今回AIイラストがあります。苦手な人はご注意下さい。
終末後、魚沼シェルターでは一つのちょっとした問題点が起きていた。それはいわゆる『英雄願望』の強い少年たちがわりと出現していることである。*1
少年なんてものは皆強くてカッコいいヒーローになりたいもの。覚醒して敵悪魔たちを薙ぎ払い、強くてカッコよくてモテモテになりたいのはごく普通の願望である。
覚醒した後の万能感に支配されたまま、鳥煮亭総合学園に通っている少年たちは戦闘班のクラスへと転入届に出していく。ここで戦闘班として認められたら防衛部の戦闘班としてそのまま悪魔たちと戦う道も十分存在している。
「行くぞぉ! 俺たちは英雄になるんだ! 強くてカッコよくて悪魔を薙ぎ払う英雄に! 防衛部に入隊だー!!」
「ぷにっ。(お前らはこっちや)」
凍矢の分身の失敗作であり、鳥煮亭総合学園の実質的な指導者兼学園の最終防衛装置でもある、スライム(仮)は、そんな意気込んでいる彼らをあっさりと捕まえると、とある部署へと叩き込んでいった。覚醒して万能感に包まれた英雄願望の強い少年たちは、当然そのままにしておくと悪魔に突っ込んでいってあっさりとやられることが非常に多いため、魚沼シェルターが考案したのが、魚沼シェルター防衛部の一部門である山岳特化型狩人部隊「十二様山守衆」に配属されるという仕組みである。
この部隊は防衛部の中でも山岳特化型……つまり遠距離から敵を狩る狩人、マタギ部隊である。血気盛んな少年たちはまずはここに入り、適正がなかったり、他に適正があるのなら他部署に配属されるのが通例である。
「ぷに。(大体君たちみたいな英雄願望持ちはこっちに来るのが通例です。黒血とかSSR才能持ちでもない限り……ねぇ)」
魚沼シェルターはその地形上、周囲を山に囲まれた盆地であり、その周囲の山脈は防壁といっても過言ではないが山を下って魔獣などといった自然系の悪魔たちが襲い掛かってくる可能性も十分にありうる。
そのため、泡状結界があるとは言っても周囲の山々を監視する「目」が必要となってくる。そのための狩人、マタギ養成として防衛部の一部門として作られたのが「十二様山守衆」である。
「十二山様」は基本的に女神とされ、安産や子育て、山の安全、豊作・豊漁を守る神とされている。年に12人の子供を生むという多産・豊穣の属性を持ちます。地域によっては片目・片足であるという俗信や、ニンニク・麦を忌み嫌うといった禁忌(タブー)が存在する地域もある。(一説では八海山の本地仏は薬師如来。薬師如来の眷属は十二神将のため、その神様とも、一年で十二人子供を産むからともいわれている)
十二様山盛衆たちは長年を得て九十九神化した「村田銃」や魚沼シェルター内の秘密銃器工場で作成されたガイア銃である「レミントン M700」などを手にしてキノネキが編み出した「簡易退魔弾」で敵悪魔たちを倒していく。
立派に悪魔との闘いを行う部門ではあるのだが、英雄願望で真正面から悪魔を倒したい彼らは不満らしい……が現地SSRでも黒血でもペルソナ使いでもない彼らが悪魔との近接戦闘を行うなど無謀もいいところである。山脈を歩き回るマタギということで、凍矢の頼みで、射撃系の黒札たちがたびたび「十二様山守衆」へと教育を行っている。例えば一番相性がいい『マタギニキ』*2、狙撃を得意とする『のび太ニキ』*3、そして、今回運よく来てくれたのは銃と射撃を得意『キノネキ』*4である。
黒札たちから直接銃の指導を受けれるなど、そうそうあるものではない。むしろ涙を流して歓喜するべきだが……やはり「遠距離よりもカッコよく悪魔を倒したい!」という感情は隠しきれなかった。キノネキが機嫌を損ねても困るので、スライムは「切り札」を切る事にした。
「ぷにぃ……。(いいのかお前ら? ハルナをお前たちの教官にするぞ? 悪い事は言わないからキノネキから大人しく教育受けとけ)」
マタギニキの教育……薫陶を受けたハルナは、現地民たちに対して狙撃や銃火器についての教育も出来る。
……出来るは出来るが、そのやり方はかなりスパルタである。
