時間軸はわりとゆるふわ(多分半終末に入ったぐらい?)でお願いします。
──―邪龍ワームなどを倒した後でも悪魔の出没は激しくなり、九重家の忙しさはますます加速していた。
各地で出没する大悪魔たち(黒札が出撃するほどでもない)の討伐のために多数のデモニカを保有する黒騎士部隊の需要はますます高まっていたのだ。
半終末になりGPが上昇し、悪魔たちも出始めた時代、LV30に達したデモニカ部隊を所有する組織は貴重な戦力としてあちこちに飛び回っていた。
そして、半終末の際に新潟の上越市を侵略せんと出現した悪魔は「妖鬼モムノフ」
LV20以上という現地民にとっては打倒不可能なほどの大悪魔である。ここまでの大悪魔になると戦闘班では太刀打ちできず、自然とデモニカ部隊である黒騎士部隊が前線に立つ形になる。
「聞くがいいこの地の守護者よ!! 我が名は妖鬼モムノフ!! この地を治める者との一騎撃ちを所望する!! 貴様らにも戦士の誇りがあるのなら正々堂々と勝負せい!!」
だが、そんな剣を構えて堂々と宣言するモムノフに対して、黒騎士部隊の後方でアナライズを行っていた戦闘班が叫ぶ。
「アナライズ完了!! 妖鬼モムノフ!! ガン・電撃に弱い!! ガイアLV20!!」*1
「総員、デビルスリープと各秘石、簡易ガイア銃用意ッ!! デビルスリープ投擲ッ!!」
その静の言葉に応じ、後方の戦闘班がモムノフに対して次々とデビルスリープ*2や破魔ネキがあっさりと作り出し出して貰った各種小秘石を投げつけ、黒騎士部隊は手持ち武器を簡易ガイア銃であるAKに持ち替えて一斉に射撃を開始する。
「な、何ィ!? 貴様ら戦士の誇りは……ZZZ……」
デビルスリープによって睡眠状態になった妖鬼モムノフに対して、黒騎士部隊や戦闘班たちが一斉に銃撃を開始する。その銃撃の痛みによって睡眠は解除されるが、そんな彼に対して再びデビルスリープが投擲され、さらに雷撃に弱い彼は雷撃の小秘石の効力で「SHOCK」に陥る。
状態異常で「SLEEP」は一番優先度は弱いが行動できなくなり、必ず攻撃を受け、受けるダメージが2倍になる。状態異常の付着率も2倍になる(真・女神転生 STRANGE JOURNEY)という効果がある。スリープに陥ったモムノフに対して雷撃の小秘石などを投げつける事で「SHOCK」などを起こしやすくしているのだ。
「貴様らぁああ!! 戦士としての誇りは!! 誇りはないのかぁあああ!!」
ただでさえガンや雷撃に弱い所にそんな状態異常を連打されて、モムノフはなすすべもなくHPを削られていく。だが、そのモムノフの言葉に対して、静は冷徹に彼の言葉を一刀両断に切り捨てる。
「ありませんよそんなの。我らはこの地の霊的平穏を守護するのが役割。戦士の誇りなんて欠片もありません。これはただの害獣狩りにすぎません」
そうしてデビルスリープを使用したハメ技で妖鬼モムノフは倒される事になった。
ガイアレベル20という大悪魔を打倒した彼らの士気は非常に高かった。かつてLV1未満の悪魔に滅ぼされかけた我らがこれほどの大悪魔を撃破できたなど、まさに少し前からすれば夢物語である。
その事実にワームを倒した時のように九重家の戦闘班は大盛り上がりになっていた。
「うぉおおおお!! 九重家最強ッ! 九重家最高ッ!!」
「ワームに続いてこれほどの大悪魔を屠れるとは……!! ガイアレベル1の悪魔でヒイヒイ言っていた我らとは最早違う!! 我々こそがこの地を守護するのだ!!」*3
DLV66という大悪魔を打倒し、大盛り上がりの彼らを他所に、静はデモニカの中で考え込んでいた。確かに名家がガイアレベル20の大悪魔を狩れたのは大戦果と言っていい。だが、いわゆるGPは急激に上昇しており、さらなる大悪魔が地上を徘徊するのは最早避けられない状況だ。
