「えー、というわけで……。馬ニキ様が倒れてしまった補填*1ということでいくつかアイデアを提供したいとおもうのですが……私からいうと馬ニキ様のモチベがまた下がることが懸念されるため、知佳様からこう……何かいい感じにアイデア提供という形で伝えていただければと……」*2
お、おう……と派出所運営を仕切る【金札】であり、馬ニキの人間としての正妻ポジションである『宮下知佳』は静のその言葉に若干引きながらもそれを受け入れる。
彼女たち金札にとって最も恐るべきは『黒札のモチベ低下』である。黒札のモチベが下がってアイテム作成をしてくれないと、それだけでガイア連合のアイテム頼りの低レベルデビルバスターたちが死ぬ。最悪の場合「もう飽きた」とシェルター運営すら投げ捨てて山梨支部に帰還する可能性も大いにある。それもあって、金札は基本的に黒札たちのモチベを上げるために頑張るべきでは? と静は考えている。*3そのために馬ニキの人間としての正妻ポジションである知佳にガンバ! してもらいたいのが本音である。
それはともかく、静は以前馬ニキに見せたストーブファンの改造したものを見せる。それは以前見せたストーブファンの表面に真言ではなく建御名方神の祝詞が刻み込まれているのが特徴だ。
「まずは「建御名方神型ストーブファン」これは以前紹介した「三宝荒神型ストーブファン」の流用品で六枚羽に三宝荒神の真言ではなく建御名方神の祝詞を刻み込んだものです。建御名方神は風の神でもあるので、火の神である三宝荒神様よりも相性がよく、MAG効率もアップしていると思われます」
そして、次に見せたのはそれを大型化した……つまり簡単にいうと『扇風機』である。カチッとスイッチを押すと回転して風が流れてくる……しかもそれはただの風ではなく冷たい冷やされた風である。
「で、こちらはこれを応用した「建御名方神型扇風機」。原理的には建御名方神型ストーブファンを大型化させたものと言っていいですね。扇風機の羽を金属製に交換して建御名方神の祝詞が刻み込まれており、より効率よく風を送ることができます。これも建御名方神は風の神なので相性はいいはずですね。また建御名方神の水の権能を利用して、ファンの水が周囲の空気の水分を蒸発させて、「気化熱」によりただの風ではなく冷たい空気を扇風機から放つことができます。いわゆる「冷風扇風機 」と同じ原理ですね」
水と風を司る建御名方神の力により、ファン自体が水分を吸収し、そこから空気の熱を奪って効率よく蒸発(気化)することにより、冷たい風を送り込む。これがこの扇風機の本質である。これもMAGバッテリーが内蔵されており、スイッチを入れただけで冷たい風が流れてくる形になっている。
未覚醒者たちには使いにくいということと、冷房は必須ではないため売れ行きはそんなに見込めないのでは? というところに目を瞑ればまあ……ということである。
さらに、静は自分で書いてみた設計図を広げて知佳に見せて説明していく。もっとも、こちらは失敗作であるので、あくまで概要だけ説明する、という形である。
「こちらは、それをさらに大型化・巨大化させた「建御名方神型風力結界機」です。原理としてはやはり建御名方神型ストーブファンを大型化させたもので、これにより風の流れでファンを回してそれを電力とMAGに変換。それにより周囲に結界を展開する起点と変換する予定でしたが……。風力発電は風による電力が不安定ということでそれにより結界も不安定になってしまったということで……。逆にそれを利用したのが「建御名方神型風力発電機」です。これはMAGバッテリーを使用して建御名方神の力により安定的な風の流れを付与。風力発電の欠点である不安定さをなくした安全発電供給を行う予定だったのですが……」
「……それなら直接MAGバッテリーでいいのでは?」
