塞の神。
通常ならばそれは災いの侵入を防ぐ境を守護する神である。だが、ここ新潟にはとある行事が存在する。それは「塞ノ神」「どんと焼き」と言われる行事である。小正月の伝統的な火祭り行事であり、 正月飾り、しめ縄、門松、書き初め、古いお守りやお札、だるまなどをお焚き上げするという行事だ。本来は「左義長」と呼ばれる小正月に行われる火祭りではあるが、その地方によって呼び名が大きく異なるらしい。正月に各家庭に迎えた「歳神様」を、正月飾りを燃やした煙とともにお見送りする「送り火」の意味があり、この火や煙にあたることで、新しい一年の無病息災、家内安全、五穀豊穣などのご利益があると信じられている行事である。
そして、東日本や新潟県、福島県などでは、悪霊や災いの侵入を防ぐ神である「道祖神(塞の神)」の信仰と強く結びついており、この行事は「道祖神(塞の神)」に対して人々のMAGを提供する貴重な機会である。
塞ノ神は地域を守る塞ノ神たちにMAGと信仰を捧げる信仰行事であり、それが魚沼シェルターの防衛に寄与しているといえばそうである。
泡状結界の中には、いわゆる『道祖神』を祭って防衛結界にしている結界部も存在する。*1
そして、この塞ノ神信仰もその一環であり、「集落の外(悪霊や疫病の世界)と内(人間の平穏な世界)の境界」に立ち、悪いものが中に入ってこないように防ぐ(塞ぐ)神様」を祭る信仰の一つである。
この小神の塞ノ神たちは、魚沼シェルター全体を守ることはできずに、魚沼シェルターの一部……「その集落しか守る」事しかできないが、それでも泡状結界を構築する防衛機構に組み込まれているのも事実だ。
そのため、こうした塞の神や道祖神を祭る祭りや日常的に道祖神に祈りを捧げる事は魚沼シェルターでは奨励されている。何故ならばその祈りのMAGこそが泡状結界の道祖神結界部に力を与え、この地を守るエネルギーとなっているからだ。
「今年も一年何事もなくてよかったよかった。*2これもこの地を守ってくれる塞ノ神様たちがいるからだな」
「そうね。今年もきちんとお祈りしないとね」
そう言いながらやってきたのは凍矢の両親『碧神葵』『碧神美優』と、その肩に乗った三毛猫の「ミイ」である。*3
普段彼らは黒札の身内として魚沼シェルターで事務作業の手伝いをしながら、農作業やオカルト機械いじりなどを行っていたりもする悠々自適な生活である。……のだが、いまいち緊張感と危機感がないぽわぽわしてる両親は凍矢にとっては悩みの種だった。(なお一応金札ダンジョンに通って戦闘訓練もそれなりに積んでいるが、レベルはガイアレベル15のままであり……性根が戦闘に不向きなほわほわっぷりなのでしゃーなし、と凍矢も割り切っている。なお高レベル黒札親族のSR霊質のため、本気で修業&戦闘訓練すればかなり上がる素質はある。)
実際、現状では九重家たちの私服ボディーカードたちによってガチガチに警護は固められ、さらにガイアレベル30にもなる猫の『ミイ』も24時間体制で両親の護衛についている。
(多分光学迷彩……もとい『ドロンパ』で隠れている暗部のボディーカードとかもいる)
本人たちはそんな風にガチガチに護衛されている自覚はあまりない中、「塞ノ神」に参加して要らない正月飾りなどを火にくべようとした二人の前に、周囲からわちゃわちゃと色々な動物……神使たちが彼らの前に集まってくる。
「「「「うぉおおおおお!! 信仰してぇえええ!! 助けてぇえええ!!」」」」
その瞬間、ボディーカードたちは様々な武器を手に両親たちの前に立つが、相手が神……道祖神や塞の神の神使である事が三宝荒神に仕える彼らにとっては下手に攻撃を仕掛けていいものか迷い所だった。
「武器の使用を許可する!!撃て!!」
「し、しかし相手はこの地を守ってくれる道祖神様たちだぞ!?この地の霊的守護が……それに三宝荒神様との関係性も悪化するかも……!!」
