怨焔刀なども使わせていただいたのでせっかくなのでメシアンも出るよ!
静に対するシキガミパーツ移植手術が成功し、移植手術の傷も魔術で癒え、静は自らの左腕を試しに動かしていたが、以前の腕とは全く違和感がない上に痛みもない、しかも手術が終わってほとんどすぐに動かせるようになるとは、流石ガイア連合の技術恐るべしか……と彼女は掌を握ったり開いたりして実感した。
手術が成功したフェイスレスニキは満足そうにそんな静を見て自分の手術が旨くいった事に喜んでいた。
「ま、提供された彼女の祖父母の霊基データと彼女自身の霊基データを元にして『相性のいい』シキガミパーツをわざわざきちんと選んで移植したんだ。これで成果が出なかったらこっちが泣いちゃうよ。移植手術はわりとシキガミパーツをポン付けするだけだからいちいち相性なんて調べないしねぇ。いい実験になったと思おうかな」
それに対してミイはえへんぷい! と胸を放った。ミイの記憶から静の祖父母の記憶をサルベージして霊基データを計測、さらに静自身の霊基データと照らし合わせてそこから相性のいいシキガミパーツを選出、そしてそのシキガミパーツを移植したのだがら、相性が良いのは当然である。(ふつうはここまで手間暇かけずにシキガミパーツをポン付けする)
これならば、静のレベル上限もデモニカと同じLV30上限まで跳ね上がることができるだろう。
デモニカなしでもLV30になれれば名家の人間としてはまさに超越的存在であるし、凍矢のブレイン役として十分に働くこともできるし、悪魔からの干渉も受けにくい。全身パーツ交換こそできなかったものの、静としては大満足な結果である。
『? どうかしたかにゃ?』
「いえ……シキガミパーツ移植は無難に左腕にした訳ですが……やっぱりこう大きな胸部に換装しておくべきだったかと。大きな胸ならMAGタンクとして運用できるのだったのではないかと。……黒札様の受けもよいですし。(ぽつり)」
静は自分の胸を見ながらそう呟く。『換装』と言ってる地点で彼女自身には自分の胸に対してはべつにどうでもいい、と割り切って気にしていないタイプだが、黒札の気を引くためにそれも「アリ」かもしれない……と今更ながらに思ったのである。*1
『女性としての尊厳! 女性としての尊厳をそこまで捨てちゃダメだにゃ!!』
「尊厳で悪魔に勝てるなら苦労はしないんですよ?ほかの名家だと伝説の全裸土下座足舐めをした女性もいるみたいですし、私も同じ立場なら同じ事したでしょうし。」*2
『尊厳が……尊厳が低い……!! どうしてこんな子に……。育て方間違えてる気がするニャ……』*3
そんな風に話している静とミイを見ながらフェイスレスニキはふと何かを思いついたように凍矢へと話しかけてくる。
「あ、そうだ。田舎ニキ。お前さんの近くの街で「遊び場」にできる場所ないかな? 面白いアイデアが浮かんじゃったからね」
「……「遊び場」ってゾナハ病とかじゃないよね?」
「黒札が拠点にしてる街の近くでそんな事しないよ。何、一反木綿式神に変化スキルを入れて懸糸傀儡として一般人たちが操作できないかと思ってね。まーでも人形操作スキルだけで一般人はキャパオーバーになりそうだし、適正のある人間しか無理かな……。まあ君も周辺の街の霊的防衛が強くなれば楽になるでしょ?物は試しさ!」
「ジュネス建築ですか……」
ガイア連合山梨支部。事務部。
そこには事務部のトップである「ちひろ」が凍矢と面談して話を行っていた。
凍矢の本題としては霊的拠点であり霊的防衛要塞でもある「ジュネス」の建設。
このために、静は自分たちのお古の不要なヘンテコガイア連合装備を周囲の名家に「絶対服従」の制約と共に高額で販売。
(自分たちは新しいスパルトイの鉈を主とする正式な霊的装備に換装している)
その名家から巻き上げた億にも匹敵する日本円をガイア連合に払うことで凍矢は魚沼にジュネス建築を申し込んでいるのだ。普通の建築物ならばこれだけの金があれば少なくとも頭金にはなるだろう。
だが、ちひろはそれに対していい顔はしなかった。
