「はい、はい。ありがとうございます。えっ? 分身? ショタおじみたいなことをできる人がいるとは……」
「はい、ありがとうございます。【霊基改造コシヒカリ】……【キクリ米】を自衛隊や霊山同盟の巫女や傘下組織の食事、およびS県の備蓄米にしていただけるとのことで。ありがとうございます」
「ですよね。わかりました。そういうことで。お願いします。……えっ? 『影の国(ダン・スカー)』?
影の国ってことは……スカサハ師匠のところなんですよね? 大丈夫なんですか?」
「お、おう……。わかりました。ではそれでお願いします。それでは」
ふう、と凍矢はため息をつく。何とか霊山同盟の長である【鷹村ハルカ】*1と話し合いが済んでほっと一安心しているのだ。
特に、今まで彼らが作ってきた【キクリ米】の大量購入先が見つかったのは大きかった。
今までコメといえば黒札の間では【コメ】一強であり、そこに食い込むのは難しい。
そこに【キクリ米】の大量消費先が見つかったのは極めて大きかった。これでさらに【キクリ米】の普及の大きな一歩になったのだ。一仕事終えた彼は、ふう、と汗を拭った。
「うーん……」
霊的要塞と化している旧公民館の中。彼は一本の瓶の中に入った漆黒の液体と向き合っていた。
どこからどう見ても飲み物には見えない瘴気を放つ液体。
これは、「ノロイ米」を酒に変化させてみた【ノロイ酒】である。試しにノロイ米を酒にしてみたらどうなるか、と試作した結果である。
「……マイマスター、どうかしましたか?」
腕を組んで考え込んでいる彼に話しかけてくるのは、銀髪をたなびかせて、鋭い瞳を持った怜悧な美貌を持った女性。人間形態になった『破裂の人形』である。
「いや、ノロイ米で酒を造ってみたらどうなるの? と思ってみたけど、それで試作してみた【ノロイ酒】は対象を虚弱にする効果があるみたいなんだよなぁ」
そこまで彼は話すと自分の頬をかく。
「とはいえ、虚弱効果つけるよりは殴った方が早くない? と思って……。そんなに売れるとは思えないんだよなぁ」
「虚弱効果は……【他の状態異常を受けると必ず状態異常になる】でしたっけ? それならマスターの冷却魔術からの【FREZZ】効果も発生するのでは?」
確かに虚弱効果からのジオハメ、【FREZZ】ハメができれば強力極まりないが……検証など行っていないので全くの不明である。そう考えると「殴った方が早い」という脳筋思想ではなく、色々なパターンを検証する必要がある。
ふむ、と考え方を変えた彼は、とりあえず現地人の反応を聞くべきだと彼は判断した。
「なるほど。確かにそれは役に立ちそうだけど……一応静にも話しを聞いてみるか」
そして、静に話を聞いてみた結果、彼女は食い付きぎみにこう言いはなった。
「凍矢様! それは絶対に作り出して売り出すべきです!!」
その彼女の勢いに、お、おう、と気圧されながらも、静に実際の悪魔に対しての【ノロイ酒】の効果の検証をお願いした。
「お、おう。それはそれとして、ほむら。これ来たから渡しておくからね」
そう凍矢は言いながら、ほむらに対して極めて強力な霊力を秘めた日本刀を手渡す。
鞘に納めてなお、凄まじい霊力を秘めたその刀に思わず受け取ったほむらの手に震えが走る。
「あ、あの、これは?」
鞘に納めてなお伝わってくる凄まじい霊力に、さすがのほむらも困惑する。
並の現地人では手に取ることすらできないレベルのこの武器は、純粋に黒札用として作られた刀であることを示している。
「これは【備前長船】。ガチの黒札用の日本刀だ。まあ、本物じゃなくて、黒札の製作班が作り出したコピーだけど……【無銘の刀】より遥かに威力があるから。」
「こ、こんな刀をアタシに?いいの師匠?」
「うん、ただもう片方の【無銘の刀】に何かあったら即座に教えてね。」
