【カオ転三次】故郷防衛を頑張る俺たち   作:名無しのレイ

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時間軸はわりとふわっとしています。
今回はマカーブルさんと血涙鬼・彼岸さんから許可をいただきました。


ドレスコードは鋼の白衣

 さて、魚沼支部に配置移動されてきた救護ネキ。そんな彼女に対して、激戦区である沖縄支部*1から様々な医療器具に対する注文が来た彼女は、迷うことなくそれを了承して活動を開始した。

 

「了解しました。とりあえずコンテナ三つ分ぐらい医療器具を送りますのでよろしくお願いします」

 

 沖縄支部からの要請に、いとも簡単に救護ネキは答える。沖縄支部は現状日本国内の中華戦線ともいわれている激戦区である。その前線で戦う人間たちの支援になるということは、つまり救護に直結するという事。彼女にとっては否は存在しなかった。

 とりあえずまずは魚沼シェルターに存在する「白魔女」たちをフル動員させて『傷薬』の大量生産、さらには『吸血』のスキルを備えた『吸血注射』の製造の委任、ガイア連合内で余っているデビルスリープを買い上げての『デビルスリープ麻酔』の加工を白魔女でもできるようにして委任。これで沖縄支部に対する支援はカバーできるはずである。

 

「他には無痛メスや無痛注射器などは山梨支部の医療部に注文して大量生産してもらいますか……」

 

 ……なおこれらに加えてさらに様々な傷薬の元になる材料の栽培やの作成なども仕事が山積みになってしまったため、ツカレトレール*2を山のように供給された*3が「そういうことじゃない!」と白魔女たちからクレームをもらう事になってしまった。(結局白魔女たちは事業を拡大して、材料の栽培などは他のレベルの低い覚醒者たちを雇うことで解決した)(なお白魔女たちはひんひんと泣いた)

 

 さらに、彼女は自らの権能である「ナイチンゲール・プレッジ」の能力(弱)を付与した「清潔結界救護テント」を作成。この彼女の力が込められたテント内部では絶対安全圏とはいかないが、テント内部は安全圏としての結界が発動。有毒な細菌などを遮断する清潔な無菌地帯へと変貌する。このテント内部ならば滅菌された手術室とほぼ同じ機能になるため、戦場の設備の整っていない状態でも、デビルスリープ麻酔や無痛メスなどを使用しての手術が可能である。

 

 さらにチクリンニキ*4から購入したクリーナースライムとスカベンジャースライムも医療部専用のスライムとして置くと同時に、そのクリーナースライムを調整する事によって『医療器具消毒クリーナースライム』へと変化させ、使用した医療器具をクリーナースライムの中に入れておくだけで自動的に消毒を行えるように改良した。

 これさえあれば、野戦病院などで複雑な器具なしに入れるだけで自動的に消毒してくれるので非常に楽になるはずである。さらに凍矢から大量に絞り取った霊水に、キクリ米から作成したアルコールを混ぜた『消毒用霊水』も作成。これらをコンテナ単位で沖縄支部へと放り投げていったのである。*5これで野戦病院として十分に運用可能だろう、と救護ネキは、ふう、と額を拭う。

 

「後は琉球ニキから聞いた話だとクトゥルフ系統の怪物が出るらしいですから……それに対する方法も必要ですかね……」

 

 真・女神転生 STRANGE JOURNEYには『狂気(MAD)』と呼ばれる状態異常が存在する。これは「敵味方1体を無差別に通常攻撃で攻撃する。さらに、ダメージが2倍に上昇する」という状態異常である。

 敵がクトゥルフ系の怪物ならば、当然これに真っ先に警戒するべきである。これ自体は「アムリタソーダ」「アムリタシャワー」などで回復できるが、ここで問題になってくるのは『米軍』である。味方である名家には迷わずアムリタソーダやアムリタシャワーなどを使うだろうが、両方ともそれなりに高額であるのと、正確な「味方」とは言い切れない(後ろから撃ってくる可能性すらある)米軍にそこまで使う価値があるのか? と琉球ニキたちが考えるかもしれないのに対して、救護ネキは新しい対策を用意した。目の前の禍々しい茶褐色の液体が入った瓶を見て、白魔女たちの一員「わたし」は恐る恐るながら救護ネキに問いかける。

