色々とあって魚沼シェルターにやってきた救護ネキ。彼女は積極的に外部に救護活動を行うだけでなく、魚沼シェルター内にいる一人一人の霊的カルテをチェックしていた。
健康診断もそうだが、霊的な健康診断も導入され、覚醒状態や半覚醒状態もチェックし、誰が覚醒に近づいているかきちんと知らせるシステムである。
終末を過ぎてからは覚醒こそが人権。もう少しで覚醒できるとなれば現地民たちのモチペも上がるし、それをチェックする医療部は重要な役目であるのだ。
そして、とあるカルテを見ていた救護ネキは、ん? と不信感を抱いて手を止めた。よくよく調べてみると、それは実に巧妙な『電子改竄』をされていたカルテだったのだ。
ガイア連合の医者ですら気づかれないレベルの電子改竄。それに気づいた救護ネキは対象者を呼び出して直々に健康チェックを行う。
「……田舎ニキを呼んできてください。大至急です」
そんな彼……魚沼シェルターの住人の一人である『天河アキト』の健康チェックを行った救護ネキは、大至急シェルタートップである凍矢を呼び出す。これは実質このシェルターを仕切っている静ですら呼び出されないほどの事態であるということである。呼び出された凍矢を迎えた救護ネキは、厳しい表情でアキトのカルテを差し出して言葉を放つ。
「さて、彼の魂ですが……簡単に言いましょう。『デモニカコア……いえ【マガタマ】が彼の魂と融合しています』」
「……は?」
いくら何でも予想外の言葉に、凍矢もぽかーんとした表情を浮かべる。そんな彼に対して、救護ネキは淡々と言葉を続けていき、さらに改竄されたカルテも彼に見せていく。
「『魂に【マガタマ】が融合しています』これは先天的なものですね……。おそらくはバッドステータスを無効化する【ムラクモ】のマガタマが彼の魂と融合しているのです。
彼の魂には強い「グール」の因子があるのですが、その【ムラクモ】のマガタマでグールの因子を無効化しているわけですね」
その救護ネキの言葉に、凍矢は焦りながら言葉を発する。ガイア連合のデモニカコアは人修羅の『マガタマ』であることは高位の黒札の間では割と知られていることである。これはデモニカやデモニカコアを下手にいじって『マガタマ』と融合した【人修羅もどき】が誕生しないためだ。
シェルター内部でいきなり【人修羅もどき】が発生した場合多大な被害が出かねない。それを防ぐための処置である。だが、いくらなんでも「先天的にデモニカコア……『マガタマ』と融合している人間」がいるというのはさすがに予想外だったのだ。
「ち、ちょっと待って!? 先天的にデモニカコアが融合してるってどういうこと!? というか! デモニカコア……【マガタマ】と融合しているってことは……!?」
「はい……。彼は【簡易人修羅】……つまり【魔人】のデビルシフター*1ですね……。いえ、【人修羅もどき】というべきでしょうか……。今はマガタマが休眠状態にありますから大丈夫ですが」
「そんなことある!? 何で!? 意味が分からんのだけど!?」
いきなりシェルター内部で普通の人間が「人修羅もどき」になる可能性がある、と聞いてさすがに凍矢もびっくりする。いきなりシェルター内部で人修羅もどきが暴れまわったら被害もそれなりに出てしまうだろう。実際になったらほむら筆頭に防衛部や黒騎士部隊が抑え込むだろうが、そんなことがない方がいいに決まっている。ともあれ今まで判明しなかったのも気になるが、とりあえず救護ネキはその対策を提案していく。
「とりあえず「なぜ」は後回し。まずは「救護」から行います。まず、「彼の魂からマガタマを切り離す」これは完全に却下です。彼の魂は完全にマガタマと融合していてそれで安定しているのです。これを無理矢理切り離すと最悪魂が砕け散る可能性があります。なので、方針としては【現状維持】としていきます」
アキトの問題点としては、【マガタマ】が魂と癒着しているだけではない。その魂に『強いグール因子』が付着していることも挙げられる。*2もしこの【マガタマ】を取り外したらグール化が一気に侵食して抑えられないことは明白である。その点でも「現状維持」という判断は正しいだろう。
「グール因子の方はそれに加えて、『精霊因子』を少しずつ注入していって、グールではなく『精霊(ジン)』の方向性で調整していきましょう。……ただし沖縄支部の『反逆の果実酒』は絶対禁止です」
ザックームの果実は罪人たちの食べ物とされ、悪魔の頭のように醜い形をしており、食べると腹の中で溶けた銅のように沸騰するとされている。これをグール因子の強い人間に飲ませたらどうなるか? 人食いであるグール因子に対してザックームの果実が反応し、彼の肉体と魂がパァン! しかねない状況になる。
