【カオ転三次】故郷防衛を頑張る俺たち   作:名無しのレイ

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九重静の終末対策6

 プリンシパリティたちを撃破して撤収した静は、後日再び上越市へとやってきていた。それは、名家の天敵であり名家が忌み嫌う『メシア教穏健派』の一人と会話を行うためである。

 だが、この穏健派はメシア教でありながら一風変わったメシアンでもあった。──メシア教穏健派の中でも様々な分派が存続する。例えば人間は清くあるべし、隣人愛を注ぐべしという『清廉派』などが存在する。その中からでも『清廉派』から忌み嫌われているのは、いわゆる『世俗派』である。

 本来『世俗派』とは「政治権力と宗教を分離するべき」という派閥だったのだが、「清浄なままではなく、俗世の穢れに塗れて人々を救うべき」という教義によって誕生した穏健派の一派閥である。

 そしてその『メシア穏健世俗派』……口差がない人には『腐敗派』と言われる中の重鎮、それがこの「王留美」である。美少女と言っていい可愛らしい容貌、スタイルの良さに反して、金! 異性! 権力! という実に分かりやすいパーソナリティは穏健派の中でも異質であり、特に穏健派の「世俗派」とは真逆の「清廉派」には死ぬほど嫌われている存在だ。

 彼女は中華系メシアン穏健派という事で、当然ながら中華戦線の戦線の維持に強く関与している。ここ上越市の直江津港からガイア連合の補給物資を用意し、それを大連・天津新港に輸送するための要と言っていい。

 だが、腐敗派である彼女は、『ある程度の【支援物資】は、【緊急時は、勝手に使っていい】』*1という穏健派の方針に従って、当然のようにガイア連合の中華戦線の補給物資を中抜きして儲けている。つまり、彼女は穏健派の言う『一部不道徳者』という訳だ。

 

 だが、穏健派の兵站はガイア連合と太いパイプのある彼女に大きく握られており、彼女がいなくなったらたちまち中華戦線の補給が大混乱になってしまうだろう。*2

 ガイア連合の黒札にとっては、綺麗事ばかり言って好き勝手やっている穏健派よりも、こういった欲望のまま動く穏健派のほうが一周回ってある程度信用できるらしく、ガイア連合の人たちと相談して、ガイア連合の艦艇や戦艦群とある程度行動連携を取ってコバンザメのようにくっつきながら移動するため、穏健派単体より遥かに安全性も効率も抜群なのが、さらに彼女の権力を増大させていた。それに比べれば多少中抜きなど通行代と考えるべきか……という頭のいい穏健派の中では大目に見られていることも大きい。

 

 ともあれ、王は華美な装飾品や芸術作品に囲まれた部屋*3の中で優雅に椅子から立ち上がり、ワイングラスにトクトクと黄金のように輝く白ワインを注ぐ。その匂いだけで高級品だとは分かるが、静はそれを一口だけ飲んで正確にワインの価値を特定する。(本来穏健派の物などどんな毒や媚薬が入っているか分からないので口にはしないが、腐敗派への信用アピールに口にした)

 

「この味わい、そしてこの甘さ……。貴腐ワインの中の一つ、シャトー・ディケムですか」

 

 だが、今のフランスは葡萄作りどころではない。ヨーロッパ圏内は天使たちに国土を蹂躙され、レジスタンスたちが天使たちに戦いを行っているか戦況は芳しくない。もはやこのワインを作り出すことは難しいだろう。

 

「全く忌々しいことこの上ありませんわ。この高級ワインもチーズももはや戦場と化しているヨーロッパ圏では作れないでしょう。これも何もかも全て地上を「浄化」せんとする過激派の仕業。私たち穏健派にとっては不倶戴天の教敵。それらを倒していただいた貴女にはお礼を」

 

 王は静に対して、プリンシパリティを倒してくれた礼として何個もの「宝石」を差し出す。力2、知2、魔2、体2、速1、運1がプラスされる『トパーズ』、力2、知2がプラスされる『ダイヤモンド』体3がプラスされる『ガーネット』などだ。これは穏健派が集めた力ある宝石……というか「高価な宝石を集めていたら偶然霊力の籠った宝石を手に入れた」という感じなのだろう。霊的戦力に劣る腐敗派はまともに前線に立ったりする事は難しい。そのため、こうしたステータスアップする宝石をガイア連合に売り払ったり、静などと言った前線で戦う名家たちに報酬として与えているのである。