例えば1レベルの初心者たちに平気で10レベルの悪魔をぶつけて「きちんと当てないと死にますわよ〜。距離を詰められても当然死にます。射撃能力は当てなければ死ぬのなら当然向上しますわ! ガンバ!」とかやったりする。そして彼らの選んだ道は……。
「「「キノネキ様よろしくお願いします!!」」」
お、おう……とキノネキも若干引き気味だったが、ともあれキノネキは彼らに遠距離狙撃のノウハウを教える事になった。キノネキの教え方は非常に丁寧であり、銃の構えから射撃体勢、当てるためのノウハウ、マタギニキやのび太ニキたちのような狙撃の専門家ではないが十分すぎる隠密や自然の溶け込み方などを指導していった。キノネキの丁寧な教え方によって、新米マタギたちはみるみるうちに射撃の腕前が向上していった。
「ぷに。(そもそも悪魔を倒すのにカッコいいもクソもないでしょ……。おとなしくキノネキから「狩り」の仕方を習っておきなさい)」
──魚沼シェルター防衛部山岳拠点『堀之内城』
魚沼市堀之内にある標高255.1mの山頂に存在していた中世の山城で、別名を月岡城、古長沢城と言われていた城跡である。南北朝時代、上野国の新田氏の出城、またはその一族・里見氏の居城と伝えられていたこの場所は、すでに痕跡すらない空堀や竪堀が残っている程度の状況だった。
戦国時代から中世にかけての軍事的な視点で見ると、堀之内城は三国街道と魚野川を完璧に監視・扼制できる、魚沼地方屈指の要衝である。
防衛部……防衛部の一部である山岳部隊『十二様山守衆』は防衛部の予算を使って『堀之内城』を再建。ここを拠点として泡状結界外部の山岳地帯を見張る役目を行うことにしたのだ。
周囲の山から迫り来る脅威を網羅的に監視し、魚沼盆地全体の安全を確保する役割を持つこの城は、簡易結界札などの簡易オカルト技術のみで構成されている『基本的に現地民のみの技術力で作成できるオカルト小型山城』(黒札からの廃棄材などを流用してはいるが)である。
『下倉山城』や『中子沢要害山城』にも同じように現地民のみの技術力で作られる簡易オカルト山城を作って「十二様山守衆」たちはそこを拠点として活動を行っているのだ。
名家たちが作成した簡易結界を構築する「祓木札」「結界札」、悪魔などが近づくと反応して鈴を鳴らす「感応鈴」、門には魚沼鉱山から取れた赤鉄鉱を現地民たちが加工した「魔虫や邪気、異界発生などを抑制し、世界の境界を安定させ、周囲の現実性を安定させて鎮める鉄『鎮界鉄』」で作り出された門が防衛を固めている。
現地民が魚沼の赤鉄鉱から加工し、建御名方神の微弱な加護がついている『鎮界鉄』は黒札たちが作り上げたオカルト金属と異なり、そんなに頑丈でも特殊能力があるわけでもない。しかし「魔虫抑制、邪気抑制、異界発生抑制を行い、悪魔の活動を鎮静化させ、さらに世界の境界を安定させる」という効果は、現地民たちにとっては極めてありがたい金属である。
これは魚沼地方で産出される「魚沼産赤鉄鉱」が元から鎮界性質・現実安定性質を潜在的に持っていたものと考えられる。原石のままでは現実安定化の効果は薄いがこれらを鍛えあげて建御名方神の加護を付与する事によって、ごく狭い範囲の現実法則を安定させ異界化や空間異常の発生を抑える、弱いスクラントン現実錨とも言える、現実世界の楔である「鎮界鉄」が出来上がるのだ。(これは田舎ニキたちが故郷を守り抜いて結果的に現実概念を守ったのが影響を与えたのではないかと言われている)
これらを使って作り上げられた「鎮界釘」あるいは守護のルーンが刻み込まれて木柵・防護柵に無数に吊り下げられている鉄板「鎮界鉄片」などは、一つ一つは小さな力でも多数揃えばそれなりの力を発揮する。(この鎮界鉄の性質を利用して周囲の現実性と現実法則を安定させて、ゲートパワーを抑制するスクラントン現実錨……もとい「界律安定機」が開発中)
その内部に住まう「十二様山守衆」にはいくつかの専門部隊が分かれている。山を観測し、山の異変を最初に見抜く『天眼』、山守衆の戦闘を担う射手たち『黒鉄』、山中を駆け回り、悪魔たちの痕跡を追う斥候部隊『風走』、山の結界などを祠や祈祷などで守る『鎮守』、そして山の幸である山菜、キノコ、ジビエ、木の実などを確保する『山幸』などである。
