【カオ転三次】故郷防衛を頑張る俺たち   作:名無しのレイ

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大天使サタン再臨計画⑨

 アバドン・ハレルの脳内に猛烈な冷気が叩き込まれた瞬間、彼は不快感に絶叫した。

 例えて言えば、麻酔もなしに意識を保ったまま無理矢理脳の手術など行われて直接脳をいじられたら不愉快に感じるのも当然だろう。

 おまけに彼の中の『宣教の羽』も危険を感じ取ったのか、アバドン・ハレルの前頭葉に干渉しようとしているし、そのままアバドン・ハレルが大人しくしているはずもない。高度な脳手術の際に患者が暴れまわっていたら成功するものも成功しない。

 両腕を失い、胸から生えた『口』でバルーンシールドに噛みついているアバドン・ハレルだが、その不愉快さに後ろに下がろうとした瞬間、空を切る音がしながら、『何か』がアバドン・ハレルへと巻き付いて動きを封じ込める。

 それは、ハルカの触手状の鞭『ギルスフィーラー』だった。

 ギルスフィーラーはアバドン・ハレルの胴体部へと巻き付き、拘束する事で彼の動きを完全に封じ込める。

 

「やれぇええっ!! 凍矢!!」

 

「了解ッ!!」

 

 ハルカはギルスフィーラーを引っ張ってピン、と引き締めるとアバドン・ハレルの動きを封じ、その隙に凍矢は全力でアバドン・ハレルの前頭葉の『宣教の羽』に猛烈な冷気を叩き込む。

 その猛烈な冷気に対して、冷気弱点の「大天使カマエル」の『宣教の羽』が耐えられるはずもない。

 ピシリ、と何かが凍り付いて砕け散る音と共に、アバドン・ハレルの額からとてつもない量の氷の破片が噴出していく。それは『宣教の羽』と化した「大天使カマエル」が凍り付いて砕け散って外部に排出されているのだ。*1

 

「グァアアアアアアッ!!」

 

 その氷の欠片が出しきった後で、アバドン・ハレルはゆっくりと地面に倒れる。それと同時に、今まで真紅に染まっていた赤い空が、一気に元の青い空へと急速に戻っていく。

 額の傷口から完全に「宣教の羽」の欠片である氷片が噴出しきった彼の目に入ったのは、透き通るような青い蒼穹。そして穏やかに流れる白い雲を見上げながら、地面に倒れているアバドン・ハレルは呆然と呟いた。

 

「ああ……。空、綺麗だなぁ……。何で俺たちはあんなに怒り狂っていたんだ……? もっと早くに気付けていたらなぁ……。いや、もう遅いか……」

 

 今まで彼を駆り立てていた『宣教の羽』大天使カマエルはその炎の性質上、復讐の怒りを燃え上がらせるのも当然ながら相性が良い。

 前頭葉に干渉して怒りを駆り立て、その怒りの矛先を過激派ではなく、ガイア連合や黒札へと向けさせる。まさにマッチポンプといってもいい状況だ。

 その怒りを駆り立てる宣教の羽が無くなった以上、文字通りの意味で頭を冷やす(物理)されたのも同様だ。冷静さを取り戻し、怒りを駆り立てる存在がいなくなったアバドン・ハレルは、完全にこれ以上の戦意が喪失していた。

 戦意を喪失したのを確認した凍矢やハルカはお互い疲労した体を引きずって、アバドン・ハレルの近くに立つ。

 

「……楽しかったか?」

 

 地面に倒れているアバドン・ハレルを見ながら、凍矢は一言だけこうアバドン・ハレルに問いかけた。散々暴れまわって「楽しかった!!」という戦闘狂や外道なら問答無用で処分するだけだ。洗脳が解けた彼がどんな考えなのか知らなければならない。その質問に、地面に倒れて空を見上げているアバドン・ハレルは呆然としながら言葉を放った。

 

「──ああ、そうか。俺は、俺たちは楽しい事をしたかったのか……。俺たちと同じなのに楽し気な黒札たちを妬んでいたのか……。なるほどな……。

 ありがとうな同胞……。それに気づかせてくれて……。もっと、沢山楽しい事をしたかったなぁ……。幸せになりたかったなぁ……。まあ、仕方ないか……。悪い事をした奴らの末路なんてこんなもんだよな……」

 

 そのアバドン・ハレルの本音を聞いて、ハルカは痛ましそうに顔を歪める。彼はヒーローであり仮面ライダーだ。仮面ライダーはただ悪を倒すだけの存在ではない。罪を犯した人間を救いの手を差し伸べるのもヒーローの役目である。

 