 

「あの……黒札様、これって私たちから情報を提供した「魔女薬」ですよね……」

 

 見るからにヤバげな見た目をした瓶に入れられた茶褐色の液体。それは、「わたし」たちが保有していたニガヨモギの薬効を持つ「魔女薬」を救護ネキが独自に解析・改良を施した「正気気付け薬」である。

 ニガヨモギには「アブシンチン」という苦味成分が存在しており、それを極限にまで高めた結果、脳内と魂を「苦味」で殴りつけて狂気に陥った人間の精神を半ば無理矢理整調化させるという救護ネキが魔女薬を解析して独自に作り出した薬であり、狂気に陥った未覚醒者に対しても十分効果的である。

 

 狂気を吹き飛ばす地獄の苦さで魂と脳を揺さぶり正気に戻す。それがこの「正気気付け薬」の本質である。米軍たちをメインに考えているので、未覚醒者にも有効だが、その代償としてあまりの死んだほうがマシともいえる苦さに胃の中の物を全て吐くという欠点もできてしまったが、救護ネキは「これで正気に戻れるのなら安い代償でしょう?」とヨシ! とこれをスルーした。

 

「よし、あとは恐怖*6を回復させる「パトラストーン」「メパトラストーン」も入れておけばいいでしょう。とりあえずこんなところですね……。できたばかりの試作品を沖縄支部に押し付けたのは心苦しいですが、試作品を運用してデータを採取してくれる代わりに医療品を(私の自腹で)供給する。まあウィンウインということにしておきましょうか……」

 


 

 そんな事をしている時に、救護ネキは一つの情報を聞きつけた。それは姫路支部の破魔ネキ*7が作り上げている治療施設『ライフ』の建設である。どちらかといえば療養施設の意味合いが強い場所だったが、救護ネキはさっそくライフに足を運び、まるでテーマパークに来たみたいだぜ~とライフの内部を探索。さらに、破魔ネキが開発した『ドクターアロエ』に対しても速攻で飛びついて契約を交わし、『ドクターアロエ』の包帯を大量に購入。ブラッドテトラや腫瘍フィッシュの開発に対しても(勝手に)全面協力を申し出て(勝手に)それらの開発に着手した。(なおライフの従業員たちはめっちゃ困惑していた)

 

「なるほど。ブラッドテトラや腫瘍フィッシュの開発……。すばらしい! ぜひ私も協力しましょう」

 

(えっ? 誰? 黒札様っぽいけど誰? 誰なの!? 怖いよぉっ!!)

 

 まずはドクターフィッシュたちに『透過』の魔術で体内に直接入ってくれるようにしなければならない。そして、ブラッドテトラは血管内を通って体内の血栓を取ってくれなければならない。そのため、ブラッドテトラは人の血を好み、自然と人間の血管内部を好んで通るために吸血鬼の因子を注入。

 ただそのままでは、ただ人間の血を飲むだけの存在になってしまう。そこで血ではなく『固まった血』つまり血栓を好んで食べるように調節していく。血を好み、血栓が大好物である半吸血鬼化されたドクターフィッシュを作り出し、それを「ブラッドテトラ」にするつもりなのだ。

 

「よし、では私の腕に血栓を作る薬剤を注射してと……」

 

 救護ネキは自らの腕に注射をして、わざと腕の血管に血栓を作り出し、それをブラッドテトラに食べさせてきちんと能力が発揮できるように試しているのだ。そして、きちんとブラッドテトラが自分の血管内部を通って、自分の中の血栓を食べてくれる事を確認する。後はライフのスタッフたちが試験運用してデータが集まれば安全なブラッドテトラが完成するだろう。さらに、同様に『透化』のスキルを持たせたドクターフィッシュたちに悪性腫瘍の味を好むように設定して、体の中を動き回り、悪性腫瘍を探知して食らう腫瘍フィッシュもある程度完成させたのだった。

