「うぉおおおお!! この土地は祖先代々ワシらの物じゃあああ!! くたばれぇえええ!!」
「ふざけるな侵略者が!! この土地はお前らが魔界に落ちる前から我々の土地だぞ!! くたばるのはお前らだ!!」
自然が豊富に存在する山岳地域。そこではヒト型に似た存在たち……いわゆる「妖怪」たちと、美形で耳のとがった弓を持った男女たち……いわゆる「エルフ」たちがぶつかり合いを行っていた。
越後三山只見国定公園
新潟県と福島県にまたがる山岳公園であるこの地域は、自然が豊かであり地脈の力も豊富という事もあり、傷ついて長年傷が癒えていない妖怪たちの保護地として凍矢が妖怪たちに与えた拠点地である。
地球が魔界に落ちた際にも妖怪たちはこの地に存在し、独自に妖怪の里を形成している。(その代償としてこの地の庇護……魚沼シェルターの防衛の役割も行っている)
人跡未踏の地と豊かな自然の多さ、そしてガイア連合の霊薬や豊富な地脈エネルギーによって妖怪たちは傷を癒し独自に里を築いていた。だが、終末後、魔界と地球が融合した際、一つの大きな問題が起きていた。それは融合前に魔界のこの地に存在していた「エルフたち」の問題である。
エルフたちからすれば、妖怪たちは先祖代々の土地に侵略してきた侵入者。
妖怪たちからしても与えられた土地、先祖代々の土地に対して侵略してきた侵入者という形になってしまったのだ。
凍矢からすれば、もうそんなエルフは根切りしてもいいんじゃない? ともちょっと思ったのだが、エルフたちはわりと強い*1のにも加え、実質こちらが侵略者であることも事実なので、以前オーストラリアでユルングが怒り狂っていたように、土着民たちを殲滅してそこに植民するような白豪主義のような愚は繰り返したくない。そんな風に悩んでいる凍矢の相談を乗ったのは一人の黒札だった。
「なるほど……。分かった。じゃあ私が力を貸そう。一応旧福島県内部だしね。近場のビビアンちゃんにも力を貸してもらおうか」
そこで両者の仲裁に立ったのは福島支部を統治する『廣井きくり』*2である。そして彼女が提案したエルフたちとの和睦の証としての方法は、エルフたちに破魔ネキが作り出した『世界樹』を与え、そこをエルフたちの縄張り兼シェルターにする事だった。
──―旧只見町。
福島県会津地方に位置し、福島県の最西端に位置し南会津郡に属する町ではあるが、自然が非常に豊かで電車の「只見線」が有名だったこの町は、終末の影響もあって今やほとんど人がいない場所へと変貌してしまった場所である。動ける人たちはほぼ全て魚沼シェルターかビビアンの会津若松シェルターに避難している。残っているのは、この地で生まれたのでここで死ぬ、と言わんばかりの人々だけだ。だが逆に言えば極めて自然が豊富であり、地脈エネルギーも豊富な自由にできる土地といえる。きくりネキは新潟と福島との県境とも言える自然が豊かなこの土地に破魔ネキが作り出した「世界樹」*3を植える事を選択したのだった。(福島支部の予算で)
そして、旧只見町近くに植えられた破魔ネキが作り出した数本の「世界樹」の苗は豊かな自然を誇る旧只見町と相性がよかったのか、みるみるうちに巨大化して、100mもの高さの木に成長する。*4そして、その神々しい世界樹を見て、木々と親和性が高いエルフたちはその神威に魅入られて次々に世界樹に対して膝をついていく。
「おお……!! これこそ我らが神……!! 我々の役割はこの神を守護するためにあったのだ……!!」
こうして、妖怪たちと和睦すると同時に、エルフたちの居住地である、世界樹を中心にしてエルフたちがそれを守護するという特殊なシェルター「旧只見町シェルター」が出来上がったのだ。
きくりネキとエルフたちとの契約は「妖怪たちとエルフたちの縄張りを決めてお互い不可侵にする事」「人間たちを保護・庇護する事」「世界樹の木々などの素材を提供する事」「黒札シェルターへの侵攻禁止」「ダムの防衛」などである。
エルフたちは放置していると世界樹を崇め奉るだけで素材にするなどもってのほか! となりそうだったので、「世界樹の不要な枝や葉を取る事自体が世界樹の成長に繋がる」「世界樹の大きさなら多少樹液を取っても全く問題ない」「木々や樹液や葉っぱなどは世界樹の「祝福」である」と説得させて、世界樹の素材をガイア連合に販売するようにしたのだ。また世界樹の葉や世界樹の樹液、世界樹のしずくなどは、福島支部に所属する医療俺らである『真人ニキ』に非常に喜んでおり、これを素材にして様々な薬剤を作ったり、純粋に死傷者の数を激減できたという福島支部にとっても大きな利益となっているのだ。
(ここで採れる世界樹素材はガイア連合にとっても重要な素材になる……はず。多分。頼むから「世界樹を傷つけるなんてもってのほか!」とか老害思考にならないでくれよな~)