 

「それは本来貴方達穏健派が掣肘すべきでしょう? 今回の事件も穏健派が始末するべきだったのでは……?」

 

「いや全くその通り……。でも私たち「世俗派」は霊的修行は……はい」

 

 世俗派は世俗の汚れに塗れ切っているいわゆる腐敗派である。その金を利用して穏健派の兵站などで重要な役割を担っているが、プリンシパリティほどの大悪魔と戦うなど無謀極まりない。自分たちの欲望を考えている腐敗派がまともに霊的修行をして強くなろうとは思わないのである。

(メシア流戦闘術としては『聖書の言葉に、力を加える』『力ある讃美歌』とか『聖書に奇跡を部分的に再現』でハマやディアを使うが彼ら腐敗派は信仰心が少ないため普通に使えない模様)

 上越市に過激派のプリンシパリティが潜んでいるという情報を得て、真っ先に静に伝手を頼って情報をバンバン流していたのは彼女である。中華戦線を支える拠点の一つである直江津港を抱える上越市でそんな過激派天使が潜んでいるなど、悪夢でしかない。そのために高額な料金を払って真っ先に駆除を依頼したのだ。デモニカを纏って自ら前線に立って悪魔と戦っている静からしてみれば、怒っても当然だが、あの毒虫のような天使もどきに山のように囲まれて生活しながら粛清・洗脳もされずに平然と生き延びているのは、思わず感心を通り越して呆れながら静は言葉を返す。

 

「まあそれでよく生きていられますね……。普通に「清廉派」や天使に始末されてもおかしくないでしょうに……」

 

「ふふ、私たち「世俗派」は穏健派の補給・兵站に大きな役割を果たしています。特に上越市の直江津港から中国の港に贈られるガイア連合の補給物資はまさに中華戦線を支える力。私たちをどうにかすれば、中華戦線の兵站は大混乱に陥ります。彼らもそれほど愚かではないでしょう」

 

 現在過激派と穏健派や中国の英雄たちが戦っている中華戦線はまさに世界の最前線と言っても過言ではない。そして、それを支えるのはガイア連合の巨大な生産力と穏健派……世俗派の兵站・輸送能力である。

 ガイア連合が生産する霊的武器・ガイア弾やガイア銃、簡易ガイア銃、大量の霊的食糧をガイア連合から引き取り、上越市から中華戦線まできちんと輸送する彼女がいなくなったら、中華戦線は武器・食料不足で大混乱に陥り、過激派が中華戦線を支配しかねない。

 

「それにこれは独り言ですが……司教や大司教、そして天使様は私が紹介する『元難民』を殊の外お気に入りで常に傍においているとの事。元難民たちを自分たちの手元に置いて大切にしてくださるなんて、とても人道的ではありませんか? お互いに利益もありメリットもあります。それを捨てることはそうそうできないでしょう」

 

「……それは、つまり『元難民の美少年や美少女たちを司教や天使たちに当てがって欲望を満たす道具にしている』ということでしょうに。まあ腐敗派である貴女が粛清されないためには確かにそれが有効な手段ではありますが」

 

 王の綺麗事に塗れた言葉を、静はその真意を見抜いて一言で両断する。彼女は、中華戦線から逃げてくる中国の難民たちの中でも、特に見目の優れた少年や女性を穏健派として偽装させ、その美少年や美少女たちを天使たちや司祭・大司祭たちに『供給』している。しかもこれはいわゆる穏健派の中にいる「清廉派」たちもお世話になっているため、清廉派から憎まれている彼女が命を狙われない大きな理由になっている。彼女からすれば命を救われただけでなく、衣食住が保証されている穏健派の安全地帯で暮らせるから中華戦線にいるより遥かに幸せだろう? その代償として尻穴や前の穴ぐらい使わせるのは当然だろう? という理論である。本人たちも生き延びられて幸せ、司祭や天使たちも気持ちよくなれて幸せ、王の懐も温まって粛清を免れるから三者とも皆幸せな事は確かだ。 

 

(とはいえ、人間としてのモラルはゲスでクズのドブカスですが……名家である私がモラルを口にするなど唇が火傷するところか、口から火を噴きそうですね。このくらいなら可愛いものですか……)