 

「人食い因子をうまく操作して悪性腫瘍を好むように改造しようかとも思いましたが、暴走すると人間の体ごと食いつきそうですからね……。まだできたばかりなので、試験運用して安全を確保してください。それじゃ」

 

 黒札らしき人物が勝手にドクターフィッシュの改良版を作ってさっさと帰っていったという報告を聞いた破魔ネキは、その報告に思わず頭を抱えながら呟いた。

 

「……何か勝手に来て、勝手に開発して、勝手に帰っていきましたが……いいのかな……」*8

 


 

「もしもし、漢方ニキ*9ですか? 例の成分の抽出の件は大丈夫ですか?」

 

 救護ネキは自分のラポ……研究室でCOMPから漢方ニキに対してTELをかけていた。以前探求ネキが黒死ネキを捕獲する際に使用した黒死病ワクチン(現在は黒死ネキにはきかない)を研究し、そこから【ストレプトマイシン】を抽出、霊的黒死病のみならず、霊的結核にも適応できるように改良。

 クラミジア感染症、梅毒、淋病など性感染病に効く【ドキシサイクリン】を抽出し、それをミナミィネキのいる【悪魔しょうかん】や様々な娼館に販売・実験なども行っている。

 救護ネキは探求ネキのワクチンからこれらの薬効を抽出して薬にすることには成功したが、それらをもっと簡単に低レベルの覚醒者でも薬を作る方法はないか、と漢方ニキに頼んでおいたのだ。

 この辺は【ディスポイズン】でも基本的には治せるが、それでも治せない強い霊的病気が出てきた時の対策として薬を用意しておいたほうがいいだろう、という救護ネキの判断である。救護ネキもこういった薬の抽出はそれなりに行えるが、やはりこういったことは専門家の薬剤チームに頼んだほうが効率のいい作業方法を作成できるという判断である。

 

『いやまぁ……。やったけどさぁ……。実質左遷されたんだからこうもうちょっと大人しくだな……』

 

 さらにそれに加え、救護ネキは薬剤チームに大量の【ディスシック】*10を注文して作成してもらっている。性病がディスポイズンで回復するように正直【ディスシック】さえあればほぼ全ての病気は瞬時に治療できる。だが万が一ディスシックで回復できない病気が現れたら? ディスシックに耐性のある伝染病が現れたら? それに対抗するため、救護ネキはディスシックのみに頼らない様々な薬の開発をほかの黒札たちと協力して進めているのだ。本霊が神農である漢方ニキは、まさにディスシックを作るのにうってつけの人物。そのためディスシック大量生産の依頼を投げたのである。

 

「大人しくしていて死傷者が減りますか? ほかの黒札からの目なんてどうでもいいんです。ともあれ、これらの作成方法には感謝をしています。ありがとうございます」

 

 簡単なこれらの薬の製造方法の情報を見て、救護ネキは大いに満足した。彼女自身が薬を作っていてはいくら時間があっても足りない。彼女は薬を使う方であって作り出す方ではない。ならば漢方ニキに簡単な作成方法を作ってもらい、それをまだ残っている製薬会社に投げて薬を作ってもらったほうが効率的と判断したのである。

 

「ああ、後は『自己組織化タンパク質ナノ粒子』*11『環状RNAワクチン』*12『ダイレクトリプログラミング』*13の研究もよろしくお願いします。それじゃ」

 

『ちょっと待て!! それ俺たちの分野じゃないから!! せめてフェイスレスニキに頼めよ!!』

 


 

「というわけでヤプールニキ。これらの製薬をお願いします」

 

「いきなり来ていきなり無茶を……。まあやるけど……」

 