実はこれは、他の黒札……いわゆる修羅勢からの寄付も大きい。何故修羅勢が彼女の刀に寄付をするのかというと、答えは簡単だ。『神剣【ホノカグヅチ】』
メガテン世界において最強ともいえるその剣が、ほむらの無銘の刀から変化しないかなぁ、という願望からである。現在、剣合体はミナミィですら勉強中という非常に厳しい状況である。
この状態では、実質剣合体は封じられているといってもいい。剣合体ができない状況では完全な【ホノカグヅチ】は不可能でも多少性能が劣った【ホノカグヅチ】でも手に入れば十分すぎるリターンが帰ってくると踏んでいるのである。
「よし、それじゃ【備前長船】と【無銘の刀】を徹底的に使い込んで自分の物にしてね。
武器の熟練度が上がれば最大で23%攻撃力上がるらしい*2からきっちりと使いこなさないと。」
「%って何よ%って!!まるでこの世界がゲームみたいじゃない!!」
みたいじゃなくてそうなんだよなぁ。いや「そうだった」というべきか。
ともあれ、それを言うと絶対に揉めるためにぐっとこらえる凍矢だった。
──―異界【黄泉比良坂】中層修行階。
そこではわざとキクリヒメとショタおじの封印を緩めることによって、表層のガキよりさらに強力な敵が出現する修行場となっていた。
そこに現れるのは、LV23『ヨモツシコメ』それも複数体である。
LV23もの敵が複数体現れるのは、それだけで大都市が複数壊滅するほどの危機になりうる。
だが、黒札の装備を身に纏ったほむらにとっては、ちょうどいいレベリングの場所だった。
「ハァッ!! 【紅蓮の手刀】*3ッ!!」
右手に『備前長船』、左手に『無銘の刀』を手にした彼女は、【紅蓮の手刀】を纏わせた炎の刃を横凪に振るい、『ヨモツシコメ』の頭部を横一文字に切り裂き、もう片手で他の『ヨモツシコメ』の頭部を唐竹割りに断ち切っていく。
そして、その彼女の傍にいるのは、漆黒の鎧騎士『バッシュ・ザ・ブラックナイト』のデモニカを纏った九重静である。彼女のデモニカのLVもほむらと同程度。肩を並べて戦ってレベリングするのはちょうどいいのである。
静は、手にした入れ物に入った液体を『ヨモツシコメ』に振りかけると、そのまま手にしたロングソードで『ヨモツシコメ』に斬撃を叩き込む。
「【ノロイ酒!】【ベノンザッパー!!】*4」
ノロイ酒を浴びせられた敵は、その効果によって虚弱効果を食らい、次の静のベノンザッパーによって攻撃を受けると同時に毒状態になった。
確率で毒を付与するベノンザッパーだが、ノロイ酒によって【虚弱効果】になった場合確実に毒が付与されるということが確認できたのだ。*5
これは恐らく他の効果、緊縛や魅了などでも同様に違いない。
今回は作成した『ノロイ酒』が悪魔に対して有効かという実地試験も兼ねているのである。
「アタシが前に出るから静は無理しないで! 後ろから『破魔弾』ヨロシク!!」
「了解しました! 『ノロイ酒』の効果も確認できましたし、ほむらさんお願いします!【掃射】ッ!!」
そういうと静の纏っているデモニカ『バッシュ・ザ・ブラックナイト』は自分の剣を仕舞うと、腰に装備されているGM-01〈スコーピオン〉を取り出し、『破魔弾』を乱射する。
ただでさえ強力なスコーピオンの威力に加え、霊山同盟が作り上げた『破魔弾』の威力は十分に『ヨモツシコメ』にダメージを与えていた。
無数の『破魔弾』を食らった『ヨモツシコメ』は悲鳴を上げながらそのまま消え去っていった。
「よっし、効いてる! 静さんはそのままお願い! 【紅蓮の手刀】!!」
【紅蓮の手刀】スキルは、実質二回連続攻撃を可能とするスキルだが、ほむらは両手に日本刀を持った二刀流でそれを行っている。
火炎を纏ったその斬撃は、火炎を弱点とする『ヨモツシコメ』にとっては天敵そのものだった。
