前半は終末後の話ですが、後半部は終末前でも半終末でもいつでも大丈夫です。
終末後まで黒死ネキが銃を使えないのはかわいそうだからね。
──―終末後、ガイア連合の転生者の間ではシェルター建築ブームが起きていた。これは、いわゆる現状が【戦略ゲーにおける土地増やし】の状況だからであり、真面目な黒札たちは他の黒札を説得して色々な手でシェルターを作ってもらうために四苦八苦していたからである。
今はガイア連合はメシア教を掣肘できてはいるが、いずれメシア教が再び勢力を回復したら絶対にガイア連合に反乱を起こすことは目に見えている。
そのため、それを防ぐべく、ガイア連合のシェルターを増やすために真面目な転生者は他の(比較的まともな)転生者を説得してシェルター建築を行わせているのだ。
それはここ、山梨県に近い【ペロロ様シェルター】も同様である。*1
──―長野県、松本市。
かつて諏訪大社が近くにあったこの地はガイア連合のシェルターもなく、一度滅んでしまった場所である。だが、山梨県から近い拠点であった事。さらに諏訪神社の拠点である上社があったことから、日本神からも復活することを望まれ、【ペロロ様シェルター】として趣味に走った黒札によって復興することになったのである。
「【シキオウジロボ】……もとい【ペロクジラ様】の起動はまだですか!? 急がせなさい!!」
そして、その松本市【ペロロ様シェルター】で各人員に指示を出しているのは黒札の一人『阿慈谷ヒフミ』である。*2
そのヒフミの命令により、ガイア連合の技術者は、シキオウジロボ……もとい変化スキルで【巨大ペロロ様】に変貌したシキオウジロボの起動を急がせていた。
シキオウジロボはLV60という終末後でも守護神としての役目をこなせるほどの力を誇っている。だが、その弱点としては『起動に時間がかかる』という欠点を持っていた。
そして、そんな【ペロロ様シェルター】へと侵攻を行っているのは大悪魔【邪龍ヒュドラ・クズリュウ(LV50)】
かつて馬ニキが戦ったクズリュウの破片が巨大化したキングキドラ*3と同じく、今回もクズリュウの破片が他悪魔を取り込んで巨大化して力を取り戻した存在だ。
そして、そのヒュドラ・クズリュウの手下となって暴れまわるモヒカンたちも同時にペロロ様シェルターへと襲い掛かっていく。黒札シェルターを蹂躙して全てを奪い取る事ができる。こんな機会などそうそうない。
ヒュドラ・クズリュウも【ペロロ様シェルター】を乗っ取ってここを山梨支部侵攻へと橋頭保にする程度の知能はあるらしい。
「ヒャッハー!! 攻めこめー!! 黒札シェルター略奪なんて大イベントそうそうないぜー!!」
「こんなレイドイベントないぜ!! 奪えば全部ゥ!! 金・女・食糧!! 全て俺たちが奪い取ってやる!!」
「上空だけ確認しておけよ!! ガイア連合が上空から攻め込んできたら散会して森の中でも隠れろ!! あとは全部ヒュドラ様にお任せすりゃいいんだからよ!!」
別にヒュドラ・クズリュウがモヒカンたちを集めた訳ではなく、ヒュドラ・クズリュウの侵攻に合わせて勝手にモヒカンたちが集まって同時に【ペロロ様シェルター】への侵攻を行っている形である。
だが、ヒュドラ・クズリュウもある程度の知能があるらしく、彼らと協力して侵攻を行ったほうがいいと判断したらしい。
【ペロロ様シェルター】は超巨大ペロロ様……もといシキオウジロボや多脚戦車など戦力は整っている。
だが、一番の欠点は『ベテランの戦闘員が極めて少ない』ということだ。最大までデモニカを育てたデモニカユーザー、あるいは悪魔との戦闘経験を積んだ多脚戦車を所有する元自衛隊。これらが存在しないのがペロロ様シェルターの大きな欠点であり、ヒュドラ・クズリュウやモヒカンたちもそれに乗じて攻め込んできたのだ。
