「というわけで、『宮様の家族の防衛』のために戦力を出してほしい……もっといえば黒札様のコネがほしいのだが、如何か?」
終末後しばらくして九重家に面会に来たのは、根願寺の生き残りであり、ガイア連合内で最も信頼されていると言ってもいい霊能力者『葛葉キョウジ』だった。霊能という力においてはアレではあるが、彼の必死の努力と書類仕事ハンコマシーン化があってこの日本は救われたといっても過言ではない人物である。
帝都の大結界が崩壊し、帝都が巨大な壁によって封じ込まれてしまう前に脱出した彼は、ガイア連合から『救出した宮様のご家族の護衛』と役割を与えられて『京都』で根願寺の生き残りたちと共に宮様の家族の護衛を行う事になった。*1
そして、彼はさらにその護衛のための戦力増強を行うため、各地の黒札たちとの交渉に駆けずり回っていたが……その結果は全く上がっていないと言ってもよかった。彼を専用の客室に招いて丁重に出迎える静だったが、さもあらん、と彼の愚痴をひたすら聞いていた。
確かに黒札は霊能的には強いが、人格的には変人……もといタガが外れている人間が多い。そんな礼儀知らずの彼らが「宮様の家族の護衛」などそうそう引き受けるはずもないのは当然だった。
そこで、キョウジは金札を訪ねる事にしたのだが……当然金札でもそんな礼儀作法を弁えている人間などいるはずもなく、彼はついに九重家までたどり着いたのである。
(なお、京都支部の人たちはわんわんと泣いていた。*2)
そして、それに対して静の対応はこうであった。
「いや~私の家は超ド田舎の田舎なので……ちょっと家格が……いや~残念ですね~。いや~家格さえあればな~」
それは「家格」を盾にして要求を退ける事である。宮様の家族の護衛など、残っている名家ではかの「恐山」ですら足りないのだ。どこの馬の骨とも知らない田舎名家など家格が足りないに決まっている。
例えば戦国時代で御所の護衛に対してどこの馬の骨とも知れない知名度もない超ド田舎の人間が護衛についたら「本当に信用できるのか?」「裏切るのではないか?」「弱いのではないか?」と思われても当然である。
そんな事を周囲の人間たちが認めるはずもない、という理論で静はキョウジの要請をスルーしているのである。
普通ならここで退けてそのままお帰り願うところだが、唸っているキョウジに対して静ははあ、とため息をついていくつかの提案を行った。
「とはいえ、ここで「何もしない」というのもアレですので……まずは新潟支部の「命蓮寺」*3へ口利きを行いましょう。聖白蓮様はクズノハの血を引いているらしいので……家格としては問題ないでしょう。(なお協力してくれるとは言っていない)」
新潟支部の「命蓮寺」の長「聖白蓮」は距離も近いので静ともよくやり取りを行っているが、名家の中でもクズノハの血を引く女性であり、宮様の家族の護衛を行うのに相応しい血筋でもある。そんな風に静は彼女に押し付けて回避しようとしていたのだが……静も「とある事情」からある程度の支援を行うことを決断した。
「そして次の支援としましては凍矢様が作成した「防衛用氷人形『A-TOLL』」を二十機そちらに差し上げます。さらに九重家の人員をそちらに派遣します。それでいいですか?」
さすがに彼女も切り札でもある自分直属のデモニカ部隊である「黒騎士部隊」を派遣するような真似はしない。しかし、凍矢が作り出した防衛用に特化した氷人形である『A-TOLL BS』*4を提供するのなら、別に家格的には何の問題もない。
帽子状の兜に単眼モノアイ、防御用の氷の盾に氷のメイス、さらには両肩に装備された『副腕盾』ともいえる「ラウンドバインダシステム」を装備した西洋の鎧騎士を連想させる『A-TOLL』はこういった専属防衛任務にはまさに最適と言える存在である。*5
黒死ネキの作り出す『死の河』から生み出される無数のドロイド人形に対抗するべく作り出され、真正面から殴り合いができる『A-TOLL』の軍勢ならば、連携さえ取れればその辺の悪魔の軍勢など蹴散らすことが可能なはずである。
さらに、黒死ネキのドロイド人形との違いはあくまでも氷人形であるため、かなり安全であり他勢力にも渡せるということである。氷属性を『不溶性』に変化させておけば、暑い環境でも解けることなく、その半透明の氷装甲を維持できる優れものである。(なお、現地民たちは『A-TOLL』の氷装甲を利用して水を冷やしたり食物を冷やしたり部屋を冷やしたりする裏技を使用したりもしている)こちらの命令に忠実に従い、しかも即戦力として防衛部隊として運用可能な氷人形を一気に二十機も与えてくれるなど、キョウジにとってはまさに救いの手だった。(これで足りなければさらに二十機ぐらいはすぐに生産・追加できる)
