──―関東圏に存在する『埃及特区』*1
脳缶ニキ*2がファラオとして支配するその土地は、彼が作り出した大ピラミッドやスフィンクスにより霊的にガチガチに防衛されている地域でもある。デュエルアカデミアがエジプトから逃げてきた【ハトホル】や【フェニックス】そしてクレオパトラの転生者であり、脳缶ニキの妻でもある【マナ】が統治しているここは、まさに盤石ともいえる陣地だった。
エジプトの影響が気候にも及んでいるのか、埃及特区地域は日本であるのに乾燥した砂漠気候と地中海気候へと変貌しつつあるが、それでも魔界に落ちたほかの場所よりも遥かに人類の生存に適した場所である。
そして、その気候で平穏に暮らすためには、大量の水が必要である。その水を供給しているのは、凍矢が作り出したアクエスストーンも供給源になっているが、かつて凍矢たちと戦ったサキエルの首……眼球や口から大量の水が溢れ出し、埃及特区の供給水へとなっている。
そして、この地を治める王権を所有するファラオ……【脳缶ニキ】こと【高館絶徒】は自らの豪華な家の中で、自分の娘である【高館ヒナ】や母親である【女神 ハトホル】や【マナ】を囲んで食事の支度を行っていた。
「よーし! 今日は豪勢にいきますか!! みんなで美味しい物を食べましょう!!」
「「「わ──い!! (ですわ~!)」」」
「うんうん、……うん? ちょっと待て? 何か変なのが混ざっているが?」
脳缶ニキのその言葉に大はしゃぎする高館ヒナやマナ、そしてそれを微笑ましげに見守るハトホルだったが、自分たちの家族の中に一人だけ異質な存在がいるのにハトホルは突っ込んだ。彼女たちの中に混じってワクワクとした表情をしながら食事を待っているのは、白い肌に銀髪、赤い瞳とアルビノを思わせる美しい容貌を持った令嬢然とした少女【碧神ハルナ】。つまり凍矢と破裂の人形との間に生まれた娘である。
凍矢の娘である彼女は、凍矢の代理人としてキクリ米を始めとした魚沼シェルターから生み出された食料を各地シェルターに運んだり、他シェルターからの食料を魚沼シェルターへと運び込む食料供給や交易などの交渉、他シェルターの要請に応じて交流のあるシェルター防衛や湧きつぶしと言った傭兵稼業、他シェルターの農業や霊的食糧生産のアドバイスや情報共有、霊的食糧の苗や種の支援、気に入っている店の個人的な食糧支援など多岐に渡って精力的に活動を行っている。
そんな彼女のモットーは『EAT or DIE』つまり『食うか死か』である。
これは冗談でもなんでもなく、以前多神連合のクソマズ酒を一気飲みしてガチで【死亡】したのが配信でしっかり残っているのがある意味伝説と化しているからである。(ちなみに彼女の仲魔であるクズリュウ【キュー】が必死で「道返球」で何とか生き返らせて凍矢からガチ説教を食らっている)*3今回も埃及特区に対して食料や氷冷結界の石などを魚沼シェルターからもってきた彼女は、その足でしれっと脳缶ニキたちの家庭に紛れ込んでいたのである。だが、それに対して脳缶ニキは、笑って手を振りながら彼女を受け入れる。
「ああ、別に問題ないですよ。ボクの知り合いの娘さんですから。お代はきちんと田舎ニキに回しますし。よっし! それじゃみんなで【フード 神戸黒毛和牛鬼】の最高級ステーキといきましょうか!!」
わーい!! とハルナやハトホルたちもその脳缶ニキの言葉に両手を挙げて歓迎し、【フード 神戸黒毛和牛鬼】の最高級ステーキと【バプテスマ】から作られたワイン【喜劇】*4をみんなで仲良く美味しくいただく形になった。……なお、ハルナの食事金は全て田舎ニキに請求が行く模様。