そう、わざわざMAGバッテリーを使って風を起こさせてファンを回すのなら、そのMAGバッテリーを直接電力に変換すればいい。至極簡単な理由である。知佳のその指摘を受けて、静はそっと目をそらす。
「私にだって……失敗ぐらい……ある……。ともあれ、別に商品開発も失敗の連続ですから……。いいものを作っても売れないことも普通にありますから……。まあともかく、この辺のアイデアをなんかこういい感じに知佳さんから馬ニキ様に伝えてください。私が考えたということは内緒で。それを知ったらまた馬ニキ様のプライドがこうアレになりかねないので……。」
ともあれ、気を取り直して、静はほかの発明品のアイデアを知佳に説明していく。それは【浦野牧派出所】で使用されている『蹄鉄』を用いたアイデアである。ここは「馬背神」を祭っていて馬ニキ自身も馬に変身できるので、馬の生産が盛んな土地である。馬が盛んということは、必然的に『蹄鉄』の生産・使用も盛んということだ。
静はこの蹄鉄に対する活用法を思いついたのである。
「で、他にも思いついたのですが……【浦野牧派出所】では馬の生産が行われているため『蹄鉄』の生産がそれなりに行われていると思います。この蹄鉄をオカルト的に運用していこうかと」
「蹄鉄を?」
「はい、西洋では蹄鉄は「魔除けのシンボル」として運用されています。そもそも『鉄』自体が魔女や悪霊を退け妖精を滅ぼす超自然に対する最強の金属として伝えられてきました。その中でも『蹄鉄』はさらに強力な魔除けとして運用されていたので、これを利用すればいいのではないかと」
蹄鉄は最も強力な「魔除け」および「幸運のシンボル」として西洋では使用されていた。
例えば、10世紀イングランドの聖人ダンスタンの逸話が存在する。これは、ある日、悪魔がダンスタンのもとを訪れ、自分の足に蹄鉄を打ってれと頼んだ際に、わざと激しい痛みを伴う方法で悪魔の足に蹄鉄を打ち付けた。
悪魔は苦痛に耐えかねて命乞いをし、ダンスタンは「蹄鉄が掲げられている家には絶対に立ち入らない」という約束を交わして悪魔を解放したという逸話である。
さらにヨーロッパの古い迷信では、妖精や魔女、悪霊は精製された鉄に触れると力を失う、あるいは火傷を負うという鉄に対する逸話も存在している。
蹄鉄は黒札たちが生み出すオカルト金属に比べたら当然のことながら霊的な力は弱い。
だが、それでも蹄鉄には長年『魔除けのシンボル』とされていた伝承と認知が積み重なっている。
これにより、静たちといった黒札ではない人間でも利用しやすいという特性もあるのだ。
「馬ニキ様は馬に変身する力をお持ちと聞きましたので、その変身したたてがみの毛か、抜けた冬毛や夏毛などを一本抜いて融解させた蹄鉄に混ぜて再度蹄鉄を作り直す。これで蹄鉄に馬ニキ様の御力が宿った*4と思いますので、壁にかけることにより【魔除け・厄除け】の【結界】が張れると思います」
ヨーロッパでは蹄鉄には力が宿っており、魔除けに加えて幸運を招く力を有している。馬ニキの夏毛・冬毛・たてかみを入れて再加工すれば黒札のMAGにより簡易的な結界を構築することが可能であろう。
蹄鉄は、ピカピカのものではなく、「実際に馬が履いて走り、役目を終えて外された古い鉄の蹄鉄」に霊的な力が宿るらしい。中世のヨーロッパでは蹄鉄は魔女を退ける力を持っていたが、現代の白魔女たちは蹄鉄は忌むべきものではなく、むしろ非常に強力な結界・魔除け・幸運のシンボルとして好意的に再解釈して自分たちの中に取り入れているとのことだ。
馬ニキはデビルシフトで馬型悪魔に変身する力により、夏毛と冬毛が生え変わる性質も有している。