 

 ちなみに彼のバックとしては天使カスピエルが存在しているが……当然のように彼も腐敗している。元々カズピエルは天使でありながら天使、あるいは悪魔(堕天使)と両面の側面を持っている堕天使に限りなく近い天使である。そのため彼と極めて相性がよく、カズピエルに対して女やぜいたく品を供給している代わりに、ほかの天使からも守ってもらっているのだ。

 さらに天使たちに肉欲の快楽だけではなく、酒・タバコ・他嗜好品を供給することによって、腐敗派を粛正できないように立ち回っている。 もちろん狙われたらこれら全てのスキャンダルを他の穏健派に明かして大混乱にするつもりである。ワイングラスを優雅に傾けながら王はさらに言葉を口にする。

 

「天使様は潔癖で純粋すぎるのが問題だと私たち世俗派は考えています。世界はそのように綺麗事だけでは押し通せません。我々は世俗の汚れにまみれなければならないのです。天使様たちに様々な贅沢品を供給しているのもそのため」

 

「ですが天使様は清廉すぎるために極端な意見に走り「清浄な世界」にしようとお考えなのが悩み所。清い水に住まえるほど人間は清らかな生き物ではありません。「水清ければ魚棲まず」という事をご理解していないのです。その点ガイア連合様は人間としての感性を第一としていただける超巨大オカルト組織。彼らのお慈悲にすがれば穏健派が生き延びるための物資・食料をいくらでも生産していただける! それに彼らは我々世俗派の考えに理解を示していただいて強く信用いただいています! これはガイア連合様のお慈悲におすがりするしかありません!!」

 

 両手を広げて言い放つ芝居がかったその王の発言に対して、静は冷たい視線で王の綺麗事を意訳して一刀両断に切り捨てる。

 

「……『粛清されるのが嫌なので天使様や酒や女や煙草や少年をあてがっている』『天使様のケツ穴をしゃぶっても美味しくありませんが、ガイア連合のケツ穴をしゃぶればいくらでも美味しい思いができる。ガイア連合様のケツ穴しゃぶり最高!!』と素直に言えばいいのでは?」

 

 その静のストレートな物言いに、王はわざとらしく口に手を当てて驚いたふりをする。

 

「まあ! お下品ですわね。それにそれはそちらも同じではなくて? 同じガイア連合のご慈悲とご威光に縋らなければ生きていけない存在。私たちは似たもの同士でしょう?」

 

 それはそうなんだけど……腹が立つなぁ!! と静は心の中で呟く。確かに名家も穏健派もガイア連合がいなければ生きていけない存在であり、ガイア連合のケツ穴をしゃぶっていると言えば同じだ。だが、それでもコイツと同じにされるのは不本意! 腹が立つ!! と本音を静は何とか押し殺した。静と話してヒートアップしてきた王は、自らの拳を机に叩きつけて忌々しげに吐き捨てる。

 

「そもそも! 過激派の連中は人の価値が解っていないんです! 人間は大事にすれば一生労働力になってくれる存在なんです! そんな貴重な労働力を潰しまくった挙げ句が人件費の高騰!! それでどれだけ私たちが大損したか……! 大損分の請求を全て過激派に払ってもらいたいぐらいです……!」

 

「……今の世界人命は安くなっているのだから奴隷並みにこき使えばいいのでは……?」

 

「そんな事をしたらコストをかけた人材がすぐに潰れてしまうでしょう!? 一生大事に使える労働力は一生使わなければコスパが悪い! 使い物にならなくなるまで長期に使わないとペイが取れないのを過激派は全く解っていない!」

 

 うーんこの、と静は心の中で呟いた。王は人の命は労働力として金になる。人の命が大事というモラルよりも経済的な視点から、金になるから人の命を奪うなという考えである。その点では某ハイパーインフレーションの某グレシャムに近い点はあるが、それは経済的視点からであって決して人の命を大事に思っているわけではないが、それでも過激派や普通の穏健派に比べれば遥かに人道的であるというのがこの世界が終わっているところだろう。

 

