「はい……はい……その件に関してはそちらに一任と言うことで……はい。地元はこちらで押さえますので……よろしくお願いいたします」
「ガイア連合建築部の受付ですか? はい、こういう結界構築の提案があるのですが……はい、よろしければそちらでブラッシュアップしていただけましたら……。はい、よろしく検討をお願いいたします」
自分と凍矢の拠点である公民館内部。その仕事室内部では静が山のような書類に筆を走らせながら、COMPであちこちに電話をかけてアポイントメントや工事の許可、工事作業の確認などを行っていた。それはただの工事ではない。自分の故郷を守るために凍矢が力を入れていたのは、まず『結界作成』である。強力な結界さえあれば悪魔の侵入を防止できるし、終末の時の大災害からも地域一帯を安全にすることができるだろう。そのための工事の手配などを静が代理となっておこなっていたのだ。
本来ならばこの辺も凍矢がガイア連合部の建築部や結界部と協力して行うべきなのだろうが、いかんぜん彼自身も忙しいため、その辺の詳しい事は腹心でブレインとも言える静に丸投げされたのだ。
とはいうものの、オカルト技術をほとんど失った名家の静からすれば、ガイア連合の超絶的なオカルト建築や強力な結界作成など見るだけで白目を剥きそうなものをどうこうできるはずもない。そんな風にバリバリ仕事をこなしている静の元にさらに新しい連絡が入ってくる。
「え? そこの土地の立ち退きを拒否している? 分かりました。『説得』と『賠償金』で何としても動かしなさい。私自身は『偶然にも』『不幸』が起きてその土地の所有者が『失踪』でもいいのですが……凍矢様は嫌がりそうですからね」
結界作成のための建物や上下水道、霊道を使用した都市を覆う大規模結界作成の際に邪魔になる人間たちの速やかな立ち退きと補償。これが静のやっているメインな仕事である。住み慣れた土地と建物をいきなり工事するから立ち退いてくれ、と言われてはいそうですか、と言う人間は少ない。
そういう人たちに『説得』と膨大な『賠償金』、何ならよい仕事(九重家絡みの)を供給して飴と鞭でガイア連合建築部の仕事を非常にスムーズにいかせる。もしそれでも立ち退かないようなら『さらなる説得』『不幸な事故』『失踪』すらも起こすことすらある。
(まあ運よく『不幸な事故』は今までほとんどありませんが。私自身が出向けば一も二もなく『納得』してくれますし)
黒札から見ればそれなりでしかないが、ガイアレベル30の人間というのはもはや超人に等しい。そんな人間がいきなり未覚醒者の目の前に出てくればどうなるか。言うまでもない。メシアンたちも未覚醒黒札たちにいきなり天使たちを見せて言いなりにさせるらしいが、それを静も行っているのである。それはそれとして、静は机の上の魚沼市の地図を見ながら、ううむ、と唸り声を上げる。
「しかし凍矢様の提案されたこの『泡状結界』は凄まじいですね……。ジュネスの地脈結界をベースにして多種多様な結界で街を覆うとは……一つの結界が破られても他の属性の結界が無事なら何とかなりますしね」
静と一緒に彼女が新しく仲魔にした「国津神スクナヒコナ」も魚沼市の地図……『泡状結界』の予定図を覗き込んでいる。スクナヒコナは元々大国主と共にこの国を作り上げたアドバイサーとしての側面が強い。その点でも静とは相性抜群の仲魔であったといえよう。多種多様な結界な張り巡らす予定の『泡状結界』を見ながらスクナヒコナは思わず呆れた声を上げる。
「ワシからすれば、東洋西洋その他色々ごちゃまぜな多種多様な結界が張られていて、それらがお互いに悪さをせずにきちんと機能している方が驚きじゃがのう……。どこからこれだけの技術を復活させたのだか……」
オカルトはお互い相性の悪い術式があるのは珍しくない。例えば一神教の術式と他の多神教の術式と相性が悪く水と油のようなものである。それら相性が悪い術式を全てごちゃまぜにしてお互い悪さをしないようにきちんと結界を発動させるなど、スクナヒコナからしてもガイア連合の建築部(結界作成部)は神業でしかない。そんな風にスクナヒコナが関心している中、静のCOMPにガイア連合結界作成部からTELがかかってくる。
