時代は戻って(恐らく)半終末の頃。
沖縄支部が【銃火暴風怨嗟域】を攻略した後、*1【銃火暴風怨嗟域】の跡地……荒れ果てて霊的・物質的に汚染塗れの土地に頭を抱えていた時、それを聞きつけたとある男性が沖縄支部とある程度親しい凍矢に対してコンタクトを取ってきた。それは環境保護団体『ブルーコスモス』の代表である「ムルタ・アズラエル」……『盟主王ニキ』と呼ばれる黒札の一人である。アズラエルは沖縄支部ともそれなりの親交がある凍矢に頼み込んで、沖縄支部とコンタクトを取ろうとしていたのだ。当然、【銃火暴風怨嗟域】の猛烈な土壌汚染、水質汚染を改善するなど非常に苦労が伴い、沖縄支部でもない彼がわざわざそんなことを行うなど物好きでしかない。
だが、それに対してアズラエルはいとも簡単にこう答えた。
「無茶苦茶大変? 何を言っているんですか田舎ニキ。こういう時にいう言葉はね「ビジネスチャンス」というんです。さあさっそく琉球ニキに会談をお願いしますよ」
そして、アズラエルはさっそく沖縄支部の長とも言える『琉球ニキ』に会うと【銃火暴風怨嗟域】の浄化に力を貸す事に約束した。
「分かりました。ブルーコスモスは沖縄支部に全面協力する事を約束しましょう。資金もいくらでも……とはいいませんが、ある程度の予算オーバーは多めにみましょう。何かあれば私がガイア連合の上層部に掛け合って予算を引っ張ってきます。その代わり、そちらが開発した環境改善技術はこちらでも使わせてもらいますよ」
そのアズラエルの言葉に、琉球ニキも銀剣ニキも思わず歓声を上げる。沖縄支部の重大さは認識されており、ガイア連合自体も色々優遇しているが、富豪俺たちが直接バックにつくのはやはり大きい。富豪俺たちが後ろにつけば、例えば物流の流れを操作して、沖縄支部に大量の物資を合法的に搬入させる事も可能だ。
「礼は必要ありません。こちらにも思惑はありますから。……これからの時代、オカルト的な『霊的環境改善技術』は大きな利益になると私は予想しています。行ってしまえば「半終末の環境汚染のテストケース」というわけです。お互いビジネスライクに行きましょう。というわけで、田舎ニキも協力してもらいますよ。田舎ニキの霊水には「浄化」の力もありますからね」
半終末の時代、核ミサイルによる放射能と死の灰、そしてメシア教の地脈改造によって世界の地脈はどんどんロウへと偏ってきている。これら荒れ果てた自然環境の修復、そしてロウ化した地脈をニュートラル化する事こそがブルーコスモスの真の目的である。その目的のため、探求ネキから大規模な地脈浄化術式を学び取り、それを独自に運用しているのだ。そしてそのための環境汚染のテストケースとして最適であると沖縄支部は選ばれたのだった。
まずは琉球ニキに案内されるまま、彼らは【銃火暴風怨嗟域】の跡地へと向かった。そこは偶に吹き出す地獄の業火が辺り一面を灼き、土一つ調べて観ても様々な廃油や重金属、瘴気と科学的にもオカルト的にも汚染され尽くした不毛の空間。
その汚染された土壌に凍矢は、【エストマ】の力を併用して「浄化」の力を可能な限り高めた【アクア】で作られた霊水を浴びせかけていく。その霊水が土壌に触れた瞬間、霊水がボコボコと沸き立って土壌の廃油、重金属成分、瘴気などを浄化・中和していき、みるみるうちに汚染された真っ黒な土は元の土の姿へと戻っていった。
さすがにスクラップの山や汚染の源である方言札や髑髏まではどうしようもなかったが、それでもあれだけ汚染されていた土壌を瞬時に浄化したその霊水の威力に、琉球ニキや銀剣ニキは、おお! と思わず歓声を上げた。
後は、汚染の源である方言札や髑髏を排除、スクラップの山をどかして、念のためにイイモデードの種を植えてそれが育てば汚染浄化完了である。イイモデードは霊水でも浄化できなかった地中深く残っている汚染もそのファイトレメディエーション能力で吸収して完全に浄化された土地に変えられるだろう。他にもブルーコスモスが開発した様々オカルト関係の浄化の素材や術式が試験運用されて、そのデータは後の外国の環境改善に対して大きく寄与したことはいうまでもない。その凍矢の霊水の優れた浄化能力を見ながら、アズラエルは満足げに頷く。