「それで、そちらに頼みたいのは……そちらの黒札様の伝手を使って『KSJ研究所』*4様を私に紹介してもらいのです。『ベストセラー霊装、蟲毒皿ピッチャーをはじめ、ツキカテ煙幕、電磁バリア形代人形、痒い所に手が届く消耗品アイテムを開発し、半終末に至っては『レンタルシキガミ』を開始、『死ねという命令以外絶対服従』契約であくどく力を求める顧客獲得に成功している……』金の匂いがしますね……! それも大金の匂いが!! 彼らと仲良くなれればさらに儲けられるはずです。当然『死ねという命令以外絶対服従』もすでに契約書を用意しています。ぜひ、よろしくお願いいたします」

 

 王は他の穏健派とは少し異なり、『自らの欲望だけは絶対に裏切らない』という特性がある。それゆえ、静も他の穏健派に比べて信用しているのだ。金の匂いに極めて鋭い彼はKSJ研究所の足の裏どころか尻の穴を舐める勢いで忠誠を誓って儲けるつもりらしい。当然『死ねという命令以外絶対服従』も誓っているし、穏健派の機密情報や秘密情報や過激派の情報もバンバン彼らに流している。それを静も薄々気づいているが、まあせいぜいうまくやってください、としか彼女的にはいう言葉がなかった。

 


 

「……異能者育成学校?」

 

「はい、これから先は通常の教育よりもこうした覚醒を誘導させる学校・能力を向上させる学校が絶対に必要となります。そこから生まれた人材は私たちの役に立ってくれるでしょう」

 

 ほむらの教育を行っていた静は、かねてからの提案を凍矢へと提出した。あちこちの都市では終末を見据えて、悪魔対策や覚醒者の育成のための覚醒者の学校が作られ始めている。

 例えば十勝で作られている覚醒者学校、宮城で作られている妖怪や覚醒者たちの【百鬼夜行】、そして探求ネキの蓬莱島で作られている【学びの園(アカデミー)】などだ。今のうちから覚醒者学校を作っておけば、将来有望なデビルサマナーやデビルバスターといった異能者やデモニカユーザーを育てることができ、それはこの地域の防衛に大きく役に立つだろう。さらにこれらの学校と連携してお互いの悪魔や戦い方、覚醒の仕方、状態異常などの情報を共有してより効率よく強くなろう、という連携ができていくのは自然な流れだと言える。ケーブルに繋がれたリラックスチェア(このケーブルは大型MAGバッテリーに繋がっており、この売電……もといMAG販売も彼の大きな収入である)に腰かけて、凍矢は彼女の用意した資料や図面を読んでいく。そんな彼女に構え、とミイがよってくるが、静はミイを抱き寄せて抱きかかえながら凍矢の反応を見る。

 

(その学校で育成された異能者は私たち九重家に強い影響を受けるし、何ならどんどん九重家として受け入れてしまえばいい。名家の人間でもこの学校で育成されたのなら九重家の影響を無視できないし……)

 

 ともあれ、凍矢自身も覚醒者を増やせる事のできる覚醒者学校設立には賛同した。だが、それでも大きな問題は残る。それは【教師】の問題である。亀仙人のように高い技術を持ち、それを覚醒したばかりの教える人材などかなり少ない。凍矢自身も勉強して現地民へと指導は行えるが、ただでさえクソ忙しいところにそんな負担と手間のかかる事を行うのはキャパオーバーしかねないというのが実情だ。リラックスチェアに座って腕を組みながら凍矢はうーんという顔になる。

 

「でも教師の育成やノウハウがねぇ……。俺も現地民指導はできるけど、それどころじゃないし……」

 

「一応、十勝支部から学校運営や霊的教育のノウハウは学んできました。*5これをベースに行ってみましょう。……人材がアレですが、まあ引退した異能者たちを使う感じでこう……」

 

 十勝の覚醒者学校から教え方のノウハウを記した書類などはもらってきている。だがやはり一番の問題は『覚醒』である。とりあえず『覚醒』をしなければ話にならない。ロボ部に覚醒を促す&悪魔から身を守れるLV固定の特殊型デモニカ『戦術甲冑 震電』の開発は行ってもらっている。*6これを使いまわして覚醒者を増やす魂胆ではあるが、しかし、それでも悪魔を倒して覚醒させるよりは、きちんと修行して覚醒した方がより強くなれる*7のは黒札でも現地民でも同じなため、修行は覚醒者学校、鳥煮亭総合学園(仮)で必要になるだろう。静はまず「覚醒の仕方」の資料を机の上に置いて凍矢と会議を始める。

