──―その後、【キクリヒメ】を仲魔にした凍矢だったが、その過程で【黄泉比良坂】という大異界の監視の役目になったと知り、静の胃にはさらに負担がかかり胃痛に襲われる事になった。
……まあ黒札様がいれば何とかなるでしょう。確か沖縄支部には『対亡者用鉄鋼:呵責鋼』*1が開発されたと聞いたので、試作型呵責刀を購入したほうがよさそうですね……と静は考え込んだ。
だが、それはそれとして、デモニカが育ち切った自らのLVも限界のLV30に至った静は新しい力を求める事になった。それは【仲魔】である。ガイアLV30(DLV100オーバー)は小神レベルの強さであり、ここまでの強さがあれば周囲の名家たちや在野のデビルハンターたちからも一目以上置かれる立場になり、静の立場は揺るぎないものになったと言ってもいいだろう。そして、静はさらに強さを得るために凍矢を後ろ盾にしながら、新しく仲魔にするための交渉を行うことになった。
凍矢から指導を受けた静は仲魔との契約は慎重に行うべき、と学んだため、まずは仲魔候補についての情報を集める事だった。そして、その結果LV30までで自分の役に立つ悪魔、それは国津神【スクナヒコナ】だった。*2
「と、いうわけでデモニカがなくてもガイアLV30に達した私の仲魔ですが……新しく【キクリヒメ】様の伝手を使って国津神【スクナヒコナ(LV30)】*3様を仲魔にすることにしました。彼の知識と国津神としての伝手は私に必要だと思いますので」
農業や酒造、医薬の神であり、国作りの際に多大な知識を与えて補助したという逸話は、農業を重視し凍矢のブレインとなっている静には極めて相性がいい神だといえるだろう。
オカルト農業やオカルト酒作りなどにも多大な力を貸してくれるはずだ。(スクナヒコナ自身もこの国の一部を守ろうとする彼女に対しては好意的である)
そして、何よりスクナヒコナの権威ならばそこらの国津や天津は黙らせる事ができるし、アマテラスの干渉もある程度シャットアウトできるということだ。(スクナヒコナはオオナムチ(大国主神)のアドバイサーであるため、彼に逆らう事は大国主に逆らう事に等しい。大国主の威となればアマテラスですら正面切って挑むとそれだけで内戦になる可能性すらある)ただでさえ日本維持が大変なアマテラスがそんな事はしないだろう。
(さらに……彼は『リカーム』と『トラポート』を使えるのが極めて大きい!! 黒札ではないのに死者蘇生ができる!! どこでも瞬時に移動できる!!)
現地民である静からすれば死者蘇生を行える『リカーム』はまさに神の秘儀である。それを仲魔が使えるとなれば、リカームを餌にさらにほかの名家や権力者や現地民たちを従える事も可能だろう。
さらに新しく仲魔にしたのは【妖鬼トゥルダク(LV28)】*4両手に剣を持ち、鎧を纏っているガイコツの姿である彼は、前線で戦ってもらうための仲魔である。『破魔・物理に強い』彼は天使たちに対して極めて有効的であり、前線要員になれる。さらにスクナヒコナと同じように【リカーム】さらに【ディアラマ】を使えるのも大きい。【リカーム】もそうだが、【ディアラマ】が使えるのなら、現地民ならどんな重症でもほぼ完全に治療できるということだ。これは組織の長としてさらに支持を集めるのに有効である。閻魔ヤマの従者である存在で病魔を操り、同時に罪人に対する刑罰の執行者される。彼はガイコツの見た目とは異なり平気で話す事ができるが、本来地獄で罪人の刑罰の執行者である彼らが悪魔として地上に出てきた理由はこうだった。
「黒札の黒死ネキ?や脳缶ニキ?たちの玩具にされるのはもう嫌だ……。それならこちらで働くほうが万倍マシ!! どうぞよろしくお願いします!!」
「アッハイ」
それは以前黒死ネキが百年スイッチで地獄に閉じ込められた時に色々されてトラウマを負ってしまった獄員の一人らしい。*5地獄にいるよりも外で人間のために戦った方がマシ! という判断とのことだが……残念だが自分も黒死ネキとわりと縁があるんだよなぁ……という顔に凍矢はなる。
まあ、黒死ネキが来た時はずっとCOMPの中に入れていれば問題ないか、と凍矢は判断した。
『地獄で罪人に対して刑罰を与える』というトゥルダクの特性は【黄泉比良坂】から這い出ようとする【ヨモツシコメ】や【ヨモツイグサ】に対して極めて良く、特攻がかかる有効性を持っている。*6
もしかしたら『試作型呵責刀』を持たせて、さらに亡者特攻を強めていくのもアリかもしれない、と静は考えていた。