「ふう! お腹いっぱいですわ!! こちらの埃及特区の高級ステーキ! 高級ワイン! 各種エジプト料理!! 福島支部の仙桃! カツオ! ヤナギガレイの天ぷら! 煮魚やサンマのポーポー焼き!! 恐山支部の十和田バラ焼き! 津軽ラーメン! 大間マグロ! ウニ!! その他山のような各支部の名産料理!! これだから各シェルター回りはやめられませんわ~!! *5 ……わたくしが生まれる前の終末以前には日本のみならず世界各地で山のような美食が存在していたのが失われたとか、本当にメシアンはお排泄物ですわ~」
食後のワイン【喜劇】を優雅に口にしながらハルナはそう口にする。ハルナが各シェルターを精力的に回っているのは、こうした各シェルター名産の食べ歩きのためもある。彼女のアカウント「美食研究会」のアカウントはそうした各シェルターの名産紹介を行っており「彼女に認められたらその店は流行する」というジンクスまであるほどである。(なおクソマズ店)黒札の直系でもあり、そういった趣味もあって各シェルターを回る彼女は必然的に自衛のための強さもあり現在はガイアLV80を誇る十分一線級の戦力でもある。(おいしい物を作るシェルターの防衛任務・傭兵稼業なども起こっている)
そんな人の家のソファーで堂々とくつろぎながらワインを傾けているハルナを見ながら、脳缶ニキの娘であるヒナは、全くもうこの子は……。という視線で見つめるが、ヒナからすればハルナは妹のようなものであり、多少の事は可愛いものだ、と慣れているという事もある。ともあれ、食後にワインを傾けながらハルナは脳缶ニキと対面しながら平然と会話を行う。
「そうそう。脳缶ニキ様は、噂で聞いた魔界深層の伝説の魚【サーモン72柱】*6の入手経路がお聞きしましたわ。ぜひその伝説の鮭を購入できましたらと!! 一番強いコネを持ってるのは脳缶ニキ様なので……」
「いいよ!! でもそれなりのお値段するけど……大丈夫?」
「大丈夫ですわ! こう見えてそれなりのマッカは持っておりますから!!」
お互い割と相性が良いらしく、お互い和やかに談笑している脳缶ニキとハルナを見ながら、(何であの凍矢様から割とネジが外れてるこの子が生まれたかな……。ん? 割と凍矢様もネジが外れてるような気が……?)とそんな風に思っているヒナを他所に、【サーモン72柱】の鮭を手に入れたハルナは、それを自前の収納ボックスに入れるとさっそく大はしゃぎする。
「かの霊視ニキ様ですら絶賛した最高の鮭!! 最高の食材に必要なものは最高の料理人!! ですがどうするべきか……。山梨支部の食堂に持ち込むべきでしょうか……。*7」
そんな風にうんうん悩んでいるハルナに対して、ヒナはふと思い出した事を口にする。
「ああ、そういえば埃及特区に食料調達のために『給食ネキ』様*8が来ているみたいよ。彼女だったらその鮭も最高の調理してくれるんじゃないかしら?」
「!? これはまさに大チャンス!! この機会を逃すわけにはいきませんわー!!」
そのヒナの言葉に対して、まるで疾風のようにハルナは飛び出していく。それに対して、ヒナも一人にさせておいたら何をするかわからない、と思い、やれやれ、と思いながらハルナを追いかけることにした。
そして、ヒナの案内もあって、埃及特区で様々な食材を購入している給食ネキに対して、ハルナは物凄い勢いでダッシュしながら、そのままの勢いでズザー!! と華麗にスライディング土下座を決めて給食ネキに懇願する。
「給食ネキ様!! ぜひこの究極の鮭を……究極の料理に!! お願いいたしますわー!!」
出会った瞬間いきなりズザー!! とスライディング土下座をかましてくるハルナに対してえぇ……とドン引きしながらも彼女はハルナの言葉を受け入れる。原作と立場が全く異なり、黒札である給食ネキに対して黒札の子であるハルナが彼女を好き勝手に拉致するやらなどそういったことはできない。だから給食ネキに対しては土下座して頼み込むしかないのだ。
「いやまあいいんだけど……これ魔界深層産だから未覚醒者とかレベルの低い人間が食べたらまずい事になるんだけど大丈夫なの?」