 

「まずは普通の人間を覚醒させる所からですね……。ええと、普通の人間を覚醒させるのは『薬物によるトリップ』『悪魔の一時的憑依』『悪魔に襲われたショック』『魔力を秘めたアイテムに触れる』『事故』『祖先霊の出現』『導師との出会い』『前世の夢の暗示』『修行を体験する』でしたか……」

 

「教育機関で薬物はちょっと……。多分霊酒によるトリップなどでも覚醒できるはずだからそれで試してみよう。黒札用の霊酒はきつそうだから、現地民の異能者用の霊酒でやってみるか……」

 

 教育機関で酒というのもアレだが、薬物よりマシだろう、と大目に見るしかないだろう、と凍矢は腕を組みながら、ううむ、と唸る。この地方では探求ネキの作り出した霊酒を元にさらにグレードダウンした霊酒など様々な霊酒作成がすでに実用化されている。水が豊かな地は酒作りも上手い酒ができる。とはいえ、未覚醒者に黒札用の霊酒など飲ませた場合は『パァン!』が起こったりバッドトリップ、またはどんな悪影響が出るか不明なために慎重に行うべきだろう。

 

「『修行を体験する』はいい。そもそもそれを行うための学校だし。『導師との出会い』も俺も現地民の霊的指導は教わったからそれなりにはできる。静もLV30になったから十分できるだろうし……」

 

「はい。後は手軽なのは『魔力の秘められたアイテムに触れる』でしょうか。これならガイア連合の霊的装備に触れれば手軽ですし。他には『悪魔に襲われたショック』は悪魔召喚プログラムでガキなどで生徒たちを襲わせるとか……ああ、相手を驚かせるのが好きな妖怪たちと契約を結んで驚かせるのもいいかもですね」

 

 確かに『魔力の秘められたアイテムに触れる』はお互いにとって極めて楽だろう。これで覚醒者がバンバン増えてくれるのならいう事はない。様々な攻撃用霊的アイテム、回復用霊的アイテムなど火水土風などの霊力が込められたり、呪詛や回復など色々な霊力に触れさせれば確率は上がるだろう。

 例えば夜や雨の日に脛にまとわりつき、人の足の間をこすりながら歩く邪魔をする『すねこすり』、お歯黒をした鬼のような姿で、墓場や廃屋に潜り込み人が通りかかると「うわん」と叫んで驚かせる『うわん』など人間を驚かせる妖怪は山のようにいるだろう。人間を驚かせる妖怪に襲わせる事によって『悪魔に襲われたショック』という事にするのは一種のバグじゃね? とは凍矢は思うが、楽に覚醒できるのならそれに越したことはない。これからの世界は覚醒さえできれば仕事はいくらでもあるが、覚醒しなければ人権はない、という世界になっていってしまう可能性が高いのだ。

 

「俺は詳しくないけど、前世に遡る催眠療法技術とかあったはずだから……。その辺を使用すれば『祖先霊の出現』『前世の夢の暗示』はいけるかも……。色々試してみるか……」

 

『悪魔の一時的憑依』もできるといえばできるだろうが、非常に危険が伴う。そのまま悪魔に体を乗っ取られてしまうのがオチだろう。よくオカルト作品のように悪霊に憑依されたときにエクソシストが悪魔を追い払うというのは学園でもできるかもしれないが、やらないのが無難だ。『事故』も言うまでもない。そんな風にあれやこれや考えていると、公民館内部に九重家の人間に連れられて、一人の少女がやってくる。アポイントメントを取ってきた白を基調とした学生服を着た少女が九重家の戦闘班に連れられてやってくる。灰色のロングヘアーに神聖さを醸し出す白を基調とした学生服を着た美少女。そして何より特徴的なのは、その腰部から生えている純白の羽だった。

 

「初めまして。私は近くの学校で生徒会長を行っております『桐藤ナギサ』と申します。このたびは黒札様と九重家に庇護していただきたくてこうしてやってまいりました。なにとぞよろしくお願いいたします……」

 