「はい、はい……。私とスクナヒコナ神が提案した『道祖神結界』もこちらで試験的に運用されると……。分かりました。よろしくお願いします。はい、地脈式ではなく、祈祷式でお願いいたします」
静とスクナヒコナが提案した結界、それは『道祖神を利用した結界』である。道祖神は、村境、峠などの路傍にあって外来の疫病や悪霊を防ぐ守り神として役割を持つ神。それを招来し、庚申塔や『お地蔵様』として石碑や石仏を設置し、魚沼内に祭って結界を構築する。こういう道祖神は「祭ってはいけない」という逸話もあるが、静は逆に魚沼の一般人たちにこう行った道祖神を祭るように奨励している。これは地脈がなくなっても、一般人たちの祈りのMAGによって結界を張る事で万が一地脈が途切れても結界を維持させる役割である。
この技術は元々九重家秘蔵の術式であり、それを静とスクナヒコナが纏めあげてガイア連合建築部に提出したものである。利点としては『地脈が途絶えても結界を維持できる』『山のように存在している道祖神を利用できる』欠点としては『人の祈りのMAGが原動力となっているので不安定になりがち』といったところである。
九重家にこの術式が存在していたのは、元々。甲信越地方には道祖神が多いという事で、この多い道祖神を有効活用しようとしたのだろう。……もっとも、メシア教の根切りによってその術式もほとんど失われ、静も理論上でしか知らない。それならガイア連合に提出して少しでも役立ててもらったほうがマシ、とその素案をガイア連合に提出し、すぐさま戻ってきた超強化された結界術式を見て静も思わず白目を向きそうになってしまう。先ほど提出したばかりなのにここまで超強化されるとはやはり驚くしかないガイア連合の技術力である。
ともかく、『提案者として魚沼市で試験運用する』ということで話は決まり、今や魚沼市はあちこちでガイア連合建築部が多種多様な結界を展開するために結界基礎の工事に取り掛かっている最中である。
「いくらガイア連合でもこれだけの短期間でブラッシュアップできるはずもないですから……恐らくほかの名家にも『道祖神を利用した結界』が伝わっていて、それがガイア連合を取り込んだんでしょうね。まあそれはどうでもいいことです。問題は本当に結界が発動するかですね。ガイア連合ですから問題ないとは思いますが……」
他の名家なら『この秘術はわが名家の門外不出の術式!!』と考えることだが、静はあまりそんな考えはない。そもそも根切りされた名家の術式などガイア連合からしてみたらカスのようなものだと散々ガイア連合のオカルト超技術を見てきた静は知り抜いているのである。(実際提出してからすぐに超強化された案が帰ってきたし)ともあれ、静とスクナヒコナは魚沼市の泡状結界の予定図を見ながら結界の確認に入る。
「『ジュネスからの地脈結界』をベースにして、『道祖神を配置しての防御結界』『霊道を魔方陣にしての地脈結界』『上下水道を利用しての地脈結界』『聖域鉄杭を打ち込んでの結界』『キクリ米の苗による結界』『ルーン文字による結界』などなど……。こうして様々な結界を組み合わせる事によって『泡状結界』を張り巡らせるのが凍矢様のお考えです。他にも万が一地脈結界が破られそうな時に対して『大型MAGバッテリーとマニ車結界展開装置』の設置、『大気中のMAGを吸収して動力源にする簡易結界マニ車結界展開装置』の設置と。ガチガチのオカルト防備っぷりですね……」
他にも地脈を利用しない結界として『河川工事を行う事で魔法陣化させる』提案も出たが、流石にマンパワー不足で取りやめになった経緯がある。ガイア連合のトップの技術を流用して作り上げられたジュネスの地脈結界は非常に強力ではあるが、凍矢はさらに多種多様な属性を持った結界、地脈を原動力にしない結界を展開する事でどんな事があっても故郷は守護する気満々らしい。
「はっきり言ってこれら全ての結界が破綻するのならもうどうしようもありませんね。お手上げ状態です」
机の上に乗りながら地図をふむふむ、と確認していくスクナヒコナは顎に手を当てながら考え込む。
「しかし、道祖神を利用した結界となったらサルタヒコがハッスルしそうじゃのぅ……。サルタヒコは岐の神と同神とされたり、神仏混合で、地蔵信仰とも習合しとるしのぅ……。こういう形で信仰を得られるのならサルタヒコも大喜びじゃろうから少し話を振ってみるか……」