「ふっ! 伊達に鍛えてはおりませんわ!! その程度でどうこうできるほどヤワではありませんから!!」
ハルナは凍矢の代理人として他シェルターの防衛並びに傭兵稼業なども行っている。そのため、彼女がガイアLV80にも達している。(ヒナと同じようにLV100まで到達できる)これだけのレベルと豊富な戦闘経験があれば、そうそう他の悪魔たちに遅れは取らない。サーモン72柱を食べたところでどうこうなるほどヤワでもない。ともあれ、だからと言って今ここですぐに食事を作れ、というのは器具がないのでさすがに無理がある。料理を作る日を決めながら、ハルナとヒナは(護衛も兼ねて)給食ネキの買い物に付き合う。
給食ネキは、様々な食材を購入したついでに、そら豆を潰して香辛料と混ぜ、揚げたコロッケのような『ターメイヤ』を購入して、それをハルナに食べさせる。わーい、とまるでペットのようににこやかにぱくっとターメイヤを口にしたが、それを食べた瞬間、彼女は眉を顰める。
「うん……うん? ……ヒナ様、脳缶ニキ様に連絡を取れますか?」
屋台で売られていた食事を口にした瞬間、ハルナは眉を顰めながらヒナに対して脳缶ニキに連絡が取れないか? と問いかける。いきなりのそのハルナの言葉に、ヒナは少し困惑しながらも大人しくハルナの言葉に従う。
「? 父さんに? まあ呼べばすぐ来ると思うけど……」
「ヤッホーヒナちゃん呼んだー? おや給食ネキも。何かあったの?」
「脳缶ニキ様。この食事ですが……『マナ』が混ぜ込まれていますわ。以前聖者ニキ様に作っていただいた「マナ」ではなく、甘ったるさしかないドブクズな腐った泥のような味……天使の脳*9みたいな霊的な味がしますわね……。これは恐らく……」
ハルナはちらりと屋台の人たちを見る。彼らの首には十字架ではなく太陽から手が伸びたような独自の意匠がついたネックレスが飾られていた。それはすなわち『太陽神アテン』のシンボルである。太陽神アテン。それはエジプトの神霊の一柱であり日輪を神格化した神である。これといった逸話もない地味な神であり、太陽神ラーの一つの側面として考えられていた。元々信者がいなかった上にエジプト脱出の際に信者を見捨てたので、もはやほとんど信仰されていない神でもある。*10
そして、この特徴としてはかつて『アマルナ革命』の際に多神教であった他のエジプト神を弾圧、他の神々の祭祀を停止し、偶像を破壊するなどを行い、拝一神教、単一神教としての先駆けになった存在でもある。そして、一説ではこのアテンこそが唯一神の起源そのものと言われており『唯一神起源説』すら存在するほどである。
「ともあれ……魔神【マルバス】召喚。この食事に含まれた成分と治療薬の作成を。」
脳缶ニキが召喚したのは、序列5番の地獄の大総裁。36の悪魔の軍団を率いる悪魔【マルバス】
マルバスは隠されたものや秘密に関する質問に真摯に答えてくれ、また、疫病をもたらす力とそれを治す力を持つとされている。脳缶ニキはこれを食べたらどうなるか、という結果と治療薬を作り出そうというのだ。召喚に応じ、強壮なライオンの姿で現れたマルバスはその「ターメイヤ」を見て瞬時にそれを見抜く。
『ふむ……これは、少し位なら問題はないが、食べ続けていると洗脳効果に加えて【口から無数のぶよやアブを放つ】【腫れ物を生じさせる】に加えて、家畜に食べさせると【家畜に疫病を流行らせる】という効果があるな。治療薬としては【歓喜】を飲ませるだけでいいだろう。それで中和できるはずだ。』
ハルナの『ターメイヤ』を見たマルバスは、『隠されたものや秘密に関する』権能で瞬時に内部に混ぜられている霊的に悪質なマナを探知し、それを食べ続けた結果起こる自体、そしてそれに関する対策を瞬時に出す。
「太陽神アテン……唯一神起源説……マナ……ぶよやアブ……腫物……疫病となるともしかして……」