 北神奈川支部の黒札の一人『ヤプールニキ』*14

 製造班としての力を持つ彼は、科学技術のみならずシキガミや医療、バイオ系の知識を持ち、製薬会社の保護も行っている。餅は餅屋。漢方ニキが作り出した【ストレプトマイシン】【ドキシサイクリン】【レボフロキサシン】の簡単な作成・精製をヤプールニキの製薬会社に全面的に任せようというのが救護ネキの考えである。

 

「それよりまた漢方ニキの胃にダイレクトアタックしたんだって? あんまり彼に負担かけてやるなよ……」

 

「優秀な人材にはどんどん無茶ぶりをする。それが当然でしょう? 優秀な彼が悪いんです」

 

「まあそれはそれとして……ともあれ、漢方ニキが探求ネキのワクチンから抽出した結核などに効く【ストレプトマイシン】クラミジア感染症、梅毒、淋病など性感染病に聞く【ドキシサイクリン】、さらに医療部がアポロンの力を得て作成している未覚醒者達で生産できる抗生物質……【ペニシリン】*15の生産をそちらの製薬会社での作成をお願いします」

 

 これはヤプールニキからしたら喜ばしい話である。せっかく生き残らせてた製薬会社に色々な薬の作成方法を供給してくれて、製薬会社に仕事を与えてくれたのである。この製造方法ならレベルの低い現地民でも製造可能だろう。しかもこれら作り出された薬はペニシリンは言うまでもなく、結核や性感染病などにも通用する利用度が高い薬である。喜んでヤプールニキは救護ネキと握手してその提案を受け入れた。

 


 

 山梨支部のとある一室。そこでは救護ネキと黒死ネキがお互いに淹れた紅茶を飲みかわしながら和気藹々と歓談を行っていた。医療と病気という概念を象徴する二人であり、戦いの時にはお互い全力で激戦を行う二人だが、その他の生活では別にそんなにぶつかり合うことはない。紅茶通である救護ネキは、紅茶を入れるのが上手い黒死ネキと紅茶のことなどで色々話し合うほどである。

 

「……そういえば黒死ネキ、貴女の【シシリッカ】は別に黒死病オンリーというわけではないんでしょう?」

 

「む? まあ……そうだな。その気になれば色々な病気を発生させる事ができるだろうな。それが?」

 

 黒死ネキの【シシリッカ】は基本的に黒死病を相手に与える事ができるが、実際は黒死病のみならず様々な霊的病気を【穢れ】を原料として再現が可能である。普段は彼女が親しんでいる黒死病のペスト菌を穢れを原料として作成してバラ巻いているが、それ以外にも霊的伝染病を作り出すことはできるのか? と救護ネキは、質問したのだ。それに対してピンと来たのか、黒死ネキは紅茶を口にしながら呆れた口調で言い放つ。

 

「まさか……私が作り出したその病原体を回収して『病理標本』にしようというのか? 呆れた女だな……」

 

 そう、救護ネキは、黒死ネキが穢れで作り出した様々な凶悪な疫病をサンプルとして採取。それを元にして今のうちからそれぞれの霊的疫病の特効薬の製造を行おうと考えていたのである。実際、黒死ネキは黒死病以外にも【マラリア】【コレラ】【エボラ】【コンゴ出血熱】などヤバい伝染病の再現も可能だ。

 黒死ネキが作り上げる病気は設計図的には本物とほぼ同じであり「限りなく本物っぽい疑似感染症」だ。だがそれでも十分救護ネキの目的には適するだろう、と黒死ネキは呆れながら彼女の質問に答える。

 

「だが……当然タダでそんなことをしてやる義理はない。疑似感染症を作り上げるのも結構面倒だしな。つまり……言いたいことはわかるな?」

 

 にやり、と黒死ネキは邪悪な笑みを浮かべた。

 


 

 ──―深層内のとある一部。そこでは救護ネキと黒死ネキが二人きりの対決を行っていた。いかに黒札であろうとこの二人の対決に巻き込まれるのは……と敬遠されがちなのが実情だ。そして、そんな中黒死ネキから放たれたシリリッカは救護ネキへと猛烈な勢いで襲い掛かる。