「……君には情状酌量の余地がある。宣教の羽で完全に意識を洗脳されてないとはいえ、事実上操られていたも同然なんだ。別に大量に人の命を奪った訳でもない。これほどの高レベルが暴れまわったにしては奇跡的なほど被害も少ない。師匠や凍矢を通してガイア連合の上層部に働きかければ、それなりの処分で……。」

 

 ガイア連合は良くも悪くも法治ではなく「人治」組織だ。それはつまり黒札の同情を買えばかなり罰則を軽減されることができる。

 実際、海外のサマナーで9割削って召喚送還繰り返すマッカ増殖バグを行ったサマナーは狩人ニキの弁護を受けてショタおじが考えていたより遥かに軽い刑罰ですむことになった。

 アバドン・ハレルもやらかしたとはいえ、メシア教過激派に改造された転生者で仕方なかったといえば、かなり黒札の同情を買えるはずである。

そのハルカの言葉に対して、アバドン・ハレルはふん、と鼻先でせせら笑いながら言葉を続けた。

 

「──嫌だね。お断りだ。俺は、俺たちはもうこんなゴミカス世界で生きるのなんて「うんざり」なんだよ。これ以上こんなゴミカス世界でのたうち回るなんて真っ平だ。……それに俺たちは暴れまわって悪事を働いた『悪人』なんだ。『悪人』は【楽しい事もしてはいけないし、幸せになってもいけない】んだよ。それが【当然の報い】って奴だ。

 黒札やガイア連合も「悪事をしたから責任取って自決をしました」というのならある程度は納得するだろうしな。」

 

 この無駄なモラルの高さ、やっぱりお前悪役向いてないよ……。と凍矢が心の中で呟いていると、そんなアバドン・ハレルからゆらり、と白いモヤのような人影が立ち上がる。それはアバドン・ハレルと同一化された『ホワイトメン』である。もはや形を保てるか怪しいほどに疲弊したホワイトメンは、白いのっぺらぼうのまま、ハルカたちに対して恨みがましい言葉を投げつける。

 

『後悔するぞ……お前たちは絶対に後悔する。「あの時滅んでおけばよかった」「あの時滅んでいた方が幸せだった」と後悔する時がやってくる。世界を全て無にする事こそが……我らの救いを拒むその「意思」こそが、お前たちを苦しめる元凶だというのに……。未来のその果てに、その時が来るまで後悔するがいい。』

 

 そのアバドン・ハレルから抜け出たホワイトメンに対して、ハルカは真正面から彼を見据えると、力強い声で真正面からそれを跳ねのける言葉をホワイトメンに投げつける。

 

「そうかもしれない。けど、それを決めるのはお前じゃない。」

 

 そのハルカの凜とした声に、アバドン・ハレルのハハハハ! という愉快そうな笑い声が響き渡る。もし彼に両腕が残っていたらパンパン、と拍手していただろう。それだけハルカの言葉は彼にとって痛快な言葉だったのだ。

 

「まったくもってその通り!! 実に正論だ!! いい加減諦めろよホワイトメン。お前も俺だろう? 負け犬がそんなことをほざいても空しいだけだ。安心しろ。俺たちも一緒に虚無に行ってやるよ。それなら寂しくないだろう?」

 

 その言葉に、ホワイトメンもこれ以上言葉を紡いでも仕方ない、と悟ったのかアバドン・ハレルの内部へと戻っていく。そこから彼の思惑は大体思いつく。つまり、『ホワイトメンの力を使用して自分自身が虚無へ還る』という事である。この世界にうんざりしきっている彼らが最後に救われるのはもうこれしかない。こうすれば悪党が滅ぶだけでガイア連合もわざわざ魂を奪い取るなどという手段は取らないだろう、という考えである。この世界から逃れられて、ガイア連合から追撃される事もない。彼からすれば一石二鳥という訳である。それでもなお痛ましい物を見るハルカに対して、アバドン・ハレルは皮肉交じりに苦笑いを浮かべながら言葉を放つ。

 

「同情するなよ。仮面ライダー。悪い奴は倒されて、正義が保たれた。勧善懲悪の王道ストーリーって奴だ。お前は気にすることはない。お前は『正義の味方』の役目を立派に果たしたんだ。胸を張れよ。それでいいんだよ。お前は自分自身の道を貫き通せ。それだけだ」

 

 皮肉交じりではあるが、これがアバドン・ハレルがハルカに対しての遠回りな応援なのだろう。そして、その言葉を放った後で、今度は彼は凍矢に向かって言葉を放つ。

 

「ありがとうな同胞。最後に正気に戻してくれて。だが、もう俺たちは何もかもに『うんざり』なんだ。

 このクソゴミ世界にも、誰かの言いなりになるのにも、改造されて酷い目にあうのもだ。

 死ですら楽になれないのなら、虚無に還って楽になるしかない。それこそが俺たちの望みだ。

 俺たちは、もう楽になりたいんだよ」

 