「何だかんだ言いながら田舎ニキは探求ネキに次ぐ水系の権能の使い手ですよ? これぐらい出来て当然でしょう?……言っておきますがこれ滅茶苦茶褒めてますからね私。」
ともあれ、【エストマ】つきの浄化特化型【アクア】ストーンや【アクエス】ストーンを作る契約を凍矢は結びながら、ブルーコスモスが取り掛かったのは、まずは沖縄本島に流れ込んでくる地脈エネルギーの改善である。沖縄には中国本土から台湾、石垣島、宮古島を通しての大陸からの地脈エネルギーが流れ込んでくる。
そして、問題はこの中国本土から流れ込んでくる地脈エネルギーがロウによって強く汚染されているという事である。そしてここで活躍したのはブルーコスモスが開発した地脈浄化術式搭載装置『ニュートロンジャマー』である。探求ネキから学んだ地脈浄化術式を組み込んで作られたこの装置の本体下部には、地面を掘り進めるためのドリルが備えられており、それを海上の船から海中に投下する。
そして海底に到着したニュートロンジャマーは地中数百メートルまで掘削して自己埋没し、そこから地脈に対して働きかけてロウ汚染された地脈をニュートラル化させているのだ。
「とりあえず沖縄本島から宮古島までの間の海底に無数のニュートロンジャマーを打ち込んで、ロウ汚染された地脈エネルギーを中和させる作戦か……。蓬莱島みたいに大規模地脈浄化術式とか組めればいいんだけどな……」
そして、その無数のニュートロンジャマーを輸送する仕事は、『真・女王艦隊』*2の術式で自分で簡単に氷戦艦を作成することができる凍矢の仕事である。氷で出来た輸送艦を十数隻作り出し、そこに無数のニュートロンジャマーが搭載されたコンテナを輸送。そして沖縄本島と宮古島の間にそのコンテナを海中に投下するだけの簡単なお仕事である。そしてその海底内を掘り進んで無数に地中に存在するニュートロンジャマーは、地脈のロウ汚染から沖縄本島を防ぐまさに『防壁』となるだろう。*3ともあれ、こうして沖縄支部とブルーコスモスはお互いに手を結んで協力体制になっていったのだ。
中華戦線、泰山大聖堂。ここは中華戦線の中でも道教の聖地で地脈の要でもある「泰山」を巡って激しい戦いが繰り広げられている最中である。……実際は中国軍の軍閥が泰山大聖堂を攻略しようとしても攻めきれずにジリ貧の撤退戦が繰り広げられている状況なのだが。*4
この地でメシアンたちと戦っているのは、安徽省から華北平野に掛けての一帯を活動範囲とする曹軍閥を率いる『曹華琳』であり、無惨ニキも彼女に手を貸している状況だ。そしてこの地域の一番の問題は『地脈の枯渇』である。泰山大聖堂によりこの一帯の地脈は枯渇し、オカルト作物ですら育たない不毛の土地となりつつある。ここで彼女たちが敗北すると泰山大聖堂から大量のメシアンの軍隊が出撃し、中華戦線はさらに不利になるだろう。せめて食糧事情とかある程度改善できないか?と無惨ニキから相談を受けたアズラエルはある方法を取る事にした。
「簡単ですよ。足りないのなら土地に霊力エネルギーを注いでやればいいんです。」
そうして、アズラエルはブルーコスモスが独自に開発した『逆茂木バオバブ(小型版)』の木をこの地域に植林した。もちろん、ただの樹木では地脈の枯渇しつつあるこの地では簡単に枯れるだけだが、この木には特殊な能力がある。それは『大気中の霊力を吸収し大地に注ぎこむ』という能力である。このバオバブの木は普通とは逆で枝の部分が『根』であり、根の部分が『枝』になっている。そして、空中に突き出している『根』の部分が大気中の霊力を吸収、それを地面に埋まった『枝』から土壌に霊力を供給し、地脈に霊力を注ぎ込むという仕組みである。このままでは土壌に広く拡散してしまうだけなので、ある程度土地を結界で覆って注がれた霊力をできる限り逃がさないようにすれば、荒れ果てた土地を農地へと変換できるシステムである。
「というわけで、本来の地脈エネルギーには及びませんし完全な回復は難しいでしょうが……これである程度はオカルト作物を育てられるはずです。本格的な地脈改善や環境改善はやはり泰山大聖堂を奪還するしか……ねえ。」
ちなみに、これにはさらに裏技があって、人間の生命力……要は霊力を吸収して大地に注ぎ込むという、いわゆる『生贄』によって土壌の活性化を図ることもできるが、現状の中華戦線では平気で百人単位で生贄を捧げそうで恐ろしいので絶対に彼女たちには言わない機密事項である。