「助かる!! ありがたい!! ……で、黒札たちへの取次は……?」
そのキョウジの言葉に対して、静はじろり、と睨みつけた。静としては譲ってここまで、これ以上を行う気もないし、彼を黒札に合わせる気も毛頭なかった。そのため、静は彼の弱みを突くことでこれ以上の要求を阻止したのだ。
「……ところで、根願寺は我々地方勢の度重なる救援に何もしてくれませんでしたよね? 結局地方の問題を解決してくれたのはガイア連合でしたよね? そこらへんに何か言うべきことがあるのでは?」
「う……ぐ……。そ、それは……。」
実際、終末以前&半終末の時点、根願寺は帝都の防衛で手一杯で地方は無視せざるを得なかった。度重なる地方の救援を無視して、である。それを解決したのはガイア連合であり、根願寺ではない。この地点で根願寺を見限った名家がほとんどであることは言うまでもない。(実際静自身も人柱になりかけたのだ)しかし、それももう遥か昔の話である。いまさらその辺をつついてもどうしようもないか、と静はため息をつく。
「……まあいいです。そちらも手一杯なのは理解していますし。ともあれ、今回そちらの支援としては新潟支部の「運命寺」へ口利き、氷人形『A-TOLL』の提供。これで満足してください。これ以上は……ね?」
「うむ……まあ仕方ないか。……しかし、割りと恨みがあるであろう我々元根願寺に力を貸す理由は何なのだ? まさか無償ではあるまい?」
「安心して下さい。そちらにも理由はあります。それは……「権威付け」「箔付け」ですね」
忌々しい事を思い出したのが、静の眉が僅かに歪む。黒札の血を取り込んでその辺の名家など比べ物にならないほどの霊能力者を保有している九重家ではあるが、その点で適わない事を知ってか、全くの無名である事を嫉妬から揶揄する他の名家が非常~~~に多いのに、静は心底からうんざりしていたのだ。
「毎回毎回毎回毎回「どこの馬の骨だよw」とか「ド田舎名家が!」とか馬鹿にされる気持ちがわかりますか? 宮様の護衛に人員を派遣したり、防衛戦力を供給していれば他の名家から馬鹿にされない……はず。きっと多分」
「それなら官位を……」
「あっそれはいいです。はい」
「(´・ω・`)」
官位を与えて権威を与えようとしたキョウジの案はいともあっさりと静に一蹴されることになった。
権威はほしいが、キョウジたちにあれやこれやねだられるのも面倒。(というかそんな暇がない)という自身の立場を考えて編み出したのが今回の(元)根願寺への兵力許与である。
これに加えて九重家の人員を派遣するつもりではあるが、こちらは当然ながらレベル上限が低いので兵力として期待しないでほしい、むしろキョウジ側とのツテ・連絡窓口として静は考えている。
宮様の家族の護衛として自分の家の人員を派遣しているとなれば、周囲の名家がマウントを取ってきても最低限言い返せるという考えである。
「ああ、そこですが、この氷人形のオートAIはあまり賢いとは言えません。きちんと指揮を取ってくれる人間がいないと属性考慮せずにそのまま殴り掛かることもあります。その辺は注意してください」
『A-TOLL』のAIはそれほど高度なものではない。下手をしたらギリメカラにメイス攻撃を行ってそのまま全滅する可能性もある。そこは注意するところだが、きちんとした指示さえ出せば問題はないだろう。そこで静はふと思ったことをキョウジに対して質問していく。
「そういえば、元根願寺的には幼女ネキ様*6の「十六代目ライドウ就任」は正式に認定したんでしたっけ?」
「いや、あの方の「ライドウ就任」は我々根願寺はノータッチだから……。ともあれ、あの方の実力や後ろ盾を考えれば我々も認めざるを得ないが……。」
幼女ネキは実質十六代目ライドウとして自他ともに認められているが、ライドウの認可を出す根願寺……元ヤタラガスはまだ彼女に対してライドウとしての認可を出していない。*7根願寺的から見れば幼女ネキは「勝手にライドウを名乗っている」状態ではあるが、彼女の実力・血筋・そして後ろ盾からすれば彼女がライドウになっても何も問題ない。何せ彼女は十四代の戦友だった曾祖母や仲魔に認められている上愛刀を受け継いでるのだ。幼女ネキからしたら根願寺に認められようが認められようがどうでもいい、というのが本音だろう。しかし、この上でさらに正式に認可が下りるというのは、少なくとも周囲も「そうだな」と納得するしかないだろう。ただの紙切れでは?まあそれはそう。
「今の我々には彼女に異議を唱える力も権力もない。ライドウだと認めるのはいいのだが……彼女から「別にどうでもいい」と言われたらそれまでだ……。悲しいことだが……。」
静はキョウジに指を突き付けながら、彼の考えを修正に入る。
