魚沼シェルターの雪解けの時期。すなわち春を迎えようとしている時期。一人の女性が雪解けの水でぬかるんだ地面を軽快に疾走していた。腰まで伸ばした菫色の髪をツーサイドアップにした少女。頭には「先生ネキ」が作り出した『ヘイロー』を浮かべ、女性シキガミが着る用の超高位防御用霊服である白いジャケットに黒いブレザー、腰には予備のマガジンを収めたベルトにミニスカート姿、手にはサブマシンガンを手にした彼女は、未覚醒者では死地とも言えるシェルター外部を物ともせず高速で疾駆していく。
彼女こそは秋葉ユウカ。(レベル70)
魚沼シェルターの重鎮にして魚沼シェルター会計担当最高幹部の一人である彼女は、黒札である凍矢と準黒札級の実力を誇る現地民ほむらの間の子であり、いわば黒札の直系の子だ。
その霊能力の高さはピカイチであり、凍矢とシキガミの「破裂の人形」との間の子『碧神ハルナ』に次ぐ高位の霊能力者である。ほむら譲りの気の強さと面倒見の良さ、常識人でありバランスの取れた性格、高度な経済感覚や交渉力、高度な火炎と氷結両方を操り、さらにはそれを組み合わせた『メドローア』の使い手であり戦闘能力にも優れるため、彼女を慕う人間は非常に多く、魚沼シェルターの大黒柱であり次世代のエースとも言えた。
そんな彼女は、魚沼シェルターから少し離れた山の中で一体の悪魔……神霊と対峙していた。その神霊は九重家の人間たちを捕えて人質にしてユウカを呼び寄せたのだ。
「全く! 九重家の人間を餌にして私を吊り上げようとはいい度胸してるじゃない……!」
ユウカは片手に構えたSIG MPXのサブマシンガンガイア銃をその神霊に突き付けて言葉を吐き捨てる。その神霊はまるで凍り付いたような下半身に凍り付いたような長髪を垂れ流しにしているような異形の神霊。
──―死神ヘル。(レベル47)*1
下層に存在するとされる冷たい氷の国「ニブルヘイム」の一角「ヘルヘイム」に住まうとされる神であり、フェンリル、ヨルムンガンドたちと兄弟とも言える存在である。
ヘルヘイムは名誉ある戦死者を除く、たとえば疾病や老衰で死んだ者達や悪人の魂を司り、冥府と氷を司る神格ともいえる。つまり、氷雪……豪雪地帯である魚沼地方とは相性のよい神である。それもあってこの魚沼地方に出現したのだろう。
そして、彼女のまず行った事は、この地を治める黒札の子である「秋葉ユウカ」を手中に収めるための活動である。そのために、九重家の人間を捕え、これを餌にすることで面倒見の良い彼女をおびき寄せようとしたのである。ヘル神に捕らえられている九重家の人間たちは、ユウカに対して声を上げる
「ユウカ様! 我々のことなどお見捨てください!! 今すぐストーンを使って自爆を……!!」
「黙ってなさい! 貴方たちを見捨てたとか後味悪いでしょ!! それに私を捕えようとか舐めた事を後悔させるんだから!! 召喚!! 【鬼神 ヒノカグツチ】ッ!!」
ユウカは空いた片手でCOMPを操作するとその瞬間、ユウカのCOMPから燃え盛る男性の姿をした神霊が召喚される。
【鬼神 ヒノカグツチ】(レベル63)
このヒノカグヅチは自らの転生体であるほむらにさらに力と加護を与えたホノカグヅチの分霊であり、ユウカにとってみれば霊的には「お爺ちゃん」とも言える存在である。そのためか、実質孫娘であるユウカには非常~~~に甘い。ほとんど絶対服従の霊的契約でも喜んで従うほどである。そのせいかユウカだけは何があろうとも絶対に守ろうとする気概があるので、凍矢たちもユウカの仲魔として認めているのだ。
