いやあ、やっぱり面白いですねぇ。
そして、ついに凍矢たちとイシュタムたちとの戦いが始まった。
激戦になると踏んだ凍矢は、すでに自らのデモニカである【グリスブリザード】を装備している。
LV80の方のイシュタムならば【凍結無効】の特性を持っているが、恐らくはこのイシュタムは持っていまい。とはいえ、何を使ってくるかは分からない。注意しないと、と思っている間にイシュタムは呪文を使ってくる。
『ブフダイン!!』
だが、冷却呪文は凍矢の方が遥かに上である。その程度のブフダインが彼に通用するはずもない。
お返しと言わんばかりに、凍矢は自らの呪文を繰り出す。
「【氷結貫通】【コンセントレイト】【氷結ハイブースタ】【マハブフバリオン】!!」
イシュタムのブフダインを完全に飲み込みながら、それを遥かに上回る凍結呪文がイシュタムやゲーデへと襲い掛かる。
流石にLV70以上の自分を遥かに上回る呪文を繰り出してくるとは予想外だったのだろう。
この異界自体、大樹自体全てを悉く凍り付かせんばかりの極大冷却魔術がイシュタムたちへと襲い掛かる。
だが、それで倒されるほどイシュタムたちも甘くはない。
『チィ、冷却攻撃は向こうの方が遥かに上か。ならば食らうがいい。『子守唄』!』
子守唄。対象を眠り状態へと誘う技である。だが、
「させるか! 「パトラストーン」! 『永眠への誘い』なんて使わせるか!!」
イシュタムの得意技、それは『子守唄』から『永眠への誘い』という極めて強力なコンボである。
『永眠への誘い』はスリープ状態にある対象をそのまま死へと誘う強力な技だ。下手をすれば一発でこちらが全滅という可能性がありうる。それを危惧した凍矢は馬ニキからパトラストーンを購入していたのである。
メパトラストーンやアムリタシャワーなども念のため用意したが、使わずに越したことはない。
『チィイイ! 【マハムドオン】!!』
やはり得意技で行くべきと判断したイシュタムやゲーデたちは得意の呪殺攻撃へと切り替える。
だが、その程度でやられる凍矢たちではない。
『破裂の人形』はいつものプラズマソードではなく、すらりと膨大な魔力と燃え盛るようなマグネタイトを所有する日本刀以前の直刀を抜き放ち、攻撃を仕掛ける。
「食らえ! 【モータルジハード】ッ!!」
その瞬間、イシュタムの右腕が肩部と二の腕部から切り落とされる。
一瞬、一撃で二回攻撃。これは『破裂の人形』の腕前だけではなく、持っている剣の効力である。
神剣『ヒノカグツチ』
メガテン最強の力を誇るその剣を凍矢はほぼ完全な形で復活させたのである。
ヤマタノオロチが落とした『天叢雲剣』をベースにして、これにヒノカグヅチの高位転生体であるほむらがヒノカグヅチ生成スキルにより力を込めて、さらに不完全ながら剣合体スキルを持つミナミィネキと協力して作り上げた神剣である。
(まあ、九頭竜の戦いが終わったら修羅勢にオークションにかけるんですけれどね)
メガテン最強の力を誇るヒノカグヅチは、修羅勢からまさに喉から手が出るほどほしい武器である。
ミナミィネキですらまた完全な剣合体ができない現状、優れた武器は非常に貴重なものだ。
凍矢はその分得た膨大なマッカで借金を返し、修羅勢は強力な武器を手に入れるというウィンウィンの関係である。
……の予定だったのだが、マヨナカテレビの中に『異界《黄泉比良坂》』が誕生して、慌てて売るのを止めたり、必死になってペルソナ使いを探す羽目になるとはこの時の彼は思うはずもなかった。*1
『が……がぁあああ!! 腕が! 私の腕がぁああ!!」
しかも、このヒノカグヅチは攻撃力も凄まじいが、その神性上、冥府に属する存在に対して強い特攻能力を有している。それは異なる神話の冥府神イシュタムであろうと例外ではない。
イシュタムの切り裂かれた腕の傷口を神を焼き尽くした炎が焼き尽くす。
その隙を逃す『破裂の人形』ではない。
「【マハムドオン】!!」
片腕を切られたイシュタムは、さらに呪殺呪文を唱えるが、その程度で止まる『破裂の人形』ではない。
マハムドオンでダメージを受けながらも、さらに疾駆してそのまま突撃したまま、イシュタムは胴体部にヒノカグヅチの刃を叩き込む。ヒノカグヅチの刃から猛烈な炎が迸り、冥界に属するイシュタムの体内をそのまま焼き尽くす。
さすがのイシュタムもこれには応えたらしいが、彼女は自らの命が尽きる前に叫びを上げる。
『食らえ!! 全ての存在に死という救済を!! 【ヤシュチェ】!! *2』
「ぐぁあああ!!」
ヒノカグヅチの刃がイシュタムの胴体を串刺しにし、内部から猛烈な火炎で滅ぼしたのと同時に、イシュタムのスキル【ヤシュチェ】が発動する。
これは、攻撃をしてきた相手に対して万能攻撃を行った上に踏みとどまりスキルを無効化して即死させるスキルである。
万能攻撃であるため、【呪殺無効】スキルをスルーしてしまう上に、100%即死させてしまうという極めて厄介な道連れスキルだ。
しかもそれだけではない。ヤシュチェの力は膨れ上がって凍矢や皆に対して襲い掛かってくるのだ。
その万能ダメージに、凍矢たちも思わず悲鳴を上げる。
