これだと「冷却魔術特化」「豪雪地帯の土地に拘りがある」「冥界と何かと縁がある(ニヴルヘイムは冥界のヘルヘイムと同一視される)」というのに説明がつくのが何ともはや。
【ヒノカグツチ】の転生体をメシア教より確保すべく動き出した凍矢と九重家。
だが、その結果は芳しいものではなかった。
元公民館内部で様々な資料を見ながら、静は思わずため息をつく。
「う~ん……。中々見つからないですね……。これはもう魚沼近辺にはいないですね。
いるとすれば、人の多い長岡市、あるいは小千谷市、十日町市に逃げ込んだか……。」
名家はその地元に対する影響力は凄まじい物があるが、それ以外の地域にはほとんど影響力がない。というよりは、他の名家のシマなので手出しできないというのが正確な所である。そうなれば、他の名家の手を借りるしかないわけではあるが……。
「と言うわけで、ウチの伝手だけでは難しいので、他の名家の力も借りたかったのですが」
「何か問題あった?」
しかめっ面をしながら掲示板を打ち込んでいる静の顔が、うまくいっていない事を物語っていた。
元々、名家は他の名家と仲が良くない、というか友好関係を作り上げている名家同士の方が珍しいという関係である。
戦国時代のように、油断すればすぐさま他の名家に攻め入られるということも珍しくない。
九重家も真っ先に黒札を確保できたので他の名家の上には立てているが、命令できる権限など存在しない。
せいぜい要請が精一杯で、それを見事に蹴り飛ばされている状況だった。
「あの野郎ども欠片も動こうとしないですね……。黒札様の名前で、何か餌で釣っていただければ……」
「おk。それじゃ傷薬10個1セットでいい?まあ安物だけど……。」
それを聞いた静は思わず驚きの声を上げる。
「き、傷薬!半死半生の人間すらたちまち回復させる魔法の薬そのもの!それを十個も無償でポンと……。本当にいいんですか?」
「いいよー。ただし有力な情報を集めた先着様一名限りね。それなら向こうもやる気出すでしょ。」
黒札にとって傷薬は別段珍しい物ではないが、現地人にとってはまさにエリクサーそのものである。
重症の人間でも瞬時に治癒する傷薬は、名家からすれば喉から手が出るほどほしい代物だ。
それが無料で手に入るのだから、それは必死になるだろう。
実際、それを名家の出入りしている掲示板に書き込んだら一気に活性化して大盛り上がりになった。
「あ、掲示板が一気に盛り上がった……。まったく現金な奴らですね……。
まあいいでしょう。それで、この後はどうしますか?」
「うーん……。ここ近辺のメシア教の動きって把握できる?あいつらの動きに変化があれば何らかの情報を掴んだといえるんじゃない?」
「かしこまりました。大至急手配します。あのシスターフッドと名乗る穏健派の動きも注意しましょう。
この状況だと、メシア教は全て過激派と繋がっていると考えて行動したほうがいいですね。
本来なら秋葉神社に陣取っておいたほうがいいかもですが……こちらを騙す罠とも考えられます。
安易に動かず、敵の状況と行動を見定めた方がいいでしょう。」
その静の言葉に、凍矢は頷いた。だが、続いて鳴り響いた電話を受け取ったことによって表情は一変した。
「もしもし……え!?メシアン過激派の一斉蜂起!?新潟各地で!?マジ!?」
「―――どう?パパ活の子たちの移動は完了してる?」
場所は変わって、秋葉たちが潜んでいるゴーストタウン地区。
その内部にあるほむらたちが根拠地としている廃ビル内部では、ほむらとその仲間の少年が会話を行っていた。
メシア教や(なぜか分からないが)名家も動き出したとなれば、ここが知られるのも時間の問題だろう。事は迅速に行わなければならない。
「ばっちりっす!大規模な移動になると察知されるんで一人ずつこっそりと新潟市の方へ送っているっす!」
パパ活の子たちはおよそ10人ほど。
