キノネキが作り上げた東京方面から侵攻してくる敵勢力から山梨支部を防衛する砦とも言える支部『北神奈川支部』その支部ではいわゆる「人材不足」に喘いでいた。その人材不足を解消するために、キノネキは霊能者の育成・教育を行う場所を作成した。それこそが『北神奈川防衛大学』である。
だが、そこでも大きな問題が生じていた。それは簡単にいうと『先生になれる霊能者の不足』である。
特に戦闘系はまだしも、キノネキ曰く「医療系だって、人員は現場にすら足りてない」とのことで、医療系霊能者の枯渇は北神奈川支部では激しいものだった。そこでキノネキがガイアフォンで相談したのは『救護ネキ』である。
「あの、救護ネキ。北神奈川防衛大学で医療の勉強……」
「お待ちしていました!! いつやりますか? 今日? それとも明日? もう今日からでいいですよね? 私がそう決めました。はい決定。分身発進ッ!!」
「待って待って待って。早い早い早い。もう少し落ち着いて……」
ふんすふんす! とやる気満々の救護ネキに対してキノネキは必死で落ち着かせる。今日人材募集して今日からすぐ講義やります! なんて言われても普通の人は対応できない。ともあれ、キノネキは救護ネキを落ち着かせて応募してしばらく時間を置くことになった。
「ふむ、つまりその間にしっかりとオカルト医療教育のための準備を行えと……。確かに道理ですね。一人オカルト医師が存在すればその分救える命は非常に多くなる! それはつまり「救護」に繋がります!! さすがはキノネキですね!!」
その瞳をキラキラさせた救護ネキの勢いに、思わずキノネキは、お、おう……。と引いた反応を返すしかなかった。
そして、キノネキが作成した『北神奈川防衛大学』。そこは元々あった大学の「ハコモノ」をキノネキが再利用して作り上げたばかりの新しい霊的オカルト学校である。そこで救護ネキの分身は、オカルト医師候補たちに対して講義を行っていた。一人オカルト医師が増えれば、それだけ救える命は非常に多くなる。それは救護ネキの「救護」の信念が広まるということである。
「まず、医療に必要なものは何だと思いますか? 味方全体のHPを全回復する『宝玉輪』? 味方単体のHPとMPを全回復する『ソーマ』? 味方全体の状態異常を回復する『アムリタシャワー』? いいえ、どれも重要ではあるが違います。一番必要なのは『死にかけた人たちの前にいる貴方が使えるディア』です。遠いところにある高級アイテムよりも、死にかけた人間の前で貴方が使用する『ディア』これこそが最も重要なのです。これを覚えておいてください」
そう言った後、救護ネキはオカルト医師候補生たち一人一人のガイア連合性の魔術アイテムを渡していく。それは
一匹の蛇が巻き付いた杖である所謂『アスクレピオスの杖』である。これは破魔ネキのシェルターにいる『アスクレピオス』に対して頼んでわざわざ魔力を込めてもらったアイテムである。これには「ディア」のスキルカードが込められており、例えディアが使えなくてもこれさえあれば何とかできるレベルである。
(もちろん、医師候補生たちが覚えてくれればそれに越したことはないが、霊的素質で覚える事ができない人もいるため)
「まずは、貴方たちには『ディア』の力が込められたアイテム『アスクレピオスの杖』を一人ずつに差し上げます。これを使用すればディアが使えなくても問題はありません……が基本的にアイテムを使わなくても『ディア』を使えるように教育していきたいと思います」
それを聞いて医師候補生たちはざわめき出す。一人につき一個ディアを使えるアイテムを無料で支給するなど破格も良い所である。しかも支援はそれだけではなかった。
「また『魔導書』こと『医療魔導書』も各員に差し上げます。こちらを勉強すれば【傷薬】みたいな非覚醒者のための薬、【魔石】や【ディスポイズン】など霊能力者用の薬などを自前で調合する事も可能になります。終末前と異なり、いつでもどこでも薬が手に入るという恵まれた環境ではありません。いざとなったら自前で薬を調合する必要もありえます。この魔導書があれば自前で簡単な薬も調合できるでしょう」
