メシアンとの戦いが終わって数日後。
ほむらや彼女の仲間たちは九重家にかくまわれて、安全な場所でそれぞれ過ごしていた。
そして、ほむらは凍矢が拠点にしている旧公民館へと匿われていた。
ベッドの上で寝かされた彼女は、ううん、と声を上げたほむらは眠りから目が覚めた。
何か猛烈に嫌な物を見せつけられた気もするが、まるで悪夢を見たかのように記憶がはっきりしない。
とりあえず、目を覚ましたほむらが、ベッドから体を起こすと、傍の椅子に座っていた凍矢は彼女に声をかける。
「おっ、目が覚めた。大丈夫? 痛いところとかない?」
何か
怪物が
いる
ほむらは探知系統に優れた覚醒者という訳ではないが、目の前の男性が凄まじい力をもっているのだけは理解できる。
幸い、ベッドの近くに自分の荷物……レベルを計れるスカウターがあったので、ほむらは冷静になって傍にあったスカウターで目の前の存在を見てみる。
>DLV測定不可能。
DLVで言えば139にも達する今の凍矢のLVは簡易スカウター、しかもDLV仕様では到底図れない。
そんな怪物、現人神そのものの存在が目の前に平然と存在しているのだ。
訳が分からないよ。ほむらは、心の中でそう呟くと、何のためらいもなくそのまま気絶してベッドへと倒れこんだ。
「ああっ! ま、また気絶した! 誰かパトラストーン持ってきてー!!」
その後、再度目を覚ましたほむらにパトラストーンなどを使用させて落ち着かせながら、凍矢は自己紹介も含めて彼女の起こった事、今の現状を説明する。
「……まあ、簡単に言うと、君は『ヒノカグツチ』の転生体であって、君たちの身柄はウチで保護する、という訳。分かった?」
「『ヒノカグツチ』の転生体……? アタシが……? いや、そんな自覚ないけど……。
いや、それより、アタシを保護するって何でですか? そちらにメリットは無いのでは……?」
確かに妙な夢を見て、手から炎を出せるようになったとはいえ、彼女自身には『ヒノカグツチ』の転生体という自覚はあまりない。
しかし、自覚はないとはいえ、その真実をある程度自覚した彼女はスキル【火之迦具土】を獲得していた。
これが動かぬ証拠だといえる。凍矢はそれを理解させて、さらに続ける。
「いや、メリットはある。というか君の力を利用しようという輩が五万といる。
君は悪魔の転生体の中でもかなりの素質と良質な生体マグネタイトを有しているからね。
君を利用して復活したいという大悪魔たちやその信者たちは大量にいるだろう。
今回のメシアンの件がいい例だ。それらから君を保護してこちらの厄介事を減らしたい。そういうわけだ」
なるほど、それなら理解できる。
正直、理解の及ばない超常的出来事が山のように襲い掛かってきては、こちらは右往左往だけで全く対応できない。それならここで保護されたほうが最善だということは、ほむらにも理解できる。
「わ、分かりました。仲間たちも保護してくれるのなら、アタシからいうことはありません。
よろしくお願いします」
「よし、それじゃまず十分に休んでおいて。MP回復用アイテムとパトラストーンはおいておくから、何かあったら使ってもいいよ」
そう言って、凍矢はほむらを休ませるためにその部屋から出ていった。
そして、部屋から出てきた凍矢は、招き寄せたとある黒札と出くわして話を始めた。
それは、ミナミィネキの部下の一人である「インキュバスの悪魔変身能力者」で催眠による記憶操作などを得意とする通称『催眠ニキ』*1だった。
「よーっす。とりあえずあの子の記憶操作は終わったぞ。
あのトラウマ待ったなしの記憶は消した……けど」
催眠ニキは、その名前の通り、催眠によっての記憶操作を得意とする。
それによってトラウマとなる記憶を操作して精神治療も得意としているのだ。
そのため、凍矢はミナミィに頭を下げて、彼の力によってほむらの母親のあの出産シーンを記憶から消去してもらったのだ。
あんなトラウマ間違いなしの記憶をそのままにしておいたら、ほむらは性交渉も出産に対しても多大なトラウマを抱えてしまうだろう。
それを危惧した凍矢はわざわざ彼を呼び寄せて記憶操作を行ったのだ。
「けど?」
「正直、あれだけ強く刻まれてると何かのきっかけで蘇ってもおかしくないな。
安全策としては、もう母親の記憶全てを完全に消去した方が彼女の精神的安定にとってはいいと思うけど」
あまりにインパクトの強い記憶は消去しても、何らかのきっかけで連鎖的に復活してしまう可能性がある。
それならば、母親の記憶全てを消去した方が遥かに精神的安定が得られるという彼の発言は極めて正しい。
作品では、トラウマの記憶を消すより全て自分自身で受け止めて昇華することが正しいとよく描写されているが、それは精神が強い人間だけである。人間が全てそんなに強いわけではない、ということは彼もよく知っている。
「うーん……。母親の記憶を全部消すのは、さすがにほむらと相談しないとな……」
「まあ、その時は呼んでくれ。……。あとあんまり聞きたくないんだけど、あの子の両親どうなったの?」
「結局父親は過激派に始末されてた。母親は何とかブラザーフッドが確保して、ガイア連合の治療部で治療して、全ての記憶を消去して別人としてどこかで生活させるらしい。ほむらには、もう両親とも死亡と伝えるしかないな……。若返って出産マシーンとなった母親と合わせたらまたあのトラウマ蘇りそうだし」
それもそうだな、と催眠ニキは頷いた。彼も少女たちを保護しているため凍矢の気持ちはよく理解できるらしい。
ちなみに、ほむらだけでなく、彼女の配下であるパパ活を行っている少女たちを引き受けるとなった静さんの反応はこちら。
「ふむ……。なるほど。ハピルマ(劣化)やマリンカリン(劣化)が使えるハニトラができる女性たち、と。……素晴らしい! 優秀な諜報員たちが大量に手に入るなんて濡れ手に粟ですね!!
