題名もほびー氏の影響を受けています。
そして、ダイアナもほびー氏からアイデアをいただいた結果。
どうもありがとうございます。
「……まさかこの地はここまで天使の攻勢を防いでいるとは」
「この国の「ガイア連合」に全てを委ねればいいのでは?」
「いえ、ガイア連合は極めて選民思想で、弱者を何とも思っていない。
彼らの守りたいものはあくまで社会システム。弱者が何人犠牲になろうがどうでもいいのです」
「我々、魔女の思想「弱者救済」とは反する組織です。結果的に弱者を救ってはいますが……。
都合が悪くなれば、容易く弱者を見捨てるでしょう」
「……では始めるしかないようですね」
「ええ、始めましょう。私たちの
「【地母神ダイアナ】様の
皆さん、ダイアナ様に命を捧げる覚悟はできましたか?」
その一人のフードを被った女性の言葉に、その場にいるフードを被った女性たちは皆迷うことなく頷いた。
凍矢の拠点である旧公民館。その内部では、正座をして反省モードになっている静とほむらの前に、仁王立ちの凍矢が二人に対して説教を行っていた。
色々あって*1何とか丸く収まった彼は、元凶である二人に説教を行っているのだ。
「……というわけで、元メシアンだからってしばくと酷い目に(俺が)会うから気を付けるように。ほむらも気持ちはわかるけどそういう所はきちんと押さえてほしい。
念のため、ほむらにも部下にも「一神教に帰依した元メシアンには危害は与えられない」という魔術契約を結んでもらうけど、これも向こうのシスター・グリムデルに対するアピールだから」
「はい……。分かりました」
「うっ……。さ、流石に師匠にこれ以上迷惑はかけられないしね。悪かったわよ」
確かに、ほむらの部下には両親を脳缶にされてメシアンに対して恨み骨髄な部下もいるが、それでも両親を治療してくれた黒札に迷惑をかけるほど頭は煮えていない。
「一神教に帰依した元メシアンには危害は与えられない」という契約に同意したのも、その辺をこらえた結果なのだろう。
とはいうものの、あくまで「一神教に帰依した元メシアン」であって、「元メシアン全てに危害が与えられない」というわけではない。
もしただ元メシアンというだけで暴れまわれば、容赦はしないだろう。
「一神教調和派の教会を新潟に建てた以上、これから元メシアンも新潟に流れ込んでくるだろうし、一神教に帰依した元メシアンには気を付けてほしい。彼らには少なくとも表面上は普通に付き合うように」
とはいうものの、阿部さんやハルカたちの努力により、結果的に何とか丸く収まったし、また同じことを繰り返さないような体制も作った。
一神教調和派に対しては、念のためにほむらや部下たちに対応させないようにしておけば大丈夫だろう。
これで婚約者ということに浮かれていた静も元に戻って周囲の引き締めを行うだろう。
「よし、それじゃこの話はここまで。ちょっと弥三郎婆のところに行ってくるから」
──魚沼、権現堂山。
弥三郎婆が住んでおり、彼女の根拠地とも言えるそこは、家の前にたむろっている大量の妖怪たちで賑わっていた。
異形の妖怪たちが大量に存在しているその姿を見たら、気の弱い人間は気絶しそうな勢いである。
そんな自分の家の周りに大量に集まっている妖怪たちに対して、弥三郎婆は彼らに思わず怒鳴りつけた。
「ええ~い!! 貴様らワシのところに来るなーっ!! ワシのところは食事提供でも医療施設でもないぞーっ!!」
その彼女の言葉に、家の周りにたむろっていた妖怪たちは首を傾げて好き勝手に言葉を放つ。
「むぅ? しかし、我らはここで傷を治してもらえると聞いたぞ?」
「ワシは食事を提供してくれると聞いた」
「それに加えて娯楽もあると聞いてはな!!」
「つまりここは……昔(彼らのいう”昔”の基準は平安時代)の施薬院か!!」
「むぅ! 施薬院ならば我らでも理解できる! 食事を提供してくれるのは悲田院も兼ねておるのか!」
「なるほどのぅ。しかし、「がいあ連合?」とやらには優れた医師(くすし)がいると見える」
「しかし、我らは乞食ではないぞ? ただ食料を無料で食らうなど妖怪の誇りが許さぬ」
「そこはアレじゃ。人間どもを守護したり助けてやればよかろう。貧弱な人間どもでも恩義を返さねば妖怪の誇りが廃るというもの」