これは「はかせ」がアナスタシアに上げた魔導書を救護ネキが纏め直した物であり【回復プレロマ】【延長強化】などの効果、『自己回復(HP/MP/状態異常)を促進させる』 『自己修復機能』『霊薬作りサポート機能あり』などと言った機能も付与されている。この魔導書単体でどこでも、結界(仮)が作れ、一晩で自分とPTメンバーが回復できる優れものである。*1
この『アスクレピオスの杖』と『医療魔導書』さえあれば、覚醒さえしていれば最低限オカルト医師として働けるほどの代物である。そんなものをポン、と渡されれば医師候補生たちもざわつくのも当然であろう。
さらに、救護ネキは彼らに対して、ガイア連合の様々なオカルト治療アイテムを見せて解説していく。「ディア」で治せるといってもと言ってもそれだけで全てすむわけはない。例えば彼女が医療班に作り上げた「無痛メス」なども実地を交えて解説していっているのである。さらに、救護ネキは北神奈川支部に属する黒札の一人である「ヤプールニキ」と協力して作り上げた「現地民たちでも簡単に扱える回復アイテム」を紹介していく。
「後はこちらはヤプールニキを締め上げ……ごほん、ヤプールニキと協力*2して、影響を受けている製薬会社に作り上げた低レベルの医療従事者でも扱いやすい回復アイテム『ナオール錠50mg』*3、『絆創膏』*4、『点滴バッグ』*5になります。北神奈川支部の特産品もできて一石二鳥ですね」
ナオール錠は飲むだけ、絆創膏は張るだけ、点滴バックは点滴するだけ、と極めて簡単な回復アイテムである。
傷薬でいいじゃん? と思うかもしれないが、傷薬がない状況も十分考えられる。回復アイテムなんていくらあっても困らない状況なのだ。救護ネキは自分自身の知識と霊薬の知識をヤプールニキの配下の製薬会社に教え、製薬会社でも量産しやすい&低レベルでも使いやすい回復アイテムの量産を試みているのである。
さらにそれだけではなく、救護ネキが人魚ネキの『夜守のおくるみ』*6を元にして独自に作り上げた『霊的包帯』を彼ら医師候補生たちに惜しげもなく与えていく。*7これは救護ネキ、人魚ネキ、アラクネキ三人のMAGが籠った宝石をシキガミマザーマシンへとセットすることによって、MAGが切れるまで延々と包帯を作成することが可能である。もちろん、高レベル三人の黒札たちのMAGが込められた包帯がただの包帯のわけがない。救護ネキは医師候補生たちに解説を行っていく。
「これはいわば「創傷被膜材」にかなり近い人工皮膚ともいえる包帯ですね。傷口に巻くだけで傷口と一体化・傷を消毒・補修してあっという間に傷口を癒してくれる「創傷補修生体部品」ともいえる代物です」
救護ネキがアレンジした『生体補修包帯』は『損傷を復元する修復』『免疫強化』『傷口の汚れを浄化』する概念を最大限に高めた代物である。医療用の創傷被覆材(ドレッシング材)は、傷を外部の刺激や細菌から保護し、適度な湿潤環境(モイストヒーリング)を保つことで治癒を促す医療材料であるが、これをさらに推し進めたもので、巻いただけで傷口を自動消毒・殺菌を行い、傷口と一体化して皮膚へと変化し、失われた筋肉や脂肪なども全て自動的に補修してくれる優れものである。
さらに守護結界の余波か痛みを完全に無くし、包まれたような安心感すら覚えるという精神的効果すらあるのだ。つまり簡単にいうと『巻いただけで傷口と一体化して傷を癒す包帯』である。傷口の泥や細菌も完全に除去し、巻いただけで皮膚だけでなく骨や筋肉、皮膚まで完全再生していくこの『生体補修包帯』はゲーム的な効果的には『DYING(瀕死)を回復し、ディアラマと同じ効果』をもたらす能力がある。
そしてこの包帯の本質は「例え未覚醒者でもこれさえあればDYING(瀕死)を回復させ、ディアラマを使える事ができる」という事である。