 よくよく見ると彼女の眼の下には隈ができており、心労のせいか頬も痩せこけているように見える。それは彼女の腰から生えている二対の白い羽を見て、凍矢も静もああ……。と納得する。あらかじめ「彼女は霊鳥の血を引いている」と知っていなければ、天使系列の人間か!? と警戒してもおかしくはないだろう。

 実際他のメシア教嫌いの人間からは白い目で見られたり迫害されたり、アンチメシアンの黒札の襲撃を受けかけたこともあるらしい。天使とは欠片も関係ないのにそんなことがあってはたまらないだろう。ともあれ、こちらとしても覚醒者学校の学生側の自治機関、生徒会長としてこちらに忠実で優秀な人材は必要である。覚醒者同士の生徒間の対立や治安維持、学園全体の防衛統治などやってもらうことは山ほどあるのだ。

 

「ああ、それとガイア連合に所属するお方からとてつもない技術をいただきましたので、ぜひそのお礼を……。この『ソフト』のお陰で私はここまで生き延びることができましたので……。召喚」

 

 この公民館内部で暴れる事を禁止された契約書にサインした上でナギサはCOMPから自らの仲魔を召喚する。

 黒札の前で悪魔召喚をして暴れさせるなどという命知らずな真似はしないだろうが、お互いの信頼感を保つための契約である。そうして召喚された鮮やかな赤と白を基調とした霊威あふれる美しい鳥。すなわち『霊鳥ホウオウ』*8であるが静や凍矢をそれを見て思わず目を見張る。

 

>桐藤ナギサ(LV10)

>霊鳥ホウオウ(LV21)

 

「「!!!???」」

 

 それを見た凍矢と静は思わず絶句した。そう、彼女は悪魔使いの鉄則『自分よりLVが下、もしくは同じLVの悪魔しか仲魔にしない』というのを破り、自分よりもLVが10も上の悪魔を使役しているのである。

 うまく契約を結べたとしても、言うことを全く聞かないどころか頭からバリバリと食われる危険性すら十分にある。だが、ナギサは自分よりも遥かにLVの高いホウオウを使いこなしている。真・女神転生IFのホウオウは『ディアラマ』『メディア』『リカーム』『タルカジャ』を使いこなす極めて優秀な悪魔であり、治癒系が得意であり、霊鳥の血を引いているナギサとは極めて相性がよい。

 だが、恐らくナギサが霊鳥の血を引いているから「同胞、仲間」という視点でホウホウは見ているのだろう。

「弱い同胞は私が守護る!!」という考えなら、大人しく従っているのにも納得がいく。だが、凍矢や静からしたらそれはとんでもなく危険な行為だった。

 

「ええ! やはりガイア連合様のお力は偉大です!! まさか自分のLVより上の悪魔を使役する裏技が使えるなんて!! このホウオウの力で今まで私は生きてこれたのですから!! ええと……確か『コンバック』*9を利用した悪魔合体ソフトに『コペルニクス』*10というソフトでしたか……?」

 

「「!!!???」」

 

(やめろぉおおお!! 今すぐやめろぉおおお!! 頭から食べられても文句言えないぞ!? この世界ゲームじゃないんだからさぁ!?)

 

 確かにコペルニクスソフトとコンバックソフトを併用すれば悪魔合体を利用して高位の悪魔を仲魔にするのは可能だろう。おまけに霊酒を使って元の仲魔の忠誠心をマックスにして、その忠誠心を合体事故の悪魔に受け継がせて安全性を増しているらしい。確か合体事故は合体前の仲魔の意識や忠誠度を引き継ぐとされる。合体前の悪魔を酒などで忠誠度マックスにさせて自分よりLVの高い悪魔を仲魔にするというのは効果的だ。

 ……だが、あの悪魔との契約に対して安全性を非常に重視するショタおじがこんなことを許すとは思えない。黒札でも許さないだろうし、現地民でもそんな余計な力を身に着けたら黒札に逆らいかねないと考えるのは普通だろう。

 

「ええと……。このソフトはスティーブニキ? *11から与えられたのですが……? えっ? あれはスティーブニキじゃない……? 黒札様ですらじゃない……? じゃあ私にこのソフトを渡したのは誰なんですか……?」

 