これらの子たちが一気に動けば流石に見つかるが、一人づつこっそりと新潟市に向かう分にはいかにメシア教の情報網が優れていても察知はできまい、というのが彼女たちの考えだった。
「とりあえずバラバラになって新潟市に逃げ込んで、また連絡があったら指定された場所に集合と。これなら最悪捕まっても被害は最小限に抑えられるはずっす!」
ほむらたちが動かずにここに留まっているのも、逃げ出す少女たちからメシア教の目をそらすためである。
いざとなったら、自分一人で戦って逃亡する。その手筈である。
「よし、それじゃアタシも逃げる手筈を整えるから、アンタもさっさとここから逃げ出しな。
アンタが捕まっても足手まといは切り捨てるからね。アタシ。」
そんな話をしていると、ほむらが手に入れたどこからか流れてきたDLVを図れる測定器『スカウター』が反応する。
寝ている間に迷い込んだ悪魔に襲われないよう、スカウターの『エネミーサーチ』は数秒に一回更新され、反応があるとアラームが鳴るようにセットしてあった。
それが反応するということはつまり。
「ここから逃げるよ!敵だ!!」
その瞬間、廃ビルの壁を突き破って羽の生えた神々しいヒト型の存在『エンジェル』が姿を現す。
スカウターによれば、DLVで33。何とか戦えなくはない存在である。
だが、到底一匹だけだとは思えない。
『火迅斬り』でエンジェルが振るってきた杖を受け止めて、返す刀で斬撃を行いながら、ほむらは片手で少年を抱えて廃ビルから飛び降りようとする。
ここは三階ではあるが、覚醒した人間からすれば問題はない。
だが、次の瞬間、エンジェルが開けた穴から現れた存在から魔術が飛ぶ。
「【シバブー!!】【デゾレト*1!!】」
対象を緊縛状態と虚弱状態にする魔術。
それによって、耐精神を持っていないほむらも少年も見事に身動きが取れなくなってしまう。
特にまだ覚醒していない少年に対して、虚脱状態の魔術は強すぎた。
みるみるうちに体内の生気が尽き果ててあっという間に死に至ってしまうだろう。
「くっ……!このっ……!!」
何とか緊縛状態から必死になって、手元のパトラストーン(弱)を少年に投げつけて回復させる*2が、それでも少年は気絶したままである。
本来は自分がパトラストーンを使えば回復できたのだが、未覚醒者である少年があのままでは死亡してしまうと判断して向こうに使用したのだ。
そんな彼女たちに、エンジェルたちとメシア教の信者を従えたメシア教の司祭の服を纏った男が近づいてくる。
「ふむ、こいつらでいいのですね?確かに母親から聞き出した容貌そのものです。
脱出する際にわざわざ自分から目立つ炎の目印を出してくれるとは、やはり素人ですね。
ああ、よく言うことを聞いてくれましたね。褒めてあげましょう。」
そういうと、その司祭の男は傍にいた少女の頭を撫でる。
それは、ほむらの下にいたパパ活を行っていた子だった。
裏切ってほむらの事をメシア教に売ったのか、と思ったが、どうも様子がおかしい。
「えへへ、パパ。私パパの言うこと聞いたよ。褒めて褒め……。えっ?ここどこ?
な、何で姉さんが捕まってるの!?どういうこと!?っていうかアンタ誰!?」
今まで夢見心地だった少女は突然正気を取り戻したかのように、混乱状況に陥っている。そんな彼女に対して、司祭は手を少女へと向けると束縛魔術をかける。
「ふむ、プリンパによる混乱とマリンカリンによる魅惑で私を慕う人間と勘違いして情報を引き出すのはうまく言ったようですね。ああ、貴女はもう用済みです。後で貴女の望みも叶えてあげますよ。【シバブー】」
正気に戻ったパパ活の子をシバブーで束縛状態にした後、そして、束縛状態になったほむらや彼女たちを見下ろしながら、彼はにんまりといやらしい笑みを浮かべた。
次回はメシア教過激派の”本気”が始まるよ~。(やめろ)
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