 普段ならば、ナイチンゲール・プレッジでそれを防御する彼女だが、全面的な展開ではなく、彼女は自らの左腕のみをその絶対安全圏から除外し、盾代わりにしてまともに【シシリッカ】を受け止める。今回の黒死ネキのシシリッカはいつもの黒死病ではなく【コレラ】の病原体を再現した【シシリッカ】である。

 ナイチンゲール・プレッジがなく、霊装も捲り上げて事実上無防備な救護ネキの左腕に、【シリリッカ(コレラ)】が襲い掛かる。

 

「ふんっ!!」

 

 それに対して、救護ネキは手にした無痛メスでなんのためらいもなく自らの左腕を切り飛ばした。そして、それら病原体に汚染された自らの左腕を厳重に封印しながら容器にしまっていく。黒死ネキが【シリリッカ】が出したそれらの病原体を元に、それらに対抗できる様々な薬を開発するための実験台として活用させようというのだ。今回彼女が【コレラ】を選んだ理由は、ヨーロッパで黒死病が流行したように、日本でも江戸時代に「安政コレラ」というコレラパンデミックが起きており、明治時代にもコレラの流行は起きている。つまりコレラの流行が発生する下地は揃っているのだ。今のうちから霊的病気に進化したコレラの対策を行っておく必要がある、と救護ネキは考えたのだ。

 そして、病気を治癒する「ディスシック」と体内を浄化する凍矢の「霊水」を飲んでいる彼女を見て、自らの腕を犠牲にして病原体のサンプルを採取、それを治療に生かそうなどとはさすがに引くわ……と流石の黒死ネキも引いた顔を見せていた。

 

「まあいい。だが、『新型疫病作成ごとにナイチンゲール・プレッジ十回連打』の約束は忘れるなよ? これは正当な取引だ。そちらも文句はあるまい?」

 

 にやり、と黒死ネキは邪悪にほほ笑む。いかに効果のある薬でもそれを何回も連打されれば耐性……『薬物耐性』ができてそれが通じにくくなる。当然ナイチンゲール・プレッジも同じだ。あまりに連打されると、黒死ネキはそれに対する耐性ができて通じなくなってしまう。当然彼女もそれを狙って連打しろ、と言っているのだろう。うーんこの、ここは慎重に考えながらリクエストしていくしかないか……と救護ネキはため息をついた。

 


 

 ───そして、そんな中、ついに沖縄方面でと同時に前々から予期されていた出来事……『与那国島の海底遺跡浮上』が開始された。そこから大量に噴出したクトゥルフ系のディープワンズ、ダゴン、ハイドラなどの奇襲により駐留米軍は大きな損害を受けたらしい。沖縄支部は、それら米軍を囮に使ってクトゥルフ軍団の足止めに利用、住民たちをセエレなどの権能によって避難させ、体制を整えた状態で与那国島に攻撃を仕掛けるらしい。そして、それに真っ先に反応したのは救護ネキだった。

 

「田舎ニキ!! 今すぐ沖縄に向かいますよ!! 救護を待っている人々が大量にいます!」

 

「で、でもどうやって沖縄支部まで行くんだ? 今大混乱で到底行ける状態じゃないだろ? 船も輸送路も大混乱状態だろうし……」

 

 転移魔法を使えばいいと思われるが、現在与那国島周辺ではセエレがその権能で大活躍していたり、住民を避難させるためなどに転移魔術が多用されていて混乱の極みである。そんな大渋滞の中にぽんと転移魔術を使うのは危険性がある、というのが凍矢の判断である。だが、そんな彼に対して、救護ネキはいとも簡単に答えた。

 

「? 何を言っているんですか? 田舎ニキ。そのために貴方の式神がいるんでしょう?」*16

 

「えっ?」

 

 それに対して(私はタクシーじゃないんだけど……まあ仕方ないか)と破裂の人形は諦めムードで二人を眺めていた。

 