どこのシェルターも貴重なベテランの戦闘員やデモニカユーザーなど手放したがらないのは当然だ。こういう時はシキオウジロボの起動するためにそれらの戦闘員が足止めをするのだが、それらの戦闘員が少ないのなら、シキオウジロボの起動する前にシェルター内部へと侵攻しようという作戦である。
と、そんな中、ふとヒュドラ・クズリュウが上空を見上げた瞬間、凄まじい空を破裂させるほどの轟音が響き渡る。そこにはまるで転移してきたかのように、巨大な砲台を抱えた戦闘機が存在していた。
だが、転移するためには激しいMAGの流れや空間の乱れなど異常な変異が起きるはずである。その戦闘機……『破裂の人形』はまるでさっきまでそこにいたかのように空中に存在していた。唐突にいきなり現れた巨大な砲塔を抱えた戦闘機を見て、モヒカンたちは茫然と上空を見上げる。
「……は?」
これは黒死ネキからもらったスキルカード【擬装】を破裂の人形に組み込んだ事によったスキル【完全コンソール】である。【完全光学迷彩】に加え【完全遮音】を発動させる事によって、大気に完全に溶け込み、無音のまま超音速で飛行することが可能なのだ。
GTMゲートシオンマーク3 リッタージェット・破烈の人形の完全コンソール機能を黒死ネキのスキルカードを使用することで再現したのだ。
MAGの流れすら完全に偽装するそのスキルによって、モヒカンどころかヒュドラ・クズリュウですら近くまで高速飛行接近することは完全に不可能だったのである。
ただし、黒死ネキの力はニャルの異界からの力によるもので、この高度な【擬装】スキルカードも元はニャルの力と言わればそういう側面もある。
ニャルは『チクタクマン』というロボ部にとって最悪極まりない化身が存在する。そのためこのスキルカードもロボ部の皆が念のため慎重に調べたので大丈夫……なはずである。
【【万能ハイブースタ】【メギドラオン】ッ!!】
破裂の人形の吊り下げた砲台……バスターランチャーから放たれた迸る万能の光流。
それはモヒカンたちを巻き込んで全てを吹き飛ばしていった。強烈な万能攻撃の中、それでもヒュドラ・クズリュウはダメージを食らいながらも存在していた。
それぞれの口から悲鳴を上げながら高速飛行を行う破裂の人形に対してヒュドラ・クズリュウも攻撃を仕掛けていく。
『【蛇毒の息】*4!!』
9つの首から容赦なく毒を吐き散らすヒュドラ・クズリュウを見て、このままでは【ペロロ様シェルター】にまで呪毒が及ぶ危険性がある判断した破裂の人形は、バスターランチャーのモードを切り替える。
通常ならば雑に相手を殴るための万能攻撃砲撃を行っているのだが、ヒュドラの弱点である氷結に対応するため、モードを氷結攻撃へと変更したのだ。
【アナライズ完了。弱点:氷結。バスターランチャー氷結モード【マハブフバリオン】発射!!】
破裂の人形は凍矢のMAGを受けているのでそのMAGから氷結の力を放出できる。その力によってヒュドラ・クズリュウに広範囲の氷結魔術を叩き込んでいるのだ。大気の温度を急速に低下させながら放たれる冷気の奔流。
それはヒュドラ・クズリュウの放った毒気すら凍らせて封印させていき、ヒュドラ・クズリュウの肉体自体を凍らせて『FREEZE(凍結)』状態へと状態変化させていく。そして動きの封じられたヒュドラ・クズリュウに対して、さらにマハブフバリオンの連続砲撃を叩き込んでいった。
