黒札である凍矢の霊的守護により、他県からの物流の集積地になっている魚沼。
新潟と群馬、長野と福島との窓口ともいえるその場所は、以前より遥かに繁栄していた。
長岡市、新潟市とまではいかなくてもそれなりに繁栄している中、影に潜むものたちも存在していた。
―――この世界には、常識では考えられない事が存在する。
私、【秋葉 ほむら】がそれに気づいたのは高校に上がる頃だった。
そのきっかけはある悪夢から。
生まれたばかりの自分が何回も剣で切られて命を奪われる夢。
それから、私の身の回りには奇怪な現象ばかりが起こり始めた。
昔はオカルトに携わっていた秋葉家では、昔ながらの【お守り】が身を守ってくれたが、学校に行くたびに不吉なことや生徒の失踪などが起き始め、ついには不登校になって閉じこもってしまった。
その奇怪な現象を何とかするべく、母親がハマりだしたのは【メシア教】であった。
メシア教の力による結界?によって家には奇怪な現象は起きなくなったが、メシア教にはまった母親はどんどんおかしくなっていった。
そして、夢を見始めてしばらくたった後、私は手から炎を出せるようになった。
これは比喩表現ではない。文字通りの意味で炎を出せるようになったのである。
それを見た母親は狂気に捕らわれたように叫んだ。
「悪魔の子!悪魔の子め!炎を使う悪魔!今すぐ命を奪わなければならない!!今すぐ神父さまにご連絡を!」
幼少期から高校に上がるまでは普通だった私の家庭を狂わせたのは、まさしくメシア教だった。
優しかった母親はメシア教に帰依してすっかり人が変わってしまった。
自分や娘たちよりも、メシア教こそが最高の存在だと完璧に洗脳されてしまったのである。
父親は比較的マシ……というかメシア教の中でも穏健派とやらに属していたが、それは母親に連れられて無理矢理という感じだったらしい。
【おお!我が信徒よ!それは呪いではなく祝福です!
我々が祝福を施すまできちんと閉じ込めておきなさい!】
「ああ!なんという事!貴女みたいな役立たずのクズ、呪われた悪魔の子がメシア教の役に立てるなんて!
神父様とメシア教に感謝しなさい!神よ!感謝いたします!
こんな悪魔の子にまで救済をいただけるなんて!!」
娘から見てももう発狂しているようにしか見えない母親は、私に散々暴力を振るった後、神父が来るまで自室へと閉じ込めた。
あの狂信者たちに連れていかれるのなら、どの道ロクな目には合わない。
そんな風に諦めていた私を救ってくれたのは、まだまともな価値観を持っていた父親だった。
「すまない…俺にはお前を救ってやることはできない。せめてここから逃げ出させてやることしか……。本当にすまない……。」
父親がある程度の金を手渡してくれて、何とか家から逃がしてくれた後、私は行く当てもなく長岡市近辺のゴーストタウンへと逃げ込んだ。
そして、その治安の悪い中で、はぐれものの不良たちのリーダーとなっていたのである。
様々な理由で自分と同じように家出し、援助交際で生活している女の子たちの後ろ盾、護衛として活躍する代わりに、彼女たちからショバ代をもらっていたのである。
「姉御!」「姉御!」「お姉ちゃん!」「お姉様!!」
……何か変なのが混じっていたが気にしないことにする。
ともあれ、不良たちのリーダーとして異能者である私は闇の世界ではもうすでにオカルトが平気で使われている事に驚いた。
ハピルマやマリンカリンを使用して非覚醒の人間を満足させる風俗嬢やパパ活を行っている少女たち。
ダークサマナー狩りを運よく生き残ったダークサマナー。
そんな存在が闇に隠れるためにこういった場所に潜んでいたのである。
「悪魔召喚プログラム」なども出回っていると噂されているこの世界、私は自らの腕前と炎の魔術のみで少女たちを庇護し、その上がりをもらうことによって金をかせいでいた。
「あぁん?てめぇかよ最近この近辺でデカイ面してんのは。女ごときがなめ……ぎゃああ!!」
そんな因縁をかけてくる不良たちに対して、ほむらロングヘアーの黒髪をたなびかせながら手から出した炎で不良たちを牽制した。
ほむらは今はLV6、DLVでいうと20程度である。