「逆です。「ライドウ就任認定」という名目を口実にして幼女ネキ様と接触して、土下座外交して幼女ネキ様から支援をもらう。それが一番支援をもらえるのがいい方法だと思いますよ?元ヤタガラスである根願寺とライドウとなった幼女ネキ様が接触するのなら別にどこも文句言いませんし。キョウジ様なら幼女ネキ様は高評価もらえますでしょうし、支援ももらえるでしょう。……ここで注意するのは『私たちがライドウと認めてやろう!感謝しろ!』と上から目線ではなく、土下座外交をすることですね。キョウジ様なら大丈夫でしょうが。」
その静の言葉を聞いて、さすがにキョウジも激高する。つまり「ライドウの名前を餌に支援をねだれ」と言っているも同然だったからだ。ヤタガラス……根願寺としても「ライドウ」のネームバリューはそう簡単に餌にしていいものではない。例え名目上の称号だったとしてもしてもだ。
「そ、それではライドウという名前を餌にするようなものではないか! 『売官』ではないか!! 誇り高きライドウの名前をそんなことに使うわけには……!!」
「じゃあほかに当てはあるんですか? 十四代の戦友だった曾祖母や仲魔に認められている上愛刀を受け継いでる幼女ネキ様以上のライドウ候補の当てが? ……ライドウの名前を正しい継承者に受け継がせて、なおかつ支援をもらえる。それくらいに考えておいたほうが精神的に楽ですよ?」
「う、うぬぬぬ……。た、確かに……。」
「ああ、でも幼女ネキ様は性格的特徴として『暴風神』的な要素が強いですからね……。暴風神は気性が激しく、自由で喧嘩早いが嵐を巻き起こす破壊の側面と恵みの雨をもたらす豊穣の側面があります。そんな性格をしている幼女ネキ様は、一生懸命努力している人間ならば彼女は認める傾向にありますので、キョウジ様なら認められるでしょう……。きっとたぶん。*8」
静はさらに、ふむ、と自分の顎に手を当てて考え込みながらキョウジに対してアドバイスを行っていく。
「キョウジ様が直接幼女ネキ様にコンタクトを取るよりも、宮城支部長の「レン子ニキ」様と連絡を取るか、それとも幼女ネキ様のお嫁さんたちに連絡を取ってそこから働きかけていくのがいいでしょうね。一番いいのは、レン子ニキ様とコンタクトを取って自分の目的を伝えて、お嫁さんたちにも働きかけをしてもらうようにしておけば問題ないでしょう。後は土下座外交さえすれば、キョウジ様たちは幼女ネキ様から高評価をもらっているので問題はない……はず。多分。」
ありがたい!と感謝するキョウジはついで、と言わんばかりに他の協力してくれる黒札の当てはないか?と静に聞いてくる。それに対して、静はふむ、と考え込むと彼の力になってくれそうな黒札のピックアップを行っていく。
「ほかの黒札様ですか? そうですね……。馬ニキ様は気性も温和ですし交渉もしやすいですが、以前のメールをスルーしたということはそもそも関心がないということ。*9下手に触れないほうがいいですね。キノネキ様*10は現状北神奈川支部で手一杯、下手に交渉を持っていくと逆に心情を悪くする可能性があります。ああ、ガイア銃や銃火器・弾薬の支援ならお願いしても問題ないでしょう。人魚ネキ様*11は無関心でしょうし、探求ネキ様*12もあまり関心を示さないでしょう。黒死ネキ様*13は……キョウジさんのような方はやめておいたほうがいいでしょうね。彼女を「楽しませる」自信はないでしょう? そもそも黒死ネキ様の霊能は非常に強力ではありますが、防衛に適しているとは言いがたいですし……。琉球ニキ様*14たちも沖縄防衛で手一杯。とても手を貸す余裕はないでしょう。沖縄支部で作られている『アガシオン・シーサー』はシーサーは魔除けとして最適ですし防衛に適していそうで良いとは思いますが、そこらへんは要相談ですね……。カス子ネキ様*15たちはそもそも恐山系列ですし、これ以上支援を求めるのは……。脳缶ニキ様*16はちょっとまあ……はい。無惨ニキ様*17たちやお弁当ニキ様*18他黒札様も余力のある人はいなさそうですし……やはり鑑定ニキ様や幼女ネキ様に助力を求めるのが一番いいのでは?」*19
自分の知っている黒札たちの性格と特性、そしてそれぞれの能力を把握し、キョウジの目的に適した黒札をピックアップしていく静を見て、キョウジの彼女を見る目がさらに変わっていった。こんな有能な彼女をこちらに取り込もうとするのは当然。むしろ他の彼女を小馬鹿にしている名家たちは正気なのか?と言わんばかりである。
「……やっぱり官位欲しくない? アドバイサーになって色々相談に乗ってくれると嬉しいんだが?」
「嫌です。(きっぱり)こっちも手一杯なんですからそこは覚えておいてくださいね。」
「(´・ω・`)」