だが、デモニカのLV制限はガイアレベル30。ここまできたらもはや小神レベルではあるが、それ以上の大悪魔が出現してきたら自分たちでは手も足もでないと悟っているのだ。
(とはいえ、デモニカでも上限はガイアレベル30……。敵悪魔でもそのレベルか少し上の悪魔を撃破するのが精一杯でしょう。貴重なデモニカを破損する可能性はできる限り下げたほうがいい。それ以上の大悪魔となったら黒札様に任せるのが一番ですか……)
黒騎士部隊もデモニカも増えてきているし、デモニカLV上限30に到達しつつある人間も増えてきている。彼らが協力して連携して死に物狂いで戦えばLV40ぐらいの大悪魔なら戦える可能性はある。
だが、そうなればこちらもただではすまない。デモニカは破損し、せっかくのデモニカ部隊の人間が死亡しかねない。やはり無理はしないほうがいいか……。と静は考えていた。
ともあれ、今は黒騎士部隊のデモニカユーザーたちを育て上げてガイアLV30に到達させるのが最優先。育て切ったデモニカを多数所有すれば大悪魔相手でも対抗することはできるだろう。静はそう判断してさらなる悪魔退治へと向かっていった。
魚沼市からほど近い街、南魚沼市、六日町市。魚沼平野を通じて繋がっているこの場所に、静は凍矢の指示を受けて都市自体を結界で覆ってシェルター化にするために、ガイア連合の建築班との橋渡しをするために訪れていた。
魚沼市と極めて近いこの場所に悪魔の巣など作られたら喉元に刃を突き付けられるのも当然だ、と判断した凍矢はこの街もオカルト防衛を固めて自分たちの拠点である魚沼市の防壁にすることを決断したのである。
「では南魚沼市……六日町にもガイア連合の事務部と連絡してシェルターを構築すると。かしこまりました。ガイア連合と協力して金札……九重家の者をつけるということで」
悪魔退治に平行して近くの街のシェルター建築の相談と、静は忙しく活動を行っていた。魚沼市と南魚沼市は魚沼平地を通して繋がっている。もし南魚沼市が壊滅したら大量の難民が魚沼市へと流れ込んできてしまう形になる。
そのため、南魚沼市……六日町の霊的防衛を強化する事で盾になってもらう&群馬県から流れ込んでくるであろう関東からの難民の受け入れ先になってもらおうと画策しているのだ。(これは凍矢も同意見でありその点お互い一致している)
言うなれば盾と難民の押し付け先を今のうちから作っている形になるが、六日町もその分霊的防衛を高める事ができるのでまさに渡りに船な状況である。(なお何回となく南魚沼市は魚沼市と併合させてくれ、と提案を行っている模様)
(東京→埼玉→群馬からの押し上げで絶対こちらにも大量の難民が来ますからね……。大人しく新潟市や長岡市へと逃げていってくれるといいんですが……。ここが安全な場所だと知られれば定住したがる者たちは多そうだし、今のうちから備えておかないと……)
そして、その会談の後、そのまま車で静は魚沼市へと戻り、今度は建築中の巨大霊的要塞ともいえる建築中のジュネスへと向かいその見学を行う。とはいうものの、現地民である彼女には理解できないほどの超高度オカルト霊的要塞の建築は、オカルトに深い名家の彼女の理解すら遥かに超えていた。
果たしてこれほどの知識や技術の源流はどこから来るのか? それは知りたくはあるが、ガイア連合の中でもトップシークレット(恐らくは)である事項に首を突っ込んで処断される危険性を冒すほど彼女は愚かではなかった。
君子危うきに近寄らず、そう思いながら、建築中のジュネスやシキオウジロボを搬入する地下サイロの見学を行う。
「しかし、ジュネスという霊的巨大防衛要塞は凄まじいですね……これだけで魚沼市の霊的防衛は完璧。まさに鉄壁といえるほどです。これ以上に複数の結界で防衛するとは……少し過剰防衛なのでは? *4」
ここに凍矢がいれば『とはいうものの、「終末」なんて何があるか分からないしねぇ……。大洪水は新潟市はまだしも山岳地方のここまではこないと思うし、核で焼き尽くされる可能性もあるし……』と言ったかもしれないが、現地民である彼女には大洪水や核の脅威など知る由もない。