「我らは人間と違い恩義は重んじるものじゃからなのぅ」
「何じゃこの「がいあかれー」とかいうの、まあ味噌煮込みだと思って食べてみるか、慣れるとイケるぞ。しかしなんかよくわからんが映像が映るのは「はいてっく?」じゃのう!」
一斉にざわざわと話し出した妖怪たちに対して、弥三郎婆は彼らに対して怒鳴りつけて指示を出す。
「だーっやかましい!! とりあえず怪我をしてる者は並べ!! ガイア連合からの傷薬で大体は治るはずじゃ! 炊き出し希望の奴らはこちらに並べ!! 見慣れぬ食い物であろうが文句言うな! 人間を食うより遥かにうまいわい!!」
そんな風に弥三郎婆は、彼らにテキパキと指示を出していく。
一応は同じ妖怪である彼女の言うことに、妖怪たちは大人しく従っていく。
未だに大戦時の傷が癒えていない妖怪たちは山ほど存在する。彼らを癒して戦力として、同時に腹を満たす事によって人間たちを襲わせないようにする。
弥三郎婆の家はその大きな拠点へと変貌してしまっているのだ。
憮然とした表情で、弥三郎婆は腕組みをしながら、妖怪たちに傷薬が塗られていったり、ガイアオートミールやガイアカレーが配給されていくのを見る。
「全く、何でワシの住処が施薬院兼悲田院にならなければならんのじゃ」
はあ、と大きくため息をつく彼女だが、同胞が傷ついたままでは彼女自身も快く暮らせない。
まあ、騒がしくはなるが、これぐらいは許容範囲内だろう。
霊地でも傷を癒せず、ずっと寝たままである状態よりは、遥かにマシである。
と、そんな状況で、凍矢と『破裂の人形』は大量のガイアオートミール、ガイアカレー、そして傷薬をもってきて、弥三郎婆の家近くへと運び込む。
「うむ、ありがたいがタダでこれだけの物を貰っていいのか? 世間知らずのワシら妖怪でもこれだけの貴重品を大量にもらうなど気が引けるのだが?」
「ああ、それは大丈夫。佐渡の【団三郎狸】からきちんと金とマッカは代金としてもらっているから。
佐渡よりも、黒札のすぐそばのこの場所ならば薬や食料の提供もスムーズにいくかららしい」
【団三郎狸】の依頼によって、弥三郎婆の家は妖怪たちに傷薬やガイアカレー、ガイアオートミールなどを供給する一種の【施薬院】へと変貌していた。
【団三郎狸】から送られてくるマッカや金を傷薬やガイアオートミールなどに変えて妖怪たちの傷を癒したり、食を与えているのである。
黒札である凍矢ならば、マッカさえあれば簡単に傷薬やガイアオートミールは手に入る。
それを使って妖怪たちの傷を癒し、妖怪勢力の復権を狙っているのだろう。
もっとも、それで好き勝手やられて人類に危害を与えてしまっては元も子もない。
そのため【傷を癒す代償として人類の味方になる】という魔術契約を彼らと結んでいる。
元々ここに来るのは人類に友好的な妖怪が大多数なので、その契約について異論はないらしい。
人類を守るために邪悪な妖怪たちや悪魔たちとも戦う覚悟はできているとのことだ。
妖怪たちに次々とガイアオートミールの入った皿とスプーンを渡しながら、弥三郎婆はふと思い出したように言葉を放つ。
「ああ、それと【団三郎狸】から何か依頼が来とるぞ。何か佐渡に変な奴らがこそこそしてるから調査してほしいそうじゃ。後は本来沖縄にいるはずの【乳の母】が佐渡に出没しているようじゃな。
きちんと報酬は支払うからお願いとのことじゃな」
「? 何で俺に? 佐渡の黒札に頼ればいいんじゃ?」
確かにそれが道理である。佐渡のことは佐渡の黒札と【団三郎狸】自身で解決してほしい。
わざわざこちらを頼ってくる理由が分からない。……まあ、依頼とあればやるだけなのだが。
小首を傾げる凍矢に対して、弥三郎婆はこう答える。
「一言でいうと……【勘】だそうじゃ。ああ見えて奴も大妖怪の端くれじゃからな。大妖怪の勘はバカにできたものではないぞ?」
「おお! 白魔女たちがこちらの配下に入ってくれるって!?」
「はい、彼女たち白魔術を使う『白魔女』は霊薬作成にも長けているウィッチドクターとしての側面も強くもっています。特に霊薬に変化しやすい【キクリ米】で大量に霊薬を作成するのは、霊薬作成に長けている彼女たちが極めて頼りになるでしょう」
魔女の一団「ウィッカ」では、使う魔術であるウィッチクラフトは人々に恩恵を与える白魔術と危害を与える黒魔術の二つに分かれるとされている。
