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──―新潟湾。
この場所は海域浄化や日本神の支配下にあることから、ある程度の沖まで出ることはでき、漁業も可能である。人間界の魚たちも大型の海洋悪魔などがいないこの地を安全地帯と判断し、むしろ無自覚のままこの近辺によってくることが多いほどである。
「投下ー!! 投下しろー!!」
そして、そんな中、オカルト改修された自衛隊の船が新潟湾近くの場所に霊的コンクリートブロックや、オカルト鋼材を次々と投下していく。
これはただ廃材を海に投下しているのではない。魚たちが安全に住む場所を作り出す事によって漁場を作り出す『人工魚礁』を作り出そうというのである。
オカルト技術で作られた金属ブロックは、魚たちを守る安全地帯にもなる。そしてこの海域は浄化されており、凍矢のエストマ効果霊水の影響で魚たちも普通に暮らせることができる。
そして漁師たちも安全に漁ができるということでこうした「人工魚礁」が推奨されているのだ。
「よし、『人工魚礁計画』はうまく進んでいるな。ほかの漁場の方は?」
「ハッ! 黒札様が佐渡=新潟の航路の近くに『氷柱杭』による漁場を作っていただけるとのことです!!」
とある黒札(多分黒死ネキ?)のアイデアにより、『氷柱杭』の性質を変化させ、不溶属性の氷にする代わりにエストマ霊水を排出する機能を付与、それを広域魔法陣を描くように打ち込んで『防衛霊水魚礁計画』を凍矢は行うことにしたのだ。
これは遠隔からの凍矢の霊力を原動力として、不溶属性にしてさらに霊水排出機能を付与することにより、メンテフリーの安全地帯を作り出し、巨大な漁場を作り出す計画である。これにより、いちいち毎回新潟湾に行かなくても済むので随分楽になる……はずである。
『氷柱杭』にぶつからないように気を付ければ最悪の場合船が逃げ込める安全地帯にもなりうる場所である。凍矢もまあメンテフリーで楽になれるのなら……とそのアイデアに乗って、『氷柱杭』を魔法陣結界の形に打ち込んでいるのだ。ここは安全圏の結界として展開され、さらにエストマ霊水が流れる事によって浄化ポイントとなっているので、人間界の魚たちも安全圏として避難してくるはず……である。真・女王艦隊の氷の戦艦に乗りながら、凍矢はふう、とため息をついた。
「ふう、数か所作ってみたけどこれでどうなるかしばらく試してみるか。新潟と佐渡をデメテルの権能で繋げる*1のは……まあそういうこともできるけどどうする?と鑑定ニキとパピヨンニキに提案してみるだけにしておくか。どう判断するかは向こう次第だな。」
──―北海道、十勝地区。
ここ十勝地方では日本最大の小麦産地ともいえるほど麦の栽培が盛んな土地である。十勝平野は小麦生産の約6割(北海道全体)を支えるほどである。
そして、当然の如く通常の麦ではなくオカルト系統の麦が栽培されている。
それは例えば『開錠ムギ』だったり、他の探求ネキが作り上げたオカルト麦の栽培。いわゆる『聖者麦』も大量に栽培されるようになってきている。そして、その地に降り立ったのは、凍矢の女性分身である『田舎ネキ』である。色々あってデメテルの力を宿す事になった彼女は、大地の女神の力と豊穣の権能を有している。彼女は一面の麦畑にその豊穣の加護を与えるためにやってきたのである。*2
「よし、じゃあ行きますよ。『豊穣の権能』ッ!!」
その瞬間、田舎ネキから放たれた眩い光が円周状に広がっていき、麦畑が次々と眩い光に包まれていく。
田舎ネキはその体に宿る『デメテル』の権能を使用し、広大に広がる一面の麦畑に『豊穣の加護』を与えているのだ。デメテルと麦とは非常に親和性が高く、そのため彼女は麦に対する強力な加護を与えることができる。
これで十勝地方の麦はほぼ豊穣が約束されたも同然である。そしてそんな彼女に声をかけてくるのは、十勝支部の主ともいえるウォレスニキ*3である。
「いやあ助かるよ。田舎ネキ。やっぱり麦とデメテルとは相性がいいからねぇ。それにしても……。まさか女性の姿になるとは……」
くくく、と笑いをこらえているウォレスニキに対して、田舎ネキは憮然とした顔になる。元々、デメテルは麦(穀物)の栽培を人間に教え、大地の実りを司り、象徴として麦の穂を手にしている。
デメテルが人類に小麦を与え、トリプトレモス(エレウシスの王子)に、小麦の種と農業の知識を授け、彼は世界中を旅してそれを広めたという伝承もあるほどデメテルと麦の関係は極めて深い。