 誰!? 誰なの!? 怖いよぉっ! とナギサがパニックになっている中でも、これに対して機密事項で他人に話せなくなる霊的契約を結んでもらい、実にあっさりと【コペルニクスソフト】も【コンバックソフト】も没収・危険すぎると封印される事になった。こんなものがネットに大量配布されたり、情報が出回るだけで大混乱になるのは目に見えている。【コペルニクス】もそうだが、安易にCOMPで悪魔合体ができる【コンバックソフト】が出回るのも大混乱に陥るのは確実だ。*12ナギサの件はうまくいったが、大抵は自分より遥か上のLVの悪魔を仲魔にするなんて、制御不可能で自滅するか、頭から食われるのがオチだからだ。それを見ながら、凍矢は腕を組んで考え込む。

 

(スティーブニキは今地下基地制作で滅茶苦茶忙しいからそんな事している暇がない。それにそもそもスティーブニキはそんなCOMPのソフトを作れるほどデジタルや悪魔合体技術に作れる方面の素質はない。となれば……)

 


 

 ──―魚沼市の外れ。そこには車椅子に乗ったカクカクとした姿マイクラのスティーブなガワを纏っている人間が存在していた。そして次の瞬間、その幻術が解けていくとその車椅子の上にいたのは喪服のような漆黒の可憐な衣服を身に纏い、顔の前面をベールハットで顔を覆っていた女性へと変化していく。

 ……ラケル博士と呼ばれるその女性。それは呉支部にいるラケル博士ではない。ガイア連合デジタル部に所属する彼女の真実の正体、それはメシア教に処刑されたはずの存在、【メシア教製天使召喚プログラム】を作り出した【スティーブン】その人である。*13メシア教に処刑されていたと思われていた彼は処刑されたことにしてメシア教から脱出、そしてガイア連合デジタル部に保護されながら生活しており、その過程でさらっとアバターを女性体の「ラケル博士」に変えてガイア連合デジタル部で生き生きと活動中なのである。

 

「ふう! やっぱりいい事(人類が生き残るための力を配布する)をすると気分がいいですね! 新しく私が開発した『コペルニクス』の実験にちょうど良かったでしたし……。流石にこれを大々的にばらまくとガイア連合も黙っていませんし、実験データを得られたので満足しておきますか」

 

 汗を拭う真似をするスティーブン……もといラケル博士。彼、もとい彼女にとっては、これも人類が生き延びるために力を与える一環であるらしい。

 以前、ショタおじとダルが聖書を用いた悪魔合体はやろうと思えばできるが、全く予想ができないからやめておこう*14というのを聞いて、その技術を応用しての【コペルニクスソフト】の開発、さらにそれを使える悪魔合体ができる【コンパックソフト】を開発したのだ。

 

 しかし、こんな安易に強大な力を与えるような真似……具体的にいうと【コンバックソフト】と【コペルニクスソフト】の大量配布……など行ったらガイア連合は本気で彼女の命を狙ってくるだろう。現地民が強大な力を持てばガイア連合に反抗したり、そもそも暴走して多大な被害を与える可能性が増える。それをガイア連合が恐れているのは彼女自身も知っているのだ。今回は【コンバックソフト】と【コペルニクスソフト】が実用化されて一人の少女を救っただけでもよしとしておこう、という実験的側面が強い。そもそも、彼女としてもガイア連合デジタル部は自分自身と同格の人間、同じぐらいの天才たちと囲まれていて居心地がよい。わざわざこれを捨てるような真似はしたくないのが本音である。*15そこで、彼女はふと電脳異界といえば……とある事に気づく。

 

「そう言えば……『無惨ニキ』様の所で電脳異界チップを利用して新しいロボを作っている*16ようですね。私が作った電脳異界ならばガイア連合の電脳異界よりも遥かに速度が速いですし便利でしょう。ちょっと遊び(アドバイス)に行ってみましょうか」

 

 無惨ニキの開発している、士魂号をベースに開発した試験機『(グラッチェ)』は『機体に搭載されたCPUを基盤として極小の電脳異界を構築し、それをコクピットとして運用する』というコンセプトで運用されている。

