【カオ転三次】故郷防衛を頑張る俺たち   作:名無しのレイ

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アビャゲイルさんやいろいろな方からアイデアをいただきましてどうもありがとうございます。できる限り生かしてみました。


宮城・岩手・青森・秋田支部の霊的線路建設1

 ──―ガイア連合山梨支部の会議室。神や悪魔に盗み聞きされないように【霊的防音】【物理的防音】の術式が施されたその会議室に集まっていたのは、宮城支部・岩手支部・青森支部・秋田支部のトップたち、そしてこの企画の立案者である【列車ニキ】*1とそのケツモチといえる凍矢だった。幼女ネキを有する宮城支部からは支部長である【レン子ニキ】*2と【幼女ネキ】、セツニキが作り出した岩手支部からは【愛宕ネキ】【高雄ネキ】*3に加え、【セッツァーニキ】そして恐山を所有している青森支部からは、ガイア連合の大幹部ともいえる【霊視ニキ】そして霊視ニキの妹分ともよべる【カス子ネキ】*4である。

 その中、肩身が狭そうにしているのは【ネイガーニキ】がケツモチをしている秋田支部の【室井梅吉】*5である。彼は元々名家上がりであり虹札こそ有してはいるが黒札ではないため、肩身が狭いのは仕方ないといえるだろう。そして、そんな錚々たるメンバーを前にして、列車ニキは本題を切り出していった。

 

「……と言うわけで、まずは『東北新幹線』の路線の一部復活……具体的には宮城、岩手、青森を結ぶ路線を復活させるべく計画しています。財源はそれぞれのシェルターの共同出資とギルニキたち富豪組からの支援、そして基本的な作業は新しく立ち上げた『ハイランダー鉄道機構』が携わせてもらいます。」

 

 おおおおお!! とその会議室にいる黒札たちは(ごく一部を除いて)大きなどよめきが起こる。

 東北4県はそれぞれネームド黒札やら特記戦力やらが揃って防衛戦力としては申し分ない。だがやはりシェルター同士を繋げる直通の路線があれば直接物資・人材の輸送も可能になるし、万が一ターミナル通信が動かなくなった時の保険にもなる。

 いかに特記戦力が存在しているとはいえ、点在しているだけではもし過激派の大規模テロが起きた時に個別に殲滅されてしまう可能性は存在する。こういったシェルター同士の物理的な繋がりがあればお互いの交流も行え、物理的に繋がっているという安心感はいざという時のお互いの防衛態勢にも大きく影響してくる。

 このため、お互いのシェルターの共同出資によりこの三県を繋げる霊的線路……『霊線』の構築を行おうというのが列車ニキの提案である。実際、魚沼シェルターから長岡市シェルター、そして新潟市シェルターを繋ぐ霊的蒸気機関車と霊線は開発し運用もされている『実績』もあるため、計画的には問題はない。

 だが、そんな中、秋田支部長である【室井梅吉】は手を上げて発言を求める。

 

「あの……すみません。秋田の方は……?」

 

「もちろん繋げたいつもりではあるけど……優先度はちょっと下がるから……」

 

「まあ……優先順位は下がるといっでも別に作らないという訳ではないっけ。ちいっと待つだけの事じゃっけ。そんなに落ち込む必要はないだべ。」

 

 秋田支部の【ネイガーニキ】の慰めに対してデスヨネー、トホホという顔になるが、それでもそれも彼の予想内ではある。まずは宮城・岩手・青森の霊線を作り、そこから盛岡から秋田まで繋がる「秋田新幹線」の路線を復活させるというのが道理にあっているとは言える。今ここで資金供与しておけば計画に参加している「仲間」という事で優先順位は下がるがそれでもきちんと路線を作るという確約はされるはずである。

 

「……ところで何で名称が『ハイランダー鉄道機構』なんだ?」

 

「まあ……そっちの方が黒札たちの受けがいいですから……」

 