「道祖神結界がうまくいけば霊道結界にも転用できそうですしね。霊道にも二重結界など張れれば防御力も高まりそうですし。……と、言う訳で話を変えます。それは『凍矢様の借金軽減化……経済健全化対策』です。スクナヒコナ様もいいアイデアがあったらよろしくお願いします」
静はホワイトボードにきゅきゅっとマジックベンでいくつかの策を書き込んでいく。
「まずは凍矢様の仲魔である『キクリヒメ』の力を借りて新開発された『キクリ米の特許料(パテント)』ですね。キクリ米を新潟で広く普及させてその分のパテントを各農家から徴収します。……何か年貢みたいだなこれ、と私自身も思いましたが……。霊的契約でその品種の種子や苗の販売などを独占できる権利を獲得しておけばこれはキクリ米が普及していけばいくほど大きな儲けになるはずです。さらには魚沼市の特性を生かした『氷結弾』……『魚沼弾』の大量生産と輸出。『魚沼弾』は弾丸だけでなく、ミサイルも製造可能なので、戦闘機を所有しているところに売り込むことができるでしょう」
静はさらにホワイトボードに書き込みながら収入源の確保のために案を纏めていく。
「後は凍矢様が作成される『ブフストーン』『マハブフストーン』『アクアストーン』『氷冷結界石』*1『生活魔法カード』などの生産。ここらへんはやはりガイア連合沖縄支部や九州地方などに輸出するのが一番でしょう。特に『アクアストーン』はどこでも綺麗な水がないと生きられないですから、特に外国ではどこでも喉から手が出るほど欲しがる……はずです。ここらへんの製造は九重家やジュネスに登録しているデビルサマナーたち、学園たちの生徒でもできますので、作った分の給料から天引きすればいいでしょう」
静の九重家では、戦えない戦闘班や黒騎士部隊以外の人材でも、不浄や災難を除去する神である三宝荒神の力を借りて低レベルの結界を張る『結界作成班』、氷結弾や簡易ガイア銃、ブフストーンや生活魔法カード、ほかに様々な低レベルの武具や銃弾などを作れる『制作班』などは存在する。
一人の黒札だけに頼っていては生産量は知れているが、九重家のマンパワーを使って製作するのなら話は別である。冬に外に出して「冬の概念」のMAGを蓄積した『MAG吸収機』を使用する事によって、その概念を弾丸に付与して『氷結弾』が作られていくのだ。そうした九重家などで作成されたオカルト武具の代金も一部黒札である凍矢の懐へと入っていくのだ。
「さらにはキクリ米を利用し「黄泉比良坂」に植えて黄泉の瘴気を蓄積している『ノロイ米』、そしてノロイ米を酒造して作られた『ノロイ酒』ですね。呪殺効果のあるこれらは、海外に出没している天使たちに極めて効率的だと思いますので、海外への輸出も始まっています。これが軌道に乗れば大きな収入源になるはずです。
現在では錬金術を使ってさらに「ノロイ酒」を蒸留して『焼夷弾』『ナパーム弾』*2も試作しています。これを使えば『ノロイ酒から出来た燃料を使った火炎放射器』も対天使には有効そうですね」
ホワイトボードに書かれた色々な案を見ながら、机の上で胡坐をかいて腕を組んでいたスクナヒコナは、うむ、と一つ頷く。
「何だか『汚物は消毒だー! ヒャッハー!』とかしてそうじゃのぅ……。(こなみ)まあともあれ、呪殺系のアイテムは海外で飛ぶように売れるじゃろうから、これも大きな収入源になりそうじゃな。基本的にはこれでよかろう。……『そもそも借金するな』と言う根本的な問題に踏み込まんのか? 根本的な問題に向き合わないと対処療法にしかならんと思うが……」
ジト目で静を見上げるスクナヒコナに対して、静は冷や汗をかきながら思わずスクナヒコナから目をそらす。
「く、黒札様は私たちには考えも及ばぬ方。きっと私などには及びもつかぬ深いお考えがあるに違いありません」*3
そんな静に対して、スクナヒコナはジト目になりながら彼女に追いうちをかけていく。
「……お主、このまま黒札が借金バンバンしてくれたままの方がいいと考えておらぬか? 黒札が赤字垂れ流しで装備バンバン垂れ流してくれれば現地民たちの戦力強化になる。その供給源をキープしたままなら、他名家や現地のデビルバスターやデビルサマナーたちに対して大きなアドバンテージが取れる。なおかつ黒札もブレインであるお主に依存して切り離せなくなる共存共栄状態になる。お主からしてみれば笑いが止まらない状態じゃな」