上半身と下半身が両断されてもこれを巻けば瞬時に回復。首と胴体が切り落とされても完全に死亡してなければこれを巻けば即時に回復、四肢が切り飛ばされても巻けば回復という優れものである。これさえあれば、例えディアでも使えない医師候補生たちでも極めて優秀な医師へと変貌できるのだ。そんな医師候補生たちにとってはまさに切り札ともいえるアイテムを、救護ネキは惜しげもなく供与していった。
(私たち黒札ならばディアラマは使えますが、彼らはディアですらいっぱいいっぱいですからね。いざというときにディアラマ効果のある包帯があれば安心感が違うでしょう)
「基本的に医者である貴方たちは前線で戦うことは非推奨です。戦闘になる前にさっさと逃げていくのが最善です。……ですが、いざという時の最低限の自衛のための戦闘力は必須。それを教えていきます」
そういうと、救護ネキは『アスクレピオスの杖』を手に、スライムと向き合う。救護ネキにとっては文字通り指先一つで吹き飛ばせる程度にとっての相手ではあるが、医師候補生にとっては異なる。
ざわめく彼らを他所に、救護ネキはアスクレピオスの杖に魔力を込めると、それでそのままスライムを殴りつける。そしてその瞬間、スライムの肉体はボコボコと異常に膨れ上がり、バン!! と弾け飛ぶ。これはいわゆるディアを大量に注ぎ込んだ『過回復』によって細胞を一気にガン化させて対象にダメージを与えたのだ。
「この『過回復』は基本的に生体系の悪魔にしか通用しません。しかも貴方たちより上の悪魔には純粋に吸収されて終わる可能性もあります。気を付けてください」
さらに、救護ネキは他の戦闘術も彼らに教えていた。それはいわば「心霊手術」を流用した呪法ともいえるものだった。ガキと向き合った救護ネキは、襲い掛かってきたガキに対して心霊手術を決行。襲い掛かってきたガキに対して手刀を叩き込み、そのままガキの心臓を抜き取るという『沖縄支部式内臓攻撃』の亜流である。*8
救護ネキは、医師候補生たちに心霊手術も教えているため、それを流用した護身術を教えたのだが、これに対して医師候補生は一斉に(ヾノ・∀・`)ムリムリと手を振った。
悪魔に対して接近して攻撃を仕掛けるなど、戦闘訓練も受けていない彼らには無茶無理無謀である。
『沖縄支部式内臓攻撃』は『前転回避』と俗に呼ばれる古式悪魔召喚術の極意である『召し寄せ』という名の空間操作の応用を行うが、当然現地民たちにそんな超高度な技が使用できるはずもない。それに対して救護ネキも流石にそれもそうか、と自分の考えを改めた。
(そうなるとまた別の護身術なり武装なりを渡す必要がありそうですね。やっぱり北神奈川支部ですし銃器系を渡すのが一番早い感じですかね?)
そして、北神奈川支部に、キノネキが「とある男性」を招き入れたのをきっかけにロボ部のメンバーは一気に騒ぎたった。彼の名前は『ロジャー・スミス』アメリカ出身の現地民で凄腕の交渉人である。*9
だが、ロボ部が沸き立ったのは彼の原作『ビッグオー』で彼が巨大ロボ……メガデウスである『ビッグ・オー』を操っていたことであった。「ロジャーが現れたのだからビッグ・オーを与えたい!」これはロボ部の共通認識でもあった。
「という訳でビッグオー作ってくれない?」
「くれない?」
「何が「というわけで」なんだよお前ら……」
わざわざ呉支部まで来てロボ部の黒札の一人に直接面談しているのは、凍矢と呉支部とある程度の繋がりがあり、積極的に呉支部の工場を誘致した『スピードキングニキ』である。
彼らは呉支部に対して直接ビッグオーの作成依頼を行うためにわざわざ呉支部までやってきたのだ。その忙しい⑨ニキに代わり、呉支部でもそれなりの地位にいる黒札の一人が直接対応したその黒札は、凍矢たちの言葉に呆れた声を出す。
「いやでもロジャーだよ? ロジャー・スミスだよ? ビッグオー持って活躍してるところ見たくない? お前たちのロボ愛はその程度なの?」