『天津神』ではなく『鬼神』として降臨しているのも、天津神としての公的の立場ではない、という意思表示でもあり、鬼神は理性よりも感情を優先する傾向があり『大事なものは絶対に守ろう』という気質がある。つまり今の鬼神としてのヒノカグヅチは『公的な立場ではなく、大事なものを絶対に守ろうとしている』という意思表示を行っているのだ。天津神はどちらかといえば和魂寄りではあるが、鬼神としてのヒノカグヅチは荒御霊寄りの存在であり、感情が激しく、そのため自分の大事なものは何が何でも守る、という自分の感情を力に出しやすい種族である。
そのため、鬼神は「守護神」としての属性も持ち合わせている。ユウカを守護するためなら、天津神としてのリミッターを解除し、さらなる強大な力で暴れまわることも可能だろう。
『うぉおおお!! ユウカぁあああ!! お爺ちゃんが絶対に守ってやるからなぁあああ!!』
「お爺様……じゃなかった鬼神ヒノカグヅチ!! 焼き払いなさい!!」
『了解!! 異国の冥府神ごときがウチの孫娘にちょっかいかけるとかいい度胸してるじゃねえか……!! 焼き尽くしてやらぁ!! 【マハラギダイン】ッ!!』
通常の鬼神ヒノカグヅチではなく、強化されている彼は当然のように炎系の高位魔術「マハラギダイン」を放つ事が可能である。さらに、逸話からなる彼の母神すら滅ぼす火炎は冥府神特攻能力すら有している。人質ごと平気で巻き込む大規模攻撃火炎魔術を迷いなく叩き込まれたヘルは、まさか人質を取っているのにそのまま攻撃してくるとは予想外だったのか慌てたヘルは叫ぶ。
「なっ!? き、貴様ァ!? 人質ごと焼き払う気か!?」
「【水の壁】ッ!!」*2
人質ごと焼き払おうとしている鬼神ホノカグヅチに驚いて、死神ヘルは人質を見捨てて逃げ出そうとする。
だが、それこそユウカの狙いである。ユウカは父親から受け継ぐ自らの権能である水を操り、九重家の人質たちの周囲に霊水による【水の壁】を構築する。
氷の力を有する凍矢と炎の力を有するほむらの間の子であるユウカは、氷と炎、そしてそこから発生する水系の能力も当然使いこなすことが可能だ。
ユウカの生み出した【水の壁】によってホノカグヅチの火炎は防御され、その火炎は死神ヘルのみを徹底的に焼き尽くす。このため、ホノカグヅチは【火炎貫通】を有している【火之迦具土】*3をわざと使用しなかったのである。
鬼神ホノカグヅチは真1のみの能力ではなく強化が行われており、【火之迦具土】という極めて強力なスキルを有している。これを使って前線に立って敵を攻撃してユウカを防御する『タンク兼前線』の役割が鬼神ホノカグヅチの戦い方である。そして、ホノカグヅチは前線で戦っている間、後方から銃撃や魔術などを叩き込むのがユウカの戦い方だ。
冥府神特効能力に加えて、神を滅ぼす能力も秘めたホノカグヅチの劫火。それは死神ヘルを一瞬で焼き尽くすほどの威力を秘めており、劫火はヘルを包み込みそのまま焼き尽くす。本来ならばそれで瞬時に消滅するほどの炎であったが、ホノカグヅチの手加減もあって、ヘルは絶叫してもだえ苦しみ、大ダメージを受けて半死半生ながらも何とか生き残っていた。
「き、貴様ァ……!! こ、この程度で……!! ぎゃああ!!」
だが、その息絶え絶えのヘルに対して、ギュルルル! と猛烈な回転を行いながら空を駆ける大鎌がヘルの肉体を切り裂いていく。そして、その冷気を噴出しながら推進力として回転している大鎌は、ヘルを切り裂いてそのまま空を駆け、一人の女性の元へと帰っていき、その女性はそのまま大鎌を見事にキャッチする。
「大丈夫ですかユウカ? 最近は貴女を狙ってくる悪魔が多いんですから誰か護衛を連れて行動しなさい」