 その列車ニキの声にああ……と皆、列車ニキが所有する蒸気機関車の九十九神として出現した某シュポシュポ言ってる仁義のメスガキ、もといシュポガキを思い出す。それならばそちらを押し出したほうが他の黒札の受けがいいというのは事実なのだろう。それ以外にも鉄道マニア……通称乗り鉄の黒札*6も存在するため、彼らからも共同出資や協力はしてもらうつもりである。ともあれ、続いて列車ニキと一緒にいる凍矢がKSJ研究所から資料をもらった通称『冥界エクスプレス』についての資料を読み上げていく。

 

「そして、今回は物資運搬だけでなく、『旅客車』としてKSJ研究所の【カズフサニキ】*7たちから提供された『冥界エクスプレス』を使用します。万が一蒸気機関車が破壊された際には自立移動が可能。さらにいざという時には地中に入り込んで乗客の安全を確保。そのまま安全圏まで離脱する仕組みになっています」

 

 カズフサニキから供与された『冥界エクスプレス』は、シャシーに馬ニキの所の地下秘密牧場で育て上げた「地霊馬」を合体させ、さらにカズフサニキたちが信仰しているツクヨミやヘカテの力により「呪殺貫通」の力を持ち、いわゆる「貫通マハムドオン」を悪魔たちに叩き込む事も可能である。

 さらに列車内部には、ツクヨミ神の神社も装備されており、いわば移動神社として霊線の霊的防御力を向上させるシステムになっている。

 その凍矢のセリフに、その場にいた黒札たちもおおお!! と一斉に歓声の声を上げる。これなら乗客の安全性が飛躍的に高まるし、他シェルター同士の住民の行き来……”観光”すら行えるという事が実証されたのだ。それに対して、今度は宮城支部の【幼女ネキ】が手を挙げて発言を求める。

 

「うむ! そしてこの『冥界エクスプレス』の弱点を補うために私が「電撃無効」のスキルカードを供与しよう!! だがそれだけでは面白くない!! そこで私からも特別のプランを立案する!! 

 それは『電源車』だ!!私のMAGをチャージした巨大なMAGバッテリーそのものに加え、そのMAGを電力に変換!! 列車各部に電力を供給する事によって各種機械を動かす事も可能!! 冷暖房装備で快適に過ごせる上に「貫通マハジオダイン」を敵悪魔に叩き込む事も可能!! 安全性もより確保されるというわけだ!!」

 

 その幼女ネキの言葉に、各所黒札たちからまたどよめきの声が沸き上がる。「貫通マハムドオン」に加え「貫通マハジオダイン」という魔術的大砲を所有しているこの霊的武装列車ならば、例え天使の群れだろうが悪魔の群れだろうが襲い掛かってきてもたちまち蹴散らせる事はできるはずである。

 さらにいざという際には、地中に「冥界エクスプレス」を退避させて安全にその場から離脱させる事もできるため、乗客の安全性も確保されることになる。もちろん幼女ネキからしたら赤字であるのだが彼女は「面白そうだから!!」で平気で出資する性格である。多少赤字が出たところで別段どうということはない。これら冥界エクスプレスや電源車に加え、オカルト兵装を搭載した【火砲車】【警戒車】それらを統合・指揮する【指揮車】を組み込む事により【霊的警戒車=電源車=霊的火砲車甲=霊的火砲車乙=霊的蒸気機関車=冥界エクスプレス=指揮車=貨物輸送車】*8として繋ぐ予定である。

 そして、それに続いてセツニキも自分のプランを語りだす。彼は列車自体ではなく列車を支える「路線レール」についてだ。

 

「そして、路線のレールの霊鉄にはウチのイワナガの【不壊】の術式を組み込む上に……まあ個人的には複雑だが……【猿田彦】の術式を組み込もうと思ってる。猿田彦は天孫降臨の際に道案内をした由来から、道の神、旅人の神という【道祖神】としての力にズバ抜けているからな。どうせイワナガから猿田彦に情報をリークさせれば「霊線を守護する道祖神として祭ってください! お願いしまぁああす!! きちんと交通安全しますから!! 何でもしまむら!!」とか言い出してくるだろ。ニニギはどうかとは思うがコイツには恨みはないからなぁ。」