現在ジュネス……というより裏ジュネスの管理は九重家の人間たちが行っている。表向きはデパートではあるが裏は巨大な霊的防衛結界の拠点である重要拠点を他人の素人に任せるわけにはいかない。
戦闘班ではない半覚醒や未覚醒の九重家の人間たちを従業員兼裏ジュネスの管理に任せる事によってジュネスの管理は行われている。
これは万が一過激派に洗脳された一般人がテロを起こさないかという時の対策でもある。
メシア教に散々族滅されてきた彼らはこれぐらいなら奴らはやる、と信じているのである。そして、ジュネスと裏ジュネスを見て回った静は、その後で建設中の地下基地に入っていく。
ここは、超大型の核シェルターであり魚沼市住民を避難できる避難施設であると同時に、黒札たちの『ロボ部』と呼ばれる一団が様々なオカルトロボや色々な部品、装甲などを作り出す大型オカルト工場になる予定である。
拡張されていると同時に、様々なオカルト機械などが運び込まれている中、静はその中でも特別区である『シキオウジロボ』が存在する地下サイロに向かっていたのである。
「凍矢様のお力により黒札様も来てくださるし、魚沼市を守る霊的結界も構築されている。核兵器ともいえるシキオウジロボも配置されている。これで霊的防備は完璧……なはずではありますが……」
静はガイア連合の山梨支部から運び込まれたシキオウジロボ……もといシキオウジロボの外見をロボ部が勝手に『変化スキル』で変化させた『ジ・エンプレス』*5を装備された地下サイロの中で静は呟く。
女性の鎧騎士を連想させる全体的にスマートなデザイン、そして特徴的な頭部など外見は普通のシキオウジロボと異なりかなりスマートではあるが、能力的には全く変わりはない。
ガイアLV60に達するまさにオカルト超兵器を見ながら、静の心を安心感と不安が同時に押し寄せてくる。
これほどの超兵器やジュネスという霊的防衛要塞を用意しなければ乗り越えられないガイア連合の『終末』とはどれほどの規模の大災害なのか? 本当に我々はその大災害を乗り越えられるのか? その不安が静に襲い掛かるのは至極当然だった。
「いえ、凍矢様とガイア連合を信じるしかない、か……。これでダメなら最早私たちに打つ手はない。黒札様に全賭けする私たちには方法がないのでしょう」
一方、ジュネス建築を終えた凍矢は各地の悪魔たちと戦いながらも、ちひろからのいわゆる『黒札マタギ』仕事も行っていた。マタギ仕事はまともな黒札ならやりたがらない仕事であり、手間暇もかかって面倒臭い事も多い。それを打破するために、凍矢は自分自身の冷気スキルから派生した「ある能力」を身に着けた。
琉球ニキたちが黒札でさえ害が及ぶ高位呪物『コトリバコ』の『ハッポウ』を発見して消滅させた以来、ガイア連合には様々な現地民には手に負えない呪物などが山のように押し付けられることになった。そして、凍矢の目の前にある正20面体のパズルのようなもの、これも呪物の一つであり。いわゆる『リンフォン』と呼ばれる物である。これは完成させれば地獄の門が開く代物らしいが、凍矢はそんなことには興味がない。
「アクアッ!!」
凍矢は自分の得意な氷の権能と関係が深い『水』の権能を引っ張り出し、それを自由に使役する事ができる……つまり『アクア』系統の魔術を身に着けたのである。
容器に並々と注がれた霊水に凍矢はリンフォンを放り込むと、ジュオォオオオオ!! と凄まじい音を立てながらリンフォンが解け始める。*6
呪物の処分にそんなダラダラやっていられない、と考えた凍矢は自らが生み出した霊水で呪物を溶かすという手段をとったのである。こうして完全に呪物が霊水で溶けて安全が確認できた凍矢はハイ次! と次のマタギ仕事へと向かっていった。
「うぉおおお!! マハアクア!!」