「いや頭金はあるみたいですが、人が少ない赤字確定の所にジュネスを作るのはねぇ……。私たちとしても気が進まないというか……。長岡市あたりに避難しません? それなら別に問題はないんですが……」
それは凍矢のマッカ不足もあるが、魚沼市の人口である。
新潟第二の人口を保有する長岡市に比べて、魚沼市は純粋に田舎であり人口が少ない。それはすなわちせっかく作ったジュネスが赤字になるということである。せっかく作ったのなら黒字になってほしいのは当然だ。
「いや、初めから長岡市に避難するのなら俺ここまで必死こいて何とかする気はなかったし……。俺の故郷が田舎で誰も守ってくれないからここまで必死こいてる訳だし……。」
その凍矢の言葉に、ちひろは大きくため息をついた。それならば、代償としてこちらに有利な条件を引き出すべきだろう、とちひろは凍矢に対して提案する。
「仕方ないですねぇ……。ジュネス建築のための融資の代わりに各地の塩漬け依頼を行ってもらうのはどうですか?それならばマッカがなかったり赤字経営でも大目に見ましょう。」
事務部が今一番頭を痛めているのはいわゆる『塩漬け依頼』がどんどん山のように溜まっている事である。「黒札マタギ」ともいわれるこの仕事は、当然、塩漬け依頼なのだからきつい・危険・汚いの3K仕事がほとんどである。その上人間の業により悲惨な出来事など平然と起きてメンタルがやられる悲惨な事件な事も多い。そんな仕事を好んでやりたがる黒札はほとんどいないし、現地民では解決するための力が足りない。こういった塩漬け依頼を解決するために凍矢を手駒として利用しようというのだ。
「あっ、もちろんきちんと依頼料は払いますよ?無償で働くのはきついでしょうからね。どうですか?」
「まあ……仕方ないか……。メンタルがきつい仕事だけは勘弁してくれない?」
その凍矢の言葉にちょうどいい手駒ゲットだぜ!! とちひろはにっこりとほほ笑んだ。
「下がれーッ!! 戦闘班は下がれーッ!! スパルトイたちを盾にしろ!! マジで死ぬぞ!!」
デモニカや新たなる霊的武器などを手にした九重家は、まずは中越地方の霊的問題を平定するために活動を開始した。それは当然悪魔たちと正面切って戦うということでもある。
新潟県南魚沼の山奥に出没した大悪魔(彼ら基準)『邪龍ワーム』*4
百足にも似た細長い体をくねらせながら周囲を薙ぎ払っていき、全てをその大口で貪り食らうその存在は、魚沼市を拠点にする九重家にとって殲滅しなければならない存在だった。
悲鳴を上げながら九重家の戦闘班たちは後方へと退避していく。人間たちを容易く一飲みにする邪龍など、いかにそれなりにLVが上がろうと対抗できるはずもなかった。(彼らからしたら世界が終わるレベルの大決戦である)
彼らは銃を放ちながらスパルトイたちの後方へと下がっていく。彼らの攻撃は全て弾き返されているが、それでも銃や火炎瓶の攻撃は多少は通じているみたいなので、直感で火炎や銃に弱いのでは? と思いながら、彼らの一部がCOMPでアナライズを完了させる。
「アナライズ完了!! 邪龍ワーム! ガイアLV15! DLV50!! 火炎・銃に弱い!!」
「戦闘班は後方へ!! 黒騎士部隊前へ!! 我らが誇りを示せ!! 私が最前線に立ちます!!」
おおおお!! と歓声が上がった。デモニカ【バッシュ・ザ・ブラックナイト】を装備し、シキガミパーツ移植を受けた静はデモニカ装備時にはガイアレベル15を突破しつつある。
そして他の黒騎士部隊のデモニカもガイアレベル10へと到達しつつ者たちも何人も存在する。
そして、その黒騎士部隊のデモニカ【ベルリン】を装備している中に、二人の少年が存在した。
「これほど強い存在とガチでやりあうのは初めてだな……!! 突出するなよ城之内!! いくら黒札様からデュエルディスクとカードを与えられたからって突出したらボコられるだけだぞ!!」
「分かってるぜ!! ヒロト! だが古参となりゃ部下を守らなきゃなぁ!! 俺のターン、ドロー!! 『炎の戦士』を召喚!! さらに『サラマンドラ』のカードで炎の戦士の剣にサラマンドラの炎の力を宿らせての攻撃!! 炎に弱いならこれでどうだ!!」