「バッカお前! こんなの……喜んで協力するに決まってるだろ!! 気合入れて作って最高傑作にしてやるさ! とはいうものの、相手は黒札じゃなくて現地民だからな……。それなりのセキリュティシステムを組む必要があるか……」
デスヨネーとスピードキングニキも凍矢も二人揃って腕を組んでうんうんと深く頷く。わりとお互いロボの問題で掲示板ではレスバしている呉支部と魚沼支部ではあったが、こういったことでは喜々としてお互い協力しあうのが常である。
ビッグオーには「CAST IN THE NAME OF GOD, YE NOT GUILTY(我、神の名においてこれを鋳造する。汝ら罪なし)」という言葉が流れる。これはビッグオー……メガデウスに認められたという証であり、これを無視して無理矢理動かすとそれなりの報いを受けた。
それを流用して、もし現地民がこれを使って好き勝手暴れまわろうとしたときに起動を停止するシステムを組み込むことにしたのだ。
「まあ、ともあれ運用は工夫しないとな……。本編だと地下を利用して運用していたがそんなものないしな……」
ビッグオー本編では都市の地下の線路などでビッグオー自体を移動させていたが、あちこち動き回るロジャーに対してそんなことはできるはずもない。となれば別の瞬間転送システムなどが必要となる、というのがロボ部共有の考えである。
「ウチの転送システム……『虚数展開カタパルト』を使う? アレならいつでもどこでも転送できるし、『腕』だけを召喚して相手を殴り飛ばしたり『腕』で防御したりもできるけど?」
「ううむ。業腹だがそれを使うしかないか。データとかシステムとかこちらにくれ」
凍矢が所有しているデモンベインの『虚数展開カタパルト』はトラポートの応用でどこでもデモンベインを召喚できるシステムである。そのシステムをそのまま入れれば、いつでもどこでもビッグオーを召喚できる事ができる。しかも体の一部、『腕の一部』だけを召喚して敵を殴り飛ばしたり防御したりする応用も可能である。それを聞いて、呉支部の黒札は腕を組んでううむ、とうなり声を上げる。
「まあそれはいいんだが……。代金はどうするんだ? ウチのロボはかなり高いぞ? キノネキに料金押し付けるのもこう……アレじゃないか?」
キノネキに対して勝手に作って勝手に押し付けて代金はそちら持ちで、というのは流石に黒札同士でもマナーに反するというものだ。では凍矢が支払うのか? というと凍矢は思わずさっと目を背ける。見も知らぬ人間のために自腹を切ってロボを買い与えたなんていえば、ほむら辺りが「子供もいるのに何をしてるんですか師匠!」と怒り狂うのは目に見えている。それを見て、予想はしていた呉支部の黒札はため息をつく。
「仕方ない。建設費は呉支部と魚沼支部とかのロボ部内部のカンパを募れば何とかなるだろ多分。田舎ニキにはその分、体で払ってもらおうか? 最近旧岡山からの様々なゾンビや屍鬼系列悪魔の無限生産侵攻がウザイからな……。その辺を田舎ニキにはやってもらおうか」
──―旧岡山。そこはかつて守ろうとした黒札たちを追い出し、壊滅してしまった地域である。どうもDARK寄りか嗜虐性の強い悪魔に占拠されたらしく、その地にいたものたちはほとんど殲滅され、その地から無数のゾンビやスケルトンなど『屍鬼』が無数に排出される土地へと変貌してしまった。(モモタロウが一部人々たちを保護しているかもしれないが)*10ともあれ、その溢れ出た『屍鬼』は呉支部や姫路支部へと溢れ出し侵攻を開始していた。
当然呉支部でもそれらを蹴散らせる力は十分にあるので問題はないが、とにかくうざったい。根本的に何とかしてほしい、ということで白羽の矢が立てられたのが凍矢である。
セツニキ……正確に言えばショタおじの防衛装置によって浄化された土地もあるが、まだまだ未浄化の地域も存在し、そこから無限に『屍鬼』があふれ出してしまう『死都』と化してしまった旧岡山。その上空を戦闘機形態に変形した『破裂の人形』が高速で接近していく。そして、その上にはデモニカ『グリスブリザード』を装備して強烈な風圧から身を守っている凍矢が乗っている状態だ。