さらにもう一体の仲魔は、ガチ前線用悪魔として三宝荒神の伝手を頼って【魔神インドラ(LV27)】*7を紹介して仲魔にしてもらう予定である。真1ではLV72なのに真2だとLV28。これは入れなきゃアド損でしょ! と凍矢が静と相談した結果である。静の崇める三宝荒神は日本独自の神ではあるが、源流をたどるとインド神話のガネーシャや夜叉族とされ、インドラとも相性は悪くないだろう。【ジオンガ】や【マハジオンガ】を操り、「雨と雷霆の支配者」とされ悪龍ヴリトラを退治する戦闘神である彼は、バリバリのガチ前線として活躍してくれるはずだ。
インドラと最前線に立たせて、トゥルダクを前線&回復、スクナヒコナでカバー。さらに静が簡易ガイア銃などでフォローすれば同レベルの悪魔は蹴散らせるはずである。
そして特別枠である【精霊フレイミーズ(LV13)】*8だ。この精霊は静の崇める祭神『三宝荒神』の分霊であり、静に捧げられた九重家の尊敬をそのまま『三宝荒神』へと送る事が大きな役割である。性能的にはあまり期待されていないが支援役としての『タルカジャ』『ラクカジャ』は三宝荒神が持たせてくれたので十分役には立つだろう。
……本当は魔神インドラの霊基を乗っ取り、インドラそのままの性能の『魔神三宝荒神』として降臨したかったが、さすがにそんなことをインドラが許すはずもなく、普通に無理だったのは秘密である。
「リカームを使ってみましたが、やはり私に対しても負担が大きいですね……」
現地民でリカームを使えるというのはそれだけで破格の存在である。だが、現地民である彼女の仲魔は呪文を唱えたら簡単にポンと蘇生できるわけではない。【黄泉比良坂】という生と死のはざまの大異界があるここなら、蘇生は比較的行いやすいが、それでも失敗することはあり得るし、儀式も必要だし、100%蘇られる訳でもない。
やはり頼らないことが重要か……と静は心の中で呟いた。
モビルワーカー*9のデータを支部に送り、有効性を認めた農業ニキは、スカベンジャースライムなどと共に十機ほど購入して、結界の張られた越後平野で使用される事になった。豊作の加護が込められたアタッチメントも好評で、使っている農家にも好評だった。そして、これは別の意味合い……田を悪魔から守るという意味でも好評である。悪魔は人に見えないことが多い。それは未覚醒者にとってはなおさら危険である。だがこのモビルワーカーにはデモニカと同じように常人では捉えることができない悪魔を探知できる能力も有している。
つまりこのモビルワーカーは悪魔に対抗する兵器としての性能もあるのだ。鑑定ニキや農業ニキたちと協力して、越後平野の大半を簡易大規模結界で包み込み、農地を確保した凍矢だったが、それでも完全に防ぐことはできずに、外周部は悪魔たちの徘徊が行われることがあった。そこで活躍したのはこのモビルワーカーである。
そして、このモビルワーカーに対して、農業ニキやロボ部は相性のいい中国の妖怪たちの力を付与した追加武装の対悪魔実戦研究などが行われていた。
「裏コード記入! どうだ!?」
「いる!! 何か変なのがいる!! あれが悪魔か!?」
離れた後方で見守っている農業ニキやロボ部の黒札がいる中、モビルワーカーに乗った農民は裏コードを入れて追加武装を組み込んだモビルワーカーを戦闘モードに変化させていた。このモビルワーカー内のコクピットには追加装甲として『谿辺』の力が込められている。これは犬のような姿の獣。皮を敷き物にすれば悪気をよせつけない、という特徴を持ち、それを利用して、モビルワーカーの椅子に敷くことで悪魔からの邪気の遮断を行うことができるのだ。
30mm機関砲二門という銃刀法完全無視の武装に農家たちもびびり散らしていたが、人間には向けない事、対象は悪魔オンリーということでお互い連携はついている。無覚醒者でも何らかの機械で悪魔を探知し、ガイア銃で攻撃して倒す事で覚醒する事例はすでに知られている。修行をしたほうが強くなれるが、半終末でそんなことを言っていられる時間はない。
農業ニキやロボ部が新しく30mm機関砲(改)は簡易ガイア銃ではあるが、モビルワーカーと相性のいい中国の妖怪の一匹である『睚眦』の力が込められている。
龍が生んだ9匹の子供たちである竜生九子の1匹であり、争いなどを好むが、竜生九子でただ一匹、妻子を持っている為、家族を大切にし、情に厚いという一面を持っており、頼られたら必ずそれにこたえてくれるとされ、自分が守ると決めた人たちに害を与える存在だけでなく、ありとあらゆる悪意悪念災厄を食い尽くすという『守護者』と『戦闘者』としての両方の側面を有している。これらは守るべきもののある農家とはかなり相性がいい。農家も自分たちの農地・作物・家族など大事なもの守るために戦うことも辞さないため、『睚眦』の力が込められた弾丸はガキたちを殲滅していく。