今度は土地から魔蟲が湧き出してくるいわゆる『忌み地』である。
それらの土地を前にマハアクアで大量の霊水を土地全体に浴びせかける事によって地面ごと半ば無理矢理浄化・中和させていく。
こういった忌み地や毒が噴出してくる毒沼に対して、大量の霊水を流し込んでいくことで簡単に浄化が可能なのだ。魔蟲たちも大量の霊水を浴びせかけられ、瞬時に蒸発して消え去っていく。
霊水が染み渡った土地は一時的には魔蟲は発生しなくなるが、それも一時的なものにすぎない。
そのため、凍矢はその霊水が乾かないうちに凍らせて『蓋』をする。
凍った霊水が『蓋』になれば少なくとも封印状態にはなるはずである。彼は地脈自体はいじれないが、こういった形での簡易的な封印は可能だ。彼には能力的に地脈浄化などはできないが、こういった簡易的浄化・封印は可能である。
「浄化してくれる霊水はマタギ仕事には便利だよな……。水撃系は耐性を持ってる悪魔も少ないし。よし、どんどん仕事をしていくとするか」
こういった土地は大火力で焼きつぶしたり地脈浄化できれば楽なんだろうけどなぁ。と思いつつも霊水生成能力を身に着けた凍矢は破裂の人形と共に次のマタギ仕事へと向かっていった。
そして、九重家が行うのは、ほかの悪質な名家の掣肘、地域を守るための悪魔退治だけではなく、最近タケノコのように生えてきている悪質なカルト系の殲滅もその仕事だった。
そろそろ半終末に入ろうかという時期、悪魔を崇めるカルト、サバトの類は山のように湧き出していた。
九重家は他の名家にガイア連合の霊的武器を転売する際に絶対服従の霊的服従を結ばせている。だが、クーデターを起こして比較的まともになった各名家もそれらカルト退治や低級悪霊退治などを各自で行っていたが、その中でも特に悪質なカルトも存在した。
悪魔崇拝だけでなく、歪んだ趣味を持つ権力者に人肉食、死姦の『材料』の提供などなど非人道的行為を映像に取ることでそれを楽しんだり、美少女や美女を洗脳して権力者の玩具にする悪質なカルトはどこでも発生するようになっていた。
──―古びた倉庫の中、そこでは狂気の捕らわれた瞳の人間たちと攫われてきて震えている美少女たちが存在していた。彼女たちの目の前にあるのは、血で汚れないようなビニールシートや様々なノコギリやらメスやら包丁やら見せびらかすように存在し、カルトの男たちは狂ったように笑っていた。*7
「ははは!! 全く人間の脳や内臓を見たいとかいうグロ趣味の権力者が多くて困るぜ!! まあ俺たちも鬼じゃないからきちんとハピルマやダストマをかけて『幸せ』にして最後を迎えさせてやるからな」
「そうそう。これは『救済』なんだよ。大丈夫大丈夫。きちんと『幸せ』にしてあげるからさ。権力者から金ももらえて我が女神【ツィツィミトル】様に生贄も捧げられる。ついでに俺たちは気持ちよくなって美味しい人肉も食べれる。一石四鳥だな!!」
ツィツィミトル。アステカ神話において夜と恐怖を司る女神であり、太陽を食らいつくす悪鬼として恐れられていた神である。彼女は生贄を求める邪悪な神であり、メガテンでも邪神や魔王に位置付けられている。*8
元々、アステカ神話は非常に血生臭く戦争で捕らえた敵を神に捧げる生贄としていた。生贄の祭祀は「人間の血を神々に捧げ、神々の血を人間が頂く」のだ。
そのため、その中でも邪神に仕えるカルト宗教である彼らは非常に残虐であり、グロテクスを好む。
人間を解体するのを撮影し、それを悪趣味な権力者に流す、もしくは好き勝手していい女を流す事によって金と権力者との繋がりを作っているのだ。
「こっちの子は交わって幸福を味わわせたまま脳味噌かき混ぜてみようぜ! こっちの子は幸せにしたまま解剖して内臓丸見せだ!! きっと我らがツィツィミトル様も権力者も喜んでくれるぜ!! 美少女は犯して気持ちいい! 解体して楽しい! 食べておいしい! 我らが神も喜んでくれる!! まさに捨てるところなしだな!!」