「ノ、ノーコメントで。ノーコメントでお願いします……」
ギギギ、と静は冷や汗をかきながら、さらに限界まで顔を背けていく。実際、静が一番恐れているのは凍矢が「やっぱり山梨支部に帰るわ、じゃあの」される事である。静にとって一番ダメージが大きい。
だが、借金まで抱えてこの土地を守るのであればその可能性は少ない。ここで「私たちは使えますよ、便利ですよ」アピールをしてコバンザメのように張り付けば、そうそう見捨てられないはず……である。
「まあ良かろう。ワシも大国主と共に作り上げたこの国が外つ国の悪魔どもに蹂躙されるのは我慢ならん。喜んでお主の力になろう。立場的にも共感できるしな。」
スクナヒコナはおちょこに注がれた、静から送られた霊酒『大吟醸九段仕込み』*4に口をつけながら、同じく送られた『すいせんの花』*5を愛で、ご機嫌になりながら静に対して言葉を放った。このように、静は霊酒を使用して入ったばかりの仲魔の忠誠度をマックスしていたのである。
──―長岡市。魚沼市の近くにあり、新潟県第二の大都市とも言える場所であり、中越地方の中心都市。
その都市には、最近下北沢に住んでいた黒札たちのバンド『結束バンド』の皆が避難してきており、彼女たちはここの都市を拠点を定めて都市自体のオカルト結界、温暖結界の構築などを行っていた。
都市全体を覆う地脈結界の構築のための邪魔になる現地民の移動も、強い影響力を持っている九重家が行っていた。だが、人が多い大都市ならば、当然の如く穏健派やそれに混じった過激派たちも行動を起こしてくる。
そして、新潟市で天使パワーが暗躍し、危うくミカエルが降臨しかけた事件*6をきっかけに、長岡市でも天使降臨を行おうと陰ながら行動を始めたのである。
鑑定ニキの手によって倒された……正確には自害した天使パワーの霊体の一部を密やかに回収。それを媒介として再び彼を再召喚。そして『大天使ミカエル』に育て上げるための計画だ。そして、そんなことを九重家が許すはずはなかった。天使が潜んでいる廃ビルに、静たち九重家の戦闘班や黒騎士部隊は奇襲をかけ次々に突撃していった。
「食らえぇええ!! 天使は消毒だぁあああ!! ヒャッハー!!」
幸い、低レベルの天使が相手とあって、新装備の試験運用としては最適な戦場である。戦闘班の一人は新開発されたノロイ酒を蒸留させて液体燃料へと変えて、それを改造した民生用火炎放射器に詰め込んで『火炎放射器』として使用する。黄泉の力が籠った『呪炎』とも言える炎が天使エンジェルへと襲い掛かり、天使を火だるまへと変える。*7
「ぎゃああああ!!」
呪殺系に弱い天使たちはその呪炎に対しても極めて弱いらしく、『炎上』*8で火だるまになった天使エンジェルはのたうち回りながら地面を転げまわる。ほかの戦闘班たちは天使に漆黒の黄泉の瘴気が籠った『ノロイ米』を豆のようにぶつけていったり、『ノロイ酒』を水鉄砲に入れて天使たちに噴出させていくが、それも効果的らしく、ノロイ米やノロイ酒をぶつけられ、天使たちは絶叫しながら次々へと死亡していった。
そして、その先陣を切っている『バッシュ・ザ・ブラックナイト』のデモニカを纏った静や黒騎士部隊のデモニカ『ベルリン』を見ながら、天使たちは忌々しげに叫ぶ。
「その黒い機体……『
「『
うるさい、害獣の中でも質の悪い奴らが寝言をほざくな。さっさとくたばれ、と静率いる戦闘班と黒騎士部隊によって天使たちとメシアンたちは次々と殲滅されていった。
―――とある場所、極秘の地下。そこに縄で縛られたメシアンたちは連れてこられていた。
メシアンたちだけでなく、手足と羽をもぎ取られた天使エンジェルですら連れてこられていたのだ。もちろんそれらのエンジェルは暴れられるのも困るので、『石化』や『束縛』などで動きを封じられているのだ。
(恐らく、石化や束縛などをした後、四肢を切り落とされたのだろう)
ともあれ、そんなメシアンたちに対して、バイオリンのような奇妙な武装を持った全身漆黒の服装で身を固めた黒髪ロングの少女「ヴィルトゥオーサ」がにこり、と出迎える。
「ようこそ、『暗部』へですわ。ああ、別にお互い自己紹介は必要ありませんですよね?さあ、色々情報を吐いていただきましょうか?簡単に吐いてくれたほうがお互い楽なのですが……。」