「コイツらは人間じゃねえ!! ウチの田を荒らす害獣だ!! くたばりやがれ!!」
通常人間が同じ人間に対して攻撃を仕掛けるのは強くストレスがかかる。そのMAGは当然モビルワーカーの中にいる農民へと流れ込んできていた。
「……!? な、何だこれ!? めっちゃ力が湧いてくるぞ!! これが『覚醒』したという奴か!?」
「わー! モビルワーカーをノリで動かすなー!!」
そう言ったモビルワーカーでの戦闘やそれによる覚醒などを遠くで見ながら、農業ニキは(こういう実戦データもイデニキに送ってみれば役に立ててくれるだろう。ヨシ!)と実戦データを纏めていた。
魚沼市の上空。 地上七、八千メートルから一万メートルくらいまでの高さを誇る高高度であり、雲以外何もない晴れ渡った空。その空には空自に属する戦闘機、アメリカで開発された戦闘機F-15を日本で改造された『F-15J』とF-16を日本で改造した戦闘機『F-2』が僚機となりながら空を飛行していた。中部航空方面隊隷下のこの機体は、最近急遽大規模になってきている佐渡基地に属する機体であり、佐渡の基地でオカルト改装が行われた機体である。呉支部から提供されたデモニカスーツを組み込み、機体自体にもオカルト素材を組み込んだ強化やフロートパネル系の系譜に属する重力制御に加え、【アギ】【ザン】系統のスキルを再現した魔導噴流推進器を組み込んだエンジン部の改修が行われている。*10そのためマッハ2が限界である二機ではあるが、デモニカスーツによる非常に高い耐G効果によりマッハ5まで最高速度が出せるようになっている。彼らは『とある新型無人戦闘機』の護衛兼チェイサーとして指令を受けて魚沼市の上空から沖縄へと飛行する予定である。蒼穹を切り裂きながら優雅に飛行する二機。だが、その機体にいきなり下から急速接近してくる物体の存在がレーダーに感知される。
《下方から高速で小型機接近! これは……小さい……小さすぎる! 人とほぼ同じ大きさしかないぞ!? それなのに戦闘機だと!?》
《IFFは……味方の信号確認! あれが……ガイア連合が開発した新型無人戦闘機!?》
二機のパイロットたちは、お互いの機体の間を高速で斜め上に通り抜けた機体を見て思わず驚愕する。
それは「テニスコートのように広い」と揶揄されるF-15Jなどとは比べ物にならないほど小型の機体だった。その中でも印象的なのは機体に表面に存在するエンブレム「踊る人形」のエンブレムだった。大きさは2mにも満たない小型戦闘機のような機体。しかもその下には大砲のような砲台を抱えながら易々と音速を突破しているのだ。超音速に到達するためには当然ながら膨大な燃料が必要になる。だが、あんな超小型の機体にそんな大量の燃料など積み込めるはずもない。超音速に到達できるほどの小型ドローンなど聞いたこともない。そんなパイロットたちの動揺を他所に、作戦は開始され、その戦闘機に似た機体は速度をさらに加速させ、いとも容易く空を破裂させるような轟音とソニックウェーブをまき散らしながら空を疾駆する。その速度は軽々とマッハ5に到達し、極超音速の世界へと到達する。機体の表面は、空力加熱で非常に高温になり、周辺の空気の分子は解離によりイオン化する超高速の世界を優雅に飛行していくその機体を見ながら、F-15JもF-2も慌てて全力の速度を出していく。
《アフターバーナーオン!!》
《了解!! アフターバーナーオン!!》
F-15JもF-2も最高速度はマッハ2.アフターバーナーを全開にしてもそれが限界である。オカルト改装されて、デモニカスーツで強化されている二機は、その最高速度を超えてマッハ5という同じく極超音速の世界に到達する。ここまでの速度に機体もパイロットも耐えられるとは、ガイア連合の技術恐るべしだが、だが、あの小型戦闘機はそんな最高速度を出している二機を後目にさらにぐんぐんと速度を増していき瞬時に見えなくなり、どんどん距離も広がっていくのがレーダーで確認できる。あの小型戦闘機は、さらに速度を加速させて、軽くマッハ5を超えてさらにマッハ10を超える極超音速へと到達していく。
(あんな小型なのに何であんな速度が出せるんだ!? 物理法則を超越してるぞ!?)