脳缶ニキは得た情報を考えて瞬時にとある考えに思いつく。つまり、太陽神アテンは唯一神の起源説もあり、極めて唯一神に近い存在でもあるが、現在は信仰はほとんど存在しない。
さらにアテンはエジプト神であるため、その権能を使用すれば、脳缶ニキが作り出した『1/1スケール・デンデラ【ハトホル】神殿』を起点に広範囲に張り巡らされているハトホル神をメインとした結界をすり抜けて「とある戦力」を結界内に招き入れる事も可能だろう。すなわち……メシア教徒、『メシアン』たちである。穏健派メシアンたちは黒札たちを引き入れるために【一時的棄教】すら行う事ができる。一時的棄教を行ったメシアンたちが【太陽神アテン信者】となって結界のセキュリティホールをついて結界内に入り込む。そしてその目的としてはアテンは【太陽神アテンの復権】【唯一神への昇格】【埃及特区の支配】、メシアンは【アテンを唯一神にへと変化させる】【埃及特区を支配しメシアン拠点地へと変える】そのため、恐らくお互いに手を組んで活動しているのだろう。そう判断した脳缶ニキの判断は早かった。
「なるほど。黒幕は『太陽神アテン』ですか……。『アマルナ革命』の逸話を使って埃及特区の結界のセキュリティホールをついて棄教してアテン信者になったメシアンどもを入れてくれた、と。やってくれますねぇ!!」
邪悪な笑みを浮かべた彼は立てた親指を下に向けてハルナに指示を出す。【エジプト十の災い】を利用して埃及特区に侵攻、占拠して過激派メシアンたちを取り込みながら過激派たちの霊的改良や信仰を受けて【唯一神アテン】への昇格を目指す。そんな舐め腐った事を許すほど脳缶ニキは慈悲深くも寛容さもなかった。向こうの態勢が整う前にここで叩き潰す、と脳缶ニキはハルナに対して攻撃許可の指示を出したのだ。
「ハルナちゃん……(爆破)OK!!」
「(爆破)OK!?」
「(爆破)OK!!」
その脳缶ニキの言葉に生き生きとしだしたハルナは、自らの愛銃であるセミオートマチック狙撃銃『PSG-1』こと『アイディール』を取り出すと、その銃口をアテンのシンボルを下げている店へと向ける。
「ちょ……!! ハルナ何を……!!」
「爆破!!ですわぁああああ!!!」*11
流石に瞬時に爆薬を店に設置することはできないので、代用として彼女は【アギバリオン】弾を屋台の食糧保存庫へと叩き込んでいく。彼女の放った【アギバリオン】弾が食糧保存庫に直撃すると、火炎と共に爆発を起こして、その中から【天使の羽入りマナ】が周囲に飛び散り、焼き尽くされていく。
他の「太陽神アテン」のシンボルを飾っている店の食糧保存庫に次々と【アギバリオン】弾を叩き込んでいくと、その燃え盛った炎の中には【天使の羽入りマナ】の焼け焦げる匂いがはっきりと分かる。元々、ここ埃及特区は魔界の副王ベルゼブブの代行ともいえる脳缶ニキがファラオとあって、ソロモン72柱やルシファーの影響が極めて強い。そんなところで「天使の羽」の燃える匂いがすれば、それに過敏に反応する悪魔たちがほとんどだった。そして、その飛び散った腐敗マナは【無数の蛙】へと変化していた。さらに水に入った腐ったマナは【水を血に変える】状態へと陥っていた。
ひっそりと戦力を送り込もうと企んでいたメシアンたちは、もはやこれまで、と戦力が十分に整っていない状態でクーデターを決行を決断した。
「クソっ!! なぜ我々の陰謀がばれたんだ!! まだ十分なメシアン戦力が集まっていないぞ!!予定の十分の一も侵入していない!!」
「こうなったらもうやるしかない!! 切り札を出せ!!COMPにいる【反転聖人『モーセ・カマエル』】*12を出陣させろ!!【反転十戒】と【エジプト十の災い】で埃及特区に打撃を与えて我々が占拠するんだ!!」*13
なお、実際は脳缶ニキが本気出したら瞬時に終わると思われる。
(祭りだワッショイ!の感覚で楽しんでそう)