 

 猿田彦はニニギと関係が深いが彼がいなかったらニニギが石長比売と出会わなかった訳でいいのか悪いのか……とセツニキ的には複雑な心境の神である。ともあれ、後は同じく旅の神、導きの神でもある【八咫烏】の祠を霊線沿いに作るか、それこそ冥界エクスプレス内部の神社に組み込めばいい、というのがセツニキの考えである。

 霊線のレールに【石長比売】【猿田彦】の力を組み込み、さらに霊線沿いに【八咫烏】【猿田彦】の祠を作り、冥界エクスプレス内部にも【ツクヨミ】【八咫烏】の移動神社を取り入れる。

 こうする事によって霊線沿いに多重霊的結界を構築し、防御力も増すことを考案したのだ。さらに猿田彦の道祖神としての力とイワナガの術式を組み込んだ霊鉄ならテロに対しても有効だろう、という考えでもある。

 

「それだけどな。高位霊能者……黒札たちの共通意識概念はそれだけで世界に対して大きな影響を与える。

 例えば『東北新幹線』という『概念』が黒札たちの中で強く残っている今なら、例え霊的防御がなかったとしてもその概念が残っている残骸があればそこから再建することは比較的簡単だ。ここで問題となるのは、霊線の根本となるレール作り……つまりはレール用の大量の霊鉄作成だな。枕木の方も大量の霊木を調達しなきゃならんが……その辺は探求ネキに任せるか。それかコンクリート枕木にするか……。」

 

 そうなれば、やはりもっとも大事になるのは霊線用のレール製造である。

 鉄の神となればやはり「金屋子神」が有名であり、佐渡島シェルターに存在する「ミーミル」の姿をしている金屋子神に頼る話も出てきたが、やはりこれほどの大量の霊鉄生産はそこだけでは難しい、という話になった。

 そのため、現在では愛宕ネキたち岩手勢力が言い出した日本で初めて鉄の連続生産に成功した「近代製鉄発祥の地」である【釜石シェルター】に製鉄所を誘致する計画や、佐渡から比較的近く元は鉄道の要地である【直江津シェルター】に製鉄所を誘致する説など黒札たちは新たな問題に頭を抱えた。

 ……あれ? これ下手しなくても製鉄需要を狙う製鉄所の誘致合戦にならないか? とセツニキは一瞬思うが、ま、いいか!! と考えるのを放棄した。実質ガイア連合による大規模公共事業ともいえるこの線路構築工事はうまく活用すれば仕事を増やすこともできるし景気を刺激することもできるだろう。だがその辺はギルニキなどいわゆる富豪組やちひろネキに放り投げればいい。できることは他人に任せる(丸投げ)するのが人を使うコツである。

 

「ともあれ、宮城・岩手・青森を繋ぎ、そして秋田支部を繋ぐ霊的線路を作り出す。そして最終的には、秋田から新潟までの『羽越新幹線』のプランを使用して、二つを組み合わせる事によって東北地方をぐるりと霊的線路で取り囲むプランになります。これにより鉄道網が巨大結界になり霊的にも安定する可能性があります。」

 

 つまり、東北地方をぐるりと取り囲む霊的路線の建築はまさにガイア連合にとっても一大プロジェクトである。

 これがもし完成すれば東日本全体を覆う一大巨大結界として機能する可能性すらありえる。人口の問題も、幼女ネキが守護する宮城、セツニキが肩入れして愛宕ネキ、高雄ネキたちが守護する岩手、カス子や霊視ニキたち恐山勢が守護する青森と十分人々が生き残っているシェルターを繋げるだけでも十分採算は取れるはずである。

 

 

【挿絵表示】

 

 

青:東北新幹線

黄:秋田新幹線(の一部)

赤:羽越新幹線(予定)

 

だが、この地図の資料を見て、秋田支部長である室井梅吉は再び手を挙げて質問を行う。

 

「あの……すみません。『羽越新幹線』って半終末以前に構想はあったけど結局着工されなかった気が……。いや、こちらとしては青森支部や新潟支部と繋げるんでぜひやってもらいたいところではあるんですが……」

