歌住サクラコは好みなのですが、メガテンだとまぁメシアンだよね、と。
「はー、疲れた疲れた。借金返済のためとはいえ、あちこちを飛び回るのは疲れるなぁ。」
借金返済のために、凍矢は黒札の助っ人として日本のあちこちを飛び回っていた。
他の黒札の助っ人は、取り分は少なくなるが、何か交渉の厄介事自体は向こうの黒札に押し付けられるということでこれが一番効率がいいという判断である。
トラポートは便利だが、その分破裂の人形のMPが減ってしまうのが欠点といえる。
そんな風に仕事をこなした後で元公民館に帰ってきた凍矢は元公民館の前で静とシスター服でベールを纏った銀色のロングヘアーの女性が揉めているのが目に入る。
「?何だ何だ?……ってシスター服?まさか、メシアンか!?」
静と揉めていたシスター服の美少女は、ぱぁああと顔を輝かせると、凍矢の方へと駆け寄っていく。
その駆け寄ってくるシスターから守るように、銀髪のロングヘアーと鋭い瞳をしている容貌をした人間形態になった『破裂の人形』人間名<ノア>が立ちふさがる。
「黒札様!私、以前に助けていただいたものです!覚えてらっしゃいますか!?」
「えっ……?なにそれ。知らん……怖……。」
両腕の人間形態を解除して、機械の腕を構えて威嚇する『
話を聞いてみると、全て偶然だったのだが、彼女はてっきり自分たちを救ったと思い込んでいるらしい。
「……なるほど。分かりました。ですが私が貴方に救われたことは事実。
では改めて、初めまして。黒札様。わたくし、穏健派《シスターフッド》の桜子と申します。
この度は過激派の暴走を食い止めるために参りました。
メシア教穏健派とガイア連合はズッ友な間柄*1。これからも仲良くしていきたいものです。」
その桜子の言葉に、凍矢も静も
三人とも天敵であるメシア教の穏健派と仲良くする気など欠片もなかった。
けぇれけぇれ、塩撒いておけしっし。それが凍矢の本心である。
「……で?用はそれだけですか?だったらさっさとお帰りください。
凍矢様はお忙しいんですよ?」
「いえいえ、それだけではありません。この地で行われる過激派の陰謀を私たち穏健派が探知したので、それをそちらに伝えにきました。お話、聞いていただけますか?」
さっさと帰れという圧をかけてくる静を無視して、桜子はにこりと花のような笑顔を見せながら凍矢へと話しかけてくる。
過激派の陰謀の情報となれば話を聞かなくてはいけない。
凍矢は渋々ながらも桜子と話を行うことにした。
自分の拠点である元公民館には入れたくなかったのだが、過激派の話となるとそこらへんの喫茶店で行うわけにもいかない。
渋々ながら……非常に不本意ながら……凍矢は桜子を自分の拠点である元公民館に入れることにした。
「―――魔王ミトラス召喚?何でメシア教が?」
桜子の話に、彼は思わず面食らった。
それは、国内に潜むメシア教過激派が「魔王ミトラス」をこの近くで召喚しようと企んでいるというのだ。
魔王ミトラス。元は太陽神ミトラスとされ、古代インド・イランのアーリア人が共通の地域に住んでいた時代までさかのぼる古い神ミスラが源流の神だ。
インドではミスラ信仰は発展しなかったが、イラン方面ではミスラ信仰は大いには高い人気を誇りその影響はローマを通して、古代ヨーロッパへと派生し、さらに十字教へと影響を与えている。
「はい、我々の調べた結果ミトラスと言っても高位のミトラスと低位のミトラスが存在します*2。
低位のミトラスはガイア連合式LVでも21。
今の世界なら降臨してもその半分の力ぐらいしか発揮できないでしょう。
例え魔王であっても、そのレベルなら比較的容易にこの世界へと召喚することが可能です。
そして、問題はなぜ過激派がミトラスを召喚するかにあります。」
なるほど。だが、なぜメシア教が魔王ミトラスなんて召喚しようとしているのか、そこのところが理解できない。早く説明しろ、という凍矢の視線を受けて、桜子はその理由を説明する。