そして、その一部『山幸』は魚沼シェルターの山の一部では山の斜面を切り開いて、人工的に山菜……ゼンマイ、ワラビ、フキノトウを栽培している「山菜園」や様々なキノコなどを栽培している「キノコ園」などを作り上げている。元々山林だった場所は栄養分も豊富であり、山菜は放っていても育つほど生命力も強い。適度な湿り気と光があるゼンマイ区画、日当たりのよいワラビ区画、水分が確保できるフキノトウ区画などが区切られており、そこでは大量の山菜が人工的に育てられている。これらはいわゆるトリコ系植物ほど美味しいものではないが、山の神の微弱な加護がある程度なので、非覚醒者や半覚醒者でも十分に食べられるし、育てられる食材である。
魚沼シェルターから霊道である山道が山菜園まで存在しており、低レベル覚醒者たちはここで山菜園の栽培、あるいはキノコなどを栽培している。(住み込みで半覚醒者たちも働いていたりする)
十二山様や大山祇神が結界を張っているこの場所は、マタギ猟師である彼らが守るべき場所であり、同時に休憩場所でもある。これらは山菜園やキノコ園は大規模ではあるが、決して「山の幸を根こそぎ取りつくさない」という山の神の約定に従って栽培されている。(当然トリコ系食材に比べたら味はアレだが半覚醒者でも育てられて未覚醒者でも食べられるというのは大きい)
泡状結界から離れている堀之内城周辺は簡易結界が張られ、さらに静が提案・改造して開発されたばかりの試作型『建御名方神型風力結界機』*5が数基存在している。
ファンから発生する建御名方神の力が籠った「退魔の水」を冷風扇風機の応用で退魔の力の籠った冷風に変換。それを里山(人の活動領域外縁)へと吹き付けて悪魔を近寄らせない施設(試作型)である。
エストマほど強力ではないが、広範囲でエンカウント率を下げるであろうこの施設は現在実験試作中であり、実際に効果が出たのであれば、次は山中にも点在して作られる予定である。(コストや効果などは現在実験中であり、ダメそうなら見送られる予定)
そんな中、新米マタギたちはキノネキの教育もあって、その銃の腕はみるみる上がっていった……がやはりマタギとしてはまだまだであった。そんな中、彼らは堀之内城の敷地内に存在する「薬草園」で複数の白魔女たちが働いているのを目撃した。
「あれ? あれは……白魔女たち? 十二様って女性禁制じゃありませんしたっけ?」
「ああ……キクリヒメ様が交渉()してな……。女性でも問題ないという事になった」
山菜園の近くには、同じく山を切り開いて作られた白魔女たちの「薬草園」が存在している。白魔女たちは十二様や山の神ではなく、「ケルヌンノス」を崇めているが、キクリヒメの交渉()で異教神を崇める女性でも山の中に入る事を許可されている。
十二山神は一説では醜い女性の姿をしており、マタギたちも山も女人禁制ではあるが、キクリヒメの交渉により、魔女たちでも平気で山に登れるようになった。
彼女たちの薬草園では魔女たちが扱う多種多様な薬草が栽培されているが、その中でも沖縄支部がメシアンに対する嫌がらせのために開発した「メシアン草」である「ツルヒヨドリ」*6の『ロウ属性に汚染された地脈をニュートラルに改善する』という特性を抜き出した様々な薬草を栽培している。
銀剣ニキたちがメシアンに対するいやがらせのために開発した「ツルヒヨドリ」……「メシアン草」にはミントの因子が入っているため、魚沼シェルターの「農業ニキ」はこれを逆利用。
逆に白魔女たちが使う薬草であるミントの中にツルヒヨドリの生命力や『ロウ属性に汚染された地脈をニュートラルに改善する』『植物内に蓄積されたロウ因子を即時に薬効に変化させる』という因子を付与し、地脈から吸収したロウの力を短期間で薬効へと変更する『
それだけではなく、農業ニキはそれらの要素を白魔女が使う薬草へとその特性を付与。ローズマリー、セージ、ヨモギ、ラベンダー、ドクダミ、カモミールなどにも付与して様々な薬草を作り上げた。