ゲラゲラゲラと笑うカルト教団の集団に対して、部屋の隅でただひたすら怯える少女たち。そんなカルトの男たちに対して、彼らと協力体制にある九重家の人間(ほんの少しだけ血が繋がっているだけ)は親指を立てて楽しそうに笑う。
「大丈夫だ! 俺はあの名家の九重家の一員だぜ!! 誰も俺に逆らうことなんてできやしない!! 名家最高!!」
ほんの少し血が繋がっているだけだが、「俺は九重家の人間だぜ!!」というだけで他の名家の人間ですら逆らえない。思いっきり好き勝手してもどこからも文句のこない天国のような状況でさらに刺激を求めて、この男は血に狂ったカルトと協力することになっていた。こうして人間が解体されるさまを見てゲタゲタと笑う彼らは、もはや半分人間から外れかけている『外道』の類に入っていると言ってもいい。
『そんなに見たいのなら、自分の物を見ればよろしいのでは?』
その綺麗な女性の声と共に、綺麗な透き通るような弦の音が響き渡る。いきなり流れ出した弦の音にカルトの男たちは困惑するが、その音は自分自身のリミッターを開放して「自分の感情、やりたいことが解放される」……つまり幻惑(ダストマ)とパニックの効果を同時に齎す。
「あ……あびゃあああああ!? これだ! 俺の見たいのはこれだったんだ!!」
「幸せ! 幸せ! 幸福! 幸福!! そうこれこそが救済なんだぁああ!!」
男はいきなり自らの腹に対してナイフを突き立ててそのまま真横に刃を動かし、飛び出した傷口から内臓を取り出す。あるいは手にした回転ドリルを自らのこめかみに当てて、そのまま差し込んでいき自らの脳をかき乱す。
しかも、彼らは皆楽しそうにゲラゲラ笑いながら自らの内臓を引き出し、自らの脳をドリルでかき回す。まるでこれが自分自身の最高の幸せであるかのようにである。
いきなりそんな奇行に出たカルトの人間たちを見て、少女たちは次々と気絶していく。そんな狂気に陥ったカルト信者とまだ正気を保っている彼らの前に、バイオリンのような楽器と弦を持ち、漆黒の清楚な衣装に身を包んだ黒髪ロングの美少女が闇の中から切り出されるようにすっと現れた。
彼女こそ、九重家の【暗部】に所属する元ダークサマナーの一人『ヴィルトゥオーサ』である。それを見て、九重家の男は混乱して怯えまくりながらも狼狽する。
「ま……まさかッ!! あ……暗部……!? 九重家の【暗部】か!? 何故!?」
『【何故】? これだけ九重家に反逆しておいて【何故】とは笑わせますね。静様は九重家の看板に泥を塗った者に対して大変お怒りです。その命程度ぐらいでは贖えないとおっしゃっています。……出でよ。我が契約せしソロモン72柱『正義の悪魔』【アンドロマリウス】よ」
彼女は元々九重家ではなく、元ダークサマナーであるが、このままダークサマナーでいるよりは、と九重家に仕えるようになった存在である。九重家自体は竈神に仕えているが、彼女はその出自のため他の魔神と契約を結んでいる。その契約を結んだ魔神こそソロモン72柱の1柱【アンドロマリウス】である。
その権能は【盗人を捕らえる事】【邪悪を見つけ出し、泥棒やその他の邪悪な物達を罰する】という権能である。その対犯罪者に特化した権能のため、アンドロマリウスは『正義の魔神』と言われる一風変わった魔神でもある。その権能はウェットワークでろくでもない悪人たちの始末を行う彼女にはまさに最適といえた。アンドロマリウスはカルトの男たちの両腕両足を切り落とし、鎖で縛りながら別の空間へと引きずりこんでいく。
脳缶ニキの活躍で割と親人間派になった堕天使たちではあるが、こう言った外道を玩具にする分には何も問題はない。両手両足を切り落とされて、芋虫のようになったカルト信者や九重家の末席の男は悲鳴を上げながら異空間へと引きずり込まれていく。
「嫌だ! 頼むから! 頼むから死なせてくれ!! 生きながら永遠の苦しみを味わうのは嫌だ! 嫌だぁああ!!」