何せ人里……もとい松本市【ペロロ様シェルター】に近くなっている状態でヒュドラの猛毒など散布されたらどれだけの被害が出るか分からない。そのため、毒気すら凍結させ弱点であるマハブフバリオンの連打に切り替えたのである。
ヒュドラ・クズリュウを撃破した破裂の人形は、そのコアである【クズリュウの破片】を回収し、松本市……【ペロロ様シェルター】の上空をフライハイして、軽く翼を上下に揺らし挨拶代わりにした後で、再び完全光学迷彩と完全遮音を発動し、その場から消え去っていった。
ガイア連合山梨支部。その事務室で【ペロロ様シェルター】の防衛を行った凍矢はちひろからその報酬を受け取るためにここへと足を運んでいた。新しいシェルターに何の被害もなくきちんと守り通してくれた事もあって、ちひろはニコニコ顔である。ここでシェルターに被害が出て「やっぱりシェルター運営やめる!」と言われたらまた彼女は頭を抱えてしまう所だったのだから当然であろう。
「いや~助かりましたよ。しかし【傭兵契約】も結んでいない【ペロロ様シェルター】に自分の式神を派遣してよかったんですか?いや、こちらは助かりましたし、ヒフミさんも喜んでいたので誰も困っていないからいいんですが……。」
そう言いながら、ちひろは凍矢に対してヒフミからシェルター防衛のための代金マッカを差し出す。
ヒフミの【ペロロ様シェルター】とは傭兵契約は結んでいなかったが、危機を悟った凍矢は至急破裂の人形を馬ニキの【シェルター】へとテレポートさせて、そこから極超音速飛行&光学迷彩&遮音で接近、相手に悟られないようにメギドラオン爆撃を行ったのだ。ちょうどいいか、と凍矢はちひろに対して自分の考えを話して意見を求めた。
「まあシェルター運営している新入りが困ってるのを見捨てるのはやっぱりねぇ。黒死ネキからもらったスキルカードの試験もしたかったし。……後やっぱりシキオウジロボが起動するまでの時間稼ぎのためにペロロネキにロボ関係を売り込もうと思ってるんだけどどう思う?」
「何で私に聞くんですか……。そうですねぇ。せっかくですからロボの形状を【デカグラマトン】*5にしてみたらどうですか?例えばロボに近い『ケテル』や『ケブラ』、『ホド』などに変えてみたらペロロネキも買ってくれるかと。この終末世界なら巨大蛇形態の『ビナー』なんかも便利でしょうし。ああ、『カイテンジャー』という手もあるかもしれませんが、その辺はペロロネキと相談してみてください。」
なるほど……。と凍矢は考え込む。せっかくペロロネキが【ペロロ様シェルター】を作るのなら、防衛施設もそれに沿ったキャラにあった方がペロロネキたちの受けもいいだろう。
特に巨大蛇形態の『ビナー』は人工筋肉系とかえって相性がいいように思える。ACロボに近い『ケブラ』などは文句言われるかもしれないが、先に作った物勝ちである。
そういった系統の巨大ロボならば、ロボに興味のなさそうなペロロネキに対しても巨大ロボを売ることができるだろう、と考えながら、凍矢はふと疑問に思ったことをちひろに聞いてみた。
「ところで、ペロロネキ(仮称)に松本市を進めたのはちっひなの? 山梨支部への防壁となるシェルターは必要とはいえ、素人さんに押し付けるのはきつくない?」
「……どうしてそう思うんですか?」
一見普段と変わらないにこやかな表情だったが、一瞬だけちひろの眉が動いたのを凍矢は見逃さなかった。
日本地図(終末前、まだ測量などが終わっていないため)をCOMPで映し出して指さしながら凍矢は自分の考えを開設していく。