スパイ訓練を受けていない素人なら、返って皆油断して情報をポロポロ漏らしてくれるはずです!!」
「ちょっと? 静さん?」
「ああ、もちろん強制はしませんよ? 望む人たちだけ諜報活動や情報収集活動を行ってもらいます。情報収集だけしてもらって、色仕掛けでこちらに引き込みや暗殺なんて危険な事もさせません。もちろん、逆に取り込まれないように対精神無効アクセサリーなどをお渡しします。黒札様もそれでよろしいでしょうか?」
本当は、彼女たちには情報収集だけでなく、ハニトラ要員や暗殺要員にもなってほしかったらしいが、さすがにそれは凍矢が不愉快に思うということは彼女も理解している。
九重家で無駄飯食らいをしているよりも、そうした活動をしていたほうが彼女たちの精神的にもいいだろう、と彼は渋々とそれに頷いた。
(まあ……。本気で保護するつもりなら、さっさと強い霊能者とHして妊娠して霊的に強い子を産んだ方が彼女たちにとっていいと思うんですが。もっと言うなれば黒札様が彼女たちを皆抱いて妊娠させたほうがこれからの彼女たちの保護にとって最もいいとは思うのですが。まあ、黒札様が怒りそうだし黙っておきますか)
そんな静の内心はともかく、凍矢に弟子入りしたほむらは彼の元で修行を開始した。
まずは彼の所有している初心者向け異界『黄泉比良坂』で彼女がどれくらい戦えるか確認する。
「【火迅斬り】! ハァッ!!」
ほむらは、手から生み出した炎の剣でガキを一閃する。
剣技こそ我流ではあるが、その炎はガキたちを纏めて消滅させていく。
話によると覚醒したばかりでガキを平然と焼き払えるのは、地方の名家から見たら超天才といっても過言ではないだろう。知らない人が見たら噂の黒札か? と勘違いするレベルだ。
ともあれ、彼女に対して初心者向け異界や金札用修行異界*2では不適切だと凍矢は判断した。
現地民である彼女は星霊神社で浅層掃除は行えない。りあむたちと同じように、ある程度安全が確保された大型異界での修業が必要か、と彼は判断する。
ほむらの方も、メシアンに手も足も出なかったのはトラウマだったらしく、凍矢にさらなるスキルや効率のいいレベルのあげ方などを熱心に聞いてくる。
修行用異界から出て、元公民館に帰ってきた彼らはほむらの疑問に答える。
「新しいスキルの出し方? まずグッとやってぎゅーっとやってパッと一気に出します」
「分からないわよそんなの!!」
「ジョークジョーク。まず人間の体内には、七つのチャクラが存在する。
脊柱の基底にあたる会陰、陰部、臍の下、胸、喉の下、眉間、頭上。
より強力なスキルを開放したり、強力な魔術を放つためには、このチャクラの力を開放……『回す』事によって魔力を発揮する必要がある」
ガイア連合、地方防衛部によって、低レベルの人たちに対して教え方を学習した凍矢は、ほむらに対して、より強力な霊能力の出し方をある程度は教えることができる。
黒髪ロングJKの会陰とか陰部とか胸とか触ると完全にセクハラ&セクハラなんで、直接触って指導をする気は流石にない。セクハラでムショ行きとかシャレにもならないし。
それに知られたら他の黒札たちもわざわざボコりに来かねないから、Hなのは禁止です。
「ともあれ、このチャクラの中でもっとも重要なのは臍の下のチャクラ、いわゆる「丹田」と呼ばれる場所だ。まずはここを回す事をやってみようか。俺がほむらの丹田に気、MAGを流し込むから、それをはじき返してみて。そうすれば自然にチャクラも回ってくるはず」
ほむらが自分の服をまくって臍部を出しているそこに、凍矢は自分の手を当てて、そこに微弱な自分のMAGをほむらの丹田へと流し込んでいく。
その感覚に、ほむらは思わず艶やかな声を上げてしまったりして思わずいけない気分になりかけるが、これは修業で目の前の子は守護らねばならぬ対象である、と気を持ち直す。
そして、ほむらは、自分のMAGを丹田に注ぎ込む事によって、凍矢のMAGを弾き飛ばす。
それと同時に、彼女の体内のMAGがチャクラの活性化によって強化されていく。
「何か新しい力? ってのに目覚めた気がする……やってみる!!」