肉体を模した髪の毛は、その火炎に焼き尽くされ、燃え盛って消滅していく。
「とりあえず、ノロイ酒の効果が確認できただけでも大きいですね。後はこのままレベリングをしましょう」
「確かに『必ず状態異常にする』っていうのは弱い霊能者にとっては福音みたいなものね。色々悪さができそう」
「ええ、黒札様たちなどは「それより強力な攻撃で吹き飛ばしたほうが早い」と思いがちですが、我々のような弱い霊能者にとっては『悪魔を確実に状態異常にする』なんてアイテム売れないはずがないじゃないですか。強い悪魔に対してはノロイ酒で毒にするとか緊縛にして一時的な封印状態にするとか、魅了にして交渉とか喉から手が出るほどほしいに決まってますよ」
確率によって悪魔に毒やら魅了やら与えるスキルが、確実に状態異常を与えられるなど、現地人にとってこれほどありがたいアイテムはない。
もっとも、ノロイ酒自体も効果は『デゾレト』と同じなので、虚弱効果にするのは70%ほどらしいが、それでも強力なことには変わりない。
「確かにそれは有用そうよね。使えるものは何でも使わないと……ハァッ!!」
そう言いながら、ほむらは手にした『備前長船』に【紅蓮の手刀】を纏わせた炎の刃で次々と切り裂いていく。
ただでさえ、黒札用の武器であり凄まじい威力と切れ味を内包している『備前長船』にホノカグヅチの炎である【紅蓮の手刀】の炎が宿っているのだ。
炎と破魔が苦手である『ヨモツシコメ』はほむらにとってはまさにカモそのものであった。
しかも、ヨモツシコメはLVは23と今のほむらたちにとってはまさに最適なレベリングの対象だった。
炎が弱点でないヨモツシコメも存在はしているが、それらも『備前長船』の切れ味の前に敵うはずもない。まるで紙切れのように、ヨモツシコメは次々とほむらの『備前長船』と『無銘の刀』の前に切り裂かれていく。
さらに、静の手にしたGM-01〈スコーピオン〉から発射される『破魔弾』が次々と命中していき、ダメージを食らっていく。弱点である破魔属性の力が籠った破魔弾の前にはヨモツシコメは消滅していく。
この中層は、ほむらたちのような存在にとっては適切なレベリングの場所であり、同時にノロイ米育成にとって最適な場所になる。
上層部では、わざわざ封印の力を緩めないと作れなかったが、ここではただ植えるだけでどんどんノロイ米として変貌していくのだ。
この最適なレベリング場によって、ほむらたちのレベルはさらに上がっていった。
『ヨモツシコメ』の攻撃を、前衛のほむらは回避し、日本刀で防御するが、まぐれの一発がほむらに叩き込まれる。だが、女性黒札用の【アルメーブラウス】【アルメースカート】を身に纏った彼女にとっては、大したダメージにはならない。
「痛いわね! ふざけんな! 【火之迦具土】!」*6」
相手の攻撃を受けてもほむらは大したダメージを受けていなかった。
彼女からすれば、LV22の攻撃であっても、『殴られた程度』でしかない。
それは、黒札用の防御装備を身に着けているのもあるが【火之迦具土】の「最大HPが50%増加。弱点以外で受けるダメージが60%減少」という能力が極めて大きい。
これほどの防御力を誇るのは、同じレベルの黒札でも珍しいだろう。
しかもその攻撃を受けて、ほむらの背後から無数の火球が発生して敵全体へと襲い掛かる。
これは「攻撃成功時、敵全体に火炎属性の打撃型ダメージを威力70で与える」という効果のためである。
そのため、ほむらは極めて高い耐久性と攻撃力を併せ持つ準黒札と言っていいほどの能力を持っているのだ。この効果などもよって、『ヨモツシコメ』の群れは彼女たちによって一掃されることになった。
「よし!それじゃ表層に戻るわよ!撤退!!」
比較的安全な表層に戻ってきた彼女たちは、ふう、と思わずため息をつく。