「地図を見れば分かるじゃん。山梨支部と東京からの防衛はキノネキの支部が担当。後方に当たるS県……静岡はハルカくんが防衛。となれば問題は上……長野県、松本市か軽井沢方面からの侵攻を防ぐ盾が必要になる。軽井沢方面は馬ニキのシェルターが何とかしてくれるとしても、馬ニキのシェルターもわりと小規模だし、松本市の防衛を素人さんにやらせるのはちょっと……」
その凍矢の言葉を聞いて、ちひろは呆れた声を上げながら半ば彼の言葉を肯定する。
「……相変わらず妙なところで妙に軍事の才能がありますね。キノネキやヤンニキ、ラインハルトニキと協力して山梨支部……日本防衛戦略のために働いてくれてもいいんですよ?」
「いや俺素人だし……。餅は餅屋。専門家に任せておいたほうがいいって」
「とは言いますが、それだけじゃないんですよ? 松本市は諏訪大社上社が存在しますしそこを使用すれば霊的な防御力も高くなる。いい加減あそこらへんを再建しろ、霊的に重要な拠点だぞという日本神からの強い要請もありますし……。とはいうものの、確かに素人のペロロネキに山梨防衛を押し付けるのは酷ですよね……。分かりました。こちらでも戦闘用の人員を用意します。」
できれば戦闘に慣れたデモニカユーザーや多脚戦車を所有する元自衛隊たちというベテランたちが入れば戦闘派ではないペロロネキにとっては心強いだろう。だが、ちひろは星祭を始めとした修羅勢に話を持っていくつもりらしい。どこの組織でも熟練のデモニカユーザーや元自衛隊たちを手放すはずがない。
ならば、修羅勢たちに話を持っていって傭兵契約を結んでもらおうという考えなのだろう。
(俺が傭兵契約結んでもいいんだけど、速攻で駆け付けられない時もあるしなぁ。ほかの修羅勢と傭兵契約結んでもらうのも十分ありか……。)
「まあそれはともかく……確かゆかりネキの知り合いの金札シェルター*6の周囲が毒沼で困ってるんだって?とりあえずこれは『ノロイ米』*7の苗だから毒素を吸収して育って毒を米に吸収して対悪魔兵器になってくれる……と思う。多分。あと合金樹の亜種である『浄化樹』*8の苗も試しに送っておくから。」
ゆかりネキには多脚戦車の製造などで世話になっているので、凍矢としても困っているなら手助けしたい気持ちはあるらしい。これらの苗を送る程度なら大した手間にもならないし、というのが本音でもあるが。
「感謝……!圧倒的感謝……!!後は……。」
「分かってる。コメだろう?難民たちに全部ヒノエ米を食べるとゆかりネキの負担が半端ないからキクリ米で賄いたいと。了解した。できる限りゆかりネキのところに大量のキクリ米を輸送する。これで何とかなるだろ。」
その凍矢の言葉にちひろはさらに感謝……!と言葉を出した。
【ペロロ様シェルター】の騒動の前、凍矢はその足でそのまま山梨支部にいるとある黒札へと会うために移動していた。その会う予定の黒札である彼女の名前は『黒死ネキ』*9。色々な大騒動の結果ガイア連合に入った少女であり、凍矢ともそれなりの交友は持っている。*10
穢れの属性が強い彼女は、清浄を司る竈の神を崇めている九重静からすれば霊的な相性がかなり悪いらしく、静は対面すると体調を崩してしまうために凍矢自身が直接黒死ネキのいる山梨支部に出向いて会話を行う事にしたのだ。
部屋に入って凍矢は黒死ネキと会話を始める。とはいうものの、すでに交渉自体は決まっており、後は『ブツ』を彼女に渡すだけだ。くるり、とジャッカルPをテーブルの上で回転させてその弾倉と共に黒死ネキへと、テーブルをシャーッと滑らせながら黒死ネキへと押し出して渡す。
ムフーッとカッコいい渡し方ができて満足げな凍矢を他所に、黒死ネキは魔銃『ジャッカルP』を手にして、弾倉を装填していく。