 

 それからしばらくしての沖縄上空。そこでは戦闘機形態に変形して凄まじい速度とソニックブームを放ちながら超音速で飛行している存在がいた。それは変化スキルで戦闘機形態に変形して【高速飛行】スキルで空を飛行している【破裂の人形】である。円錐状の堅固な結界を展開しながら飛行……マッハ10をすら凌駕する極超音速は、九州から与那国島まではおよそ5分で到達できる。普段は凍矢しか乗っていないその後ろには、半ば無理矢理救護ネキが体を密着させながら極超音速で空を飛行しながら平然と叫ぶ。

 

「田舎ニキ!! このまま与那国島に突撃します!! 心の準備はいいですか!?」

 

「良くない!! 全然良くないよ!! でもやるしかないから畜生!!」

 

 今回、セエレの権能や避難のための転移魔術の邪魔にならないように高高度を極超音速で飛行しているが、高高度を極超音速で飛行する環境は人間にとって極めて過酷であり、酸素不足と気圧の低下により特別な生命維持装置が必要となる。高度7,000mを超えると人間の順応限界とされ、8,000m以上は「死の地帯」と呼ばれており、極端な低気圧は人体に害を与える。そのため凍矢はデモニカ【グリスブリザード】を装備する事によって酸素供給、気圧維持などを行いそれらに順応している。だが、救護ネキは最低限の酸素マスクだけで平然としている……恐らくは自分の体に回復魔術を連続してかけている……のはさすが超人といったところか。

 

「いいですか!? 我々の目標はあくまで要救護者の保護!! 本格的な戦闘は琉球ニキたちに任せます!! それは忘れないように!! ではいきます!!」

 

 そのまま戦闘機形態の【破裂の人形】は急下降を行いながら与那国島を目指して猛烈な速度で落下していく。そして、ある程度の高度まで下がった救護ネキは盾を構えると、何のためらいもなく超高速の速度を維持しつつ、戦闘機形態の破裂の人形から飛び降りる。それと同時に、破裂の人形は急ブレーキをかけて減速しながら自らの機体下部に備えているバスターランチャーを救護ネキへと狙いを定め、彼女に向けて砲撃を開始する。今回はメギド系ではなく、凍矢の力を得て放出される『フブダイン』の力を一点に収束させて放つ『ブフダイン砲撃』である。

 その砲撃に対して、救護ネキは脚部……靴の後ろに『マカラカーン』を展開。そのマカラカーンによってブフダイン砲撃を受け止め、それを推進力として前方に盾を構えながらさらなる超音速で加速を開始した。

 

「うぉおおおお!! 私!! 射出ッ!!」

 

 ブフダイン砲撃による反動を推進力へと変換した彼女は、マッハ10を遥かに上回る速度に前方に構えた盾は赤熱化してくるが、彼女はそんなことにも構わずただ空を駆ける。それはまさに『人間砲弾』としか言いようがない状態だった。彼女はそのまま砲弾と化しながらクトゥルフの眷属が表れ始めた与那国島へと突進していった。

 


 

 ───海底遺跡が浮上した与那国島はまさに地獄と化していた。ダゴンやハイドラ、深きものたちが無数に湧き出している無限地獄の中、それらに対抗するために敢然と立ち向かっているのは、いわゆる「琉球ニキ」たちを筆頭にする沖縄支部の黒札たちや名家たちの高位の霊能者たちである。沖縄は例外的に霊能者の「根切」がされておらず、高位の霊能者たちが名家の中に残っている。そのため黒札たちと肩を並べて戦えるほどの名家たちも存在しているのだ。そして、そんな彼らと協力しているのは、壊滅状態になっている米軍である。沖縄支部が体制を整えるための囮となった彼らはほぼ壊滅してしまったが、未だ生き残りは沖縄支部と協力して戦いを仕掛けていたが……悲しいことにほとんどが未覚醒の彼らの攻撃は、深きものどもには通用しなかった。

