―――長岡市、秋葉神社、秋葉三尺坊拝殿
その場は、完全にメシアンたちに封鎖され、何重もの結界に覆われていた。
特に気を払ったのは、トラポートを弾き飛ばす結界である。
この近くに存在する黒札はトラポートで瞬時に移動してくると聞く。これを封じ、人海戦術で彼を足止めする必要があるのだ。
人払いをしたあとで、ここを封鎖している何十人ものメシアンたちは覚醒者な上に通常の銃にメシア教の加護をこめたメシア銃で武装している。通常の名家などでは手も足もでない武力である。
おまけに、新潟各地に潜んだ過激派たちが小規模ながらも暴動を起こして目をそらしてくれる手筈になっている。
本命の目を逸らせるために、多発テロを仕掛けるのは常識的の常識といえる。
これによって、名家や他の黒札たちもこちらには来れないはずである。
そこにほむらやパパ活の子たちは魔術で縛り付けられながらも連れてこられた。
乱暴に地面に投げ出されながら、パパ活の子は泣き叫ぶ。
「畜生!私を騙しやがって!パパは!本当のパパはどこなの!?」
「ええ、私も嘘をつくのは好きではありません。きちんと両親に合わせてあげますよ。連れてきなさい。ほら、これが貴女の両親ですよ。」
そういいながら、メシア教の司教は二つのカプセルを部下に持たせてくる。
そして、そのカプセルを覆った布をばっとめくった瞬間、その少女は絶叫した。
「き……きゃああああああああ!!!」
そう、その二つのカプセル内部にあったのは脳。人間の脳だった。
「両親に会わせてあげる」「二つの脳」
この二つのキーワードが結びついた瞬間、彼女は絶叫し、泡を吹いて気絶した。
それは当然だろう。こんな狂気に満ちた光景並の人間に耐えらえるものではない。
そんな気絶した少女に対して、司教はにっこりと彼女に笑みを向ける。
「ご安心ください。貴女もこの後一緒にしてあげますよ。
家族三人仲良く日々を過ごす。これこそ主の御心にそう事ですから。
さて、それでは準備も万端ですし、貴女にはこれを見ていただきましょうか。」
そういいつつ、司祭はほむらに対して映像機器の画面を見せつける。
嫌な予感がしたほむらは必死にそれを拒む。
「や、やめて!見たくない!見たくない!!」
「いけません。真実から目をそらすのはいけないことです。
ほら、ごらんなさい。”真実”を。」
そこに映っていたのは優秀な存在を生むために若返りを受けたほむらの母親。
そして、その母親がまるでウミガメのようにボコボコ大量の子供を出産している衝撃のシーンだった。
少女とも言える年齢にまで若返った母親が、様々な機械に囲まれて、出産を繰り返しているのはまさに異常という他なかった。
彼女は、これ以上ないほどの恍惚と快楽に蕩けた表情で絶叫する。
「んほぉおおお♡天使様の言う通りにしたらしゅごいのぉおおお!
天使様のために原罪のない無垢な人間を沢山生むのぉおおお♡」
「見てるぅうううほむらぁあああ♡
貴女もこちらに来て無垢な原罪のない人間を沢山生むのぉおお♡
それが人類の救済に繋がるのぉよおおおお♡」
そう、無垢な人間を大量生産することによって【汚れなき人々】を作り出し、
人造神聖異界という名の【楽園】を作り出し、世界に平安をもたらす……というのは表向き。
それら全てを生贄に捧げて【対星神聖兵器】を作り出すのが過激派の最終目的である。(もっとも、今の凍矢たちにそれを知るよしもないが)
そして、ほむらの母親は【汚れなき人々】を作り出す母体の一つに選ばれたのである。
「あ……ああああああああああ!!」
いかに愛情がない母親であろうと、そんな惨状を見せられて平然としていられるはずもない。
絶望から彼女は絶叫し、そこから膨大な生体マグネタイトが発生する。
「おおおお、これは実にいい生体マグネタイトです!これならいけそうですね!」
発生された膨大な生体マグネタイトを使用し、元は炎の神であるホノカグヅチを祭っているこの秋葉神社の前という特性と地脈のエネルギーを流用し、メシア教の天使召喚システムの改造版を使用することによって、この地に太陽神ミトラスを召喚する。
元々、ミトラス教は一神教に影響を与えた宗教であり、それなりに相性はいい。
魔法陣に十二分な生体マグネタイトが蓄積されて、もういつでも召喚可能な状況である。
「あ……あああ……。」
生体マグネタイトを消費し、衰弱したほむらはメシア教の教徒によってしっかりと支えられている。
彼女にはまだまだ使い道がある。この程度で死なれてしまっては困るのだ。
そんな満足気な司祭に対して、一人のメシア教穏健派の幹部が話しかけてくる。
彼はここ魚沼・長岡近辺のメシアン穏健派のとりまとめ役でもある。
媚びを売る笑みを浮かべながら、彼は言葉を放つ。
「へ、へへ……。これだけ手を打ったし、新潟各地で小規模ながら反乱が起きるよう過激派の手引きもした。こ、これなら俺も過激派の重鎮になれるよな!こんな辺境じゃなくて、大神殿で威張り散らせるよな!」
「ええ、貴方の献身を主はご覧になっております。私からきちんとほかの幹部へと話を致しましょう。」
もっとも、貴方も大神殿で脳だけになって神に仕えてもらいますがね、とそう心の中で司祭が呟いた瞬間、彼らに対して第三者の声が響き渡った。
「―――なるほど。ようやく尻尾を出しましたね。」
その声と共に、過激派たちに対して、今まで影に隠れていた者たちが一斉に銃撃が襲い掛かる。それを行ったのは凍矢でも名家の人々でもない。
それは―――。
「穏健派《シスターフッド》桜子見参!!《シスターフッド》進撃!!