「よし、それじゃ行くぞ。手加減をして……『マハアクエス』!!」
その瞬間、旧岡山近辺に対して、凍矢の霊水で構築された「霊水の雨」が一面に降り注いでいく。その『浄化』の権能を持っている霊水の雨は屍鬼に対して極めて効果が高く、雨を浴びた屍鬼たちは一斉に溶け出して『浄化』されていく。旧岡山を彷徨っている無数の屍鬼を一斉に『浄化』させていくその雨は、まさにマップ兵器そのままであった。土壌に染み渡った霊水は土壌自体も全て浄化するため、これでこの地から屍鬼が無数に湧き出ることはないはずである。
「よし、浄化完了。生き残りはいないと思うけど、生きてる人間なら霊水を浴びただけなら問題ないだろ。あとは再度シェルターを建設するなりなんなりは他の黒札たちに任せよう。それじゃ……」
と、霊水の雨を広範囲にまき散らして一安心しながら飛行している中、その瞬間旧岡山から少し離れた場所から猛烈な威嚇の咆哮が浴びせられる。上空から見てもかなり巨大な悪魔……九つの首を持つ大蛇が蠢きながらこちらに対して咆哮を上げているのだ。その巨大は高層ビルを遥かに凌駕するほどの巨大さだった。「岡山で巨大な九つの首を持った竜」と聞いて凍矢の頭にピンとくるものがある。それは以前に凍矢が戦った竜である「ヤマタノオロチ」である。そう考えるのは実に自然であるが、姿を現したその多頭竜は、通常のヤマタノオロチとは異なっているまさに異形の姿であった。
「ヤマタノオロチ……!? いや何か混じってる!?」
そう、それはヤマタノオロチをベースにはしているが、その変わっている所は多頭部分が竜ではなく「人間の首」になっている部分である。いうなれば「九つの人間の頭を持つ大蛇」という異形の竜であった。
その異形の竜は霊水の雨を逃れてさ迷っていた屍鬼をひたすらその九つの頭で貪り食らっていた。九つの人間の頭を持った竜が人間であった屍鬼を次々と貪り食らっていく光景はまさに悪夢そのものだった。以前ヤマタノオロチと戦ったことがある凍矢にはその霊的な異変がはっきりと理解できたのだ。
「ベースはヤマタノオロチですが、何か混じって浸食しています。あれは中国神話の『相柳』が混じりあっていますね」
>ヤマタノオロチ相柳(仮称)(レベル80)
相柳は古代中国神話に登場する怪物の一つ。九つの人間の頭を持つ大蛇の姿をしているとされる。同じ多頭竜という概念を利用して、ヤマタノオロチと融合した相柳は日本と強い親和性を持ち、力を蓄えるために、旧岡山から湧き出す屍鬼たちを餌としてむさぼり食らい、自らの力を蓄えていたらしい。
だが、餌の湧き出る場所を完全に浄化され、怒り狂った相柳は自分の餌場を潰した凍矢に対して襲い掛かってきたらしい。
高速飛行でヤマタノオロチ相柳の上空を飛行しながらアナライズを行っていた破裂の人形は凍矢に対して忠告を発する。
「マスター。相柳は「退治された時に流された大量の血液が広範囲の土地を汚染し農業などを不能にした」「体から毒水を出す」ということから、斬撃などを行うとその毒液が地面を汚染する可能性が高いです。ご注意してください」
ええい面倒くさい、と凍矢は心の中で呟く。だが、冷却魔術を得意とする自分なら他の黒札よりは相性がいいはずである。ヤマタノオロチ相柳が吐き出す毒液を全て冷気で凍り付かせながら、凍矢は新技の実験台にちょうどいいか、と判断する。だが、その「新技」が万が一でも外部に漏れだして影響を与えたら困る。それほどの危険な技なのだ。それを考えた凍矢は自らの固有結界……もとい「領域展開」を発動させてヤマタノオロチ相柳を自分ごと別の空間、別の領域へと封じ込める。
「固有結界……もとい、領域展開!! 『大紅蓮氷輪丸』ッ!!」
凍矢は自らの固有結界……領域展開である『大紅蓮氷輪丸』を作り出し、ヤマタノオロチ相柳を取り込んで現世から自らの空間へと隔離する。半球状に隔離された空間は、幼女ネキの『招雷吼』とは対極に位置しあらゆるものを全て吹雪で包み込んで猛烈な豪雪によって相手を死に至らしめる超低温の結界である。