そう言いながら大鎌を構えて瞬間転移して現れてくる女性。ロングへアの後ろ髪を三つ編みで纏めたクラウンブレイドの髪にデメテル本霊と全く異なる大地母神特有の巨乳に高度な霊服を纏った女性は、凍矢の分身でありデメテルの影響を受けて女性化してしまった存在『田舎ネキ』である。田舎ネキの役目としては、基本的に魚沼シェルターの防衛……というよりも自分の父親や母親の防衛、並びに自分の家族の防衛が主任務となる。(なお自分の息子が女性化した件については凍矢の両親は、はえ~すっごい、可愛い&美人だからまあいいか! で流された)
今回はユウカが九重家の人間を助けに行くと聞いて慌てて駆け付けたのである。
「分かってるわよ。それより父母さん。*4ヘル神は生かしておいてよね。私を狙ったんだから他の悪魔と同じように『ライン工の刑』にするわ!! 救護ネキ様に売り張ってもいいかもね!! これぞ財テク!! 完璧~~~!!」
ユウカは彼女独自の財産を所有しており、その財産規模は『大規模都市シェルターを丸ごと購入&数年間維持』できるほどの財産である。これは静が独自に蓄えていた『へそくり』をユウカに分けて、それを元手にユウカ自身が財テクを駆使して稼ぎあげた財産である。その財源は主に新潟近辺の悪魔退治に加えて、救護ネキと同じように自らが捕えた神や悪魔たちを『ライン工の刑』に処して、そこから出る様々なオカルトアイテムの大きな売り上げによるものである。ほかには各シェルターの防衛、悪魔退治、自分の権能によるアイテム作成、さらにはマッカ取引や投資、先物取引などによる財テクにより彼女は大きな財産を築いている。
ちなみに、なぜ彼女がここまでの財産を築いたのかといえば、それは凍矢の借金を聞いて育った事からくる反動といえるだろう。凍矢の借金の件を聞いて育った彼女は、非常に熱心に経済の勉強や資金運用の勉強を行い、自らの権能や戦闘能力で資金を集める事に専念していたのだ。これは静のへそくりと同じく「いざとなったら私がこの財産で何とかするわ! 安心して父さん!」という考えにより彼女は儲けるために奔走している。
(なおこれを使うと娘の財布に頼るヒモ親父になる模様)
「えーと、このヘル神の能力は……『ブフダイン』『マハムドオン』『サバトマ』か……。うん! いいじゃない!! 父さんの代わりに『ブフ系ストーン』『凍結弾』の製造を行わせるわね!! あとはミサイルなどに冬の権能を封じ込めた『魚沼弾』の製造とかもいいかも!! 『サバトマ』でどんな系列の悪魔を呼び出せるのも気になるわね!! うまくいい悪魔が召喚できればさらに財テク!! 完璧!!」
「それじゃヘル神! 貴女はこれから労働時間8時間!! 朝昼夕食完備!! 休日は土日2日!! 報酬は私8そちら2ね!! ふふふ地獄のような労働条件でしょ!! 恐れおののきなさい!! 私を狙ったことを後悔させてやるんだから!!」
「いやそれは少し甘すぎない……? やらかしたんだからもっと厳しくすべきでは?」
えー、それはあまりに非人道的では? とぶーたれるユウカに対して、田舎ネキはヘル神に対してきっちりと地獄のような労働条件をつけてライン工の刑罰に処していった。
魚沼シェルターに田舎ネキや九重家の人間たちと共に戻ってきたユウカ。だが、それで彼女の仕事が終わるわけではない。彼女の仕事はそれこそ山のように存在しているのだ。休む暇もなく、彼女は自分の権能を生かした新たな仕事に取り掛かる。魚沼シェルターでは近隣の自然豊富な山と豊富な地脈エネルギーを利用して、山を切り開きそこにさまざまな大量のオカルト植物を栽培している。
