない。
小手先の技術などには頼らず、圧倒的力で何もかも磨り潰す。確かにシンプルだが……ここはメガテン世界だぞ?)
恐らく、彼は他の転生者などがLV1などからコツコツと少しづつ強くなってそれぞれの戦闘経験などを蓄積したのではなく、過激派の改造などによって強大な力と戦闘力を得たというタイプなのだろう。
その結果、彼はガードキルなどを使用せずにただただ力押しで全てを薙ぎ払えばいい、という至極シンプルな結論に達した。圧倒的な力と速度を持っていればどんな存在でも叩き潰せる。確かにそれは道理ではあるが、それは自分と同じレベルとあまり戦った事のない戦闘経験の少なさを物語っていた。
恐らく、過激派もただ圧倒的力で弱者を殲滅するだけの殲滅兵器としての運用を行っていたのだろう。つまり、基本中の基本ができていない。ただ力でゴリ押すのを優先しているという事である。となればこちらにもやりようはある、とそう凍矢は判断したのだ。
距離を取っている間に、アバドン・ハレルの前頭葉から猛烈な光があふれ出し、それがアバドン・ハレルの両腕に巻き付いていく。
前頭葉から放たれる光でアバドン・ハレルの視界が一瞬奪われた瞬間に、凍矢はグリスブリザードの胸装甲の一部を開くとそこに『何か』を装填し、さらに右腕前腕部にも『何か』を装填する。その間にも、アバドン・ハレルの前頭葉から猛烈な光が放たれ、その光が彼の両腕へと収束されて光でできた剣が両手に構築される。
アバドン・ハレルの両手から眩い光が収束し、まるで手甲剣のように構築された両手の光の刃を振るい、彼は凍矢たちへと攻撃を仕掛けていく。その両手の光の剣によってハルカも破裂の人形も切り裂かれ、ダメージを食らっていく。だが、アバドン自体にそんな能力はなかったはずである。
それはアバドン・ハレルの脳内に埋め込まれた宣教の羽と化したカマエルの力を引き出して攻撃を仕掛けているのだろう。
だが、そんなに甘い話などそうそうあるはずもない。
カマエルの力を引き出せば引き出すほど、よりアバドン・ハレルの脳との霊的な結びつきが強くなっていき、脳内からの除去は難しくなっていく。
これ以上カマエルの力を引き出す前に決着をつけるしかない。かなりの賭けではあるが、一か八かで行くしかない。ちらっと凍矢は破裂の人形とハルカに対して視線を向け、二人ともそれに対して頷きで返す。
「行くぞッ!!」
凍矢はそう叫ぶとアバドン・ハレルに対して疾走する。一応近接戦闘もできるが、本来は後ろに下がって攻撃魔術を行っている後衛がわざわざ前へと突っ込んできたのだ。
ここでアバドン・ハレルが再度【不浄の光剣】を繰り出せばこちらの読み負けであり、一度態勢を立て直さなければならない。だが、わざわざ恰好の獲物が飛び込んでくれば自分自身の最大の技で止めを指すというのが普通の考えなはずだ。
「死ねェ!! 【物理ハイブースタ】【冥界破】ッ!!」
アバドン・ハレルは自らの渾身の一撃で凍矢を確実に殲滅するべく、冥界破の全力の一撃を凍矢の胴体部へと叩き込む。両腕を前に突き出した状態で肘の関節ごと高速回転させ、両腕で冥界派を放つその攻撃は、まさにジョジョの『神砂嵐』を連想する一撃だった。両手の冥界破の回転の間に入る物は、あらゆる存在が粉砕されるだろう。MAG燃焼を行いながらあらゆる物質全てを原子レベルにまで粉砕する全力の冥界破を放ちながら、両手の拳を凍矢の胴体部に叩き込むアバドン・ハレル。
その両方の拳を叩き込まれたグリスブリザードは、両腕の回転から発生する冥界破によって胴体部にビキビキと罅が入って砕け散る。だが、それにも関わらず凍矢はグリスブリザードの中でにやり、と不敵に微笑んだ。
砕け散ったグリスブリザードの胸部に仕込まれていたのは光り輝いている一つの鏡。その鏡が放っているバリアによって放たれた冥界破は受け止められているのだ。
「!?」
自分の渾身の一撃である冥界破を受け止めているその物体を見て、アバドン・ハレルは驚愕の目で見る。自分の一撃を無効化できるのは凍矢の「物障石」で実証されている。
だが、それは以前に使用した「物障石」ではない。その物体こそは―――。
「跳ね返せェエエエエッ!!」
そう、凍矢の切り札とは【物反鏡】。つまり、テトラカーンの効果を発動させるアイテムである。アバドン・ハレルの攻撃を見てカーン破壊スキルは所有していないだろう、という凍矢の賭けである。*3
ここで【神を見る者】【不浄の光剣】の攻撃ならばテトラカーンを張っても意味がない。