だが、凍矢はそれを攻撃のためではなく、現世から隔離するための決戦空間として使用しており、その能力も攻撃よりはこの空間からの影響が現世にあふれ出ないための空間隔離・防御に全力を注いでいた。
「これだけだと不安だから……デモンベインの力、ロボを操る「デウスエクスマキナ」の権能を使用し、幼女ネキの【ディバイディングドライバー】使用ッ!!」
さらに、幼女ネキが所有しているロボ『ガオガイガー』の力を一時的に借り受けて、【ディバイディングドライバー】を使用させてもらい(いざというときに備えて使用許可は幼女ネキから取っている)さらに戦闘フィールド「ディバイディング・フィールド」を形成し、【ディバイディングドライバー】による空間隔離と『大紅蓮氷輪丸』による二重の空間隔離を展開する。これだけ厳重に隔離したのは万が一でも外界に影響が出ないようにするためである。もしこの技が外界に溢れたらどんな影響が出るか凍矢自身にも不明だからだ。それだけ危険な新技を彼は放とうとしているのである。戦闘機形態の破裂の人形の上に立った彼は目を閉じて自身の中に集中して自分の力を引き出す。
「【氷結ガードキル】【氷結ハイブースタ】【氷結貫通】【コンセントレイト】……」
ここまでは比較的普通である。だが、彼はさらに深く集中して自らの内部からさらに強大な力を引き出そうとしているのだ。
「『魔導の奔流』*11『厳冬』*12『雪嶺の息吹』*13『全天氷結』*14そして『冬将軍』*15ッ!!」
コォオオオ! と凍矢は極限にまで集中して、自分の中に眠る冬将軍の権能を全開にまで引き出す。そしてそれは冬将軍だけではなく、冬将軍を通してさらにその奥底の根源たる地球意識たる存在『大霊母メムアレフ』の権能を引き出す。
遥かな太古の昔、約7億1700万年前から約6億4300万年前に地球は『全球凍結』という地球自体が完全に凍り付いた『スノーボールアース』という状態になった事がある。地球が完全に凍結された氷河期の時代である「原生代初期ヒューロニアン氷河時代」「原生代末期スターティアン氷河時代」および「マリノアン氷河時代」という超大古の時代。冬将軍の権能を通して地球意識からその時代の記憶を呼び起こし、その『全球凍結』という「ありとあらゆる存在が凍り付いた」「大氷河期時代」という概念自体をそのまま相手へと叩きつける。それこそが凍矢が新開発した技である──―。
「【全球凍結《スターティアン氷期》】*16ッ!!」
メムアレフの記憶から引き出した『全球凍結』『大氷河期』という概念そのものをぶつけるということは、つまりメムアレフの専用スキル『氷』をそのまま使役できるということである。その威力は『ブフゲイト』すらも大きく上回る威力だ。凍矢の手から放たれた超小型の疑似地球……地球意思の『全球凍結時代の記憶』は凄まじいありとあらゆる物体と物質を凍り付かせ粉砕する冷気と凍気をまき散らしながらヤマタノオロチ相柳へと命中する。
「ガ……ア……!」
そんなものを真正面から食らって無事に済むはずはない。ヤマタノオロチ相柳は瞬時に骨の髄まで完璧に凍り付いて完全に砕け散る。その新技の威力に満足し、凍矢は順番に空間歪曲や領域展開を技の影響が外部に漏れ出ないかチェックしながら解除していく。
スターティアン氷期の影響が外部に出ないように領域展開した『大紅蓮氷輪丸』をそのまま自分の内面へと格納・取り込み(次いでに不純物のヤマタノオロチ相柳のフォルマなどを吐き出し)そして【ディバイディングドライバー】を解除して外界に影響ないなヨシ!!した凍矢は言葉を放つ。
「しかし、どうでもいいけど俺「多頭竜」と何かと因縁があるよなぁ……。何でなんだろ。」
「それはいいのですがマスター。『相柳』は体から毒水を出し、周囲の大地を汚染した」とあるので、結構汚染されてる領土が多いのでは?念のためさらに広範囲に霊水散布する必要があるのでは?」