魚沼市でも様々なオカルト麦や聖者麦の栽培は行っているが、気候的な問題で麦の栽培とは相性が悪い。そのため、田舎ネキはこうして麦の相性のいい土地に呼ばれては麦に祝福を与えている仕事を行っているのである。
「それにしても、最近ウォレスニキは聖者麦を大量生産に切り替えたのは何か理由があるんですか? 今までのオカルト麦でも十分でしただろうに」
「ああ……。聖者麦にはほら、特製があるだろ? メシアンが口にした瞬間、強力な麦角菌汚染が発生するモーセの怒りの効果*4がさ。そして麦角菌といえばそこから生み出されるものは?」
「あっ。(察し)『幻覚剤』ですか……」
麦角菌の麦角アルカロイドは循環器系や神経系に対して様々な毒性を示す。だが毒性を利用して微量の麦角は陣痛促進・子宮復古不全・子宮の病的出血・閉経期の出血などの薬などにも用いられる事もある。
そして、麦角成分であるリゼルグ酸を科学的に合成された幻覚剤がかのLSDである。
つまり、大量生産した聖者麦の一部をメシアンに触れさせ、麦角菌汚染された聖者麦から幻覚剤を作り出すのがウォレスニキの目的なのである。(なお、麦角菌は女神デメテルとペルセポネー崇拝のために行われていた『エレウシスの秘儀』のキュケオーンでも使用されていた形跡があるので、田舎ネキ(正確に言うとデメテル)とも完全に無関係ではない模様)
「いやぁ、幸福付きのマッスルドリンコはよかったんだけどねぇ。天使の無限沸きがなくなってマッスルドリンコも以前よりは少なくなってしまった。他のシノギを得るためには、こういう分野にも手を出していかないとな。副作用無しのマッスルドリンコは最高のヤクだったんだけどねぇ」
お、おう……。と田舎ネキはドン引きしながらウォレスニキの言葉に反応していた。基本的に一般人思考である彼……もとい彼女にとって「シノギのためのヤク作り」は正直引くが、別に表立って非難するほどでもない。
正直に言えば「好きにすればいいんじゃない?」というのが本音のところだ。
実際のところはメシアンの召喚した天使をそのままマッスルドリンコにしているようなので、少なくなったといっても十分量は補える(メシアンさえいれば)のだろうが、今のうちから色々なヤクの開発をしておいたほうがいいだろう、という判断なのだろう。
「ま、まあ私はあくまで聖者麦や他の麦の祝福に来てるだけなのでその辺は無関係なので……。しかし大丈夫なんですか? モーセの怒りが籠った幻覚剤なんてそれこそヤバい代物では?」
「まあねぇ。ウチの刑務所の実験だと、特にメシアンがキメるとヤバいことになるらしいね。メシアンの場合はそのまま魂が抜けてどこかに行くんだとか? 天国? まあ天国に行ければいいねぇ。まあデメテルの権能を持つ田舎ネキの力の影響で「エレウシスの秘儀」として使用されていた「キュケオーン」の影響も出てくるんじゃない?ウチのキルケーにも見てもらったほうがいいかもだけどね。」
モーセの怒り(特にメシアン)がこもった幻覚剤なんて使用してメシアンが無事ですむはずなどない。それこそ魂がモーセの元へと召されていく(比喩表現ではない)だろう。ともあれ、一般人にバンバン使うのでもなければ十勝支部の問題だし……私は聖者麦の豊穣を行うのが仕事でほかの事は知らないし……まあええか!と田舎ネキはめんどくさいのでそれ以上考えるのを放棄した。
(もしかしたら幻覚剤をメシアンにやらせてハイになったところで天使を召喚、その天使をマッスルドリンコに変えてるかもしれない……というかそっちのほうが効率がよさそうですね。そのやり方で幸福効果付きのマッスルドリンコが生みやすくなったと以前言ってましたし。*5まあ他所の支部の運営にどうこう言う権利はないし……とりあえずヨシッ!!ということで。)
「それはともかく、田舎ネキは麦以外にも祝福できるんだろ?ほかにもじゃがいも、てん菜、豆類あたりとか他の農作物の祝福も頼むよ。よろしくね。」
かしこまり!と田舎ネキはそのウォレスニキの言葉に頷いた。
──―魚沼市秘密銃器製造工場。(なお終末後は別に秘密ではない模様)
その工場ではキノネキからもらった様々な銃器の情報や銃器職人を庇護することによって、さまざまな銃器の製造……AK-47など簡易に作れる銃のガイア銃や簡易ガイア銃の製造、そしてガイア弾や様々な属性弾、メシア弾とガイア弾の間の五島弾などの製造を行っていた。これら銃火器は接近せずに遠距離から悪魔を倒せるということで、当然のごとく現地民たちには非常に人気が高く、需要も高い……が問題は銃弾の使用コストではあるが、それは割り切るしかないだろう。