そのうち、白魔術を主に使用する魔女たちを分かりやすく白魔女と呼んでいるのだ。
彼女たちは人々に危害を与えず、教会に祈りを捧げる魔女すらいるらしい。
だが、そんな彼女たちも欧州でメシア教から逃れ、大多数が日本へと逃げ込んでいるらしい。
そして、様々な土着勢力と結びついているとのことだ。
ともあれ、彼女たちは優秀な霊薬作成者であり、優秀なウィッチドクターでもある。
どの勢力でも喉から手が出るほどほしい勢力だ。
彼女たちからすれば、新潟第三の都市にまで発展しながら、同時に自然が豊富で山に囲まれたこの地は住みやすい場所なのだろう。
(とはいうものの、たぶん彼女たちは凍矢様に若い女性を差し出して妾にしてこちらの勢力に食い込もうとするでしょうから……。気を付けていかないと)
そう思いつつも、静は彼女たち白魔女から得られた気になった情報を凍矢へと伝えていく。
「……魔女の一部が暴走して【地母神ダイアナ】の降臨を画策している?」
「はい、彼女たちの仲間ではない魔女の一部が暴走しているとのことです。それを私たちに伝えるのは「私たちは彼女たちとは違う」「きちんとこの地に土着する意思がある」ということの意思表示でしょう」
そうなれば、この地に来た魔女たちはきちんとした一般常識をもっている魔女の一派なのだろう。
「自分はあいつらとは違い、きちんとこの地の皆とやっていく」というのが本音だ。
せっかくこの地に来たのに、暴走した一部によって追放されるとかたまらないということなのだろう。
「まあ、きちんと彼女たちは魔術契約で縛ってあるしね。で、詳しい情報とかあるの?」
「はい、ええと何でもとある妖怪を捕えて、それを媒介にして自分たちのMAGを捧げる事によって、この地に【地母神ダイアナ】を降臨するのだとか」
【地母神ダイアナ】は古代ローマの地母神であり、狩猟の女神でもあり、後にキリスト教の影響で「魔女の女王」とされる。
元から月神アルテミスと同一視される彼女は、アルテミスと同様に男嫌いの永遠の処女、狩猟の女神である。
『アラディア、あるいは魔女の福音』ではディアーナが原初の月の女神として登場しており、光の神ルシファーとの間に生まれた娘・アラディアを地上に遣わし、受難する抑圧された者達に、迫害する者に対して魔女術によって対抗する事を教えたとされている。
いわゆる魔女たちが崇める女神であると言ってもいい。
「確か【団三郎狸】が佐渡に本来いない【乳の親】がいるといっていましたが、恐らく『乳の親』を媒介として魔女たちの魔術により、『地母神ダイアナ』を降臨させようとしているのではないかと。
魔女たちの魔術は、ディアーナの娘であるアラディアから教わったとされる一派もいますから……」
なるほど。どうやら、彼女たちの狙いはこの地に『地母神ダイアナ』を降臨させることらしい。
元々地母神系の素質をもっている妖怪『乳の親』を生贄&触媒にしたのだろう。
乳の親は、沖縄県に伝わる女の妖怪であり、外見は優しい顔立ちの女性で、黒髪を長く垂らしており、乳房が非常に大きい。そして、幼くして失くなった子供に乳を飲ませて養うと信じられている。
そのため、地母神と相性は極めて良い妖怪である。
凍矢は、ふむ、と自分の顎に手を当てながら情報を整理する。
「ふむ。団三郎狸の情報を合わせると、『魔女たちの一派が佐渡に乳の親を使用して【地母神ダイアナ】を降臨させようとしている』ということか」
【地母神ダイアナ】それは地母神の中でもかなり変わった姿で有名である。
つまり簡単にいうと『頭がおっぱい』なのである。
頭だけなく、腰部、肩部、膝部にまでおっぱいと極めて異質な姿をしている。
月神としてのダイアナは処女神としての特性が強いが、地母神としてのダイアナは人間たちの守護神、地母神としての側面が強く出ているのだろう。
「よし、それを【団三郎狸】と佐渡の黒札に伝えて居場所を探ってもらおう。
居場所さえわかれば、後は俺が乗り込んで殲滅する。それでいいだろ」
そこまで情報があれば、現地のことに詳しい【団三郎狸】と佐渡の黒札なら怪しい地点が割り出せるはずである。それを聞いた静は、急いで佐渡の黒札と【団三郎狸】に連絡を取るために活動を行う。
「わかりました。大至急向こうに伝えます」