10.2.ちょっとツクヨのキャラじゃない台詞があったので修正。
──半終末。そこでは魚沼シェルターの自室内部でひぃひぃ言いながら書類仕事をしている凍矢の姿があった。静なども一生懸命働いてくれてはいるが、書類仕事する手が足りないという事で静たちも渋々ながらも、元メシア教で一神教調和派の桜子なども問題ない書類仕事程度や警務仕事程度なら魚沼シェルターで働いてくれる事に賛同した*1が、それでも凍矢はひぃひぃ言いながら書類仕事を行っている際に、彼のCOMPにTELがかかってきた。見てみると、それは宮城で活躍している同じ黒札の『幼女ネキ』だった。ピッとポタンを押して出てみると、挨拶もそこそこに幼女ネキは話題を切り出してきた。
『よう、私だ。田舎ニキ今大丈夫か?』
「ああ、幼女ネキ*2じゃん。どうしたんだ? 何か用?」
即断即決な彼女には珍しく、一瞬だけ言いよどむが、それでも彼女はいつものように自分の用事を言い出した。
『うむ……。そちらの関係者に『森田』*3とかいう男がいるだろう? 聞くところによると、ガチの『忍者』だとイズナやミチルが聞きつけたらしくてな……。珍しく会いたい会いたいと我儘を言ってはいるんだが……。ほら、アイツはアレだろう? イズナに悪影響を与えるだろうからどうしたものかな……。と思ってな』
なるほど……と凍矢は考え込んだ。彼女の娘である『イズナ』、またイズナの友人である『千鳥ミチル』『大野ツクヨ』*4特に元は佐渡の覚醒狸であるミチルは「かまぼこ疾風伝」と言われる忍術漫画にハマりまくっており、忍術を学ぶためにわざわざ幼女ネキの事実上舎弟になって、悪路王異界で死ぬほどの修行を積んだほどだ。
そんな彼女が、実際に忍術が使える人がいると聞きつけたら物凄い勢いで食いついてくるのも当然だといえる。
彼女たちも元は佐渡島シェルターの団三郎狸の配下である覚醒狸と覚醒兎であり、佐渡島シェルターとの繋がりを考えると凍矢としても無碍にはできない事項だった。
「なるほど……。じゃあ俺がセクハラ防止のお目付け役として監視しておこうか?」
森田の問題点としては、まるで息をするようにセクハラ発言やアレな事を言ってしまう点にある。そんな奴に生まれて間もないイズナや預かっているミチルやツクヨを合わせたら悪影響を受けてしまうのではないか、と言うのは当然のことである。
『うむ、助かる。後は『なんかあれば処すぞ』とヤツには伝えておいてくれ。これだけやっておけば、まあ問題は起こさんだろう。もし起こしてもそちらの手を煩わさせなから安心してくれ』
「えぇ……(困惑)忍術を教えてほしいとかマジでっか……?」
そんな風に凍矢から話を伝えられた太った男性……『森田』は困惑の色を顔に浮かべていた。
元々諜報活用や他シェルター(多神や穏健派)侵入を行っている彼が、いきなり黒札からそんな事を言われたら困惑するというのは理解はできる。
忍術などというものは隠してなんぼ。他者に教えて陳腐化したりすればこちらの命が危うくなるというのは当然の考えだ。だが、遥か格上である黒札たちの要望を断る事など到底できないのが、宮仕えの悲しいところだった。
その森田の前にいるのは、宮城支部からやってきた忍術研究部であるイズナ、ミチル、ツクヨの三人である。
美少女三人にキラキラとした憧れの瞳で見られて、流石の女好きの彼も困惑しきりというのが本音である。
「ドーモ、森田=サン! 私はミチルといいます! 貴方は本物の正当な忍者の末裔というのは本当ですか!?」
「いやまあ、確かに忍者はあるが……ワイの流派は長野の『戸隠流』や。元々は戸隠山で修験道を学んだ『仁科大助』が始祖で、伊賀流忍術も取り入れて完成したとされておるな。だから伊賀流の血もひいとるといえば、まあそうかな……」
おおおおおお!! と忍術研究部の三人は目をキラキラさせながら一気にテンションが上がりまくった。
元々戸隠流はその名前の通り長野の戸隠山で修験道を学んだ『仁科大助』が源流である。そして、戸隠流の特徴としては「攻撃を目的とせず、守りを重視する」守備の武術である。
敵に相対しても、自分から攻撃を仕掛けずに、相手の戦闘能力を奪う。「武器を持たずとも敵を倒す」、これが戸隠流の極意であると言われている。彼女たちの師匠である「鬼鮫ニキ(元一般人)」や「大蛇丸ニキ(元ダークサマナー)」も忍術は使用できるが、正当な流派を学んだ訳ではない。
正当な流派の流れを汲んだガチ忍者が目の前にいるとなれば、テンションが上がるのも当然の事だった。
しかも、それが忍者の絶対的なブランドである『伊賀流』の流れを汲んだ忍術であれば尚更である。それほど、忍者に憧れる者たちにとっては『伊賀流』の名前は圧倒的だった。
「ミチル! ツクヨ! あの『伊賀流』の流れを組む正当な忍術を目の前で見れるとは……まさに幸運!! やりましたねミチル!!」
「う、うう……。私生きてて良かったよぉ……」
そんな感涙状態になっているミチルたちに対して、森田は困惑しながらその場を離れて彼女たちに背中を向けて凍矢に対してぼそぼそと小声で彼に対して話しかける。
(純粋な女の子の憧れの瞳とか世の中の穢れに塗れまくったワイには眩しすぎるんや!! お目目潰れるどころか尊さで消滅してしまうで!?)