「弾薬は?」
「専用弾13mm炸裂鉄徹弾」
「弾殻は?」
「純銀製マケドニウム加工弾殻」
「装薬は?」
「マーベルス化学薬筒NNS9」
「弾倉は? 炸薬式か? 水銀式か?」
「法儀礼済み水銀砲弾でございます」
「パーフェクトだウォルター」
「感謝の極み。……まあマジレスすると、元々はデモニカを初期化するために生まれた魔銃らしい。俺だと反動で腕がミシミシ言うし、何発も撃つと腕が折れるから不便だなぁ……と思って」
妙に手に馴染むジャッカルPをお気に召したのか、黒死ネキはジャッカルPを構えながら凍矢に対して疑問を投げかける。
「ふむ? ではこれは元々どんな経歴で生まれたのだ? 技術班の物好きが作ったのか?」
「いや、元は所有者がいなくなったデモニカを初期化する際に生まれた魔銃らしい。
所有者がなくなってもデモニカ内部にあった悪魔を憎む残存MAGとかが結晶化して生まれた物っぽい。
これだけレアな魔銃が生み出されるんだから、所有者はかなり霊的素質があったんじゃないか?」
それを聞いて黒死ネキはにんまり、と邪悪な笑みを浮かべた。
彼女が手にしたジャッカルPからの思念を読み取ったのだろう。おそらくは最後の最後まで戦い抜いて倒れて、それでもなお悪魔と戦いたいというジャッカルPの残留思念は、黒死ネキはとてもお気に召したらしい。彼女はジャッカルPを手にしたら哄笑を上げる。
「くくく……ははは!!いい!!実に「いい」な!!死してもなお悪魔に対して戦いを挑まんとする決意と意思の結晶か!!実に私好みだ!!ああ、もちろんスキルカードだけではなくマッカも支払おう。いいものを手にしたらそれ相応の報酬を与えるのが筋だろう?」
やったぜ、と凍矢は心の中で呟いた。ジャッカルPがなくなってしまった分は『古式呪唱銃』……星方武侠アウトロースターの「古式銃(キャスター)」を購入する予定である。この銃は実質MPを弾丸へと変化させる銃であり、膨大なMPを所有する凍矢ならまるでマシンガンのように乱射可能なはずである。(なおほむらにはやっぱりダサいといわれる模様)
ともあれ、黒死ネキから手にした【擬装】のスキルカードを『破裂の人形』に組み込む事によって光学迷彩&遮音で超高速飛行が可能がなったのである。
「ともあれ、ほかにも何かやりたい事があるようだな?ふむ、集団戦との模擬戦闘?なるほど。それは確かに私が適してるといえるな。では深層あたりで模擬練習を行うとするか。」
深層内部。そこでは黒死ネキが【ドロイド】、【ネクロマ】【ドロイド】で作り出した『人形』たちが行進を行っていた。まさにMAGで作られた人形そのものである彼らには【シシリッカ】【クイッカ】【バルザック】の術式が組み込まれ、戦闘力も十分である。そして、そんな人形たちの前に立ちふさがるのは、凍矢が氷で作り出した氷兵士たち……鎧騎士を連想させ、手に氷の盾と氷で出来たメイスを手にした氷人形【A-トール】たちである。
【北斎ネキ】*11からアドバイス?を受けた凍矢は人形操作に長ける【カス子ネキ】から指導を受けて自ら氷人形……もとい氷兵士たちの製造・操作を行えるようになったのである。
人形たちの攻撃を氷の盾で受け止めたA-トールは手にした氷のメイスで人形の頭部を破壊する。だがそれでも人形は止まらずにさらにクイッカとバルザックの術式による反撃をA-トールに仕掛けていく。
その反撃をさらに氷の盾で食い止めて、ほかのA-トールたちはその人形にメイスで攻撃をして全身を叩き潰していく。
ガチガチに陣地防御で固められたその陣形はまさに将棋でいう所の『穴熊囲い』だった。