そんな彼女であれば、DLV1程度の不良どもを蹴散らすなど訳もなかった。
「舐めてるのはお前らだろうが!!その程度の実力でデカイ顔するな!!」
次々と不良たちを薙ぎ払っていくほむら。
あっという間にこの状況に馴染んでしまった彼女は、我流の格闘術で不良たちを叩きのめしていく。
そして、そんなほむらを安物のレベルスカウターで見た不良たちは仰天した。
「な、なにぃ!?DLV20だと!?」
DLV20。それは黒札ではない霊能力者たちが物理耐性の壁に当たると言われているレベルである。*1
だが、ほむらは霊能力の才能があったらしく、その壁すらも軽く飛び越える勢いである。
「はいはいさっさと帰れ!これ以上アンタらと遊んでる暇ないの!!【アギ】!!」
そのほむらの【アギ】を見て、不良たちは一斉に逃げ出した。
DLV1とDLV20では文字通り天と地の差がある。
だが、むやみやたらに死人を出してむきになってこちらに襲い掛かってくるのも避けたかったので、牽制してうまく逃げるようにしたのである。
「さすが姉さんっす!痺れるっす!!」
チンピラを蹴散らした後で、彼女の舎弟を名乗る少年は無邪気な様子で彼女の活躍を喜ぶ。
そのチンピラ口調はやめてほしいなぁ。と思いつつも、彼女は自らを慕う年下の子に対して言葉を放つ。
「姉さんはやめなさいって。それより塩もってきて塩。
何か変な虫?魔蟲?っていうの?が沸いてるから盛り塩しておきなさい。
パパ活の女の子たちのところでも盛り塩しておいて。
あの子たちが稼いでくる金がアタシたちの命綱なんだから。」
「あと、女の子たちはアタシのところに定期的に連れてきて。
【ポムズディ】があれば性病とかは回復できるから。さすがに妊娠とかは無理だけど……。」
「大丈夫ですよ姉さん!最近あの子たちの中でもマリンカリン(劣化)やハピルマ(劣化)を使える子たちも増えてきましたから!Hしなくてもその手の魔術で満足させれば評判抜群でリピーターもたくさんですよ!」
「そう……。ともかく、パパ活の女の子たちには気を払って。
アタシたちの金蔓なんだからね。あとメシア教の奴らはどう?」
そう、ほむらの危惧しているのは自分を狙ってくるメシア教だった。本来なら、街の中にも紛れ込むのが最適なのだろうが、金も少ししかなく、身寄りもない彼女には、こう行った治安の悪い場所に逃げ込むしかなかった。
不良の身内を増やす事には悪目立ちしてメシア教に感づかれる可能性もより高まるが、生きていくためには仕方ない、と彼女は考えていた。
「なんだかんだで色々動き回っているみたいですね。どうも誰かを探しているとか何とか。
安心してください!ウチの子たちもパパ活の女の子たちも皆メシアン嫌いですから協力なんてしませんよ!
もとはあいつらのせいで家出したり家にいられなくなったり親を失ったりした子たちばかりなんですから!ただ……。」
「ただ?」
「何かここ最近、メシアン以外の連中もやたら動き回っているんですよね。何でしたっけ?名家の連中でしたっけ?あいつらも何かあれやこれや探し回ってるみたいで。」
「……勘ですがここのショバをさっさと捨てて別の場所に移った方がいいんじゃ?新潟市辺りに逃げ込めば嗅ぎ付けられなくなると思うっす。」
この子のこういうカンは頼りになる、とほむらは知っていた。
ほむらは、至急パパ活の女の子たちを真っ先にここから退避するように指示を出した。
・秋葉ほむら LV6(LV上限35)
【ホノカグヅチ】の転生体だが、彼女にはその自覚はあんまりない。
神の転生体の中でも現地民にしては優れた素質(LV35上限)と豊かな生体マグネタイトを所有している。
(そのためにメシア教過激派に狙われる事になるが)
何故ここまで素質が高いかというと、実は元はそれなりに優秀なオカルト家系だったのだが、明治維新などをきっかけにオカルトを捨てて一般人になったので、メシア教の根切りを免れた家系であるのと、祖先帰りして強い霊能力を持つため。
使える魔術は【アギ】と【ポムズディ】と【火迅斬り】
【火迅斬り】は炎を剣形状にして、そのままそれを振りかざして相手に斬りかかっていく技。
外見イメージ的には月姫の『遠野秋葉』と魔法少女まどか☆マギカの『暁美ほむら』