 ラケル博士にとって、【電脳異界】を作ることは得意であり、隔離させる異界や、世界の情報化はショタおじの電脳異界よりも遥かにスマートにできる。問題は『人の住める異界』には不向きな点だが、長時間居住するのではなく、一時的に滞在するコックピットとしての役目なら問題ないだろう。電脳世界の入りやすさ、処理速度、改変の速さは圧勝するので、まさにCPU向きの電脳異界といえる。 【悪魔が湧きやすい電脳異界】というのも、そもそも魔界の大気のMAGを使用しなければ発生しないはずである。(【四方白い壁で、他悪魔に干渉されない謎空間異界】も作れるらしいし)よし! そうと決めたら早速無惨ニキのところに行ってみますか! レッツゴー!! と彼女はトラポートを行った。*17

 


 ・メシア教腐敗派

「世俗派」とも呼ばれるがこちらの方が通りがよく普及している。人間性はクズでドブカスで最低だが、「天使の言いなりにならず人間性を保持している」異端

 ……まあ実際は自己保身と金、性欲、権力と欲望の事しか考えていないが、天使たちに粛清されずに上手く立ち回っている。それは天使たちに酒や美食や元難民美少女、美少年などを「保護」して「供給」し、欲望を満たしているため。(最近の天使たちは美少年がお気に入りらしい)

 ガイア連合の補給を一部ちょろまかしたりして私腹を肥やしているが、自らの欲望に忠実なためガイア連合に対しては極めて忠実で絶対に逆らわない。(金蔓だからね。欲望に忠実なため行動パターンが読みやすいというのもある)

 

『遥かに信用できそうじゃなくて信用信頼までできるぞ確実に。

私腹を肥やして豪遊するなんてヒトとしての人間性残して上手く誤魔化している時点で達人級だと思うのよ』というアヒャゲイルさんの掲示板の書き込みを見て「面白そうかも」と作ってみましたw

 

「お待たせ皆!偽マッカで世界経済を目茶苦茶にして甘い汁を啜りまーす!」「借金があるから今度はマイナスから金が稼げる!面白くなってきたなぁ!」「お前は……頼れる男になった!ただ天使に従うメシアンでは最後の最後で信用できない。少し見ないうちに成長したじゃないか!査定値アップだ!」とか言い出すハイパーインフレーションのグレシャムみたいな腐敗メシアンは出したかったけど全部コイツに持っていかれるからなぁ……w

 

*1
小ネタ メシア教穏健派の『海外支援』における『中抜き』とは!! 

*2
書いていて「あれ? 中華系メシアンで? 上越市にいて? 兵站担当? こいつ中華戦線の重要人物じゃね?」と思った。

*3
本人曰く『保護』、金に任せて購入したガイア連合のお守りなどで部屋を守護している。天使たちの目をごまかすためにカバラ数秘系の結界も張ってる小賢しさ

*4
「アビャゲイルの投下所」様の主人公様たち

*5
「【カオ転三次】現地民とのぐだぐだ小話」様、ウォレスニキの妻の魚無伽耶と静とは同じ名家の女性(しかもやり手同士)のため、仲は良好だと思われる。

*6
倒した悪魔から大気中に拡散したMAGを吸収して機体内部の未覚醒者に注ぎ込んで覚醒を促すシステムを内蔵した特殊デモニカ。注ぎ込みすぎると中の人がパァン! や悪魔化してしまうため、内部の未覚醒者に的確にMAGを注ぎ込む必要があるが、その部分で開発が苦戦している。

*7
小ネタ 海外の野生の天才たち

*8
真・女神転生ifベース

*9
仲魔2体を合体させる魔術、ラストバイブルIIIから。

*10
「コペルニクス」を装備した場合、合体事故の発生確率は100%となる(必ず合体事故が発生する)。

*11
「ファッション無惨様のごちゃサマライフ」様、魚沼TSV ~転生者バリエーション~ 06

*12
カオ転世界だと恐らく悪魔合体できるのはミナミィの「悪魔しょうかん」ぐらい。こんなん出回ったら大混乱になる。

*13
小ネタ 約束の日終了後のあれこれ&小ネタ 海外支援とターミナル

*14
小ネタのどこかにあったはずだけど発見できず。教えてクレメンス。

*15
なおやらかしはする。具体的にいうと「小ネタ なれる! 悪魔召喚プログラムSE」など

*16
見た目無惨様の何か色々開発記 ロボ編

*17
この後、無茶苦茶怒られてコンパックソフトもコペルニクスソフトも開発禁止にさせられた。

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