ブラッシングすれば45リットルサイズのゴミ袋に満杯の夏毛冬毛が取れるらしい。*5なので、それを活用したらどうか?というのが静の考えである。そして、次に静は知佳から渡された上田市の産出資源についての情報が書かれた紙を見て、ふむ、と考え込む。
「ふむ……。あとはこれが上田市の産出資源ですか……。【信陽鉱山跡地】では【葉ろう石(パイロフィライト)やズニ石、褐鉄鉱】などが取れるとのことなので……。これを活用してみたらどうですか?例えば「褐鉄鉱」と「馬ニキ様の冬毛夏毛」と「蹄鉄」を融解して溶かし合わせて、新しいオカルト金属……【装蹄鋼(仮称)】とか作ってみるとか。」
上田市から産出される褐鉄鉱と魔除けの結界を張れて馬の生命力を宿している蹄鉄と黒札である馬ニキの毛を混ぜ合わせて再加工。さらに馬背神や馬頭観音の真言などを彫り込んだ『装蹄鋼(仮称)』などを作ってみたらどうか?というのが静のアイデアである。もっとも、あくまでアイデアなので実際にはどんなオカルトパワー金属になるかは不明ではあるが。
「まあ実際どんなオカルト的能力が出るかは作ってみないと分かりませんが……その辺は試してみてくださいとしか。あとは蹄鉄は悪霊や妖精を倒す力もあるため、蹄鉄を加工した「装蹄鋼弾」や「装蹄鋼盾」馬用の鎧の「装蹄鋼鎧」なども面白そうではありますが……作ってみないとどの程度の力が出るのか不明なのでなんとも……」
ただし、褐鉄鉱は「鉄としては使いにくい(水分が多いため)」との欠点があるらしいので、その辺は金属樹などを使ってカバーして、というのが静の考えである。環境浄化・消臭での利用、ペット・家畜の健康維持(ペットフードに天然のリモナイトを微量混ぜることで、「排泄物(フンや尿)の臭い自体を体内で消してしまう」らしい)ので、逆に装蹄鋼を食事に混ぜて食べさせると馬背神や馬ニキの加護が宿りそうではあるな……と思ったが、その辺の利用方法は馬ニキたちに丸投げである。
「後は、こちらの「葉ろう石」ですが……こちらは「耐火レンガ」の素材に使えるとのことですので、埴安神様辺りを招いて焼き上げて「耐火レンガ」にすればいいのでは?確か沖縄支部に『陶芸家ネキ』様*6という陶芸を得意とする黒札様がおられたと思うので……そちらに輸出すれば高く売れるのでは?」
葉ろう石(パイロフィライト)は、窯業の分野において、「熱による体積変化がほとんどない(低熱膨張性)」「急激な温度変化に強い(耐熱衝撃性)」という圧倒的な特性を活かし、近代の日本の重工業を支える絶対的な主役として君臨してきた。つまり窯業に関係する者たちからすれば喉から手が出るほどほしい代物である。
沖縄支部では陶器のアガシオンである『アガシオン・テラコッタ』も存在するので、これら「耐火レンガ」は必要になるはずである、というのが静の考えだ。
ともあれ、これらのアイデアを静からではなく、馬ニキの人間としての正妻ポジションである知佳から出れば彼のモチベーションも上がるはずである。(多分)あとはモチベーションを上げるために……(身体とか使って)ガンバ!と静は心の中で呟いた。
〇小ネタ、救護騎士団とメシアン
「くくく……。私はメシアン!! メシアンと親和性の高い救護騎士団*7に入って内部から浸食するぞ!!棄教術式でメシアンを棄教せざるとえなかったのは辛かったが……まずは一神教の布教!!そしてそこから他のメシアンたちから布教してもらってメシアン浸食だ!」
「忙しくてそれどころじゃねぇっ!! え? メシアンの犠牲者? わ、私たちはそんな……」
「人の命……救う……! 人の命……救う……!!」
「メシアンじゃなくても一神教じゃなくても人の命は救える! それは主のご意思にも従うこと!!すなわち……『救護』だ!! うぉおおお行くぞォ!! 私たちが現代のマルタ騎士団だぁああ!!」
これは単にメシアンから頭救護に再洗脳されただけでは? そうかな……そうかも……。