魚沼の豊かな自然と山はこういった探求ネキが開発した加工肉植物を栽培するのに適しており、豊かな自然を利用して山神たちと協力して作り上げられた大量の『ベーコンの葉』『ロースバナナ』『ウインナース』などといった、これら大量の加工肉植物は新潟県では人口が二番目の長岡市シェルターや様々なシェルターに運び込まれ、多くの人々の食糧源になっている。
また、それだけではなく、探求ネキが開発した『穀物の木』を利用して作り上げた大量の小麦、大麦、稗など作物、『メンマ竹』や『魚樫』『バタークルミ』『モアイモ』『クリーム松茸』『マシュマロカボチャ』などといったオカルト農作物も豊富な地脈エネルギーと豊富な自然の山がある魚沼シェルターでは相性がよく、大量に生産されて他のシェルターへと輸出品となっているのだ。
それら山中にあるオカルト農作地にユウカは足を運ぶと、自らの権能によって生み出した『霊水』をそれらオカルト作物に散布していく。
「『豊穣の加護水』!!」
ユウカによって生成された霊水を浴びたオカルト農作物たちは、みるみるうちに凄まじい勢いで成長していく。
ほむらと凍矢の間の娘であるユウカは冷たい冬から雪解けを得てからの命の芽吹き……つまり『春』を象徴する権能を所有している。
強力な火炎や氷結の力、そしてそれら氷結と火炎を組み合わせて放つメドローアがユウカの荒御霊な部分とすれば、こちらの様々な命を活性化させる『春』の権能はユウカの和魂とも呼べる部分である。
このため、ユウカの作り出す霊水は『豊穣』の加護が極めて強い霊水になっており、『浄化』より遥かに『豊穣』側によっている植物にとっては『液体肥料』とも言える霊水である。これらはキクリ米のみだけでなく、こういったオカルト農作物全般にも影響を与えるので、農産物を育てて輸出している魚沼シェルターでは必須の人材である。
「私の霊水は父さんの霊水と違って浄化よりも『豊穣』の加護が強いし、その分肥料代を減らせるからお得な財テクで完璧~! という感じね! バンバン私の霊水を売りさばいて儲けを出してみせるわ!!」
実際、ユウカの『豊穣の霊水』はそこらへんの肥料よりも遥かに効果が高く、彼女はこれを各農業シェルターへと販売し利益を稼いでいる。
特に各シェルター内部で行われている室内農業(屋内栽培・植物工場)では、特にこの『豊穣の霊水』は重宝されている。室内栽培……土を使わずに液体肥料で植物を育てる水耕栽培では、この豊穣水さえあれば液体肥料としてオカルト農作物を育成することができるのである。そのため、内部で水耕栽培を行っているシェルターはこの『豊穣の霊水』は喉から手が出るほど欲しがっているのである。
なお、以前は黒札のアドバイスで「ユウカ水」という名称をつけて「私が製造しました!」と笑顔のデフォルメユウカをモチーフしてシールとして貼り付ける事によって売り上げを上昇させようとしたのだが、農作物用のいうなれば「液体肥料」であるそれを飲んでパァン! しかけたアホがいたため、「液体肥料・豊穣加護水」というそっけない名称に変えられた経緯を持つ。ともあれ、ユウカは魚沼シェルターの司令塔ともいえる旧公民館内部へと帰ると、そこで彼女宛に送られてきた様々な資料に目を通して確認していく。
「ふむふむ。『豊穣の霊水』による水耕栽培は順調と……。これなら土地がないシェルターでも『豊穣の霊水』による水耕栽培は可能ね! このシェルター内部の栽培なら未覚醒者でもできるでしょうし……。雇用も生み出せて利益も出せてお互いウィンウィンね!完璧~~!」