さらに深層の地脈も浸食し、周囲を自分の氷結陣地へと変貌させていくことによって、人形たちを少しずつ弱らせて凍結させていくという防御・持久戦が自分の本霊上最も得意であるとヤンニキやラインハルトニキから教わり、それを実行しているところである。その穴熊戦術を見ながら、黒死ネキはふむ、と感心するように声を上げる。
「ふうむ、なるほど?やはり本霊が冬将軍なだけあるな……。土地を凍結地帯に変化させての持久戦、穴熊戦術が得意か……。氷人形……Aトールたちに対してはこちらのシリリッカも通用しない。なるほど。守勢に長けた合理的な戦略だな。だが……それではつまらんなぁ!!そうだろう!?」
にやりと邪悪な笑みを浮かべた黒死ネキは、翼を広げるとそのまま大鎌を構えながらその陣形内部へと突撃していった。享楽的な彼女は自分の楽しみには忠実だが、逆にいうと我慢弱い側面もある。耐久戦に長々と付き合う気など毛頭ないのだろう。凍矢もそれを予期していたのか、大鎌を召喚して黒死ネキに対抗する。
凍矢の大鎌が黒死ネキの肉体を切り裂くと、そこから飛び散った黒死病の病毒を宿した血液が凍矢へと襲い掛かる。だが、彼は周囲を浄化の権能を持つ霊水を水蒸気化させた「水蒸気の鎧」を展開し、その血液の毒性を限界まで弱めていく。
「ほう?なるほど……。自分の体の回りに水蒸気化させた霊水でガードして私の血液を防いだのか。アイデアとしては悪くないな。面白い。だが……私の血液はその程度で防げるほど甘くないぞ!!」
ワーシングオート【状態変異・強制悪化】
それは黒死ネキが持つスキルの一つであり、任意発動の常動型、対象の状態異常耐性を下げ、状態異常になった際にその深度を最大化するスキルだ。
それによって、凍矢へと降りかかったが風邪程度にまで弱められた血液は、再度毒性を活性化させ、凍矢へと襲い掛かっていく。
「!!」
凍矢はとっさにその部分の肉体を凍結させて他の部分への浸食を防ぐ。
ペスト菌は、日光や乾燥・熱に対する抵抗は弱い一方で寒冷や湿潤に対しては強い耐性があるが、いかに黒死ネキのペスト菌であろうと完全に凍結された状態では活動はできないらしい。
肉体の一部を凍結させて【A-トール】を使役しながら黒死ネキに立ち向かう凍矢だが、黒死ネキにあっさりと負けてしまう形になってしまった。
「ふむ。アイデアは悪くなかったがな……。セツニキとはいかずとも、お前も水系、浄化系は得意だろう?完全に無効化ではなくほどほどに弱体化というのが敗北の理由なのだから、浄化の力を全開にすればよかろうに。」
「そうは言っても黒死ネキ。全開にするとこうなるんだよ。」
そう言うと凍矢の全身を球状の霊水が完全に包み込む。こうすれば確かに黒死ネキの血液を浴びても完全に浄化できるが、近接戦闘どころの話ではない。
その水球に包まれながらぽよんぽよんとジャンプする凍矢を見て、思わず黒死ネキは腹を抱えて笑い出した。
「確かにそれは闘争の雰囲気ではないなwwというか腹が痛いwww」
水球に包まれながらぽいんぽいんとジャンプする凍矢の姿がツボに入ったのが黒死ネキは笑い転げる。
そして、一通り笑い転げた後でふとそれを見て凍矢にアドバイスを与えた。
「ふむ、ならば水を収束・収縮させて水の鎧を作ってそれを纏うのはどうだ?私の魔装術でも参考になれば教えてやってもいいぞ?」
黒死ネキの使用する魔装術は『ペルソナ能力』や『デビルシフト能力』のヴィジョンを【変化】させ、人間の霊格に纏う技であるがそれを参考に自分独自の術式にアレンジすれば霊水の鎧に変化させることはできるだろう。
黒死ネキの言葉に凍矢は迷いなく頷いた。