(ええい、いいから大人しくあの子たちに忍術を教えておけ。余計な事言うんじゃないぞ)
(分かっとる……分かっとるわ!! でもどこまでがセクハラでどこまでセクハラじゃないか分からへんねや!! ワイがセクハラしたらブン殴ってでも止めてな!! ホンマ頼むで!! ……どうでもええけど、獣上がりの子ってHしたら獣交って事になるんかな……? *5)
(おいバカやめろ。それはライン越えだぞ。それあの子たちの前で口にしたら俺でも庇い切れんぞ。余計な疑問はいいから大人しくあの子たちに忍術を教えとけ。)
へいへい、と森田は凍矢の言葉に大人しく従って忍術を教える役目のため、まずは彼女たち自身の身体能力を見るための試験を行うと宣言した。
「言っておくけどな……。忍術はワイの”領域”やで……?下手に足を踏み入れたら切り捨てられても文句は言えへんからな……?」
黒札たちの願いとはいえ、名目さえ立てば合法的に仕事を断ることはできる。しかし、そこは黒札の子供であるイズナと悪路王異界で鍛え上げた二人。彼女たちの戦闘力、敏捷性などを見ていた彼は、特にイズナのその戦闘力と『螺旋丸』の凄まじいほどの威力を見て思わずこう叫んだ。
「……ヨシ! 修行終わり! 免許皆伝や!! はいお疲れ様でした! ワイは帰るで!!」
自分よりも遥かに上回る身体能力と戦闘能力を見て、あっさりと森田はそう叫ぶ。特に黒札の子のイズナの力量は凄まじく、到底彼では太刀打ちできないほどだった。そんな人間に教える事など何もない。さっさと免許皆伝を出そうとした彼に、ミチルは慌てた顔で引き留めにかかる。
「ち、ちょっと待ってください!! 私たちまだ何も教わってないんですが!? それで免許皆伝とか!!納得いきませーん!!」
「ふざけんなよ! ワイより遥かに戦闘力上回っとる上にきちんと忍術の動きもできてるやんけ!! ワイが教える事なんて何もないやろ!? そもそもワイの戸隠流は攻撃より防御を重んじる流派やで!? お前らとは相性悪いやろ!?」
そもそも、忍者の活動は情報収集や監視活動、連絡役、破壊工作であって必ずしも戦闘要員ではない。森田自身も情報収集能力、侵入能力は長けているが、さすがに大悪魔と戦えるほどの戦闘能力はない。
これだけの戦闘能力を所有して、しかもきちんと忍術の動きも行えて、大悪魔とも真正面から殴り合いができる彼女たちに今更忍術が必要か……? と森田が疑問に思うのも当然といえば当然だった。
「でもまあ、攻撃力は十分あるんだから、防御に長けた森田の忍術を教えるのはちょうどいいんじゃない?」
「それは……そうなんやが……」
とりあえず、黒札の子供にセクハラしたとか言われたら社会的にも物理的にもマジで死ねる……しかも幼女ネキの気性の荒さは有名であり、理不尽なことはどんな存在でも殴り飛ばすだろう。
いざとなったらホンマに助命頼むで……ホンマにホンマにな……と森田は渋々彼女たちに忍術を教える形になる。森田はため息をつきながら、話しかけてきたイズナに対して話しかける。
「仕方ないなぁ……。よし、その『螺旋丸』をワイに叩き込んでくれ。最小限でな」
えぇ……ま、まあ忍者だし何か考えがあるでしょ……とイズナは最低限の威力の螺旋丸を作り出し、それを森田へと投げつける。そして螺旋丸が命中した瞬間、森田はそのまま体が吹き飛ばされて粉微塵になる。それを見てイズナは思わず驚愕してしまう。そこまで強い威力ではない最小限の螺旋丸を食らって体が粉微塵になるなど未覚醒者ぐらいしかありえない。だが、臆病ではあるがその分観察眼のあるツクヨはその異常さをきちんと捉えていた。
「えぇ……!? いや、違います!! 血も肉片も飛び散っていません!! あれは「外側」だけです!!」
そう、ツクヨはその異常さを確実に把握していた。弾け飛んだはずの彼の体は血も肉片も飛び散っていなかったのである。肉体が粉微塵になって血や肉片が飛び散らないはずがない。
パラパラと空中に散らばっているのは彼の服と木の破片である。そして、それを正解と言わんばかりに彼女たちの後ろから男の声が聞こえてくる。