 

 その彼の言葉に、凍矢も鉄道ニキも思わずそっと目を反らす。残骸が残っている路線を復興させるだけでも大変なのに、元々計画がない路線を一から引くのなんてさらなる労力がかかるに決まっている。

 終末後で悪魔を蹴散らしながら変化した地形を把握して路線を引くなんてましてや、である。とりあえず秋田から新潟まで路線を繋ぐのなら新潟市の黒札である【鑑定ニキ】や【命運寺】*9の力を借りたほうがいいだろうし、その辺は今回はおいておく。

 

「……まあ、まずはシェルター同士を繋げないと話しにならない訳ですが。ともかく最優先は宮城・岩手・青森を繋ぐ霊的線路……『霊線鉄道』の構築。そして次に岩手と秋田を繋ぐ霊線の構築。これでいいでしょうか?」

 

 異議なし、とその場にいる皆は賛同した。こうして各シェルター合同出資による霊線設置計画が始動したのである。だが、地球が魔界と融合したことによって、日本全土も広くなったり大きく土地が変わっていたりしている。

 旧東北新幹線の跡線を使用するにしても、まずは線路を引くための検地・土地の確保を行分ければならない。

 

「どこもかしこも地形がぐちゃぐちゃで測量もままならない状況だしな……。こういう時には……力こそパワー!! 俺たち高レベルの黒札が宮城から進軍してまずは岩手へと向かう!! そして後方部隊が安全圏を確保して結界で土地を確保しながら進む。これが一番手っ取り早い!! まずは旧仙台から旧盛岡までだ!」

 

「まずは上空から飛行できる幼女ネキとカス子ネキが先行偵察を決行。そこに黒札勢力が蹴散らし安全圏を確保。さらに後方部隊が安全圏を結界で覆い霊木と霊鉄による霊的線路『霊線』を引いていくという形で行っていこうと思います」

 


 

ともあれ、霊線の件で話が一応纏まったところで、凍矢は新しい資料を皆に配っていく。それは凍矢たちではなく、KSJ研究所を立ち上げたいわゆるカズフサニキたちからの提案である。

 

「さらにカズフサニキからの提案ではありますが……この線路計画に対メシアン用の”罠”である『ロンギヌスの槍』が保管・輸送されるという計画でメシアンどもを釣り上げるという案はどうか?という計画が上がってきました。皆さんの意見は?」

 

 聖ロンギヌス。有名も有名な聖槍にして神すら滅ぼす権能を所有している。一神教調和派や桜子あたりが聞いたらそれだけでうーんと気絶しかねないほどのビッグネームである。

 元々はキリストの死を確認するために脇腹を突いた槍なのだが、キリスト教が世界に広まるにつれてどんどんその逸話や伝承は盛られていく事になる。そして聖遺物としての価値が上がっていくに従って、自然に「運命の槍」と言われるようになり「ロンギヌスの槍を持つ者は世界を統べる」という伝承すら生まれる事になる。

 そのために、ローマのコンスタンティヌス1世,ローマ帝国のカール大帝(シャルルマーニュ),フリードリッヒ1世など,多くの権力者がロンギヌスの槍を欲した。またロンギヌスの槍を所持することは,大きな力を手に入れるのと同時に,危険を伴うとの説もある。カール大帝やフリードリッヒ1世は槍を失うとたちまち力を失い亡くなったという伝承すらあるのだ。

 それを対メシアン用の罠の餌にしようとするという案に、霊視ニキは腕を組みながら答えた。

 

「なるほど……。過激派を釣り上げるための”釣り餌”にしようというのか……。確かにどこに潜んでいるか分からない過激派を吊り上げるには最適だし、これだけの大戦力ならば釣りあげられた過激派を殲滅することも容易い……。理には適っている。」

 

その霊視ニキの言葉に対して、セツニキも同様に頷きながら言葉を放つ。

 

「それにアレだろ? 本霊に近いロンギヌスって事はオカルト伝承で言われている『世界を支配する権能』も付与されている可能性が高いってことだ。そりゃ過激派としては喉から手が出るほど欲しがるだろ。