「えっ? 九重家から沖縄支部に注文書? 「反逆の果実酒」*5の注文書? 何で? 私に救われた九重家の人間たちからの要望書? 「黒札様の御子の手を煩わせた事は我らの不徳。これを使って自衛のための力を!」? いやいやいや、現状そこまで切羽詰まってないでしょ……? アレも無茶苦茶苦しいんだからやめときなさいって。一旦保留で」
「ふむ、各シェルターの覚醒者の覚醒率の件ね。ウチも色々工夫はしてるから覚醒率はかなり高めなのは当然ね! ふむ、『魚沼シェルターは厳しい冬……つまり厳しい死と破滅を乗り越えている影響により、この地方一体自体がダイレクトな生と死の循環を繰り返しているためそのため覚醒率が高いのではないか?』ふーん。なかなか面白い仮説ではあるけれどね……。面白くはあるけどただの仮説なのでスルー」
「救護ネキ様からの依頼? 沖縄支部のニライカナイ様の沖縄自体の土壌を浄化する『霊的透析』を行うために『水源の木(ガジュマル版)』*6を作って沖縄に植えたい? ふむ……。確かに水源の木の霊水を使用した沖縄の大地の霊的透析ならニライカナイ様の毒素も軽減されるかも……。えっ? 父さん版だけでなく、私版の豊穣の権能を宿した水源の木も作りたい? 二本作って植えるってコト? うーん、流石救護ネキ様ね……。沖縄支部と要相談っと」
そんな風に忙しく資料整理をしていくと、凍矢の女性体分霊である田舎ネキがユウカに対して飲み物をカップに入れてもってくる。何故か知らないがユウカは冥府神や彼女を攫おうと襲い掛かる神々が多い。そして、それを調べている霊的調査の調査結果が書かれた紙を彼女はユウカの元にもってきたのだ。
「ユウカ。例の霊的調査完了しましたよ。やっぱり貴女が割と悪魔たちに狙われやすいのは『ペルセポネー』の概念が宿りつつあるからみたいですね。まあ……『デメテル』の分霊を宿す私が近くにいて、しかも『春の権能』を持つ私の娘ならそうなりますかね……。」
凍矢とほむらの子であり、雪解け……強い『春』の概念を有するユウカは実質的な『春の女神』でもある。そして、『デメテル』の分霊を宿す田舎ネキが傍にいれば、必然的にユウカに『ペルセポネー』の概念が付着していくのは必然とも言える。その『ペルセポネー』の概念があるからこそ、ユウカは冥府神に狙われたり、彼女を攫おうとする神もそれなりに多いのである。……なお全て彼女単体でボコボコにできる模様。
うぉっ、この春の女神メチャクチャ強ッ……!!が大体の神々の評判らしい。*7
「まあ、ユウカは私やほむらの戦闘能力や戦闘センスを受け継いでいるので、その辺の武神ならあっさりボコボコにできる程度には鍛え上げましたが……。しかし、これは専門の護衛が必要でしょうか……。私がずっと護衛についているのが一番早いんですが、そうなるとペルセポネーの概念がさらに付着しそうですし……。ううむ悩ましい。」
そんな風に、田舎ネキは思わず頭を抱える事になった。
北海道、道南支部から少し離れた大自然の中。
そこではレンタルしたシキガミ型ジープに乗っているユウカとハルナの二人が存在していた。この地方は終末時のあれやこれやによってGPが跳ね上がり、道南支部シェルターから少し離れた場所では様々な悪魔たちがうようよしている環境下である。
こんな場所で平然とできるのは、それこそ黒札たちやその子供でもなければ難しい。だが、修羅勢の黒札直系の子供である二人は悪魔たちが無数に存在する大自然の中で平然としていた。
「……で?ハルナ姉さん。こんなところに来て何するの?私結構忙しいんだけど?」