「せやな。そのデカ耳姉ちゃんの言う通りや。今のは『空蝉』の術。『ドロンパ』*6の術式と幻術を併用して自分のMAGを込めた衣服に幻術をかけて身代わりにして、ドロンパを使って離脱する。戸隠流の知識からワイが生み出した独自の術式や」
つまり、着弾の前にドロンパで透明になり、あらかじめ自分の服と幻術で攪乱し、自分はそのままドロンパの透明状態のまま跳躍する。これこそ森田が編み出した『空蝉の術』である。
これと飛雷神の術を応用すれば丸太と自分を入れ替える『身代わりの術』を行えることも可能だろう。そして、空蝉の術を使って離脱し、彼女たちの後ろに降り立った男を見て、彼女たちは仰天した。
「「「な……何かイケメンになってるー!!」」」
そう、そこに存在していたのは太っているいつもの『森田』ではなく、やや吊り目の顔立ちを持つ、若い金髪の男性、いわゆる『禪院直哉』そっくりの顔をした森田だったのだ。
「いやあ、ワイと同じ顔をした奴がどこかにいたらしくてなぁ……。この顔そのままだと絡まれて仕方なかったからあの体を作って気楽に過ごしていたんや。あの顔ならああだこうだ言われる筋合いなくて気楽だったしな。
……まあ、実際はこれも嘘なんやけどな。この顔も偽物や。」
「嘘なのかよ!!」
思わず凍矢が突っ込みを入れたのに対して、直哉の顔をした森田は顔を顰めながら言葉を返す。
「当たり前やろ! 忍者が自分の顔やら素性やらベラベラ話せるかい!!メシア教の粛清を逃れるためにはこれぐらいの用心深さは当たり前じゃ!!」
ともあれ、あの普段の森田の姿も、この直哉の姿もあくまで変装しているだけの仮の姿。某漫画版のルパン三世のように自分の本来の姿は絶対に明かさないというのが森田の忍者としてのスタイルらしい。その秀でた変装術に、おおー!と忍術研究部の三人は思わず歓声を上げた。
「うおおおおお!!先生!先生!先生!師匠!師匠!師匠!」
「そうだよ!こういうのでいいんだよこういうので!忍術最高!!」
そんな大盛り上がりを見せている三人を他所に森田はさらに言葉を続けていた。
「まあ、続きを行くで。ワイの『戸隠流』には『忍者八門』忍者になるために基本となる8種類の必修科目が存在する。骨流術、気合術、剣術、槍術、手裏剣術、火術、遊芸、教門や。遊芸は……教えると黒札様に怒られそうだし、教門は知識・教養、兵法なんで短期間で身につくものでもない。気合術で面白い術があるので、まずはそれを教えようか」
「ノウマクサンマンダ・バサラダンセン・ダマカラシャダソワタヤ・ウンタラタカンマン!! キェエエエエッ!!」
「……!?」
「……!!」
森田が真言と同時に裂帛の気合を込めながら忍術研究部の三人に対して指先を向けると、その大声にびくり! と驚いたミチルとツクヨの動きが、ぴたり、と金縛りにかかったかのようにぴたり、と停止する。
「ど、どうしたんですか!?ミチルにツクヨも!?」
「今のは修験道に伝わる『不動金縛りの術』……《三挫き》*7や。『居縮めの術』剣術では『心の一方』とも言われとるな。この技はいわば瞬間催眠とも言える術式でな。相手の意識が途絶えた瞬間に自分のMAGを相手に叩き込んで動きを封じる効果を持っとる。さすがに黒札様のお子さんには通用せんかったが……」
真言を大声で唱えて、相手が一瞬ビクッとして意識が逸れた隙を見計らって、そこに自分のMAGを叩き込んで相手を麻痺状態に陥れる。これが今森田が行った「不動金縛りの法」「三挫き」である。
森田はこれを相手を麻痺させた隙を見計らって逃げ出す事をメインとして使用しているが、これを工夫すれば彼女たちの力なら大悪魔相手でも十分通用する術式になるはずである。
「ワシらはこの術式を使って相手の動きを止めてさっさと逃げ出すのが王道や。だが、お前さんたちなら大悪魔との戦いにこの術式を応用できるやろ」