「今まで好き勝手やってきたのに、自分がやられるのは嫌とかそれは通らないでしょう。せいぜい自分の本性をさらけだした自業自得を思う存分味わうといいですわ」
そのカルトの男たちがアンドロマリウスの元に引きずり込まれていくのを見て、気絶した少女たちや血まみれで男たちの手足が残っている床を見てはあ、とため息をついた。手足が残っているのは九重家内部の人々に対して「舐めた真似をしたらお前たちもこうなる」という内部粛清をためらわないという静の意思表現である。絶対自分が偉いと勘違いして好き勝手する九重家の人間たちを掣肘する意味合いが大きい。
ダークサマナー狩りから逃れて、暗部として活躍するのは別にいい。だが、いかに元ダークサマナーであろうとも、暗部の仕事ばかりしていると魂が摩耗してダーク属性一直線になってしまう。ガイア連合に親しい九重家のコネを通して、何らかの心の癒しを求めるべきか……と彼女は考えながら他の暗部の『掃除班』に指示を出した。……なお、癒しを求めた結果人魚ネキのお歌にドはまりするという事になるのだが、この程度なら可愛いものだ、と静はそれを受け入れて彼女の要請に答えていた。
そして、そんなこんなで魚沼市のみならず、中越地方・下越地方の霊的守護に駆けずり回っている中、とある機械が魚沼市へと搬入されてきた。
それは北神奈川ガイア支部で作成された多目的重機『モビルワーカー』である。*9
これを田んぼを耕す際などのトラクター代わりとして運用試験してくれ、というのだ。もちろん大喜びで受け入れた凍矢は、それを農業部に所属する『農業ニキ』並び九重家の人間に運用を任せたのである。
このモビルワーカーに代掻きハローを装備することで代掻き、田んぼに水を入れ、土を砕いて均平にしていく作業は非常に楽になっているので問題はない。
さらにこのモビルワーカーはアタッチメントを交換して田植機や稲刈りにも使用することができる。
火烏のコアを使用し、LV6のため九重家の人間でも使用可能であり、半覚醒の人間でも使用が可能だろう。だが、ここでふと農業ニキは考えた。
「ならこのアタッチメントに加護をつけたらどうか?」と。
そこで出てきた「山海経」の東山経に出てくる欽山という山に棲んでおり、牙を持つ豚のような姿「当康」である。この怪物は天下に豊作をもたらす吉兆となる生物。この「当康」の加護を田植え機アタッチメントや代掻きハローアタッチメントに付与する事により、田んぼ自体と稲の苗に豊作の力を付与するのである。これに豊作の権能が田や稲などに伝わる事によって豊作を約束されることになるだろう。幸いキクリ米との相性も悪くないため、結界で守られている越後平野の田にもこれらの機械やアタッチメントを導入予定である。
某ドリフ〇ーズでも「農業は積み重ねた技術と経験だ、そう簡単に使い物にはならない」と言われている。長年積み重ねてきた農業技術や知識を失わせるわけにはいかないのだ。
「よし、それじゃこの運用データとアタッチメントの運用データをイデニキのところまで届けてくれ」
農業ニキがモビルワーカーやアタッチメントのデータを纏めた書類や情報媒体を北神奈川ガイア支部へと輸送を頼んでいる中、農業ニキの近くでは一体のスライムが蠢いており、そのスライムに農民たちが生ごみを突っ込んでいくとそれらを吸収して、肥料……堆肥へと変化させていく。これは、チクリンニキが作り出した『スカベンジャースライム』*10である。これは排泄物を堆肥へと変える能力を持っているが、排泄物だけでなく生活で大量に出てくる生ごみをほぼ瞬時に堆肥にする事ができるのだ。トイレの排泄物だけでなく、生ごみなども瞬時に肥料化してくれるため、農業ニキにとっては極めてありがたい存在だった。