これがメシアンや悪神なら容赦なく攻撃を仕掛けられるのだが、この地を守ってくれている泡状結界に組み込まれている道祖神たちである。下手に攻撃して不評をかったら結界が……と考えてしまうのは当然である。ともあれ、肉盾として両親をガードして小神たちの前に立ち下がっているボディーカードたちの代わりに行動したのは別の存在だった。
「ふみゃああああ!!」
飛び出してきた両親のボディーガード兼ペットである「ミイ」の猫パンチによってぺしっぺしっとした猫パンチでそれらの小神たちの神使たちは次々と弾き飛ばされていく。
神使たちはガイアレベル1にも満たない存在だ。ガイアレベル30のミイがふみゃっ!! と猫パンチすれば、うわー!! と吹き飛ばされるのも当然である。(一発で消し飛ばしていないので無茶苦茶手加減している)
「ふみゃっ!! ふみゃっ!! お前らそれでも神霊かにゃ!! 神としての誇りはどうしたかにゃ!!」
ぺしっぺしっというミイの肉球ふにふに猫パンチの一閃でうわー!! と吹き飛ばされていく道祖神たちの神使たち。
確かに魚沼シェルターの防衛装置の一部である泡状結界に組み込まれ、結界構築の一端となり、魚沼シェルターの未覚醒たちや低レベル覚醒者たちからそれなりの敬意と信仰を得ている彼らは勝ち組である。あるが……
「俺たちだって……もっと上質の信仰がほしいんだよぉおおお!! 黒札の親族というSR信仰MAG!! それがあれば俺たちだってもっとお腹一杯になれるはずなんだ!!」
「この地を守るべく頑張ってるんです!!
確かに彼らは道祖神としてこの地を守る結界を展開している。しかし、機械的でない人格を所有している彼らは未覚醒者や低レベル覚醒者だけでなく、黒札の身内というSR信仰が欲しいというのは仕方ないだろう。
ふしゃー!! と神使たちを威嚇するミイに対して、母親の美優はあらあらまあまあ、とミイを抱きかかえながら言葉を放つ。
「でも……この地方を守ってくれた神様でしょ? 私たちを守ってくれた神様ならきちんと拝めておかないといけないのでは?」*4
「それは……そうではあるんにゃが……」
確かに彼らはこの地を守って結界を張る力になってくれている神々である。だから、「この地を守ってくれる神を祭るのも当然では?」という母親の意見も一理ある。
問題は両親は『悪辣な神々がいる』『悪魔(神)は信用するな』ということを知らないことである。ショタおじの修行も何も受けておらず(黒札ではないので当たり前)静や凍矢から聞いた話だけで判断している彼らは神や悪魔の悪辣さを知らないというのは当然といえば当然である。*5
ともあれ、そんなことを話していると、一柱の神が実体化して前に進みでる。そして、彼ら小神の代理人……代理神として現れたのは「小出総鎮守」の「清水川辺神社」の神である「建御名方命」である。両親が住んでいるこの近辺の総鎮守も「諏訪神社」であり*6、十日町市の総鎮守も「諏訪神社」であるため*7、この地では割と諏訪神社の影響が強い。
「では、我が代わりに交渉しよう。この地の総鎮守であるのはこの我、「建御名方命」である。なのにこの我を崇めずに軽視しているのではないか!? いや、崇められているのは分かるのだが……功績に比べて褒美が足りないのではなかろうか!? この地を守護している分の改善を要求する!! つまり簡単に言えば……『労働交渉』である!!」
「魚沼シェルターの政治部門に言えにゃ!? 黒札様の親族に言うのは横紙破りだろうにゃ!?」
力はあるものの元猫上がりのミイが真っ向面から神に対する交渉では渡り合うためには権威が足りない。単に蹴散らすだけなら簡単なのだが、この地を守護する結界を張っている神々なのだから粗雑にはできない。
ぐぬぬ、と歯噛みをしているミイに対して、その真横にとある強大な神霊がトラポートして舞い降りてくる。
「では~私が交渉担当になりましょうか~。直接黒札様の親族に交渉とか横紙破りには「お仕置き」が必要でしょうか~?(威圧)」
「ゲエッ!? き、キクリヒメ!? 菊理姫大神か!!」