『ハッハー! どうだ特別産の【ヤシュチェ】の【追加能力】*3の効果は!! なかなか効くだろう!!』
普通のヤシュチェの力はここまではない。恐らく魂をかき集めたために手に入れた新しい力なのだろう。
ともあれ、このままアタッカーである『破裂の人形』を死亡させたままにいさせるわけにはいかない。
「このですわ~!! 【サマリカーム】!!」
『破裂の人形』がヤシュチェの効果を食らって死亡したのに対して、サクヤヒメは瞬時にサマリカームを唱えて彼女を復活させる。
それに対して、ゲーデもイシュタムに対して蘇生呪文をかけて死亡させたイシュタムを復活させる。
「さっさと蘇りな! 【サマリカーム】!!」
復活した彼女たちは、再びお互いに向き合う。つまりこの戦いは、どちらもサマリカーム持ちが戦いの鍵を握るということだ。
凍矢たち側はサマリカーム持ちのゲーデを潰したい。イシュタムたちはサマリカーム持ちのサクヤヒメを潰したい。戦いの中心は、ゲーデと凍矢たちへと移った。
『さぁて! こっちも本気を出すとするか!! 【呪殺アボイド】*4【享楽する死神】!! *5
その瞬間、ゲーデは凄まじい勢いで異界中を疾走し始めた。享楽する死神と呪殺アボイドを同時に使用したゲーデは凄まじい回避能力を発揮する。おまけに敵に対して消沈能力まで発揮するほどである。
異界を縦横無尽に疾走するゲーデに対して、その厄介さに思わず絶叫する。
「ゴキブリかお前は!! ふざけんなよ!! 皆、面制圧だ! 面制圧で徹底的に攻撃しろ!! スザクはマハスクンダだ!!」
「【マハスクンダ】!!」
「【衝撃貫通】【マハザンダイン】!!」
「【氷結ハイブースタ】【氷結貫通】【マハブフバリオン】!!」
スザクがマハスクンダをかけて回避性を低下させて、キクリヒメがマハザンダイン、凍矢がマハブフバリオンの範囲攻撃、面制圧でゲーデに対して攻撃を仕掛けるが、それでもそれらを全てゲーデは疾走しながら回避を行う。
面制圧すら容易く回避するゲーデの回避能力に思わず凍矢は頭を抱えた。
「お前本当にふざけんなよ!! 何なんだよその回避性!!」
『どこぞの赤いやつもいってんだろ!? 当たらなければ大したことはないってな!! 早くて無駄打ちしてると女に嫌われるぞ!! ギャハハハ!! 食らえ! 【ダークギフト】!! *6』
「うるせぇ! お前こそ食らえ! 【反気旺盛】*7【
グリスブリザードを身にまとった凍矢は、ヒノカグヅチから与えられたスキル【反気旺盛】を利用したカウンターアタックでの攻撃をゲーデに叩き込んでいく。
反気旺盛は百パーセントの確率で発動する極めて優れたカウンターアタックスキルである。
しかも対九頭竜用にスキルを調整して同時に凍てつくコブシを叩き込めるように調整したのだ。
ぶっつけ本番で発動させるしかないか、と思っていたがここで試せたのは幸運である。
ダークギフトと引き換えに凍てつくコブシを叩き込まれたゲーデは大きくのけぞる。
『ぐぁあああ!! テメェこんなスキルを……!!』
「それはこっちのセリフだ! こっちも無茶苦茶痛い! クリティカル100%ってなんだよ!!」
ともあれ、判明したこともある。いかに回避性が高いゲーデと言えど、カウンターアタックに対しては回避することができないということだ。
反気旺盛は百パーセントの確率で発動し、打撃を与えることができるため、これに対しては回避は発動しないのだ。それに対して、ゲーデは心の中で舌打ちする。
(まずいな。予想以上に強い。こんなところでイシュタムと心中するのはまっぴらだ。適当なところでトンズラするか)
『獣だろうが機械だろうが悪魔だろうが何だろうが、発情して腰振ってる黒札どもが偉そうにするんじゃねぇ!! さすがの俺様もドン引きだぜ!! そこいらへんの穴にでも腰振ってろ!! 【呪殺アボイド】【ダークギフト】!!」
「【反気旺盛】【
ゲーデが杖を振るって叩き込んでくる猛烈な呪殺の魔力を纏った一撃を受けながら、凍矢はカウンターアタックで凍てつくコブシを猛烈な勢いで叩き込む。
ゲーデの特性はその驚異的な回避能力である。これで逃げ回りながら相手を一方的に呪殺する。それがゲーデの必殺技だ。回避性を生かして、遠距離からマハムドオンで削りまくれば黒札相手に勝利することもできるかもしれないが、ゲーデはただマッカで雇われただけの用心棒である。
このまま持久戦に持ち込まれてMP切れになったら、袋叩きにあうのはこちらだろう。
面倒くさいことは御免な上に、こんなところでイシュタムと一緒に心中する気などさらさらない。
もらったマッカ分は働いたし、他の冥府神や黒札に睨まれる前にさっさと逃げるだけである。
『おっと悪いな! もうMP切れだわ! 給料分は働いたし、これでおさらばするわ! じゃあな!!』
『なっ……!! 待ちなさいゲーデ!!』
そのイシュタムの叫びに、ゲーデは舌を出しながら持ち前の素早さでさっさと逃げる態勢に入る。
『いやだよバーカ!! お前と心中なんて真っ平御免だね!! お前みたいな頭ハピルマなお花畑はここで倒された方が世のため人のためって奴さ!! あばよ!!』
それだけ言うと、イシュタムの制止を気にすることなくゲーデはさっさとこの異界から姿を消していった。