 

『ダゴン!! ペリシテ人の海の神!! 我々の前に立ちはだかるか!!』

 

 そして現れるダゴン。ダゴンはクトゥルフ系の神ではあるが、それ以前には聖書にも出てくるペリシテ人の海の神として信仰されていた。信仰深い一神教の米軍の一人はそれを思い出したのだろう。ダゴンの前では未覚醒者の群れである彼らはただ粉砕されるだけのはずだった。だがそんな中、轟!! と大気を引き裂く猛烈なソニックウェーブと共に、まるで砲弾のように超音速で『何か』が着弾して凄まじい轟音と衝撃波がダゴンの全身を瞬時に全て吹き飛ばしていた。

 いきなりの事に対応できず茫然とする中、一人の盾を構えた女性は敢然とダゴンや深きものたちの群れの前に立ち塞がっていた。

 

「救護が必要な場所に救護を!チェスト救護させていただきます!」

 


 

 与那国島の一部、沖縄支部の人たちが設営した救護施設の一部。そこに米軍たちは避難していた。沖縄名家の人間たち……前線に出てくるような英雄クラスの人間たちならば、回復魔法や各種回復アイテム一発で大体は回復できるので問題はない。

 だが、沖縄支部たちと合流して戦っている在日米軍たちはほぼ未覚醒者たちである。未覚醒者である彼らは回復魔法が通じないこともあるので、そんな彼らに対して行う方法……そう、それは「手術」である。

 彼女は、与那国島の片隅に自らが開発した「清潔結界救護テント」を展開。そこに米軍の兵士たちを寝かせると、自分の手を霊水で消毒、そのまま手を手刀の形にすると、その手刀を腹部に破片がめり込んだ兵士の腹部に迷いなく突き入れた。

 

「「「!!!??」」」

 

 だが、その状態でも兵士たちは痛みは全く感じない。救護ネキの手はまるで兵士の腹部に溶け込んでいるかのように動き、次々と破片などを取り除いていく。これは麻酔や消毒なしで腫瘍などを取り除く『心霊手術』の術式である。

 

(探求ネキから「心霊手術とか覚えたらどうですか?」と言われたので心霊手術を覚えたのは正解でしたね……)

 

 そうして、彼女は次々と米軍兵士たちに心霊手術や無痛メスを使った手術を施して怪我の治療を行っていく。さらに貴重なサクラメントによる輸血などで彼らの出血を補っていく。もちろん沖縄支部はいい顔はしなかったが、自分や医療部が開発した器具がきちんと未覚醒者にも通じるかの実験である、と言えばある程度は納得してくれたようだ。

 

 自分に協力してくれている者たちに対して米軍兵士に「ガイアカレースープ」を振る舞うように指示を出して天使の羽対策を行なう。そんな中、テントの中で次々と心霊手術で傷を縫合している姿を見て、兵士たちは皆驚愕の目で彼女を見る。それはまさに癒しの神そのままの姿だったからだ。

 次に彼女は包帯を巻いている一人の兵士に近寄っていく。彼は密かに手榴弾を懐に隠し持っており、そのピンを抜こうとした瞬間に、彼の額に救護ネキの手刀が叩き込まれる。心霊手術を会得した救護ネキは、その心霊手術にとって直接脳内から埋め込まれた「天使の羽根」を物理的に取り除く事ができる。実際、今の彼女は『我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ』を使用し、手術をしたものたちを回復させ(これは未覚醒者たちにも通用する)絶対安全圏も作り出しているので、そういったテロなども無効化されるため意味はないが、それでも羽根入りはいないほうがいいのは当然だ。

 

 さらにクトゥルフ系の眷属を見て、狂気に陥った人たちに対しては、ほかの場所に隔離し、彼女自身が開発した『正気気づけ薬』を飲ませて、その苦さで脳と魂を揺さぶって無理矢理正気に戻すが……そのあまりの苦さに胃の中の物を全て吐き出す兵士たちが続出。まさに地獄絵図となっていた。……なお、そのおかげで、米軍兵士の胃の中に巣くっていた『寄生型天使兵』も吐き出されるという予想外の効果も確認された。