 笑わせるな。メシア教こそ一番世界救済できる立場にいながらそれを投げ捨てて、夢よもう一度とそんな伝承に縋りつくんだからな。ま、釣り餌としてはまさに極上だろうぜ。」

 

 カズフサニキのところにはロンギヌスの槍の権能を持つ霊能者がおり、本霊と契約して本物同然となった槍すら作り上げることができるという。ということは聖槍の伝承『世界を支配できる権能』も宿している可能性が高い(少なくとも過激派はそう思い込む)はずである。かつては世界をほぼ支配しかけたのに没落した過激派からすれば、夢よもう一度、とその伝承に縋り付いてくるのは想像できる。そういう意味でも、確かに”釣り餌”としては最適であろう。

 

「でもずっとそこに存在する、というのでは常に路線が過激派に狙われる事になるのでは……?期間を決めておいたほうがいいのでは?」

 

「それでは、『ロンギヌスの槍を輸送するために保管している』という噂を流すのは?落ち着いた適当なところで『ロンギヌスの槍は輸送完了してすでに存在しない』とでもしておけばコントロールしやすいでしょう。」

 

その岩手支部長である愛宕ネキと高雄ネキの言葉に、他の皆も賛同した。ともあれ、こうして計画は開始されることになったのである。

 


 

 そしてそれからしばらく後、岩手の近代製鉄発祥の地【釜石市シェルター】に設置された製鉄所や、佐渡から比較的近く元は鉄道の要地である【直江津市シェルター】に設置された製鉄所から霊鉄で構築された霊的レールがどんどん大量に宮城支部へと運び込まれていた。まずは宮城支部から岩手支部まで霊線を構築するための資材搬入が行われている中、その中では当然監視の目が行き届かない部分がある。そんな所に一人の作業員が入り込んでいた。

 

「よし、これで……と」

 

 ハイランダー鉄道機構の物資置き場内部。そこには道祖神である猿田彦とイワナガヒメの祝福が込められた鉄骨レールが多数保管・保護している場所である。

 猿田彦の力が込められた霊的鉄骨レールはそれ単体で結界を構築できる起点となる。

 これに加え、さらに霊線の一定距離に道祖神の祠を設置し、霊線に道祖神としての猿田彦と八咫烏の結界を構築し悪魔からの侵入を防ぐ仕組みである。

 通常は監視員は置いているが、監視員の目を逃れたその作業員はチョークで「何か」その霊鉄に対して書き込むが、その書き込まれた文様はすうっと透明化していく。それを見て作業員は頷くがそんな彼に対して声がかかる。

 

「おいおい。ここには作業員がほいほい立ち入っていい場所じゃないぜ?全く監視員は何してるんだか……。」

 

 作業員に声をかけてきたのは、元魚沼シェルター外のスラム街の顔役の一人である「ダッチ」である。列車ニキの魚沼シェルターから長岡市シェルターまでの鉄道列車の護衛として活躍した彼は、その功績を認められそのままハイランダー鉄道機構の一員として活躍することになったのだ。作業員は道に迷ってしまってすみません、と言い訳しようとしてそのままダッチの傍を通り抜けようとする。

 

「ふうん……。ところでさ。何か臭くない? 臭うよなぁ……。頭に入ってる鳥の臭いがなぁ……!」

 

 それだけ言うと、ダッチは瞬時に懐から銃を抜き放つと迷いなくその作業員の脳天に呪鉄製のホローポイント弾を問答無用で叩き込む。金屋子神……ユーミルが作り出した呪鉄製の弾丸はそれだけで天使が弱いムド系の力を秘めている。いかに覚醒者とはいえ、そんなものを脳内に叩き込まれてはたまったものではない。脳天に呪鉄製の弾丸を叩き込まれた作業員はそのまま目と口から血を吐き散らしながら地面に倒れこむ。

 