その戦闘機形態の破裂の人形の言葉を聞いて、凍矢は思わず渋い顔になりながら舌打ちする。相柳の通過したあとは谷や沢に変貌してしまったという逸話もあり、さらに体から毒水を出し、周囲の大地を汚染するとされている。今回は完全に凍結封滅したので血液は漏れ出ないが、それでもその影響はあちこちに残っているかもしれない。
その影響を修正するため、さらに大規模の霊水散布が必要になったのだ。
「……仕事増やしやがって……。《報酬上乗せだ!》とかエースコンバットゼロみたいに言いたいよなぁ」
〇余談
様々な霊的教育を行って北神奈川防衛大学。そこに非常勤講師として働いている救護ネキの分身は、同じく非常勤教員として戦闘訓練などを行っている「教官ニキ」に一体の悪魔?を紹介する。それはデモニカをデフォルメ化してフロスト系の顔をつけたような異形の悪魔だ。その悪魔に対して教官ニキは不思議そうな顔をする。
「……救護ネキ。こっちは?」
「ええ、こちらは田舎ニキの仲魔の『ザオウゴンゲン』の分身『デモニホ軍曹』ですね。ぜひここ北神奈川防衛大学でも新人デビルバスターたちに教育したいと。」*17
人員不足に喘いでいる北神奈川支部を見て、防衛隊の戦闘員育成のために送り込まれたデモニホ軍曹。デモニホ軍曹と教官ニキが二人揃えばより効率的に新人たちを育成できる。そう判断した教官ニキは試しにデモニホ軍曹に新人教育を任せてみた。
「行くぞ若造ども!! 泣いたり笑ったりできなくしてやる!! 『デモニホプートキャンプ』の始まりだ!! ……ホー!!」
ザオウゴンゲンの分霊である『デモニホ軍曹』。それは「死にたくない」という現地民たちの根本的で根源的な願いに応じて、ザオウゴンゲンが派遣した戦士を鍛え上げるために特化した分霊である。なお、ベースが修験道の主神の蔵王権現なので当然のごとく修行は厳しい。めっちゃ厳しい。黒札や金札に対する訓練と異なり「生き残るために」「戦士を育てるため」の訓練になるので当然といえば当然なのだが、その厳しさはあの「教官ニキ」が防衛隊に対する教育に対して「もう少し手加減を……」と思わず止めるほどである。
「あ、あの……ザオウゴンゲン様……? もう少し手加減というものを……」
「痛くなければ覚えませぬ……ホー!」
ともあれ、教官ニキとデモニホ軍曹はお互い協力しながら北神奈川防衛大学で防衛隊の訓練を行う事になった。ちなみにデモニホ軍曹はキノネキが以前打倒した『日連神社金峯山蔵王大権現』とも協力体制を取っている。*18
同じ神の分霊でも対立する場面も珍しくはないが、少なくとも彼らはお互い協力を取る形になっている。ヤプールニキの秘密基地、相模湖南岸の霊的護りは、日連神社の蔵王権現が行っているが、それは山梨県から山脈を通じて流れ込んでくる地脈の流れを蔵王権現が制御してこの近辺に結界を展開し、さらにその地脈エネルギーを相模原のガイア連合基地へと流して結界展開のエネルギーの源へとしている割と重要な任務である。(これにはヤプールニキがきちんと契約で縛っており、ショタおじも認めているため問題はない)
そして、その地脈エネルギーは近隣の八菅山や丹沢山などといった元々修験道で有名な霊地を「霊山」へと変貌させていた。つまり、この山々は「修験道」にとって最適な訓練地であった。
「山岳信仰を生かした『修験道』修行を行うホー!! 特に自衛隊……防衛隊志望で新入りの覚醒者たちにはおすすめホー!! 軍隊でも確か「レンジャー訓練?」とかあったからそういったものだと思えばいいホー!!」
「あの……いきなり素人にレンジャー訓練……もとい修験道をさせるのは……。もう少しきちんと訓練を積んだ後でも……。」
その教官ニキの言葉にデモニホ軍曹はそうかな……そうかも……と渋々頷いた。
これは単にビッグオー押し付けたいだけの自己満足では?
田舎ニキ「はい」
スピードキングニキ「はい」
呉支部の黒札「はい」