 そして、問答無用で次々と飲ませて吐いた人たちをアクアストーンの霊水で体を綺麗にしていった救護ネキの姿は、兵士たちからすればまさに救いの神に見えたのだ。

 

 一方、沖縄名家の人間たちや沖縄支部の黒札に対しては、「メディアラハン」や「常世の祈り」などで彼らを高位の回復魔法などやアムリタシャワーなどの回復アイテムで回復。死人に対しては「サマリカーム」などを連打して復活させるだけでいいので簡単ではある。そんな風に沖縄支部たちや沖縄名家たちの治療を施すことによって、彼らの信頼を稼ぐのも重要な事である。……ともあれ、そんな風に沖縄支部の黒札たちや名家、米軍たちの治療を行っていく中、特に米軍の兵士たちはメシアンから一神教に鞍替えして、救護ネキを信望する兵士たちが増えたとか増えていないとか。

 

「ふむ……。沖縄支部はこれからも長い闘いになりそうですから、私も気合で分身を作り出して沖縄支部に置いておきますか……」

 

〇余談

そのころの田舎ニキ

凍矢「うぉおおお!!食らえぇえええ!!」(建築中のデモンベインの『腕』だけを召喚してクトゥルフに一撃入れながら)

*1
「凡庸でありふれた転生者達の小話」様の支部。

*2
P3Pで追加されたアイテム。名前の通り味方一体の疲労状態を回復する。

*3
当然のごとく救護ネキ自身も毎日飲んでいる。

*4
「【カオ転三次】ヘタレた黒札の奮闘記」様

*5
魚沼シェルターの財政に負担をかけるわけにはいかないので、全て救護ネキの自腹。

*6
状態異常の一つ。命令以外の行動を起こすようになる。主人公の場合は、50%の確率で何もしなくなる。仲魔の場合は、25%の確率で何もしなくなり、25%の確率でストックに帰還する。アムリタシャワーなどでも回復する

*7

*8
何かしれっとアスクレピオスと仲良くなってそうなのが草。

*9
【カオ転三次】今更転生ごちゃまぜサマナー」様の神農が元霊の黒札。

*10
味方単体の『病気』を治療する

*11
タタンパク質が自ら集まってナノサイズの球状(サッカーボール状)の構造などを形成するナノ粒子。このナノ粒子は、内部に薬物を内包したり、正電荷を持つ物質と結合させてさらに大きな構造を作ったりする性質を持つため、薬物輸送や新しいナノ材料の開発への応用が期待されている。

*12
環状RNAは、RNAの5'末端と3'末端が結合してできた「輪」のような構造を持つRNA。直鎖状RNAと比較して安定性が高く、タンパク質をコードするものや、遺伝子発現を制御する分子として機能するものなど、多様な役割を持っている。近年では、がんなどの疾患におけるバイオマーカーとしての可能性や、mRNA医薬に代わる治療薬・ワクチンへの応用も期待されている

*13
iPS細胞のような「未分化な細胞」を経由せず、体にある特定の細胞(体細胞)を、別の種類の細胞に直接変換する技術。

*14
【カオ転三次】世界が終わるまでのバイク旅」様。北神奈川支部に存在する作成班の黒札。

*15
「なろう系な俺たち」様、アポリオンキラー販売収縮のお知らせ

*16
元々緊急事態時に即応部隊として駆けつけるために高い機動性と高速飛行性能を付与したので正しい使用法。運命力による干渉が起きる前に駆けつけてメギド系爆撃を叩き込んで牽制&時間稼ぎ。行けそうならそのまま戦闘に持ち込む流れ。




書いてるときに「【カオ転三次】終末が約束された世界で生き抜きたい」様の更新が来てちょっと矛盾してるかもですが、世界線のブレとお考えください。
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