「つまり簡単にいうと、過激派は魔王ミトラスを召喚して、大天使メタトロン様へと変貌させ、この地にメタトロン様を降臨させようと企んでいるようです。」
「大天使メタトロン!?マジで!?」
そう、メタトロンはミトラスから大きな影響を受けている存在であり、古代ペルシャで絶大な信仰を受けた「千の耳と万の目を持つ全知の神」ミトラ=ミトラスが前身とされている。
それを応用し、ミトラスを召喚して、それを大天使メタトロンへと変貌させようという実験である。
メタトロンは、「小YHVH」「神の代理人」とも言われる四文字直属の部下とも言える存在である。
そのメタトロンが過激派に所属したとなったら、「正義は我にあり!」と過激派は大いに勢いを増す事になるだろう。
天使の中でもガブリエルなどといった慎重派・穏健派は天界の奥にこもって召喚されないようにしているため、こういった絡め手を使って無理矢理メタトロンを降臨させるつもりらしい。
「なるほど。LVが低かろうが無理矢理だろうが、メタトロンを召喚して我々は正義だ、という大義名分を得ようというわけか。*3」
ともあれ、状況は理解した。ウチの県でそんなものを召喚させるわけにはいかない。
しかし、まだ気になることはある。
「何でよりによってウチを選んだの?他に海外とかそこらへんでやればガイア連合の目も届きにくいだろうに。」
「それは、この近くで【ヒノカグヅチ】の転生体が見つかったからだと聞いています。
メシア教徒の信者が自分の娘が炎を操る悪魔だ、という事で調べてみたらその可能性が高かったとのことで。まあ、逃げられてしまいましたが……。
ヒノカグヅチの転生体に加え、ここには長岡に存在するホノカグヅチを祭る秋葉三尺坊大権現 秋葉神社と、そのすぐ目の前に天照を祭る神社も存在し、火と太陽を祭る場所として最適だと踏んでいるようです。」
つまり、ヒノカグヅチの転生体の潤沢なMAGを使用して、相性がいい秋葉神社の前で彼女を『使用』することで炎繋がりで元は太陽神であるミトラスを召喚しようというのだ。
ヒノカグヅチとアマテラスの神社の目の前で転生体を使ってミトラスを召喚しようなどというのは、天津神に真っ向面から喧嘩を売るも同義である。まったくよくやる、と凍矢はそう思う。
しかし、それだけ情報を掴んでいるのなら、穏健派自身で何とかならなかったの?との疑問に桜子は居心地悪げに答える。
「お恥ずかしながら……我々穏健派でも【大天使メタトロン】様の顕現を期待する声もあり……。
穏健派も動きが鈍いのが実情です。そこで黒札様のお力を貸していただければと……。」
メタトロンは元は人間エノクが天使へと変貌した存在であり、唯一神直属とも言えるほどの強大な存在である。
その経歴なら、降臨すれば過激派ではなく、穏健派に力を貸してくれる、と考えている穏健派もいる、という事なのだろう。
ホンマ、穏健派とか役立たずだな、何でこいつらいるの?という本音を押し殺しながら、渋い顔をして凍矢は頷く。
どのみち、ミトラスだろうがメタトロンだろうがこの土地を好き勝手にさせる訳にはいかない。そのためには彼女たち穏健派《シスターフッド》と協力する必要があるのだ。……非常に嫌だけど。
「それでは、日々に安寧があらんことを。」
情報を提供して協力も得られるという事で満足したのか、桜子は淑やかに一礼して帰路についていった。
その安寧崩してるのはお前たちメシア教じゃない?
そう思っていても口には出さないだけの良識は凍矢にも存在していた。
そして、桜子が帰った後で、人間形態に変化している『
「……マイマスター、よろしいでしょうか?あのサクラコこそが過激派のスパイである可能性は?
あそこまで知っているのはおかしいのではないかと。」
確かにその可能性は凍矢も考えていた。
だが、どの道魔王ミトラス召喚も大天使メタトロン降臨も防がなくてはならない。
「その可能性はあるけど、彼女がどうであれ、ミトラス降臨もメタトロン降臨も阻止しないといけない。どの道やることには変わりないからなぁ。」
その状況に、彼は思わずため息をついた。