建御名方命に対してにっこりと笑いかけて威圧してくるのは凍矢の仲魔であり、回復系・蘇生系の担当であり、魚沼シェルターの日本神交渉担当役とも言える『地母神キクリヒメ』である。新潟総鎮守 白山神社の神である菊理姫大神……キクリヒメは元は新潟市のみを守護する神だったが、近代では新潟全般を守護している神と言ってもいい。
しかも、彼女は黒札の仲魔としてガイアレベル100オーバーの悪魔……大神霊であり、天照大神とも対等に話せる関係である。新潟総鎮守とそのごく一部を守る小出総鎮守では、立場が違いすぎる。いかに建御名方命も神霊であり武神であったとしても、長野県ではないこの地では立場上弱くなるのは仕方ないだろう。
ちなみに、キクリヒメは生と死の境界をすり抜けてイザナギとイザナミとの言葉を届ける権能をもっているため、SNSや掲示板内部では「境界」をすり抜けて言葉を届ける権能……つまり封鎖されているスレにも書き込みを行える権能を有している。(以前専用スレに書き込めたのもそのため。現在能力封印中。)
レベル100オーバーの大神霊の威圧に対して、武神である建御名方命も思わずぶるぶると震えだす。天津神・国津神のどちらにも属さない(強いて言えば国津神)のキクリヒメではあるが、彼女を敵に回せば「分霊がやらかした」と言っても国津神の中の評判も落ちる可能性が高い。
「魚沼シェルターの天津神・国津神に対する交渉だけではなく、天津神・国津神たちの折衝も行っている私の面を潰すとかいい度胸してますわね~~。(威圧)」
キクリヒメは魚沼シェルターの日本神に対する交渉代表として日本神たちと交渉するだけではなく、天津神・国津神の間の折衝にも携わっている。それは「ヘブライ神族」の陰謀によって互いに争わされ、結果的に双方が封印されてしまうという可能性を防ぐためである。*8カオス転生世界では、メシアンと天使たちの手によって日本神は天津・国津問わず封印されるという屈辱を味わってようやく解放されたのだが、天津・国津の争いを付かれたらまた同じことが起こるかもしれない。その屈辱を味わった日本神はお互い歩み寄るために天津神・国津神の間で折衝が行われている。天津神・国津神の間よりも敵はメシアン!!メシアン討つべし!!で長年の不和をどうにかしようとしているのだ。
それはともかく、ぷるぷると震えてわ……ぁ……!ちいか〇っぽくなっている建御名方命や道祖神たちの小神に対して助け船を出したのは、凍矢の両親たちだった。
「でも……キクリヒメ様。この地を守護してくれている神なら敬意を払うのは当然なのでは? 建御名方命は立派な神様ですし、道祖神や小神たちも守ってくださるのなら敬意や信仰を行っても……。」
「ウチの周辺に建御名方命様や道祖神様や塞の神様たちの祠やらを作って祭るのなら別に……。それがこの地を守護する力になるなら別にこちらは文句はないのですが。」
その両親の言葉を聞いてキクリヒメはううむ……と腕を組んだ。一度構築した泡状結界の一部を再度作り直すのもめんどくさい。さらに長年この地を守護していた道祖神(塞の神)たちはやはりこの地方の地脈などと相性が極めて良い。(力はごく一部の集落を守れる程度だが)建御名方命たち的にも黒札の親族の信仰MAGを貰えて満足して働いてくれるのならウィンウィン……というか『労働交渉』としては十分だろう。だが、今回はそれでいいとしてもまたどんどんと要求が増してもらっては困る。キクリヒメはそれを受け入れたが、しっかりと釘を刺しておくのも忘れなかった。
「分かりました~。今回はこれで手を打ちましょう~。契約書は私や凍矢様が作りましょう~。……ただ「次はない」とだけは言っておきましょう~。日本神たちとの交渉を行う私に対して横紙破りとかなめた真似をしたら……どうなるかわかっておりますよね~~~?(威圧)」
そのキクリヒメの威圧に対して、建御名方命や道祖神(塞の神)たちの神使たちは、へへ~~!とひれ伏す以外の選択肢が存在していなかった。……なお、この後両親は静から無茶苦茶オカルトや神(悪魔)についての教育や神々の契約について勉強を受けた模様。*9