実際は、ヴィルトゥオーサと契約を結んだソロモン72柱『アンドロマリウス』の力で魂から情報を読み取れるのだが、それも彼女の力量からすれば酷く手間暇がかかる。カス子ネキのように超絶的力量を持った専門の交霊術士ではないのだから当然といえば当然だが。
ともあれ、ヴィルトゥオーサは、対覚醒者用の拘束具、束縛で拘束されているメシアンに、『蟲毒皿』をもって近づいていく。
「ひ、ヒィイイ! そんな物を! そんな穢らわしい物を近付けるなぁ!」
「たかが皿一枚じゃありませんか。これぐらいで何を怖がるのかメシアンは理解できませんわね……。」
彼女や普通の霊能者からすれば、何故メシアンたちがそこまで蠱毒皿を忌み嫌うかさっぱらは理解できない。椅子に縛られたメシアンの太ももの上にぽん、と蠱毒皿が置かれた瞬間、さらに彼は絶叫して必死で暴れようとする。さらに思わず顔を横にして床に吐瀉するが、ヴィルトゥオーサは気にした様子もないが、それでも情報を吐く気配のないメシアンに対して、さらに他の皿に盛られた黒いコメを差し出していく。
「ところで、吐いた分お腹が減っていません事? ちょうどいい「漆黒米」*13が手に入ったんですの。食べていきません事?」
「ち、違うだろそれ!! 食い物じゃないだろ!!」
彼女は面倒くさげに漆黒米……もといノロイ米を一掴みするとそのまま生のままメシアンの口にノロイ米を叩き込み、口をガムテープで塞ぐ。新開発のノロイ米の威力は十分対天使戦でも通用するが、これを試しに体内に入れたらどうなるか?という人体実験であり拷問でもある。ノロイ米を口にしたメシアンは拘束具が壊れるか自分の手足が千切れるぐらい椅子に束縛されたまま必死でのたうち回り、くぐもった悲鳴を上げる。
「ぐぼぼぼ!! ぼぼあがああ!!」
まるでスイカが破裂するように彼の頭部は爆発して弾け飛ぶ。恐らく脳に入れられた天使の羽根がノロイ米の呪詛と反作用を起こし、弾け飛んだ余波で頭部が破壊されておまけに内臓も吹き飛んだのだろう。それを見ながら、ふむ、と彼女はノロイ米の効果を確認していた。
「……ふむ、先ほどの戦いでも確認できましたが「ノロイ米」の威力は十分なようですね。そちらはどうですか?」
ハブ酒……ならぬ『ノロイ酒の天使漬け』である。ノロイ米から精製された呪怨の力を秘めたノロイ酒。これが本当に天使に有効か試すために天使を捕えてノロイ酒に浸してみたのである。天使は必死で逃れようとするが、彼らからしたら強酸に浸らせたような物である。
手足を失った天使はノロイ酒によってじゅうじゅうと少しずつ体が溶かされ、形が保てなくなりつつある。体が溶ける恐怖と苦痛に悶え苦しみながら、エンジェルは必死に叫ぶ。
「呪いあれ! 我らが神に逆らう神敵に呪いあれ!呪い……。」
面倒くさそうにヴィルトゥオーサは、ノロイ酒の入った瓶を手に取ると、それを天使の口へと突っ込んでいく。それに耐えられなくなった天使は完全にドロドロに溶けてノロイ酒と一体化していく。それを見ながらヴィルトゥオーサは天使の完全に溶けた時間を計測しながらノロイ酒の効果などを確認していく。
だが、そんな中、彼女の仲魔であるダーク悪魔『妖獣ガルム』がそのノロイ酒の入れ物へと飛びついていくと、天使とノロイ酒の混じった融合物を夢中で飲んでいく。
「ダーク系の仲魔を入れていると魂がダークに偏る」
人肉処理や死体処理に妖獣系の悪魔は極めて便利なのだが、ただでさえ暗部なんてやっているのに、ダーク系の仲魔を入れたら魂がダークに偏りかねない。なのでダークサマナーに伝わっている『ダーク・マン』ソフト*14を使って『妖獣ガルム』のみ仲魔にしている。後はできるかぎりダーク系仲魔は入れないのが彼女の信条である。
『ウマイ!ウマイ!!コレウマイ!!天使ノ怨念と呪が混ジッタ酒ウマイ!!』
べちゃべちゃゴクゴクと天使が溶けたノロイ酒をガルムは夢中で飲んでいる。よほど気に入ったのか忠誠度すら上がっている状態である。天使の絶望と怨念、そして黄泉の瘴気に満ちたノロイ酒は同じく冥府系列のガルムには相性が良かったらしい。ある意味マッスルドリンコみたいなものか、と彼女はそれを見て判断する。
(んー、まあ気に入っているようですし……いいか!)