例えば地脈からロウの力を吸収し、蓄えられたロウの力を変換して葉に蓄えて魔力回復薬などにする『
もっとも、メシアンの地脈改造で完全にロウ化していない日本ではそこまで強力な力は必要ない、と農業ニキは判断。低レベルの魔女たちや覚醒者たちでも育てられるように調整してある。こうして作成された魔女の薬がケガをしたマタギや低レベル覚醒者たちに使われているのである。
それはともかく、キノネキから銃火器の訓練を受けた新米マタギたちは「十二様山守衆」に所属する斥候部隊『風走』に所属するベテランマタギのところに修行のためにやってきていた。彼は道南支部シェルターからわざわざ来てくれた『マタギニキ』から直接マタギとしての指導を受けた古強者である。レベル10と現地民にしてはそれなりの資質とマタギニキからの教育は、彼をベテランマタギにするには十分すぎるほどであった。
「よし、よく来たな。今日は俺がマタギとしての教育を行う。山を侮るな。山の前じゃ人間なんてちっぽけなもんだ。油断していたらいつ死ぬかわからんからな」
だが、新米マタギたちが目を見張っていたのは、そのベテランマタギのすぐ隣にいる装甲に覆われた機械のような存在……フルプレートアーマーを纏った西洋騎士のようなソリットな容貌した人型ロボ……不溶不壊の氷で体を作り出して冬戦争などで散ったナポレオンの兵士たちなどの魂を封じ込めた『氷人形』である。
スマートで細身の外見、そしてツインアイに頭部が斧の刃を思わせる形状をした「カッコいい人型ロボ」を絵にかいたようなその姿は、少年たちの心を虜にしていた。
「コイツは防衛部……黒札様から与えられた俺の専用機である氷人形「ガスト・テンプル」*7だ。ガイアレベル10……Dレベル33とAトールに比べたらデチューンされているが……それでも頼れる相棒だぜ」
おおお! と少年たちは一斉に目を輝かせる。静がキョウジに対して供給した防衛用氷人形「A・トール(ガイアレベル20)」に比べたら、大量生産用にさらにデチューンされて性能もレベルも落とされている。それでも観測手兼タンク兼いざとなったら前線でも戦える優れた機体である。(のび太ニキでいうところのドラえもんの役)
上限レベルは低いが、その性質上マタギたちと一緒に隠れなくてはいけないので、表面装甲は氷の透明性を利用して周囲の自然に溶け込める『疑似迷彩装甲』を使用することでマタギたちと共に隠れ、観測手としてふるまい、いざとなったらマタギの盾となって悪魔たちと近接戦闘を行う。この隠密行動に特化されたタンク役こそが『ガスト・テンプル』の存在意義である。*8
「こ、これっ! これ俺たちにも貰えるんですか!?」
「……きちんと一人前になったら俺から交渉してやる。だが俺の指示にも従えねぇひよっこどもにはやれねぇ。きちんと命令を聞いたら口をきいてやるが……どうだ?」
やる!! やります!! と彼らは一斉に食いついてきた。これはスライム(仮)が作り出した彼らに対する「餌」であり「褒美」でもある。マタギは土と泥に塗れ、険しい山を歩き回って山中の異変を監視する厳しい仕事である。華々しく悪魔たちと戦う英雄たちとはかけ離れた地味な仕事であり、「こんな仕事やってられるか!」と逃げ出さないようにするため(無茶をしないようにするため)わざわざ凍矢の分身であるスライム(仮)がこれら氷人形を作成しているのである。
ベテランマタギは、隠密に長けた氷人形『ガスト・テンプル』と半覚醒している犬を連れて、新米マタギたちと共に冬山を歩いていた。新米たちを引き連れて冬山を歩くなど、ベテランマタギにとっても命がけの作業である。
まず彼が新米マタギたちに教えているのは『観察力』である。周囲の足跡や枝の折れ方などから動物や悪魔が通った可能性、沢や谷など地形を読む力、木の枝の傷、毛、糞などといったころから獲物や悪魔たちの洞察、天候と環境の変化を読む力などだ。
これらこそが、山内部に悪魔が入り込んでいないかを監視するための重要な力である。山の内部では特に魔獣や妖獣、地霊、妖精などが出現しやすい。それらの中でも凶暴な悪魔が入り込んでいないか、入り込んでいたら即撤退して防衛部に知らせるのが彼らの仕事である。