他にも攻撃対象として凍矢が作り出した人型の氷像に対して、ガイア連合で生産されている鎖鎌を利用して、鎖で相手を縛り付けて動きを封じ込める方法なども教えていく。これも本来は相手を封じた後で自分はさっさと逃げ出すという手段に用いる戦法ではあるが、彼女たちなら何らかの応用はできるだろう、と判断したからだ。
「よし、それじゃせっかくだからワイの刀術も教えたるか。何か役に立つかもしれんしな。」
そう言いながら、森田は自分の腰の後ろに短刀を差し込む。正面から見たらほとんど隠れるぐらいの短刀という所がポイントである。そしてそのまま腕を後ろに回した状態で相手に対して突進し、左右に細かく動きながらフェイントをかけ、すれ違いざまに短刀を抜いて逆手で抜刀して凍矢が作り出した氷像を切り裂く。この際に右か左かどちらに抜刀させるか読ませない事で相手の判断を迷わせるのがポイントである。これこそが森田の『変移抜刀霞斬り』である。
「今のは『変移抜刀霞斬り』*8や。左右かどちらか読ませないようにして攻撃を仕掛ける。うまくキマれば相手に対して『幻惑』を仕掛ける事ができるんや。」
「む! 森田殿! それを見て思いついたのですが……こういう事もできるのでは!?」
イズナの要望に従い、凍矢は人型の氷像を数十イズナの前に作りだす。そして、腰の後ろに短刀をつけてイズナは森田が教えてくれた変移抜刀霞切りを決行していく。森田の行った『変移抜刀霞斬り』は単に相手に対して『幻惑』の効果がある単体攻撃。だがイズナが行う『変移抜刀霞斬り』は敵単体ではなく、その敏捷性と身体能力で敵全体に対して攻撃を仕掛ける、メガテンの『霞駆け』*9とほぼ同じ効果を持つ剣術に独自で昇華させたのだ。自分は単体攻撃しかできないのに、敵に対して全体攻撃をランダムに仕掛けられるケタ違いの身体能力に思わず森田は白目になりかけてしまった。
「なんやこの子……こわ……。マジで才能の塊やんけ……。怖すぎるわ……」
あっさりと変移抜刀霞切りを学習したイズナだったが、今まで教わった技術をうーむと腕と組んで考えこむ。
「というか多少火力が足りないと思うのですが……相手の動きを封じる術とか相手を幻惑しながら攻撃する術とかが多いのでは……?」
「そんな大悪魔を倒せる大火力が普通忍術で出せるわけないやろ!? 忍術は対人技術やで!? 大火力はそれこそ黒札様の術に頼れや!」
そんなイズナと何やかんや話している森田に対して、ミチルは申し訳なさげに言葉を放つ。
「でも……こちらだけ一方的に習うのはちょっと気が引けるっていうかぁ……。何かそちらに提供できることはありますかね?」
「ああ、それならあの『螺旋丸』の技術を教えてくれや。そもそも忍術の『遁術』というんは「敵から隠れたり逃げたりするための術」のことや。某かまぼこ疾風伝のようなド派手な攻撃術とは違ういう事……少なくともワイの流派ではそういう術やと認識してほしい。あの螺旋丸を使って土煙を作り出して、それに紛れて逃げ出すという『土遁の術』でも開発しようと……。」
その言葉におおー!と目をキラキラさせている三人に対して思わず引きながら森田はごほん!と咳払いをして言葉を続ける。
「まあ……教えた技術を生かして自分の物にして新しい技術として活用する。死蔵してカビを生やすよりもよっぽどええ。お前たちもワイの技術を生かして好きな忍術を編み出せばええんや。これが『新時代の忍者』って奴やろ。受け継いだ技術を生かしてくれたらこちらも言うことはないわ。……だからもうワイの元には来ないでな!黒札のお子さんの面倒見るとか胃に穴が開くで!ワイは好き勝手自由に生きたいんやー!!」
最後の言葉さえなければいい感じに閉めることができたのになぁ……と凍矢は呆れ顔で森田に対してため息をついた。
とりあえず「ドロンパ」「空蝉の術」「三竦み」「変移抜刀霞切り」などをイズナ、ミチル、ツクヨの三人に教えた感じです。
この後暁メンバーから「元々、『児雷也豪傑譚』の「児雷也」は越後妙高山に棲む仙素道人から教えられた蝦蟇の妖術が使えたようですよ?どうですか?「口寄せの術」覚えてみませんか?」「えぇ……(困惑)」とかやっていそう。