 まあ……。そうだね……。と凍矢も思わず心の中で賛同する。

 考え方は色々あるが、このメガテン世界が実際生きるのにはクソ世界すぎる、というのはほぼ一致する意見だろう。その中でも過激派に散々体をいじられた彼らがこの世界に愛想をつかすのは至極当然だろう。

 それに今更幸せになりたいなどと言っても散々迷惑かけられた人々は許しはしないだろう。

 ならば、さっさと楽になったほうがいい、と言うのが彼らの総意である。

 

「俺たちは虚無に還る。虚無に還ってようやく永遠の平穏を得るんだ。ホワイトメンの力を利用すれば、ほかの悪魔どもに魂を確保されずに虚無に還れるはずだ。

 じゃあな同胞。コイツ(ホワイトメン)は俺たちが連れていく。お前はこのクソみたいなドブクズ最低(メガテン)世界の中で、最後の最後まで血反吐を吐きながらせいぜい醜く生きあがくといいさ。」

 

「……ああ。あばよ同胞。ゆっくり眠れよ。」

 

その凍矢の言葉を最後に、アバドン・ハレルはその肉体を分解させて、光球へと変化させるとそのまま空に浮かび上がり猛烈な速度で上空へと飛翔していった。

 


 

 ―――高高度に存在する巨大な球体。不可思議な力で飛行している風船にも空中要塞にも似た人工物。

その名前は惑星型精神強化再誕墳墓……マシンプラネット『テラゲート一号』。*2

 このテラゲート一号には二つの機能を有している。一つは『電波塔』としての役割――それは超々高範囲の、『黒札』と『シキガミ』に対する、精神的バフを常時流す事。

これにより、『情緒の拡張性に負担を掛けない、外付け忠誠心セキュリティ』を可能にした。

 そして、もう一つの機能は―――『墳墓』としての役割である。

 『テラゲート一号』は、死んだ転生者たちの魂を保護し、転生者専用の死後の世界に即座に転移させるための、『門にして鍵』でもある。そのテラゲート一号の牢獄の中、その機能で囚われる事になったアバドン・ハレルの魂は呆然として呟いていた。

 

『……何で? (困惑)』

 

 本人的には、大人しく滅ぶつもりであり、悪党が滅ぶのならガイア連合も文句は言うまい、ホワイトメンの力ならば干渉されずに虚無に帰れるはずだ、と考えての行動だったのだが、その予想を見事に裏切られて閉じ込められて大変困惑しているという状況である。

 

『罪を償うためにわざわざ自分から虚無に還ろうっていうのに、あの話の流れで閉じ込めるか普通……? (困惑)いや、これは俺の考えが甘かったのか?それだけでは許せないというのかガイア連合。はぁ~。世の中本当にクソだなぁ……。』*3

 

はぁ~とアバドン・ハレルの魂は牢獄の中でその言葉と共に、深々と溜息をついた。

 


 

もうちょっとだけ続くんじゃ!!

本来のプロットだと、アバドン・ハレルはあのまま虚無帰還ルートで救いを得て終了な流れだったのですが、アヒャゲイルさんの干渉でこういう形になりましたw

 

 

・アバドン・ハレル。

多分一番近い精神性は進撃の巨人の「ジーク・イェーガー」

「生まれてこない方が幸せだった」という反出生主義に基づいた「エルディア人安楽死計画」とほぼ同じ考え方に基づいて「サタンのメギドアークで全世界を消滅させる」という目的に基づいた行動を行う。

本人的には不幸な人類に救済を与えるつもりだった。

これはホワイトメンの世界を虚無に戻して救いを与えるという思考に非常に影響されている&宣教の羽によって思考の方向性(恨みの方向性)を歪められていたから。

最後はトライガンのホッパード・ザ・ガントレットみたいに捻くれた応援して消滅する予定でした。

「このドブクズ世界でせいぜい頑張れよバーカ!!」→「何でぇ……?(閉じ込めながら)」←いまここ。

 

凍矢「あのさぁ……。人がせっかく感傷に浸っていたのにあっさりと捕らわれるってどういうことなの? 姫騎士かお前は」

アバドン・ハレル「こっちだってこんなになるとは思わなかったんだよ!! きっちり虚無に還れると思ったのに!! 俺は悪くねぇ!! 悪いけど悪くねぇッ!!」

*1
脳を傷つけないように転移魔術の応用で脳内から脳外へと排出している。

*2
【R-18】アビャゲイルの投下所様

*3
ホワイトメンは厳密には転生者ではないのでそのまま虚無へと帰還しました。

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