一方、人食いのグールは、アラビア半島では「ジン(精霊)」の中でも特に邪悪な一派とされているので、これに精霊因子を少しずつ注入していくことで、邪悪なグールではなくジン(精霊)としての因子へと書き換えていくのだ。ホワイトボードにキュキュッと書き込みながら、救護ネキは凍矢にそこを説明する。
「問題はデモニカやデモニカコアというリミッターが完全に喪失しているという可能性です。リミッターがない分【人修羅もどき】としてレベル30オーバーになれる可能性も十分にありますが……危険すぎるのでこれは却下。彼に「シキガミパーツ」を移植してこれをリミッターとして活用。【マガタマ】を抑え込むと同時に【グール因子】も両方抑え込みます。日常生活を送るのならこれで十分でしょう」
もし、彼の体内の【マガタマ】が活性化したら【人修羅もどき】【魔人】として魚沼シェルター内部で暴れだしかねない危険性がある。そのため、彼の【マガタマ】に失われたリミッターをつけなければならないのだ。
そこで一番手っ取り早いのはやはりシキガミパーツ移植である。救護ネキが特別に調整したシキガミパーツを移植すれば、【マガタマ】のリミッターとなり、同時に【限定能力封印】にもなるはずである。
「それに加えて【マガタマ】の【限定能力封印】を行えば上層部や他の黒札たちも納得するでしょう。地雷持ちのデビルシフターたちも【悪魔合体】か【能力封印】【式神移植】に【星霊神社住み込み】のうち二つは行うみたいですし、このうち二つを行っておけば少なくとも文句は言われないし、安全性は問題ないでしょう……多分」
「多分かぁ……」
「私としてもこんな事例は初めてなので何とも言えないのが正直なところですね……。ともあれ、これだけしておけば【人修羅もどき】の浸食は防げるはずですが……。限定能力封印なのは、このマガタマ【ムラクモ】が彼のグール化を抑え込んでいるからですね。グール化の治療も並行して行っていく必要があるでしょう」
とりあえずの応急処置はそういう形でいけば何とかなるだろう。凍矢としても危険因子だからと言っても、この魚沼の地で生まれた人間を簡単に処分するのは本意ではない。これで普通の人間として生きていけるのなら別段問題はない。だが、別の疑問が浮かび上がってくる。凍矢は頭をがしがしと掻きながらその疑問を口に出す。
「それにしてもこんなことある? 何で生まれながらにマガタマ……デモニカコアが融合してる事例とかあるの? 訳が分からないんだけど?」
そう、それはデモニカコア……「マガタマ」が生まれながらに融合しているなどという訳のわからない状況である。その状況に、さすがに救護ネキも眉をしかめて腕を組んで考え込む。
「さすがにこれはレアケース中のレアケースだとは思いますが……。ともあれ、上層部には報告しておきましょう。これで人修羅もどきが生み出されてもガイア連合も困るでしょうから。そして詳しい事情は……「彼女」に聞きましょうか。恐らく全ての事情を知っているでしょうから」
救護ネキがそういうと同時に、救護室に一人の少女が入ってくる。銀髪をツインテールにした幼い無表情な美少女。そこには最近「学園」で極めて優れた電脳系の才能を見せている少女……「星野ルリ」*3が立っていた。アキトと幼馴染である彼女ならば何かを知っているであろうと思って呼び出されたルリは観念して全ての事情を説明しはじめた。目の前にいるのは高位の黒札二人であり、自分など容易く消し飛ばせる相手であり全て素直に話した方がいいと判断したのだ。
まずはアキトの前世はアメリカでデモニカを身に纏い過激派と戦っていたこと。そして、自分は元々デモニカのナビシステムから【電霊 バロウズ】へと変化した存在である、と。*4
アキトがメシアンに倒される前、【電霊 バロウズ】は本霊とコンタクトを取って自分自身とアキトの魂を「保護」するように依頼しており、その「保護」自体は成功していた。
だが、アキトの肉体はほぼグール化しており、デモニカがなければ数時間でグール化してしまう状況。そして、その深刻な汚染変質は魂にまで及んでおり、魂までグールへと変化しかねないという状況だったのだ。*5
例えば地母神関係の神霊ならば保護した魂の保全・浄化・産み直しは自分自身の権能であり、グールなどの悪影響を排除して普通の人間として再誕させるのは実に簡単であるが、ルリの本霊である電霊はそういったことには全く不慣れであった。そして電霊の本霊が選んだのは自らが得意とするメカ操作……つまり『デモニカコアから【マガタマ】』自体を引き抜き、それをアキトの魂と融合。アキトの魂を保全しながら本霊に帰還してお互いに転生したという事情である。(そのため、アメリカにあるデモニカは完全に残骸ということである)