それは“黒騎士部隊”の一員である『城之内克也』と『本田ヒロト』である。
城之内は元々、魚沼周辺の霊能名家の一つ、新潟県内でも五指に入る神社の家系の出身者であり、ガイア連合魚沼支部が立ち上げられたばかりの初期から黒騎士部隊の一翼を担った古参の隊員でもある。
そんな彼は黒札たち……いわゆるホビー部から特殊な霊的機材、『デュエルディスク』と『カード』を与えられており、デモニカと組み合わせる事によって極めて高位の式神(ガイア連合の人型式神ではなく本来の意味の式神)を使役する事が可能だ。
そして、その「デュエルディスク」から召喚された「炎の戦士」の炎を纏った剣が邪龍ワームへと叩き込まれる。
炎が弱点であるワームに炎を纏った剣が叩き込まれ、鱗を突き破り炎がワームの傷口を焼き尽くす。それに対してワームは悲鳴を上げるが、それは十分なダメージを与えているということである。
いける! やれる!! と思っていた城之内の考えはワームの魔術で打ち砕かれることになった。
『《ディア》!!』
ワームの回復の魔術により、傷口はみるみるうちに塞がっていく。それを見て、まさかこんな怪物が魔術を使うなんて! と予想外の城之内に対して、ワームは攻撃を仕掛けていく。
『《テール》!!』*5
ワームが振り下ろす尻尾の攻撃を自らの盾で防御する【バッシュザ・ブラックナイト】
それは静のデモニカの『かばう』スキルによって本来は敵1グループを攻撃する尻尾の攻撃を自らに集中させて盾で受け止めて食い止めたのである。
このデモニカには凍矢が購入した『物理耐性』『一分の活脈』のスキルカードが挿入されている。
近接戦闘も行う彼女にとってはまさにその防御力は頼りになるものだった。手にしたG3デモニカ系装備『GM-01スコーピオン』を乱射してワームに叩き込みながら、その機動性でワームを攪乱する。
「下がりなさい! 黒札様からのカードを使えるからと言っても無理するな!! 奴は銃に弱い!! 撃って撃って撃ちまくれ!!」
静のその言葉に対して、黒騎士部隊や戦闘班たちもガイア銃や簡易ガイア銃、『GM-01スコーピオン』などを構えて次々とワームに対して銃撃を叩き込んでいく。
LVの低い相手だとはいえ、LV10程度からの銃攻撃は十分ワームに通用していた。
「火炎弾だ!! ナバーム火炎弾持ってこい!!」
「銃撃は切らすなよ!! 弾が切れたらおしまいだぞ!! 火炎瓶を食らえッ!!」
弱点の銃撃を雨あられと浴びせられ、火炎瓶を叩きつけられてさしものワームもだんだん体力を削られていった。彼らからすれば世界が終わるレベルの大決戦に踏みとどまって攻撃を仕掛けているだけでも感嘆に値するだろう。
これは静たちデモニカ部隊が真っ先に最前線で踏みとどまっているのとスパルトイが護衛についているのが大きい。そうでなければ、貴重なスパルトイを破損覚悟で突撃させなければなかったろう。さらに貴重なデビルスリープなどを使用して眠らせて少しでも隙を作って攻撃を叩き込んでいく。
『ガァアアッ!!』
暴れまわるDLV50もの百足を連想させる怪物。だがデモニカ部隊はそんな怪物たちと真っ向面から勝負を行っている。少し前ではLV一桁でさえ滅んでいた我らがこんな大悪魔と戦うとは……とそれを見ながらAK系の銃で乱射をしている一人の戦闘員(LV5)はいったん銃撃を止めて小隊長へとこっそりと耳打ちしてくる。
「小隊長、いざとなったら……秘石を腹に入れて戦闘班を突撃させるのは……? 貴重な救世主ともいえるデモニカをここで一機たりとも失うわけにはいきません。戦闘班皆覚悟はできております。*6」
「いや……これらを作ってくれた黒札様はお優しい。それが知れたらこちらに物資がこなくなる可能性がある。「デモニカが破損し、やむを得ない状況だった」という事ならば納得してくれるだろうがそこまで追い込まれてはいない。ここは静様達を信じよう」
それらの小隊長の相談を他所に、黒騎士部隊はワームを取り囲みながら射撃を連射しながらワームを弱めていく。いかにディアが使えるワームといえど、じわじわと削られていってしまえばどうしようもない。