地面を這いずり回り、泥だらけになり、隠れて悪魔たちが入り込んでいないか見回る地道で泥臭い、華やかに悪魔を倒すとは程遠い仕事。だが、それこそがこの魚沼シェルターを守る大きな力なのである。
彼らはマタギの伝統的な山装備をベースにした体温を保持できる山守装束、山神のお守りや馬ニキのシェルターの『清めの塩』、鎮界鉄から出来た山鳴り鈴、魔女たちの薬草、簡易オカルトテント『山守幕』そして金属樹からできた山刀や九十九神化した狙撃銃、簡易退魔弾などを持って山の中を探索していく。そんな中、ベテランマタギは一匹の悪魔を遠くから見つける。のんびりと草を食っているそれは、通常の鹿などではなく人の頭に犬の体を持つ悪魔、【魔獣サンキ】だった。
それを見て、ベテランマタギの観測手である「ガスト・テンプル」はアナライズを発動する。
『【魔獣サンキ】ガイアレベル8。銃、火炎に弱い。敵は一体。やりますか?』
「よし、やる。周囲を警戒しておいてくれ」
そうして、彼は「火炎弾」の簡易退魔弾を手にすると、それを慎重に村田銃に込めて魔獣サンキに向ける。魔獣サンキは「ザン」を操り、早い速度で走り回るというまともに戦ったら彼らには厄介な相手だ。慎重に狙いを定めて、呼吸を整えて、引き金を落とすように撃つ。射撃。その火炎の力がが籠った簡易退魔弾の弾丸はサンキの胴体に叩き込まれ、銃と火炎に弱いサンキは即死亡した。
おおっ! と歓声を上げる新米マタギだったが、ベテランマタギは冷静にサンキの皮を剥いでそれを解体していく。これが普通の魔獣なら肉を食べるということもできたのだが、人の頭を持つサンキを食べるのはハードルが高い。これらの肉をもって帰って技術部でいろいろな処理を行ってもらうのだ。それだけではなく、ベテランマタギは周囲の地面を注意深く観察していく。
「ふむ……足跡はサンキだけ。木々の傷もほかになしか。飛行系悪魔の痕跡もないし……。ここはこれでいいかな。ん?」
と、そんな中、ベテランマタギの連れている犬がいきなりうなり声を上げた。それと同時に、彼らの目の前に森の中から半裸の薄着を来た年若い少女が悲鳴を上げながら飛び出してくる。
「助けてー!! 助けてくださーい! 悪魔に襲われているんです!! 誰か!!」
こんな山の中をそんな少女が!! 思わず助けなきゃ! と飛び出そうとした新米マタギたちを制して、ベテランマタギはしげしげと彼女を観察する。
こんな冬山なのに、薄着で平然と歩き、震え一つ起こしておらず、なおかつ息が白くもない。普通の人間なら吐く息が白くなって当然だというのにだ。
そして、ベテランマタギは彼女の足を見る。白くて綺麗な素足だ。そして
それを見た瞬間、ベテランマタギは迷いなく助けを求める彼女に九十九神化した村田銃を向ける。
「お兄さん!! 助けて!! 助けてくれたら貴方の恋人になるわ!! だから助けて!!」
「エネミーソーナー:レッド。アナライズ発動:敵と判断します」
「ち、ちょっと待ってください!! 少女が助けを求めてるんですよ!? そ、それを……」
ガスト・テンプルが判断したその瞬間、新米たちの言葉を無視して、ベテランマタギは迷わず彼女の腹に弾丸を叩き込んだ。
簡易退魔弾を腹に食らった瞬間、その少女は爆発した。いや、少女の『皮』を破って中から触手状の怪物が姿を現したのだ。腕や足や頭がはじけ飛び、そこから無数の触手が爆発的に姿を現すのはまさにトラウマになりそうな光景だった。
「ゲベロバベロバェエエエエ!!」
名前もない低レベルの悪魔は、簡易退魔弾の一撃でいともあっけなく倒れ、びちびちびちと地面を這いずり回った後でそのまま消滅していく。それを見ながら新人マタギたちはあっけに取られた顔でポカーンとしていた。それはそうだ。いきなり少女の皮がはじけ飛んで中なら怪物が飛び出してくればトラウマにもなる。少年たちも授業でこういうパターンはあるとは学習していたが、いざ実際に目の前にしたら対応できるかは話が別である。
「これが俺たちの世界だ。真実を見抜く観察力がないとあっさりと死ぬ。山じゃ勇気のある奴から死ぬこともある。怖がる奴は怖いから周りをよく見る。それが生き残る力になるんだ」