そして、そんな風に出来上がった世界樹シェルターとも言える只見町シェルターだったが、エルフだけではマンパワーが足りないうえに、エルフだけの価値観では黒札たちに襲い掛かってくる可能性もあるため、きくりネキが提案したのが次の手段だった。それは名家の三男、四男たちに対して『求む開拓民!! 美形エルフシェルターあります!!』という宣伝を行う事である。例えば、霊能分家の3男4男の生活は名家ほど威張れず、かといって一般人ほど無責任ではない、嫁も作れないというぬるま湯の地獄のような生活だった。だが、開拓民となって世界樹シェルターにやってくれば美形のエルフたちとお近づきになれる可能性がある。彼ら全てを救うことはできないが、機会を与えるぐらいのことならばできるのである。
(なお当然の事ながら開拓民の生活は非常に過酷なうえに命を落とす危険もある模様。全ては彼ら次第である)
魚沼と近い只見町は当然の事ながら豪雪地方で冬は猛烈な吹雪に包まれる。その対策としてエルフたちが行った手段としては、世界樹をくり抜いて『家』として世界樹の中に住む方法である。急激に成長して東京タワーほどの大きさになった世界樹は、その周辺を包み込む巨大な結界を構築し只見町シェルターを防衛している。
「おお……!! ここが世界樹の中か……!!」
あちこちのシェルターから美形のエルフ目当てや一旗上げようとして希望して只見町世界樹シェルターにやってきた名家の3男、4男たちは世界樹の幹に掘りぬかれた居住地を見て驚きの声を上げる。その中で一番安全を確保できる方法は、世界樹を掘って中に直接に住むことだった。掘るのは一苦労ではあるが、世界樹の内部は外の豪雪の影響も受けず、ヒカリゴケなどを培養することによって非常に快適な住環境が手に入るのだ。幹の中もくり抜いて開発すればちょっとした都市になれるはずである。(世界樹に対して悪影響が出ないように気を付けて掘り進める必要があるが)
彼らの役割はいくつかあるが、まず一番には只見町に存在する「三石神社」の氏子としての役割である。ここにはご神体には巨岩を祭り、その祭神は、伊邪那岐命、白山姫命、小彦名命の三柱であり、元々名家の血筋できちんとした礼儀作法や参拝の仕方を弁えている彼らがこの神社の担当となって面倒を見ることになったのだ。(本来はやはり霊力が強い氏子がいいのだが、エルフたちから興味を示されずこのまま朽ちていくよりはマシという判断)
そして次に世界樹に群がってくる低級悪魔……主に『妖虫』の対処である。世界樹の樹液などを求め、様々な妖虫、主に佐渡島に住んでいる『妖虫ウブ(LV5)』が襲い掛かってきたりするのをどうにかこうにか排除したり、他にはエルフが使用する矢の製造、様々な呪府の製造などもあるが……一番の大きな役割は『エルフたちが暴走したときの通報役』である。
何せ(少なくともここらへんの)エルフたちは『メシアン? なにそれ? ガイア連合? 知らん。黒札? 誰それ?』という状況である。こんな何も知らない状況でメシアンたちに取り込まれたり、ガイア連合や黒札たちに対して喧嘩を仕掛けてくる。こういう事を防ぐために情報に長けている名家の3男、4男たちが情報を提供してエルフたちの『首輪』になってくれるのが、きくりネキや凍矢の狙いだ。それはともかく、世界樹となれば、それに通じる悪魔たちが引き連れられるのも当然といえば当然だった。
「ガァアアアアッ!!」
世界樹の概念に引きずられて誕生したのは『邪龍ニーズホッグ(LV43、真・女神転生Ⅱ版)』である。
白い鱗を持った目のない巨大なムカデのような邪龍。「世界樹の根を食い荒らす邪龍」という概念を背負ったニーズホッグは世界樹シェルターの結界を突破して、世界樹の根を食い荒らそうと襲い掛かってくる。レベル20程度のエルフたちや霊能名家の3男たち程度の戦力では、到底太刀打ちできないほどの強大な悪魔だ。そして、こうしたエルフたちですら対抗できないほど強大な邪龍に対抗するのは、魚沼シェルターから駆け付けた人員たちである。
「ふむ……。これならばユウカに任せても大丈夫ですか……。いい感じに弱らせて、後はユウカにお任せですね」
世界樹を目指して侵攻しているニーズホッグをアナライズしているのは、大鎌を手にしてロングへアの後ろ髪を三つ編みで纏めたクラウンブレイドに加え、巨大な鎌と麦の意匠があしらわれた光背を装備している女性、つまりデメテルの分霊を宿した凍矢の女性体『田舎ネキ』である。