そして、静の【バッシュ・ザ・ブラックナイト】は跳躍すると、ワームの背中に飛び乗り、そのままスコーピオンを太ももに固定すると、沖縄支部が送られてきた『試作型怨焰刀』をワームへと深々と突き刺す。
「オン ケンバヤ ケンバヤ ソワカ!! 【マハラギ】ッ!!」
突き刺さった試作型怨焰刀を通して、刃から噴き出した炎が体内からワームを焼き尽くしていく。
元々彼女の崇める神は竈神という事で炎と親和性が高いこと、怨焔刀自身も炎という特性が非常に高いことから、刀自体に『マハラギ』のスキルカードを差し込んで使用することができるのである。
その火炎は刀を通してワームの柔らかい肉体の内部から弱点である炎によって焼き尽くされ、無数の銃での攻撃を食らってズタボロになったワームは唸り声をあげながらついに地面に倒れこむ。その倒れこんだワームを見て、九重家の人間たちはいっせいに大歓声を上げた。
「うぉおおおお!! やったぁあああ!!」
「これだけの大悪魔を俺たちだけで打倒できるとは……!! さすがは静様!! さすがデモニカ!! 我ら九重家ここにありだ!!」
「静様! 静様! 静様ッ!!」
そんな彼らに対して、静はワームの首……は切り取るのが大変だったため、口の上の触手?感覚器?を切り落として、体液の滴るそれを九重家の皆に見せつけながら静は宣言する。
「邪龍ワーム討ち取ったり!! この首を我らが竈神『三宝荒神』へ捧げん! 皆の者九重家を称えよ!!」
うおおおおおお!! と九重家を戦闘班は大歓声を上げる。そして、それらの信仰心や熱狂は彼女たちの神『三宝荒神』へと流れ込んでいく仕組みである。
どこからどう見ても戦国武将さながらの構図ではあるが、これが士気を上げるのに一番手っ取り早い方法なのだ。(前線に真っ先に飛び込んでいくのも士気を上げるためのやり方)DLV50の邪龍を討ち取ったという情報が広まれば、他の名家もそうそう九重家に手出ししたりはしない……いや、畏敬の目で見られて一目置かれることは間違いないだろう。*7
このように、九重家の戦闘部隊とデモニカ部隊は新潟の中越地方と上越地方を駆けずり回って悪魔を倒し、霊的治安を維持する活動を行っていたまつろわぬ民たちである地霊ツチグモ(ガイアレベル10)や妖鬼アズミ(ガイアレベル5)などを平定し、黒騎士部隊は自らのデモニカのLVを上げながらその名声を高めていった。
かつてはガイアレベル1未満の悪魔にいいようにされていた人々がここまでの大悪魔を打倒できるようになってきたのだ。それは大盛り上がりしても当然といえる状況だった。さらに静の活躍はそれだけではなかった。九重家の当主と加えて凍矢のブレインとしての様々な献策、書類仕事の代行などまだに八面六臂とも言える活躍を行っていた。公民館内部で静は資料を見ながら凍矢に対して報告している。
「現在、糸魚川市の翡翠採取・霊的加工は順調に進み、収益率も飛躍的に増加しています。「翡翠の女神」である沼河比売様の力をお借りしての霊的加工を行っております。代償として糸魚川市の加工所では彼女の信仰を行うように指示を出しています」
翡翠に対する霊的加護を付与するためには、やはり翡翠の女神である『沼河比売』の力を借りるのが一番である。
この神に信仰を捧げながら翡翠加工を行って、探求ネキから与えられた術式で翡翠の首飾りを作り出すことに成功しているのだ。
「また対悪魔戦闘では『邪龍ワーム』などと言った存在を我々「黒騎士部隊」が撃破。霊的治安維持を行っています。これなら中越地方、上越地方のある程度の霊的治安維持は保たれると思います」
バリバリと仕事をこなす静は、まさに凍矢のブレインと言っても過言ではなかった。
ブレインと言われるほど賢く、交渉もでき戦闘もこなせる彼女はまさに万能ユニットと言っても過言ではなかった。こちらに忠実で仕事も戦闘もこなせる彼女が凍矢の腹心としての立場になっていくのは至極自然な事だった。そんな彼女に対して凍矢も大きな信頼を寄せているまさに黒札の腹心となっていたのだ。
そして、そんな静たちに対して干渉……もとい交渉を持ち掛けてくる存在が出てきた。それは名家の人間にとっては天敵中の天敵、許されるのなら悪魔と契約を結んででも殲滅したい存在。