「悪く思うな……とは言わないぜ。上がピリついてるのに不審な行動をしているお前さんが悪い。まー無罪なら生き返させるように上に掛け合ってはやるよ。……しかしまあ上から『わざと警備は緩くしろ』『不審な行動をしてる奴がいたら迷いなく撃て』とは言われてたがこんなにいるとはねぇ……。」

 

ハイランダー鉄道機構もその下で働く作業員たちも、きちんと穏健派の手がかかっていない人員を選んだはずなのだが、それでも不審な行動をする人員が出るわ出るわ。これには列車ニキもロックも思わず頭を抱えるほどである。何なら霊鉄を作成する製鉄所にも変な行動を起こそうとする輩も多いとのことである。ともあれ、ダッチは脳天に弾丸を叩き込んだ死体を担ぎ上げ、とある場所へと運び込んでいく。

 

「姐さん。ちょっといいですかい?」

 

宮城支部の一部屋、そこにずらっと並べられた死体と向き合っているのは、青森支部……というか【恐山】のイタコ衆の最終暴力兵器とも言われている黒札の一人【カス子ネキ】である。

本霊がネビロスである彼女は、極めて高度な「人形遣い」としての技術を有しており、様々なスキルの人形を操ることのできる適応力に優れた黒札の一人である。また、交霊術にも長けておりネビロス本霊自身と交信したり、死んだ人間の魂を操り、持っている情報を根掘り葉掘り聞きだすことができる。今はここに並べられた死体の魂から直接「情報収集」を行っている彼女は、ダッチの持ってきた死体にも眉一つ動かさずに対応する。

 

「んーいいよー。今度はこいつの魂に直接聞けばいいんだよね?任せてなさい!!死人ほど正直な証言者もいないってこと、意外と皆さんご存じないんですよねぇ。さーバンバン聞いていくとしますか!」

 

そういいながらカス子ネキはその死体に対して交信を行う。それは人形に死んだ人間の魂を憑依させて情報を喋らせるという形式になる。*10普通の人間ならば驚くかもしれないが、スラム街の顔役の彼はその程度で驚きもしない。

 

「んー……。こいつが触ってた鉄骨あるでしょ? そのレールに旅の守護聖人『クリストフォロス』のメシア教術式を仕込んでいたんだって。後で調べておいたほうがいいよ」

 

 守護聖人クリストフォロス。それは救世主を背負って川を渡ったという聖人の一人である。旅行者、巡礼者などの各地を渡り歩く人々の守護聖人とされており、旅を象徴する鉄道とは相性のいい守護聖人だ。この程度で霊鉄で構築されたレールに干渉するのは難しいが、多少干渉して結界を弱める効力ぐらい見込める。その弱まった結界を通して内部に侵入しようとしているのだろう。

 

「なるほど……。守護聖人の術式なら天使じゃない人間でも扱いやすい。針の一穴にも似た阻害術式だが、それを利用して霊線内部へと入り込もうってわけか……」

 

「クリストフォロスだけじゃなくて悪魔払いの守護聖人「聖ベネディクト」の術式も仕込もうとしていたらしいね。まあ結果として未然に防がれた訳だからオッケーだろうけど。……しかしまぁ、作業員の中にこんなに紛れているとは流石にカス子さんもびっくりだよ」

 

 もちろん、セツニキの作り出した術式やら霊的物質を混ぜ込まれた霊鉄がたかがそんなチョークで書き込まれた守護聖人の術式程度でどうこうできるはずもない。せいぜい結界が一時的に多少緩む程度のことだ。

 だが、蟻の一穴という言葉もある。ほんの少しでも結界を緩めてそこから霊的テロを仕掛けるなり、結界破りを仕掛けるなり何なりしてくるだろう。

 ずらりと並んだ作業員の死体。これらが全て過激派のスパイやら何だと流石にため息が出てくる。彼らはどこかにあるはずのロンギヌスの槍の位置を探るため、または情報を探るため、あるいは内部や霊線に72の天使名「シェム・ハ=メフォラシュ」の名前を刻み付けて霊的テロを起こそうと企んだ者たちなどまさに多種多様である。