「まあまあ。さて、ユウカは『ジビエ』というのはご存じですか?そう!悪魔を狩り、その肉を食する!!しかも大自然の中にいる魔獣や妖獣たちの肉ならきっと美味しい(はず)!!さらに、ここならわたくしたちのレベリング作業にも絶好の場所ですわ!!」
確かに道南支部の近辺はGPがブチ壊れてしまった結果、大規模悪魔や高位悪魔が平気で闊歩する、ある意味悪魔の巣窟となってる。つまり逆にいえば、高位の霊能力者のレベリングの場として最適ともいえる場所なのだ。ここなら黒札ではないため、山梨支部の魔界直通ダンジョンを使えない彼女たちでもレベルを上げられる修行場とも言える場所である。……出没する悪魔のレベルやどんな悪魔が出てくるが全く読めないことを除けば。
「でも姉さん。そんなに簡単にレベリングに適正な悪魔なんて見つけられるかしら?」
「ふふふ。手はあります。『適正悪魔がいないのなら、ありったけの悪魔と戦えばいいじゃない作戦』ですわ!!じゃん! 取り出したるは堂満様特製の『魔寄せの香水』*8!! 本来は父様を誘惑するために使う予定でしたが……これをこう使いますわ」
ハルナはショタおじ特製の『魔寄せの香水』を自らの一吹きシュッと吹きかける。いわゆる「集魔の水」とほぼ同じ効果のある香水をこんな悪魔たちの闊歩する場所で使用すればどうなるか?答えは実に明確だった。
「「「「「グァアアアアアアアアアアアッ!!!」」」」」
その近辺にいる大小様々の悪魔が一斉にハルナに対して襲い掛かってくる。大森林の中から前後左右上下あらゆる場所から悪魔どもが無数に沸いてくる光景はまさに絶望の光景そのものだった。だが、その光景を見ながら、ユウカはハルナを乗せたままシキガミジープを急発進させて、道なき道の大森林をフルスロットルで疾駆する。
「姉さんのバカ! アホ! 食欲魔人!! そういうことは前もってきちんと言いなさいよ!! 召喚!! 【鬼神ホノカグヅチ】!!」
「ではいきますわよ!! レベリング&ジビエ食材採取の開始ですわ!! ユウカ!! ホノカグヅチ様の火炎は適度にいい感じでお願いいたしますわ!! 強いていえばレアな感じがよろしいわね!!召喚!!【神霊クズリュウ】!おやりなさいなキュー!!」
「こんな時にそんな事言ってる場合かーッ!! ああもう邪魔!! どけーっ!!」
ユウカはジープを運転しながら道なき道を疾走し、目の前に飛び出してくる悪魔たちに自らのサブマシンガン『SIG MPX』によるガイア銃弾を次々と叩き込んでいく。
前後左右上下。あらゆる場所から襲い掛かってくる悪魔の群れに対して、ユウカとハルナ、そして彼女たちの仲魔であるホノカグヅチとクズリュウは次々と攻撃を叩き込んで殲滅していく。
「【火之迦具土】!*9【マハラギバリオン】ッ!!」
「【氷結バイタル】*10【九頭龍】*11【轟く奔流】*12ッ!!」
ヒノカグヅチとクズリュウが放つ超広範囲の猛烈な劫火と凄まじい全てを凍結させる冷気。これに耐えうる悪魔はほとんど存在しない。キマイラやケルピー、ミズチやオルトロスなど魔獣・聖獣・竜関係の襲い掛かってくる悪魔たちは次々と殲滅されていく。その時、地面が揺れて森林の大地を破壊しながら地中から四つ足の極めて巨大な物体が姿を現していく。
【妖獣ヘビモス】
地面の中から現れた巨大な河馬や犀、牛のような姿をしたヘビモスは他の悪魔を踏みつぶし、あるいは食らいながらジープで疾走するユウカたちに襲い掛かるが、そんなものに捕まるユウカたちではなかった。
「舐めるなぁっ!! 根性ぉおおお!!」