……なお、凍矢はさらに両親に対して「妖獣イヌガミ Lv24」や「珍獣 クダ Lv24」などのペット兼ボディガードを増やすか検討中とか。
〇小ネタ「三宝荒神ストーブ」
そんな中、静は一つの情報を掴んでいた。それはアリスニキネキが創り出した石油を生み出し続ける『石油菜』*10とそれを巡って破魔ネキが石油ストーブの燃料のために『石油菜』を取り入れる*11、という情報である。
それを聞いて、静は「これは大きなシノギの匂いがするな……!」と活動を始めたのである。
「ふむ。「石油ストーブ」……つまりは「暖房」の必要性ですか……。この辺はウチの魚沼シェルターでも必要になるところですし……。三宝荒神様の「火鉢」を改良してみましょうか。三宝荒神様も多くの人々を救うためなら喜んで下さるでしょう。」
静の仕える三宝荒神は火と竈の神でもあり、竈ということは料理場だけではなく人々に暖を与えて厳しい冬を過ごすために必要な「暖房」を司る神でもある。現在は馬ニキも所有している三宝荒神の「火鉢」は売られているが、これは手軽な分、温める範囲がどうしても狭くなってしまう。さらにMAG節約や大量生産のために安価な練炭なども使用するようになっているため練炭なども必要になってしまう。*12
石油ストーブにはやはり灯油が必要となるが、この石油不足では灯油は非常に高価になる。到底一般人には手が届かないだろう。さらにガチの一般人では練炭などを必要とする三宝荒神の「火鉢」もコスト的や手間的に考えると面倒くさいだろう。それを考えた静は三宝荒神の力を借りて静は石油ストーブ、石油ファンヒーターを改良して「火鉢」代わりの「三宝荒神ストーブ」を開発したのだ。
灯油や石油は必要なく、MAGバッテリーが内蔵されており中心部の燃焼筒には三宝荒神のマントラである「オン ケンバヤ ケンバヤ ソワカ」という真言がびっしりと刻み込まれている。これによりMAGを補給して三宝荒神に祈りを捧げれば、MAGを燃料として燃焼筒が過熱、ストーブとして部屋を暖めてくれる仕組みである。これは豪雪地方である魚沼シェルターにとってまさに必需品そのものだ。
まずは、魚沼シェルター内部で試作して様子を見て、調子が良かったら破魔ネキの姫路支部や他の寒さの厳しい東北地方支部や北海道支部などにも売り込む予定である。非常に高価になってしまった灯油がなくてもMAGさえあれば温めることができるというのは民間人にとってもありがたいだろう。
(他にも上田原炭鉱から取れる練炭を使用している三宝荒神様の「火鉢」も売り込んでみましょうか……。これなら馬ニキ様にも利益が出るはず。火鉢は石油ストーブなどに比べて多少不便ではありますが、無くて凍え死ぬよりはマシでしょう。)
これにより、寒い地方で震える人々に暖を与えることにより、三宝荒神様に感謝のMAGが流れ込んでいくので、三宝荒神様もお喜びになっていただけるだろう、と静は腕を組みながらうんうん、と頷いていた。改良すれば部屋全体に破魔、結界を展開できるかもしれないが、あまり多機能にするとMAGの消費も激しいし高価になってしまう。とりあえずこれでいいだろう、と静は判断した。
(しかし、噂によると沖縄支部に我らが崇める「三宝荒神」様の転生体、現人神がいらっしゃるとか……。*13さすがにガイア連合。我らが奉じる神の転生体の黒札様がおられるとは……。*14もし来られたら全力でもてなさないと……。何なら九重家の女性を侍らせて現人神様の御子をワンチャン……。いえむしろ九重家の女性人員を「人材交流」の名目で沖縄支部に置かせてもらうべきか……。いやでも……。うーん……。)
そんな腕を組んで百面相をしている静を、凍矢は不審な目で見ていたがまあいいか……。とそれをスルーしていた。
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