そして、魚沼銃器工場では新しい……いや古い兵器の再開発などが行われていた。
「撃て!!」
「了解ッ!! ファイアッ!!」
九重家の戦闘班が両手足を切り落としたガキに叩き込んでいるのは携帯式対戦車擲弾発射器……いわゆる『パンツァーファウスト』である。パンツァーファウストは簡易な構造かつ省資源での生産が行えるように設計されてはいるが、いかんぜん第二次世界大戦中の代物。はっきり言って時代遅れもいい代物である。後継と言っていいRPG-7ですら時代遅れだというのに、それよりさらに昔の兵器など役に立つのか?という意見もあったが、終末後の物資のない世界では、簡易で省資源で作れる&歩兵に高い火力を与えられるというのは魅力的だったため、静が命じて再生産を行ってみたのだ。(簡易な構造なら終末後でも動きそうだし)
またそれだけではなく、メガテンではいわゆる『戦闘アイテム』が存在する。例えば『ハンドグレネード』はザンマと同じ効果を悪魔に叩き込めるため、このような攻撃アイテムの製造にあたって何か悪魔に対して特殊効果を与えられないか色々研究も行われているのだ。黒札たちにとっては「いやザンマストーン使えばよくね?」という考えではあるが、彼女たち現地民にとっては「自分たちで攻撃アイテム」を作れるということは滅茶苦茶重要なのである。
例えば『火炎瓶』はいうまでもなく、『ハンドグレネード』は一度だけだが『ザンマと同じ効果』を敵に叩き込むことができるし、『えんまくだん』や「スタングレネード』は戦闘から離脱できるトラフーリの効果を有している。
魔術が使えない現地民にとって、一度きりだがザンマと同じ効果ができる攻撃アイテムなどまさに決戦兵器と言っていい。えんまくだんやスタングレネードも生き残るために必須だ。
安くて手ごろであるこれらのアイテムは北神奈川支部や静の工場などでも大量生産され、人類防衛の大きな力となっている。
スティンガー*6やドラゴンATM*7も製造は行っているがこれらは強力な反面価格が高くなってしまうのがネックではある。ともあれ、パンツァーファウストの効果を計測していた九重家の戦闘班は機械の結果を見てぽかーんと口を開ける。
「どうかしましたか?火炎瓶と同じくアギ効果ですか?それともハンドグレネードと同じようなザンマ効果?」
「……万能です……」
「は?」
部下の言葉に、静もポカーンと口を開ける。アギ系かザン系効果を予測していた静の予想を遥かに上回る効果が測定されて理解が追い付かないのである。
「万能効果が確認されました。つまり……パンツァーファウストは実質メギドストーンと同じということに……」*8
「……キノネキ様に至急連絡!! 大至急パンツァーファウストの製造ラインを作成!! 大量生産しても効果が出るか確認を行います!!この情報は機密指定にします!!ほかの勢力に知られないように!!」
黒札にとっては別に大したことではないが、これは現地民である静たちにとっては天地がひっくり返るほどの大きな出来事である。黒札に頼らずメギドストーンと同じ効果のある武装(しかも製造が簡単で大量生産できる!)を自前で作成できるなど、現地民たちが目の色を変えて飛びつく情報だ。
つまり、「工場さえあれば現地民たちでもメギドと同様のアイテムを大量生産」できるのだ。しかも黒札たちやガイア連合に頼ることなしに!!これはこれからの現地民たちの対悪魔戦闘をひっくり返すほどの出来事である。(何で!?どうしてパンツァーファウストなんて古い武器で万能効果がでるの!?)と静自身もパニックに陥りかけるが、冷静さを取り戻してこの情報を活用できないか彼女は分析する。
(機密には指定しましたが、使用をし続ければこの情報はどうしても漏れてしまうでしょう。となればこの情報のアドバンテージを真っ先に生かすべき……つまり、行うべきは『パンツァーファウストの大量生産』です!!万能攻撃アイテムをガイア連合や黒札様を頼らずに大量生産できるなど、こんなチートを生かさない理由がない!!どうして万能攻撃になるかなどは後回し!!これを使用して対悪魔戦闘や他の勢力に対して上手く立ち回る!!テロに使われる可能性もありますが……悪魔召喚プログラムなんて使われているので今更!!万能攻撃アイテムでもこの程度なら黒札様たちには通用しないでしょう!!つまり大量生産しかないというわけです!!)
「パンツァーファウスト」が万能系攻撃というのは思わずびっくりしたよ。
(なのでネタに使う)