すなわち──メシア教である。
静配下の九重家の人間は苦虫を数百匹まとめて噛み潰したような苦々しい顔で静へと報告を上げてくる。
「静様。メシア教のクソどもの筆頭……もといメトフィエス大司教がこちらに対して会談を求めていますがどうしますか?」
メトフィエス大司教。*8
穏健派の成立時点(多分今の時期辺り)から組織の運営に関わっていた大物であり、穏健派の信者達からはその人格と博愛主義から深い信頼を受けている聖職者である。いわば穏健派の大幹部と言ってもいい相手だ。
普段から穏やかな笑顔を絶やさず、信徒に対して、あるいはそうでない相手に対しても常に親身に接し、助けを求められれば必ず応えようとする人格者、まさに”理想の聖職者”と言える人物である。
……まあ名家からすれば自分たちのやってきた事から目を反らして綺麗事ばかり言っているただのクソの山であるが。
言うまでもないが、メシア教……メシアンは名家にとっての不倶戴天の天敵である。優秀な霊刀の破棄処分、優秀な血脈の根切りなどなど。名家たちが死ぬほど苦労しているのは全てメシアのせいだと言っても過言ではない。
救いはガイア連合はメシアンたちには比較的甘いが、黒札個人はメシアンを忌み嫌っている者たちが非常に多いという事だ。
「……使者の首を切ってそのまま首だけ送り返したいですね……」
さすがの静もメシア教会や大教会……敵の腹の中に飛び込むほど度胸はない。そのため、中立地帯を作り上げ、そこで出会うことになったのである。極めてハンサムであり柔和で柔らかい雰囲気を持っているメトフィエス大司教と実際に会った静は、背筋に怖気が走った。
メシア教はまさに善意の怪物である。「こちらの方がいいでしょう」と偏り切ったおぞましい法のMAGで鎮圧してしまう。そして、目の前にいるのはその具現化のような怪物じみた存在である。善意によってあらゆるものを踏みにじり、「話し合いをすれば分かる」と自分の善意が相手に通じると信じ切っており、天使の羽根や洗脳スキルなどと言った短期的な技術ではなく、巧みな話術で思考誘導を行って気がついたら熱心なメシアンに誘導していく類の人間だ。静自身でも長い間話したら取り込まれかねない事を自覚してしまい、思わず背筋が寒くなる。
正直絶対ろくでもない事しかしないので、この場で首を叩き切っておいたほうがいいのでは……?と思ってしまうが、今の状況でそれを行うことはできない。
「初めまして。メトフィエスといいます。大司教という位を賜っておりますがいやはやお恥ずかしい。まだまだ我が身の未熟さを痛感するばかりです。」
「静と申します。で?要件は?」
御託はいいからさっさと言え、と静は圧を込めながら話す。こんな信用できない善意の怪物など一秒でも一緒にいたくない。この中立地帯にも山のように自分の味方をいさせてもおかしくはない。
それを察してか、彼も早速本題に入る。
「では本題に入りましょう。我らと信仰を違えたメシア教信者たちがこの地に逃げ込んで独自の活動を行っているようです。これは我々にも見過ごせません。とは言えこの地を治める貴女たちに無断で処断しては不評を買うでしょう。」
要は彼ら『穏健派』と意見を異なるメシアンたち、いわゆる『過激派』たちがこの魚沼の地に巣くって好き勝手しているとの情報だった。この地を治める彼女にとってこれは決して看過できる情報ではなかった。
……もっとも、静からすれば穏健派も過激派も同じ穴のムジナでしかない。両方とも纏めて殲滅したいのが本音ではあるが。ともあれ、静は過激派についての根拠地やデータなどを彼からもらうことにしたが、彼が何を企んでいるのかだけは気になっていた。
「私の目的ですか?それはそちらと「仲良く」したいだけですよ。私たちは人類です。人類には話し合えば理解できるという「対話」が存在するのです。ぜひ活用していきたいですね。」
何が分かり合える、仲良くしたいだ。絶対コイツは裏切る。ひそやかに監視をしておいたほうがいいな……と思いながら、静はその場を後にした。