そんな風にベテランマタギが言葉を放つと、今度は森の中から白い少女の首が数個飛び出してくる。白目を向いて口からよくわからない液体をまき散らす数個の少女の首は明らかにまともではない。
「タスケテー……。タスケテー……」
首だけがゆらゆらと揺れる中、ベテランマタギは冷静に簡易退魔弾を装填すると、それを冷静に打ち込む。それが命中すると、少女の首は一斉に悲鳴を上げて吹き飛んだ。見てみると、同じように触手の名前もない怪物が少女の首の皮を利用して人間を釣って食べようとしていたのだろう。呆然としている新米マタギに、ベテランマタギは声をかける。
「銃を持ったから狩人になるんじゃねえ。山を見て、山を覚えて、山から帰ってきてようやく一人前だ」
「黒札様は大悪魔を倒せる。そりゃあありがてぇことだ。だがいつでも山に入れるわけじゃねぇ。あの方の『目』となって山を探って状況を知らせる。強い人に情報を教えたり、ここを持たせるまでが俺たちの仕事だ。よく覚えとけ」
こうして、彼らは氷人形を与えられて『怪異:くねくね』などから逃げたり他の悪魔たちと戦って、立派なマタギ……「十二様山守衆」としての一員としての戦力になっていったのである。
〇小ネタ「バイオハザード異界」
「と、いうわけでこれが【バイオハザード異界】になります。要望が多かったので新しく開発してみました。疫病神たちからの霊的攻撃がないと発動しませんが……出来上がったらそのたびお知らせしましょう」
それを聞いた瞬間、黒札たちから「おおおお!!」という歓声が上がる。
少し前、救護ネキが作り出したバイオハザードごっこ異界を馬ニキが攻略する*9のを見た凍矢は「これはシノギの匂いがするな……!!」と救護ネキを説得。いちいち自分で叩き潰すのも面倒な救護ネキはそれを了承し、ほかの黒札たちにもこの【バイオハザードごっこ異界】を開放したのだ。
元々は、救護ネキの異界を奪い取ろうと、多種多様な疫病神が霊的攻撃を仕掛けてくる中、救護ネキはそれに対抗しやすくするように異界が攻撃を受けた際に病院や各種ステージなどが存在する「バイオハザード異界」が自動構築されるように設定。
これを救護ネキや他の黒札が攻略することで、霊的攻撃をはじき返し、逆に疫病神にダメージを与え返すというシステムを構築したのだ。
簡単にいうと救護ネキの保有する異界に呪詛を受けた場合【身代わり人形ならぬ身代わり異界】であるバイオハザードごっこ異界が自動構築され、それを攻略することで呪詛を弾き返す方式である。
これを他黒札にも開放すれば黒札は楽しめて救護ネキは楽をできるという一石二鳥になるのではないか、と田舎ニキは考えて救護ネキに提案してそれが通った形てある。(多分ステージとか敵とかギミックもそのたび変化する。)
「くくく……。おいおいおい。随分面白そうなものを作ってくれるじゃあないか。これは、私も試しに作ってみるべきか?」
そう声を上げるのは少女の姿をした『黒死ネキ』である。そんな彼女に対して、救護ネキは僅かに眉を上げて言葉を放つ。
「わざわざ自分で異界を作るのも面倒なのでは? それよりプレイヤーとして楽しんだほうが「楽しい」のでは?」*10
「それもそうだな!! 構築されたときはぜひ言ってくれ。ぜひとも一番槍を楽しみたいものだな!!」
なおその後「何でみんな揃って銃火器縛りで攻略しようとするんだろう……」「何でこんなに人気出てるんだろう……」と困惑する救護ネキの姿があったとなかなったとか。
十二様山守衆
魚沼市シェルターを守護する防衛部の一部門。
いわゆるマタギ、狩人、猟師であり、山岳部での戦闘に特化された部隊。長距離の狙撃銃を手にして自然に紛れて悪魔や野生動物を狩ったりする。
マタギニキやのび太ニキと同じように遠距離から見つからないように隠れて狙撃で悪魔を仕留めるのが本分。
山岳部からの悪魔襲撃がないか見張り、山岳の結界部の保持、野生動物狩りによるジビエ採取、山岳部の悪魔狩りなどが主任務。
英雄願望が強い少年たちは大体ここに回されるのが通例。