本来は拠点防衛用の『田舎ネキ』が派遣されてきたのは、ニーズホッグは割りと強さにばらつきがあるためである。例えばメガテンD2のニーズホッグは『物理無効』『氷結無効』に加えHPの高さ+不屈の闘志を持ち、レベル72とかなり強い存在となり、これはそれこそ凍矢が出張らないといけない事態になる。(なお真4などでも『氷結反射』などを所有しており、凍矢とは相性があんまりよくない)
そのため、ほむらと自分の娘であり炎の力も使用できる『秋葉ユウカ』に任せようかとも思ったが、万が一高レベルのニーズホッグだと彼女でも危ういかもしれない。それを心配して凍矢は自分の女性体を護衛として派遣したのである。だが、アナライズを行いニーズホッグのLVを見て、ユウカのいいレベリング相手だと判断した田舎ネキはまずはニーズホッグを弱らせる事を選択した。
彼女は自らの大鎌を展開すると、それをニーズホッグに向けて投げつける。それと同時に大鎌の柄から猛烈な冷気が噴出して、ギュルルルル! と回転しながら空中を引き裂いてニーズホッグへと襲い掛かる。さらにそれは一本だけではない。それは何十本もの回転する大鎌へと分身し、空中を自由自在に無数に動きながらニーズホッグを次々と切り裂いていく。まるでファンネルのようなオールレンジ攻撃を巨体のニーズホッグが回避できるはずもなく、ニーズホッグの全身は数十もの回転する大鎌によって縦横無尽に膾のように切り裂かれていく。
「グァアアアアッ!!」
それに対して、ニーズホッグも【毒ガスブレス】で毒を田舎ネキに対して噴出していくが、黒死ネキとの戦いで散々その手の攻撃をやられた今の彼……もとい彼女にそんな下位互換的な攻撃が通用するはずもない。自分自身を霊水で覆い、さらに大気中に霊水を散布することによって広範囲に放出された毒素を瞬時に無効化していく。
「後は頼みましたよ! ユウカ!!」
そういうと、田舎ネキは脚部と背部から冷気を噴出させて、高速でその場から離脱していく。これは自分の娘であるユウカに対してニーズホッグのMAGを供給してレベリングさせるためである。
そして、田舎ネキが時間を稼いでニーズホッグを弱らせている隙に、ユウカは両手にそれぞれ炎と氷の魔術を展開して、それを組み合わせて弓矢の形へと変化させる。これは氷結の力を持つ凍矢と炎の力を持つほむらの間の子であるユウカが所有するあらゆる物を消滅させる最大最強の魔術──―。
「
ユウカの放ったメドローアによってニーズホッグの頭部は見事に一瞬で消し飛ばされる。魔法反射など持っていない上に巨体であるニーズホッグにメドローアを躱す方法も防御手段もない。頭部を失ったニーズホッグはそのまま地面に倒れ伏し、その分のMAGはユウカに吸収されて彼女のパワーアップに使用されていく。そんな中(まだまだ私がメドローアを放つためにはタメの時間が必要なのは修行が足りない。前衛用に『鬼神ヒノカグツチ』や『鬼神タケミナカタ』あたりと契約する必要があるかしら……?)とユウカが考えている中、田舎ネキは腕を組みながら別の事を考えていた。
「ふうむ……ニーズホッグの肉って食べれるんですかね……? 血抜きして保存して黒死ネキに送ってみますか……? いやまずはジャンニキに話を聞いてみるべきでしょうか……?」
メドローアを頭部に食らったニーズホッグの遺体を見て、田舎ネキはふむ……とそれを見て考えこむ。これは狩猟した野生動物を食用肉として使用する。つまりは「ジビエ」……「ニーズホッグジビエ」である。*5ジビエの際には内臓が飛び散って味が悪くなってしまったりする事もあるが、今回は頭部を除いてまるまる残っているため、上手く血抜きすればそれをそのまま食肉として利用する事もできるはずである。
手にした大鎌で手早く解体して血を抜き、内臓を取り除いて肉の部位を解体。自分の霊水で血を洗い流しながらさらに自分の冷気でニーズホッグの肉を凍り付けにさせて手早く肉を冷凍保存していく。そして、それらを山梨支部のジャンニキに送って、それが食用にできれば黒死ネキにも贈り物として贈るつもりである。それを見ながら、ユウカは自分の父親ながら(コイツマジか?)という呆れた顔をしたのはいうまでもなかった。
〇余談
ビビアン「どうでもいいですが、エルフたちから同族扱いされて話が実にスムーズに進んだのです……。実際は違うのですが……」
きくり「ビビアンちゃん頑張ってる分留守にすることが多いし、会津若松の結界の拠点である鶴ヶ城に地脈制御&結界強化のために『城娘』シキガミでも与えようかな……? もしエルフたちが暴走したら真っ先に戦場になるのは会津若松だしね。ちょっと防御を強化しておこうか」
ビビアン「うう……ありがとうございます! めっちゃありがたいのです……!!」
きくり「……ところでビビアンちゃん、メシアン狩りの他にも学園に足を運んでるらしいけどこれはどういうことかな?」
ビビアン「(目逸らし)」