ユウカはハンドルを切ってアクセルを全開にし、ジープを華麗に操ると、ジープを高く跳躍させる、そのままヘビモスの体の上に載って、体の上を道としてそのまま疾駆していく。そして、その巨大悪魔ヘビモスに対してクズリュウのキューは『轟く奔流』を叩き込んで巨大悪魔をそのまま巨大氷像へと変化させていく。その氷像と化した巨大悪魔の背中を疾走しながらハルナは叫ぶ。
「ユウカ!! 道南支部とは逆方向にお願いいたしますわ!! 道南支部周辺の悪魔の間引き! わたくしたちのレベリング作業!! そして悪魔たちのジビエ肉採集!! 一石三鳥ですわね!! ……他の黒札たちの子供たちも誘おうと思ったのですが父様に禁止されてしまって……。わたくしたちが悪魔を引き付けるので後方から悪魔たちに攻撃を仕掛けるだけの簡単なレベリング作業ですのに……」*13
ハルナは片手をロボ形態に変形させると、前腕部から出ているブレードで次々と悪魔を切り裂いていき、空いている片手で自らの銃であるアイティールを操り、次々と悪魔に弾丸を叩き込んでいく。
「えーい、私はいいけど他の黒札様の子供を巻き込まないで!! というかガチ戦闘しているのにジビエ肉採集なんてムリに決まってるでしょうが!! ジビエ採集はそれ専門でやりなさいよ!!」
うおおおお!! と周辺の悪魔たちを誘き寄せて殲滅しながら道南支部とは逆方向に疾走していくユウカたちが乗っているレンタルシキガミ型ジープ。そんな彼女たちを超上空から見下ろしている一機の戦闘機が存在していた。下部にバスターランチャーを吊り下げてMAGの届かない超高度を優雅に飛行している機体。それは戦闘機状態の『破裂の人形』である。戦闘機状態の『破裂の人形』は自分の娘たちであるハルナとユウカがピンチになったら超上空からバスターランチャーによるメギドラオン砲撃を連続で地表に叩き込んで群がる悪魔たちを広域殲滅し、逃げるための時間を稼ぐ……つまり「見守り役」である。
『ふむ……。これなら問題はないようですね。あれだけの悪魔を蹴散らしてまだまだ強くなりそうなのは流石我が娘たち。レベリングが終わったらご褒美に皆で道南支部でラーメンや名産でも食べましょうか。ハルナも喜ぶでしょう。』*14
〇小ネタ
「……で? 重下くん*15を私刑にしようと逆に返り討ちにあってアヘ顔を晒したと?」
静は無様を晒した九重家の女性たちに対して静かに怒っていた。九重家の小競り合いに黒札様を巻き込むな処するぞ、というのが彼女の怒りの一番の原因である。
凍矢はそのいざこざに呆れ半分で別段気にする様子はなかったが、それで黒札様のご機嫌を損ねたらどうするのか? お前ら百人や千人の命でも償いきれないんだぞ!? と静は切れそうになったが、何とかそれを抑え込む。
「罰として貴女たちを重下くんに『献上』しようかと思いましたが……まあ格下にやられて面目を潰したということで罰はなしとしましょう。重下くんの性処理道具にされる? それは知りません。むしろ次代のエースの愛人になれば地位も上がるのでは?」
静は冷たく彼女たちの嘆願を突き放す。実際の所、彼の【霊気改造】が上手くいっている事は静にとって極めて喜ばしいことである。体内にシキガミパーツすら埋め込まれた彼は静にとっては次世代のエースとも言える存在だ。
その次世代のエースの子供を孕めるのなら、むしろ行かず後家の彼女たちを積極的に重下くんにあてがう気すらある。*16年齢問題? モラル? ガイア連合から霊的改造を得た少年の子供を孕めるのなら、名家にとってはそんなもの実に些細な問題である。彼の子供を孕むのなら静としても彼女たちを優遇する気すらある。
(レベル上限がどれくらいになるのかは不明ですが……やはりショタをあと十人ぐらい捧げてもどこからも問題は来ないのでは? 凍矢様を再度説得してみますか……?)