さらに農業ニキはクリーナースライムを独自に改造して、大気中の窒素を吸収して窒素を生み出す「窒素固定スライム」を開発するべく研究を行っている。ある種の細菌が持っている酵素は大気中の窒素をアンモニアに変換するはたらきを持ち、この作用を生物学的窒素固定といい、窒素固定を行う微生物をジアゾ栄養生物という。このような細菌とスライムを共存させることにより、大気中の窒素を吸収・固定して肥料や弾丸の火薬用として生み出せないかと農業ニキは実験しているのだ。そんな中、彼はスカベンジャースライムが予想より遥かに肥料を生み出しているのを見て思わず喜んでいた。
「おお、何かやたら今日は肥料を生み出してくれるなぁ。ありがたい。……それにしても今日はこんなに生ごみいれたか……?」
そういえば、九重家の人間がスカベンジャースライムに対して布で隠した『何か』を突っ込んでいた気がする。何か生肉っぽい何かだったような……? よくよく考えるとこのスカベンジャースライム、生肉も骨も分解して肥料にしてくれるのなら、人の死体処理に対して完璧なのでは……? とふと農業ニキは思いつく。
スカベンジャースライムに肥料にされた人の死体は断片も残らず全て肥料に変換される。死体処理としては酸で溶かしたりせずに処理できる、まさに完璧な存在である。腕を組んでうーんと農業ニキはしばらく考えた後で一つの答えを出した。
「……ヨシ!! 考えないようにしよう!! やめやめ!! さあ農作業頑張ろう!!」*11
だが、そんな名家の中でも勝ち組といえる静でも予想外の出来事は存在した。それは凍矢のシキガミ『破裂の人形』に凍矢が変化A(後に変化S)スキルを組み込んで、ほぼ完全に人間の女性へと変化させたことである。
(なおこのネタが後で脳缶ニキやカス子ネキにからかわれる事になる。)
今まで偽装用に最低限の変化スキルしか組み込んでいなかったからある意味安心していたのだが、高度の変化スキルでほぼ完全に女性になったのなら話は別である。
(そこは! 私を! 性処理に使ってください!! メイドたちでもいいからぁあああ!! お手伝いに九重家の女性たちをメイドにしていたのにぃいいいい!! 十人でも二十人でも纏めて性処理に使ってくれていいのにぃいいい!!)
実際公民館では九重家の女性たちをお手伝い……文字通りの「メイド」として様々なメイド服を着させてお手伝いを行わせていた。これは凍矢の女性の好みや性癖を調べよう、という彼女の作戦の一つである。
凍矢が望めば性処理用の女性たちを十人でも二十人でも用意するつもりだったが、黒札はそういった事を好まないと知った静はこうした作戦をとって彼好みの女性を用意しようとしたのだが、破裂の人形が完全に女性化したことによって、彼女のこの作戦はほとんど水の泡となった。
当然こんなことを大声で言えるわけもなく、静は自分の親指を噛みながら、現状に歯ぎしりするしかなかった。
(くっ……! 他の名家の気持ちがよく分かりますね……!! いや、ここはまだ焦るべきときではない……!! 安易に女を当てがって逃げられてしまっては元も子もない……!! 焦らずにじっくりと信頼を結べばいつかは……!!)
他の名家から見れば、静は十二分に勝ち組ではあるが、それでも黒札の血を取り込んで今後百年の繁栄を得たいというのは家に拘る名家の本能である。静もやはり名家であるため、そこからは抜け出せないのだ。*12
そんなギリギリギリ……と親指の爪を噛んでいる静の元に、ぽてぽてぽて。と彼女の飼い猫? であるミイは静の目の前にやってくると、構え、と言わんばかりに目の前で寝転んでぐねぐねとセクシ~ポーズを取りながら話しかける。
「静怖い顔をしすぎニャ。お疲れの静には特別にミイを吸って……いいニャよ?」
そのミイの言葉に甘えて、静はぼてっとミイのお腹に顔を埋めさせていわゆる『猫吸い』を開始した。この世界はあまりにもろくでもない事が多すぎる。悪魔のいない平和な世界とかないものか……と静はミイを吸いながら心の中で呟いた。