ここで現れるのはガキたちだけだ。今のLV20以上の彼女たちならば、容易く吹き飛ばせる相手である。
そこから異界に出る前の間、静はほむらに話しかける。
「しかし、デモニカもつけずに生身で高位の悪魔を滅ぼせるとは……。凄まじいですね。
本当に黒札ではないんですか?」
「ええ、何でもアタシの家系は明治維新の時ぐらいに拝み屋を辞めた『すり抜け枠』なんだって。戦前に一般家系になったため、うまいことメシア教の殲滅をすり抜けたみたいね。」
そこまで言って、ほむらは肩を竦める。確かにそれは運がよかったが、その反動がほむらに襲い掛かってきたとすれば、まさに何がどう転ぶかわからない状態である。
「まあ……それでも結局メシア教に関わってロクでもない事になったけど……本当にメシア教ってクソよね。アンタのところの名家も散々メシア教にやられたんだっけ?」
そのほむらの言葉に、思わず静も深く頷く。メシア教に対して恨みと憎悪をもっていない名家など存在しない。そして、それはどうやら黒札たちも同様のようだ。
一応支援などは行ってはいるが、名家の静たちの視点からすれば黒札がメシア教を嫌っているのは目に見えてわかる。
「そうですね。どの名家もメシア教には散々やられましたから……。メシア教に恨みをもっていない名家なんていませんよ。」
「そうよね。その気持ちは少しだけ分かるわ。あー、それにしてもあのクソ女むかつくわ……。何が調和派よ。絶対何か企んでるって。
とりあえず10発ぐらい殴ってやったけど小動ぎもしないし」
ほむらが口にするのは、一神教調和派へと移動した桜子の事である。
彼女自身が敵対したわけではないが、ほむらもその仲間もメシア教穏健派に散々な目に合わされたのは事実である。それは桜子も例外ではない。
メシア教についてロクでもない思い出しかないほむらは、しれっと一神教調和派の長岡支部になって戻ってきた桜子に対して、仲間の恨みなどもあって思わず殴ってやったのは仕方ないだろう。
彼女からすれば「どの面下げてここにいるんだ」という心境である。
「そうですね……。穏健派は一時的な棄教でも平気で行うと聞きますから……。
あの女もそういった感じで、穏健派を一時的に棄教して凍矢様に近づこうと企んでるのかもしれません」
「なによそれ!! 何でもありじゃない!! ああもう、もっと殴っておけばよかった。
今から殴りにいこうかしら」
桜子からすればそんな気は欠片もないのだが、二人からそう思われても仕方ない状況である。
凍矢から実質最終通告を突きつけられた穏健派も、何かと都合をつけて会いに来る(そして凍矢と何とかツテを取りたがっている)のを見ていれば、穏健派も桜子の評判も地を這っても仕方ないだろう。
「ともかく、穏健派を捨てた、などといってそうそう信用できるはずもありません。
私たち名家も散々メシア教には苦しんできましたから。万が一でも黒札様がたぶらかせないようにしないと……」
「あの『破裂の人形』もちょっと抜けてる所あるしね……。何か穏健派も何かと理由をつけてこっちと接触を持ちたがるし……。もうアンタが婚約者として周囲をガードしていいんじゃない?」
そのほむらの言葉に、ふむ、と静は納得するように頷く。
「やはり……そうですか。婚約者として段階を踏んだお付き合いなら、凍矢様もOK出しそうですし」
「実際問題、この組織アンタや九重家がいないと回らないじゃない。この状態でアンタを手放すほど、師匠も間抜けじゃないわよ。『破裂の人形』だけじゃなくてアンタがガードについてくれれば皆安心するし。誰も困らないんだからさっさとするべきよ。」
その言葉に、静は大きく頷いた。
真・女神転生ifの武器の熟練度はジントさんとほびーさんのツイートで初めて知りました。知らなかった……。そんなの……。