元々デモニカのインターフェイスの電霊は、デモニカコア……『マガタマ』の制御も行っていたため、アキトの中にある『マガタマ』の制御を行い『休眠状態』へと移行。魂に侵食させたグール因子を抑え込むために『休眠状態』にしながらも『身体保持』機能だけは制御し、『マガタマ』も『グール因子』も両方抑え込むことに成功していたのである。
そのアキトとルリの事情を聴いて、凍矢ははぁ~とため息をつきながら思わず天を仰いだ。
「正直、もっと早く言ってもらいたかったなぁ……。魚沼シェルター内部で人修羅もどきが誕生するとかシャレになってないし」
「……で、どうしますか?」
その救護ネキの言葉に対して、ルリは思わず体を固くする。黒札たちに隠れて電子改竄を行い、危険人物を保護するために行動を行う。他のシェルターならばそれだけで追放や罰を与えられても不思議ではない状況である。だが、凍矢としては別に暴れまわっていないのならいいんじゃない? というのが本音のところだ。
「どうもこうも……。ここで彼らを追放なんてしたら救護ネキマジ切れするでしょ? それに危険性はあるけど、実際に暴れまわっていないのなら別にいいし。このまま『保護』する形でよろしく」
凍矢としても魚沼の地で生まれ育った子たちをそんなに追放だの処罰だのしたくない、というのが本音でもあるし、別段いいだろう、とこのまま受け入れる事を凍矢は宣言した。
ともあれ、アキトとルリは穏当?に魚沼シェルターで暮らす事になったが、シキガミパーツや限定能力封印もあって、彼は【人修羅もどき】にもならずに覚醒して平穏に暮らしていた。
凍矢や救護ネキ的には、このまま平穏に暮らしておいてくれれば別に問題はなかった。彼の実家がラーメン屋であるため、ラーメンに関する様々な食品流通まで行っていたほどである。しかし、彼……アキトの選んだ道はよりによって【防衛隊】への配属希望だった。前世の記憶として自分の故郷が襲われて壊滅した記憶。そして無垢の人々が大量に死亡した前世の記憶は無意識に彼に影響を与え「みんなを守りたい! 守らなければ!!」という意識になるのはある意味当然だった。
そして、ここで凍矢と救護ネキは頭を抱える事になった。下手に戦闘に突っ込めば彼の中にある【マガタマ】が再起動し、【人修羅もどき】へと変化しかねない。
それを防ぐためには、シキガミパーツのほかにも戦って魂が活性化しても問題なく【マガタマ】を制御できる新たな外付けリミッターが必要だという結論になった。
「で、吾輩が呼ばれたというわけか。マガタマを制御するための外付けリミッターのデモニカとか本末転倒すぎワロタ状態であるな!!」
そうして呼び出されたのは、魚沼シェルターの技術者の一人である『ウェストニキ』である。彼はマガタマを制御するためには新しいデモニカが必要と判断。そして、ウェストニキはアキトのために特殊デモニカ「ブラックサレナ」を作成してアキトに与えたのだった。
「まあ開発はしたが……【マガタマ】を制御するための【マガタマ】……もとい【デモニカコア】とはお笑い草であるな! 。【デュアルコアシステム】とでも呼称しようか。ワンオフもワンオフというか実質特注機だからお値段もアレだが……こんな貴重なデータを採取しない手はないであるからな!!」
ウェストニキが開発した「ブラックサレナ」にはアキトの魂の中に存在する【マガタマ】を抑え込み、制御する役割が存在している。つまり【マガタマ】を使用して【マガタマ】を制御しているという実に本末転倒な状況であるが、これによってアキトは【魔人】や【人修羅もどき】にならずに十分に悪魔と渡り合うことができる形になる。(対外的にもデモニカを使用しているため悪魔と戦えるという形になるのでだれも疑う余地もない)
つまり今のアキトは【シキガミパーツ】【限定能力封印】【マガタマを抑え込むデモニカコアであるデュアルコアシステム】という三重のリミッターがかかっていることになる。これだけのリミッターがかかった状態ならば十分に【人修羅もどき】になるのを防ぐことになるだろう。
「マガタマを制御するためのマガタマとかウェストニキのいう通り本末転倒すぎだよな……」
「デュアルコアシステムのリミッターをカットして二つのマガタマの能力をフルにすれば、実質『マガタマが二つある人修羅もどき】になるからめっちゃ強いが……まあ確実に【魔人】【悪魔】になるかパァン! であるだろうな!!」
ともあれ、マガタマを制御するためのデモニカである「ブラックサレナ」を装備したアキトは、魚沼シェルター防衛部に所属して、戦闘時のみその力を上手く引き出し戦っていた。そして、とあるメシアン過激派の基地を強襲したアキトは「聖母」……「兵士」を生み出すための「生体ユニット」を発見して「それ」に対して微笑みかけた。