ともあれ、それを見て九重家の女性陣にもウサ晴らしという欲求不満の解消の場が必要か……と静は考えた。九重家は女系優位であり、一族内で発言権のある女性は多い。そしてそれらの女性がフラストレーションを貯めることは自然の流れだ。(重下少年がいじめられようとして返り討ちにあったのもその影響。)その不満を解消させるために、静は切り札を切ることにした。
「えー、と言うわけで「碧神家メイド募集」「拠点メイド募集」を行いたいと思います。これには碧神家だけでなく拠点の手伝いも含まれますのでそれなりの人数を募集します」
体育館に集められた九重家の多数の女性たちは、その静の発言に大歓声を上げた。静が独占欲を発揮して他の九重家の女性たちを侍らせるの禁止され*17彼女たちはフラストレーションを貯めていた。
九重家は女性上位であり、それなりの発言権を持つ女性たちもそれなりにいたので、静は彼女たちのフラストレーションを解消するために、この「切り札」を切ったのだ。
なお、別にメイドになったからと言ってもいわゆる「お手付き」されるとは限らない。むしろ、そうしないように、ほむらと破裂の人形が目を光らせているのである。この二人の目をかいくぐって凍矢にちょっかいを出すのはほぼ不可能といえる。だが、例え99%不可能でも希望をチラつかせておくことこそが、女性陣の不満を軽減させ、九重家内の安定的統治に繋がるのである。もし本当にメイドたちに「お手付き」したら?それこそ静はにっこりして「分家」の誕生を喜ぶだけである。どちらに転んでも静にとっては全く痛くない状況だった。*18
「それなりの人数って二百人ぐらいですか!?」
「いえ、多くても十人程度かと……。そんなメイドばかりいても仕方ないでしょう?」
その瞬間、九重家の女性たちは大きく真っ二つに分かれて対立を始めた。それは『生まれた頃から九重家に仕える女性』と『キャラバンなどを通じて魚沼シェルターまでやってきて九重家入りした女性たち』である。九重家は静の考えもあり、外部からの優れた霊力を持つ人員は積極的に取り入れていく意向である。(実際名家の血筋は根切りされており、霊的な才能が一般人より劣っている場合があるので、それを解消する一案)
実際、それは九重家ではない「外様」とも言える『ヴィルトゥオーサ』を暗部トップに据えていることからも証明されるだろう。
そして、わざわざこの終末の後にわざわざ魚沼シェルターまでやってきて九重家入りするのは、凍矢に命を救われたいわゆる『黒札信奉者』が極めて多い。あちこちで即応機動砲撃部隊として、空を飛行して敵悪魔にメギドラオン砲撃やマハブフバリオン砲撃を叩き込んでいく凍矢に命を救われた人間たちは数知れない。そして、その中でもさらに気合の入った『黒札信奉者』たちは、キャラバンに所属し、旅から旅を繰り返して魚沼シェルターに辿り着く強者たち(気合的な意味で)も存在するのだ。*19
「この新入りのぽっと出共が!! 先祖代々九重家で働いていた私たちの邪魔をするんじゃない!! どの面下げて私たちの前に割り込んでくるのか!」
「やかましい! お前たちに黒札様に命も魂も捧げる覚悟があるのか!? ないなら黙ってろ! あの方に救われた我々にはその『覚悟』がある!!」
喧々囂々わーわーぎゃーぎゃー。はっきり言って見苦しいとしか言えない醜い争い。あちこちで女性同士の大規模なキャットファイトすら始まったその有様に、静は堪忍袋がキレた。
「ベノンザッパー(手加減)!!」
静が手刀から繰り出した漆黒の衝撃波……蓄積された毒素を放出する『ベノンザッパー』は同じ清浄を良しとする三宝荒神を奉じる九重家の女性たちにはまさに効果抜群だった。九重家の女性たちはその一撃で吹き飛ばされて空を次々に舞っていく。吹き飛ばされてようやく静かになった女性陣に、静はため息をつきながら言葉を放つ。
「……言っておきますが、この「メイド」は凍矢様のお父様やお母様の護衛任務も兼ねています。いざとなったら『肉盾』となってお二人を守る絶対義務もあるのです。その程度の覚悟もない人間は自動的にメイド候補から排除されます。浮ついた気持ちではなく、それぐらいの『覚悟』をもってください。」
その静の言葉に皆表情を引き締め直した……がやはり醜い争いは続いた模様。(静は頭を抱えた。)
このスキルによるダメージは魔法防御力に依存し、死亡時踏みとどまる効果を無視する。