空を破裂すると思わせるほどの轟音とソニックウェーブをまき散らしながら、その小型戦闘機はさらに速度を増していき、二機のレーダーから完全に消えてしまう。襲い掛かるGに必死に耐えながら極超音速で水平高速飛行をしている二機を後目に、その小型戦闘機は沖縄方面へとさらに加速していった。
―――公民館内部。そこには銀髪でミステリアス、怜悧な容貌をした誰も振り返るほどの美女【高峯のあ】が存在していた。彼女は凍矢のシキガミ【破裂の人形】が【変化】スキルで本格的な女性体になった姿である。今までは偽装用に最低限のランクしかなかったので、不自然な部分が多々あったが、高度の変化スキルを組み込んだ事により、今の『彼女』はほぼ人間と変わりない容貌である。そして、彼女が組み込んだのは【変化】スキルだけではなく、もう一つのスキルも組み込まれており、その【実験】も先日行われていた。それは魚沼から沖縄までの高速飛行スキルによる試運転である。
「というわけで……【高速飛行】スキルを組み込んだので、【変化】スキルを利用して戦闘機モードになれば【マッハ10】は軽く出ると思います。魚沼から沖縄まで単純計算で約10分、魚沼から十勝までは約3分で到達できますね」*11
「……マジ?」
「マジです。トラポートを併用すればさらに時間短縮ができます。近くまでトラポートを使って転移→極超音速で飛行すれば日本全土、沖縄から北海道でもどこでも5分以内……最悪10分以内で駆けつけて【メキドラオン爆撃】が可能だと判断します」*12
淡々と言葉を口にする破裂の人形……高峯のあの言葉を聞いて、凍矢は腕を組んでううむ、と唸りを上げる。単騎で高い戦闘力を所有し、変形して極超音速で飛行できる破裂の人形はまさに【即応砲撃部隊】としての極めて高い資質を誇る。単騎で高速で飛行してメギドラオン爆撃で悪魔を吹き飛ばせば大概の悪魔は消し飛ぶし、時間稼ぎのための格闘戦も行えることが可能だ。さらに黒死ネキのスキルカード「偽装」により、完全光学迷彩や遮音(これを利用してソニックウェーブの打ち消しもできる)をしながら日本中のどこでも分単位で飛行して駆けつける事のできる彼女は、我がシキガミながら実はめっちゃ凄いのでは? と凍矢は顎に手を当ててううむ、とうめき声をあげる。(トラポートは状況によって使えない事もあるため、高速飛行スキルをつけた)
無表情ではあるが、褒めて褒めて褒めて、と無言で無表情のオーラを出している『破裂の人形』もし尻尾があればぶんぶんぶん!! と全力で振っているだろう。それに気づいた凍矢は彼女の銀髪をクシャクシャと撫でながら賞賛の声を彼女にかける。
「よーしよしよし。ウチの破裂の人形はめっちゃ凄い。めっちゃ強いし綺麗だしカッコいい! もう最高のシキガミだよ。これからもよろしくね」
よーしよしよし、とまるで犬のように頭を撫でられる破裂の人形だが、彼女からすればそれはまさに最高の至福の瞬間であるらしい。無表情がデフォで透き通るようは白い肌をしたその顔は嬉しさで赤く高揚していた。
「とはいえ、このまま空自の面子を潰したままだとなぁ……。戦闘機にもオカルト対応とか必要だろうし……あれか。試作品のロボ部が開発中のミサイル【魚沼弾】を試験運用で供与してみるか。パピヨンニキも喜ぶだろうし。後は、破魔ネキ*13にもお世話になった分お礼をしないと……その辺お願いできるかなウェストニキ?」
「ファーハハハハ!! そこらへんは吾輩ロボ部に任せるのでぁああある!! ウチのロボ部と呉支部のロボ部*14はそれなりに交流(意見の殴り合い)があるからな!! 普通に機体の依頼ぐらいはできるのでぁああある!!
ふむふむ【クシャトリヤ】か【ストライクフリーダム】【ブラックナイトスコード・カルラ】か……いい趣味をしているな!! よかろう!! ロボ部と田舎ニキの連盟で正式に呉支部に依頼するのでぁあある!! どの機体がいいのかは破魔ネキと呉支部の直接対話でしてもらえばよかろう!!」
ウェストニキはギターを弾きならしながら、破魔ネキの機体の要望を確認していく。とはいえ、人工筋肉やオカルトロボをメインとする魚沼支部よりも、超科学でバルキリーやガンダムなどを作り上げた『呉支部』に話を持っていって機体の製作依頼をした方がいいと判断したのだ。後は破魔ネキと呉支部が直接やり取りをすればいいだろう、とウェストニキも凍矢も判断した。
「しかし呉支部め……原作再現に拘ってクシャトリヤあたりのファンネルを脳波コントロールとかガチサイコミュにしそうでござるな……。そのぐらいはオカルト技術でよくね? パイロットの負担を軽減するために簡易式神技術あたりでよくね? と吾輩は思うのだが……まあよかろう。ともあれ、後は破魔ネキと呉支部にお任せであぁぁぁる!!」