そして、ある程度土壌が回復してきた所に、沖縄支部が開発した『土壌改善型霊能救荒作物シリーズ』を曹軍閥に供給し大きな食糧事情の好転へと導いたのだ。まずは、どんなに痩せた土壌でも良く育つ上に土壌浄化能力が一番高い『野國甘薯』*5や先の甘薯より味は落ちるが非常に速く育つ『モジョイモ』*6や『パックンフラワー』の術式を一部だけ流用し、種以外にも球根やムカゴなどでも繁殖し、さらに大気中から霊力・魔力・さらに窒素を吸収してそれを土壌を与えることで霊的に豊かにする『窒素固定』能力、さらに地中に養分を蓄えるどんな所でも育てられる『霊的ソバ』『霊的アワ』『霊的ヒエ』などが植えられる事になった。最早貴重となったサツマイモやメロンなどという甘味が食べられるなど、彼らは号泣しながらその食物を貪り食らい、沖縄支部の人々に感謝する事になったのだ。そしてその中でも大きく受け入れられたのは、聖者ニキが開発した『聖者麦』である。
元々、華北平野は中国の国内コムギ生産量のうち51%を生産する国内随一のコムギ産地であり、聖者麦とはかなり相性が良い土地柄である。そのため、大気の霊力を大地に注げるようになった状態で、沖縄支部からブルーコスモスに託された聖者麦は曹軍閥に託され、広く栽培されることになった。
「穢教廃滅~♪ 穢教廃滅~♪」
そして、何故か聖者麦はノリノリで黒王ごっこを行った聖者ニキの影響を受けたのか、こういう言葉を口にすると育ちがよくなるらしく、聖者麦の生産を行っている農家の人々は聖者ニキの言葉を独自に曲にアレンジして口ずさみながら農業を行っているのが流行しているのが現状である。将来的に泰山大聖堂を攻略して奪還できれば、この地は聖者麦で黄金に染まった景色が楽しめる……かもしれない。そして、その時こそブルーコスモスの本領発揮といった状況になるだろう。
(泰山大聖堂ほどになるとニュートロンジャマーを打ち込んでも焼け石に水ですしねぇ。やはり後は無惨ニキに任せるしかないですか……。)
ちなみに、凍矢も静たちが秘密工場で作り上げたAK系列の『簡易ガイア銃』や式神マザーマシンによって作られた応用して作られた数打ちの日本刀である大量生産用の『凍刃』*7も曹軍閥(正確にいうと無惨ニキ)に輸出される事になった。ガイア連合では逆に珍しい『安上がりで頑丈で、修理や整備もしやすい装備品』というこの二種類の武器に、曹軍閥の皆は飛び上がって喜ぶ事になった。
……なお、これより遥か未来。終末からしばらくたった後*8、この『聖者麦』から作られた食物を口にした穏健派のメシアンたちはいきなり一斉に異常を発生させた。まずは、嘔吐、下痢、喉の渇き、頻脈、錯乱、昏睡などの症状。さらに手足の壊死に加え、精神異常、痙攣、意識不明など、それまで比較的安全な「聖者麦」に親しんでいた中国のメシアンたちは、いきなりのこの症状に大きな打撃を受ける事になった。
そして、この理由は聖者麦から発生した『麦角菌』である。なぜか不思議なことに、メシアンたちが口にした瞬間、今まで安全だった聖者麦が瞬時に麦角菌入りに変貌してしまうのだ。ガイア連合が調べた所によると『メシアン度』*9が上がるにつれて症状が酷くなっていくという症状が確認された。
……なおガイア連合は明かさなかったが、メシアン度数81以降には『バプテスマ』と同じく問答無用で食べたものの死後に悪影響を齎す効果……死後における霊的な加護が全て剥奪されて決してメシア教の神にも天使にも干渉出来ない災いを得る。死後の安息は未来永劫訪れず終末の裁きすら受ける資格を喪うという効果すら発生するとの事である。こうして、聖者麦は他の人間たちが口にしても何ともないのに、メシアンのみが口にした瞬間麦角菌が発生するのは「聖者の怒り」としてメシアンたちに恐れられるようになった。*10
……なお、穏健派からは今まで安全だった食べ物がいきなり危険物に変化したことに、製造責任を追及する声もあがったが、それら全てをガイア連合は無視(作っている農家たちも無罪)という判断になったようである。
ちなみに「聖者麦」の設定は血涙鬼・彼岸さんからいただきました。
どうもありがとうございました。