自らの必殺技である【冥界破】でこちらの止めを刺しにくるだろう、というアバドン・ハレルの攻撃パターンを予想した行動だが、ここで破魔属性の【不浄の光剣】ならばただ切り裂かれるだけで終わっただろう。つまり、凍矢は賭けに勝ったのだった。
「ガァアアアアアッ!!」
アバドン・ハレルの一瞬の隙をついて、自らの胸部に隠した物反鏡の効力で構築されたテトラカーンによって、自らの全力の冥界破をそのまま弾き返されて全身に猛烈なダメージを受けていくアバドン・ハレル。その全てを粉砕する霊波で自らの体が粉砕されていくのに、何とかアバドン・ハレルは耐えていく。自らの攻撃が跳ね返されてくる恐ろしさはメガテニストなら、あの有名なギリメカラで誰もが知っているだろう。
それを知らずに軽視していたというのは、やはり彼はメガテニストではないし、自らの力に対して高慢になりすぎたというのはある。両腕の回転するダブル冥界破の一撃を跳ね返されたアバドン・ハレルは全身が引きちぎられそうになりながらも何とか耐えている。
そして、それを見て大人しくしている破裂の人形とハルカではなかった。
「【エクシードヒールクロウ】ッ!!」
「
破裂の人形は盾を前に突き出しながら未だ冥界破の威力が渦巻く空間へと飛び込みながら、プラズマソードでアバドン・ハレルの右腕を切り飛ばし、さらに返す刀で左腕を切り飛ばす。
そしてそれと同時にハルカは自らの必殺技であるギルスヒールクロウをアバドン・ハレルの額に全力で叩き込む。流石にハルカのギルスヒールクロウに耐え切れずに、アバドン・ハレルのマスクに一直線の罅が入り真っ二つにマスクが左右に分かれて地面に落ちる。
それだけでなく、ハルカはマスクが割れて、顔中に継ぎ接ぎの手術後が残っている素顔が露わになったアバドン・ハレルに対して、エクシードヒールクロウを叩き込んださらに、無理矢理頭突きを叩き込み、アバドン・ハレルの前頭骨を打ち砕きながらそのまま地面へと倒れていく。
「が……あ!! き、さ、ま……!!【暴飲暴食】!!*4」
両手を失ったアバドン・ハレルは、胴体部に真一文字が開き、そこから鋭い牙が無数に生えた『口』を生み出して、相手の肉体を食らってダメージを回復する「暴飲暴食」を繰り出す。この口で相手を貪り食らってダメージを回復し、両腕を再び生やそうというのだ。当然、対象は地面に倒れてまだ建て直せていないハルカである。だが、それに対して胴体部が砕け散ったグリスブリザードを纏っている凍矢は、アバドン・ハレルの前に立ち塞がる。
「させるか!!【バルーンシールド】*5ッ!!」
凍矢が右腕を盾代わりにすると前腕部に仕込んだ「何か」がバシュッ!!と音を出して急激に膨らみ、盾代わりに風船……バルーンが展開され、アバドン・ハレルの胸の噛み付きを防御する。
それは右腕の前腕部に取り付けられた小箱のような容器に入れられ、スイッチと同様に急激に気体によって膨らんでいくバルーン、すなわち、「バルーンシールド」だった。
普通のバルーンならばこんな物容易く噛みちぎるだろうが、これは特殊防御アイテムであり、敵の攻撃を一度無効化できるというアイテムである。アバドン・ハレルの胸の口……牙はそのバルーンシールドに噛み付いて噛みちぎれずに唸り声をあげる。
「風船ごときがァアアア!!何故噛み千切れない!?」
そして、バルーンシールドによって攻撃が無効化されている間に、凍矢はハルカがマスクを破壊し、頭突きでダメージを与えた継ぎ接ぎの跡が見えるアバドン・ハレルの額に自らの左手の拳を叩き込む。アバドン・ハレルの砕けた前頭骨に拳を叩き込み、そのまま前頭骨を突き破ると脳に直接アクセスすると、凍矢はアバドン・ハレルの頭部のMAGをサーチする。
そのデータはやはりKSJ研究所そのままであり、前頭葉から他の天使のMAG、宣教の羽と変化した大天使カマエルのMAGを探知できた。
「よし! 大体ここだな! 行くぞ!!【コンセントレイト】【氷結ガードキル】【氷結ハイブースタ】【ブフバリオン】ッ!!」
KSJ研究所のサーチと自分自身の目でアバドン・ハレルの頭部のMAGを確認すると、指定されているMAGの活性化している部分に全力で自分自身の冷気を叩き込む。
指定されたMAGポイントに対してピンポイントで叩き込まれる猛烈な冷気。
その猛烈な冷気を叩き込まれ、そこに埋め込まれている宣教の羽自身が悲鳴を上げ、それに呼応するようにアバドン・ハレルも思わず絶叫を上げた。
「ガ……ギ……ギャアアアアアアアッ!!」