「お帰り……。ユリカ。」
そうして保護された「聖母」……もとい兵士を生み出す生体ユニット……「ユリカ」はアキトたちに保護され、救護ネキの手により3Dプリンター簡易式神作成装置から現地民用のシキガミボディを与えられ、ユリカはアキトと一緒に暮らす事になったのだ。*6
終末からしばらく立った後。無惨ニキが作り出している特殊な支部「ラピュタ支部」*7内部で二人の少女たちが歩いていた。一人は凍矢とほむらの娘である【秋葉ユウカ】。そして、もう一人の女性はユウカと幼馴染とも言える気心の知れた少女であり、ユウカの腹心ともいえる女性である……。
「でまあそうして生まれたのがこの私……【天河ノア】なんですが……私はどうしてここラピュタ支部へ?」
その銀髪に加えて全身白で固められた霊服である学生服に身を固めた少女の名前は【天河ノア】
ブルーアーカイブの【生塩ノア】の外見そのものである彼女は、天河アキトと星野ルリの間の子供である。
電霊の転生者である星野ルリの娘である彼女は、その霊質を非常に強く引き継いだ存在であり、電脳系の霊質に特化された少女である。
その能力は、現地民の子でありながら情報統御シキガミとかなり渡り合える情報処理能力を持つほどである。これは彼女には戦闘能力がほとんど存在しない分、電霊の転生体から引き継いだ電脳系の霊質を強く所有している特化型からである。(なおその外見と破裂の人形の人としての名前が「のあ」なので破裂の人形の娘とよく間違われるが実際は違う模様)
「『電霊の転生体との子』なんて存在なんだから、そのアドバンテージを生かす……つまり才能を伸ばすべきでしょ? シキガミでもないのに情報特化型シキガミたちと渡り合えるなんてチートもいいところなんだから……」
彼女は言うなれば『人修羅もどき(封印中)』と『電霊の転生体』という人間要素の方が少ないハイブリットな存在である。人間要素が少なくなれば霊的に強くなる……レベル上限が高くなるのも当然。
そのため今の彼女はレベル40上限という現地民離れした強さを誇っているのだ。ともあれ、そんな彼女の才能を伸ばすべき、と判断したユウカは伝手を頼ってノアを、凍矢と静との娘である【九重リオ】と共にラピュタ支部へと留学。その才能を鍛えようとしているのである。
「と言っても戦闘力はほとんどありませんけどね……霊能の大半が『情報処理能力』みたいですし……。言うなれば「肉体を持った電霊」とでもいうべき霊能特化型が私になります」
「まー本音をいうと留学中の私の妹である【九重リオ】の面倒を見てもらいたいというのもあるのよね……。あの子はああ見えてメンタル弱いところもあるから……。同郷の子が支えてくれるならあの子も安定するでしょ。」
そうして、天河ノアと九重リオの二人はラピュタ支部の中枢管理システムとして開発したシキガミ『明星ヒマリ』を師匠として情報制御特化型シキガミ群『ヴェリタス』などと協力しながらガイア連合の最新の電脳系の能力を磨く事になったのである。(なおヴェリタスたちからはリオは『ビッグシスター(でけぇ妹)』と呼ばわれて可愛がられている模様)
「それは分かりましたが……その手にした山のような弁当箱は?」
「これ?これはヴェリタスの皆やリオに対する差し入れよ。どうせあの子たち色々な事で夢中で食事まともに取ってないんでしょう?シキガミでもきちんと食事を取らないと倒れるでしょうが!!いっつもいっつもコーヒーだのエナドリだので済ませて……!!コラー!!どうせ食事取ってないんでしょ!?きちんと食事を取りなさーい!!あとウチの子の面倒もよろしく!!」
ヴェリダスたちが活動を行っているラピュタ支部の電算室の扉を開けると、ユウカはその場にいるヴェリダスの皆に怒鳴りつけると、どんどんそれぞれに弁当箱を手渡していく。手慣れたそれを見ながら、ノアは思わずあはは……と笑みを浮かべるしかなかった。
〇天河ノア
ブルーアーカイブの【生塩ノア】の外見を持つ少女。
元はアメリカで戦っていた「アキト」が転生した「天河アキト」とアキトのデモニカに宿った電霊「ルリ」の転生体「星野ルリ」の間の子。
魂にマガタマを宿した人修羅もどきになる可能性を持つアキトと、電霊の転生体であるルリの間の子のため、現地民離れしたレベル上限を持つ。(レベル上限40)
ただし、その霊能は電霊由来が大きいため、戦闘能力はほとんど有しておらず、大半は電霊由来の情報処理能力に特化されており、現地民の子でありながら情報処理能力に長けたシキガミたちとも渡り合えるほどの情報処理能力を有している。