過激派も過激派と手を組んだ背教者も根こそぎ蹴散らすのです!!」
そう、それはメシアン穏健派であるシスターの服を身にまとった銀髪の女性、桜子であった。
彼女は手にしたメシア銃である
それだけではない。銃を手にした数十人のシスターたちが過激派に対して祝福を受けたメシア銃の銃撃を叩き込んでいく。
そう、彼女たちは、過激派と手を組んだという穏健派のスパイ、あるいは背教者を見つけ出すために、過激派を監視していたのである。
「貴様らは!穏健派《シスターフッド》!!」
司祭は忌々しげに銃撃を行ってくるシスターたちを睨みつける。
だが、彼女たちの手にしているメシア銃・メシア弾は天使に特に威力が低いという特性がある。*1
天使たちを前面に押し出せば彼女たちの攻撃を防ぐこともできるだろう。
そう、シスターフッドなどただうざったいだけの存在でしかない。
「ふん、たかがあの程度のシスターどもが何ができる。だが、邪魔される前にさっさと召喚してしまうか。わが元に来たれ!太陽神、魔王ミトラスよ!!」
彼のその言葉と共に、数人の敬虔な信徒たちが自らの首に刃を突き立て、その血と魂をミトラスへと捧げる。
ミトラスの祭儀は牡牛の犠牲が貴ばれる。それを人間で代用したのである。
それと同時に地面に魔法陣が描かれ、膨大な光の奔流が放たれると共に、下半身が石で上半身が優雅な美青年の悪魔、いや、神霊がこの地上に降臨した。
「魔王ミトラス、降臨しました。コンゴトモヨロシク……。」
召喚プログラムによって、ミトラスを制御下においた司祭は満足げに頷く。
「ふふふ!我らの目的の第一段階は達成です。次は第二段階、原発の力を手に入れる手はずも行いましょう。
核エネルギーの力と我らの信仰の力によって、ミトラスをメタロトン様へと変貌させ、ここら近辺の地脈を支配しましょうか。」
魔王ミトラス降臨を見て、シスターフッドたちはさらに激しく攻撃を仕掛けていくが、それらは全て盾になっている天使たちに防がれている。
司祭が恐れているのは、彼女たちではない。
この地に存在するガイア連合の黒札だけだ。
「ふふふ。こんなこともあろうかと、この周囲にはトラポート封じの結界が張り巡らされています。
おまけに新潟のあちこちで我らメシアンの各所一斉蜂起。さらにこの周囲には厳重な警備体制。
これではさすがの黒札も……ん?」
その瞬間、司祭は異様な空間の歪みを感じ取る。
それは結界内部ではなく、結界の外、しかも自分たちの上空からである。
「まさか……空から!?」
その司祭の言葉と共に、上空の空間が砕け散り、トラポートしてきたフル武装した凍矢と『破裂の人形』が姿を現し、そのまま真下へと落下していく。
「うおおおおお!俺死んじゃぅうううう!!*2」
「上空にトラポート成功!このままバスターランチャーを展開します!
マスターはそのまま私に捕まっていてください!」
『破裂の人形』は落下しながら、バスターランチャーを展開して、その銃口を地上へと向ける。
まさか……こちらに向かって撃つ気か!?と驚きの顔を見せる司教に対して、『破裂の人形』は何のためらいもなく引き金を引く。
「
銃口から凄まじい光の奔流が解き放たれ、真下の結界へと着弾し、結界を粉微塵に破壊しながら地面に命中した光の本流は地面を打ち砕き、衝撃波とアスファルトなどの欠片を周囲に猛烈な勢いで飛び散らせる。
そのメキドの放った反動により、落下速度を大きく相殺した『破裂の人形』は、落下したまま巨大なラウンドシールドを自らの足元に敷くと、地面にスーパーヒーロー着地をする。
「着地成功!」
「ぶぎゃ!!」
華麗に着地を決めた『破裂の人形』に対して、凍矢はその反動で吹き飛ばされて顔から地面に叩きつけられる。あいたたた、と顔をさすりながら、凍矢はMP回復用のチャクラドロップを取り出して、『破裂の人形』のMPを回復していく。
どうにも今一格好がつかないのがまさに彼らしいといえば彼らしいだろう。
だが、派手に登場した黒札に対して、司祭は驚くでもなく、微笑みながらこう言葉を放つ。
「ほう、よくここまで辿り着きましたね。ではお約束として聞いておきましょう。―――何者ですか?」
「よく聞け。通りすがりの―――ただの黒札だ!!」