とある廃病院。一見廃病院に見えるそこは、電気が通っており、メシア教の人払いの結界が張られていた。そして、その地下ではいわゆる過激派によって広大な地下空間が作られており、何十人もの人間が手術台に横たわっていた。手足が縛られた彼らは、頭蓋が取り除かれ脳がむき出しのまま意識を保ったまま過激派のいわゆる「脳クチュ」を受けていた。これは覚醒下腫瘍摘出術と言われる手術である。
「あっあっあっ……」
「脳に……脳に何か這いずり回っている音が聞こえる。天使の囀りが聞こえる。ああ、メシアン大好きになってきた……メシアン大好き♥メシアン大好き♥」
そして、むき出しになった脳に対して、メシアンたちは様々な手術などを行っていた。脳の一部を活性化したり、メスをいれたり、むき出しになった脳に対して無数の針を差し込んで電気刺激を行い、脳の秘められた能力を活性化させるための実験を行っているのである。
脳のどの部分を電気刺激で活性化させれば『超能力』が発現するのか? の実験。
脳のどの部分に『天使の羽』を植え込めばより効率的な運用ができるか? の実験。
脳の各所に天使の肉片を植え付ければ霊的な力が向上するのではないか? の実験。
脳缶状態にした時、脳のどの部分を手術すればよりMAGを引き出せるか、の実験。
脳に新型霊的寄生虫、人間の好き嫌いを変換……アンチメシアンな人間を熱狂なメシア教へと変化させる『天使の囀り』を植え付ける実験(天使の羽が知られつつあるのでそれに対する開発中の新しい洗脳方法。後のアイホートの雛などにも使われていく)*9などなど……。
そしてそんな中でも最も重要な実験は『常にトランス状態にするための脳組織の活性化』である。脳のトランス状態とは、通常の意識とは異なる状態、いわゆる変性意識状態のことだ。
変性意識状態では、脳の前頭前野の活動が低下することが確認されている。この部分を脳手術や薬物投与によってより強いトランス状態にさせようというのである。そしてその中の白衣を纏った上層部のメシアンは堂々と芝居がかった仕草で宣言する。
「これは人類種を存続させるための崇高な実験である」
「果たして魂は脳のどこに存在しているのか? 脳のどの部分をいじれば覚醒しやすくなるのか? 脳を強化すれば霊力が向上するのか? これは脳というブラックボックスを解析してより確実に手早く覚醒する研究だ」
「残念ながらこれから人類は霊長から脱落してしまう。外を悪魔が徘徊する恐ろしい狂った世界へと変貌してしまう。そこを生き残るためには、何としても「覚醒」しなければならない。覚醒さえすれば、覚醒する人が増えれば滅亡はしない。人類種の存続は可能だ」
「脳を解析し、ブラックボックスを解き明かし、覚醒のシステムを解明する! そして全人類を覚醒させる! そうすれば人類の存続は可能だ!! これはメシア教だけの問題ではない! 人類全体のためである!! 全ては人類という種の存続のために!!」
「「「人類存続のために!!」」」*10
メガテンTRPGでは覚醒の条件として、『薬物によるトリップ』が存在する。これは薬物によってシャーマンや巫女などといった『神がかり』を行う事によって高次元存在と触れ合う事によって覚醒するのと同じと考えられる。
(実際昔のシャーマンたちも幻覚剤など使用していたことは確認されている)
脳に手を加えることによって、人為的に変性意識状態を作り出し、薬物によるトリップと同じ状態を作り出し、多数の人々を覚醒させて、来る終末でも多くの覚醒した人々を作り出して人類を存続させる。これが彼らの狙いである。*11
人類存続のために、という大義のために、彼らは迷う事無く次々と実験台の脳にメスを入れたり脳に電気刺激を送ったり様々な実験を行っていた。一見は外道ではあるが、人類存続のためならば必要なことである、と彼らは自分たちの正義を信じ込んでいるのだ。
彼らにとっては過激派ですらメシアンたちから資金と人材を獲得する手段でしかない。より多くの人たちを覚醒させて救うためにガイア連合にこのデータを流すつもりですらある。
そして、そんな正義のために他者を踏みにじる彼らにもついに天罰の時が来た。