そうほむらは言うと、手から炎を出して炎の剣を構築する。それは【火迅斬り】より遥かに強力な神力を秘めた炎だった。
彼女が覚えたスキルは【紅蓮の手刀】*3実質二回攻撃を可能とする極めて強力なスキルである。
「凄い! 「火迅斬り」より格段に威力が向上してる! これなら、アタシでも戦えるかも!!」
「ヒノカグツチ」としての転生を自覚して芽生えたスキル【火之迦具土】*4と組み合わせたら極めて強い前衛として活躍してくれるはずである。
(いやナチュラルに強くない? これでレベルを上げたら頼りになる前衛になりそう。この子は鍛えがいあるなぁ)
メガテンD2ではヒノカグツチは高い耐久能力と反撃能力、攻撃能力を有している。
そのスキルを受け継ぐ彼女なら、鍛え上げれば優秀な前衛になるはずだ。
しかし、気になるのは、ヒノカグヅチ本体からのほむらに対する干渉である。
何でもガイア連合に潜り込むために、天使や悪魔の転生体も暗躍しているらしい。
悪魔の紐つきである転生体に関しては、本霊が干渉して人格を乗っ取ったり、洗脳して自分の思うままに操ることも十分に考えられる。
そのため、彼の家にヒノカグツチの鳥居を作る際に、ほむらへの性格・人格に対する精神干渉は行わないように、ガチガチの契約で結ばれている。
せっかくの高位転生体を自由にできないのは残念がっていたが、それより黒札からの祈りのMAGを貰える方が遥かにありがたいのだろう。ホノカグヅチはその契約を受け入れることになった。
さらにそれだけではなく、デビルシフターが所有しているショタおじ特性の【お守り】*5をショタおじから作ってもらって、それをほむらへともたせておいた。*6
「あと、とりあえず、君も俺と同じように属性特化型だけど、別の属性攻撃手段を絶対にもっておいたほうがいいね。火炎反射とか火炎吸収とかされたらそれだけで詰むから」
それだけ言うと、凍矢はほむらの前にどさどさと霊的武装を積み上げる。
その武装からは凄まじい霊力が放たれているのが、ほむらからでも見て取れる。
それもそうだ。これは現地民用の武装ではなく、黒札用の武装だからである。
「とりあえず武器装備は【備前長船】……は今手配中だから俺の【無名の剣】に【雷撃の鞘】【退魔銃】【凍結弾】これぐらいあればいいか。
防具は……JKに【ハイレグアーマー】はどうかと思うから……【アルメーブラウス】*7に【アルメースカート】とかどう? 【巫女装束】でもいいかもだけど、普段これ着るのはどう? と思わなくはない。まあ、ワイJKのファッションセンスなんか知らないから適当に選んでいいよ」
「あの……もしかしてこれ無茶苦茶強い武装なんじゃ……?」
とりあえずで渡された【無名の剣】だけを見ても、それだけで低位の悪魔が触っただけで消滅しそうなほどの凄まじい霊力が感じられる。それも元はガイア連合、地方防衛部の葦名弦一郎から渡された武装を、ほむらへと渡した物、つまり黒札専用武装だからである。
「? まあそうだね。黒札の近接戦闘用の武装渡してるからね。ガチで高位の悪魔と戦えるようにしないと」
なぜ自分にここまでしてくれるのか? とそんな疑問を抱くほむらに対して、凍矢は答える。
「君たちはもうウチの子なんだから、できるだけ守護らねばならぬ。自分で戦える力を身につけることが一番いいからね。それだけだよ」
その言葉に、ほむらは複雑な表情をした。
転生体:秋葉ほむら LV12(LV上限35)
【ホノカグヅチ】の転生体だが、彼女にはその自覚はあんまりない。
神の転生体の中でも現地民にしては優れた素質(LV35上限)と豊かな生体マグネタイトを所有している。
ステータスタイプ:パワー型前衛
耐性:火炎耐性、精神無効
装備:【無名の刀】【雷撃の鞘】【退魔銃(ベレッタ M92FSのモデルガン改造銃)】【凍結弾】
【アルメーブラウス】【アルメースカート】【お守り】
スキル:アギ、アギラオ、ポムズディ、火之迦具土、紅蓮の手刀(剣に炎を纏わせる)
ほむらが強すぎ?個人的に神の転生体は強くあるべきじゃない?と個人的な偏見が入っています。(メガテン感)
もっとレベル上限上げたかった……。
脳だけにされてしまった両親たちの件は次回やります。