 青森も岩手も宮城も過激派狩りは行っているはずなのだが、それでも虫のように湧いてくるその状況に、流石のカス子ネキもダッチも思わずため息が出てくる。

 

「……全く、穏健派やメシア教に関係していないはずの作業員を集めたはずなんですがね……。

 なんでこんなに虫どもが多いんだ? とロックも頭を抱えていましたぜ。まあ、中には脅されたり家族を守るために頭に羽を埋め込んだ奴らもいるみたいですが……」

 

「ともあれごくろーさん。アタシのほうから列車ニキや田舎ニキに話して特別ボーナスぐらいは出してもらうように提案しておくよ。まあ、死人ほど素直な存在はいないからねぇ。何でも岩手には隠れキリシタンがいたらしいから、そのツテや乗っ取っとられて過激派の拠点地になってるところもあるらしいね。これも愛宕ネキやカズフサニキたちに報告しておかないとね~。」

 

 床にずらりと並べられた死体たちの魂からいともあっさりと次々と情報を引っこ抜いていくカス子ネキの姿を見ながら、おお怖い怖い。こんな怪物……いや、神のような存在に対して逆らうなどとんでもない。くわばらくわばら。とダッチは心の中で呟く。彼女たちに逆らうということは、【ネクロマ】のように死後も操り人形として操られる事もあるということだ。そんな存在に逆らうなど気が知れんね、とダッチは心の中で肩を竦めた。

 

「ともあれ『疑わしきは撃て』と上からも命令を受けていますし。詳しい情報なんてのは知りたくもないですな。こっちは与えられた仕事をこなすだけでさ」

 

「正解(エサクタ)!!その通りその通り。余計な事知りすぎても正気度が下がるだけだからねぇ。大人しく仕事をして余計なことには首を突っ込まない。これが君のためってやつさ。いやホントホント。列車ニキや田舎ニキも君みたいな有能な人間は失いたくはないだろうから、そこのところは上手くやってくれよな~。」 

 

 個人的には宮城・岩手・青森を繋いだ後で、新青森から恐山までの直通路線とか作ってほしいんだけど、まあ霊道でその辺繋ぐなり何なり方法はあるから何とかなるかぁ~とぶつぶつ言ってるカス子ネキに対して、ダッチは黒札様の御心のままに、と優雅に一礼を返した。

 

*1
「ファッション無惨様のごちゃサマライフ」様、魚沼TSV ~転生者バリエーション~ 02から。富豪系俺らの黒札。終末前から列車などを作っている重工業系の会社を経営しており、ロボ部に多額の投資をしていた。外見はマイトガインの旋風寺舞人

*2
「【カオ転三次】TS^2ようじょの終末対策」様から。宮城支部の長として活躍している。

*3
「【カオ転三次】最速で出会った俺らのガイア連合活動記録」様から。岩手支部の支部長とその補佐。実質セツニキがケツモチをしている。

*4
「【カオ転三次】今更転生ごちゃまぜサマナー」様の主人公。イタコ衆の最終暴力兵器ともいえる人物で人形遣い。

*5
「【カオ転三次】俺たちの喜怒哀楽録」様、秋田支部の元名家。多分ネイガーニキには山梨支部の厄を背負った魚沼シェルターに定期的に厄払いを頼んでいそう。

*6
「カオ転三次 カオス転生の片隅で」様、東京在住黒札交流スレ Part16で乗り鉄の黒札が出てきていたのでこういう人たち。

*7
【R-18】アビャゲイルの投下所第二支部【カオス転生ごちゃまぜサマナーN次創作】様から。

*8
参考、九四式装甲列車。火砲車を機関車の前方に配置し、全火力を正面に集中できるようになっている。また運行間射撃が可能であるよう求められていた。電源車がかなり前方なのは貫通マハジオダインを周囲や前面に叩き込むため。

*9
「親友が英雄の転生者だった件について」様の主人公と新潟市の現地名家組織。

*10
「【カオ転三次】今更転生ごちゃまぜサマナー」様の7話:犠牲者からのタレコミで過激派の拠点が見つかったので、天使狩りを実行します!で実際に行っている。

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