グオオオ!と轟音を立てながら廃病院に突っ込んでくる大型トラック。そのトラックはスピードを緩めることなく廃病院へと突っ込み、轟音と共に廃病院内部へと壁などを粉砕しながら突撃する。
そして、そのトラックコンテナが解放されると同時に、九重家の戦闘部隊やデモニカ部隊【黒騎士部隊】が我先にと飛び出していった。
「慈悲も捕虜も不用! 全て殲滅しなさい! 突撃!!」
【バッシュ・ザ・ブラックナイト】を纏った静の指示により、うぉおおお!! と霊的武器を持った九重家の人員たちが次々とトラックの荷台から降りて病院地下の過激派に対して攻撃を仕掛けていく。どこからどう見てもヤクザのカチコミシーンではあるが、あながちそれも的外れではないだろう。
スパルトイたちも、カチカチと歯を鳴らしながら地下へと突撃し、その刃でメシアンたちを切り裂いていく。相手がメシアンのせいか、スパルトイたちもいつもよりもどことなく気合が入っているように見える。
デモニカ【バッシュ・ザ・ブラックナイト】を身にまとった静は、右手の『備前の短刀(実際には長刀)』、左手の『試作型怨嗟刀』を振るい、次々とメシアンたちを切り捨てていく。
怨嗟刀もメシアンの血を吸って喜んでいるのか、カタカタと微かに震えるのは妖刀じみていると思いながらも、静はメシアンたちを切り裂きながら地下へと突撃していく。そしてそこで目にした物を見て彼らは絶句した。
「な……何だこりゃあ!!」
「こ……これが人間のやる事かよぉおお!!」
歴戦の兵士であり、多少の外道な事を見ても眉一つ動かさない九重家の戦闘部隊たちも、ずらりと並ぶ頭蓋を取り外されて脳を開かれたままうめき声を上げる犠牲者たちの姿を見て、さすがにうめき声を上げる。
過激派のメシアンたちも襲撃は予想外だったのか、迎撃なしに逃げようとしているが九重家の戦闘部隊たちは人体実験のありさまを見て、怒り狂いながらメシアンたちを殲滅していく。
そして、その中で静が出くわしたのは大量の資料を抱えて逃げ出そうとしている一人の司令官のメシアンだった。
彼は自らの命よりも実験が失われる事を恐れて必死に静を説得にかかった。
「聞いてくれ!!これは人類のため!!人類存続のためだ!!我々の脳改造技術ならば人々の覚醒率は高まる!!これを君の組織で使用してもいい!!だからこの技術をガイア連合に伝えてくれ!!これをガイア連合が使ってくれればより多くの人たちを覚醒させて救済できるのだ!!」
「我々の実験で薬の酩酊状態と禅の魔境は同じだと判明している! 脳がトリップすれば古代のシャーマンのように神との交信ができる! 薬物を使用することで高次存在との対話ができる!! 全人類の脳を改造してトリップする部分をいじれば全人類の覚醒すら夢ではない!! これこそが天使に頼らぬ我々の人類救済の手段だ!! これをガイア連合に──は?」
まだ意識のある彼の目の前で、データの入った情報媒体は静のデモニカの足で完全に粉微塵に踏みつぶした。そして、まだ意識のある彼の首は静の蹴りによって粉微塵に砕け散った。
「名家の人間は、見も知らぬ人類全体よりも、自分たちの縄張りの人々が遥かに大事なロクデナシのエゴイストたちなんですよ? 知らなかったんですか?」
その後、男が抱えていた資料を見てさすがの静も眉を顰め、荒事や残酷な場面にも慣れている名家の戦闘班ですら気分を悪くする人間がいるほどである。
静にとって一番問題だったのは、彼らが作り出した寄生虫だった。こんな霊的寄生虫などが外に流出し、野生化したらとんでもない事になりうる。そう判断した静の行動は迅速だった。
「この場所の全て燃やし尽くしなさい。助けられる人たち以外は全て燃やします。全て私の責任で行います。」
運よくまだ手術を受けていない人間は救い出すが、それ以外の手術を受けた人間たちは全て根こそぎ燃やす事を静は決断した。ガイア連合なら助けられるかもしれないが、その費用は誰が出すのか?そのせいで寄生虫が外に出たらどうするのか?そう考えると彼女にはこの手段しかなかった。
手術を受けた犠牲者たちも全て激しい炎に包まれる中、ありがとう……とどこかで聞こえた気がした。